PM13:20
マヤノはカフェテリアでお昼を食べ終えて帰寮中の時だった。
「でさネイチャちゃん。能力者とかの話をマヤにも聞かせてよ」
「えー?そういわれてもアタシはあくまで見たことがあるだけで使ったことは無いんだよ?」
「それでもいいじゃん!マヤは聞きたいのー!」
マヤノはぷりぷりしながら駄々をこねる。だけど可愛らしい怒り方でネイチャは暖かい目でその様子を眺める。
「おーしーえーてー!おーしーえーてーよー!」
(ふっ、可愛いやつめ)
「んじゃま、同じ寮だしマヤの部屋で話すとしますか」
マヤノはやったー!、と言いながらくるくる回りながら廊下を歩いていく。壁にぶつかりそうになったら止めてあげるかと心に留めておきながら、ネイチャはマヤノの部屋へと向かう。
『これほどの動かぬ証拠はないでしょう。……貴方も思いますよね?……そうですよね、これでトウカイテイオーが犯人ということが分かりました。……早速行きましょう』
(……?何の声?)
ネイチャは知らない声に眉を顰めた。
「ねえマヤノ。今なにか__」
「静かに」
マヤノらしかぬ声と雰囲気にネイチャは若干動揺した。
『当然、貴方の力を貸してもらいます。……そうですか、貴方がそうしたいなら私は任せます』
「……………………………………………………………………………………」
マヤノが不審なウマ娘が過ぎ去ったことを確認すると、ようやく止めていた呼吸を再開する。
「やっぱり事件だよネイチャちゃん。今朝の出来事と今のよくわかんないウマ娘、これは明らかに繋がってるって!」
「マヤ、あんたなにかわかるの?」
「ううん、あと少し証拠を集めればマヤ分かっちゃうかも」
「え、マジで…………?」
マヤノはもう事件の真相の一歩手前まで辿り着いているらしい。
(どんな推理力してんだろ。あたし何がなんなのかさっぱりだわ…………)
けどネイチャも事件と聞いたら黙ってる訳にはいかなかった。
だから、マヤに聞いた。
「これからどうするの?」
「まずはマヤの部屋を調査、といっても主にテイオーちゃんのスペースを主に調査してそこから導き出すのが手っ取り早いからね。だってさっきのウマ娘は確かマンハッタンカフェという人で幽霊とお話出来るウマ娘では有名だもん」
「幽霊……?お話……?」
ネイチャはあまり聞きなれない単語に首を傾げる。だけどマヤノはどうも聞きなれているのかあまり疑問には思わなかったらしい。
認識の違いや知識の差があるのかと思うが、マヤノの前世は一体何をしていたのかはネイチャには分からないため、あまり触れないことにした。
「着いたよ」
そうこうしているうちにたどり着いたらしい。
何の変哲もない扉の奥には、テイオーとマヤノの部屋がある。
「それじゃ、入るよ」
マヤノはドアノブに手をかける。ギィと音を鳴らしながら奥にある部屋が露になる。
そして__
PM13:55 終了
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PM14:08
うっそうと生い茂る木々のなか、テイオーはサンデーサイレンスと名乗る謎のウマ娘と対峙していた。まるで飢えた獣が今にも飛び掛かりそうな雰囲気がある。嫌な汗がテイオーの頬を伝って垂れるが、返って気持ち悪く感じる。
(クソ、この状況をどうする!?なにがなんだか分からないまま編なやつに絡まれて全治一年の怪我?冗談じゃない!)
ギリギリと睨め付けるが、サイレンスの表情は落ち着いてる。
(行けるか?……いや、ボクの経験が言ってる。この状況を打破するにはとにかく目の前の敵を倒さなきゃならない……ッ!)
「覚悟は良いか?」
その言葉が火蓋となって落とされた。
突如テイオーは背中から膨大な圧を感じた。まるでサイレンスへと無理矢理行かされるような錯覚があった。
だけど、詳しく状況を観察させてくれる時間なんてなかった。
突如肺を潰されるかのような圧迫と激痛がテイオーを襲った。
「ごぶっ…ッ!?」
サイレンスの拳がテイオーの腹へと襲う。ウマ娘と人間とでは身体能力に差があることをテイオーは知っている。その痛みがまさかここまでとは思わなかった。
後方へと思い切り吹き飛ばされたテイオーは酷く咳き込んだ。
「がふっ!?げほっ!!げほっ!!」
「まずは一発」
一撃があまりにも重すぎる。これまで受けてきた痛みなんて比にならない程のインパクトがある。
「くっそ……!」
テイオーは歯を食いしばりながら立ち上がる。震える腕を無理矢理抑え、それでも立ち上がる。
「ほう?ウマ娘は馬のパワーを持っていてしても立ち上がるか。所詮ウマ娘も人間並みの耐久力しかないってのに、今のパンチで骨すら折れないのか」
「ふざけんじゃねえよ!さっきから人をまるで盗人扱いしていれば話も聞かずに殴りかかってきてさ!一体ボクが何をしたっていうの!?」
「…………」
サイレンスは唾を吐き捨てると、真っすぐテイオーへとめがけてきた。
「オレはマックちゃんとイチャイチャしていたテメェが嫌い!!」
真っすぐ飛んできた拳をテイオーは右に避ける。すかさずカウンターで殴ろうとしたがサイレンスはジャンプで空中回転してかろうじて躱す。
「マックを奪おうとしたテメェが憎い!!」
どことなく吹く風が真正面からそばにある木へとテイオーを叩きつける。
「お前はオレの愛しのマックちゃんを奪いやがった!!あの冷徹でツンとしたマックちゃんに惚れた時にテメェが横取りしやがった。だからオレはテメェをこの手で滅茶苦茶にしてやらねえと気が済まねえ!!」
サイレンスがバネのように脚を縮める。何をするか分かったテイオーは全力で横に回避した。バキッ!!と、乾いた音が響く。ウマ娘の力で蹴った木がミシミシと音を立てながら倒れていく。
(何んだろう、まるで風を自分の意思で操ってみたいだ)
テイオーはさっきから不規則な風の流れと強さを感じていた。
(……そういや、ネイチャは能力者は見たことがあるって言ってた)
今起きているこの超常現象はもしかしたら、超能力とやらが絡んでいたとしたら?
(……ちょっと待て)
記憶の何かが引っかかる。
テイオーの脳裏にチラつくのは、かつての世界でとある電撃使いが当時岡田をしつこく追い回していたあの記憶が。
(さっきからおかしかったんだ。普通初めて能力者を見た時なら恐怖で下がっている方が普通の反応なのに、自分はまるで慣れてるような反応だった)
そこから導き出した結論は、
(つまり、ボクは前の世界では超能力者と戦ったことがある)
だけど戦い方なんて覚えてない。この世界に来てから能力者と渡り合ったことなんて無かったから忘れているだけかもしれない。
だからテイオーは今の状況を分析した。
「なんとなく、だよ。なんとなくだけど少し思い出した」
テイオーはゆっくりと立ち上がりる。
「正直今でも頭が混乱してなんで巻き込まれたのか分からないし、今の超常現象があの超能力だってこしか分からない」
テイオーは今ある記憶と知識で導き出した推測を突き付けるように言う。
「君の能力は
「惜しいな。確かにさっきから風は操ってる。が、根本的に違うな」
「根本的に違う、だと?」
「そうだ」
サイレンスは長い髪を片手でかきなでながら、
「忘れるな、風も操れるってことだ」
突如として大地が揺れた。グラグラとする視界が突如思い切りブレる。
テイオーのいる地面だけがぽっかり穴が空いた。穴の底はさほど深くは無い。テイオーの下半身だけ落ちるとまるで拘束を前提にしていたのか、土がテイオーを動かさないように包みこんだ
「オレが操れるのは大地だ。火、水、風、土。この世界は五大元素で構築されていることは知ってるよな?例えばオレの攻撃手段は使い勝手が良くてな」
サイレンスの両手から突然炎が現れる。ライターもマッチ棒も、そういう火を起こす手段を無視した正真正銘の超能力。
「まずい……!」
テイオーは埋まらなかった両腕を使って必死に抜け出そうともがく。だけどサイレンスはそれを待つ理由も無い。
「風がダメなら土と火だ。土でお前を縛り付け、炎でお前を消し炭にしてやる」
サイレンスが両手を合わせると炎の質量が一気に増した。二メートルもある塊がテイオーをめがけて真っすぐ向かった。
もはや回避をする時間も無かった。
ボワァァァァァ!!、と、爆発音が響いた。凄まじい熱風と衝撃波が周囲の木々を今にも倒しそうな程の威力だった。
「やられたか。ま、こんなもんか。大したことは無かったがその分析力だけは褒めてあげるか」
少なくともあの炎だけ摂氏二〇〇〇度ある。それだけの熱度があれば人間やウマ娘なら骨を残す程度の火力だ、それだけでも充分な火力だ。
メラメラと燃え上がる爆心地は煙が舞い上がっている。死体なんて確認しなくてもいい。最後まで見なくてもあの様子ならば、あそこはトウカイテイオーの骨しか残らない。
「ま、オレは超能力者ではないんだけどな。どっちかというと科学サイドの敵である魔術サイドなんだけどな。まあ死んでるから聞こえないか。それに人払いのルーンも張っておいたし、一生骨で孤独のまま放置されてな」
捨て台詞を言うと、サイレンスはその場を離れようとした。
『誰が__』
その一瞬手前で、その脚は止まる。サイレンスは思わず振り返る。聞こえるはずのない声がサイレンスに焦りを募らせる。
「誰がやられたって?」
そして、その声の正体は。
「トウカイテイオー!?なんで生きてやがる!?あれをまともに喰らっているはずのテメェがどうやって生きてやがった!?」
「うん、君の攻撃は確かにやばい。あんな炎を喰らったら間違いなくボクは死んでいたよ」
拘束していたはずのテイオーが悠然とした表情で一歩一歩向かってくる。近づいてくる度にサイレンスは自分の鼓動が異常に速くなっているのを感じていた。
「けど、あの炎を放つそのタイミングにボクを囲んでいた土が一瞬緩んだんだ。その瞬間ボクは抜け出すことができた」
「……ちっ!!炎がダメなら水だ!!逃げ場のないように囲って今度こそ仕留めてやるッ!!」
サイレンスは片手で操るように何もない空間からテイオーを包み込むように水を操る。ザーザーと音を鳴らしながらテイオーを窒息させるために水流が襲う。
これで今度こそ仕留めれる。
そうであれば良かったんだ。
バシャン!!、と。テイオーを包み込むはずの水球が一瞬で消え去った。
「なっ……!?」
サイレンスの頭が真っ白になる。まるで打ち消されたかのようにテイオーの周囲には本来の空間が戻る。
(どうなってやがる!?魔力も使わず純粋な力で、一体何をどうしたら一瞬で消し去るんだ!?)
サイレンスの思考がますます混乱していく。本来この場面が圧倒的に慣れているはずの立場が、一気に逆転した。
「君がどういうことでボクを巻き込んだかは知らない。どういう理由でボクを殺そうとするのじかは知らない」
テイオーは右手を握り締め、一気に間合いを詰める。
「だからテメェの私情で勝手に人を巻き込むような行動を起こすんじゃねぇ!!この大馬鹿野郎!!」
テイオーの拳がサイレンスの頬へと直撃した。
テイオーと違って、傷を滅多に負わないサイレンスは一撃で沈んだ。
PM16:30 終了
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PM16:31
この世界に転生して数年経ち、久しぶりに事件に巻き込まれてしまったテイオは、肩で呼吸しながらぐったりとした様子でその場にへたりこんだ。
「はあ……はあ……ちっきしょう。一体ボクが何やったっていうのさ……」
いきなり訳も分からず戦闘状態に入られて、挙句の果てにはなぜか殺されそうになって大変迷惑被っていた。
「にしても、一か八か右手を差し出していたらまさか効果も引き継がれているとは思わなかった……」
テイオーは自分の右手を見る。無傷に見えて実は確かにあの炎や水球に触れた右手。
(まさか、今後もこういう事件に巻き込まれていくのかな……?)
正直迷惑な話なのだが、この世界で今起きた以上巻き込まれないとこはあり得ないだろう。
「さて、まずはサンデーサイレンスじゃなく、マンハッタンカフェとか言うこの方を起こして、今回のことについて詳しく聞かないと」
テイオーは立ち上がろうとするため、体全体に力を入れる。
「……?」
力が、入らない?
「な、なにが……?」
『ふはははははは!!お前の意識はオレが乗っ取らせてもらった!!』
「なっ!?」
頭から響く聞き覚えのある声に、テイオーは酷く動揺した。
『サイレンス!!お前ボクの体をどうするつもりだ!?』
『決まってる。カフェに気絶させられている間に適当な土に埋めて今度こそ仕留める!!』
「カフェ!?……まさ__」
反応が遅れた。首筋辺りから鈍い音と共にテイオーの意識が暗闇に落ちていった。
『よくやったカフェ。これで安心してコーヒーが飲めるな』
「……一応、この体は私のなので下手に無茶されると困るのですが」
『まあなに、安心して飲めることに変わりないだろう?』
「……ええ」
『さて、こいつの魂に直接干渉して動けないように……?』
「……どうかしたのですか?」
『なあカフェ、今こいつから出ている声質は確かにオレだよな?』
「……えぇ。テイオーの口から聞こえる声は確かに貴方ですが?」
『動かない……』
「……は?」
『こいつの体が動かせねぇんだ……!まるで別の何かがオレの動きを阻害するかのような、そんな感じなんだ……!』
「……どういうことですか?」
『オレにもわから……。な、なんだこいつは!?』
「……どうかしたのですか!?」
カフェは挙動がおかしくなっていくテイオーの体の様子ををただ黙って震えながら見るしかなかった。その眼は海のように透き通る瞳とはどこか離れた色をしていた。
『こいつは本当にウマ娘の魂なのか!?こいつは本当にトウカイテイオーと岡田唯斗とか言うやつの魂か!?こいつ、まさかあの「倒壊の由威止」だってのか……ッ!?……ま、待て!!こっちにくるんじゃ__』
サイレンスの声が途切れたと思ったら、テイオーの体は抜け殻のように芝の地面に倒れこんだ。カフェも釣られるようにその場にへたりこんだ。
『いた!あそこよ!!』
『犯人発見!!マヤノ警察出動だよ!!』
背後から聞こえる二人の声に、カフェは気づくことすら出来なかった。
PM17:00 終了