AM07:30
日付は変わり、雀の泣き声が聞こえるなか、テイオーは窓から差し込む太陽の光に照らされながら目を覚ました。だけど、そこは寮の天井ではなかった。
「……げっ、ここってまさか病室!?」
いつぞやの世界でもしょっちゅうお世話になったあの病室、だけどあそことは違って少し落ち着いた鮮やかな色で塗装された病室だった。
「う、ウソだ。昨日は腹パンだけで済んだのに入院するほどの怪我を負ってたっていうの……!?」
『その通りです』
突如聞こえる声にテイオーは木造で出来たスライドドアを見る。ゆったりとした足取りだがどこか訓練でもされえてたような歩き方でテイオーの病室の入ってきたのは、不愛想で強面で白衣を着た医者?がやってきた。
「だ、だれ……?」
「主治医です」
「は、はぁ……」
「貴女は昨日ウマ娘の怪力で腹部を強打された結果、内臓が僅かに破裂を起こしていたので緊急手術を行いました」
「へ?」
しれっととんでもないことを言われた気がした。
「い、痛みはなかったはずだけど……?」
「アドレナリンでしょう。ハンマー投げの選手が投げる際に発生する強烈な痛みを声で紛らわせるのと似たようなものです」
「…………………………………………」
テイオーはただ黙ることしか出来なかった。恐る恐る自分の腹部を見ると、僅かにはだけていたお腹の部分には縫合されたあとがあった。それだけで尚更テイオーは青ざめていった。
「それでは私はこれで。あとは安静にしておくべきです」
主治医は唖然としたテイオーを置いて病室から立ち去る。そのタイミングで、入れ違いに誰か入ってきた。
「で、初入院の感想は?」
「ネイチャ、病院に入れられて喜ぶやつなんか誰もいないから」
「不運だねテイオーちゃん。あ、お見舞いのリンゴいる?」
「マヤノ、ボクはリンゴウサギが食べたい」
「アイ・コピー☆」
マヤノはネイチャが持っていたお見舞い果実の入った籠を受け取ると、備え付けられたパイプ椅子に座りリンゴ剥き用のナイフで手際よく剝きだしていく。
あと一人、入ってくるウマ娘がいた。
「……あの、初入院なのにどうしてそんなに余裕なのですか?」
「慣れだよ慣れ。……ところで、今はカフェの方だよね……?」
「……はい。先日の件についてきました」
恐る恐る聞くテイオーにカフェはどこか申し訳なさそうに答える。
「あの、先日は大変申し訳ございませんでした……!」
突如カフェはテイオーに向かって平謝りしてきた。
「え?え?」
「えーとね、実はこの事件は全部サンデーサイレンスとかいうやつのせと言うことが分かったんだよ」
「どういうこと?」
「……もともと私は、この時間では日課のブレイクタイムを楽しんでいるのですが、お気に入りの豆が無くなったことがことのきっかけでした」
「うんうん」
「その後お昼ごろに、その日の朝遅刻したテイオーさんを見かけてもしかしてと思ったので、部屋に侵入してこっそりテイオーさんのスペースを調査していた時、棚に私のお気に入りのマンデリアが入った袋があったので私はテイオーさんが犯人だと思い」
「ボクを殺しにやってきた、か」
「……はい」
否定はしなかった。少々過激すぎなのではと思い至る点もあるが、大事なものを奪われたらみんな怒りたくなる気持ちはテイオーも理解していた。
「その時たまたまカフェさんがマヤ達の部屋から抜け出していたところを見かけて、マヤはネイチャちゃんとこの事件について調査したんだよ」
はいテイオーちゃん、と、剥き終わったリンゴウサギを更に乗せてテイオーに渡した。テイオーは片手で受け取ると一個口の中へ放り込んだ。
「んで、マヤがマネキン事件と関係あるとかで警備員さんに頼んで監視カメラをチェックした結果、カフェさんとタキオンさんの部屋からマネキンがマンデリア豆が包まれた袋を抱えて何処かに消え去ったということが判明したわけ」
「……んぐ。マネキンがカフェの豆を持ち去ったことはよくわかったけどさ、そのマネキンは能力者だったの?」
「それがね……」
「……私のお友達が宿っていました」
「うんうん。……うん?え?」
「……貴方が倒れてネイチャさん達に確保されてからさっき伝えられた映像を見させてもらいました。……ええ、私のお友達、サンデーサイレンスが写ってたのを私は視認できました」
「……あれ?そういえば、あの時『オレはマックちゃんとイチャイチャしていたテメェが嫌い!!』だの『マックを奪おうとしたテメェが憎い!!』だの言ってたような……?」
『逆恨みらしいですわよ』
新たに聞こえた別の声に、四人は一斉に声の方へと視線を向けた。
「あれ、マックイーン?」
「ここは私が説明いたしますわ」
テイオーを除いた三人は静かに頷く。
「私がトレセン学園に入学して一週間経ち、放課後にランニングしていた時でした。突然カフェさんが『オレとマックちゃんは一心同体、運命共同、全てにおいてオレはお前と共にあるべきだ!!』とか意味の分からないこと言われてあの時は思わず逃げてしましましたが……。まさかあれから毎日しつこくアピールされるとは思わなくてですね……」
「……その結果、昨日の早朝私のお友達がテイオーさんとマックイーンさんが楽しく話していることを見かけたらしく、私が寝ている間にタキオンさんのマネキンに乗り移って私のマンデリアをテイオーさんにの棚に隠した。……理解できましたか?」
「いや、あまりの無茶苦茶さにちょっと理解が追いついてない……」
「簡単に言えばテイオーちゃんとマックイーンちゃんが仲良く話しているところをサイレンスちゃんが嫉妬して、カフェちゃんの大事なものをテイオーちゃんの棚に隠して勘違いしたカフェちゃんがキレて、この機会に乗じてサイレンスちゃんがテイオーちゃんを殺そうとしたわけ」
「なるほどね。……って、とんだ迷惑な話だね!?コーヒー一杯がボクに命の価値とか言われたらボクちょっと軽く凹むよ!?」
「……あの、ホントごめんさい」
「いや結果的に生きてるから結果オーライだから別に良いけど……。コーヒー一杯がボクの価値だなんて……安すぎだって……」
『オレは謝らないぞ!!マックちゃんはオレのものだ!!』
「……ちょっとあなたは黙っててください」
『いーや無理だね!!オレはテイオーだけはゆるさ__』
「お黙りなさい」
『おうせのままに』
「素直に従った!?」
カフェの言うことは聞かないのにマックイーンの言うことは聞くのかと、思わずテイオーは頭を抱えそうになる、が。
「……あれ、一体どこから声が?」
『ここだ』
突如現れたのは、青く燃えて浮かぶ頭蓋骨だった。
「うわぁ!!燃える頭蓋骨!!」
『失礼な。これでも霊ってのは頭蓋骨とか、人形とか、人間の形をしたやつの方が乗り移りやすいし操りやすいんだぞ。もう隠すのもめんどくさいし今の状態の方が居心地が良いからこれからはこれで過ごすか』
「ふーん。というかその状態でみんなの前に出て大丈夫なの?」
「その点なら大丈夫みたいよ。元からカフェさんって幽霊と会話できることで有名らしいし、それがあたし達でも見えたり会話できるようになっただけって話だから、別に驚きやしないよ」
「そうなんだ」
テイオーはそのまま燃え続けると灰になるのでは?と懸念したが、意外にも炎は温度の概念が無いらしく、灰になることはないらしい。
「……あの、テイオーさん」
「うん?」
カフェは顔の表情を曇らせながら、
「……今回の件は私が勘違いで起こした騒動です。罰を受ける覚悟はできています」
「罰?」
「カフェさんのけじめらしいですわよ」
「えぇ……」
テイオーは渋い顔をしながら、
「別にそういうのはボクは望んないよ」
「……しかし!」
「今回の事件でボクは冤罪だってことが証明できればそれだけで充分なんだよ」
それに、と。
「カフェがこれからもボク達と一緒に楽しく暮らしていければ、それだけで充分な罰だから」
AM08:15 終了