とあるトレーナーの頼み事
五月二九日。
一一日にさっさと退院したテイオーはあれからもチーム探しに奔走していた。しかし今の時期は大体がデビュー戦を終えており、今はあまり募集していないところばかりだった。
「う、うだー」
呆けた声を出しながら放課後の学園内を目的も無くうろちょろしていたのは、トウカイテイオーだ。
「何もすることが無い……。いやどうしよう、本当に何もすることが無いからぶらつく位しかやることが無いや……」
テイオーはそばにあったベンチに腰をかける。そこは中央通りで三女神の像が設置されている場所だった。
「あの噴水のなかに一円玉でも投げたら……いや、グルーヴ辺りがかんかんに怒りそうだからやめとこ」
本当にやることが無いテイオーは、いっそもう近くのゲーセンでハイスコア更新しにいこうかと思い始めた時だった。
『よおテイオー。今暇か?』
聞き覚えのある声にボクは心の中で若干泣いた。どうやらボクは今からあのスピカのトレーナーと鬼ごっこをしなくちゃいけないらしい。当然、ボクが逃げ役で。
「追いかけっこ?良いよ。ボク丁度暇だったんだ。じゃあやろうかちくしょう!!」
「……お前、なんかへんなもん食ったか?」
失敬な。ボクはいつも通りだ。
「まあいいや。お前今暇か?」
「藪から棒だね。生憎ボクはこれから時間の潰し方について考えてるところだよ」
「世間一般ではそれを暇つぶしと言うんだぞ。……まあ本題に入るけど」
「チーム勧誘はお断りだよ」
「そうじゃないって。せめて最後まで話を聞こうぜ!?」
「日ごろから勧誘してるからそう思われても仕方ないと思うんだけど!?」
「ぐぬぬ……まあいいや。とにかくだ。お前にお願いがあってきたんだ」
「なに?」
スピカのトレーナー、沖野は改まった様子で。
「テイオーにはスピカのやつらに歌とダンスを教えてやってほしい」
「歌とダンス?」
「ああ、お前新聞は見てるか?」
「見てない」
「じゃあこいつを見てくれ」
沖野は片手に持っていた新聞をテイオーに差し出した。テイオーは受け取ると見出しを見る。
ズラリと大量の文章が書かれているなかに、いくつかの写真が貼られており、見出しには『スペシャルウィーク大勝利!!しかしライブは天を仰ぐ見事な棒立ち……』と書かれており、他にも知らないウマ娘の写真がライブでへまをしているところが貼られていた。
「………………………………………………」
「まあ、なんだ。そういうこともあってお前に頼みたいんだ」
「それは良いけど……なんでまたボクな訳?」
「直感、かな」
「えぇ……」
「なんにせよ、ウイニングライブは応援してくれたファンへの感謝を歌とダンスで伝える大切なものなんだ。それを疎かにしてしまったのは俺の不覚でもあるんだが、俺はおハナさんみたに歌とダンスは上手くないんだ。頼む、この通りだ!」
沖野の言葉に嘘は無かった。最近入った編入生がスピカに入ったという情報もテイオーは知ってるし、その為にトレーニングをしっかりつませていたのはあのデビュー戦の結果を見れば分かる。ただ歌とダンスがどうしてもできなくて教えようにも教えられなかったんだろう。
「……分かった。その頼みをボクは受けるよ!」
「ほんとか!?助かった!!」
ガッツポーズをしてまで喜ぶ沖野の姿は、いつもの変人ではなく、教師としての一面であって、スピカのトレーナーもやっぱりトレーナーとしてウマ娘に真剣なんだってということを、テイオーは初めて思った。
「それじゃ早速近くの街中にあるカラオケ屋にいってくれるか?予約は俺の名前でしておくから」
「UMAが使える場所だよね?」
「ああ、俺は今からあいつらを連れてくるから先に行っててくれ。ドッキリも兼ねるからよ」
「おっけー。それじゃまた後で」
「おう」
二人はそれぞれの場所へと向かう。しかしこれが、後にテイオーがチームは入るきっかけになるとは誰もが思わなかった。