転生したらウマ娘になっていた   作:ヴァン.

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禁書目録(ツインターボ)編
夏休み開始


トウカイテイオーこと岡田唯斗は、日ごろから不幸な人物である。たとえなにをしてもそれが空振りしたり、しょっちゅう不良に追いかけまわされたり、入学して一ヶ月にわけもわかわらず変な難癖つけられて命を狙われるなど、割と不幸な人物であるのには間違いない。

七月三一日。

トウカイテイオーは今日からトレセン学園は夏休みに入ることになって、折角なのでファミレスで晩飯を食べようとしていた。食べるものといっても、熱々分厚い牛ステーキや、とろーりふんわりオムライスとかを食べようとしていた。

なのに、

「ふ、不幸だああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

トウカイテイオーは相変わらずのトラブルに巻き込まれ、街中で悲鳴を上げてたいた。

『おい待てそこのクソガキ!!』

『あいつめ!!アタイ達もウマ娘なのに全然追いつけやしないぞ!!』

『あの制服はトレセン学園だぞ!!一筋縄ではいかないぞ!!』

『くそ。全員無能力者だから走りじゃ追いつけねえ!!野郎共はどうした!?』

『多分今もあの黒髪ウマ娘と話してるだろうよ!あっちはあっち、ウチらはこっちよ!!』

なんでこうなったんだろうとテイオーは思う。

テイオーは夜のファミレスに来てみれば、黒髪ウマ娘が男の不良に絡まれていたから助けにいっただけなのに、裏からどこからともなく現れたのは不良のウマ娘。そんなこんなでいつの間にかテイオーが追いかけられる羽目になっていた。

「くっそー!!なんでボクはいつもこんな目に遭うんですか!!ただ助けにいっただけなのにいつの間にかボクがヘイトを買ってるしさぁ!?もうわけわかんないよお!!」

テイオーは荒い息をあげながら背後を見る。不良のウマ娘は鉄パイプやらバールという凶器を片手に持っている。人間の力であってもただでは済まないが、ウマ娘の力であれをぶん回されて当たったら肉体を保てるかどうかすら怪しいのは目に見えていた。ただでさえ腹パンだけで内臓に傷を負うことを、いつぞやの黒髪野郎から身をもって味わってるからこそ分かる。武器なんてもっての外だ。

にしても、やけに黒髪から何かしらのトラブルがボクの方に持ち込まれるのは気のせいだろうか、とテイオーは心底思う。

(そんなもんに無能力者のボクが勝てるわけないでしょ!ただでさえここは能力者が多い街なんだからさぁ!!)

「もおーーーー!!不幸だあああああああああ!!」

 

__________________________

 

 

 

あれからテイオーは路地などを使って不良達をかく乱させ、前世の姿よりも小柄なのを上手く利用して隠れたりしたりして、気が付けば鉄橋の場所まできていた。

夏はこれからというのにもかかわらず、今日の夜の夏は蒸し暑く、街中を駆け巡ったテイオーの全身は汗だくで、汗を吸ったトレセンの制服がびちゃびちゃで気持ち悪かった。

「なんとか撒けたかぁ……。あいつらどんだけしつこいんだよ。追っかける精神と体力があんな執念あるならトレセンでもやっていけると思うけどなぁ……」

テイオーは額で汗を拭う。手にべっちょりとした感覚を残しながら、ぱっぱと手を振らせる。汗がコンクリートで出来た道路へと飛び散る。

思えば本当に困ったものだ。七月に入ってからテイオーが岡田唯斗という時代の世界、いわゆる前世の世界とウマ娘の世界がいつの間にか融合しており、おかげで過去の記憶も随分戻ってきたものだ。けど不可解なのがウマ娘という存在が今だテイオーでは理解できない存在であること。ある程度のことは理解できても、どうも自分は他のウマ娘よりやや複雑な立ち位置であることらしい。

「……にしてもあの不良達、今頃どうなってるんだろうか?あいつにさえ追いつかれなければ無事で済んでたら良いんだけど」

『そんなの簡単なことだと思うけど』

「……げ」

テイオーは聞き覚えのある声を背後から捉えた。その声が、テイオーの予測が確信へと変わる。今度は冷や汗をかきながら体全体でゆっくりと振り返る。その先にいたは、テイオーよりも身長が低く、右目が漆黒の黒に染まった髪に被さるように覆い、黒いハットの帽子には造花なのか青薔薇が付けられていた。一見したらおどおどした性格なのがぱっと見で思うような素振りなのだが、意外と強気という性格と聞く。

そんな彼女にもウマ耳があり、他のウマ娘でもなかなか見ない大きな耳。身に纏ってる服装はテイオーと同じトレセンの制服。

テイオーはそのウマ娘の名を恐る恐る呟く。

「ら、ライスシャワー……」

「テイオーさんってさ、おかしなとこがあるよね。たかが不良如きに弱々しく逃げ腰だなんてさ。あんな程度ならウマ娘の力量でもすぐに倒せれるでしょ」

簡単に言ってくれる、とテイオーは呆れながら思う。

「……一応聞きたいことがあるんだけどさ、あの不良達はどうしたの?」

「うん?そんなの簡単よ。ちょっと[[rb:料理 > 炙りに]]してきた」

清々しいように聞こえて何処か怒りが混じったような声が返ってきた。実はテイオーは不良に絡まれたウマ娘ことライスを助けようとしたんじゃなくて、今みたいに能力で黙らせようとするライスから不良達を守るためにテイオーは助けにいったのだ。

結果的にテイオーが追われ、予想通り不良達は丸焦げさせられたのだろうだが。

「あのさ、ボクはただの中学生なだけでライスみたいな超強い能力者とかじゃないんだ。だから別に逃げたって問題ないよね?」

「ふーん?」

テイオーはなんとなくだが、逆鱗に触れたかもしれないと思った。

「ねえ、超電磁砲って知ってる?並行に置かれた二本の電極をレールとし、その上に弾体となる金属辺を乗せ、レールのそれぞれを電源の両極につなげば実現するんだけど、そもそもその電力ってのがバカにならない程の膨大な電力を必要とするんだよね、発射するにしても特殊な設備とか必要だし結局バカにならない費用とか土地とか色々掛かるし。最近では量産体制に移れる技術まではあるとは聞いてるけど」

ライスの全身からはバチバチと音を発しながら青白いものが見える。それはまるで威嚇のみたいな感じだった。

「でも、この日本に数少ない能力者である私、ライスシャワーなら音速の三倍を超える速さで__」

ライスはスカートのポケットからゲームセンターのコインを取り出す。銀色に輝くコインが月日に照らされて輝いてる。ライスは指でコインを弾く。キン、と音を鳴らしながら指に電流が溜まっていく。

その瞬間、一部の記憶が消えたテイオーは背筋に悪寒のようなものが突き抜ける。

直後だった。

「__こんなことだってできるんだよッ!!」

まるで圧縮された空気を一気に放出するような感覚で、テイオーの体の真横を掠めるかのように、そして衝撃波すら追いつくことを許さない速度で雷光が突き抜けた。電光が突き抜けた射線上には、亀裂は入っていた。

設備もそれらしき機器も一切使わない。たった一枚のどこにでもあるゲームセンターのコインと純水な能力、生身一つでライスシャワー自身が超電磁砲の発射台と化している。

テイオーは僅かに膝が笑っているのを感じながら恐る恐る問う。

「お前さ、まさか今みたいな億ボルトもする電撃技をあんな不良共に使ったわけじゃないよね?」

「そんなわけないよ。ライスだって無能力者(雑魚)程度の倒し方位心得てるよ」

「そうかそうか。じゃあ、ボクも無能力者だから手加減だの逃亡だのしても問題ないよね?」

「無能力者、か」

今度こそ明確な怒りをテイオーは感じた。ライスの全身からは凄まじい放電が起きている。

まずい、と、テイオーは思った。

「ライスはかつての世界では第三位と呼ばれているほどの能力者なの。だけど巷ではそれを簡単に打ち消す能力者が現れたという噂で持ち切りでさ。それもこの世界でもまた広まってるから気になってたの。だから調べたらテイオーさんが該当したわけ」

「いや何言ってるの!?ボクは正真正銘の無能力者だけど!?ほら、なんだったら今さっきだって対応できてなかったじゃんか!」

「………………………………………………」

今度こそ、明確な殺意が感じた。ライスはさっきと同じ動作を行う。

そして、ターゲットは間違いなくトウカイテイオーだった。

次の一撃で、テイオーの体を一瞬で貫き黒焦げにする恐るべき電撃がくる。テイオーは音速の速さで走ることなんて出来ない。どれだけタイミングを合わそうが、ライスからの距離がありすぎて、動く前に発射されてしまえば意味が無い。

詰まるとこテイオーの待ってる未来は、死のみだった。

ライスはボールでも投げるかのような軽い動作でテイオーにめがけて、圧搾された電撃を放った。周囲に凄まじい放電をしながらテイオーの体に直撃する。ズバチィ!!、という凄まじい音と焦げた臭いがライスの鼻と耳を刺激する。

しかし、臭いといっても肉が焦げたような臭いではない。溶接するときに発生する臭いだ。

音だって悲鳴も聞こえた訳じゃない。

ライスは改めて先を見据える。もくもくと漂う煙の先に僅かに写る立ち姿のシルエットを見据えながら。

「おかしいよね。本当に無能力者ならライスの電撃を打ち消せないのにどうして五体満足なのか」

トウカイテイオーは、無傷のまま五体満足を保って立って生きていた。

書庫(バンク)を覗いても、能力を打ち消すもの類の情報が一切ないそれ、本当になんだろうね」

ライスは一体どうやってテイオーが今の電撃を打ち消したのかは分からない。だけど何をどうやっても打ち消すことが大前提でできていることしか認識していない。

「……ったく。ついてないよね、君」

「!!」

テイオーの低い声が、ライスを恐怖に落とし込む。一切の情報が無い状況で、ライスはどう戦えばいいのか分からないからだ。

テイオーはもう一度、挑みかかるように宣言する。

 

「ついてないよね君。ボクと戦うことになるなんてね」

 

言葉に圧倒されたライスは、ただ感情のままに電撃を放った。

この日の二一時、半径四〇キロにも及ぶ大規模な停電が東京府中を中心に起きた。

 

_____________________________

 

 

 

八月一日。

学生にとってこの日は夏休みの開幕として喜ばれる、はずだが一部の生徒にとっては補修や学校に出された課題等で日々勉強に追われたりしたりで、結局多忙なことに変わりはない。

まだ日差しが僅かに出ている早朝の蝉の鳴き声が辺りに響き渡る中、

「………………………………………………………………………………………………」

「………………………………………………………………………………………………」

トウカイテイオーとその同室であるマヤノトップガンは、ベットからはみ出すような格好でぐったりとした様子で沈黙していた。

「ふ、ふざけてる……。なんなのこの暑さは……!?」

あまりの暑さに我慢ならないテイオーは思わず叫ぶが、暑さでその勢いは打ち消される。

「き、昨日原因不明の落雷で……東京の大半の地域が停電してるから……クーラーが……」

マヤノもぐったりしており何かを言ってるが、顔が毛布で隠れてもごもごと聞こえる。

あまりの暑さに二人はアイスが溶ける感じがある。

そもそも何故こうなったのか原因をテイオーは知ってる。

昨日の夜の鉄橋で、ライスを少し脅してさっさと帰らそうかと思ったら逆に刺激してしまったらしく、能力を利用して莫大な放電で東京に大規模な停電を起こしてしまったのである。

ただでさえさっき担任から『テイオーちゃんバカだから補修でーす』とラブコールされたのだ。ちょっとでも愚痴ってないと乗り切れない気がした。

結局夏休み初日からテイオーの不幸が始まる。

テイオーはなんとか体を起こして部屋に備え付けられた共有用の冷蔵庫を確認する。中身は飲み物や簡単な菓子にスイーツ、ちょっとした食べ物が詰め込まれているのだが、そもそもクーラーがつかない時点で何となく予想通り。

「くっさ!!なにこの腐敗臭!?思ってたよりも臭うんだけど!?」

「くさーい!!テイオーちゃん早く閉めて窓開けてよお!!」

テイオーは思い切り閉めて窓を全開にする。

「熱風が!!熱風が酷い!!」

「もーー!!昨日の夜からなんなの!?マヤは普通に寝たいだけなのに!」

「冷蔵庫の中身は全滅。暑さ凌ぎで窓を開けても熱風で灼熱地獄。もう不幸だあああああああ!!」

テイオーは思わず頭を抱えだした。トレセン学園に入って初の夏休みの早朝からなんかもう散々であり、テイオーみたいに今年から入った今期生は多分同じ気持ちだと思う。というか、多分停電地域全員が思っているだろう。

「こうなったら外だ!ボク外にいってくる!」

テイオーは部屋着のまま勢いよく廊下へと飛び出した。飛び出したと同時テイオーの頬に僅かに冷たい風が触れたのが分かった。理屈は分からないが部屋とは違って密室ではない廊下は部屋よりもある程度は涼しくてマシだった。

テイオーはあまりの暑さに喉が渇いていたことに気づいた。一瞬テイオーは外に行くか部屋に戻るかで迷ったが、部屋に戻っても待ってるもは灼熱地獄だし、かといってこの暑さで倒れるのは嫌なのでとりあえず栗東寮生用調理室に向かうことにした。

今カフェテリアにいってもまだ料理は完成してない時刻だし、なんなら開いてないので素直に調理室に行ってる方がマシだ。それに、あそこにはいざという時のための共有用の食材や飲料水がある程度詰まってる。

「あそこなら確か蓄電器があって、非常でも使えるようになっているから冷蔵庫の中身は全滅してないでしょ。……思うんだけど、この世界は風力発電用のプロペラとか太陽光発電とか沢山あるからある程度は蓄電はされてるのになんで停電したんだ?」

などとテイオーは疑問に思うが、今はこの暑さが少しでも和らげれるならどうでもいい。

さて、テイオーは銀製のスライドドアに前に来て開ける。中はかなり広い空間になっており、手前にはキッチンや業務用冷蔵庫があり、その奥には談話スペースが確保されている。改めて思うと、かなり寮の設備にしてはかなり充実しているなとテイオーは思う。

「さてさて、冷蔵庫に1.5Lのお水があるはず」

『ぐえっ!!』

「そうそう『ぐえっ』っていうお水が……。ん?」

テイオーは足元に何か違和感と声が聞こえたことに疑問を持つ。テイオーはとりあえず下を見る。

なんか青髪ツインテールのウマ娘が床に倒れていた。

そしてなんか修道福を着ている。青色の生地に黒の刺繍で覆われたその修道服はテイオーからしたらただのコスプレにしか見えない。

テイオーは思わず、

「いや誰!?」

「ツインターボ!!テイオーと同じクラスだぞ!?」

「あれ、そんな子いたっけ?」

「いたもん!!ターボいたもん!!」

「またまた~。そんな冗談はテイオーさんには効きませんよだ」

「むかー!いたもんいたもんいたもん!!」

ツインターボと名乗るウマ娘はテイオーのお腹あたりをポカポカ殴りだす。ターボは真剣そうなのだが、テイオーからしたらただ小さい子を静かに見守る感じだった。

「あーそうだ。ボク水を飲みに来たんだった」

「あ、ダメ!」

「ん?急にどうしたの?」

「今開けちゃだめだもん!絶対だめだぞ!」

「またまた~。ボクはそんな冗談通じないって」

「だから開けちゃだめだもん!絶対の絶対だもん!」

「ホントに?ホントに開けちゃだめなの?」

ターボは何度も頷く。

「ちぇ、そこまで言うなら仕方ない__」

「うんうん」

テイオーは静かに振り返る。それと同時にターボとやらが隣きたので、

「__と、見せかけてここで開ける!!」

「ああ!!」

「むふふ。さあボクの飲料タイムはここか」

テイオーの言葉が途切れる。暑さでやられた訳ではない。かといってターボに阻止されたわけではない。テイオーはしっかりと業務用冷蔵庫の取っ手を掴んでいる。そして開けたとこまでは順調だった。

だけど問題はここからだった。

「くっさ……!!え、くっさ!?なにこれくっさ!!」

「ぐおおおおぉぉぉぉぉぉ……。くちゃい……」

テイオーは、なんでターボっていう子が倒れたのか、そしてなんであれだけ必死に止めようとしたのかようやく分かった。

あれだ、業務用冷蔵庫の中まで全滅していた。

これはつまり、蓄電器までやられていたか、またはフジキセキが稼働させてなかったということを意味する。テイオーは勢いよくドアを閉めた。そのままの勢いでぐったりとした様子で備え付けられた椅子に腰を掛けてぐったりしだす。ターボはそのあとをついていきテイオーの対面に座る。

結局のところ、テイオーは相変わらずの不幸で朝から悩まされることになった。

(いや、これみんなが困ってるから不幸でもなんでもないか)

その時だった。ぐううと妙な音が聞こえた。一瞬自分の腹かと思ったが全然違うくて、

「お、お腹空いた……」

「……いつから食べてないの?」

「昨日の夜から何も食べてない……」

「き、昨日からって……なんで食べてないの?」

 

「追われてたから」

 

その言葉にテイオーは眉を顰める。

「追われてた……?」

「そう、追われてたんだぞ」

「誰に?」

「魔術師だぞ」

「…………は?」

「だから魔術師だぞ」

「あー魔術師ね。そういやボク一度だけ会ったあったなあ。いきなり人様に冤罪ふっかけてどつきまわしにきた幽霊野郎とそれに流されたコーヒー馬鹿が」

「え?待って。どうして魔術のこと知ってるの?もしかしてテイオーって魔術サイドだったの!?」

「いやなんの話かは知らないけど、科学サイドだの魔術サイドとやらはよくわかんないけどさ、ボクは多分科学サイドだよ。信じるのは純粋な科学でも生み出せると超能力位だし」

「でも魔術師のこと知ってるって言ってた」

「詳しくは知らないよ。ただ世の中にはあんなやつもいるんだなぁ~ってくらいの認識だし」

「信じてよ…………。あと、多分それは死霊術を利用した術式だよ。有名なものは『趕屍』かな。ターボの頭の中にその本は入ってるし」

「へー。…………ん?頭の中に本が入ってる?君何言ってるの?お腹が空きすぎてとうとう発言までおかしくなったの?」

「違うもん!ターボはおかしくないもん!!」

「まあまあ、話を続けたまへダブルブラスト」

「ツインターボ!」

ダブルブラストは納得いかない表情だが、そのまま続けることにした。

「テイオー、禁書目録って知ってる?」

「きんしょもくろく?」

「そう。英語では『Index Librorum Prohibitorum』ともいうぞ。あとターボの魔法名はDeinceps111(振り向かずに前へ進め)ともいう」

長ったらしいなとテイオーは心の中で思う。

「てか魔法名ってなんなのさ?」

「魔法名って魔術師の間では『己の執念をラテン語で示す』ことであって、それが魔法名が被らないように最後に三桁の数字を入れて完成するものなんだぞ。本名を知られたくない意味でも意外と便利で使いやすいものなんだぞ」

「ふーん。要はメアドみたいなもんか」

「禁書目録といっても、その存在は禁止された魔道書が集められたまがい物でもあるんだぞ。有名なものといえば『ネクロノミコン』、『法の書』、『金枝篇』、『無名祭祀書』、他にもまだまだ沢山あるけどね」

「…………何一つ全然分からないや」

「まあテイオーは科学サイドだから仕方ないよ。科学側からしたらそれが普通の反応だし」

ターボは机に置かれた備え付けのお菓子を掴み、袋を開けて中身を取り出して食べ始める。そういや自分も何も食べてないことを思いだし、テイオーも頂くことにした。

「で、その禁書目録とかいうのが頭の中に全部入ってるということ?」

「そうだぞ!凄いだろー!」

「お菓子美味しい」

「全体的に冷たい!」

「だって、ボクは魔術なんてものをちゃんと見たことないもん。とはいっても、魔術も一応打ち消したことはあるし」

「うちけす?」

「そう。ボクの右手には異能な力ならなんでも打ち消せる幻想殺し(イマジンブレイカー)という生まれた時、というか前世の時からある能力を持ってるんだよ。これがあると神様の奇跡すらも打ち消せるらしい」

「…………ぶふっ」

「…………なにその通販でインチキなものを見て笑う表情は」

「だって、神様の名前すら知らなそうなテイオーが神様の奇跡すら打ち消せるなんて言われても納得いかないぞ」

「じゃあ君は魔術とか使えるの!?」

「使えないよ。でもこの服『歩く教会』なら魔術を使ってるから、テイオーが言ってることが本当なら壊せるかもな。まあでも『歩く教会』は絶対防御だから例え術式が被弾しても壊れることはありえないからな!」

「うわぁ、そっちの方がインチキ臭い」

「その反応だよ!どうしてみんなして魔術はインチキだの胡散臭いとか言われるの!?」

ターボは勢いよくキッチンの方に向かい包丁を見つけては取り出し、

「はい!」

「は?」

「これでターボに思いっきり刺してみてよ!『歩く教会』なら包丁程度じゃ掠り傷一つつけられないから!」

「それじゃあ遠慮なく刺します、なんていうバカなやつがいるわけないでしょ」

「テイオー信じないもん!」

「君もボクの右手のこと信じてないけどね。……あれ、でもボクの右手で触れればその歩くなんとかは破壊できるかも」

「たかが右手で触れただけで壊せるとか、そんなバカな話があるわけないと思うぞ。まあ、テイオーは所詮バカだからそんな考えしか出来ないかもね」

「上等だこの野郎!!やってやろうじゃん!!」

テイオーは勢いよく立ち上がり、ターボの下へといく。そしてポスっと、右手をターボの肩に触る。

「………………………………………………あれ?」

何も起きない。異能な力、もとい魔術とやらがあるなら右手が反応あるはずだが、数秒経った今でも何も起きなかった。

「ふふーん、何も起きなかったぞ」

勝ち誇るターボに、思わず悔しい気持ちになるテイオー。単に物理の素材で出来ているのか、テイオーが考えてる時だった。

 

突如、ターボの修道服が一気に破けた。

 

「…………………………………………………………………………………………………………え」

テイオー自身も、一瞬何が起きたのか分からなかった。だが、すぐに一気に現実へと引き戻される。

今テイオーの目の前には素っ裸のターボがいる。

「…………どうしたの?」

「い、いやあ…………」

「あれ、そういやなんかスースーするよう__」

ターボの言葉が途中で切れると同時に、絶叫が部屋中に響いた。

 

_____________________________________

 

 

 

あのあと全身を噛みつかれ、こっぴどくやられたテイオーはあちこちのその歯跡を残していた。

「くっそー。君は合宿にいる蚊かよ」

テイオーは自分の着ていた部屋着をターボに着させて、部屋から持ってきた裁縫セットで破れた修道服を直そうとしたが、ターボ本人がやるらしいのでコンビニで適当に買ってきたのを食べていた。ちゃんとターボの分は買っている。

「ボクが悪かったって。そんなに怒らなくてもいいじゃん」

「…………やだ。だってテイオーに見られるとなんか恥ずかしいもん」

「どういう理屈なのだか…………」

にしても、とテイオーは思う。

(ボクに右手が反応したってことは、やっぱりあれは魔術で、異能の力でもあるんだ)

おそらくその効果が表れるのが遅かったのは、単に質量が多くて処理に時間がかかったからだとテイオーは推測する。なんにしたって、これが魔術にも通じるということはこれでようやくはっきりした。

「できたぞ!」

「…………なにその針線地獄みたいな服は」

青色の生地に黒の刺繍で覆われたその修道服は、あちこちに銀色のクリップが止められていた。

「日本語では針の筵とも言うぞ」

「ふーん」

「それじゃあ、ターボそろそろ逃げないとね」

「逃げるって、どこに?」

「教会に行けばきっとターボを匿ってくれると思うよ。一応日本にもいくつか拠点となる場所はあるし」

「でもここにあるの?そいつらは信用できるの?」

「分からない。だから本拠地まで行くの」

「どこにあるの?」

「ロンドン」

「バカでしょ!!ここからどれだけあると思うの!?まさか歩いていくつもりなの!?」

「ふふん」

陽気な声と共にターボは入口へと向かう。その時ブランケットのようなものが落ちるのを視界の端で見かけた。テイオーは拾おうとしたが、その時脚を挫いてはポケットからウマホは落ち、パキッ、と嫌な音が聞こえた。

「や、やっちゃった…………」

「テイオーの右手ってさ、ターボにはよくわかんないけどきっと神様の加護ですら打ち消してしまうんだと思う。そもそも空気中にも触れてるからどれだけ幸運を呼んだとしても結局打ち消してしまうんだよね。結局はそんな物を持って生まれてきたことが不幸だよね」

ターボからしたら悪気が無いのは分かるが、あまりの自分の悲惨さにテイオーは酷くショックを受けた。

「ふ、不幸だ……。こんな不思議ウマ娘シスターさんからそんな事言われるなんて不幸すぎる……」

「でも、そろそろ行かないと」

「……ねえ!」

「……?」

「本当に大丈夫なの?捕まったらやばいこと位分かるのに、それをみすみすほっとくなんてボクには出来ないよ」

一瞬、ターボの表情が驚きを表したが、すぐに崩れ、そして、

「じゃあ、ターボと一緒に幸せの無い世界へとついてきてくれる?」

正直、どう答えれば良いのか分からなかった。だけどその表情はどこか悲しくて、辛そうな表情だった。

「じゃあ、行くね」

ターボは廊下へと飛び出して去っていく。何も言えなかったテイオーは、せめてものとしてこう言った。

「困ったことがあったらいつでも来てもいいからね。ダブルジェット!」

『ツインターボ!!』

このやり取りを最後に、ターボの姿が見えなくなった。

「あ、そういやあの子フードみたいなやつ置いていきっぱなしだったや。…………ってそろそろ補修の時間じゃん!やばい、さっさと朝ごはん食べて学園に向かわないと!」

テイオーはフードを片手に、いそいで制服に着替えてカフェテリアで朝ごはんを食べて学園へと向かった。

 

 

テイオーは学園に来て自分の教室に入る。そこにいるのはお馴染みのクラスメイトが何人、そして同じスピカであるスペとマックイーンとゴルシ、あとは別クラスのエルコンドルパサーとオペラオーがいた。

このメンツで共通点があるとしたら『中等部』が纏められている感じだろうか。

「はーはっはっはっ!!夏でもこのボクが呼ばれ、そして金色の太陽に恵まれ輝くのはまさにこのボク!いやぁ今日も清々しい一日になりそうだ!」

「ひえぇぇ!!補習なんて初めてだから分からないよー!」

「慌てないでくださいスペちゃん。今から始まるのは夏休み恒例行事である補習デス。別名『監禁』とも言いマス」

「そうだぞスペ。テストで満点越えの点数を連続一二〇回叩き出さないと帰れねぇ仕組みだから覚悟したらいいぞ」

「そんなぁ!!」

「いや貴方達思いっきり嘘をつくんじゃありませんの。スペシャルウィークさん、そこまで悲観的にならなくてもよろしいですわよ。補習はちゃんとやれば直ぐに終わりますわ」

「ホントですか!?」

「ただ、先生方によっては夕方まで残されることに変わりはないので正直運任せですわね」

「帰りたーいよーーー!!スズカさーーーーん!!」

割とガチ泣きしそうなスペだが、

「はーいお前ら、これ以上騒がりやがれてください。みんな纏めて『ぶりっ子の夢』ですよー」

そう言い放ったのは、トウカイテイオーのクラス担任でもある渼丹小莎(みにちいさ)だった。

身長は約一三五センチで、金色のロングヘアであるその髪のせいで年齢に対してあまりにも幼女感が溢れ出す先生だった。

「ぶりっ子の夢って、確かあの先生方の見た目を利用して『やらなきゃお仕置しちゃます♡』みたいな事を言って生徒達をやる気にさせるある意味マニアックな方向けの罰ゲームですわよね?」

「そうだよ。あれボクたまに思うんだけどある意味自虐ネタだと思うんだ。あの先生割と身長気にしてる割には意外と気にしてない……?」

「はーい、テイオーちゃんにはもれなく『抱きしめちゃえ』ですよー」

「ゲッ、なんでボクだけ……」

「まぁいいじゃねぇかテイオー。むしろああいうのがご褒美のようなもんだぜ?」

「……てかさ、なんで頭のいいゴルシは残ってるの?」

「そりゃオメェ、渼丹先生が補習の担当してっからよぉ、適当にテストの点数落として補習に入れるようにしてもらった」

「いやいやバカでしょ」

「バカデース」

「バカですわね」

「バカだねぇ」

「オメェらが喧嘩売ってることはよーく分かった。あとでレースでぶっ潰してやるから覚悟しろ」

「テイオーちゃーん。いい加減にするのですよー」

「なんでさっきからボクだけなの!?ちょっとおかしくない!?」

「まあ、渼丹先生はテイオーのこと気に入ってるからね。あの笑顔はやっぱりたまらんと思うぞ」

「…………不幸だ」

それだけ呟くと、テイオーは窓の外を眺める。もともとこの位置はテイオーの座席であるため、暇な時は眺めれたり出来る。ちょうど今、入り口付近でトレーニングしているウマ娘達がいた。

(あの子、今頃なにしてるんだろうか)

あのターボと名乗るウマ娘は、無事教会とやらに辿りつけられているのか気になる。でもあのフードは今部屋に置いてあって、もしかしたらきっとどこかで気づいて戻ってるのかもしれない。

テイオーの頭の隅には、これで良かったのかと気になって仕方なかった。

「せんせー。テイオーが外で走っているウマ娘を凝視してまーす」

「なっ……!?」

「テイオーちゃん…………そんなに先生のことが嫌いなのですか…………?」

涙目で声を震わせながら泣く先生。教師や人間性としては生徒に親しまれてる分、先生を泣かせたことはつまり、先生の敵を意味している。

実際、さっきから周囲からの悪意の視線が辛い。

(くっそー!!今日も相変わらず不幸だなおい!!)

テイオーは、静かにそう思った。

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