「結局夕方まで残された……」
結局テイオーが補修から解放されたのは夕方だった。渼丹先生にさんざん指名されたり、罰ゲームをされたりだの、もうさんざんだった。
テイオーは荷物を置いてさっさとシャワーでも浴びて、ご飯でも食べに行こうと予定を立てていた。
そうこう考えているうちにテイオーは寮の入口まで辿り着いた。靴箱で革靴から寮で使うスリッパに履き替え、ふらついた足取りでエレベーターで七階まで上がる。やがて自分の部屋がある七階へと辿りつき見慣れた空間がテイオーの視界を埋め尽くす。
「……あれ?」
テイオーはふと視界に何かが入る。寮は中央には寮の天井まである大きな木が生えておりその中心をガラス張りで覆われて木を眺められるように作られてある。上空から見たら穴の開いた四角形な感じとなっている。そのガラス付近、自分の部屋の前でうつ伏せに寝転がるウマ娘がいた。
ツインターボ。
今朝何気に初めて話した同じクラスメイトらしいウマ娘が、寝てたのだ。
「やれやれ……」
テイオーは何となく察した。あのフードを取りに来たのだが疲れてうっかりここで寝てしまったんだろうと思う。いつ寝たのかまでは分からないが、少なくとも熟睡はしているのだろう。
「ほら起きなよダブルジェット。こんなとこで寝ていたら風邪……?」
テイオーはターボの背中をさすって起こそうとしたのだが、僅かに臭いの違和感と手のひらに妙な冷たい感覚を覚える。テイオーは、恐る恐る自分の手のひらを見る。
血だ。
誰が見てもその異様な光景がテイオーの認識を震え上がらせる。テイオーすぐさまターボの背中を確認する。やはり血がついている。まるで何者かに背後から切られた跡を中心に、血が広がったいた。呼吸も浅はかな状態で、まさに瀕死の状態だった。
「ねぇ、しっかりして!生きてるよね?何が起きたの!?一体誰がこんなことをしたの!?」
下手に体を揺らさないようにする。医療知識が無い正真正銘の素人であるテイオーからしたら、一歩間違えれば命を奪う可能性があるからだ。急いで救急車を呼ぼうとするが、その直前でその動きが止められる。
『ん?僕達魔術師だけど』
ふと、テイオーはいつの間にか背後から聞こえる声に振り向く。
そこには男がいた。
見た目はテイオーより大きめの約一六四センチ。赤髪のショートがまるでイケメンかのような感じがするが、何故か黒い修道服を着ており、神父のような感じなのだが何故か香水の臭いが濃く臭う。年齢は大体一四歳位の癖に何故か煙草を吸っている。
「魔術師……?まさか、ターボの仲間!?」
「いや、れっきとした君達の敵だけど」
男は静かにターボの傍まで傷を覗き込む。
「それにしても派手にやったものだね、まぁ、真咲もここまでするつもりは無かったのだが」
「どうして……」
「ん?ここにきた理由かい?まぁ、あるとしたら未練でもあったからじゃないか?それにしても不思議な物だな。『歩く教会』は絶対防御のはずだがあの真咲の斬撃を受けて傷つくとは到底思えないな……」
未練。あるとしたらあのフードを取りに来たこと位、いや、もしようやく手に入れた平穏がこんな呆気なく崩れてしまい、最後にこの学園を見ていたかった理由があるかもしれない。
「ねぇ、ボクは魔術のことなんて詳しく知らないし、どんなやり方なんて知らない。けど、こんな残酷なことをしなくてもいいんじゃないか!?」
「あぁ、僕達は別に殺そうとはしてないさ」
男は煙草を咥えながらこう告げる。
「回収だよ」
「かいしゅう……?」
「そう、回収だよ回収。僕達はその子の頭の中にある一〇万三〇〇〇冊の魔道書を回収するためにきたのさ。さぁ、痛い目に遭わないうちに大人しくその子を渡すんだな」
テイオーはターボが一体誰に追われているのかがようやく分かった。この男が、ターボを追いかけていたのだ。しかし傷は刀か何かしらの刃物で切られた跡だ。つまり、もう一人誰かがいる。
「君達につかまったらターボが酷い目に遭うことが分かっていて、それでみすみす渡すわけにはいかないでしょ!!」
やぶから棒にテイオーは男を殴ろうとしたが、男はただ横へとすっと避けた。空振りしたテイオーの体が転びそうになるが、かろうじて転ばずに済んだ。
「敵対行動あり、か。まぁいつものことか」
男は少し微笑み、そして。
「スレイト=アルグス。『strongest541』」
(なに……?)
「この名を告げたからには君を生かすことは出来ない。君はこの意味を知っているかい?そうだね、僕達魔術師の間ではこういうことだ」
不気味な微笑みがテイオーの恐怖を煽られる。そして、スレイトと名乗る男はこう告げた。
「『殺し』だ」
スレイトは咥えた煙草を指で弾く。火の粉を飛ばしながらくるくると回る煙草が寮の中央を眺める大きな窓の方と落ちていく。
「炎よ」
今の言葉がトリガーだったのか、煙草が突然燃え上がる炎へと変貌する。やがて炎がスレイトの両手にへと集う。
「その怒りで悪人の断罪を」
舞い上がる炎がテイオーの全身を包みこむかのように襲い掛かる。その光景は、あの日サンデーサイレンスが行ってきた攻撃の仕方と似ている。
(だとしたら……__)
ゴオォ!!、と。音と共に爆発が起きた。人体の骨をも灰に変える炎がテイオーを焼き焦がした。包み込んだ炎がやがて消え去り、煙だけが残っていた。
「ま、こんなものか。精々この場に立てたことに誇りを持つべきかな」
スレイトは手に残る僅かな火を握り潰すかのような動作で消沈させる。所詮やつはただの学生にしか過ぎない。例え超能力者だったとしても人を灰に変える威力の前では無力に等しい。
「まあ、今ので生き残ってるとしたらそいつは凄い事だよ」
『そうかよ』
「!?」
聞こえるはずのない声が、寮内に響き渡った。スレイトは血相を変えた様子でテイオーがいた場所に振り返る。人体を跡形も残さず焼き殺す威力を前に、テイオーは燃えた形跡を一つも残さず、それどころか無傷のままその場に立っていた。
(何故だ。何故生きている!?)
いや、何かしらの能力を使って相打ちさせたのかもしれない。にしても無傷なのが不自然だ。
「くっ……!!こんのおォォ!!」
スレイトは、叫びと共に再び手に炎を宿してテイオーに放つ。まるで火炎放射のような動きがテイオーを襲う。対して、テイオーはただ右手をかざした。
「邪魔だ」
なんの変哲もない右手。しかし燃え上がる炎の動きが止まらせ、やがて、まるでガラスのように炎全体にヒビが入り、砕け、消え去った。
誰でも出来る一連の動作が、灼熱の炎をただの右手一本で打ち消した。あまりにも異様な光景がスレイトを襲う。何の変哲もないただの右手一本。しかし、確かにスレイトの術式を打ち消した。
「ボクは確かに魔術なんてまだ本当に信じられないし、そもそもどういう原理なのかも全く分からない。けど、この学園に魔術師と名乗るやつとは戦ったことがある。だからこそ、お前のその魔術という力に対抗できる」
テイオーはスレイトを見据える。驚きを隠せないスレイトの表情。テイオーは警戒しながら近づいていく。しかし、スレイトは別に判断力を失ったわけではない。その逆、状況を分析していた。
テイオーはさっき言っていた。魔術師と名乗るやつと戦ったがある、と。そして、自身の術式をあっさりと、そして完全に消滅させたこと。
「そうか、ようやく分かったよ……。『歩く教会』が誰に破壊されたのかを」
スレイトは、この状況で最善な策を導き出す。
「世界を構築する五大元素の一つ。その光は世界を照らし邪悪な者に裁きを下す。冷たき大地において人々に幸福を与え、灼熱と共に大地を焼く不幸と化す。その名は炎、その役は剣。顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」
スレイトを中心に炎の円陣が現れる。燃え盛る炎がやがてスレイトの背後で集い、そして塊が出来た。それだけではない。炎で出来た悪魔の化身が現れた。熱気が周囲のガラスを砕け散らさせ、鉄で出来たドアノブが紅く溶け出していく。
「なに、あれ……!?」
「魔女狩りの王、イノケンティウスだよ。一二世紀から一八世紀のヨーロッパで行われた魔女狩りがあるのは有名な話だろう。当時魔女という悪魔の化身を処刑するのに使われたものが炎、つまり火焙りだ」
魔女狩り。火焙りをすることによって悪魔の魂を完全に消滅させて輪廻転生を不可能にさせるということで使われた処刑方法。この辺りで有名な話と言えば、一五世紀にフランスで生まれた神の声を聞いて戦争で国を勝利に導いたジャンヌダルクだろうか。
「イノケンティウス。摂氏三〇〇〇度の炎の塊」
スレイトは、取り返した余裕の笑みを浮かびあげながら、テイオーへ絶望の一言を下した。
「その意味は『必ず殺す』」
悪魔の化身が動き出す。太陽の表面温度より半分の熱といえ、人を塵も残さず殺すにはあまりにも充分な威力。
だが、
「邪魔だ」
テイオーは、近づいた[[rb:魔女狩りの王 > イノケンティウス]]を右手を振り払うだけの動作をした。それだけで、悲鳴をあげながら魔女狩りの王が消滅する。対峙してる間に日は落ちていたのか、夜が訪れて光が消える。
だが、すぐさま異変が訪れる。
背後から突如熱風に襲われた。電灯よりも明るい光なはずなのに、まるで裁きを与える神聖な光のような感じがした。
「ま、さか……」
テイオー嫌な汗をかきながら振り返る。最悪な予想が的中してしまう。消滅したはずの魔女狩りの王が生き返ったのだ。
(完全に消滅させれない……!!なんで……!?)
熱の光がテイオーを襲う。化身の手から炎で出来た光の十字架が現れる。幻想殺しはあくまで打ち消せることしか出来ない。それができないということは、テイオーの勝ち目はゼロに等しい。
「うわ、ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」
十字架がテイオーを焼き殺しに叩きつけられる。悲鳴をあげながら反射的に右手をかざす。ズドン!!、と、右腕全体に鈍い衝撃を伝わらせながら十字架を受け止めた。押し付けられる十字架を押し返そうにも互いの力が同じなのかせめぎ合いが続く。
(……なんだ?なんで消えない?)
テイオーは確かに右手で受け止めている。だけどそれだけだ。
(いや、こいつ……一瞬だけ消えてるけどすぐに復活してるのか!?)
この状態ではまずい。ただ受け止めてるだけでは背後にいるスレイトがいつどんな攻撃をしてくるのか分からない。早々にこいつを片付けないと絶望的な状況を打破することは無に等しい。その時だった。
『ルーン。
「ターボ……?」
聞きなれない単語を機器ながら視界では捉えられないが、確かにターボの声を聞いた。聞いたのはいいが、まるで機械で作られた合成音声のような感情の無い声だった。今朝あった時はあんなに元気だったのにあんな声をするのかと思う。だからテイオーは聞いた。
「君、ホントにツインターボだよね……?」
『はい。私はイギリス教会第零聖堂区所属のツインターボ、そしてまたの名をMagic=Prohibition=libraryです。魔女狩りの王に対抗するためには、この建物内のどこかに儀式場であるルーンを破壊する必要があります。ルーンを破壊しない限り魔力の供給を永続的に受けて魔女狩りの王を破壊することは不可能__』
「いいから黙ってその口を閉じていろ」
スレイトのブーツがターボの頭を踏みつける。テイオーは心の底から怒りが湧いてくるが、今この状況をどうにかしないと意味が無い。そんな自分の無力さにも怒りが湧いてくる。だけど、その怒りの感じられない事態が起きる。
「魂をも灰と化す炎よ。我が身に宿りその威力を世界へと示せ」
詠唱と共にスレイトの前から現れたのは、一本の炎で出来た杭だった。
「紅蓮の杭」
たった一本の杭と、魔女狩りがテイオーを焼き殺しに襲い掛かった。
_____________________________
世界は、寮は夜の闇へと包まれていた。チカチカと光る電灯が唯一の光となっている。その空間に取り残されたスレイトは、先ほどまでテイオーがいた場所を見つめる。
「逃げた、か」
どうやら魔女狩りが一瞬消えたタイミングを見計らって、窓のガラスを突き破って木の枝に全身を引き裂かれながら紅蓮の杭から逃れたところだろうか。命綱無しで。
(よっぽどのバカでもない限り、無謀なことはしないだろう)
「くそ……。バカだろ。あの滅茶苦茶な威力といい質量といい、バカげてる……!」
あの後、外へと飛び降りて木の枝に全身を切り刻まれながら勢いを落として、一階に落ちたテイオーは思わず呟いていた。
一階の中庭にあるテラスの出入口から再び廊下へと入る。
「追手は……こないみたい」
ひとまずは安心だろうが、自分の部屋である七階は恐らく悲惨な状況だろうか。それにしてもこの時間はみんなが寮に帰ってきだす時間なのに、誰も出会わないのは何故だろうか。あれだけ轟音と爆発を起こせば誰かは気づくはずだが。
「……ちょっと待って」
テイオーは、ふと壁に何かが沢山張り巡らされたのを目撃した。
「コピー用紙……?なんでこんなものが張り付けられてるの?」
張り付けられたコピー用紙を一枚剥がす。コピー用紙には、なにやら記号らしきものが印刷されている。
「……いや、これがさっきターボが言ってた儀式場とかに使われるルーンの記号だとしたら?」
これはあくまでもテイオーのゲームの知識に過ぎないが、ゲームでも魔法や魔術には詠唱や何かしらの道具を使って、魔術や魔法を使うシーンがよくある。今までは単なる二次元の世界での話かと思っていたが。
「まさか、本当にゲームみたいな場面に直面するなんてね……。だとしたらこの儀式場を破壊するには……右手じゃ流石に効かないよね」
テイオーは右手でコピー用紙を剥がしているのだが、触れても何も反応しないということは、そういうことだろう。
(それにしてもさっきまであんなに慌ててたのに、攻略方法を見つけた途端急に落ち着てるよね、ボク。本当にゲームしてるような錯覚まで出てきそうだよ)
別に危機感を忘れた訳ではないが、単に落ち着きを取り戻しただけだ。
その瞬間だった。突如として視界が赤く染まり、耳からは咆哮が聞こえてきた。
「あいつ追ってきやがったのか!!」
階段から降りてきた魔女狩りが、今度こそテイオーを仕留めに。
_____________________________
スレイトは、静かな空間に一人取り残されていた。日は沈み、虫が鳴り響く廊下の空間で倒れているターボの傍まで来ていた。
まだ呼吸はある。しかし、致命傷に変わりはなく、早めに回復魔術で応急手当てを済まさないといけないほど危険な状況に変わりはなかった。
傷をつけるつもりは無かった一人の少女。やった人物は違うとはいえ、その人物もこうなることは予想外だったのだ。
「……悲しいものだ」
それだけ呟き、そして早めにターボを回収してこの場から立ち去ろうとした時だった。
突如として火災報知器がけたたましく鳴り響いた。火災報知器が作動したためか、安全対策として施されていたスプリンクラーが一斉に放水を開始した。
最も、こんなものを作動させる人物はたった一人しかいない。
「ちっ。こんな水程度で僕のイノケンティウスを鎮火させられるなんて甘く見られたものだね!」
苛立ちを隠せない吐露と共に、エレベーターの簡素な音が鳴った。その音に反応して曲がり角から現れたのは、トウカイテイオーだった。
「全く、流石のボクも参ったよ。君は凄いよ、もしあれをプリンターとかで防水加工されてたら勝ち目ゼロだったよ」
「……まさか、イノケンティウスをやったのか!?」
スレイトは急いで魔女狩りを呼び寄せる。反応があった。
ゴオォォ!!と、燃えあがる炎がテイオーの背後で一つの塊になり、やがて悪魔のような人影が現れた。
スレイトは、テイオー言葉に動揺しだが魔女狩りが戻る事を確認するとすぐに冷静になった。
「ふ、はははは。凄いよ君は。だけど知識が足りなかったようだね。コピー用紙はただのトイレットペーパーじゃないんだ。たかが水程度で溶けられるほど柔らかい素材では出来てないんだよ」
ただ一言命じればいい。
「殺せ。魔女狩りの王」
摂氏三〇〇〇度の炎の塊である魔女狩りが動く。生身の人体ならば触れれば灰も残さない灼熱の炎。テイオーの右手も全く通用しない術式。
しかし、その幻想は打ち消された。
テイオーの右手に触れた魔女狩りの王が、今度こそ崩壊を迎えた。
「ば、ばかな!!さっきまで効果無かったのに何故今になって!?」
「インクは。インクは水に塗れれば溶けちゃうんじゃないの?」
この放水は、ただ魔女狩りの王を鎮火させのではなく、コピー用紙を溶かすためでもなく、インクを溶かすために起こした行動。つまり、今頃張り巡らせたインクは溶け、儀式場は崩壊してるということを意味する。
切り札を失ったスレイトに、最早あとは無かった。
「さて、と」
一歩一歩、ちゃぷんと音を鳴らしながらテイオーは近づく。スレイトは何かしらの術式を発動させようとしているが、今更どうしようがもう遅い。
勝利の天秤は、テイオーに傾いていた。テイオーが、勢いよく駈けだした。その走りと同時に頭にはターボの言葉がチラつく。
『じゃあ、ターボと一緒に幸せの無い世界へとついてきてくれる?』
(……そうだよね。幸せの無い世界についていきたくなかったら、幸せのある世界へと引きずり上げるしかないよね!!)
テイオーの右手の拳が、スレイトの頬へと勢いよく直撃する。
水浸しの廊下へと叩きつけられたスレイトの体が動かなくなった。
勝敗は決した。
紅蓮の炎を操る魔術師をテイオーは撃破に成功する。
______________________________
決着から数分が経った。テイオーはターボの傷口が開かないようにお姫様抱っこしながら街を走り、近くのベンチを見つけ、そのベンチにそっとターボを座らせる。
「……うぅ」
「ターボ!!良かった。気が付いたんだ」
「て、テイオー……?ここは……?」
「学園近くのベンチだよ。今栗東寮は変な魔術師が暴れたせいで危ないからここまできたんだよ。今頃は[[rb:対能力治安部隊 > アウトスキル]]や消防が消化活動や調査してるところかな」
「ま、魔術師と戦ってたの……!?」
思わず立ち上がろうとしたターボだったが、背中の傷がまだ開いているせいで呻き声を上げながら立つのをやめる。その姿はあまりにも痛々しくて。
「とにかく攻撃系の魔術があるなら回復系の魔術もあるんでしょ?なんとかならないの?」
「ダメだよ……。ターボは魔力が無いから魔術は使えないし……」
「じゃあ、ターボの知識で誰かに効果を発動してもらったら__」
「__それは無理だよ」
たった一言が、テイオーの提案を一蹴りした。
「なんで……どうしてなの……?」
荒々しい呼吸のまま、ターボは口を開く。
「魔術ってね、元々科学の力で作られて誰でも扱える超能力とは違って、力の無い人達がどうしても特別な存在になりたい為に作られた異能の力なの。それを超能力を扱う人達が魔術を行使したら、発動はするけど代償として人体に深刻なダメージを負おうことになっちゃうの……。特に今は世界の歪みが酷くて、誰が超能力者で誰が魔術師なのかが全く分からないから……下手に誰かを頼ってその人が超能力者だとしたら……」
その先は言わなくても、知識が乏しいテイオーでも分かる。さっきの説明からして、超能力者が魔術を扱えば最悪死に至るかもしれない、と。
「そんな……」
「だ、大丈夫だよテイオー……」
ターボは言って、笑って。
「ターボは……テイオーみたいな人に出会えてうれしかったから……」
だらりと、力なく手が零れ落ちる。その行為は、まるで死に際に放つ一言のように。
「ちょ、冗談じゃないぞ!!こっちはまだお前を助けれてないんだ!!こんなつまんない死に方なんてするんじゃないぞ!!」
テイオーはターボの手の静脈が流れてる部分に触れる。僅かに、脈はある。
(良かった……。脈がまだ動いてるなら生きてる)
「……ったく、変な事言っちゃてさ」
だけど現状が好転したわけではない。とにかくターボの傷を塞がないと、本当にターボが死んでしまうことになる。
(ちくしょう。病院に運ぶにしたって魔術師と超能力者の体の仕組みが違うとしたら、精密検査で引っかかるかもしれないんだぞ。しかも今朝確か科学サイドだの魔術サイドだの、イギリス教会だので所属している組織が違うことがバレたりでもしたら、ターボが警察で尋問されるハメになるんだぞ!そんな危険な架け橋を渡れるわけがない!!)
だけど、このまま見過ごすわけにもいかない。
「……メジロ家」
テイオーは思わず呟いていた。
確かあそこは親友の生まれ変わりであるメジロマックイーンが、今はメジロ家として今を生きている。
(あいつなら大丈夫だろ。最悪メジロ家の力も借りそうになるかもしれないけど、ターボが助かるなら賭けるしかない!!)
テイオーはターボを抱いて、走り出す。走って、走って、走って。時にはトラックに轢かれそうになったり、片足がドブに浸かってしまったり、どこからともなく飛んできたボールがターボに当たりそうになるところを自分の体で庇ったりした。
自身の不幸に度々歯がゆかしかったが、それでもテイオーは走った。
やがて、見慣れた屋敷が見えてきた。ビルが並ぶ都市から少し外れた場所にある屋敷。東京タワー一棟分の敷地を誇る広大な土地に、ずっしりと構える屋敷。
相変わらず金持ちだな、と、テイオーは不意に思ってしまう。
目の前にある鉄格子で出来た正面入り口。隣にあるインターホンを押せば、もう戻る事は出来ない。それでもテイオーは震える右腕を伸ばしながら、近づけていく。指先がボタンに触れる。
『あれ、テイオーちゃん何をしてるのですー?』
「……え?」
聞き覚えのある声に、テイオーは思わず全身が振り返る。
「あれー?テイオーちゃんが背負ってるのはターボちゃんじゃないですかー!なんでシスターちゃんみたいな服を着てるのかは分かりませんが」
「渼丹先生……?なんでこんなところに……ッ!?」
「えーとですね、マックイーンちゃんが補修してほしいとのことでしてね、折角なのでおもてなしも兼ねてメジロ家でやりましょうというお話になっちゃたのですよ。先生としてはおもてなしはいいから生徒達が立派になれば、それだけで充分なのですけどね」
「そ、そうですか」
「ところでテイオーちゃんはどうしてここに居るのです?しかもターボちゃんを抱きかかえて……」
「あ、」
渼丹先生は、覗き込むようにテイオーの背後に回った。
「て、テイオーちゃん!?ターボちゃんの背中から血が流れるじゃないですか!!何があったのです!?」
「………………」
テイオーは黙り込んでしまう。言える訳がない、別の勢力からターボが襲撃されたなんてこと。言ってしまえば、先生までもが他勢力から危険に晒されるかもしれない。
「とにかく救急車を__」
『その必要はありませんわ』
今度は門から新たな声が聞こえた。
「マックイーン……!!」
「我がメジロ家は仮にもこの日本において一つの企業でもあり、派閥の存在でもあるのです。怪我で誰かが倒れた時でも治療できるように医者の一人や二人は雇ってますわ」
「た、確かにそうなのです……!」
「とにかく一刻を争うことに変わりませんわね。至急治療班を呼ぶので今はそこで待ってなさい。分かりましたかテイオー?」
「う、うん」
曖昧な返事だったが、それでも手を貸してくれることは分かってた。隣にいる渼丹先生もひとまず安堵したようだ。マックイーンはウマホを取り出して誰かと連絡を取り合った。やがて一分も経たないうちに治療班と思われる部隊がストレッチャーを押しながらやってきた。テイオーはそっとターボをストレッチャーに移した。背中についてた血がストレッチャーのシートに滲む。
「迅速な処置を」
「は!お嬢様、お任せあれ」
専門的な用語を飛ばしながらターボの姿が見えなくなっていく。
「とりあえずテイオーは今日はここで泊まっていきなさい。先生はどうしますか?」
「先生はターボちゃんの様子を知っておきたいので、それが分かるまで居てもいいですか?」
「勿論です。補修はまた今度お願いします」
「任せてくださいなのです」
やり取りが終わる。マックイーンは二人を屋敷へと案内していった。
____________________________________
行間
スレイトがテイオーに撃破され、消防隊が栗東寮に現着した時間だ。スレイトは真咲弥夜李
という同僚にどこかのビルの屋上まで運ばれていた。スレイトが目を覚ました時にはすでに日は完全に沈み、辺りは先ほどの戦闘の音が周囲の何者かによって知らされたのか、トレセン学園を中心に騒然としていた。
「全く、あんたも派手にやられてるなあ、スレイト」
「……全くだ。禁書目録の回収に失敗はともかく、ただの中学生であるはずの相手に倒されるなんて、これが教会側に知られたら最悪だな」
不機嫌そうに吐くスレイトの横目の隣には、真咲が端から地上を眺めるように立っていた。
「禁書目録は?」
「現在は例の少女、いや、[
「禁書目録は無事なのか?」
「あぁ、自身の身に降り注ぐ不幸から身を決して守っているところだよ」
「そうか」
ただ一言だけ、スレイトは返答した。あのウマ娘の知識からして魔術についての知識は皆無に等しいものと断定できるが、魔術が科学に倒されること自体が大問題であり、しかも禁書目録という狙われる少女を科学側にいることも魔術側からしたら、重要人物を連れ去ったとして戦争にもなりかねない。大方この世界に転生したあのウマ娘が裏で回してくれるとは思うが、あまり頼りすぎるのもスレイトからしたらあまり好ましくない。
「やつの情報収集を頼む。所属場所、組み分けサイド、能力、他にもあるだろうがそれは真咲に任せる、僕は一旦ここで休ませてもらうよ」
大型の刀を鞘に納めた少女は静かにただ一言返答した。
「あいよ。まかしとき」