街中でも暑いものは暑い
セミの鳴き声が街のあちこちで響き渡る。街中は多くの学生が夏休みを楽しむためにあちこちお出掛けしたり、なかには補習のため学生服で学校へ登校している姿がちらほら見える。
八月七日。
明朗快活茶髪のポニーテールトウカイテイオーは、メジロ家の廊下でへそ丸出しの私服で歩きながら過ごしていた。
(あ、暑い……。今年は例年より猛暑日和って聞くけどこれホントにそうなんじゃない?)
テイオーは、先日の事件をきっかけに全ての記憶を失っている。とは言うが、消えたのは思い出だけで知識などは今も覚えている。
そもそも、トウカイテイオーが何故メジロ家なんかに居座っているのというと、どうも自分の所属する学校の寮が放火魔によって一部焦げ落ちているらしく、対象の寮生徒に対し現在は修復作業のため一時的に別のところでお世話になるようにとのことだった。その対象がテイオーも入っており、今メジロ家という貴族の洋館でお世話になっていた、という事の経緯を主治医から聞いた。
どうも今年は節約シーズンだの二酸化炭素の排出を減らそうシーズンが重なって、冷房はあまりつけないようにとのお達しで部屋は窓を全開にしているが、風は吹かない一方暑さは増していくばかりだ。
もうすぐすれば正午になるが、それまでの暇つぶしはどうしようかと悩んで浮かんだのが、アイスを食べる。
「こうなったらアイスだ!アイスを食べよう!!こんな暑さでやる気なんか起きる訳なんかないぞ」
『ボクははちみーアイスね!!甘さはマシマシ!!』
突如頭の中で声を響かせながら味の要求をしてきたのは、
(いーや、ここはチョコアイスだろ。濃厚な味の濃さと砂糖の甘さがこの暑さにマッチして最高に美味いに決まってる)
『やだやだやだ!!はちみーアイスしか勝たないもん。異論は受け付けないからね!』
(体の支配権が俺にある今、抹茶アイス買って食べて味の共有をしてやる)
『鬼!!悪魔!!人でなし!!』
さっきから体の感覚が鈍る辺りテイオーが乗り換えようとしているがそうはさせないと、岡田唯斗と言う少年は必至の抵抗をする。
そう。岡田唯斗もまたトウカイテイオーという魂と共に今の時を過ごしていた。岡田がこの事実に発覚したのはつい最近だ。最近、といっても記憶を失う前はどうだったのかは岡田もテイオーもどちらも分からない。
「ゆいと!アイス食べにいくからターボについてこい!!」
勢いよくノックも無しにドアを開けたのは、ぐるぐる目をした青髪ツインテールのウマ娘、ツインターボだった。どうも彼女は記憶を失う前からの知り合いらしく、病室では出会った時はなんとなく知り合いだって感じはしていた。そんな彼が解き放った言葉はこう。
「はいはい分かったから落ち着けブラスト」
「ツインターボ!!ゆいとまた間違えている!!」
今日も不幸な一日になりそうだな、と思いつつ二人は部屋を出た。
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メジロ家をでて数分、ビルの立ち並ぶ街中へ入ったテイオーはご機嫌にはちみつ味のアイスを片手にはしゃいでいた。結局テイオーに体の主導権を取られた岡田は現在進行形で意識体としてテイオーのやることを眺めていた。
「いやーやっぱりこれだよね!甘くてはちみつがトロリとかけられたこのアイスが一番!ゆいとのチョコ味派は時代遅れだよ」
なんだとこの野郎、と岡田は思う。背後からトテトテと歩きながらコーンに入ったチョコミントアイスを食べながらターボが並ぶ。
「歯磨き粉!!」
「世界中のチョコミント愛好家から怒られるからやめなさい」
テイオーが思わずツッコミを入れた。気持ちは分かるが世の中言ってはいけないものもある。テイオーはコーンに入ったはちみつアイスを口に入れる。甘ったるい味とトロリとした触感がマッチしている。
「う~ん、甘くておいしい!!」
「口の中がスースーするぞこのアイス!チョコの味ぜんぜんしない!」
「それがチョコミントだから全部食べようね」
「じゃあ追加で普通のチョコアイス買って!」
「いやぁー流石にそれはテイオーさんのお財布事情というものがですね」
「買ってくれないの……?」
上目遣いで目をうるうるさせ頼むターボの姿を見てやれやれとテイオーは思いつつ。
「はぁ……一個だけだよ」
「やったー!」
同じ店で買うのは良いが、折角なのでもう少し街をぶらつつ店を探索しようと考えた。
「隙あり」
「え、」
ほんの一瞬の出来事だった。まるで物体だけを瞬間移動させたかのようにテイオーのアイスだけが丸々無くなっていた。
「わああああああああああああああああ!!!!ボクのはちみーアイスが無くなってる!!!!!」
あまりにも突然過ぎた出来事に思わずテイオーは倒れ込んだ。
「誰だーーーボクのアイスを奪った不届き者め!!魔術師とかだったら問答無用で殴り飛ばしてやるからなああああああ!!!!」
割とキテるテイオーだが、予想していた人物とは大きく違い。
「どももです。みんなのアイドルマスコット、アストンマーチャンです」
「…………………………………………?」
「おや、テイオーがアイスを食べて欲しくてマーチャンが食べてあげたのですが感極まって放心状態になってしまわれたのですかな?」
テイオーは別に放心したわけではない。相手が直感的に知り合いと感じて、でも相手の名前が分からなくてどうしようか困っているのだ。
でも先にこのウマ娘?は自らアストンマーチャンと名乗った。そして自分の名前も呼んだ。ならもう知り合い以外何もない。
テイオーは記憶を呼び起こすことができない。
そんなテイオーが返答した内容は。
「あ、ビッチウマ娘」
「世の中は治療法の一つとしてショック療法があるのですが、テイオーはそのショック療法の必須対象としてスレッジハンマーはどこですかこの野郎」
「冗談ですそれだけはご勘弁ください。……にしても、マーちゃんこんなところでなにしてたの?」
「ここであるウマ娘の待ち合わせしているのです。プライバシー保護であまり言っちゃダメなのですが、ウマ娘だけが発症する難病『
「待ってたのに出会った……?というツッコミは入れないことにしておくよ。その子の名前って聞くことはできるの?」
「えーと、名前はマーベラスサンデー。一応トレセン学園に所属しているのですが病気が多発してる故、まだちゃんとクラスとしてちゃんと参加できてないみたいなのです」
それを聞いたテイオーは、胸の中に何かが突き抜けた気がした。それが一体なんなのかは当の本人も分からなかった。
「おっと、これ以上はプライバシーに触れちゃうのでNGでーす。なにはともあれマーチャンのお母さんがちゃんと診てくれるのでテイオーは安心してればいいのです」
「そ、そっか」
「ターボ、そのマーベラスサタデーに会ってみたいんだけどダメなの?」
「マーベラスサンデーね。間違えちゃダメよ」
「うーん、親に許可を貰えば大丈夫だと思いますけど」
「じゃあターボ待つ!!アイス食べながら待つ!!」
「あ、新しいアイスはいらないのね」
今日の予定が半強制的に埋まったので、テイオーとターボはマーチャンと共にマーベラスサンデーというウマ娘を待つことにした。
時間としてはすでに一一時を回り、日差しが更に強くなって暑さが増してきた。テイオーは全身からどんどん汗が流れてきたのを感じ日陰で待とうと提案して二人も同意したところ、木陰のあるベンチ座って待つことになった。人や乗り物が歩く雑踏が鳴り響かせ適当な雑談を交えながら、数分が経った時だろうか。
何者かの気配に気づいたマーチャンがスッと立ち上がる。
「来たみたいですよ」
その言葉にテイオーとターボも立ち上がる。これから会う人に対して失礼が無いようにだ。テイオーはマーチャンの視線の先を見つめる。恐らくだろうか、身長の差がある二人のウマ娘がこちらに向かって来ていた。一人は恐らく母親なのだろうか。身長は約一六三センチ。秋の季節に彩る楓のように紅く紅葉をイメージさせられる髪色の短髪。おしとやかに見える表情に対し、服装は青のカラーシャツにレギンス一枚履きという日本から見ればあまり受け入れがたい服装。しかし、シャツは胸がデカすぎなのかカーテンのようになって一歩間違えれば見えそうになっていた。一方で、片方の小さい子の身長はターボよりも僅かに低い一四五センチ。しかし夏場だというのに背中に『JAPANCAP』と刺繍された青のパーカーを着てフードを被り顔が見えないウマ娘らしき者がいた。
「なんだあれ、と思ってはダメですよ。相手に失礼です」
「分かってるよ」
マーチャンは釘を差すように忠告する。テイオーも思ってはいけないと分かっていた。親子が傍まで来ると、母親らしき人物とマーチャンはお互い目を合わせながらお辞儀し、そして。
「
なんでフランス語だ、と、テイオーは心の中でツッコミを入れた。
「おはようございます。モミジダンサーさんですね?」
「
「日本語使えるんかい!」
あ、と。テイオーが気づいた時は思わず声を出してツッコミを入れてしまった。モミジダンサーと呼ばれる母親はこちらを不思議そうに見ながら。
「
「はい!?」
驚いたときは時すでに遅し。突然視界が暗黒に包まれたと同時に何か暖かくて柔らかい物が当たってる感覚が伝わってきた。
「む!ゆいと、これは許せないんだぞ!!」
「マーチャン、ちょっとバーサーカーになってテイオーをノックアウトにしたいです。テイオーの前世が元々男なのは知ってます。まず夏休み一杯入院コースがいいですか?」
なんだか言いたい放題言われてるが、相手がウマ娘であるならばこちらもウマ娘の力で振りほどく。
「ぷはっ!!い、いきぐるじかっだ……!」
「あら、やりすぎたかしら?」
オホホと笑いながら罪悪感を感じないモミジに対し、テイオーはやや頭を抱える。
(主導権取ってて良かった)
『ゆいとのエッチ!』
感触を楽しめたところで。
「ゆーーーーーーいーーーーーーーとーーーーーー????」
「さらば頭皮。俺はこの日を忘れ__」
あるウマ娘の断末魔が、街中で響き渡った。