転生したらウマ娘になっていた   作:ヴァン.

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疝痛

病院だ。

テイオーはあまり病院が好きではない。消毒液の染みた臭いが辺りに漂い、通りすがる白衣の医者や看護師を見てこの場から逃げ出したい気分にもなる。しかもここはこの前テイオーが入院でお世話になっていた場所だ。

「うぅ。やっぱり病院は嫌いだなぁ……。病院しか置いてない特殊な消毒液がウマ娘のせいで尚更臭ってくる……」

「マーチャンも本当は病院は嫌いですよ。針は人を刺しますしメスは体を切ります。でもそれは命を助けるためであって、常に生命の最前線で戦ってるって考えればマーチャンはそんな毛嫌いは無視できます」

「……まあね。それくらいは分かってるけどやっぱり、ね」

テイオーも気にしないようにしてるが、やはり消毒薬臭いが鼻にこびりついて気にしてしまう。

Ouah(わお)。相変わらずこの時期は人が多いね。ネッチュウショーってのが原因なのかしら?」

「そうですよ。ここは学園都市で学生さんが多い。そして部活関係でどうしても倒れる人が多いですからね」

Ça a l’air dur(大変だね)。なんだか申し訳ないかんじがするよ」

「大丈夫です。ここはそういう場所なので気にする必要はないのです。……着きましたよ」

「マーチャンのお母さんに会うのも久しぶりね」

「ですです。あ、テイオーはここで待っててくださいね。一応部外者なので」

Laisse faire(気にしないで)。マーチャンのお友達なら信頼できるし同じ学園なら今後この子も安心できるだろうから」

「……分かりました」

マーチャンは少し渋った表情を浮かべながらも目の前の診察室のドアを開ける。内装はシンプルだけど奥には器具がズラリと並べられている。その手前にデスクに置かれたPCの画面に表示された電子カルテが映されている。その画面を椅子に腰を掛けて見つめている一人のウマ娘。身長はマーチャンよりやや高めだろうか。黒髪のミディアムにフレームが赤く細い眼鏡をかけている。眼鏡をかけることでやけに色っぽいお姉さん的なイメージが沸き上がる。

(エッチだ)

『変態』

頭の中から大変不名誉な称号を与えられた。テイオーとターボはドアの片隅に立ち、マーチャンはお母さんの隣に立ち、ダンサーとマーベラスサンデー?と思われるフードの子は椅子に腰かける。

「久しぶりねダンサーさん」

Après (久しぶり)。ラスリングカプス。元気にしてた?」

「見ての通り元気よ。あとフルネームで言うのはやめてちょうだい。なんだかムズムズするわ」

Je comprends. (わかったわ)。カプス」

「それでいいわ。他の患者もいるから早めに終わらせるね。マベちゃんの具合はどうかしら?」

「相変わらずよ。鎮痛薬でなんとか抑えてるけどやっぱり疝痛。なかなか治らないわ」

「そうね。疝痛にも色々な種類があるけどマベちゃん場合なかなか厄介なものだからね。寄生タイプとかじゃないのが不幸中の幸いだわ。……なんとなく聞くけどお父さんはなんて?」

「『この子は絶対に走る!!あのクラウンよりも上だ。俺には分かる!!だから絶対に治してもらうんだ!!!!』って、相変わらずよ」

「ふふ。相変わらずの子思いのお父さんで安心したわ。私も出来るかぎりの手を尽くすわ」

「ありがとう、カプス。感謝するわ」

ダンサーは胸をなでおろす。安心した表情が浮かび上がるのが見えた。しかしカプスは心底不思議そうな顔を浮かばせていた。

それが一体なんのことかは医師でもないテイオーにはあまり分からない。

「念のため体も見ておきましょうか。そこのベットで寝てもらえる?」

マーベラスは静かに頷くと、顔を隠していたフードを脱いだ。脱げば衝撃的だった。その顔はあまりにもやせ細ってしまっており、肉付きがほとんどなくほぼ骨と皮だけの状態。髪もできるだけ手入れはしているが艶が感じられない。ようやく、テイオーはマーベラスがフードを被る理由が分かった。顔だけでこれだとしたら、恐らく全身も同じ状態なのだろう。

(これが、疝痛……)

……?首筋に何かしらの跡がついてるのが見えたのは気のせいだろうか。

 

 

 

テイオーは外の世界で全身に熱を感じながら、ターボとマーチャンと一緒にマーベラス親子を見送っていた。カプスは他の患者を診るため診察室に残っている。

「うーん、それにしてもおかしいのです」

「ん?なにがおかしいの?」

「テイオー、疝痛ってどのくらいの期間で治るか知ってますか?」

「うーん?えーと確か……二ヵ月?」

「大体三か月だよ。ピークが過ぎるのは一〇~一二週間程度でそれから軽減するんだよ」

「し、知ってましたよ!このテイオー様も知ってましたよだーー!!」

「そんな意地張らなくて大丈夫。テイオーがバカなのはみんな知ってます」

「やめろぉ!!これ以上はボクのメンタルがもたないから!!!!」

「バーカ」

「バーカ」

バカにされたテイオーは軽く悶絶しながら地面に倒れ込むが、太陽の差し込む熱を吸収したコンクリート地面が鉄板のように熱く、結局は立つことを強いられるのがオチだった。

「……で、結局なにがおかしいのさ」

割と涙目なテイオーはなんとか自我を保ちながらマーチャンに問い返した。

「マーベラスさんって、既にピーク時期は過ぎてるのです。なんなら疝痛に対する特効薬も処方しているのに何故かちっとも治らないのです。個人差で治り具合が変わるのは分かってるのですけどそれにしたっていささか効果がちっとも現れないのがおかしいのですよ。一回目に疝痛を発症したて処方した時はあっという間に治ったのに」

「薬の耐性がついたとか……?」

「その可能性もありますけど、かぎりなく低いです。特効薬はまだ三回くらいしか処方してないし、大体は痛み止めで抑えつつ様子を見ていくのが本来の疝痛の治し方なんですよ。特効薬はあくまでも治りが悪い方向けに処方する、けど変わりに身体に負担がかかりやすいからまず処方することは無いのです」

「じゃああのマーベラスって子は治りが悪いってことなの?」

「二回目の疝痛であそこまで悪化することは無い、と言い切りたいですけどマーチャンはそこまで医療分野に詳しくないのでまたお母さんに聞いておきます。ただ違和感があるのは間違いないのです」

「……そっか」

テイオーはわざと会話を終わらせた。視線だけを横にするとターボが深く考えてるからだ。確かターボは一〇万三〇〇〇冊の魔道書を記憶している。その中に恐らく治療系の魔術とやらがあるのかもしれないからだ。

「さてと、暇になっちゃったし、メジロ家へ帰るとするかね」

「マーチャンはもうちょっと疝痛のことを知っておきたいのでここに残っていますね」

「了解。ターボ帰るぞ」

「アイス!」

「お腹壊すからダメだ。今日の晩御飯食べれなくなるぞ?」

「それはヤダー!!」

「アイスは明日辺りにでもまた買ってやるから。ほら、寄り道せずに帰るぞ」

「あ、でもその前にもう少しここに残っちゃだめ?」

「えー、流石に用も無しに病院にいるのはマズイんじゃないの?」

「マーチャンが連れてきた、で通せば問題ないのです!なのでテイオーは安心するのです。どやぁん」

(なんだろう。この組み合わせは非常にダメな気がするぞ!!)

例えばこの謎コンビが病院で居たとしよう。仮にもマーチャンはお母さんが医療関係者だから少なくとも変なことはしない。けど肝心なターボが間違って変な部屋に入って色んな人に迷惑をかけてしまうとしたら?

(はは、結局ストッパーの俺がついていく方が吉ってことか……!)

「あーあ、ちょっと気が変わったからボクも病院に行くかぁ」

「テイオーはついてこなくて大丈夫だよ!」

「お前が変なことしそうだからその監視だバカ」

「ムガー!それは心外なんだぞ!」

「なら間違ってよその患者の部屋に入ってしまうことはしないんだよね?」

「………………………………………………………………………………………………」

しどろもどろな反応が返ってきました。

「まあ、夕方だからそこまで人は居ないと思いますよ。診察時間が集中するのって大体昼頃だから。……って思えばなんで入院棟に入る前提なんですかこら」

「あ、あれ?ナンデダロウネー」

ターボとテイオーはマーチャンからしっかり制裁を受け、特別に入院棟への入室を貰ったのだった。

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