あの日から、トウカイテイオーの人生は大きく変わったかもしれない。
例えばなんか旧家のご令嬢の家系に生まれたり、珍しく運に助けられたり、何度も何度も事件に巻き込まれなくなったり。
なんだか掘り返しても別にいいかなと思いつつ、テイオーは目の前の正門を見つめた。
日本中央ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。
四月八日。
厳しい受験に無事合格したテイオーは晴れて今日このトレセン学園所属の生徒になることが出来た。
まだ入学式の時間ではないのだが、あと少しすれば本当の意味で生徒になれる。
正直、ダンスとか慣れない事は沢山あったが、それでも何とか慣れることに出来た。
「見てみて、あれが噂のトウカイテイオーなのかな!?」
「きっとそうだよ!見て!あのシンボリルドルフと同じように、前髪に白の部分があるわ!」
遠くからなにか聞こえる声、どうやらボクの話をしているのだろうか。
「よろしくね!」
挨拶をするなり同じ新入生二人は黄色い悲鳴を上げる。
ただ笑顔で挨拶しただけなのだが、まあいいや。
テイオーは正門をくぐり、一歩一歩歩く度にトレセン学園の生徒になった実感を噛みしめる。
「………………………?」
背後からエンジンが止まる音が聞こえた。テイオーは一度止まって後ろに振り返ると、正門前には一見普通の黒車だが、どこか高級感のある車が止まった。運転席から一人の男だが執事の服装をした老人が赤いカーペットを後部座席を中心にトレセン学園本校へと広げる。執事の人がドアノブに手を掛けドアを開くと、中からは一人のウマ娘が現れた。
(どこのウマ娘なのかは分かんないけど、なんか凄い名家なのは分かった)
というか、それくらいしか分からない。
「あれがメジロ家のご令嬢、メジロマックイーンよ!」
「あれがメジロ家なのですね!」
(めじろけ?)
聞きなれない単語だけど、あのウマ娘はメジロマックイーンと言うことだけは分かった。
「みなさん、これからよろしくお願いいたしますわ」
マックイーンと言うウマ娘は律儀に一礼をした。するとさっきの二人がまた黄色い悲鳴を上げた。
優雅に歩く姿はいかにもお嬢様っぽい雰囲気を出していた。マックイーンとやらが自分の隣に並んだ時、ふと彼女と目があった。
「貴方、何処かで会いましたか…?」
「い、いや!?多分気のせいだと思うよ!?」
突然話題を振られたテイオーはてんぱりながら答える。
「そうですか……」
何やらやや肩を落としてしょんぼりしてしまうこの子だが、初対面なのにどうした急にと思う。
「…………改めまして。先程聞こえてきました通り、メジロマックイーンですわ。これからよろしくお願いします」
「う、うん!トウカイテイオーだよ。よろしくね」
テイオーは自分の右手を差し出す。その行動に気づいたマックイーンも右手を差し出しながら、
「貴方とは良きライバルになれそうですわ」
テイオーの手を握る。
(………………………?)
テイオーはマックイーンの手が小刻みに震えているのが気になった。人見知りなのかと思ったのでゆっくりと手を離し、
「奇遇だね。ボクも君とは良きライバルになれると思うよ。でもね___」
テイオーは一拍置いて。
「ボクは誰でも勝つからね」
先手を打つように、彼女は宣戦布告をした。
「えぇ。望むところですわ」
彼女も、それに応じた。
_____________________________________________________________________
入学式が終われば各クラスで説明会がある。説明といっても入学する前の説明会の時にあらかた話しているので基本的には喋ることはない。なのでやることは、参考書、生徒手帳申請書に個人情報の記入、担任の挨拶位しかない。
テイオーの席は窓側の一番後ろの席だ。個人的にこのポジションはありがたくて、授業が暇になれば窓から景色を見て暇を潰せれる。
『以上で私の自己紹介を終わります。みなさんこれからよろしくお願いします』
どうやら担任の挨拶が終わり、トレセン学園生活一日目が終わりを訪れた。
明日からはいよいよ本格的な学園生活が幕を開ける。しかしやることはまだまだ沢山あるわけだが、今は第一関門を突破できたことに喜ぶべきだろうか。
『ねえそこのあんた』
(今からルドルフさんのところに行こうかな?)
『おーいそこのあんた。もしもーし、聞こえてる?』
「………………?」
「おーようやく気付いてくれた。そこのあんただよ」
どうやら考えている時に前の席にいる赤髪のウマ娘に呼ばれていたらしい。
「いやー結構呼んでたんだけど一向に気付いてくれないから思わず寝ているかと思ってたよ。ところであんたあたしの事覚えている?」
「……?ボクは君と会ったことある?」
「ありゃ?これ忘れられているパターン?」
目の前にいる赤髪のウマ娘は小首を傾げながら、
「ルドルフさんの日本ダービーのその日の夜、誰かとぶつかったの覚えている?」
「うーん、覚えているような覚えていないような……?」
そういやその時慌てて帰っていたら誰かにぶつかったような記憶がある。確か目の前のウマ娘と同じ赤色のふわふわ髪型だったような……。
「あーーーー!!君確かあの商店街にいたウマ娘!」
「おー、ようやく思い出してくれたか」
ふわふわ髪型の子は安堵した様子で、
「おいっす~。あたしはナイスネイチャでーすよろしく」
「ボクはトウカイテイオーだよ。あの時はぶつかってごめんね?」
「いやいや、これも何かの縁ってやつですよ。気ままにやっていきましょうや~」
「うん!よろしくね!」
__________________________________
入学式と説明会が終わった放課後の時間だった。テイオーはある人物に出会うために生徒会室へと脚を運んでいた。テイオーは木造で出来た扉をノックして返事が返ってきたことを確認すると、扉を開く。
「失礼します」
部屋に入るなりその光景は外の雰囲気とは違う、まるで王室に入るかのような物々しさを感じる。しかしテイオーは気にせず。
「久しぶりだね、シンボリルドルフさん」
「ああ、実に二年ぶりだな」
シンボリルドルフ。
このトレセン学園の生徒会長を務める生徒の模範たる存在。
「テイオーがここに入学してくることを待ち侘びていたよ。
「えへへ、ボクからしたらあっという間だったけどね」
「ふふ。しかしだテイオー、トレセン学園にきたことがゴールだとは思っていないだろう?」
「勿論だよシンボリルドルフさん……。なんか長いからカイチョーって呼んで良い?」
「構わないよ」
「じゃあカイチョー。…………チームに所属しなきゃいけないんだよね?」
「その通りだ。チームに所属しなければレースには出られないからな。私は『リギル』所属だがテイオーはどうするんだ?」
「え?カイチョーと同じリギルかな」
それを聞いたルドルフはため息を着くと、
「テイオー……。まだここに来たばかりだから仕方ないがチーム選びとはこの学園生活にとって重要な部分だ。しっかりと決めてからまた話してほしい」
「ええ……。はーい……」
やや肩を落としながらテイオーは生徒会室をあとにする。扉を潜り抜けるその手前で、
「何か困った事があればいつでも相談に乗るからな」
「うん。ありがとうカイチョー」
今度こそ、テイオーは生徒会室を後にした。