転生したらウマ娘になっていた   作:ヴァン.

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生徒会会長編
初日のある日


四月九日。

テイオーは六時に目が覚めた。昨日はマヤノトップガンという同室のウマ娘と話しているうちにいつの間にか寝落ちしているのをテイオーは思い出した。大体の荷物も片づけており、二人の内装は綺麗に片付いていた。

そんなテイオーは思考がまだ纏まらないなか、洗面所の方へタオルと歯磨きセットを持ってやってきた。

「…………………………」

率直な感想。眠すぎて何も考えられない。

ただ無意識に歯を磨き、ガラガラペッをする。

「ふぁ…。これでいいや……」

適当に済ませ、テイオーは蛇口から出る冷水を顔に浴びせる。背筋に何か走るのを感じながら、

「ちべたい……!」

だけどようやくぼんやりとした思考からはっきりとした思考に切り替わる。テイオーは慣れた手つきでボサボサの髪をブラシでとき、ピンクのヘアゴムで結ぶ。

荷物を纏めて洗面所をあとにして部屋へと向かう。なお、マヤノは今だに物凄い寝相で寝ていた。

(凄い寝相だなぁ……)

思わず呟きそうになったが心の中で押しとどめる事にした。テイオーはささっとジャージに着替えるとシューズを片手に部屋を出る。

「ふんふんふ~ん~」

鼻歌混じりで廊下を歩く。まだ入学して一日しかたってないからなのか、もしくは昨日の片づけで疲れているのかまだみんな寝ているらしい。

『新入生なのに早朝から早速トレーニングとはなかなかやるじゃないか』

「?」

テイオーはどこからか現れた声に振り返る。そこには音もなく扉にもたれていた、

「フジキセキ寮長!」

「キセキで良いよ新入生」

「あ、はい」

「今日は昨日のイベントもあってみんなぐっすり寝てるみたいだから何も言わないけど、普段はこの時間に走りに行く子が多いからね。寝ているポニーちゃん達もいるからなるべく静かにしてね」

「ポニーちゃん?」

 

 

と、いうのが数十分前の会話だった。テイオーは府中の森辺りを走っていた。トレセン学園は府中の森から約五キロ離れた位置に建設されている。東京から見れば田舎な感じはするが、高層ビルやデパートがある辺り、都会の中の田舎の表現の方が近い。

そんなテイオーは一人早朝のマラソンをしていた。無敗の三冠というのは生半可なトレーニングをしてはなれない。しかしもう一つ壁がある。しかもそれを越えなければまず三冠どころかレースにすら出れない。

「さて、どうしたものか……」

テイオーは走りながら考えていた。カイチョーからはしっかりと考えろと言われているから今は焦るべきではないだろう。

「どっちにしたって来週には選抜レースがあるからその時にでも考えようかな」

テイオーはこれからのやることを纏めて学園へと引き返す。朝食や学校の準備とかがあるため早めに引き返す。

「……?」

振り返った時だった。もう一人同じトレセンのジャージで走っていた子がいた。

身長は約一六三センチ。オレンジ色の髪に後ろへ流すような三つ編みハーフの髪型。表情を見る限りまるで冷徹な性格だと思わせられる感じだった。

「……おや?」

「あ、」

不思議そうに見ていたのかがバレたのか、こちらの視線に気づかれた。

「なにか、私に用ですか?」

「あ、いや、同じ新入生なのか気になっちゃって」

「おや、貴方も私と同じ新入生でしたか」

適当に誤魔化したらなんか納得された訳だが……まあいいや、とテイオーは思った。

「申し遅れました。私、イクノディクタスと申します」

「ボクはトウカイテイオー、よらしくね」

「あなたが、あのトウカイテイオーでしたか!」

「ん?ボクの事知ってるの?」

「知ってるもなにも、私トウカイテイオーさんと同じ小学校に所属していたのでテイオーさんの噂ならよく聞いてましたよ」

「…………………………マジ?」

「マジです」

どうやら小学生の時から同じ学校で過ごしていたらしい。

「ある意味幼馴染かもね」

「ふふ」

イクノディクタスと言う少女は、さっきまでの堅苦しい表情とは別に、いかにも少女らしい微笑みで、

「テイオーさんが幼馴染なら、私としてはとても光栄な限りです」

テイオーは思わずドキっとしたが、すぐに心を落ち着かせて、

「どう?折角だから一緒に学園に戻らない?」

「名案ですね。では共に帰りましょう」

 

_____________________________________

 

 

午前九時。

朝の会というある意味暇な時間が終わりいよいよ授業が開始、というわけではない。基本的にはどの学校も新入生が今所属している学校に慣れるために、入学してから一定期間は授業という名の学校見学という一定の期間を設けて校内を歩き回わる時間がある。一見すれば面倒な話なのだが実は授業を合法的にサボれる時間でもあるのだ。

そんなテイオーは、昨日友人になったナイスネイチャと同じクラスであるレオダーパン、カミノクレッセの四人構成のグループで校内を歩いていた。

「で、時代は今、グラスワンダー、セイウンスカイ、キングヘイローというわけなのよ」

「あの四人は今絶好調なのです~。特にグラスワンダーが一今の世代の一角として恐れられてるです~。私も頑張らないとです~」

「でもさ、ボク達まずチームに入らないとレースに出られないじゃん」

「そこなのよ。そのためには今週の選抜レースで良い結果を出さないといけないわ……」

「たはは、良いチームが見つかれば良いんだけどねえ」

「テイオーさん、貴方はどこに行きたいと思ってるです~?」

「うーん、本当はカイチョーと同じチームに入りたかったんだけどカイチョーが『しっかりと決めなさい』と言われて今めちゃくちゃ悩んでる」

「かいちょう……?ああ、シンボリルドルフ会長ね。昨日の入学式で祝辞を述べてたあの」

「そうそう。昨日早速生徒会室へ会いに行ってきた」

「あんたって、もしかして怖いもの知らず……?」

「……?どういうこと?」

クレッセは少し難しい顔をした表情で、

「昨日小学校から同じ同期に聞いたんだけど、生徒会って何か風格があるから年下の子は特に怖がられて近づけないんだって」

「そうなの?」

「その話私も聞いたです~。昨日早速知り合った子が会長様をお見えになられた時、威圧感があって思わず目を逸らしていたのを覚えてるです~」

「ひゃあー、流石皇帝様だね~。あたし仲良くなれるか不安になってきたわ」

「…………………………」

テイオーは思わず黙る。確かにカイチョーは歴史上初、あの無敗としてクラシック三冠を制覇した正真正銘の実力者だ。その後のレースでも、もはや一着を取るのが当然と言わんばかりでG1レースを制覇している。そんなカイチョーのキャッチコピーは『他のウマには絶対は無いが、このウマには絶対がある』だ。その他のウマ娘より唯一抜きん出て並ぶものなんていない。

確かに、ちゃんと話したことが無い人からしたら皇帝の名がついた人と気軽に話すことなんて厳しいだろう。

(あ、カイチョーだ)

遠く離れた場所では、カイチョーが他の班に話しかけていたが怖かったのか、さっさと話題を切り上げてどこかに行ってしまった。

「…………………………あ」

テイオーは僅かにカイチョーに耳が垂れたのを見逃さなかった。あの背中はどこか悲しそうな雰囲気を出していた。いつもの優しさよりも勝った、寂しい背中を。

あのシーンは、テイオーにとって印象が強く残った。

「テイオー、どうかした?」

クレッセの声にテイオーは視線を戻し、

「いや、なんでもないよ。行こっか」

 

_____________________________________

 

 

『行間』

 

シンボリルドルフというトレセン学園の生徒会長がいる。そのウマ娘は皇帝という光栄な名を頂いた絶対王者として君臨するウマ娘だ。その少女は確かに最強という力を手に入れ、皇帝という異名を手に入れた。

それは誇るべきだろう。歴代のウマ娘に最強として名を語られ、その象徴として各地に記念彫像を作成してもらい、後世まで語られるのはとても誇らしいことなのだ。

だが、その圧倒的強さと代償に、人々からは一部を除いて気軽に話しかけられることが極端に減ってしまった。

あまりの強さの代償は、人々に恐れられてしまう。

今のグループの子達にも気軽に話しかけただけで逃げられてしまった。

「力とは、悲しいものだな……」

思わずしょんぼりとしてしまう。その姿はまるで最強でも皇帝でもなく、たった一人のウマ娘の姿が。

(このまま悲しみに浸れるのは生徒の模範として成り立たない。もはや慣れてるから今更なのだが……。やはり辛いものは辛いな……)

もしこの場にかつて自分を救ってくれたあの少年なら、もしかしたら状況が変わるかもしれない。

しかし、そんな希望なんて持つだけ無駄なのだろうか、いらぬ願いは捨てるべきだろう。

「会長」

「む、エアグルーヴか」

「そろそろお時間です」

「分かった、すぐに戻ろう」

ルドルフはすぐに気持ちを立て直して、向かうべき場所に戻っていく。

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