転生したらウマ娘になっていた   作:ヴァン.

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春のファン感謝祭編
とある女帝様


『早い早い!!流石あのトウカイテイオーだ!!後方のウマ娘を大きく突き放して大差でゴール!やはりこのウマ娘、世界に注目されているトウカイテイオーだ。あのシンボリルドルフに並ぶと噂されていうこのウマ娘は一体どこまで行くのか、私も楽しみであります!』

 

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四月二一日。

先日の選抜レースではぶっちぎりで一着を取ったテイオーは勝利の余韻に浸っていた。

そうであれば良かったんだ。

「うちにチームに来てくれテイオー!」

「やだ」

「じゃあ私のところに!」

「やだ」

「俺ならお前を無敗の三冠にしてやれる!」

「やだ!!」

御覧の通り、各トレーナーからのスカウトラッシュが続いていた。一五日に行われた選抜レース以来ずっと空いた時間を見つけられればスカウト。毎日のようにスカウトされるテイオーはうんざりしていた。

本当ならゆったりとしたペースでチームや専属等を決めたかったのだが、思ってたよりもスカウトの洪水でもう落ち着く暇なんてなった。

そんな彼女の逃げ込んだ先が。

「何故ここなのだ……」

「休み時間の暇つぶし、何気にここが安全、お昼寝していい?」

「たわけ。ここは生徒会室だぞ。お昼寝するような場所じゃないんだ」

「あー生徒会室のソファはふかふかで気持ち良いな~。…………ぐぅ」

「寝るなあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

現在の生徒会室には一人のんきに寝るテイオーと、連日連夜春のファン感謝祭の調整等に追われる生徒会副会長のエアグルーヴしかいない。

「全く、何故ここで昼寝などするのだ。まるでブライアンのようにサボりやがって…………」

唯一の話相手がいなくなったグルーヴは、仕方なく今手元にある書類を片付けていく。春のファン感謝祭までもう間もなくであり、そろそろ最終調整を終えなければいけない状況だった。

翌日からは感謝祭の準備のために一時的に授業は無くなり、代わりに生徒と教師が総動員して準備が行われる。

春のファン感謝祭は秋とは違い、近隣を巻き込んだ大規模なイベントだ。秋は文化祭みたいなものなので学園内だけで済むのだが、春は運動会みたいなものなので、学園内だけでは済まない。それだけ準備に時間がかかる。

当然、近隣や市役所等からの許可を貰ってるからこそできるイベントであるからこそ尚更成功しなければいけないプレッシャーもある。そんな汗と涙の事情を知らないテイオーが呑気に寝ている姿を見てるグルーヴは思わずつまみ出そうと思うが、

「……なぜ、私はこいつだけにはそれが出来ないのだろうか」

妙な感覚が胸に引っかかる感覚をグルーヴは覚えてる。つまみ出そうにも今のままが自分にとって最善策な感じがする。

「不思議と、こやつは遠い昔に出会った気がするのだ。まるであの人のような雰囲気が出会った時から感じられる…………。私にとっても、大切なあの人を」

エアグルーヴは自分の胸に両手を添える。

思い出すのは、かつて自分に寄り添ってくれて見る世界を変えてくれたあの少年の記憶。自分の時間を使ってくれてまで寄り添ってくれたあの少年の日々。

あのびくびくした自分から今の態度ある自分は他人から舐められないために、転生して変わることを決めたのが今の自分。

(あの時の姿は私の前世を知る者以外には見せたく無いのだ。……なのに、こいつといるとどうしても昔の自分に戻りたがる……)

自分の分からない感情と気持ちに思わず表情が緩む。

(今、自分はどんな顔しているのだろうか)

噛みしめた表情をしているのか、それともあの少年以外に見せられない顔をしているのか。

「いずれにせよ、いつか問いただしてやるか」

今後の方針を決めて、エアグルーヴ(慧本久未)はいつもの表情に戻し書類へと視線を戻した。

 

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生徒会室で昼寝をした罰としてテイオーはグルーヴに感謝祭の準備にとことんこき使われた。

重さ六〇キロもある鉄柱を何度も往復して運ばさせられたり、屋台の買い出しで近隣の商店街へと買い出しに行ったり、慣れてない書類仕事をさせられたりと、なんだかもう色々と散々だった。

「そもそもトレセンの食糧はなんか無尽蔵にあるのにどうして買い出しにいかされなきゃいけないの……?」

両手に大量の食材が入ったマイバックを持ちながらテイオーは愚痴っていた。時間はもう夕方で既に完全下校時刻を回っている。しかしまだやることが残っている(無理矢理増やされた)テイオーはそろそろ休息が欲しいところだった。

そんなこんなでテイオーは学園の中央校舎にある生徒会室へと戻ってきた。

「頼まれた物は買ってきたよ。どこに置いたらいいの?」

「ご苦労だったな。そこの棚の上に一旦置いててくれ」

「あーい」

「返事が適当、また増やされたいか?」

「女帝様のおうせのままに」

テイオーは涙目になりながら静かに荷物を棚に置く。カイチョーはまだ戻ってきてないらしく、この様子だとグルーヴはずっと生徒会で一人静かに仕事をしていたのだろうかとテイオーは推測する。

(そういや、カイチョーは寝不足って言ってたよね)

テイオーは遠くからグルーヴの目元を見てみる。薄い化粧をしているがよく見ると隈が出来ている。

「…………」

グルーヴは今も立ちながら書類と睨めっこをしているのだが、脚は僅かに震えている。その様子はまるで悲鳴を上げてるようにも見える。

「いつから寝てないの?」

「む。そうだな…………。仮眠は取ってるつもりだが最後にまともな睡眠をとったのは二週間前だったかな。はっきりとは覚えてないな……」

明らかなオーバーワークだ。そこまで寝不足だと逆に今までどうやって意識が保ててたのかが不思議に思える位のレベルだ。

テイオーは休ませようと声をかけようとしたが、心を見透かされたのか、

「寝ろと言われても休まないぞ。私は副会長としてこの感謝祭を成功させねばならないのだ」

「けど……」

「言いたいことは分かる。だが、これは私がしたくてやってることだ」

「グルーヴが、したくてやってること…………」

自分がやりたいからやる気持ちならテイオーが無理矢理止めさせるのは、人の気持ちを踏みにじるのと一緒だ。

踏みにじらないためにはどうするべきか。

テイオーがすべきことはただ一つ。

「ねえ、ボクも手伝うよ」

「なに……?お前がか……?」

「そうだよ。ボクもなにか出来ないかなって」

それを聞いたグルーヴは面食らったような表情をしながら、

「なにもお前がやる必要はないのだぞ?これは生徒会の仕事だ、生徒会ではないお前がする必要はないのだぞ………?」

「でも生徒会ではない人が仕事の手伝いをしてはならない法則はないよね」

それに、と。

「ボクがしたくてやってるだけだから」

なお、テイオーは言葉では言わないが、目の前で苦労してる人がいるのにただ黙って見過ごす事は出来なかった。

ただそれだけの理由だ。

「ぷ、はっはっはっはっははっはっはっはっは!!」

何を思ったのか、グルーヴが突然笑いだした。

「な、なんなのさー!ボク何か変な事言った!?」

「くっくっく…………。いやあ、何を言い出すかと思えば手伝う、か。全く、出会った頃からそうだがお前はあの人にどこか似ている!」

グルーヴは書類を置いてテイオーの下へと早足で向かう。

ドン!!、っと。テイオーの顔の横を掠めるようにグルーヴの腕が伸びる。

壁ドンってやつだ。

「…………」

「ふふ、やはりお前は私の知ってるあの人に似てる……。雰囲気も、オーラも、何処か懐かしみも感じる」

グルーヴはテイオーを顎クイして、今にも唇が触れそうな距離で、

「いつかはお前とゆっくり話したいものだ、トウカイテイオー」

彼女は舌なめずりで興奮気味のまま言う。まるで掛かり気味のような感じが、尚更独占しそうな勢いを感じる。

テイオーは一瞬動揺したが、表情が崩れることは無かった。

「ルドルフいるー?いなかったら君のお菓子勝手持っていくけどいいよね?答えは聞いてないけどね~」

「「……………………………………」」

「あ、グルーヴじゃん。やっほ~、女帝様が同性相手にナンパ、しかも壁ドンと顎クイの2コンボ」

「み、ミスターシービー先輩…………ッ!?」

テイオーは突如入ってきた人物が誰なのかは分からないが、グルーヴは知っているらしい。

「なかなか面白そうな事やってるね~。じゃああたしは_____」

シービーと呼ばれたウマ娘は廊下に振り返ると、

「みんなーグルーヴが噂のトウカイテイオーにナンパしてるよー!!」

「せええええぇぇぇぇんんんんんぱあああああああぁぁぁぁぁぁぁいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃい!!!!!!」

その夕方、廊下で笑顔で逃げ回るシービーと鬼の形相で追いかけるグルーヴを見たという報告が上がったのはまた別のお話。

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