とある編入生の学園案内
「うーん、全然見つからないよ……。どこもかしこもなんかイマイチピーンとこないし……」
夕暮れのなか、そう呟きながら学園の中央通りを歩いて寮に向かっていたのはトウカイテイオーだった。
「うだーー!!これじゃ八方塞がりだよ!!このまんまじゃレースに出られないよー!!」
正直このままではまずい状況なのは分かっているが、だけどどうしてもしっくりくる者がこない。途方に暮れたテイオーがトボトボとした足取りで歩き進む。が、ふとその脚が止まる。
「……なにこれ」
テイオーは思わず呟いた。視界には勧誘なのか誘拐でもするつもりなのかは知らないが、なんか犬神家のように頭からダートに突っ込んだ状態のウマ娘三人に『入部しなきゃダートに埋めるぞ スピカ』と真っ赤なペンキで描かれた看板がでかでかとあった。
「スイカなのか頭巾なのかは知らないけど、あんまりしっくりこないや」
やれやれと思いつつ、テイオーは再び脚を動かし始める。
……突然誰かに脚を触られなければ。
「トモの作りも良いじゃないか!やはりトウカイテイオーの脚は他のやつよりちが___」
「いきなりなんなのさーー!!」
突然後ろから触る謎の声とともにテイオーは反射的に蹴り飛ばした。声の正体はなにやら男性らしい。
「な、ナイスキック……」
「なにが、ナイスキック!、だよ!いきなり人の脚を触るなんて失礼でしょ!?」
「そこに良い脚があったから」
「理由になってない!!てか君誰なのさ!?」
男はポケットから新しい飴を取り出して口に咥えながら。
「俺は沖野健司、スピカのトレーナーさ」
「分かった、後でカイチョーに報告しておくね」
「待て待て待て待て!いきなり触ったのは悪かった、だが話を聞いてくれ」
「チーム勧誘ならお断りだよ」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………」
図星らしい。
「もうボク帰るからね!」
「あ、ちょっと待てって……。行っちまったか……」
早くもウマ娘寮の区画へと入ってしまい、追いかけることは出来なくなってしまった。
(けど、俺は絶対諦めないからなテイオー)
この男は、決して諦めることはしなかった。
寮に帰って自室で一段落したテイオーは部屋着に着替えていた。マヤノはどうやら留守らしくて、今はいない。
「まったくもう!いきなり人の脚を触るなんて驚いたよ!あれじゃただのセクハラ行為だよもう」
プリプリしているテイオーは雑に制服を脱ぎ捨てて部屋着に袖を通す。
「はぁ……ここまでくると最早不幸を越えた何かなんじゃないかな……?」
脱ぎ捨てた制服を洗濯籠に入れてベットに寝転ぶ。
「……なんでだろう、あんまり悪い人には見えなかったなぁ」
その時だった。テイオーのウマホからは一本の電話がやってきた。
相手は、
「カイチョー?」
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五月八日。
テイオーは昨日の電話を受けて座学の時間が終わり生徒会室にいた。
「さてテイオー、君を呼んだのは他でもない。地方からやってきた編入生のウマ娘を我が学園の案内をしてほしいのだ」
「うん」
「その際に至ってなんだが、出来れば気軽に話してやってほしいのだ」
「うん?どしてなの?」
「実はな……」
ルドルフは言葉が詰まるような感じで、
「彼女、生まれて一度もウマ娘に出会ったことはないのだ」
「どういうこと……?そもそもウマ娘が生まれる条件って、ウマ娘が母親___」
自分の吐いた言葉にテイオーは引っかかりを覚えた。いや、ここは察するべきだった。
ウマ娘は、母親がウマ娘でなければ生まれてこない。つまり、一度も出会ってないということは……
「まさか……!」
「うむ」
テイオーの推測は確信へと変わった。つまり、そういうことなのだ。
「生まれた故郷でも人間の友達も作れてなかった、ずっと一人ボッチで暮らしていたと聞いてるから出来るだけ彼女を不安にさせないようにしてほしい」
「うん、分かった。……ところでその子の名前は?」
「うむ、スペシャルウィークだ」
「スペシャルウィーク……。スぺちゃんと呼ぼうかな」
『スペシャルウィーク、ここだ』
『は、はい!』
「む、さっそく来たようだな。テイオー……あれ、どこいった?」
「……ここ」
「机の裏に隠れてどうするのだ……?まあ、良いか」
その時、ノックの音が三回聞こえた。いよいよご対面らしい。
『失礼します!』
あれから数分経った。スペシャルウィークというウマ娘は戸惑いながらもルドルフの説明を受けていた。
「__さて、そろそろ学園の案内といこうか」
「もしかして会長さんが?」
「いや、出来ればそうしてやりたかったんだが生憎私も多忙でな。そこである助っ人を呼んできたのだ」
ルドルフは一呼吸入れると、
「テイオー、いつまで隠れているつもりなのだ?そろそろ正体を現して学園の案内をしてやってくれ」
「はーい!」
「うわ!?」
突然机の裏から飛び出してきたことに思わずスペシャルウィークの悲鳴があがる。
「紹介しよう。彼女はトウカイテイオー、君をこの学園の案内をしてくれる」
「よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
「さあ編入生、行くよー!」
「あ、ま、待ってください!」
「?」
生徒会室の扉の前まで走っていたテイオーの脚が止まる。スぺはそれを確認したらルドルフの方へと向いて、
「あの、これからよろしくお願いします!」
「ふふ、君の活躍を祈るよ」
「はい!」
二人は生徒会室を出て早速校内巡りへと行く。
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「ここは図書室で~す。トレセンは文武両道だから図書室があるんだよ!」
「うわぁ~!本が沢山です!!」
「気になった本はあそこで借りてね!」
「はい!」
「……あの、静かにしてもらえます?」
「「はーい」」
「お次はプールでございまーす!」
「おぉ!すっごく広いです!……お魚さんは泳いでるかな?」
「あはは、プールはあくまで人が泳ぐ場所であって水族館じゃないから」
「バン!」
「「?」」
「私はお魚とスイミーしても、短距離なら負けまセン!」
「「!?」」
『キモチィデス!』
「「……………………………………………………………………(水浸し)」」
「ここは中庭だよ。……ねえ、制服大丈夫?」
「うぅ……気持ち悪いです……」
「だよねえ……」
『くっそおおおおおおおおお!!また負けたあああああ!!くそぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!』
「?テイオーさんあれは?」
「ん?あーあれは大樹のウロと言って悔しい時はあそこで発散するんだ!」
「へー、機会があれば使ってみようかな?」
「うんうん。……あ、そうだスぺちゃん。スぺちゃんの目標ってなんなの?」
「……私は、お母ちゃんと約束した『日本一のウマ娘になる』事です」
「おぉ……!日本一になる、ねぇ。スペちゃん中々いい目標立てるねぇ。ボクそういうの好きだよ」
「……あれ、笑わないのですか?」
「笑う?今の目標に笑う要素はあるの?」
「!」
「それに、スぺちゃんにはもう一つの夢があるんじゃないの?」
「え?……あ」
「にしし、あとはそこに向かって頑張るのみだよ!」
「……はい!あ、そうだ。テイオーさんの目標ってなんですか?」
「ボク?ぼくはね、カイチョーみたいに『無敗の三冠ウマ娘』になることだよ」
「無敗……三冠……」
「まあ肝心なことに、まだチームに入れてないし本格期じゃないから遠い話だけどね……」
「チームですか。……あ、じゃあスピカなんてどうです?私そこに入部したんです!」
「スピカ!?」
「あれ、知ってるのですか?」
「知ってるもなにも、昨日突然脚を触られた」
「あーー……。でも良いとこだと思うのでよかったら来てくださいね」
「ま、前向きに考えておくよ……!」