黛の高校生活は、青い春というよりただただ沼だった。   作:バナハロ

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高校時代の冬優子なので、原作よりもだいぶ幼いです。


プロローグ
目論見はフラグによって容易く折られる。


 基本的に、女の子には女の子らしさが求められる。綺麗で可愛くて優しくて上品で……とにかく愛される事が何より大事だということを、黛冬優子は小学生のうちに学んだ。

 周りの人間は、素の自分なんて求めていない。短気で暴力的で強気な自分などではなく、優しくて思いやりがあって朗らかな女の子。

 だから、高校に入学しても、冬優子がやることは基本的には変わらなかった。完璧な自分を作り、教師からもクラスメートからも、程々に愛される自分を作る。

 ……それに追加し……まぁ、その……何? 彼氏も欲しいなーなんて、高校生らしく思わないでもなかったりする。愛される演技を続ければ、不可能じゃないはずだ。

 さて、そんなわけで、今日は高校二年生初日。教室で、前の席の女子生徒と話す。

 

「へぇ〜、前野さん中学でテニス部だったんだぁ♡」

「結構、良いとこまで行ったんだよ。県大会ベスト16まで」

「すご〜い。じゃあ、今もテニス部?」

「一応ね」

 

 ここから一年間、JKらしくキャッキャうふふしてやる……! 

 そんな風に思っていると、隣の席に男子が座った。明らかに冷めているチャラチャラした茶髪と、割と見た目は普通の黒髪の男。

 あまりチャラチャラした男は好きではないのだが……よりにもよって、冬優子の隣に座ったのはその茶髪の方だった。

 

「へー、そっちのクラスだとグラブル流行ってたんだ」

「そっちは?」

「FGO」

「あー、ぽいわ」

「っ……!」

「? ふゆちゃん?」

「な、なんでもないよ……?」

 

 ちょっ、茶髪の方! あんたオタクなわけ⁉︎ その見た目で⁉︎ と、ショックを受ける。不意打ちのギャップに萌えさえ見出してしまいそうだったが、それを何とか堪える。

 というか……正直、どっちもやっている冬優子としては混ざりたいくらいの会話だ。

 だが、ダメだ。世の中の人間は、自分にオタクな面など求めていないから。素を見せれば、その時点で自分の高校生活は終わる。……その点、オタクな男子は羨ましいまである。何せ、開き直れるわけだし。

 とりあえず、前野と会話しながら、ふと隣の席に耳を傾けた。

 

「で、お前は?」

「両方やってる」

「流石だわ……流石にそこまでは俺無理」

「楽しいよ。ガチャ率とかアイテム泥率の比較できて」

「捻くれた楽しみ方してんじゃねーよ!」

 

 ……わかる。一見、グラブルの方が有利に感じるかもしれないが、課金してみると一万円の課金でガチャを多く引けるのはFGOの方だ。まぁ……その点、グラブルはスタレにサプゥとSSRを確実に手に入れられるガチャを多くやってくれるわけだが。

 でも、石と武器とキャラを揃える必要があるグラブルと違い、FGOはとりあえずキャラが当たれば戦力に出来る。

 しかし、後半にいけばマーリン孔明スカディのような人権も必須になり、その点グラブルは無課金マグナでも全然、戦えないこともないわけだ。

 まぁ……早い話が一長一短である。

 

「一見、グラブルの方が良いように見えるけど、割と一長一短だよ。まぁ、俺は結局、ストーリー派だからFGOやってたんだけどな」

「グラブルのストーリーも面白くね?」

「俺はFGOのが好きってだけ」

「なるほど」

 

 ……だめだ、聞いているとどうしても混ざりたくなってしまう。聞かないようにしないと。

 

「ねぇ、前野さん。そういえば、好きなアーティストとかいる?」

「いるよー」

「これ、ふゆのおすすめなんだけど……聞いたことある?」

 

 音楽で雑音を消す作戦に出た。可能な限り音は消したかったから。

 

 ×××

 

 ようやく入学式が終わり、冬優子は帰宅の準備をする。自分の実家から見て少し遠い高校を選んだのには理由がある。

 それは……グッズの購入をクラスメートに知られない為だ。周りに望まれてなかろうが、好きなものは好きなのだ。ならば、可能な限り見られないようにするしかない。

 今日も、欲しいキャラソンのCDが出るので買いに行くつもりだ。

 ……と、思っていると、また横から楽しそうな声が届く。

 

「カラオケ行かん?」

「良いね。けいおんの曲、多く歌えた方が飲み物奢りとか?」

「よっしゃ」

 

 本当に男子は羨ましい……なんて思いながら席を立とうとした時だ。隣の席の男子のうち、黒い髪の方が自分と前野に声を掛けてきた。

 

「そだ、二人も来ない? カラオケ」

「は?」

 

 声を漏らしたのは前野だが、冬優子も同じ気持ちだった。いや、正直その「けいおんの歌、多く知ってる人選手権」は楽しそうだと思う。

 でも、隣の男の子二人とは入学式前に少し話したくらいなのにいきなり誘うだろうか……? 

 

「いや、私部活行くから。悪いけど。あと私、けいおん知らないし」

「ふゆもいいかな〜。あんまりアニメとか詳しくないから」

「え、黛さんもアニメ詳しくないの?」

「……どういう意味かな?」

 

 茶髪の方の、なんか含みのある言い方に思わず聞いてしまう。すると、冬優子と隣の少年はそのまま続けて言った。

 

「や、だってFGOとかグラブルの話してた時、すっごい興味持ってたみたいだし。ちょいちょい視線こっちに向けてたでしょ?」

「そんな事ないよ?」

 

 笑顔で応えつつ、冷や汗を流す。この野郎……バカっぽいのになんか鋭い……というより、目敏い。自身の擬態がバレないためにも、こいつには注意したほうが良い。

 

「でもまぁ、それなら二人で行くか」

「そうだな」

「じゃあ、またな」

「うん、ばいばーい♡」

 

 挨拶して、二人は教室から出ていった。

 さて、冬優子も帰宅しないと。部活に入るつもりはないし、むしろするならバイトの方が良い。

 さっき見た二人組だが……オタクなのは正直、アレだが顔は二人とも悪くない。入学初日から知り合えたという点で、とりあえず彼氏候補として覚えておいても良いかもしれない……。

 

「さて……前野さん、昇降口まで一緒に行かない?」

「良いね。行こっか」

 

 そのまま二人で教室を出た。

 

 ×××

 

 ついでだったので、テニス部の集合場所まで付き添ってから帰宅。さて、そのままようやく本来の目的の買い物をしに行った……のだが。

 

「げっ……」

 

 売り切れてる……と、冷や汗をかく。ブルーレイディスク付きの特装版。いや、諦めるのはまだ早い。隣の駅の本屋ならまだあるかもしれない。

 仕方ないので、一度引き返す。学校へは一駅近付いてしまうが、まぁ大丈夫だろう。

 

「はぁ……面倒ね……」

 

 予約しておけば良かっただろうか? ちょっと手間が面倒に感じてやめてしまったのだ。

 そのことを反省しつつ、隣の駅の本屋へ向かう。どの駅にも、基本的には構内に本屋はあるので、それはオタクにとってありがたかったりする。まぁ大した大きさでもないのだが。

 さて、その本屋の中で冬優子は手早く漫画を探す。漫画とラノベコーナーは、例え初めて行く本屋であったとしても把握できるのが、オタクの特殊能力である。

 

「あった……!」

 

 ラッキー……! と、握り拳を浮かべて、それに手を伸ばしたときだ。

 

「あれ、黛?」

「は?」

 

 声をかけられ、反射的に顔を向けてしまった。そこにいたのは……さっきの、無駄に目敏い茶髪の男。目を少年のように輝かせてこちらを見ている。

 

「あれ、それ転スラじゃん! 何、好きなの⁉︎」

「ち、違うよ〜? これは……」

 

 妹がいることにして誤魔化そうとしたが、あのバカは本屋の奥に声をかける。

 

「おーい、前田ー! 黛やっぱり隠れオ……むぎゅっ!」

「ち、ちょーっとこっちにおいでー?」

 

 ニコニコと頬がひくついた笑みを取り繕いながら、口を塞いで押し退け、別の本棚に隠れた。ほとんど力技だったが、向こうが油断してくれていて助かった。

 

「んーっ、んーっ!」

「しっ、黙ってなさい」

 

 素に戻って黙らせてしまったが、もうそんな取り繕う余裕はない。これからは被害を拡大させない方針でいくしかないだろう。

 

「呼んだか、水上……あれ? いねえ」

 

 その声を聞きながら、冬優子はクラスメートの男子をそのまま押し退けつつ、本棚の列を移動する。気分的には、スネークになった感覚だった。

 そのまま一度、本屋を出て駅構内に入ると、近くの柱に壁ドンしてからようやく手を離した。

 

「っぷはぁっ……! お花畑が見えた……」

「そんなに強く塞いでないでしょ。大袈裟よ」

「ていうか、急に何……?」

「分かるでしょ! 普通に考えなさいよ!」

「普通に……もしかして、転スラをエロ本か何かと勘違いしてる?」

「とっても普通な理由ね! 誰にも想像できないような!」

「それ普通って言わなくね。大丈夫かお前」

「殺すわよ⁉︎」

 

 もう直球で脅しをかける。この男と会話するの疲れるしムカつく。

 仕方ないので、一から説明する事にした。

 

「ふゆはね、あんたらと違って周りにオタバレしたくないの! だから、今日のことは絶対に誰にも言わないでよね⁉︎」

「そのキャラも?」

「っ……そ、そう!」

 

 頷いておきつつも、変な所で鋭い指摘に少し狼狽える。なんなのコイツ。というか、実際のところ、オタクよりも素を周りに知られる方が困るのだが。

 

「てことは……やっぱりグラブルかFGO好きなん?」

「両方好き」

「楽しいよな! ソシャゲ二つやるの!」

「楽しいけど今はどうでも良いから!」

 

 一々、話の腰を折らないと気が済まないのか、この男は。

 

「とにかく、約束しなさい。誰にもふゆの本性は言わないって」

「まぁ、黙ってるくらい別に良いけど。でもなんでキャラ変えてんの?」

「……あんたには関係ないでしょ」

「や、まぁ、うん」

「……」

 

 ……信用出来ない。やはり、基本的には頭が悪そうだし、うっかり口を滑らせる、なんてことよくありそうな男だ。

 そのためには……この男の弱みを握らなければならない……! と、ハルヒがやっていた方法を考え始めている時だった。

 

「あ、いた。おーい、水上!」

「!」

「あ、前田」

 

 また聞き覚えある声が聞こえ、すぐに壁ドンしていた柱の反対側に隠れた。

 

「お前、本屋出るなら出るって言えよ」

「ごめんごめん。今、まゆ……」

 

 言いかけたところで声が止まっていた。おそらく、約束したことが頭に残っていたから。流石に言われたばかりで言うわけがないか、と少しだけ見直しつつホッとした反面、逆に言われたばかりで名前出しかけるってどういう事なの? と苛立ったり。

 

「まゆ?」

 

 しかし、止めたところが半端だったからだろう。前田が反応してしまった。

 本当から立ち去るのが正解だと、冬優子は分かっていた。だが、今後を考えると今のうちに対応力を見ておきたい。

 そう思って耳を傾けていると、水上と呼ばれていた少年は笑顔で答えた。

 

「眉毛の形がめっちゃ良いビッチにナンパされてた」

「……どんな状況?」

 

 ふっ、と冬優子は笑みをこぼす。自身の感情のコントロールの巧さに、思わず微笑が出たからだ。でなければ、あの男に蹴りを入れていた。

 まぁ……でも、ボケに逃げた、と思えば及第点でもあるし、今はとりあえず見逃してやることにして、立ち去ろうとした。特装版は明日買うしかない、とそう決めて。

 

「で、お前本買えたの?」

「うん、買ったよ」

 

 それが聞こえて、また足を止めてしまった。嘘だ。自分が強引に連れ出したから、買えていないはず……と、顔を向ける。

 

「だから早くカラオケ行こう」

「お前が欲しいっつーから寄ったんだろうが」

「けいおんの曲で負けた方、明日椎茸生で食う罰ゲームとかどう?」

「なんで急にカイジみたいになんだよ」

 

 話しながら立ち去る二人を眺める。もしかして……冬優子が買うためにわざわざ、早く連れ去ってくれた? 

 ……いや、まさか。あの男がそこまで気を回せるとは思えない。偶然か、それとも気まぐれか……なんにしても、今はとりあえず感謝してやることにして、目的のものを購入した。

 

 ×××

 

 翌日、また学校で、水上樹貴はぼんやりと黒板を眺めていた。それにしても、昨日は楽しかった。カラオケである。けいおんの曲はまさかの二人とも全部歌えるというオチで決着はつかず、そのまま勝負は何故かJAMの曲をどれだけ歌えるか、という競争になり、無事に喉が死んだ。

 でも、まぁそういうのも普通に高校生ならではだよなー、そういえば授業って来週からだっけー、そういや駅前に美味そうなお好み焼き屋あったなー、なんて呑気に何も考えていなさそうなことを考えていると、後ろの席に友人が座る。

 

「よう、水上」

「前田。喉ガラガラ」

「お前もだろ」

 

 なんて話しながら、樹貴は体をひっくり返して前田に顔を向けた。

 

「そういやさ、今日ガチャ石貯まったわ」

「マジか。今グラフェスか」

「取りに行くから。ミュルグレス」

「それレジェフェス。あと古い」

「違った。ヴァジラ」

「それ今年いっぱい出ないし、それもレジェフェス」

「あれだ、キ○タマ」

「杉球な? ちなみにそれも結構ギリじゃね?」

「無課金ならいけるでしょ」

 

 そんな話をしながら、スマホを取り出してグラブルをつける。

 すると、教室に冬優子が入ってくるのが見えた。一瞬、ちょうど良いのでガチャを引く画面を見てもらおうか迷ったが、隠しているのを思い出したのでやめておいた。

 

「じゃあ、早速行くわ」

「どうぞ」

「ま、俺なら引けるけどね。むしろフェスで引けなかったことないから。引かない方法を教えて欲しいまである」

「フラグの詠唱か?」

 

 話しながら、ガチャのボタンを押す。宝晶石3000個でガチャセットを購入する、のボタンを押した。

 現れた縦に長い菱形は……虹色だった。

 

「よっしゃキタコレ!」

「いやまだ分かんないから。……てか、何狙い?」

「最低でもエーケイ・フォーエイ」

「だから一生出ねえっつーの! それレジェフェス!」

 

 話しながら、ガチャの結果を眺める。何をとち狂ったのか、なんと虹は三つ。たったの10連で、だ。

 何より良かったのは、虹三つのうち二つ、一番最後に表示された。グラブルにおいて、それは新規入手キャラの証である。

 

「うおっ、お前マジか⁉︎」

「これは勝った! 言ったじゃん、俺は確実に引く男だって。……で、グラフェスって何出るんだっけ?」

「今はリミテッドグリム!」

「え、男かよ……」

 

 なんて盛り上がりながら、結果を見た。その結果……フェス限定のリミテッドと呼ばれる武器はおろか、新規キャラもカルメリーナとアンスリアで終わった。早い話が、倉庫番である。

 

「……クソゲー」

「ぶふっ……てか、なんでその二人が新規なんだよ……!」

「引いてなかったからだよ」

「分かってるわ。改まって言うな……もっと笑えてくるだろ……!」

 

 前田は、もう爆笑していた。ザマァ見ろ、と言わんばかりの爆笑さ加減だ。

 

「ふはっ……だ、ダメだっ……! もうホント、フラグまでの流れがっ……ふひっ、完璧過ぎて……!」

「……良いし。二人とも最終まだだし。リリィみたいに壊れる未来はまだ残ってるし」

「俺、占いもおみくじも信じてなかったけど、フラグだけは信じる事にするわ」

「いつまで笑ってんの……飲み物買ってくる。なんかいる?」

「いいわ。もう美味しかったし」

「人のぬか喜びをおかずにするな」

 

 ダメだ。この肩透かし感はちょっとキツい……。席から立った樹貴は、気分転換にトイレに立ち寄ってから、飲み物でも買うことにして教室から出て行った。

 まぁ、ソシャゲだしこんな事もあるか、とすぐに切り替える。そもそも確率の問題だし、落ち込んだって仕方ない。欲しけりゃ課金すれば良いし、課金する気にならないってことはそこまで欲しくないってことだろう。

 そう思いながら、食堂に到着した。すると、目に入ったのは黛冬優子の姿だった。

 真剣な眼差しで席に座って、スマホをいじっている。

 

「何してんのー?」

「ギャー!」

「え、何その悲鳴」

 

 樹貴の台詞を無視して、冬優子はビクビクっと背筋を伸ばした上で、慌てて体をこちらに向ける。……が、樹貴の顔を見るとほっと胸を撫で下ろした。

 

「な、なんだ……あんたか。驚かさないでくれる?」

「いや勝手に驚いたんでしょ。……てか、どんだけやましいことがあったらそんなに驚くの? エロ動画でも見てた?」

「あんたら男子高校生と一緒にしないで。グラブルのガチャ引いてただけ」

「へぇ〜……え、なんでそれで驚いたの?」

「周りにバレたくないからよ。ソシャゲやってるなんて」

「ふーん……」

 

 なんかよく分からないけど……自分の趣味隠さないといけないなんて、女の人も大変だなぁ……なんて思いながら、その冬優子の向かいの席に座った。

 すると、その冬優子はジトーっと自分を睨みつける。

 

「……何?」

「どうぞ引いて?」

「なんで見てるのよ」

「いや、ガチャと言われれば見るでしょ。あとぬか喜び仲間を増やしたい」

「ふふ、カルメリーナにアンスリアだっけ? 良かったじゃない、可愛い子二人も当てられて」

「聞いてたのかよ……てか、二人とも俺別に好きじゃないし」

 

 嫌いでもないが。残念ながら、樹貴の性癖はハーヴィンと呼ばれる小人のような種族だったりするわけで。ロリコンではないが。

 

「黛もどうせシャノワールかサルナーンでしょ」

「不吉なことを言うのはやめなさい。ふゆはちゃーんと目当ての子を引くわよ」

「誰?」

「勿論、グリムでしょ」

 

 今回から登場し、性能を見てもとんでもないグリームニル。以前まで召喚石と呼ばれるサポートのSSRだったが(こっちもクソ強い)、プレイアブルキャラとして実装された、グラフェス限定のキャラだ。

 

「無理無理無理。精々、金月でしょ」

「せめてキャラくらい当てさせなさいよ!」

 

 なんて話しながら、冬優子はガチャのボタンを押す。表示されたのは虹の菱形。

 

「ほら見なさい!」

「今のフラグだよ」

「はぁ⁉︎」

 

 画面をタップし、菱形が弾けて10個の菱形に分かれる。そこでレアリティが分かるわけだが、基本的に最後の一つ以外は新規キャラにならないのだ。

 で、弾けた菱形は……最初の一つで虹を使い果たしていた。しかも、キャラでさえなく召喚石「サタン」。サタンが弱いゲームなど、世界は広しと言えどグラブルくらいだろう。

 

「ぶはっ……!」

「あんたの所為よ! 余計なことばかり言うから!」

「いや、余計なフラグ立てたの黛でしょ。当たり演出で当たりを確信する、最高レアリティの数が二つ以上で調子に乗る、そもそも物欲センサーを発揮する、はガチャにおいて御法度だぜ?」

「いやそれ二つ目はアンタのことだし、物欲センサーなんて抑えようがないじゃない!」

「心構えが違うんだよ。ガチャは無心になって引かないと出ないよ」

「んがっ……た、確かにふゆは今まで無心で引いてたけど……」

 

 無心で、と言うより、適当にタップしていただけなのだろう。この様子だと、ソシャゲ仲間とかいなかっただろうし「誰かが当てたから自分も当てたい」という物欲センサー界最強のバフが入ったことなどなかったと思うから。

 ……そういう意味では、こちらの世界へようこそ……と、ニチャアっとした笑みを浮かべてしまう。

 

「ま、良かったじゃん。サタン。もしかしたら笹塚でバイトしてるかもよ」

「そっちのサタンじゃないわよ! ……それに、まだ終わりじゃないわ」

「は?」

 

 しかし、樹貴も忘れていた。……煽りは時に、逆フラグへ転じることがあるということを。

 

「ふゆのバトルフェイズは……まだ終了していないわ」

「ま、まさか……!」

 

 そう言いながら見せられた画面には……「宝晶石数2750」の文字。

 それを見て、樹貴は狼狽えつつも鼻で笑って切り捨てる。

 

「ふっ、足りていないじゃないか。まさか、一回のガチャに掛かる石の数が270個だとでも思っているのか?」

「甘いわね。……忘れたの? 毎月最後の金曜日に配られる、黄金の節足動物を」

「! ま、まさか……!」

「リバースカードオープン、プレミアムフライデーの効果を発動! エビフライ・レプリカをリリースし、宝晶石を300個特殊召喚!」

 

 スマホの画面をタップし、300個分の石を追加する。その後、すぐにガチャの画面へ移動した。

 

「さらに、宝晶石の効果発動! フィールド上の宝晶石を3000個、墓地へ送り……コイントスを行う!」

「お、おう?」

 

 なんかすごくノリノリになってきて、ちょっと樹貴もついて行けなくなってきた。自分でもここまで大仰にガチャを引いたことはない。

 

「そして、コイントスの結果、表であった場合、グリームニルを特殊召喚する!」

「う、うん……」

 

 財布から十円玉を出した冬優子は、親指で十円玉を弾く。ヒュンヒュンと宙を舞った十円玉を左手の甲と右手で挟んでキャッチ。その結果……表だった。

 

「よしっ、いでよ! マグナⅡNo.4、グリィィィィムニルッッ‼︎」

「どうでも良いけど、これで出なかったらクソミソに笑ってやるからな」

「……」

 

 秒で冷静になった冬優子だが、もう押してしまった。そして、表示された菱形の色は……金色だった。SSRでさえない。

 

「……」

「……」

「……なんていうか、ソシャゲってホントクソよね」

「ぷはっ……バカお前笑わせんな……!」

「笑わせてないわよ! てか笑うなー!」

 

 爆笑し始めたバカ男に腹が立ち、両手を机に打ち付けて立ち上がった時だ。親指がスマホの画面に当たり、菱形が弾ける。

 その時の10番目……それが、虹色に光っているように見えた。それが視界に入った夏希が「あれ?」と声を漏らす。

 

「今、なんか虹なかった?」

「はぁ⁉︎ まだおちょくる気⁉︎」

「いやマジで。見えた気がするんだけど……見間違いかな」

「……嘘だったら殺すから」

「いや気がするだけだから殺すなよ……」

 

 なんて言いながら、すっかり落ち着いた二人はポチポチとスマホの画面を押す。

 いつも通りのネックチョッパーやらミノタウロスやらとグロ画像と称しても差し支えないメンバーが表示されていき、最後の一つ。

 

「あら、ホントに虹」

「でしょ? まぁ、どうせレ・フィーエだけど」

「光って確か最終したんじゃなかった?」

「あれ、そうだっけ……」

 

 と、思って結果を見ると、まずは武器の名前が出る。虚無ノ哭風という槍だった。

 

「あれ、これ確か……」

「なんかのリミ武器よね? 誰だっけ?」

 

 そしてその後に出てきたキャラクターが……銀髪のイケメン、グリームニルだった。

 直後、冬優子はその場で立ち上がって拳を空に突き上げ、ラオウの如くガッツポーズした。

 

「はぁー⁉︎ お前ふざけんな! 引いた⁉︎ 引いたのかよ⁉︎」

「あんたとは違うのよ……運命力がね」

「クソ、言い返せねえ……!」

「あれ? グリム持ってない人おりゅ?」

「うるせえええええええ‼︎」

 

 実に楽しそうに、ここぞとばかりに煽りよる。こうなって来ると、夏希もガチャをさらに引きたくなるが……単発引きは鬼門である。

 ……でも、自分もせめてリミテッドキャラ欲しいなぁ、なんて思っていると、ふと冬優子が顔を真っ赤にして悶えるように震えているのが目に入った。

 

「いや……無事に引けて冷静になってから……今、改めて思うと……さっきまでのテンション、かなり恥ずかしいわ……」

「まぁ……うん。俺もちょっとついていけなかったというか、普通にびっくりはした」

「口にしないでよまったく……」

「でも、面白かったし、また見てみたいな」

「誰が見せるか! 高校生にもなってあんなテンション、もう二度とごめんよ!」

「えー、でも黛めっちゃ楽しそうだったじゃん」

「っ……」

 

 特に、自分が引けたからって他人を煽っている最中は、割とマジで楽しそうだった。まだ知り合って2日目なので何とも言えないが、なんか不自然にニコニコしている時よりもだ。

 

「……余計なお世話よ」

「でも良かったじゃん。グリム」

「ま……まぁね」

 

 それは正直、その通りだ。欲しかったし、強いしで最高である。

 

「あ、てかフレンドにならん? たまにマルチとか手伝ってくれる人欲しいし」

「……ん」

 

 そのままフレンド登録をする。さて、ならば次は今日のデイリーだ。これをコツコツやらないと話にならないのがグラブルである。

 

「じゃ、早速今日のマグナ2やらん?」

「バカね、これからホームルームでしょうが」

「あーそっか」

「後にしなさい」

 

 話しながら、教室に戻った。

 

 

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