黛の高校生活は、青い春というよりただただ沼だった。   作:バナハロ

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すぐには変わらないけど、全く変わらなくもない。

 早朝、電車に乗っている冬優子は、黙って車内で揺られる。まさかの友達の母親に料理を教えるハメになるとは思わなかった。

 ……いや、ホントあの家族はなんなのか。変な人の子は変な人、と言う事だろうか? 

 だが、まぁそれは良い。あの人慣れると意外と可愛いし。それより困るのは……。

 

「冬優子、おはよう」

 

 なんか下の名前で呼ぶようになってきたバカだ。

 

「……下の名前で呼ばないで」

「えー、なんで? 俺と冬優子の仲じゃん」

「そんな仲じゃないでしょ」

「えー、でも前野は呼んでるじゃん」

「つまり、あんたは前野さん以下なの」

「泣きそう」

「泣けば?」

 

 なんか、やたらと馴れ馴れしくなった。いや、よくよく考えると割と前からこんな感じだった気はするが、それでも呼び方ひとつ変わっただけでかなり印象が変わる。

 

「なんか、冬優子冷たいな最近」

「あんたが呼び方改めないからでしょ」

「えー、じゃあなんて呼んで欲しいの?」

「冬優子以外」

「じゃあ……優子?」

「そこ略されたの初めてよ! 何なのあんた⁉︎」

 

 ダメだ、ほんとに疲れる。だが……冬優子は得たのだ。ようやく弱点になってくれそうなものを。そこ、まだ探してたのか、とか言わない。

 ジロリ、と冬優子は樹貴を睨むと、少し意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「……少なくとも、学校で下の名前で呼んだら、ふゆも『たっちゃん』って呼ぶわよ」

「……すみませんでした」

「ん、わかればよろしい」

 

 そう、母親に呼ばれている「たっちゃん」が弱点になっている。この男、意外とそういうの周りに知られたくなかったらしく、こういう時に非常に使える。

 

「で、あんたどうすんの? 結局、ゲーム買ったわけ?」

「いや、それがまだ。せっかくだし、ふゆ……黛と遊べるゲームが良いから」

「じゃあ……スマブラ?」

「いや、たまにはふゆ……黛と協力ゲームやりたいかなーって。モンハンとか」

「ワールドで良いじゃない」

「……それもそうか。ふゆ……黛、今日早速、ワールド買いに行こう」

「その前に一言、次言い間違えそうになったら、学校でほんとにたっちゃんって呼ぶから」

「……」

 

 なんでそんな間違えるのか。いや、なんならわざと間違えてしれっと冬優子と呼ぶ計画だった可能性まである。

 

「で、モンハンね。良いわよ」

「よっしゃ。じゃあ買おう」

「ふゆも最初からやろうかな。久しぶりに」

「行商人の護衛クエで出てきたリオレイア、楽しかったよな」

「あ、分かるわ。急に出てこられて。あんたあれ倒せた?」

「いや、レイア自体が懐かしくて、スリンガーで遊んでたら殺されたからやり直して殺した」

「バカね。ふゆはちゃんと無乙で殺したわよ」

「やるね。モンハン過去に何やってた?」

「クロスから」

「じゃあ狩技とかなくて慣れるの大変だったでしょ」

「それはそうね……え、あんたは?」

「ワールドから」

「なんで経験者みたいに語ってんのよあんたは!」

「え、いや大変なんだろうなって」

 

 こ、こいつ……やはり基本的には疲れる男だ、と冬優子はため息をついた。まぁ、でもそれならリオレイアに殺されたのも納得だ。サマーソルト以外に大した特徴がない飛竜が相手に死ぬのは流石に無い。

 

「じゃ、ふゆが案内してあげるから、精々頑張りなさい」

「え、ていうか俺一応、全部勝ったよ。一人で」

「そりゃ、ソロだもの。マルチにしたらもっと難易度上がるわよ」

「へぇ〜……そうだったんだ。友達とやった事ないからわからんかった」

「近くの家に住んでる……水上くん? とは知り合いなんじゃなかったの?」

「いや、マルチやるにはプラスに入らないとでしょ。それやると母親にバレるから、やってなかった」

「なるほどね」

「何、マルチ専用の技とかあんの? モンスターに」

「ないわよ。HPと攻撃力が高いの」

「なんだ。変わらないじゃん。基本、当たらないし」

 

 ガンランスで正面から叩き潰すスタイルの冬優子とはそもそもの考え方が違うらしい。

 

「あんたは回避するタイプなわけね」

「お陰で防具はあまり買わないで済んだ。黛は違うのか?」

「ガンス」

「似合う」

「どういう意味よ!」

「いや、黛は高火力で自分の手で叩き潰しそうだなって」

「るっさいわね! 強力な力の前では、小細工は無意味なのよ!」

「なるほど。サイサリス派か」

「あんたはフルバーニアン派っぽいわね」

「いや? ゼフィランサス派」

「ハッキリしないやつ!」

 

 試作1号機なら普通はフルバーニアンを選ぶだろうに……と思うが、まぁもうそこはそれぞれの好みだ。

 そうこうしているうちに、駅は最寄りに到着した。さて、一緒にゲームをやる事を許可された今、とりあえず二人は帰りにゲームを買いに行くことにした。

 

 ×××

 

 学校に到着し、とりあえず冬優子はのんびりする。なんであれ、樹貴をコントロールする術を得られたのはありがたい事だ。何せ……。

 

「黛、黛……! 絵しりとりやろう」

「呼ぶよ?」

「……」

 

 たっちゃん呼び、これで完封できる。

 ていうか、成績良いとはいえもっと授業態度を良くしようとは思わないのか。何せ、三者面談とかの時は確実にその態度を吊し上げられる。そうなれば、今度は正論で娯楽を封じられるかもしれないというのに……。

 と、少し呆れていると、先生が声をかけてきた。

 

「はい、じゃあ黛」

「っ、は、はい……!」

 

 しまった、油断した。聞いてなかった。

 

「ここ、和訳してみろ」

「あ、は、はい。えー……『私は、ボブに裏拳をかまして鼻を折りました』」

「正解。ちゃんと聞いてたなら良いが、あんまり隣のバカとイチャイチャするなよ」

「してませんよ?」

 

 頼むからやめてほしい。そういう言い方。本当にこいつとはそんな関係ではないから。

 なんて思う中、隣の男は先生に声をかけた。

 

「先生はやらない? 絵しりとり」

「お前すごいな。試験結果良かったからって調子に乗んなよ。……じゃあ、この長文の和訳してみろ」

「え? あー……『タクマは、イギリスの大学で好きなアニメのプレゼンをすることにした。そこでタクマが選んだアニメはガンダム……』」

「あーもういい分かった。分かったから授業中、他の人に迷惑かけるなよ」

「はーい」

 

 ……やはり、納得がいかない。こんな馬鹿の成績が良いのが。

 

 ×××

 

 続いて、ホームルームの時間。冬優子と樹貴はのんびりと黒板を眺める。

 

「と、いうわけでー、そろそろ始まる球技大会に備えて、男女チームに分けるぞー」

 

 それを聞いて、冬優子は少しげんなりする。あんまり運動は得意ではないので、あんまり良い思い出はない。まぁ、そもそもの話が別に活躍したいわけでもないので、そういう意味では嫌でもないのだが。

 

「黛、嫌なの?」

「ふゆはあんまり運動得意じゃないから」

 

 だから表情を読んで横から声をかけてくるのはやめてほしい。

 女子はバスケ、男子はサッカー。バスケなんて特に素人がやっちゃいけないスポーツだろうに。なんでって、ゴールが高いから。

 

「水上くんはどうなの……って、元サッカーだから得意かな?」

「去年は俺がいるチーム一回戦で負けたよ」

「は?」

「ゴールで懸垂してたらやられた」

「何し! ……てたのかな?」

 

 しかし、道理であまり噂を聞かないわけだ。一年生でレギュラーのゴールキーパーなら、少しは有名になるものな気がする。

 

「だから、サッカー部にいる間は俺だって練習したよ。懸垂しながらでもボールを止められるように」

「そこ……なんだね……」

 

 というか、お願いだから大声でツッコミを入れさせるようなことは言わないで欲しい。

 

「でも、今年は懸垂しないよ」

「当たり前の宣言?」

「黛が見に来るなら、カッコ良いとこ見せたいから」

「っ……も、もう……困るなぁ、そういう事堂々と……」

 

 なんて話してる間に、先生が会議を進める。

 

「じゃ、まずは男女に分かれて、男子は前半に出る奴か後半に出る奴か、両方に出る奴を決めろ。女子は第1〜4Qに出る奴な」

 

 とのことで、冬優子は樹貴と一時別れるという至福の時間を図らずとも手に入れた。

 まぁ、男子に比べれば楽なものだ。何せ、一回戦で負ければ出る時間はたったの10分だから。

 

「どうするー?」

「何だって良いでしょ。さっさと負けて男子の試合見に行っても良いしー」

 

 普通に女子のモチベーションは低かった。こういうとこ、男子と女子の差だな、と思う。「彼女欲しいー」と嘆くのは男子の方が多いが「モテたい」という願望を多く持っているのは女子、という事だろう。

 そんな中、クラスの中でも目立つ方の女子がふと思ったように言った。

 

「てか、男子ってあれでしょ? 水上出んの。見たいわ」

「ね。あの子、サッカー部やめたから前後半出るでしょ多分」

 

 と、いうのも、サッカー部は前半か後半、一回しか出られない。そりゃそうだろう、球技大会はサッカー部のサッカー部によるサッカー部の為の大会ではないから。

 なんだかんだ、女子が見ていれば良いとこ見せようとするのが男子なので、マジになる人も多いわけで、当然サッカー部の何人かも目立とうとするはずだ。

 ……とはいえ、あのアホな男が意外とモテることに驚きだが。まぁ、見てくれは良いし、秒でクラスの有名人になったのだから、あり得ない話でもない。

 その時点で、冬優子は少し嫌な予感がしていた。それなりに人気の男子と、冬優子は仲が良いと思われているから。実際、悪くはないわけだが。

 

「そーだ、黛ー」

 

 声を掛けられ、顔を上げる。その声音には、明らかに宣戦布告に近い声音が含まれていた。

 だが、そんなもの関係ない。冬優子はにっこりと微笑んで顔を上げた。

 

「何?」

「あんた第4Qの選手ね」

「良いよ。トリだね、頑張らないと」

 

 そう笑顔で答えた。残念ながら、嘲笑も敵意も冬優子には効かない。そもそも、それに何の不都合もないし。

 恐らくだが、男子の試合を見に行くためにも、少しでも早く体育館を出るため、自分達は第1Q、気に入らない冬優子を第4Qに置いたのだろう。

 あんなバカの活躍なんか見れなくても別にモーマンタイ……。

 

『黛が見に来るなら、カッコ良いとこ見せたいから』

 

「……」

 

 ……余計な置き土産をくれたものだ、本当にあのばかタレは。

 まぁ、気が向いたら見に行けそうな時に見に行ってやっても良いか、なんて思いながら、とりあえずチーム分けを待った。

 

 ×××

 

 さて、学校が終わった。だいぶ疲れさせられた気がしたが、まぁ良いだろう。これからゲームを買いに行く。

 

「モンハンで良いわけね?」

「うん。黛と一緒にやりたいし」

「あ、あんたは一々、歯が浮くようなこと言わないと気が済まないわけ⁉︎」

「や、まぁ本音だし」

「じゃあ本音は出さないで! このチャラ男!」

 

 チャラ男、とか言われても……と、少し狼狽えた様子を見せるのが、また腹立たしかった。

 

「あんまりふゆを不自然に褒めちぎるのやめなさい。気持ち悪い」

「気持ち悪いって……流石に傷つくんだけど」

「じゃあ気色悪い」

「もしかして……黛って俺のこと嫌いなの?」

「嫌い」

 

 嫌いは言い過ぎだし、むしろ……まぁ、男の人の中では一番、話す方だし、一緒にいて楽な相手ではある。

 けどそれ以上に世話焼かされるし、ツッコミ疲れるし、ガチャで良いの引かれるし、割と友達として、の意味でも好きとは言い切れないし言いたくない。

 

「ま、ふゆの好感度を上げたいのなら、もう少し穏やかな時間を……」

 

 と、得意げに言いかけたところで口が止まる。周りの人が自分達をジロジロと見ているからだ。

 いや、正確には自分達ではなく自分である。樹貴は、自分のはるか後方で足を止めていた。

 

「んなっ……!」

 

 なんでそんな急に足を止めて一人でしゃべらすとか小学生みたいな事をし始めるのか。そういうところだ、好きと言い切れないのは。

 

「あんた! 今ので好感度マイナス……!」

 

 文句を言いかけてツカツカと歩きながら戻った直後、すぐに様子がおかしいことに気がつく。俯いたまま、なんかフラフラしている。

 

「っ、ちょっと、水上?」

「…………れた……」

「はぁ?」

「……まゆずみに、きらわれた…………」

「……」

 

 え、ええ〜……と、冬優子は唖然とする。まさか、ここまで落ち込まれるとは……てっきり樹貴の事だし、ケロッとしたまま「ツンデレめ☆」とほざかれると思ったので、その後本当にツンデレを実践しようと鞄の中でシャーペンを用意し「ツンツンするほど好きよ」とヤンデレを披露して謝らせようとさえ思っていたのに。

 いや、そんなの言い訳だ。普段、明るい奴にしょぼんとされて元気をなくされると何とかしてあげたくなってしまう。

 

「じ、冗談よ。唯一のオタク仲間なのに嫌いになるわけがないでしょ?」

「ほんとに?」

 

 い、イケメンが弱ってる……いや、自分がイケメンを弱らせてる……おっと、萌えちゃダメだ。唯一のオタク友達は無くしたくない。あとこのバカに萌えたくない。

 

「本当。だから、落ち込まないで。モンハンやるんでしょ?」

「……ん」

 

 ……なんだろう、この年下感。懐かれるとこんな感覚になるのか、と少し気恥ずかしくなる。

 というか、だ。自分に懐く要素なんて無いだろうに……一体、この男は自分の何が気に入ったのか。

 少し、聞いてみたいところだが、その前に復活した樹貴が冬優子の手を引いてしまった。

 

「よし、じゃあ早くゲーム買って帰ろう」

「あとプラスも買いなさいよちゃんと」

「ん」

 

 そんな話をしながら、改めて二人でゲーム屋に向かった。

 

 ×××

 

 たまにツイスタとかを見ていると「最近、据え置きよりスマホゲームのが楽しい」という意見を見るが、冬優子はそんな意見を鼻で笑う。

 人それぞれというのは分かる。実際、スマホゲームも楽しい。ガチャを引く時のワクワク感、自分だけのチーム、自分だけの戦術……と、楽しめる要素は大量にある。

 だが、やはり冬優子としては据え置きとスマホゲーではそもそもクオリティが違うと思っている。その気持ちを、ペルソナをやってから強く思った。他にもモンハンやダクソ、マリオにスマブラとやってきたが、スマホゲームをやってからそれらをやると、やはりこの軽快なアクションはスマホじゃ出来ないな、と思うわけで。

 それ故に、冬優子は揺らいでいた。

 

「……え、アルジュナオルタ欲しい……」

 

 課金したく、なっていた。今の今まで、SSR確定の福袋以外は避けてきていたのに。

 何故、自分はこの日にスマホをつけてしまったのか。もうあまりの欲しさに、手が震えるほどだ。

 

「引けば良いじゃん」

「石ないわよ……」

「あるじゃん、そこに」

 

 言いながら樹貴が指差した先にあったのは、リンゴの絵が書かれたカードだ。

 

「嫌よ! 課金したら辞められなくなると思って、福袋以外は避けてたのに!」

「でも限定だし引かなきゃ当たらないよ」

「分かってるわよ!」

 

 どうする……欲しい。欲しいけど……! と、奥歯を噛む。特に、この季節はもうすぐ周年→水着のコンボが来る。FGOにとっての稼ぎ時だ。課金するならそっちに回した方が良い……のは分かっているのだが……! 

 

「ま、引いても当たるとは限らないけど」

「黙ってなさいよあんた!」

「……」

 

 わかってることをツラツラと……と、思いつつも……確かに引かなきゃ当たらんけど、引いても当たるとは限らないのよね……と、冷静になった。ただでさえ、ポケカで予定以上の出費が出ていると言うのに……。

 

「……うう、欲しい……欲しいけど……」

「ま、チャンスは今だけじゃないしね。FGOの復刻はランダムが過ぎるし、次いつになるか分からんけど、チャンスは今だけじゃないから」

「あんたふゆをどうしたいわけ⁉︎」

「いや、黛がいつでも冷静に思考できるように、事実を述べてるだけ」

「ありがたスーパー迷惑!」

 

 いや、まぁでも実際、冷静にはなってしまった。そうだ、引いても当たるとは限らない……でも、今はこの前、カードを大量に売って、バイト先の給料も出たばかりだ。

 つまり……買える! 

 

「引くわ!」

「ちゃんともうすぐ福袋だから、アルジュナオルタを狙える機会があることも考えた?」

「……あんたは人の決心を揺らがせる天才か!」

「いや、だって俺とお袋の仲を何とかしてくれた人だから、後悔して欲しくないんだ」

「……だから、何でそういう事を平然と正面から……」

 

 この男に照れという概念はないのか……と、思っている時に、視界に入った樹貴のもみ上げ。風に吹かれて揺れ、一瞬だけ露出した耳は……赤く染まっていた。

 ……もしかして、全く照れてないわけじゃない……? と、思わず勘ぐってしまい、手を伸ばした。さらっとかけてあげたもみあげの下の耳は、さらに赤くなっている。

 

「あんた……照れてたの?」

「まぁ……大分キャラじゃないこと言ったから……」

「……ふーん?」

 

 ニヤリ、と鏡を見なくても我ながら意地悪い笑みを浮かべた自覚があった。

 

「意外と可愛い所があるのね、たっちゃん?」

「そういうとこホント性格悪いよね」

「あら、恩人に向かってそういう事言って良いわけ?」

「ナツキ・スバル」

「それがするっと出てくるあんたのが性格悪いわよ!」

「あ、もう戻った」

「あしまっ……た、たっちゃん?」

「いやもう無理だよ冬優子」

「下の名前で呼ぶなっつーのー!」

 

 ダメだ、勝てない。ふとした一言が完璧に刺さるのだ。

 

「で、どうすんの? 課金」

「しない! 今、出なかったら、勢い余ってあんたを殺しそうだから!」

「えっ、とばっちりに遭うの俺なの?」

 

 でも……実際、あまりゲームに課金はできない。そういうのはもう少し余裕ができてからがベストだろう。

 

「そっか。……あ、アルジュナオルタ弱体化特効だって。しかも宝具にバスター耐性ダウンついてる」

「あーんーたーはー!」

「バーサーカーなのにガッツ毎ターン回復スター集中ついてるし……これ、周回も高難易度もいけるやつじゃん」

「何でだから欲しくなる情報を言うの!」

「後悔して欲しくないから」

「どっちにしても後悔するわよ!」

「あー……じゃあ、俺も引こうか?」

「それは1番やめて! あんただけ引く未来が見えるから!」

「じゃあどうするの?」

「やめておくわ!」

 

 歯軋りしながら、冬優子は我慢を貫いた。

 

 ×××

 

 さて、ゲームの購入を終えて、冬優子と樹貴は帰路に着く。二人で並んで帰宅する。早速、帰ってゲームをしたいわけだが……そこで、青葉は「あっ」と声を漏らす。

 視線の先にあるのは、ゲームセンターだ。

 

「そうだ。今ゲーセンにドラゴンボールのプライズ出てるんだよね」

「あんた……懲りないわね。気持ちはわからないでもないけど、売られたものをまた集め直してたらキリがないわよ?」

「いや正直、フィギュアは買いたいわけじゃなくて、取りたいんだよね。で、まぁどうせ取るなら欲しいものが良い、みたいな感じだから。……だから、懲りないよ」

「ふーん……まぁ何でも良いけど。何とるわけ?」

「ブロリー」

「あら、良いわね」

 

 話しながら、二人でゲーセンに入る。冬優子もたまに来るが、なるべくゲーセンのゲームに夢中になっている姿などクラスメートに見られたくないから、ほとんど来ない。

 

「ふゆも久々に、何か取ろうかな」

「うたプリ?」

「いやいや、ちょっと古いわよそれは」

 

 腐女子に対する典型的なアニメをあげてきた。まぁ本当に典型的かは、オタク仲間がいない冬優子には分からないわけだが。

 

「ていうか、昔は好きだったけど、最近はイケメンがあんまり全面に出てるアニメって好きじゃないのよね」

「え、そうなの?」

「だって、なんか媚びてる感じがしてちょっと不自然だもの。似たような理由で、最近は黒バスも『なんであんなにハマってたんだろ……』って思うもの」

「黒バスは俺も好きだけど」

「最近は銀魂とか進撃とか……あの辺が好きかしら」

「でも高杉、リヴァイ、赤司、花宮は等しく好きでしょ?」

「なんでピンポイントなのよ! 花宮まで!」

 

 本当に腹が立つ男だ。エスパーじゃないんだろうな、と思わないでもない。

 

「あと……長谷川さんも好きそう」

「やめなさいよ!」

「てか、ぶっちゃけ聞きたいんだけど、二次元の初恋は誰なん?」

「……」

 

 本当にゴーイングゴーイングマイウェイな男だ。少しは遠慮とかを学んで欲しい。

 まぁ、でもそのくらいは別に良いか、と思うことにし、逆に聞くことにした、

 

「あんたも言うなら教えてあげても良いわよ」

「良いよ」

 

 良いんだ、と思いつつ、冬優子はしれっと答えた。

 

「二次元だと、ふゆは土方さん」

「あれ、意外とまとも……というか、銀魂は昔から好きなんだ」

「まともって……どういう意味よ……。小学生の時は普通の人が好きだったのよ。小学生の男子の一番の楽しみって人を揶揄う事でしょ? だから、なんかやたらと感情移入しちゃって……で、逆に昔は沖田総悟とか嫌いだったわ。今は好きだけど」

「昔から拗らせてたわけじゃないんだ」

「今だって拗らせてないわよ!」

「で、今は?」

「だから、高杉! ……か、長谷川さん」

「うーん……流石にそいつらは真似出来ないなぁ」

「はぁ? 何、コスプレでもする気?」

「いやいや、コスプレはあんま興味ないから」

 

 じゃあどういうつもりなのか問いただしたいところだが……あ、もしかして……。

 

「モンハンのキャラ、寄せる気?」

「え? ……ああ、良いね。それも良いかも」

「ブサイクに作ったら殺すから」

「大丈夫、ちゃんと凝るから」

 

 ……まぁ、確かに樹貴なら、割と上手に仕上げそうではあるので、その辺は信用しておくが……いや、そんな事よりも、だ。

 

「ていうか、あんたの初恋は?」

 

 これ、ある意味気になる。好きな女性キャラくらいはいるだろうが、この情緒がまともに育っていないバカ助がどんなのが好みなのかは割と興味があった。

 ……まぁ、彼女がいたこともあるらしいし、全く恋愛回路が死んでいるわけではないのだろうが……。

 少しワクワクしながら待っていると、樹貴はしれっと答えた。

 

「俺の初恋はジオング」

「人でさえない! どういう事⁉︎」

「いや、親父とガンダム初めて見た時、本当にカッコ良くて惚れてた」

「女の子の話に決まってんでしょうが‼︎」

「あー……じゃあ、ユキメノコ」

「人類の話よ!」

「先言えよ」

「普通分かるでしょ! あんたはユキメノコとジオングに性的興奮を覚えんのか⁉︎」

 

 人間かー……と、樹貴は顎に手を当てて考える。そんなに難しい問いをした覚えはないのだが……なんて少しまたイラッとしているときだった。

 

「俺はー……最初に女の子に興味持ったのは、酔った時のツッキーだったかも」

 

 ピンポイント……と、思うことはなかった。何故なら……ちょっと分かるからだ。

 クールな大人の女性……それも、巨乳。それが酒に酔い、急に暴力的になり、醜態を晒す……いや、まぁ割と素面でも暴力的ではあったのだが。

 何にしても、そこに惹かれる理由はわかる。そして、それ故に思う。なんで、こいつとそういうとこ趣味が合うのか。

 その上結局この男の趣味は謎のままだ。

 

「あっそ。聞かなきゃ良かったわ」

「えっ、な、なんで?」

「わけわかんないから」

「えー、分かるって顔してた癖に」

「だからその変なところで鋭さを発揮するのやめなさいよ!」

 

 などと話しながら、二人はゲーセンに到着したので中に入った。

 

 ×××

 

 その日の夜。ゲーセンで遊び倒した後は、冬優子を家の前まで送って帰宅。夕食を一緒に食べても良かったが、今日は母親と食べるためにやめておいた。

 冬優子がああやって親を説得した手前、樹貴は当然ながら、母親との時間も大切にしないといけない……のだが、まだ少しぎこちない。何せ、この前の一件の前は「勉強したの?」「した」しかしてなかったから。

 

「……お袋」

「何?」

「今晩、テレビ使う。黛とゲームやるから」

「そう。程々にしなさいよ」

「ん」

「……」

「……」

 

 ……少し、気まずい。なんだろう、この家族……いや、まぁ仕方ない。怪盗団にすぐ馴染んだ新島真が異常なだけで、反目し合っていた仲がそう簡単に直るわけがないのだから。

 

「どう? 学校」

「楽しいよ。黛とか前田とかいるし」

「……そう。サッカー部に戻っても良いのよ?」

「いや、いい。黛がいるから」

「師匠のこと好きなの?」

「まぁね……え、今師匠って? 黛のこと?」

「そうよ。料理を教わる身だもの」

「……あそう。まぁ良いけど」

「……で、好きなの?」

「ん、まぁ」

「……そう。お婿に行くのはまだ早いわよ」

「本当に早ぇーよ。何その頭の悪い心配」

 

 淡々と盛り上がる会話。こんな風に長く話したのも久しぶりだ。

 

「……まぁ良いわ。何にしても、成績は落とさないようにね。前ほどストイックにさせるつもりはないけど、バカは本当に碌なことしないから」

「分かってるよ」

「……なら良いわ」

 

 ……こういうやり取り、悪くないかもしれない。よくよく考えてみれば、母親はおそらく再婚はしない。だから、自分がいなくなった時を強く心配するのは分かってしまう。

 だと言うのに、自分も今の今まで随分と母親と過ごす時間を無駄にしてきたものだ。

 今後はもう少し大事に時間を使おう、と思いながら、とりあえず会話を続けた。

 

「そういえば、球技大会で前半後半出れるようになったわ」

「そうなの。好きなら、ちゃんと師匠に良いところ見せられるようにね」

「分かってる」

「それと、その球技大会は親も見に行けるの?」

「なわけあるか」

 

 

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