黛の高校生活は、青い春というよりただただ沼だった。 作:バナハロ
放課後、冬優子は今日はさっさと帰宅しようと思い、席を立った。
さて、ここ最近の流れはもうお馴染みのもの。相変わらずとにかく明るいバカが声を掛けてくる。
「黛村の冬優子さーん、今日暇ー?」
「イヤ♡」
「それは擬態なのか素なのか」
「好きな方でとって良いよ?」
どっちも同じ意味だから。そんな話をする中、隣の前田が口を挟む。
「お前なぁ、毎日毎日誘うのやめてやれよ」
「えーなんで?」
「それ普通に考えてデートのお誘いだからな?」
「そうだもんだって」
思わず吹き出しそうになるし、実際前田は吹き出した、こいつは本当に何を言い出すのか。
「素直にものを言い過ぎなんだよ!」
「言いたいことは生きてるうちに言っておかないと。言えなくなってからじゃ後悔するぞ」
「何だお前! 実は俺たちの知らねえとこで戦ってんのか⁉︎」
「人は皆、見えぬ何かと戦う戦士よ」
「おい、それっぽいこと言っていつまで人にツッコませる気だコラ。いい加減にしろよ」
「それっぽいことと言えばさ、アニメに出てるセリフの中で一番実用的なそれっぽいセリフ考えたんだけど」
「何考えてんだお前常日頃から⁉︎」
「お前もな、ってそうじゃね?」
「そうだな! ……や、俺からは『かもな……』を推す」
「え、お前日常的にそんなこと言ってんの?」
「お前もな、が言うな!」
なんか……良いなぁ、と冬優子は少し羨ましく思ってしまった。いや、ツッコミを入れていることがではなく、ああいうアニメトークが普通に出来るというのが、だ。
オタク趣味がバレる、ということはそういうハイテンションも「アニメっぽいセリフ」とかも言えない。
何より、男子同士に発生し得る友情。同性同士の友達が成立する、というのはとても楽しい事だろう。
……それに引き換え。
「ちょっと、黛」
「顔貸せよ」
教室を出た冬優子の前に立ち塞がったのは、クラスの目立つギャルメンバー。もう名前も忘れたけど、キレているのは確かだ。
だが、数で自分を威圧できると思わないことだ。その数をおそらくものともしないモンスターペアレントと、つい最近退治したばかりなのだから。
なので、いつものニコニコ微笑んだ笑顔の奥に闘志を秘めた冬優子は猫撫で声で続けた。
「早めに終わらせてくれるかな? ふゆ、暇じゃないんだ」
「あんたの態度次第だから」
「きな」
ベタにも、校舎裏に連れて行かれた。
×××
「あれ? 黛は?」
ふとアホなディスカッションをしていた樹貴が周囲を見渡して一言漏らす。いつの間にいなくなったのだろうか?
「もういねーよ。さっき出てったぞ」
「えー、言えよー」
「知るかっつーの。……てか、実際お前どうなの?」
「何が?」
「黛。好きなの?」
「好きだよ?」
「えっ」
あっさり言うと、前田は少したじろぐ。そんなに意外なこと言っているだろうか? 普通に正直な気持ちを言っただけなのだが。
「え……好きなの?」
「好きだよ」
「や……え、好きなの?」
「何回聞くの」
「いやお前そういうのはもう少し恥ずかしそうにだな……」
「イヤンウッフン恥ずかPI☆」
「殺すぞ」
まぁ全く恥ずかしくないわけではない。彼女は今までに何度かいたことあるけど、自分から好きになった女の子は初めてだから。
でも、まぁ……好きだし仕方ない。ていうか、さっきからデートとか色々言っていたし、こいつなんで気が付かなかったのか。
「えっと……じゃあさっきのデートって……」
「彼女になって欲しいからアプローチしてた」
「ど直球!」
「当たり前じゃん。コソコソ遠回しにアプローチしてどうすんの。男なら常に全力投球だろ」
「ああ、俺今初めてお前をイケメンだと感じたわ」
「え、そう? うふっ」
「気の所為だったわ」
まぁ今のリアクションでイケメンとか言われても困る。男が「うふっ」はない。
「いやー、初めて人を好きになってから思ったんだけどさぁ、ラブコメで男の癖にウジウジしてる奴とかマジでクソだと思うわ。それでも本当キ○タマついてんのかって」
「いや、お前……好きだからこそ、こう……恥ずかしくて足踏みするっつーかさぁ。素直じゃなくなったり、言いたいこと言えないあたりに共感すんじゃねえの?」
「馬鹿野郎、それでその女の子逃したり取られたりしたら、後悔すんのこっちだから。そいつらはシナリオ上、自分以外にその子が取られることはないってわかっててそういう態度とってるから」
「お前どんだけ穿った見方してんの⁉︎」
「特に、劇場版の蘭が良い例だよね。あいつどんなピンチになっても死なないって分かってて自ら危険に飛び込んでるから」
「お前もうコナン見るのやめろ!」
だが、とにかく今の自分は恋に目覚めている。まぁ……冬優子がどうしても嫌だと言うのなら自重するけど、そうでもない限り諦めたくはない。
それくらい……あのカッコ良くて優しくて、付き合いと面倒見が良い同級生が大好きだ。
そんな樹貴に対し、目の前の前田は少し冷めた様子で言った。
「でもさぁ、お前あんま教室でそれやんのはやめとけよ」
「え、なんで?」
「まぁ……お前が気づいてないのは分かってたけどよ、結構今、女子にモテてんだぞ?」
「え? あーそういやなんかよく声かけられたっけ……え、それそういう事なの?」
なんかあんま関わっていない女子から話しかけられたり、やたらとグラブルやる奴増えたなぁとは思ったけど、まさかそういう事とは。
「でも俺、黛のこと好きなんだけど」
「だろ? そしたらどうなるの」
「……世界が平和になる?」
「どういう事だよ! むしろ逆だわ!」
「え、戦争が始まるの? 俺は原作のサノス?」
「違うわ! いや、ある種あってるけど!」
どうなると言うのだろう? と、小首を傾げていると、前田は大声で言った。
「だからぁ、お前のことを欲しいと思ってる女子が黛を排除しようとするだろ!」
「……は?」
「き、急にキレんなよ……」
「何それ。全然意味分からん。そいつら自殺志願者?」
「ち、ちがうちがう! てかどういうことだよそれ⁉︎」
もしかして、男に振られたから男が好きな女をいじめて男に殺されるという自殺だろうか? なんだそれ、遠回しにも程がある。
「嫉妬ってこと! 羨ましいから!」
「何それ」
「お前じゃあ黛が誰かと付き合ったらどう思うんだよ」
「そりゃまぁ……悔しいけど、黛がそいつ選んだなら仕方ないかなって」
「それだけ聞くと人間超出来てんだよなぁ、こいつ……」
嫉妬とかカッコ悪いにも程がある。自分がモテないのを他人の所為にするような奴は良くないと思う。相手を思うのなら、大人しくなることも学べば良い。
「でも、現に黛は少し微妙な立ち位置になってんだからさ……もう少し抑えないと」
「え、なんで排除しようとしてる奴のために俺が遠慮しないといけないの?」
「いや、だから……」
「それなら、俺が排除してる奴を排除するのが筋ってもんだろ」
「お前……いや、まぁそうなのかもだけど暴力はやめろよ?」
「相手が暴力を振るわなかったらな」
残念ながら、自分はそんなおとなしい奴ではない。世の中、暴力以外での対話の方法を知らない奴もいるし、そういう無理で道理をこじ開けるタイプには、こちらも拳を使うしかない。
「あと、唐突に『お前いじめてるだろ』とかそういうのもやめろよ?」
「分かってるって。俺そんな蛮族に見える?」
「何しでかすかわからないって意味では」
酷いものだ。言うこと言うこと。まぁ何にしても、今日は帰ってしまったらしいし、そろそろ帰宅することにした。
「じゃあ、帰るかー」
「だな」
それだけ話して教室を出た。
まぁでも……確かに猛アタックは相手に気を使わせるのかも、というのはあるかもしれない。
明日からアプローチの仕方を変えようかなーとか思いながら、二人で校門を出た時だ。ジャージ姿の前野が斜め前辺りから走ってくるのが見えた。
「……あ、あんたら!」
「おう、前野。前の方から走って来たな」
「いやしかし前野にとっては俺達がいるし、むしろ俺らの方が前の方にいたのでは?」
「前の前のうるさいわ! ……ところで水上? 前田は今どこにいる?」
「前だ!」
「うるせーよバカども!」
バカが揃うと、どんな状況でもコントになるのはさすがだった。が、まぁ当然ながら前野の用事はそんなバカトリオになることではなくて。
「や、そうじゃなくて。今、部活の外ランしてる時に見えたんだけど……」
「うん?」
「ふゆちゃん、なんかクラスの女子に絡まれてたよ。校舎裏で」
「……は?」
ドッ、と眉間に皺が寄った。あの野郎、性懲りも無く……。
冬優子の胆力は、もう見せてもらった。実際、この前は「助けが必要な時に言う」と言っていたし、もしかしたら適当に受け流したりしているのかもしれない。
……だが、だからと言って、やはりピンチを見て見ぬ振りをするのは出来ない。聞いてしまった以上は何とかする。
「ごめん、前田。俺忘れ物」
「俺も行くか?」
「大丈夫。前野、教えてくれてありがとう」
「い、いやいいけど……」
万が一にも冬優子が素を見せた時に備えて、一人で行った方が良い。
×××
「聞いてんの?」
「気持ち悪いぶりっこキャラで水上くんを誘惑すんのやめろっつってんの」
「何とか言えし」
はぁ、と冬優子は内心でため息をつく。本当に面倒な男と関わることになったものだ。おかげで、この無駄な時間である。
ほんとに鬱陶しい奴らだ。話す内容もテンプレくさい負け犬の言葉。こういう似たような経験は初めてではないが、何度やっても面倒なだけ。……この時間があれば、何戦バカとポケカ出来ると思っているのか。
あ、やばい。あくび出そう。
「てか、そもそも水上くんはあんたのこと何とも思ってねーから」
「それに気づかずあんな気色悪い愛嬌振り撒いて恥ずかしくないわけ?」
「うちなら死ねるわー。てか学校来れなくなるし」
「ね。よく平気な顔してあんた学校これるよね」
コイツらは自分と今まで対立して来たような奴らと同じ人種だ。自分達だって無意識のうちに二つの顔を使っているくせに、他人が意識的にそれをやっていると叩きたくて仕方なくなる連中。
ま、こんな連中、まともに相手するだけ無駄だし、ひとまずやはりシカトで良いだろう。
「ていうか、そもそもあんた水上くんの迷惑は考えたことあるわけ?」
その言葉に、一瞬だけ片眉が上がる。
「そうだし。あの子、いつも前田と楽しそうにしてんのに、あんたが横からシャシャリ出てさ。男同士で楽しんでる仲によく入れるよね」
シャシャリ出た覚えはない。というか、迷惑を被っているのはこっちだ。コイツらに言われる事ではない。
「ていうか、オタク趣味を共有する中に女子が入っていったら迷惑に決まってんじゃん。話しづらくなるし」
「男子ってのはどこでもカッコつけたくなる生き物なんだからさぁ。その辺、察せないのにガワだけ取り繕ってんじゃねーよ」
また苛立ちが少し増した。それはちょっと思っていたからだ。あの男がオタクトークをしていて一番、楽しいのは前田のはずだから。男同士じゃないと話せないこともあると思うし。
……まぁ、そもそも割り込んだ覚えはないわけだが、何故か少し苛立った。
「アンタみたいなのにこれ以上、水上くんの時間取らせんなし。その過剰な猫被りも汚いから見せないで」
「あの子にこれ以上、変なもの見せたら……」
……ダメだ。もう面倒になって来たし……こいつら小悪党なんだから、少し凄めば撤退するだろうか? なんて思ってしまった。
素を出してキレるか、ふゆのままキツいこと言って黙らせるか。
「ちょっと、なんとか言えっつーの」
「ていうか聞いてんの?」
ふゆのまま、は悪手かもしれない。腹黒いと思われるから。何せ、あれはみんなに好かれるためのキャラクター。そのまま悪態をつくのは、本当は性格が悪いと思われる。……もっとも、素の自分も性格が良いわけでもないのは確かだが。
そんなわけで、素の自分を出して撃退する……そう決めた時だった。
「何してんの?」
ふと、耳に声が届いた。今、ここにいたら絶対に大変なことになる声。
「げっ……」
思わず声に出てしまった。コイツがここに来てしまうとまさに修羅場。炒め物をしてたら最中に垂らしてしまった水みたいなものだ。バチっと弾け、火傷の痕がくっきりと手に残る。
樹貴の姿を見た冬優子は警戒してしまったが、他の三人のいじめっ子達は真逆。チャンスと言わんばかりにほくそ笑んだ。
「あ、水上くん」
「こんな所で何してるの〜?」
「いやこっちのセリフなんだけど」
まぁ校舎裏なんて普通は来ないだろうから、樹貴の言い分はもっともだ。こんなところで女の子一人を囲んで何しているのか?
当然、やましい事しかない三人は言わなくて良いことも言ってしまうわけで。
「べ、別にー? ちょっと話してただけだし」
「てか、黛今『げっ』って言った?」
「人の顔見てその反応とか……素が出てんじゃん。ウケる」
「ね。やっぱ黛って基本性格悪いんだって」
と、まぁ好き放題アピールし始めた。急にそんな話をされた樹貴は何の話かさえ理解しておらずキョトンとしているが、女子達は続ける。
「あんたの前だけで可愛こぶってるだけだし?」
「ね。あんたっていうか男子の前」
「こいつチヤホヤされたいだけだよ男子から」
「? それお前らもそうじゃん」
「「「……は?」」」
「プッハ……!」
普通にこのバカ男から飛び出した言葉に、思わず冬優子は吹き出してしまう。相変わらず無神経だけど的確なセリフ……つまり、相手を苛立たせるには十分な威力。いつももらっている冬優子には人一倍気持ちが分かる。
……そして、それ故に、客観視した時の面白さも人一倍だった。
「は? 何それ。うちらがぶりっ子してるっての?」
「いや、さっき黛と話してた時の声と俺に話しかけて来た時の声全然違ったし」
核心を突く。当然ながら、そんな恥ずかしいことをよりにもよって本人に指摘されたら、プライドだけは三人前の女子達は自分らを守るのに必死になる。
「全然変えてないんですけど。何その勘違い」
「あんたもしかして自分のためにうちらが声変えてると思ってんの?」
「きっしょ。ナルシじゃん」
「まぁそっちがそう思うならそれでも良いけど……てか、そんな事より、黛」
「えっ、な、何?」
完全に会話を拒否する様子で、三人の間を抜けて自分の前に歩いてくる。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ」
どうするか迷ったが、ふゆの方で答えておく。ちょっと冷静になったので、わざわざ本性を晒すこともない。……というか、あのくらいの煽りで晒そうとするなんてどうかしていたかもしれない。
さて、そんな声を出した冬優子に対し、三人は。
「おぉえっ……なにいまのこえ」
「高二でそれとか普通に引くわー。どんだけ自分の顔面の良さ自覚してんの?」
「ねー。水上くんこんなの好きなの? 性格の悪さと反比例してんじゃんどう考えても」
好きって……と冬優子はため息。まぁあれだけの態度を取られて嫌われているとは思わないけど、自分達は別にそんな関係ではない。
こんなの相手にしても無駄だし、せっかく来てくれたところ悪いが、さっさと退散するか……と、思って冬優子が口を挟もうとしたが、その前にすぐ樹貴が
答えてしまった。
「黛は、男にモテる為にキャラ作ってるんじゃない、自分の気難しさを自覚して、人に好かれる努力をしてるんだよ。……少なくとも、お前らみたいに嫌われるだけの行動をしてるんじゃない。まずはそこを自覚しろよ」
「ーっ……!」
誰よりショックを受けたのは、冬優子だった。確かにそう言う通り、自分という人間は嫌われやすいから、殻を被った。
当然、それでも衝突することはあった。目の前の連中みたいに、ぶりっ子だの何だの言ってくるような奴らはいたし、その「ふゆ」というキャラで友達は出来たことあった。
でも……それを肯定してくれる人は初めてだ。
「……」
ヤバい、ちょっと嬉しい。こんなバカな男相手でも、自分が意図した点を褒められるのは嬉しかったりする。
「じゃあ、行こう。黛」
「っ……え、ええ……」
そのまま、冬優子の腕を半ば強引に引いて、樹貴は立ち去って行く。気安く触られたわけだが、そんなの気にならないテンションだった。
まぁ……一人でどうとでもなる状況ではあったとはいえ、助けてくれたのなら感謝しなければならない。
「大丈夫だった?」
「全然平気よ。あんなのいじめのうちに入らないし」
「さすが、強いね」
「うるさい」
感謝する気が失せた。本当、毎度毎度自分が話そうとするタイミングで口を開いて来やがって。
「ていうか、何であそこに来たのよ」
「前野さんが教えてくれた。校舎裏で絡まれてるって」
「部活生も通る場所選んで恐喝とか……何処までもバカだったわね、あいつら」
「ね」
「ま、ふゆはあんな奴らにビビるほどやわな女じゃないけど」
「……もしかして、余計な真似した?」
いや……一人で何とか出来たのと、しなくて良いことをされたのはイコールではない。実際、一人で乗り切るよりは遥かに早く切り抜けられたと思うし、助かった。
「そんな事ないわ。助かった。ありがと」
「ほ、ホント? なら良かった」
「……」
コイツは本当にそんなチャラチャラした見た目で素直な奴なのか。なんか、こう……柴犬っぽい。ちょっと大きめの。
……ちょっと、可愛く見えなくもない。
「ってんなわけあるかぁー!」
「ちょっ、何してんの」
思わず近くにあった電柱に蹴りを叩き込んでしまった。
今、自分は何を思ったのか。あの男が可愛い? こんなバカで無神経で親に逆らえもしなくてその癖無駄に賢くて何でも出来ることが腹立たしさに拍車をかけているこのアホタレを、可愛い?
ないないないない。これが可愛いのならば、紫原敦も可愛いことになる。
「電柱なんて蹴ったら危ないよ。足の方にダメージ行くから」
「う、うううるさいわね!」
「あ、もしかしてカブトのライダーキックに憧れた口? 俺と一緒」
「調子に乗るな! 大体、何よさっきのクッサい台詞。結局、ふゆのキャラをバラしてる内容だったじゃない」
「いや、もうバレてたでしょ。ていうか、バレるのって別に初めてじゃないんでしょ?」
「っ、う、うるさいわね。ていうか、あんたも結局、素のふゆより、猫被ってる方が好きなんじゃない」
「そんな事ないよ。素の黛だって性格悪いって思ってるだけで、普通に好きだよ」
「好きとか普通に言ってんじゃないわよ! このバカ素直!」
こいつに恥じらいとか、そういう概念はないのだろうか? いや、コイツの言うことだから恋愛のそれじゃないとわかっているが、それでも恥ずかしくなる。
「ていうか、そんなんで誤魔化そうなんて甘いのよ。性格悪いって言ってる時点でお察しじゃない」
「素の黛とは趣味が合うし正直だから好きだし、猫かぶってる時は人の悪口言わないし協調性あるから好きだよ」
「っ〜〜〜!」
こ、この男は本当に……! と、再び赤くなった時が限界だった。思わず手が出た。パァンっとビンタしてしまい、直撃した樹貴は吹っ飛んでしまった。
「こ、これだからチャラチャラした男は嫌なのよ! もう帰る!」
「……顎外れるかと思った……」
そのまま冬優子はズカズカと帰宅した。何がムカつくって、やっぱりちょっと褒められると嬉しかったところだ。
今の今まで、ラブコメを読んでて「褒められるだけでこんな喜ぶ女子なんていないでしょ」と思っていたのに……まさか、好きでもない男に実際、褒められるとこんなに胸を満たすとは。
これが好きな男に言われるのがアニメのキャラなので、それは嬉しいことだろう。
「っ……たくもうっ……!」
あの男の所為だ。ここ最近は冬優子の平穏が乱されつつある。とにかく、もっと気を強く持たなくては。
そう言い聞かせながら、さっさと早足で帰宅し……ている途中、本屋が目に入った。
「あら……一番くじもうすぐ発売じゃない。あいつ買うのかしら?」
そんな独り言を呟き、一緒に一番くじを買いに行き、冬優子だけフィギュアを当ててドヤ顔で煽り散らかしてやる所まで想像しながら「ぐへへっ」と心底、底意地の悪い笑みを浮かべながら帰宅した。