黛の高校生活は、青い春というよりただただ沼だった。   作:バナハロ

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夏休み前と宝くじ当選発表前は同じ。
ヤバめの現実、何とかしろ。


 夏も近づいてきて、もうすぐ夏休み。それに伴い、冬優子のテンションは沸々と上がって来ていた。

 何故なら……夏休みは色んなキャラの衣服が薄くなる季節だから。性別に関わらず、冬服から腕捲りへ、腕捲りから夏服へ、夏服からワイルドなノースリーブへ、ノースリーブから水着へ……と、変化していく。たまに浴衣や甚兵衛にもなり得るので、衣装替えが好きな人にとっては最高の季節だ。

 だが、それらが実装される前に、高校生達にとって最後の関門が待ち受ける。

 

「はぁ……もうすぐ期末かぁ……ダリぃ……」

「ル・ローレンツ?」

「ちっげーよバカ。手足切り落としてねーよ」

 

 隣の席の男子達は今日も漫才をしている。ちなみに冬優子はダリル派だしサイコザク派だ。

 

「めんどくせーだろ? 勉強しないとだし」

「いや別に」

「そうだった……お前賢いんだった……けっ、優等生が」

「優等生になれば良いじゃん。勉強も運動もやれば出来るようになるよ」

「ならねーよ! 一緒にすんなクソ天才野郎が!」

 

 全くだ。冬優子も別に苦手ではないが、やはり理科系科目だけはどんなにやっても70点を超えることは出来ない気がする。

 

「大丈夫大丈夫、人間追い込めば何だってできるようになるから」

「追い込むのかよ……」

「アムロだってカイさんだって、追い込まれてから変化したでしょ。そうだよ、戦争すれば人は変われるんだよ」

「テスト勉強の為に戦争起こすバカがどこにいるよ!」

「よし、やるか。手、貸して?」

「懐かしいなオイ!」

 

 二人て手を繋ぐ。男同士が手を繋ぐ様は普通なら気持ち悪いのかもしれないが、冬優子的には得であったりなかったりするのは内緒だ。

 さて、その二人はその握手の上で、反対側の手で軽く叩き合いながら言った。

 

「「せーんそうっ」」

 

 勝ったのは樹貴。つまり、樹貴からだ。

 

「グンカングンカンチョーセンっ」

「チョーセンチョーセンハワイっ」

「ハワイハワイハワイっ、ハワイハワイハワイっ、ハワイハワイハワイっ」

「何回ハワイで勝つんだよ!」

 

 いやグンカン出すお前が悪い、と思った冬優子もここはスルー。さて、次の前田はチョーセン? いや、そう来ると読んで向こうはグンカンを出すだろうし、むしろハワイか。

 

「ハワイハワイチョーセンっ」

「読まれるし!」

 

 冬優子も同じ感想を抱いた。読まれたことに思わず顔が赤くなるのを見られないように隠した。話してなくても腹立つとか、ホントこの男なんなのか。

 

「チョーセンチョーセンチョーセンっ」

「あっ」

 

 あいこだ。つまり……握ってから手を叩かれるわけで。

 

「一本取って、グンカン」

「痛っ……!」

 

 教室内に響き渡る威力で「パチン!」という手の甲に平手打ちする音が広がる。

 

「……なるほど」

「グンカングンカンチョーセンっ」

 

 開戦の狼煙を上げられたことで前田の眼光は強く光るが、気にせずに樹貴はゲームを続ける。

 

「チョーセンチョーセンハワイっ」

「チョーセンチョーセンハワイっ」

「チョーセンチョーセングンカンっ、一本取ってハワイっ」

「チョーセンチョーセングンカン」

「ハワイハワイハワイっ、一本取ってチョーセンっ、二本取ってハワイっ、三本取って上がり!」

「いってええええええ! テメェ一発くらい殴らせろ!」

「いやじゃあ勝てよ」

 

 たかだかジャンケンとはいえ……あまりにも前田が弱過ぎる。見事に樹貴が叩くだけ叩いて終わった。

 

「もっかい!」

「マゾなの?」

「何で俺だけ叩かれる前提なんだよ!」

「強いから俺。じゃんけんで負けたことほとんどないんだ」

「お前、何なら出来ないわけ⁉︎ ……あ、その分性格悪いのか」

「え、何でそんなこと言うの」

 

 それには冬優子も同意しつつ……さて、困ったことになった。冬優子もそのゲーム、少しやりたくなって来てしまった。

 だが、それは流石にダメ。そんな事したら、自分の本性が出てしまう……でもやりたい。樹貴の手の甲を殴りたい……。

 

「黛もやる?」

「おい、やめとけ」

「やらないよ?」

「でも、やりたそうにしてたじゃん」

 

 コイツ本当なんでそんなに鋭いのか。察しなくて良いところで察してくれやがって……と、少し苛立つ。

 確かに、樹貴の手をぶっ叩く良い機会ではあるし……その、正直楽しそうと思わないでもないのだが。

 

「してないよ?」

「負けるのが怖いなら別に良いけど」

「……ふふっ、安い挑発だね。買ってあげても良いよ?」

 

 一生懸命マイルドに言葉を変えながら頷いた冬優子だが、無意識に開いた手からパキパキと音が鳴っていて、前田はドン引きしていることに気が付かなかった。

 さて、そんなの気にせず二人はまず手を繋ぐ。こうして触れ合う機会は改めて思い返すとあまりなかった。なので……意外とゴツゴツしている男の子の手に、改めて異性を感じさせられる……ような事はなく、ただただ冬優子は殺意を募らせていた。

 

「負けたら?」

「ふゆのおすすめのお店で奢ってくれる?」

「良いよ」

 

 よっしゃ、と契約を結び……いざ、デュエル。

 

「「せーんそうっ」」

 

 まずは冬優子の先行。グーで勝ったので、そのまま冬優子が詠唱する。

 

「グンカングンカンチョーセンっ」

「グンカングンカンハ……グンカンっ」

「ハワイハワイチョーセンっ」

 

 あいこ! と、好機を見つけ、一気に手で火花を散らす音を立てた。

 

「一本取って、グンカン!」

 

 あいこは崩れた、だがじゃんけんでは勝っているのでまだ冬優子のターン。

 

「グンカングンカンハワイ」

「チョーセンチョーセングッ……ハワイ」

「ちょっと待ちなさい」

「え?」

 

 流石に二度目は気がつく。この野郎、本当に舐めた態度を取るものだ。だが、何とかこのバカに感情をコントロールされないように笑顔を取り繕う。

 

「み、水上くん? さっきからわざとじゃんけん負けてない?」

「あ、バレた」

「えっ、ま、マジで? どうやって?」

「ヒント、真実の剣」

 

 ハンターハンターのグリードアイランド編の話だ。じゃんけんの勝ち方をゴンが漁師のおっちゃんに教わった事をやってのけた、という事だろう。

 

「何でできるの……?」

「練習した」

「どんな動体視力?」

「ていうかお前、てことはさっき本気で叩いた時、勝つのわかっててあの強さで殴ったのか?」

「だから『マゾなの?』って聞いたじゃん」

「リトルフラワー!」

 

 なんて暴れ始めるバカ達だが、そんな楽しそうな真似は当然、許されない。そもそも自分と遊んでいたのに放置されるとかムカつくにも程がある。

 

「待って、水上くん」

「動き全てが罠だぜ。……何?」

「ぐぉっ……い、良いフックがレバーに……」

 

 ぶっ倒れた前田を置いといて、冬優子は樹貴の手を改めて握った。

 

「私とまだ勝負の最中だよ?」

「いや……いいでしょ別に」

「挑んできたのはそっちなのに何言ってるのかな?」

「いや、挑んでから気付いたのよ。黛の手、三回も叩いて傷つけたりしたら嫌だなって」

 

 つまり……冬優子の身を案じてわざと負けていた、ということだろう。確かに戦争は昔でこそ男女でも遊べる上に手を繋ぐことも周りに揶揄われないように出来るラブコメにも転換できるゲームだ。

 だが、成長期を超えて体格に差が出て来た男女がするには、加減しないと怪我のリスクはどうしても出て来る。

 意外とそういうとこ配慮してくれるんだ……などという優しさを感じることは勿論なく。

 

「ふふ、やっぱり勝つ前提なんだ。ふゆ、殺る気出て来ちゃったな♡」

 

 むしろ殺意が高まって来た。絶対に負かす。仕方なさそうに、樹貴もそれに応じて手を繋いだ。

 

「覚悟してね?」

「まずジャンケンに勝てよ?」

 

 だが、冬優子は薄く笑う。舐められたものだ。キルアが好きだった中学生冬優子も当然、マスターしていて。

 油断している最初が肝心……と、冬優子は心の中で邪悪な笑みを浮かべながら、早速最初の一戦目を始めようとした時だった。

 

「わぉ、ふゆちゃん、水上と手繋ぎしてる」

「えっ」

「やっぱそういう関係だったん?」

 

 前野が入って来てフリーズしてしまった。確かに、教室に今入って来た奴にとっては、手を繋いでいるように見えるだろうが……いや、ていうか……これ、冬優子が初めて手を繋いだ男子が、樹貴……? 

 うがあー! と怒鳴りながらバンジーガムからのラリアットをかましたい気持ちを堪えながら、笑顔で取り繕う。

 

「そ、そんなんじゃないよー?」

「えー、ほんとにー? 教室で随分と大胆な真似してるのにー?」

「俺もビックリしたよー。急に『手を繋ぎたい』とか言われたからさー」

「どんっ……な超訳をしてるのかなぁ? ……水上くん」

 

 鈍器で撲殺☆ 、とお通ちゃん風に言おうとしたのを慌てて引っ込めた。この男、あとでぶっ飛ばす。

 

「とにかく、そういうのじゃないよ」

「ほんとかな〜?」

「ほんとだってばー」

 

 前野に誤魔化しながら何とか話を逸らす。ちょっとこの前、助けられたこともあったとはいえ、やはりこのバカを前にすると気が抜けてしまう。改めて気をつけないと、素が周りにバレる。

 とりあえず……この男には後で説経が必要だ。

 

 ×××

 

 さて、放課後。樹貴が帰宅の準備をしていると、隣の席の冬優子が声をかけて来た。

 

「水上くん、今日は暇?」

「え、なんで?」

 

 ちょっと驚いた。冬優子の方から遊びに誘ってくれるとは。でも急にどうしたのだろうか? 

 

「なんでって……普段からふゆのこと遊びに誘ってくれるから、たまにはふゆから誘わないとな、って思って」

「……」

 

 思わず絶句した。それはつまり……冬優子も少しくらい今まで楽しいと思ってくれていた、という事だろうか? 

 ヤバい、そう考えると非常に嬉しい。ちょっと涙が出そうなほど。今の今まで、冬優子からはどちらかと言うと嫌われていて、ただオタク趣味をばらされないためにオタクトークをしてくれているものだと思っていたから。

 

「うん、分かった。何処行く?」

「ふゆ、ポケモン好きなんだ」

 

 つまり、ポケカか、と理解。ポケモン程度なら教室で話してもオタク判定されないと踏んでの判断だろう。

 

「良いよ」

「やった」

 

 お店に買いに行くのか、それとも普通にゲームするだけなのかは分からないが、今は追求しない方が良い。もしゲームする方だったらどちらかの家でやるわけだし、周りにバレる……なんて思っていると、冬優子は少し屈んで、座っている自分の耳元で囁いた。

 

「戦争でつかなかった白黒、ポケカでつけるわよ」

「……」

 

 ガッッッカリした。普通にガッカリした。この子、何に執着しているのか、と普通に肩を落とす。

 

「ちょっと、何よその態度。勝てもしないのに良く挑んでくるな、とでも言いたいわけ?」

「別に……デートだと思ってソワソワしてた自分が恥ずかしいだけ」

「でっ……そ、そんなわけないでしょバカ!」

「そうね……バカでしたね……」

 

 まぁ、やはり冬優子にとって自分は都合の良い男なのかもしれないが……まぁ、好きな子と放課後一緒にいられるわけだし、ラッキーと思っておくことにした。

 さて、そんなわけで二人で帰宅。のんびりと歩きながら、樹貴は首元に人差し指を差し込んで、パタパタと風を入れる。

 

「あっついなぁ、もう夏かぁ」

「先月からでしょそれは」

「そりゃそうだけどさ。黛は暑くないの?」

「暑いに決まってるでしょ。この時期は最悪よ。汗ばんで化粧も落ちるし、臭いとか一々、気にしないといけないし、服も帰ったら毎回ぐしょ濡れになってるし……」

「臭い? 黛が臭かったことなんてただの一度もないよ」

「何あんた。嗅いだ事あるっていうわけ?」

「すれ違ったりする時たまに」

「……ヘンタイ」

「香ってきちゃうんだから仕方ないじゃん」

 

 別に嗅ごうとしたわけではない。でも良い匂いでした。

 しかし、冬優子はどうもお気に召さなかったみたいで、ジト目のまま続けて言う。

 

「そういうの、本当だとしても言わなくて良いから。匂いを褒められて喜ぶ女の子なんて二次元にしかいないから。良いとこ少しホッとするレベルの話だから」

「黛は嫌なの?」

「当たり前でしょ」

「じゃあ言わない」

「良し」

 

 なるほど……もしかしたら、フォローもポイントによっては複雑なのかもしれない。別に好かれるために言ったわけではなく、臭いを気にしていたから臭くないよって言っただけのつもりだが、うまく伝わらなければ意味がない。今後は控えよう……と、思っている時だった。

 

「ま、あんたは嘘つくような人じゃなさそうだし、ホッとはしたけど」

「……」

 

 じゃあ、まるっきり嫌だったわけでもない……? いや、違う。むしろ自分をフォローしてくれているのだろう。……やっぱり、冬優子は優しくてカッコ良い。

 

「黛ってほんとに良い奴だよね。素でも素じゃなくても」

「なっ……何よ急に……!」

 

 あ、照れた、と頭で理解した時には口に出ていた。

 

「今、照れた?」

「だからデリカシー!」

「よしよし、じゃあ一回帰ってシャワー浴びてからカードやろっか」

「な、なんでふゆの家のシャワーをあんたにまで貸さないといけないのよ!」

「え? いや一旦帰るけど。カードないし」

「〜〜〜!」

「ちょっ、怒らんといて。叩かないで叩かないで」

 

 膨れっ面になった冬優子に、両拳を振り回しながら肩をぼかすかと叩かれながらも、二人で帰宅した。

 

 ×××

 

 さて、冬優子の家でのポケモンカードゲームバトルも終盤。二回こなした後で、お互いに一勝一敗のイーブン。

 そして……最後のサイドカードを取った。樹貴が。

 

「よっしゃ、取った」

「あーもうっ! もっかい、もっかいよ!」

「いや割と時間経過してるし……」

 

 二人揃って白熱した上に、一度家に帰ってから集合なんて小学生みたいな遊び方をしていただけあって、時間はそこそこ夜だ。

 でも自宅の冬優子にはそんなの関係ない。

 

「あと一戦! あと一戦で良いから!」

「子供かよ……や、ていうかおばさんも夕飯の準備始めるし……」

「うぐっ……!」

 

 そういう通り、冬優子の母親は当然、家にいて台所に来ていた。

 そこで、ハッと樹貴は思い出したので改めて言っておく。

 

「あ、でも約束通りおすすめのお店で奢りはよろしくね」

「あんた諦めさせる気ないでしょ! もっがい!」

 

 ガックガックと樹貴の胸ぐらを掴んで揺する冬優子。実を言うと、昨日こっそりカードを買いに行って改良したのに負けたから、ドチャクソ悔しいのだ。

 

「じゃあ少しデッキ変えたら? なんかあんま回ってなかったよね」

「そ、そう? 博士の研究四積みしてるし、ネスボとハイボも入れてるんだけど……」

「むしろハイボが邪魔してたんじゃないの。てかカード見せて」

「……仕方ないわね」

 

 なんかちょっと流される形で冬優子は部屋から残りのカードを取ってくることにした。そこで、ふと思い出したので、ついでに机の上に飾ってあるカードも手に取った。

 

「はい。これ」

「……増えたなー、こうして見ると……って何これ?」

「ふっふーん、可愛いでしょ?」

 

 SRのカスミのカードをローダーに入れて飾っておいたのだ。

 実は割と冬優子は初期のポケモンの三人のメンバーが好きだったりする。サトシ、カスミ、タケシのトリオは忘れられない。

 

「ホントだ。え、これ引いたの?」

「引いたわよ? 良いでしょ」

「マジか、良いなー」

「これ、買うと高いのよー? カード屋で見たら一万円くらいするんだから」

「え……す、すごいなそれ……」

 

 流石に予想外だったのか、樹貴も面食らっている。良い機会だ。ドチャクソにマウントを取ってやろう。

 

「ていうか、あんたは? 何かCHRとかSR引いた?」

「え、まぁ何枚か」

「どんな?」

「これ」

 

 樹貴が出したのは、ヤドン&コダック。可愛いけど……これは高額カードではない。ポケモンカードにおいて、可愛い女の子以外のカードは皆、低額なのだ。

 

「あらぁ、せっかくのSRなのにハズレなのね〜?」

「え、そう? そっちが持ってるカスミの相棒も映ってるけど、ハズレってことはなくない?」

「……」

 

 確かに、と思ってしまった。なんかマウントを取ろうとしてマニア度でマウントを取られた。

 

「あ……あんた、ホント嫌な言い方ばかりするのね……!」

「え、なんで?」

「……いや、それはふゆの方だったわね……」

 

 純粋な奴と一緒にいると、やはり自分が少しずつ嫌になる。性格の悪さが浮き彫りになっているような気がして。

 しかし、そんなの何一つ気にした様子を見せない樹貴は、そのまま思いついたように言った。

 

「あ、水タイプといえばさー、そろそろ夏だし……海とか行かない?」

「何よ急に……何でふゆがあんたと二人で海なんか行かないといけないのよ」

「えー、だって夏だよ? 泳ぎたいじゃん」

「ふゆは嫌。お肌は焼けるし、髪のケアも大変だし、別にスタイルも良くないし、リア充見るのもしんどいし」

「つまり……恥ずかしいの?」

「どんな解釈してるのよ! 面倒だから嫌だって言ってんの!」

 

 思わず怒鳴ってしまったが、ちょっと的を得ているような気もする。面倒だから、なんて言い訳で断ったこと自覚はあった。

 でも……実際、恥ずかしいのだから仕方ない。水着なんてほとんど下着同然だし、かといってスク水もここ最近じゃビキニよりえっちとして扱われるし、なんかあまり行きたくなくなっている。

 

「ていうか、あんたは恥ずかしくないわけ? 外で上半身裸になるのよ?」

「全然。去年もクラスメートと行ったし」

「……良いわね、男子は」

「女子もいたよ?」

「リア充かあんたは! ……そうだったわね!」

 

 なんかちょっとイラついた。そういえばこの男……普通に彼女とかいた事あるし、その上でオタクで勉強も運動もできる……なんだこいつホントに。自分と同じ趣味を持っていて同じ学校に通っていて同級生なのに……。

 

「……狡い」

「え?」

「何でもないわよバカ」

 

 ……そうだ。でも今そのリア充ジャパン代表みたいな男も、自分に遊んで欲しくて誘って来ているのだ。ならば……なんかちょっと振り回してやりたくなった。

 

「ま、海以外なら付き合ってあげても良いわよ?」

「ほ、ホント? 何処なら?」

「それはあなたが考えなさいよ。男でしょ」

「じゃあ川!」

「本物のバカかあんたは!」

「え……なら湖?」

「どんだけふゆを脱がせたがるのよあんたは! このどすけべ!」

「いや、足だけ浸かるだけでも、それはそれで良いんだけど……」

「……」

 

 確かに、今のラインナップはやたらと自然を強調すると思っていたが、プールが無かった。

 いつのまにか彼が水着を見たがっているだけのように見ていたことに気がつき……むしろ自分がすけべなのでは、なんて思ってしまって顔が赤く染まる。

 

「〜〜〜っ! もう最低よ! 女の子に恥ばかりかかせて……!」

「え、そんなつもりはなかったんだけど……俺は、黛と一緒ならどこでも楽しいよ」

 

 こ、こいつ〜……! と、怒れば良いやら恥ずかしがれば良いやら喜べば良いやらで顔が赤く染まる。

 そんな冬優子の様子を、少し微笑ましく思うように樹貴は笑みを浮かべてから話を戻した。

 

「ていうか、ごめん。そういう話は試験終わってからのが良いか。それより、カード見よう」

「……そうね」

 

 話しながら、冬優子はとりあえずデッキを組み直すことにした。

 

 ×××

 

 樹貴が帰った日の夜、冬優子は脱衣所で服を脱ぎながら、ふと鏡を見る。ブラとパンツだけ装備した自分が鏡に映る。

 海、か……と、冬優子は少し感慨深く思った。去年もクラスに友達はいたけど、そう言う話にはならなかった。

 というか……去年の夏休みの思い出って、夏コミとバイトくらいしかない。なんだかんだ、クラスメートには自分の外面とか見抜かれていたのだろう。

 そう思うと、夏休みに友達から遠出を誘われるなんて初めてのことかもしれない。

 

「……」

 

 ……断っちゃったの、少し惜しいことしたかも、と思わないでもない。向こうは試験後に話す、とか上手く誤魔化して話題を変えてくれたが、断ったあとの気まずい空気を回避しての事だろう。あの野郎、ちょっと気が利きすぎだ。

 いや、というか……だ。自分が気を利かせなさ過ぎるのだろうか? 今思うと、正直に言うと正体がバレたが最後、あの馬鹿たれの前ならどんな振る舞いをしても構わない、と思っていたとこがないわけでもない。

 まぁ実際のところ、学校の誰よりも一緒にいて気疲れしない相手では……。

 

「いや……バカみたいにツッコまされてるしそうでもないか」

 

 ある種、疲れてはいるが、どちらにせよ気を使うことないと言う意味では、彼の前でいるのは楽だ。知らず知らずのうちに、それに甘えていたのかもしれない。

 ……でも、そういう相手に夏にしか行けない場所に誘われたのだから、もう少し考えてから返事をすれば良かったのかもしれない。

 

「……」

 

 改めて鏡の中の自分を見る。

 ……いや、水着を着るにしても少しこの身体は見せられない。最近はポケカにアイテムありスマブラ、スマホゲーなどとインドア趣味に知っているし、ちょっとヤバい。脚、特に脚。

 まぁ……行くにしても行かないにしても、体を絞る時間が欲しい。そういう意味では、断っておいて良かったのかも……なんて思ってしまったり。

 特に、樹貴と薄着になって横に並ぶのなら、相当頑張らないとダメだ。

 とりあえず、しばらく勉強しながら運動も頑張ることにした。

 

 

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