黛の高校生活は、青い春というよりただただ沼だった。   作:バナハロ

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一人より二人。

 しかし、人間は適応する生き物だなぁ、と冬優子はしみじみ思ってしまった。慣れる、というのは人間に備わった便利な能力であると同時に、危険なものも秘めている気がする、なんて少し心理学的なことを理解した気になってしまう。

 まぁ、でもそれだけの適応能力があるからこそ、人間の社会にはブラック企業が溢れているのかもしれない。もしかしたら、そのブラック企業と慣れを生み出す決まり文句が「お前だけが辛いわけじゃない」というありがたいお説教の可能性もある。

 そんな話はさておき、だ。冬優子も隣の席のバカッタレのバカコメントやバカ行動に慣れて来てしまっていた。

 それに、その辺のバカさ加減を抜きにすれば、ちゃんと冬優子の素のことは秘密にしてくれているし、気がつくところに気が付いてさりげなくフォローしてくれるし、悪い奴ではないのは分かる。バカさ加減を抜きにすれば。

 なので、その日の最後の授業であるLHRの時間、冬優子は少し油断していた。

 のんびりと冬優子は前の席の女子と談笑していると、教室の扉が開かれたので黙ってお互いに前を見る。

 

「よーし、全員席につけー。日直、号令」

「あ、はい、きりーつ」

 

 号令がかかって、全員が立ち上がった。

 

「れーい。着席」

 

 間延びした挨拶を終えて、席に座る。先生はチョークを握ると、黒板に文字を記していった。

 そこに書かれていたのは「委員会」の文字だった。

 

「これを決めるぞー。全員が全員、入らないといけないわけじゃないが、クラス全員で埋める必要はある。積極的な協力を求めるぞ俺はー」

 

 そう言いながら、手に持っている委員会に関する要項をまとめられたプリントを配る。生徒会委員は別として、あるのは「学級委員」「風紀委員」「美化委員」「図書委員」「保健委員」「体育委員」「文化祭実行委員」「旅行委員(二年生のみ)」など様々。

 最後の二つはイベントの時で仕事は終わりっぽいが、その期間は忙しくなることだろう。

 逆に、他のは年間を通して仕事がありそうだ。

 さて、どうしようか? そんなの決まってる。所属はパスだ。他の人には悪いが、素顔がバレないためにも、可能な限り他人と接触する機会は避けたい。

 一応、先生が口頭でプリントに書いてあることを読み上げながら説明したあと、まとめるように言った。

 

「じゃあ、まずは美化委員やりたい人」

 

 あの先生、人気がない奴は後回しにする作戦に出た。美化委員なんて、書いてあることを理解する限り、水曜日の放課後に集まって校庭や校内を掃除して回るだけ。

 まぁ、冬優子はそもそも委員会に入るつもりがないのでスルー。体育委員会だけは、体育祭とかで間近でムキムキの男の子が走っている姿を見れると思うと悪くないが……それでもリスキーなのでお断りだ。

 渋々ながら、或いは割と積極的に生徒達がサクサクと委員会が決まっていく。

 そんな中、先生が次の科目を口にした。

 

「じゃー次。旅行委員」

 

 旅行委員……早い話が、修学旅行を取り締まる委員会。そこしか仕事がない反面、高校生活一回の修学旅行が確実に面倒になることが約束された委員会だ。

 書いてある事は、旅行先で利用した移動手段、宿での忘れ物チェック、クラスメートの点呼、自由行動時、集合場所にて全班のチェック、食事の挨拶、クラス行動時の行き先を一箇所、決められる……などなどだ。

 最後のは魅力的かもしれないが、旅行の時くらい余計な負担はいらない……と、思っている時だ。

 

「はーい」

 

 手を挙げたのは、隣の席のアホだった。それを見るなり、先生はフッと笑みを浮かべて教壇の上を見下ろすこと数秒……ぬぼーっと顔を上げて言った。

 

「他いねーのか他」

「酷くね⁉︎」

「お前……自分の行動を思い返してみろよ。初日に教科書を全部間違える、体育の体力テストで堂々と前田の邪魔をする、今日の化学の授業じゃ、すっ転んでフラスコ叩き割ったらしいな?」

「修学旅行ではそんな事起きませんよ」

「すごい前向きだなお前」

「先生は後ろ向きですね。生徒が前を向いてるのに、あなたが後ろを見てどうするんですか」

「そういうとこだぞお前に任せたくないの」

 

 何せ、そのセリフは言われてる人が言うセリフではない。先生が同期や先輩に「うちのクラスの問題児がさぁ……」と飲みの席で愚痴った時に言われるべきセリフである。

 冬優子は爆笑している周りの生徒達に混ざって、ただ笑いを堪えていると、先生に声を掛けられた。

 

「黛、お前もやらないか? 旅行委員」

「えっ……な、なんでですか?」

「ちょっと任せるの不安だから。前田でも良いと思ったんだけど、委員会はそもそも男女じゃないとダメな奴だから」

「……」

「俺一人でも大丈夫ですよ?」

「分かったから黙っててどうぞ」

 

 超嫌だ……と、思ったが、ここで断るのは「ふゆ」ではない。何とか笑顔を取り繕い、頷いてみせた。

 

「分かりましたぁ♡ 任せて下さい」

「ほっ……さんきゅ。ほんとに」

 

 と、いうわけで、本当に渋々ながら、冬優子は委員会に入ってしまった。なんか……ホント、樹貴と知り合ってから何もかも狂わされている気がする……と、静かで確かな怒りを込めてため息を漏らしてしまった。

 

 ×××

 

 さて、放課後。とりあえず、樹貴は帰宅の準備をする。今日は特に予定はないが、せっかくなので修学旅行先の事を調べておこうかなーなんて思ったので、図書室に向かう所だった。

 その樹貴の元に、忍び寄る影。ガッと後ろから肩を掴まれた。振り向くと、そこには目の下の影をこれでもかと言うほど濃くした黛冬優子が、ニコニコ微笑んでいた。

 

「水上くん。ちょっと良いかな?」

「ごめん、俺この後バンドの練習あるから」

「へぇ、何の楽器担当?」

「カスタネット」

「ちょっと良いかな?」

「……」

 

 ギターと言った方が、信用されただろうか? なんにしても、逃げられそうにない。肩ミシミシ言ってるし。

 

「あの……もしかして、ブチギレてる?」

「ちょっと良いかな?」

「銀行と言わないと永遠に『ダメだ、話にならん』としか言わない祐介の如く……」

「ちょっと、良いかな?」

「……良いです」

 

 ヤバい、何を言っても誤魔化せそうにない。そのまま冬優子に連行された。

 さて、その連行された先は屋上。正確に言えば、屋上に出るための扉の前。そこで、まるでヤンキーに絡まれるかのように冬優子に壁ドンされていた。

 

「……どうしてくれるのよ」

「えっと……委員会の件?」

「そうに決まってるでしょ……! あんたの所為でふゆまで巻き込まれたじゃない……!」

 

 声を抑えようとしているのか、大きな声は出していない。でも圧はあった。思わず背筋が伸びる程度には。

 

「や、まさか俺もああなるとは思わなんだ」

「それはそうかもしれないけど……! ていうか、なんであんたが旅行委員なのよ!」

「いや……ノリ? 行き先決められるって書いてあったから、ちょっとやってみたくて」

「意外と普通の理由……!」

「俺はいつでも普通だよ」

「あんた……!」

 

 むしろ自分が普通じゃ無かったら誰が普通なのか? と言わんばかりに小首を傾げる樹貴。

 まぁ……でも、せっかくの女の子の友達だ。このまま怒らせ続けるのは本望ではない。

 

「でも、ごめんな。俺が原因ではあったし」

「っ……そ、そうやってすんなり謝れるとこ……!」

「?」

 

 悪いと思ったら謝るべきではないだろうか? まぁ、何にしても今はとりあえずスルー。それよりも、だ。

 

「黛はどこか行きたい場所ある? 俺、これから図書室で観光地探しに行くんだけど……」

「……」

 

 なんか、怒るに怒れなくなった、みたいな感じになってしまった冬優子が、ため息をつく。

 

「はぁ……良いわよ。行きましょ。候補はあるの?」

「ないよ、今決めようと思ったんだし。……ていうか、多分こういうのって、学校側が決めた候補の中から選ばせてもらえるってだけだと思うし、それが分かんない事には正確な予測なんて無理だから」

「え、じゃあ何を頼りに調べるつもりよ」

「や、適当に。まずは観光地が何処にあるかーとか。大体、クラス行動で行くところなんて有名で歴史的価値があるとこだって分かるから」

「……」

「何その意外そうな顔」

「あんた……もしかして賢いの?」

「そうだよ?」

「今の返しはバカっぽいけど」

 

 失礼な……と、思いつつも、立ち上がって冬優子に声を掛けた。

 

「じゃ、行こっか」

「ん」

 

 そのまま二人で階段を降りて図書室に向かった。

 

「そういえば、黛」

「何よ?」

「今年のFGOの水着、なんだと思う?」

「……」

 

 それを言われて、冬優子の中のオタクスイッチが入った。

 

「そうね……去年誰だったっけ?」

「配布が邪ンヌ、☆5ジャンヌとBB、☆4が牛若、茨木、XX、メイヴ。霊衣がロビン、キャスギル、彼氏ヅラかな」

「ちょっと。エドモンを彼氏ヅラって言うのやめなさいよ。ぶっ殺すわよ」

 

 地雷だったらしい……が、まぁ確かに好きそうだし今のは自分が悪かったかもしれない。

 

「ごめんなさい」

「よし」

 

 謝ると、冬優子は顎に手を当てて考え始めた。

 

「意外と規則とかないのよね……あんたは誰が良いとかあるわけ?」

「巨乳」

「あんた本当に……いや、まぁ男子なんてみんなそうよね」

 

 意外とそう言うところあるんだ、と思ったが、ない方がおかしい。冬優子も細マッチョとゴリマッチョが大好きだし。

 

「去年の巨乳キャラ別にどれも好きじゃなかったからなぁ。今年は良いキャラが出ると良いなーって」

「はぁ? ジャンヌに邪ンヌにBBって、結構人気どころじゃない」

「いや俺は去年の当たりはXXだけだったから。……意外と巨乳だったし」

「……あれが好きなの」

 

 アホの子が好き……と言うよりも、見た目は激烈に美人なのに中身が残念な子が好きなのだ。二次元では。特に最終再臨の絵では撃ち抜かれた。

 

「じゃあ、今年は誰が良いわけ?」

「今年はー……そうだな。えっちゃんが良い」

「何も進歩がないのね……」

「そういう黛は誰が良いんだよ。霊衣」

「そうね……私なら」

「ま、どうせオルタニキ、燕青、ヘクトールとか言い出すんだろうけど」

「なんで分かるのよ!」

「お、当たり? でもタニキとか燕青はほとんど半裸だよな。水着になる必要ある?」

「は? 薄着なのが全てじゃないからあんた。あのクー・フーリンオルタが、バカンスに来て水着に着替えてるのよ? その時点でもう大分、萌えるでしょうが!」

「お、おう……声抑えような。周りに人いるから」

 

 思ったより独白されたので、落ち着かせるとハッとして口を抑える冬優子。今の仕草、少し可愛いかも、なんて思いつつ、そろそろ真面目に考察してみた。

 

「まぁ……ぶっちゃけると、多分ぐだぐだ、アルトリアのどれか、1.5章から一人ずつ誰かしらは来るんじゃね」

「その心は?」

「いや、勘。去年居なかったからって感じ……あ、アルトリアはいたか」

「じゃあ、当たったらiT○nesカードご馳走してあげる」

「は? 本気?」

「本気よ? 3000円分ね?」

 

 マジか、と思いつつも、自分にしかメリットがないのは少し嫌だ。

 

「じゃあ、こうしようや。お互いに6……霊衣含めて9人分の水着を予想。当たった人数が多い方が勝ち」

「あら、ふゆにもチャンスをくれちゃって良いのかしら?」

「あー良いよ。どうせ俺、勝つし」

「上等じゃない」

 

 話をしていると、ちょうど図書室に到着した。お金が掛かっているゲームなので、細かくルールを決めた方が良い。

 二人で席に座ると、ルーズリーフを取り出した。

 

「でも、お互い一人も当たらなかったら?」

「あー……じゃあ、ポイント制にしようか」

「どう決めるのよそんなの」

「特異点、異聞帯ごと。同じ外してもそのキャラが実装されたキャラと同じ特異点、或いは異聞帯にいたら1点。ぐだぐだとセイバーウォーズ、羅生門の場合はシリーズごとで、他のイベントは無し。ピタリ賞は……そうだな。3点」

「三倍?」

「よーく考えてみようや。酒呑童子とか、羅生門と下総国に出てるだろ?」

「……なるほどね」

 

 つまり、頼光を仮に選んだとして、実装されたのが酒呑童子だったら、それで二点取れてしまうわけだ。それとピタリ賞が同じポイントなのはおかしいと踏んでのことだ。

 

「ぐだぐだに出てくるメドゥーサとか、本編後のキャラは?」

「あー……どうするか。それもぐだぐだの一部で良いんじゃね。でもセイバーウォーズにちょっと顔出しただけのキャラはダメ。ていうか、セイバーウォーズはヒロインX、えっちゃん、リリィだけかな」

「なるほどね……バレンタインとか正月とか……あと、クリスマスのキャラは?」

「それもあったかー……じゃあ、その辺はピタリ賞で4点にしようか」

「ね、せっかくだし、レアリティも当てたらさらにボーナスつけない?」

「良いなそれ。じゃあ、レアリティ当てたら+0.5」

 

 などと、話しながらルーズリーフは埋められていく。

 ルールをまとめる。

 

『タイトル:FGO水着鯖ニアピン対決〜敗北者には3000円罰金じゃけぇのぉ〜』

 ・ルール

 より多くの水着サーヴァントを当て、多くポイントを手にした者の勝ち。

 罰ゲームは、勝者に3000円分のiT○nesカードを贈呈。

 ・配点

 クリスマス、正月、バレンタイン、周年イベントに実装されたサーヴァントのピタリ賞は4点。

 その他サーヴァントのピタリ賞は3点。

 実装サーヴァントと同じ特異点、異聞帯の場合は1点。ぐだぐだ、セイバーウォーズ、羅生門も同様。

 レアリティが当たった場合は+0.5点のボーナス。

 

 以上である。そうと決まれば、早速予想だ。

 

「じゃ、するか。予想」

「ちゃんとボールペンで書いて、その紙はお互いに交換するから」

「へいへい」

 

 話しながら、お互いにルーズリーフを出して予想を記していく。

 まず、さっき言った通りの三人を紙に書いた。ぐだぐだからは沖田総司、アルトリアからは、おそらく獅子王、そして1.5からは……アビゲイルか武蔵が来ると予想。

 どちらもありえる気がするが……まぁ、武蔵の方が先に実装されたし、武蔵にしておくことにした。レアリティは、沖田だけ☆4で他は☆5。

 問題は、残り三人と男性霊衣だが……まずは残り三人。さて、何にするか……と、考えた結果、さらに書いて完成した。

 

「よし、終わった」

「ふゆも」

「じゃ、交換」

「はいはい。今のうちにお金を貯めておくことね?」

 

 それだけ話して、ルーズリーフを交換。あとは、無くさないようにしなければ。

 見ないようにしてクリアファイルに入れて鞄の中に入れ、一息。そこで、ハッとした。

 

「って、違うよ。修学旅行先の予定決めに来たんだよ」

「そういえばそうだったわね……」

「ごめん、すっかり忘れてた」

「いやいいわよ別に」

「で、修学旅行ってこの高校、どこ行くの?」

「それも知らずに何を調べるつもりだったのよあんた!」

「声大きい。図書室だぞここ」

「んがっ……あ、あんた……!」

 

 まぁ、冬優子が来なかったら、普通に修学旅行とか関係なく行ってみたい国とかのことを調べていたかもしれない。

 

「俺、ペルソナやってからエジプト行ってみたいんだよな。まぁ中は絶対、ああなってないけど」

「なんでふゆとあんたは悉くやってるゲーム被るのよ……まぁ、気持ちはわかるけど」

「そうだ、エジプトについて調べてみるか」

「待ちなさい。何しにきたのか本当に理解して。団子どっこいしょの主人公なの?」

「あー、そうね。で、何処?」

「……沖縄」

 

 沖縄……中々、悪くない。何せ、海に入れば女子の水着とか見れる……なんてさっきまで水着の話題を振っていたからか、すぐに思ってしまった。

 

「沖縄の海か……泳ぎたいな」

「バカなの? 行くの10月よ?」

「沖縄なら平気でしょ」

「無理に決まってるじゃない。仮に行けたとしても、誰も泳がないわよ」

「黛は?」

「泳がない」

「……何しに沖縄まで行くの?」

「観光よ!」

 

 それも微妙に語弊があるが、少なくとも泳ぎに行くよりはまともな理由だ。思わず樹貴も意外そうな顔で冬優子を見ながら呟く。

 

「マジか、なんかみんな真面目だな」

「あんたが不真面目極まりないのよ。遊びに行くんじゃないのよ?」

「でも、みんなではしゃいで写真撮って現地のもの買うでしょ?」

「日本語を巧みに操って許可を出させようとしないで腹立つ!」

 

 そんなつもりはないんだが……まぁ、とにかくそれなら、本が必要だ。

 

「じゃあ、とりあえず沖縄の本、見てくるわ」

「じゃ、ふゆも」

 

 それだけ話して、二人で図書室内を散策した。

 

 ×××

 

 なんで、放課後まであの男に付き合わされてるんだろう、と冬優子は今更になって思った。

 確かに、声をかけたのは自分だ。だが、文句を言うつもりで呼んだのだ。感覚的には、校舎裏に呼び出した感覚。

 なのにいつの間にか怒るに怒れなくなって、なんか急に真面目なことを言い出され、そのまま楽しいこと言い出したのでついノってしまって会話してたら、そのまま一緒にバカの暇潰しに付き合ってしまっていた。

 

「はぁ……何してんだろ……」

 

 ツッコミ疲れた。何も旅行委員だからってこんなことに付き合うことないだろうに。

 でもまぁ、やると言ってしまったからにはやった方が良い。今は約束は守ってくれているが、もし仲悪くなる……或いは嫌われるなりして周りに自分の素がバラされたら最悪だから。

 そう思って何故か図書室にある旅行雑誌をいくつか見繕い、それを抱えて席に戻ると、バカがドラえもんの学習漫画を読んでいた。

 

「へぇ〜、カマキリの目って止まってるもんは逆に捕らえられないんだ」

「あわわわ、あぁっ! すみませぇん!」

「あいたぁ⁉︎」

 

 後ろから本を持ったまま突撃かまして、そのまま埋もれさせてやった。わざとらしく、カケラの謝罪の意も込められていない謝罪もプレゼントである。

 

「な、なんて攻撃的な紫式部……」

「当たり前でしょ! なんで人に探させといて自分は漫画読んでるのよ!」

「ごめんごめん。つい」

「ごめんで済んだら警察はいらないのよ!」

「え、こんなことで警察沙汰にするつもり? 怒られるよ?」

「どうしよう、本当に警察沙汰になりそう!」

 

 ボールでも握っているかのように半開きになった両手を上に向けて、怒りを漏れ出してしまっていた。アニメなら、紫色のオーラがドラゴンボールのように出ていた事だろう。

 

「とにかく、漫画は後にしなさい! 小学生に対する説教みたいなこと言わせないでくれる⁉︎」

「ごめんって。じゃあ沖縄に関すること書いてありそうなドラえもん取ってくるね」

「ドラえもんに頼るのはやめなさい!」

 

 リアルでこんなセリフを言うことになるとは思わなかった。この男は本当に何なのだろうか? 

 とりあえず、一人にさせておくとまたサボりそうなので、冬優子が持ってきた本を読ませる。

 

「やっぱり、クラス行動で行くとしたら首里城とかひめゆりの塔よね」

「首里城のが楽しそうじゃない?」

「まぁ……どうかしらね。どうせクラス行動なんだし、どっちに行ってもやることに大差はないと思うけど」

「そりゃそうかー……なんか、もっとこう……シーサーとか見に行きたい。生の」

「生でも石像でしょうが」

「まぁそうなんだけどさ。でも、生で等身大のガンダム見た時も感動したし」

「比べる対象が真逆過ぎるでしょ!」

 

 現地で信仰される空想の生き物と、宇宙世紀の白いMSを並べて語るのは如何なものか。

 

「あ、琉球ガラス細工の体験出来るんだ。ここは?」

「クラスみんなが体験終わるまで何時間かかるのよ」

「だよなー……」

 

 なんて話しながら、のんびりと雑誌を眺めているときだった。やがて、目の前のバカが声を漏らした。

 

「……大人しく先生から指示あるまで待とっか」

「なんだったのよこの時間!」

「謝るから許して下さい。スタバでキャラメル濃い奴奢るから」

「ドヤ顔したがる東京バイアスじゃないわよ、ふゆは!」

「え、じゃあいらない?」

「……いる!」

「はいはい」

 

 何その「仕方ないなぁ」みたいな感じ。少しムカつく……と、思っていると、そういえば、と思い出す。自分はもう隣の男にオタクだとバレている。

 ならば……正直、憧れていた「マグナ手伝え。MVPは俺で」というプレイングもできるのではないだろうか? 

 そうと決まればこの機会、試す以外に道はない。

 

「……あと、マグナ2手伝なさい。ふゆがMVP取れるように」

「はいはい」

「……」

 

 少し楽しみになったのを顔に出さないように、そのまま二人で学校を出た。

 

 ×××

 

 場所は、冬優子の実家の近く。割と遠くの高校を受験した冬優子と樹貴なので、そのままスタバに入って飲み物を持ち帰りで注文し、近くの公園のベンチに座って二人で飲む。

 学校の人間が近くにいない……それだけで、冬優子のスイッチは緩んでいた。

 

「ちょっ、何なのよ! シヴァもロペも何も落とさないじゃない!」

「ごめん、サザエ落ちた」

「はーあー⁉︎ ふゆがMVP取ってるのにどうしてよ!」

「日頃の行い」

「あんたがそれを言うなあああああ!」

 

 サザエとは、エウロペというレイドボスから落ちるSSR武器で1番の当たり。カツヲという召喚するだけで奥義ゲージがマックスになる召喚石が環境の今、それがないと始まらないレベルである。

 それが欲しくて冬優子は奮闘したのだが……悲しいかな。こう言う時、欲しいものは一緒にやっている方に落ちるものだ。

 

「まぁ良いじゃん。次はブローディア?」

「当たり前じゃない! 土は当たりSSR二つあるんだから……!」

「逆に、火は全部使えないよな。俺、アグニスで良かったわ」

「そうよ……あんたなんでイクサバ四本も揃ってるのよ……」

「や、なんか知らんけど、グラフェスで30連以上引いたら、必ず一本出るから」

「このクソ運……」

「その代わり闇死んでるからイーブンでしょ」

 

 なんて話しながら、二人で次のブローディアをやる。ブローディアとは、土属性のレイドボス。HP半分を切るまでは割とカモなのだが、そこから急に牙を剥き始めるタイプのそれである。

 まぁそれはさておき、冬優子にとってはこれが最近は楽しい。……なぜなら、グリムをこの前、引いたばかりだから。

 グリムは風属性で、ブローディアは土属性。弱点を取れるので活躍させる良い機会なのだ。

 

「よーし、やるわよ。今回は普通にふゆがやってもMVPくらい取れそうね」

「俺も未だにティア銃で背水やってるからさぁ。そろそろ琴で染めたい」

「ふゆはもう二本、琴揃ってるから、大人しくそこで指を咥えてなさい」

「指咥えても良いけど、ちゃんと刀かホルン落とすようにね」

「わ、分かってるわよ……!」

 

 大きな声を我慢せずに出しながら、二人でマグナに挑む。

 

「そういえば、あんた風は誰使ってるわけ?」

「ニオ、シエテ、水着ユエル」

「無課金編成最強って感じね……」

 

 今あげたニオとシエテは十天衆というコンテンツで、破格の性能を誇る上に無課金で手に入るキャラクター。勿論、手間はかかるが、手間に見合う性能はある。

 冬優子もシエテは確保している。

 

「最終させてあるの?」

「勿論」

「すごいわね……もしかして、かなりやり込んでる?」

「長くやってるだけ」

 

 話しながら、ポチポチとスキルを押して、攻撃して、奥義を貯めてみんなで売ってフルチェインを放つ、それを繰り返し。

 二人な上に二人ともマグナなので、それなりに時間はかかった。

 

「ちなみに、黛はグリムと誰?」

「ふゆは、グリムにアンチラにシエテ」

「俺より遥か強いじゃん……え、つーかアンチラ持ってんの?」

「持ってるわよ?」

「うわ、良いなぁ」

「え、アンチラ持ってない人おりゅ?」

「うるせえええええ」

 

 思わず声を漏らす樹貴を横目で見ながら、ふふんと得意げに鼻を鳴らす。性格が悪い自覚はあったが、まぁ普段、振り回されているわけだし、たまにはこんな日があっても良いだろう。

 そこで、ふと気がつく。……なんか、楽しい。なんだろう……お互いに持っているキャラが違くて、煽り煽られ、隣で協力して敵を倒して……や、まぁグラブルは殴るだけなので協力感がそんなにあるわけではないが。

 なんていうか……率直に言って、誰かとゲームをやるのが、こんなに楽しいなんて夢にも思わなかった。

 ……もし、良かったら……今度はA○EXに誘ってみても良いかもしれない。

 そんな風に思いながら、ブローディアを倒した。ドロップアイテムは……残念だが、やっぱり倒し切ると楽しい。

 

「うーわ……なんか今日しょっぱいわね……どいつもこいつも。あんたは?」

「ごめん、二つもごめん」

「……」

 

 前言撤回。全然楽しくない。この男、いつかぶっ飛ばす。

 そんな風に思いながら、とりあえずマグナ2をとっちめ続けた。

 

 

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