黛の高校生活は、青い春というよりただただ沼だった。 作:バナハロ
ゲームを持ってる人がゲームの全てを理解しているわけではない。
明日からゴールデンウィークという季節になった。従って、冬優子にとっては久しぶりに自分の趣味に全開になるためにお金を貯められる季節でもある。
だから、シフトは多く入れてもらっている。休みの日は一日だけ。その一日に名探偵ピカチュウを見に行く予定だ。
その上で、だ。冬優子は可能な限り、金は使わないようにしてある。まぁこの時期に金を貯めたい理由は、早い話が夏コミのためであって。
さて、そんなわけなので逆に言えば休みの日にお金は可能な限り使わないようにしたい。
その為にも……。
「はい、黛。おすすめの本、持って来たよ」
「ありがとう♡ ……は?」
バカに漫画を借りることにして声をかけたのだが……教室で自分の机の上に置かれたのは、紙袋三つだった。中には上から見下ろした東京のように漫画のタワーが建てられている。
他の人に漫画を見られる分には構わない。これだけ堂々と大量の漫画を置かれれば「あ、漫画借りてるんだな」とすぐに分かると思うから、冬優子=オタクというより、樹貴=オタクの構図になるだろうから。
問題は……量である。
「多くないかな?」
「え、だってゴールデンウィークで読むんでしょ?」
「読むけど、この量は無理だよ?」
無理じゃないけど。実際、二人で素の冬優子の時に「多めにお願い」なんて言ってしまった。
でも周りの目がある。この量を持って一週間で読んだなんて知られれば……ちょっとその先は考えたくない。
「おいおい、水上。お前流石にこの量は無理だろ、非オタには……」
そう口を挟んできたのは前田。ナイス、と冬優子は少しだけガッツポーズ。
前田の前なので、少しどうするか言葉を考えるように腕を組む樹貴。そして、顔を上げて聞いてきた。
「あー……じゃあ、どのくらい持って帰れんの?」
悪くない聞き方。どのくらい、つまり自分がチョイス出来る。非オタがどれくらい漫画を読むのかは知らないが……非オタでも読んでいる漫画といえば、やはりワンピース。90冊を楽勝で超えるこれなら、一週間で読み切るだろう。
つまり……目安は90……!
目測で一つの紙袋に漫画30冊分、それが三つ……つまり、全部。
「全部行けるかな」
「え、黛そんなに読めんの?」
「あっ」
自分の全力のアホ解答に自分で自分を殴り飛ばしたくなった。あれ、こんなに頭回ってなかったっけ……と、頭の中が真っ青になる。
樹貴も「ほへー? こいつ何言ってんのー? 笑」みたいな顔でこっちを見ている。おい、その顔やめろ腹立つ。
「じゃあ全部ね?」
「ま、任せて」
「ええ……ほんと大丈夫かよ……?」
落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。そもそも全部、借りられないと言うのは、読み切ってしまったら、オタバレするから……つまり、逆に一週間で読み切らなければ良い。
「でも……返すのは、ゴールデンウィーク明けピッタリじゃなくても良いかな?」
「え、良いけど……あ、うん。良いよ」
「ほらやっぱ読み切れねえってよ」
「大丈夫、全部面白いから」
「そういう問題じゃねーよバカ」
そのまま二人でコントをし始めるのを眺めながら、冬優子はホッと胸を撫で下ろす。これでなんとか体裁は取り繕えた。
これで、自分にはメリットしかない。このゴールデンウィークはお金を使わずに過ごせるし、樹貴との取引も完遂できる。
よし、と内心で強く思いながら、目の前の紙袋を見る。邪魔。
「水上くん、この漫画……ロッカーに入れておいてもらえるかな?」
「え、俺のロッカーにこんな入らないよ」
「ふゆのロッカーも使って良いから」
「了解? じゃあ鍵貸して」
「はい」
これでとりあえず大丈夫、と二人でそのまま漫画をロッカーに隠した。
×××
放課後。冬優子は帰宅のために鞄に荷物を詰める。ゴールデンウィークが終わったら、試験二週間前に入る。その時に勉強を始めるので、この一週間はなるべく遊んで過ごすつもりだ。
従って、教科書類は全部、ロッカーに叩き込むのだ。そのロッカーに向かって、冬優子は教科書を数冊、抱えて向かう。
廊下に教科書を開き、鍵を開けて扉を開け、しまおうと思ったところで手が止まる。そうだ、ロッカーに漫画を入れてたんだった。
ちょっと面倒だが、借りると言ったのは自分だ。持って帰るしかない。とりあえず一旦、ロッカーから紙袋を取り出す。グッと力を入れて持ち上げようとすると……意外と重たい。
「……嘘」
持ち上がらない重さではない。これを……あと二つも持って帰るの? と、冷や汗をかく。
て言うか、無理。よりにもよってそこそこ遠い高校を選択してしまったし。
とりあえず、自分のロッカーに入ってる分の紙袋は出して床に置き、教科書をしまった。
「黛ー、これどうすれば良い?」
ちょうど良いタイミングで声を掛けられる。
「ちょうど良かった、水上くん。ふゆの家までこれ持って帰るの、手伝ってくれない?」
「え? いや良いけど……あ、もしかして重かった?」
「うん。よろしくね」
よし、ととりあえずホッとする。なんか普通に一緒に帰ることになってしまったわけだが、今日はやむを得ないだろう。
そんなわけで、紙袋を二人で持つ。わざわざ、三つ中二つの紙袋を持ってくれているあたり、優しくはある。
さて、一緒に帰る中、ふと問題があることに気がついた。……親に、樹貴を見られるのだけはダメだ。
何せ、あの親はこの前の一件から、樹貴に興味津々である。そりゃそうだろう、あまり素を見せていない事なんて親にはバレバレだし、ましてや出会って一月ほどしか経過していない男子が唯一、素を見せている相手なんて興味を持たないはずがない。
昇降口で靴を履き替え、さっさと校門を出てから、冬優子は素に戻って釘を刺しておくことにした。
「ねぇ、水上」
「何?」
こいつ、さっきまでと口調がガラリと変わった自分に対して、よく普通に話せるな、と思いつつも続けた。
「運んでもらって悪いけど、家まで運んだらなるべく早く退散してくれる?」
「良いよ」
「話が早くて助かるわ」
「今日、急に行くことになったから、部屋に散乱してるエロ本見られたくないんだよな?」
「ブッ転がすわよあんた! そんな本、薄い本しか持ってないわよ!」
「持ってんじゃん」
「あ、あんただって持ってんでしょ⁉︎」
「まぁな」
こう言うとこ、男の子はずるい。男はすけべでも許されるけど、女の子は許されないの、本当に不公平だ。
「あーそっか。黛って猥談とかする相手いないのか」
「女の子ならそんな話しないでしょ? 普通なら」
「え、すると思うけど」
「……え、するの?」
少なくとも冬優子はしたこと無いんだが……と、冷や汗をかく。
「元カノは結構してたらしいけど。なんで男子って夏服より冬服のがエロいんだろうな、とか」
「何よその話……」
超混ざりたい、と思ったのは飲み込む。共感出来てしまった。なんなら、水着よりも夏服の第二ボタンまで開けられた純白のワイシャツの方がエッチだし、冬優子も興奮する。
「でも正直、それ女子も同じなんだよなー」
「はぁ?」
なんか続けて言い出した男に顔を向ける。同じ、と言うのは、夏服より冬服の方がエロいと言う話だろうか?
男なんて、女の肌色が多い方が喜ぶものだと思っていたのだが……と、思っていると、すぐに樹貴は言った。
「いや、少なくとも俺は、だけど……冬服、夏服というより、布地の面積の話で言うなら、ミニスカートで生足出されるよりもピッチリタイプのスキニー履かれた方がエロい気がする」
驚いた。……いや、冷静に考えればスク水が好きな男だっていると聞く。何もおかしな話ではないのかもしれない。
いや、問題はそこでもない。冬優子の脳裏には、たった一つの可能性が思い当たった。……しかし、そこまでするのはどんなに仲が良い男女でもやらないだろう。あのヲタ恋の桃瀬成海でさえ、その手の話は同性の小柳花子としていた。
流石に……いや、逆に考えろ。その成海も、同性で語れる友達がいたからこそだ。もし、いなかったら彼氏としていた可能性も……。
よし、どうせ素はバレているのだ。ここまで来たら、言ってしまっても構わないだろう。
「それ、すごく分かるわ。私も肌が直接露出されてるより、布に張り付くように主張している筋肉の方が好きだもの」
「あ、分かるわ。俺、ドラゴンボールとか悟空の道着も好きだけど、ベジータの戦闘服とか好きだから。カッケーよな」
「そうなのよ。あの下半身。太ももの筋肉がとっても好きで……動きやすさを追求して、短パンにするよりピッタリタイツを選んだあの世界の科学者は天才ね」
「何、足フェチなの?」
「いや、足というより……何かしら」
「いや俺に聞かれても知らんけど。でも、俺も太もも好きなのはわかる。ピッタリスキニーが好きとは言ったけど、スリット効いたチャイナ服も好きだし」
すごい、と冬優子は舌を巻いた。この男と……性癖についてなら語り合える……! 異性とか、性癖に関しては関係ないのだ。お互いに「こういうとこが刺さる」と共感し合えるのが楽しい。
そんな話をしている間に、駅に到着したので改札を通り、電車に乗る。電車の中なので、紙袋をようやく置くことができた。
「ふぅ……こんなに重いものを持たされたんじゃ、肩凝っちゃうわね」
「いや、読むって言うから持って来たんだけど」
「限度を考えなさいよ……ていうか、よく一人で持ってこれたわねあなた?」
「元サッカー部ゴールキーパーだぞ? なめんな」
「一年でやめてりゃ世話ないわよ」
「あ、バレた」
でも意外だ。この男、運動もしてたんだ、と。オタクでオシャレで元スポーツ選手って……ちょっと何でもかんでも手を出しすぎではないだろうか?
「ていうか、サッカーやってたのね」
「まーね。その中、サッカーの漫画も入ってるよ」
「へぇ、ふゆ黒バスとスラダンとクロガネしか読んだことなかったから、少し楽しみかも」
「期待して良いと思うよ。俺はクソ面白かった」
話しながら、冬優子はチラリと紙袋の中を見る。……よくこんなに漫画持ってるな、と思わないでもない。
さて、そのままゆらりやられてようやく冬優子が住んでいる町の駅へ。
「着いたわよ……って、バイト先にも来たことあるし、知ってるわよね」
「おお」
話しながら、電車から降りて駅を出る。さて……釘を刺しておかないと。色々と話は弾んだが、親に見せたくないのは変わらない。
「良い? もう一度言っておくわよ。お母さんに会わせたくないから、漫画を置いたらなるべく早く帰って。玄関に置いてくれれば良いから」
「あら、冬優子ちゃん。今帰り?」
「あれ、もしかして黛のお母さんですか?」
「……」
もう出会ってた。何もかもが手遅れだった。なんていうか……何故、うちの母親はタイミングが悪いんだろう、と反抗期に近い感情が芽生えるレベル。
「あら、もしかして冬優子ちゃんのお友達?」
「はい。初めまして、水上樹貴です。冬優子ちゃんのお友達です」
「あらあら♪」
「あんたがちゃん付で名前を呼ぶな!」
「身勝手の極意!」
「ああああ腹立つ!」
蹴り込みを避けられた。イナバウアーでもしているかのように。
「ふふ、ホント聞いてた通り面白い子ね」
「え、俺の話するんですか? 冬優子ちゃん」
「ブッ殺す!」
「残像だぶへっ!」
「あら、立派な残像ね。当たったかと思ったわ」
今度はちゃんと当てた。また同じように避けると思ったので、避けそうな先に蹴りを叩き込んでやった。
さらに得意げになっていると、冬優子に上から声をかけられる。
「冬優子ちゃん?」
「げっ……い、いや今のは……」
「女の子が暴力的なことをしちゃダメよ?」
「そうだよ、冬優子ちゃん? 暴力系ヒロインなんて今どき流行らないよ?」
「あんたは本当に黙り腐ってなさい!」
調子に乗りすぎである。ぐぎぎっと涙目で歯を食いしばる中、母親が樹貴に声をかける。
「ところで、その紙袋はなあに?」
「漫画です。冬優子さんに貸すための」
さん付けに変えたのは、おちゃらけているつもりがないからだろう。親の前では、2人黛がいるので下の名前で呼んでくれているらしい。
「あらあら、わざわざありがとう」
「いえいえ。よかったら、お母様も読まれますか? ……面白いですよ、監獄学園」
「何を薦めてんのよ人の母親に!」
監獄学園といえば、監獄モノの中でもトップクラスにバカさ加減が秀でたバカ漫画である。最初こそ鬱モノかと思ったが、中はアホほどくだらない……にも関わらずテーマがあり、冬優子も女の子ながらに爆笑してしまった覚えがある。アニメで。
……が、少なくとも大人の女性に薦めるものではない。それも、人妻であり、母親でもある人物に。
「そう、わざわざこんなにたくさんありがとうね」
「いえいえ」
「お礼に、うちにおいで。クッキーご馳走するわ」
「マジですか!」
「……お母さん……」
そうなるから嫌だったのに……と、落胆するようにため息をついた。
×××
「なんか、すみませんね」
「ううん、気にしないで」
そう話すのは、なんか早くも意気投合している母親とバカ。冬優子は普通に気恥ずかしいのだが、まぁ自分だけ部屋に戻るわけにもいかないわけで。
「てか、クッキー美味いですね」
「ふふ、ありがとう」
「それより、もういいでしょ? 帰りなさいよ」
「コラ、冬優子ちゃん。せっかく遊びにきてくれたお友達にそう言うこと言わない」
「まだ友達じゃないわよ」
「えっ、超ショック。もう挨拶がわりにほっぺにキスするくらい友達のつもりだったのに……!」
「バカな嘘ほざいてんじゃないわよ! ここはどこの国の想定⁉︎」
「冬優子ちゃん、男の子泣かしちゃダメよ?」
「それも言われるべきは真逆よ! 泣かされそうなのこっち!」
なんでこいつらこんな息ぴったり? もしかして打ち合わせしてた? と、勘ぐりたくなる程度には息ぴったりだった。
「水上くん、せっかくだし学校で冬優子はどんな感じか教えてくれる?」
「別にいつもと変わりありませんよ?」
「あんたがふゆのいつも知らないでしょ」
というか、頼むから余計なこと言わないでよ……と、心の中で強く祈る。学校では口が硬い様子だから、大丈夫だとは思うが……なんてフラグっぽいことを冬優子が思ってしまったのは、やはり気が抜けたからか。
それはあくまで「これは言わないで」という冬優子の情報を樹貴が理解しているが故。つまり……親の前で言わないで欲しいことなど樹貴は知らないし、そもそも言うな、とも言われていない。
「この前は、ゾロのフィギュア当てたからってドチャクソに煽られましたし、その前はグリムを目の前で引かれて存分に煽られました」
「みぃなぁかぁみぃ〜!」
「あらあら……相変わらず、機嫌が良いと性格が悪くなるのね、冬優子ちゃんは」
「そうですね。人の本性とは面白いものです」
「あんたがその深そうなセリフを言うな浅い癖に!」
頭に来たので、ガタッと椅子を倒して隣の男に掴み掛かるが、平気な顔でぬるりと避けられる。こう言うところが本当に腹立つ。
「コラ、待ちなさい! 余計なこと言うなっつったでしょ!」
「待てと言うなら、待たせてみせよ、ホトトギス」
「全然、5・7・5になってないっつーの!」
家の中で追いかけっこが始まる。
その様子を眺めていた冬優子の母親は、小学生かな? と思いつつもニコニコ微笑んでしまう。何せ、こんな風に年相応……いや年齢より少し幼いが、はしゃぐ冬優子の姿はもう何年も見ていない。
「……ん?」
いや、ゾロのフィギュアとか当ててきた時は割と同じくらいはしゃいでいたし、全く見てないってわけでもないかも。
でも、他の誰かと一緒にはしゃいでいるのは中々、お目にかかれない。……でもまぁ。
「二人とも? ドタドタと暴れないでくれる?」
「あ、すんません……」
「隙アリ!」
「ぐほぅ!」
「冬優子ちゃん?」
「大丈夫よ、もう満足したから」
いや、だから暴力はやめて、と思ったのだが、まぁでも楽しそうだし良いか、と思うことにした。
すると、蹴られてテレビの前に転がった樹貴が、ふとテレビの下のゲーム機が目に入る。
「お、Sw○tchあんじゃん」
「何よ、あんた持ってないの?」
「ない。どこも売り切れでさー」
「じゃあ、冬優子ちゃん。貸してあげたら?」
「えー……」
嫌そうな顔をする冬優子……だったが、そこでふと気がついた。スマブラがうちにある。……つまり、この男をボコボコに出来る。
そう決めて、すぐに声を掛けた。
「良いわよ。やりましょう、水上」
「よっしゃ」
しめしめ、と性格悪くほくそ笑む。Sw○tchを持っていないなら、スマブラなんて不慣れなはず……ボコボコにしてやる、と笑いながら、ゲームをつけた。
冬優子の母親がテレビの前にあるソファーに飲み物とクッキーを移動してくれる。
「ありがとうございます」
「ふふ、楽しんで行ってね。冬優子ちゃん、私部屋にいるから。何かあったら呼んでね」
「はいはい」
返事だけして、二人で並んでゲームを始めた。
×××
全くもってお節介な母親だ、と冬優子は少しだけため息を漏らすも、内心は罪悪感がちょっとだけ出ていた。あれ、自分が久しぶりに素を出して家に呼んだ知り合いだから少し舞い上がっている。
正直、揶揄う揶揄わないではなく、単純に喜んでいるのがよくわかった。だから、心配とか今までかけさせていたのかと思うと申し訳なくなる。
でも、それがぬか喜びと知った時が怖い。何せ、素の自分と友達になろう、なんて考えてくれる人間はこの世にいないのだから。おそらく、今彼が自分と一緒にいるのもの、オタク友達という利点があるからに過ぎないだろう。
「黛、スマブラ得意なの?」
「そこそこね。ガノンで」
「ふーん……超似合うな」
「どういう意味よ!」
「あんぱんに牛乳、新八にメガネ、黛にガノンドロフ」
「ぶっ殺されたいわけ⁉︎ 良いからやるわよ! ほら、これ使って良いから」
言いながら冬優子が手渡したのは、Sw○tchの特徴である取り外し可能なコントローラをさらに一つにまとめたもの。
そして、冬優子自身が持っているのは、ゲームキューブコントローラだった。
「なるほど」
「スマブラ初心者なんだっけ?」
「まぁ、そうね」
こう見えて、冬優子はそれなりにスマブラをやっていた。ネット対戦も盛んに参加しているし、強い奴を求めて実力を上げる、なんてドラゴンボールみたいなことも、何度もしていた。
つまり……序盤で親切にするだけしておいて、後でボコボコにする……! という魂胆である。
「今までスマブラ一回もやったことないの?」
「あるにはあるけど、小5くらいの時に友達の家でやったくらい」
「じゃあ操作くらいは分かるわけね」
「まぁな」
「なら、早速やるわよ」
「はいよ」
話しながら、早速開始した。キャラクター選択では、冬優子は容赦なく持ちキャラのガノンを選択。
一方で、樹貴は。
「キャラたくさんいるんだなぁ。もう任○堂関係ないじゃん」
「最近のスマブラはそうね」
「俺はせっかくだし任○堂のキャラが……ピカチュウで良いや」
ふっ、と冬優子は鼻で笑う。古のスマブラからいる最古参メンバーの一人……初代スマブラは→Bがないのでほとんど別ゲーでもあるが、その当時は強キャラだったらしい。
さて、冬優子は既に組んである設定でゲーム開始。ピカチュウとガノンドロフが終点ステージに降り立ち、カウントダウンが始まる。
「手加減しないわよ?」
「ふっ、お前もな」
「……えっ、どういうこと?」
「いやそれっぽいこと言ってみただけ」
「無駄に考えさせるようなこと言わないでくれる⁉︎ 腹立つ!」
この男、なんでこんなに色んな角度から言い返してこれるのか。……まぁ良い。この後、地獄を見せてやる……!
そう決めて、ガノンで突撃。相手のピカチュウは素人丸出しの動き。いや、不用心に距離を詰めないあたり、警戒心はあるようだ。
……まぁ、そんなわけで、フルボッコにした。それはもう華麗に、そして泥臭く。回避はなかなか、うまかったが、そもそも攻撃でコンボをつなげると言う発想がない、本当にスマブラ素人の動きだったので、一機で3タテしてやった。
「どーよ?」
ふふん、と鼻を鳴らしながら胸を張って聞くと、樹貴は固まったまま答える。
「うん。なんていうか……勝てる気がしない」
「あらぁ? もう諦めるわけ?」
「とりあえず、ガノンやめない?」
「良いわよ。ガノンじゃなくても余裕だから」
話しながら冬優子は、次に選んだのはスネーク。
「……やっぱり似合うな」
「あんたいらんこと言わないと気が済まないわけ⁉︎」
「あと、FEキャラ全般、クラウド、ウルフ……あと、友達とやる用にポケモン系とシズエ使えそう」
「ピタリ賞やめなさいよムカつくわね本当!」
おかしい。ボコボコにしたのになんでこっちが苛立っているのか。
とにかく、さっさとこいつボコボコにしてやる。そう決めて、冬優子は再びゲームを開始。また終点ステージが自動で選ばれ、スタートする。
「また終点?」
「スマブラーは普通、終点か戦場を選ぶものよ」
「え、なんで?」
「シンプルだから。実力と実力がぶつかり合うためにね」
「つまり、スマブラやる人って負けるとステージの所為にしちゃう人が多いんだな」
「…………は?」
そんな呟きに、少しいらっと冬優子は片眉を上げる。上等だこの野郎。
「良いわよ。ステージ、選んでやりましょう。それでもふゆが勝つけどね」
「ていうか、アイテムも無し?」
「ええ。アイテムがあると簡単に逆転出来ちゃうし」
「つまり、スマブラプレイヤーって『たまにはそう言うこともある』を受け入れられないタイプなんだね」
「上等よ! アイテムありでやってやろうじゃない!」
この男、本当に腹立つ! これで負かして、本当に煽りまくってやる……と、強く心に決めて、試合を開始した。
×××
で、数分後。
「コラ、逃げるな! 戦いなさい!」
「ちょっと、アイテムばっかり使いに逃げるのは狡いのよ!」
「ああああ! ていうかレース中の車の上で戦うってどういう心境なわけ⁉︎」
「それふゆのアイテム!」
「だあああもうっ! なんでふゆのモンスターボールからはトサキントばかり出るのよ!」
「ちょっ、回復アイテムやめなさい! 狡い! 理不尽!」
「ボルテッカーはやめなさい! ボルテッカーはずるいでしょ! ボルテッカーは……ああああああ⁉︎」
阿鼻叫喚だった。おかしい、と冬優子は肩で息をする。なんで勝てない……アイテムがあってステージギミックがオンになるだけでどうして……しかも、なんかストレスが溜まる……!
「あれれー冬優子ちゃん。もうギブ?」
「黙りハゲなさい! 次は勝つんだから!」
「黙りハゲる……?」
「ていうか、調子に乗らないでくれる⁉︎ ふゆの方が上手いんだし、あんたが勝ってるのはアイテムとステージのおかげなんだから!」
「え、同じ条件じゃん。別にアイテムとステージの全てが俺の味方じゃないよ」
「んがっ……!」
た、確かに……と、冬優子は奥歯を噛み締める。こいつもアイテムやステージギミックに殺される事はあるし、全戦全敗しているわけでもない。……まぁ、トータルでは負け越しているが。
「それより、このキングクルールってキャラ、使いやすいな。楽しい」
「そいつ、ふゆのアイテム跳ね返して取るの狡いわ! やめなさい!」
「えー、せっかく持ちキャラ見つけたのに……じゃあ、村人にしようかな。どう森好きだし」
「そいつもやめて!」
「なんなの……」
クソっ、と冬優子はとにかく奥歯を噛み締める。こうなったら、冬優子もアイテム有り用のキャラを探すしかない。
そんな時だった。ガチャっと扉が開かれる。
「あら、まだやってたの?」
「あ、すみません。遅くまでお邪魔しちゃって。冬優子さんが面白い具合に吠えるから楽しくて」
「次に吠え面かくのはあんたよ! さっさと準備!」
「あ、てかもうこんな時間じゃん。そろそろ帰るわ」
「勝ち逃げする気⁉︎」
「あ? あ〜……じゃあ、また上手くなったら相手してやるよ」
「これは元々、ふゆのゲームよ! ていうか、あんたなんで他人のゲームで器用に戦えるわけ⁉︎」
「賢いから?」
「世界で一番ありえない自負やめなさい!」
「冬優子ちゃん、また今度にしなさい」
気を遣って部屋にいてくれた母親が戻ってきた時点で、割と良い時間なのは間違いない。
母親にもそう言われてしまえば、冬優子ももう頷かざるを得なかった。
「ちっ……仕方ないわね。でも、これで勝ったと思わない事ね!」
「はいはい。じゃあ、お母さん。お邪魔しました」
「ううん。またおいでね」
「当然よ!」
話しながら、鞄を持って樹貴は玄関に向かう。
「じゃあ、また」
「またおいでね?」
「じゃあね!」
それだけ挨拶して、その日は別れ、冬優子はその日のテンションに死ぬほど恥ずかしくなるのは、また別の話。