黛の高校生活は、青い春というよりただただ沼だった。   作:バナハロ

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テンポが独特過ぎる。

 さて、時間を潰し終えた後は、いよいよ映画。まぁ席は別なので、お互いに一人で見たわけだが。むしろ時間帯が被ったことが奇跡だ。

 しばらくのんびりと映画を見終えた後、とりあえず満足げに頷く。

 ……良かった、超良かった。現実にポケモンがいたら、これくらいクソなことを人間はやるんだろうな、と言う感じと、ミュウツーのそれでも良い人間に対する理解度がとても良かった。

 あと……その、何。主人公が最後にラスボスに向けた時の視線が冬優子的にゾワゾワして「この子、ドS属性もあるのかも……」と興奮したのは置いといて……とにかく、面白かった。

 本当なら、この後はすぐにご飯を食べて帰る予定だった。で、感想をネタバレにならない範囲でツイートして満足……とするつもりだった。

 ……だが、今日は。

 

「そう! やっぱ最後のあの目よね!」

「分かるわ! あの冷たさが俺も痺れた!」

 

 ネタバレも興奮も我慢する必要もない相手と、生で感想を語り合えた。

 場所はちょうど映画館を出て二人で集合し、映画館を退場する。樹貴と冬優子は、少し興奮気味に今日の感想を言い合う。いや、本当に良かった。

 日本の実写映画はつまらない、なんて本当は物によるとしか言いようがないことを言うつもりはないが、日本ではあの映画は作れなかっただろう、とは思う。

 

「最高だったわ……この前のエンドゲームも良かったし、最近の映画は良いものばかりね」

「俺は去年ブチギレたけどね。インフィニティウォーとファンタビ2を同じ年にやられてモヤモヤしてた」

「あ、分かるわ。アントマンじゃスッキリすると思ったら、最後の最後でやってくれたし……」

 

 去年の映画は、結構ハードなものが多かった。普通にゲンナリした覚えがある。

 

「じゃあ、その点、今年の映画は期待できるのが多いわね」

「他に何か見る?」

「スタンピード、ジョーカー、ダンまち……あと青ブタ?」

「ジョーカーだけ浮いて見えるのに、黛だとピッタリしっくりくるの面白い」

「るっさい」

 

 すると、目に入ったのは物販だった。

 

「見ていかない?」

「良いね」

 

 すぐに物販の中に入った。こう言う時、ノリで買い物できるお店があるのはありがたい。

 そのまま、物販コーナーに入る。結構、いろんなグッズが置いてあって目移りしてしまい、欲しい物が多かった。

 

「マグカップ良いなー」

「分かるわ。あ、これも良い。スマホカバー」

「それも良い……てか、買おうかな……」

 

 と、思い、値段を見ると……うん、ちょっと笑えない。

 

「やめとくわ」

「何よ、値段にヒヨったわけ?」

「うん。まぁ」

「そう言うとこ素直なのね……嫌いじゃないわ」

「あ、今のツンデレ感ない」

「元々ツンデレじゃないわよ殺すわよ⁉︎」

 

 なんて話している時だった。ふと樹貴の目に入ったのは、ポケモンカード。それも、名探偵ピカチュウのポケモンカードだ。

 

「これ買う? 運試しも兼ねて」

「ふゆ、やった事ないわよ。ポケモンカードなんて」

「俺もだよ。まぁこういうのは記念でしょ。中学の時の知り合いは、パソコンにカード貼って飾ってたりしたよ」

「へ、へぇ……かわった楽しみ方ね……」

 

 冬優子がレイアウトとして飾るなら、カード屋に売ってるスタンドを使うが……まぁ、確かに高いものでもないし、買ってみても良いかもしれない。

 

「俺、2パックくらい買っちゃおう」

「結構買うのね……ふゆは、1パックで良いわ」

「じゃあ俺だけレアカード当ててもひがまないでな」

「……」

 

 こいつ……! と、ビキッと冬優子の額に青筋が浮かぶ。

 

「上等よ。ふゆは3パック買うわ」

「じゃあ俺4」

「ふゆは5!」

 

 結局、二人とも10パックずつ買って物販を出た。

 

 ×××

 

 さて、映画の熱はまだまだ冷める事はなく。そのままの足で冬優子と樹貴はファミレスへ。

 とりあえず、料理を適当に注文し、あとは待機である。さて、待機中にやることといえば……。

 

「いやー良かったわ。あと、フシギダネ! めっちゃ可愛かったわよね」

「あー分かる。飼いたくなったくらいだし。……まぁ、あれは野生だからこその可愛さかもしれないけど」

「そうね。あとネマシュも。野生の超綺麗だった」

「確かに。クソ綺麗だった。……あーなんか、ポケGOやりたくなって来たわ。今日でたポケモン全部捕まえたい」

「そういえば、今度フシギダネのコミュニティデイやるわよ」

「よし、行こう!」

「見てなさいよ。あんたより強いの捕まえてやるから」

「てか、黛もポケGOやってんだ。フレンドになっとこう。あんまポケGOフレンド増えないから」

「良いわよ」

 

 なんて、話しているところで、ふと冬優子はフレンドコードを出しながら、思い出したように言った。

 

「はい、フレコ。ていうか、ポケモン今年新作出るの知ってる?」

「あー、剣盾だっけ」

「ふゆは買うわよ。……え、あんた買わないの?」

「悩んでる。Sw○tchがないから」

「ぷふっ、どうせあんたのことだから任天堂のゲームはガキとか言って買わなかった奴でしょー?」

「うん、まぁね」

 

 ……あっさりと認められてしまった。冗談のつもりで言ってみたのに。意外とそう言うとこあるんだ……とも思ったが、ドイツ語をそれなりに話せるあたり、中二病の時代もあったらしいし、あり得ない話ではない。

 

「残念ね。買うなら、交換とか出来ると思ったのに」

「前向きに検討しておくよ」

「取引先か!」

 

 なんて話しながら、そろそろ頃合いだろう。冬優子は、ニヤリとほくそ笑むとカバンからビニール袋を取り出した。

 

「で、そろそろ開ける?」

「良いね」

 

 樹貴も同じようにニヤリとほくそ笑み、鞄からビニール袋を取り出した。中には、ポケモンカードが10パック入っている。

 正直「それ買う金があるなら他のグッズ買えたんじゃね?」と今更になって思わないでもないのだが、思ってはいけない事なのでスルー。

 

「レアカードの枚数、多いほうが勝ち……で、良いのよね?」

「そう。負けた方は、勝った人が入れてきたドリンクバーを飲む」

「ええ、分かってるわ」

 

 つまり……ゲロまずドリンクを飲まされる、ということだ。絶対に負けられない。特に、樹貴にブレンドさせると何を入れられるかわかったものではない。

 だが、逆にこっちも絶対に勝って、ゲロまずドリンクを飲ませる……! と、ニヤリとほくそ笑んだ。

 その冬優子を見て、樹貴はクスッと微笑む。

 

「……何?」

「いや、黛って性格悪いなって」

「分かった。絶対ゲロまずドリンク飲ませるわ」

「そういうとこだぞ?」

「この罰ゲーム提案したのあんたでしょうが!」

 

 頭にきた。もうドリンクを魔女がぐつぐつ煮出した若返りの薬みたいにしてやる、と強く決めて、いざパック開封を開始した。

 

「ふゆからで良い?」

「どうぞ?」

「よっ、と」

 

 右上の切り込みから裂いて、中のカードが曲がらないよう、慎重に開ける。中を見ると……。

 

「これ全部カード光ってるわよ?」

「え? あー……じゃあ誰がレアかググるわ」

 

 二人ともポケモンカードは素人なので、調べてみることにした。

 

「うわ……レアリティ多いな。秘宝探偵かよ」

「どんなん?」

「UR、HR、SR、RRR、RR、R、UC、C……馬鹿じゃね?」

「何よ、RRRって……リタ・レストレンジ?」

「上手い。でも最初の二つはLだよ」

「じゃあ上手くないじゃない……」

 

 この男、もう少し考えてから物をしゃべってほしい。まぁ、調べずに言った自分も自分だが。

 

「とりあえずー……ちょうど半分だし、リタ・レストレンジ以上がレアカードってことにしようか」

「はいはい。それどこに書いてあるの?」

「カードの下の方。……あ、てかこのパック一番レア度高くてSRしかないや」

「あら、じゃあRR以上にしましょうか」

「りょかい」

 

 と、ルールが定まり、改めてカードを見るが、当たりはない。

 

「あら、プリンとか可愛いわねこれ。これだけで買った価値ある気がするわ」

「多分、4枚くらい被るけどね」

「うるさいわよそこ」

「……」

 

 そうだった。これはカードゲーム。スマホのガチャとは若干違うのだ。箱買いすれば確実に何かしら当たる代わりに、箱買いしないと確実ではない。

 その代わり、すり抜けのような事は起きない。ピックアップされているものしか出ないから。

 さて、そんなわけで、次は樹貴の番。パックを開けて、中を出す。

 

「うーん……あ、ヨシダ警部補」

「渡○謙じゃない。そういえば、日本人が海外の映画に出るのって少し嬉しいのなんでかしらね?」

「あー分かるけど分からん。渡○謙って、ゴジラの時も出てたし、アベンジャーズでも真田○之出てテンション上がったわ」

「へぇ、ゴジラにも出てたの」

「うん。見てないんだ。好きそうなのに」

「どういう意味よ! 本当に!」

「……あ、ちなみにヨシダ警部補、SRだから俺、一枚獲得ね」

「は⁉︎」

 

 ビックリした。なんで先に言わないのか。

 

「なんっ……ていうか、人間のカードがこのパックの最高レアリティって何よ⁉︎」

「それは俺も思った。とりあえず、ごっそさんでーす」

「んぎぎっ……! み、見てなさいよ、まだ逆転の射程内なんだから……!」

 

 なんて一気にヒートアップ。続いて、冬優子がパックを開ける。

 ここからは、会話のみでダイジェストをお楽しみ下さい。まずは、冬優子の一枚目。

 

「やった! ミュウツー引いたわ! ザマァ見なさいよ!」

「おっ、や、やるじゃん……ヨシダ警部補よりレアリティ低いけど」

「いらんこと言わないで良いのよ!」

「てか、かっけぇなカード。見せてよ」

「見たかったらあんたも引いてみなさいよ」

「相変わらずイキってる時はクソみたいな性格してるね」

「言葉選びをまともにする気がないあんたに言われたくないわよ!」

 

 続いて、樹貴二枚目。

 

「おっしゃ、リザードン! カッコよ」

「ふんっ、リザードンなんてピカチュウ相手にイキってただけで、そのあと速攻でギャラドスにわからせられただけじゃない。実質ハズレよ!」

「いやいや、あの勝てない奴には勝てない潔さが獣っぽくて良かったでしょ。それ言ったらミュウツーとか人間にわからせられてたし」

「そ、それは言いっこなしでしょ!」

「いや、黛の目線で取っ組み合いに持ち込んだだけなんだけど……」

「ホント、舌だけは回るの腹立つわねあんた……」

 

 冬優子、二枚目。

 

「よっしゃー! ふゆもリザードンゲットー!」

「うわ、マジ?」

「カッコ良いわねこれ!」

「さっき実質ハズレって言ってたし、それはカウントから消す?」

「追いつかれたからって新ルール増やすな!」

「お待たせ致しました。ミラノ風ドリアと、モッツァレラチーズのピザと、ペペロンチーノでございます」

「「あ、すみません」」

 

 と、割と接戦を繰り広げる中、いよいよ最後の1パック。二人の前には、裂かれていない最後のパックが置いてあった。

 つまり、これが命運を分けるか、それとも引き分けで終わるか。

 そんな中、樹貴が思いつきで提案した。

 

「最後だし、二人同時に開けない?」

「良いわよ」

「じゃあ、せーのっ」

「いや待ちなさい。ふゆ、まだ準備できてないのに、せーの、じゃないわよ」

「ごめん。じゃ、俺が詠唱するから、タイミングを合わせて開けて」

「何よ詠唱って」

 

 聞いても、樹貴は無視。コホン、と咳払いをすると、全く違う声音を絞り出した。

 

「セルーッ‼︎ いくら貴様が完全体になったといっても、こいつをまともに受け止める勇気があるかーッ⁉︎ ははーっ! 無理だろうな、貴様はただの臆病者だーッ‼︎」

「ぶはっ……!」

 

 確かに分かりやすいけど、時間がかかり過ぎるでしょうが! あとファミレスで大きな声出さないで! ……ていうかどんなタイミングの合わせ方⁉︎ いうツッコミを言いたかったが、無駄に似過ぎているが故の笑いでツッコミを入れられなかった。

 ちょっとツボに入り、逆にパックを開けることが出来ない。

 

「ファイナルフラーッシュ‼︎」

「ちょっ、待っ……!」

「しまっ……!」

「あれ、そこで開けるんじゃないの⁉︎」

「こ……こんなことが……! ま、ま……まさか……まさか、完全体の私が……!」

「なんでセルの真似も上手いのよ!」

「ち……ちくしょおおおお……!」

 

 というか、どこで開けるの……と、思っている時だ。樹貴が切れ込みの入った部分を両手で持った。

 

「なんちゃって」

「今ぁ⁉︎ あんたにとってここはそこがメインなわけ⁉︎」

 

 そのセリフと同時にピッと開けたので、慌てて冬優子も開けた。

 そして、中を見る。すると……樹貴の方はハズレ、そして冬優子の方にはミュウツーが二枚目来ていた。

 

「うわっ……マジかよ」

「っしゃああああ! 見たかオラァッ!」

 

 女の子とは思えない怒号とガッツポーズである。普通に樹貴が引くほどの。

 

「ダブりじゃん……」

「引けないよりマシよ! 勝ちは勝ちだからねー! やっぱ、違うのよね。運命力と日頃の行いが! 人にツッコミをさせるだけが生き甲斐のあんたとふゆじゃ、違うのよ!」

「今の会話だけ聞いてると、そのどちらも俺が正しく聞こえる」

「あっらー? 負け犬が何か吠えてますね〜?」

 

 もうコいていた。ダブりとはいえ、ミュウツーは正直、あの映画でカッコよかったし、全然保存用と観賞用として保管するのもアリだ。

 ……いや、というか、だ。何ならこれ……デッキ組むのもアリかも……なんて、少し思ってしまうほどだった。

 どちらにしても、だ。とりあえず罰ゲームのお時間である。

 

「じゃ、ふゆドリンクバー取ってくるから。あんたの分も。いやお礼なんて全然良いのよ。親切心からだから」

「なら手心をよろしくどうぞ」

「ちょっと何言ってるか分からないわ」

 

 負けは負けなのだから仕方ない。

 鼻歌を歌いながら冬優子は割とマジでポケモンカードをやってみようか悩む。ルールは全く知らないが、どのカードゲームも大体、切り札は2〜3枚必須だろう。

 そういう意味では、冬優子の手元には切り札にしたいカードが揃っているのだ。ならば、やらない手はない気がするが……問題は、やる相手だ。クラスメートに「ポケモンカードやらない?」なんて聞けるわけがない。たった一人を除いて。

 ……やってくれるだろうか? 一応、聞くだけ聞いてみよう……と、思いつつ、とりあえず……それとこれとは別なので、ゲロまずドリンクを作った。

 

「はい、お待たせ♡」

「……黒いしコポコポいってんだけど」

「それは炭酸よ?」

 

 シュワシュワと呼べ、と思ったがスルー。さて、ようやく運んでもらった料理を食べられる。

 二人で手を合わせて、挨拶して食べ始めた。

 

「ピザ、半分摘んで良いよ」

「どんなに親切にしてくれても良いけど、ドリンクはちゃんと飲んでね♡」

「いやそんなつもりじゃなかったんだけど……」

 

 笑顔で釘を刺しながら、冬優子はミラノ風ドリアを食べ始める。相変わらず、ミラノはわけわからんくらい美味い。

 さて、樹貴はとりあえずパスタを一口食べた後、いよいよ飲み物に手を伸ばす。見るからに怪しい飲み物を我ながら作ってしまった自負はある。

 それ故に、冬優子はワクワクとその様子を眺めた。

 

「ごくっ……んっ、ぷはっ」

「……?」

「何?」

「い、いや……あ、そういえばあんた、ポケカやる気ない?」

 

 これ以上、性格悪いとか言われないために、誤魔化してしまった。まぁ聞きたいことでもあったので間違いではないのだが。

 

「何、やりたくなっちゃった感じ?」

「まぁ……せっかく切り札っぽいの2枚引いちゃったし」

「あー、なるほど。良いよ、やるなら。俺も前から興味あったし。他のカードゲームなら、ヨシダ警部補クソ強い効果書いてあったし」

「へぇ……どんなの?」

「相手の手札見た後に強欲な壺」

「何よそれ……遊戯王なら禁止カード級じゃないの」

「ね。じゃあ、またカード買って開封もする?」

「もしかして、あんた今回負けたの意外と悔しかったりするわけ?」

「そんなわけないじゃん。ただの運試しで。ただ、はらわたが煮え繰り返ってて、早くもやり返したいだけだ」

「超悔しがってるじゃない!」

 

 だめだ、この男を前にするとどうしてもツッコミに回される……と、また飲み物を一口、口に含む樹貴の顔を見る……というか、この人……。

 

「あんた、それ不味くないの?」

「え、味見してないの?」

「は?」

 

 思ってたことを聞くと、樹貴はキョトンとした顔で聞き返してくる。

 

「不味くないよこれ。ちょっと独特だけど、コーラと麦茶が程よくブレンドされてる上に、少量のミルクが良い感じにアクセントになってる」

「なんで何入れたのかわかるわけ⁉︎」

「あと、あの酸っぱいグレープスカッシュも入ってるでしょ」

「あんたの舌なんなの⁉︎ えりな様⁉︎」

 

 怖いくらいだ。鋭いとか、そんなレベルの話ではない気がする。……なんか、そこまで言われると逆に気になるというか……。

 

「飲む?」

「い、嫌よ。かっ……間接キスになっちゃうじゃない……」

「え、そんなの気にしてんの? 高校生にもなって?」

「悪い⁉︎」

「や、悪くないけど……」

 

 あんまり男子に良いイメージがないのだから、そういう経験もなかったのだ。そもそもそこまで親密な関係にならなかったし。

 

「でもそれならストロー使わずコップに口つければ良いんじゃね?」

「……〜〜〜っ!」

 

 ムカつく。何がムカつくって、ど正論なのがムカつく。頭に来たので、その絶賛した飲み物、全部飲んでやる、と冬優子は樹貴からコップを奪った。

 

「ふんっ、良いわよ。飲んであげる!」

 

 怒鳴りながら、コップに口をつけて飲んだ直後だ。……形容し難い苦味と甘味とまろみとシュワシュワが口の中に流れ込んだ。

 

「っ、げほっ! ぇげほっ……!」

 

 思わずコップの中に吐き出してしまい、咳が止まらなくなった。

 

「わぉ、思った以上のリアクションは笑う」

「笑うな! これのどこが美味しいのよ! あんたの味覚イカれてんの⁉︎」

「いや、美味しくないよ。美味しいなんて言ってないし」

「んがっ……!」

 

 や、やられた……! と、冬優子は奥歯を噛み締める。というか、こいつのポーカーフェイスずるい。少しは感情を表に出せや、とすごく思い、キッと睨む中、樹貴はペーパーナプキンを手渡してくれた。

 

「はい。まずは口周り拭いて。……大丈夫か?」

「誰の所為だと思ってんのよ腹立つ!」

「美味しかった?」

「煽るな!」

「ごめんって。ポケカやるから怒らないで」

「まったく……!」

 

 いや……ていうかそもそも、味見くらいしておけば良かった。冷静に考えれば、シェフだって美味しいかどうか考えて味を見て料理を出すわけだし、自分も不味いものを飲ませる時は味見が大事かもしれない。

 

「よし、また取ってくるわ」

「いやいいよ……いいから食べようや」

「うぐっ……」

 

 そうだった。早く食べないと……と、思っていると、目の前の男がまた飲み物を飲んだ。

 

「いや、もうそれ飲まなくて良いわよ。ふゆ、中に戻したし」

「全然平気」

「ご褒美じゃないのよ!」

「ドリンクバーで遊んで残すとかちょっと出来ないでしょ」

「そ、それはそうだけど……ちょっと恥ずかしいんだけど……! 結局それ、間接キスじゃない……!」

「間接キスって思うからいけないんだよ。唾液交換会だと思ったら?」

「もっといけないことに聞こえるわよそれ!」

 

 ホント、この男の図太さはなんなの! と思う反面、彼の言うことも分かる。確かに店側からしたら、残されたら迷惑なのだろう。

 

「わ、分かったわよ……」

「大丈夫、黛の唾液の味とか全然しないから安心して」

「あんた人を安心させる才能なさ過ぎね。ビンタすれば良いのかしら?」

「あ、嘘嘘。ごめん」

 

 そんな話をしながら、二人でのんびりと食事を続けた。

 

 ×××

 

 今日も家の近くまで送ってもらい、樹貴と別れた。

 疲れた……けど、なんだろう。この高揚感。いや、今更分からないわけがない。ちょっと……楽しかった。映画も、パック開封も、一緒に出来る誰かがいると楽しい。

 困った事に……とっても癪だが、あの男にオタバレしたのは良かったのかもしれない。……まぁ、ストレスが溜まる事も多くあるわけだが。

 

「ただいま」

「おかえりなさい。遅かったのね?」

「ごめんなさい。ちょっと……」

「水上くんと一緒だったんでしょ?」

「うん……あっ、いや」

「ふふ、無事に仲良くなってるのね?」

 

 そんなつもりはないが、母親には何を言っても無駄だろう。

 

「何、待ち合わせしたの?」

「違うわよ。今日行った映画館でたまたまあいつがバイトしてたから、一緒に見ただけ」

「で、一緒にご飯食べて来たの?」

「……まぁ、うん」

「そう。楽しかった?」

「そんな事ないわよ。あいつ、馬鹿だし五月蝿いし鬱陶しいしセクハラするし。もう二度と行かないわ」

 

 事実は事実だ。なんか思い返すと腹立ってきたし、学校終わったら覚えとけよあの野郎、と思わないでもない。

 しかし、母親はニコニコと微笑んでいる。セクハラとか割と言ってから後悔するワードが入っていたにも関わらず、だ。

 

「ふふ、そう」

「何よ」

「楽しかった、って、顔に書いてあるけど?」

「ーっ……!」

 

 玄関に設置されている鏡を見る。確かに……ちょっと買い物とかでお金をたくさん使ってホクホクした後みたいな顔になっている。

 

「っ、き、気の所為だから……!」

「なんでふゆより水上に似てるのよ、お母さんは!」

 

 親子はどちらか、と聞かれた時、どちらかと言うと樹貴に近い性格をしている気がする。

 頭にきたので、さっさと手洗いうがいだけして部屋に戻った。……や、まぁ楽しかったのは否定できないのだが。

 ……それに、割とちょいちょい顔を出す良識的な面を見ると、決して悪い奴ではないのは分かってしまった。

 自分とは真逆なことに素直で自分を偽らず、その上で自分とも仲良くしてくれる奴。たまに頭の中が銀河の彼方になって、何を考えているのか分からない奴にもなってしまうが。

 

「……変なヤツ」

 

 そんな呟きを漏らしつつ、冬優子は鞄の中を整理する。化粧水やリップクリームなど、スキンケア用品をバイト用の鞄に移し、その後でポケカのゴミとカードを仕分ける。

 ゴミは部屋の中のゴミ箱に捨てる。……ちょっと買い過ぎかも、と思わないでもなかったが、まぁこれもミュウツー2枚出たんだし、と受け入れておく。

 ……そうだ。あのバカに負けるのは豪腹だし、今のうちにデッキについて調べておこう。カードゲームは正直アニメや漫画で読んだ程度の知識しかないのだが、自分なりに組んでみようと思う。

 せっかくだし、明日はカード屋でも見に行ってみようか。そして、お互いにデッキが完成した初戦で、格の違いというものを思い知らせてやる……! 

 

「げっへっへっへっ……」

 

 そんな風に小悪党の笑いを浮かべながら、シャワーを浴びに行った。

 

 ×××

 

 翌日、とりあえず近くのホ○ーステーションにて。

 

「あっ……」

「げっ……」

「黛も買いに来たんだ。影響されんの早過ぎで爆笑」

「ここに来てる時点であんたも同類だから!」

「何買うの?」

「……まずはデッキから。エネルギーカードがないとゲームにならないし」

「……あ、そっか。じゃあ俺もそうしよう」

「何買うつもりだったのよ! ちゃんと下調べしたわけ⁉︎」

「したけどしてない。レシラム&リザードンのカードがかっこよかったからそれ欲しいなって」

「まずデッキを作るところを考えなさいよ……」

「そのためには切り札が必須では?」

「……まぁそうね」

「でも、デッキが必須なのも分かるから……パックは買う数減らそうかな」

「はいはい。まぁ好きにしなさい。今日もうち来る? カードやるなら室内が良いでしょ?」

「行く」

「ついでに、スマブラでボコボコにしてあげるから。覚悟しなさい」

 

 その日から、残りのゴールデンウィークは毎日のように顔を合わせた、

 

 

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