黛の高校生活は、青い春というよりただただ沼だった。 作:バナハロ
久しぶり、と言うほどでもないが、高校に大体一週間と4日ぶりの登校である。今年のゴールデンウィークは何故か長かったのだ。
さて、そんな冬優子だが……クソほど眠かった。昨日、バイト前に樹貴とポケカでデュエルしたわけだが、負け越したのでデッキ構築を見直して夜更かししてしまった。
校門が近いから平静を保ってはいたが、正直アホほど眠いのは変わらなかった。
そんな中、後ろから声をかけられる。
「おはよう、ふゆちゃん」
「おはよう、前野さん」
校門の前で、クラスメートの女子と挨拶した時には、いつもの冬優子スマイルで応じた。
「ゴールデンウィーク何してたー? もううち、ずっと部活でさぁ」
「大変だったね〜。お休みとかなかったの?」
「あったあった。部員みんなで遊んでたわー。渋谷で色々見てた」
「そうなんだぁ」
これだ、部活に所属していないと、クラスでしか友達ができにくい。友達といえば友達なのだが、休日にわざわざ待ち合わせをして遊びに行くような仲ではないのだ。
「ふゆちゃんは何してたの?」
「えっ、ふ、ふゆは〜……」
言えない、男子と仲良くしてたなんて。それも、クラス一番のバカと。
でも、何もしてなかったとも言えない。ぼっちだと思われる。高校生はメンツにこだわるから、よほどのバカかいじめっこじゃない限りぼっちと絡もうとする奴なんていない。
従って、うまい言い訳を考えた。
「アルバイトしてたかな。夏に備えて」
「へぇ〜、ふゆちゃんバイトしてるんだぁ。なんのバイトしてるの?」
「コンビニ。普通に夕方だけなんだけどね」
「ふーん、やっぱりバイトって大変?」
もしかして、部活とバイトを掛け持ちするつもりだろうか? 絶対にやめた方が良いという確信がある。
「大変だよー。金銭のやり取りをしてる、って思い知らされるし、変な客も多いし……高校卒業したら、ふゆはバイト先変えるかな」
「そっかー。バイトしながらは厳しそうだなー」
うんうん、そういうこと、と冬優子は腕を組んで頷く。
そんな時だ。教室にやかましいバカ達が入ってくる。
「いやいや、だーかーらー! スーテラのあの清楚に見えてドスケベな格好してる所がエルーンの真骨頂だろ!」
「アホか、メーテラくらいオープンな上に服装通りスケベそうな獣性があって良いだろうが!」
「すけべな見た目の奴がほんとにすけべでどうすんだ!」
「そっちこそすけべな格好してすけべじゃない中途半端な真似してどうすんだ⁉︎」
「どうもしねーよ!」
「それはしないな!」
樹貴と前田である。よくもまぁ性癖について大きな声で語りながら教室に入ってこれるものだ。……クソ羨ましい。
すると、自分に気付いた樹貴が声を掛けてきた。
「あ、黛……と前野さん。おはよう」
「おはよう、水上くん」
「おはよ」
「黛はどう思う? スーテラ派? メーテラ派?」
「おい、黛にそういう話を振るんじゃねーよ」
「ふゆ、えっちな子は好きじゃないかな」
「ほら見ろ」
それは、スーテラやメーテラのことではなく、バカ二人のオープン過ぎる会話だ。女子にその話を振らないでほしい……という意味の返事と、その上で冬優子はスーテラの方が好き、という二重の返事だった。
警告と好みのキャラの返事……それが通じるのは、一人だけである。
「あーごめんごめん」
「ふふ、弁えようね。水上くん?」
「悪かったよ。あ、黛。放課後空いてる?」
「うん。空いてるけど、また改めて誘ってね」
「はいはい」
改めて、つまり周りに人がいない時、という意味だ。隠語を使う裏稼業でもしているような自分だが、それくらい警戒しないとクラスメートにどう揶揄われるか分かったものではない。
そんなやりとりをしながら男子達も席に座る……と、そこで前田と前野の二人が自分と樹貴をじーっと見ている事に気がついた。
「……何?」
「いや、なんかやたらと通じ合ってるなって」
「もしかして、ゴールデンウイーク中会ってた?」
「えっ」
やばっ……流石に会話が自然過ぎて不自然だったのだろうか? 絶対に嫌だ、こんなバカとそういう関係に見られるのは。
ごまかさないと……と、思っていると、すぐに樹貴が答えた。
「バレた?」
「やっぱりかよ! え、どういう関係?」
「一夜限りの関係」
「爛れてやがる!」
何言ってんの、と言う前に感心した。なるほど、冗談を言って誤魔化すつもりか、と意図を察知。
「も、も〜、水上くん。そういう冗談はふゆ、嫌だなぁ」
「そうよ、水上。あんた少しはデリカシーとかないわけ?」
「デリカシーなら生まれた時、へその緒と一緒に切り落としたきに」
「きに?」
ちょいちょい漫画ネタを挟むのは、反応したくなるからやめて欲しかった。
なんにしても、誤魔化せてよかった……と、冬優子はホッとする。しかし、自分と樹貴のやり取りも気をつけないといけないのかもしれない。
×××
さて、放課後。冬優子はゴールデンウィークに頑張ったので、今日はフリー。本当は樹貴とまたスマブラなりポケカなりやりたい所なのだが……ちょっとクラスメートに怪しまれたし、なるべく控えた方が良い。
せめて、うちに来る事情があれば……と、思っている時だった。
「黛、この前貸した漫画なんだけど、そろそろ回収しに行っても良い?」
「え? ……あっ、うん。良いよ」
なるほど、そういえばそんな手があった。樹貴の事情で漫画を冬優子の部屋に置いてあるわけで、ここ数日のゴールデンウィークでその感想を語り合うこともあったのも懐かしい。
すると、斜め前の前田が割って入った。
「おいおい……お前、黛ん家知ってんのか?」
「うん、この前はお母さんに挨拶しちゃったし」
「え、お前らどういう関係?」
ちょっとー! と、ファインプレーをもう忘れて唖然とする。この男はバカなのだろうか? なんでそんなことを言うのか。絶対に疑われるに決まっている。
「いや、たまたま黛のバイト先見つけちゃってさぁ。夜だったから家の近くまで送ったら挨拶されちゃって」
「ふーん……」
「綺麗だったよ。黛の心と違って……ゲフッ!」
「あ、ごめーん♡ 肘が当たっちゃった」
わざとじゃない。腰を捻ってストレッチしておきたかっただけだ。で、たまたま当たっちゃっただけ。
とはいえ……まぁ下手に隠すよりも、言って問題になることを問題ないように伝える事は大事かもしれない。それに、樹貴のキャラなら……。
「ふーん……お前、黛のご家族にまで迷惑かけんなよ……」
「なんで俺が迷惑かけてる前提?」
「そらそうだろ」
こうなる。それは日頃の行いを悔め、とツッコミを思って良いところか、それとも彼自身、自分のキャラを把握してどう思われるか読んで言っていることか。
どっちにしても彼ならあり得るが、どっちでも良い。
「じゃ、またね。前田」
「さよなら、前田くん」
「ああ。黛、何かされそうになったら助けてーって叫ぶんだぞ?」
「俺は不審者?」
「心配ありがとう、前田くん♡」
「否定しようや」
「ごめんね。ふゆ、嘘はつけないの」
なんて話しながら、二人で教室を出た。
そのまま昇降口で靴を履き替え、校門から出た直後、冬優子はニコニコ笑顔から表情筋を抜き、真顔になる。
「……あまりふゆをヒヤヒヤさせないでくれる?」
「冬優子なのに寒いのに弱いの?」
「そういうこっちゃないし名前も関係ないわよ! さっきの話、本当にドギマギしたんだから!」
「ごめんごめん。でも、後から見つかる方が面倒臭いだろ。隠し事をするには、嘘は最低限にしておくのが大事なんだよ」
「嘘をつき慣れてる人のセリフね?」
「まぁな」
否定しろよ、と思わざるを得ないわけだが、まぁ無視。実際、嘘はうまそうだが、それでも信用できてしまうのは何故か。……いや、分かる。いまだに自分のことを誰にも言わずに秘密にしてくれているからだ。
「で、今日もやるか? スマブラかポケカ」
「当然よ。今日こそ吠え面かかすわ」
「期待しないで待ってるよ。どっちも」
「なんでスマブラまで上からなのよ! 言っとくけどキャラコンはふゆの方が上手いんだからね⁉︎」
ホントにそういうとこ腹立つ。この男、マジで一回ぶっ飛ばしてやろうか。
「違う違う。黛が負けてんのは、運命力の話。いい加減、トサキントとサーナイト以外を出せるようになろうな」
「るっさいわよ運だけの癖に!」
逃げや回避だけやたらと上手いのが、またタチが悪かった。こちらの攻撃をいなし、アイテムを取り、そして使われる。そのアイテムの使い所もまた上手いのだ。腹立つことに。
「そういや、今日は黛のお母さんいんの?」
「いるわよ。基本的に専業主婦だし」
「あそう。じゃあ、ゴールデンウイークで割としょっちゅう遊びに行ってたし、お菓子かなんか買って行きたいんだけど」
「あら、そう? じゃあ、ケーキで良いわよ」
「黛に、じゃないから」
意外とそういうお礼するんだ、なんて思いながら、樹貴と買い物を終えた。残念ながらカードの買いすぎでお金がなかったので、コンビニスイーツを購入した。
さて、そのまま電車に乗って冬優子の家へ向かう。電車の中では、二人でスマホゲームを始めた。
「そうだ、あんたから見なさいよ」
「? ……うわ、ナポレオン?」
「この前、呼符単発で来たわ」
「良いじゃん。ストーリーでアホほどカッコよかったし、強いし」
「今年はふゆ、キテるかも」
まぁでも正直、推しでもないのだが。もう少しこう……ダークヒーロー的なキャラの方が好きだから。そういう意味では、それこそこの前借りた亜人の物語は今でも大好きである。残念ながら、BL同人誌はなかったが。
「ちなみに、ナポレオンどう思う?」
「強いでしょ。神性特攻に防御無敵無視、NPリチャージ、星出し、全体バフとか属性盛りすぎ。使った事ないから使い勝手知らんけど」
「でも、無敵もガッツもないのがなぁって」
「それまで出来たら一人でなんでも出来ちゃうから……それに、バスターならマーリンがいるから」
「まぁ……そうね」
なるほど、と冬優子は顎に手を当ててナポレオンを見る。案外、強いのかもしれない。
少し感心するようにスペックを見ていると、すぐに樹貴はしれっと続きを言った。
「ま、ギルガメッシュがあれば多分、必要ないけど」
「なんだったのよ今までの流れ!」
「仕方ないじゃん。ギル様強過ぎるんだから」
というか、弓はどいつもこいつも強すぎるのだ。他のクラスなら最強クラスかも、という連中もアーチャークラスでは下の方なのだ。
でも、まぁ実際、無敵貫通防御無視はナポレオンオンリーだし、いつか何かの役に立つ……と、信じる事にした。
すると、今度は樹貴から声を掛けてきた。
「そうだ、黛」
「何よ」
「今日の分のグラブルの無料10連引いた?」
そうだ、これも一緒に引こうと思って取っておいたのだ。ゴールデンウィークもグラブル! という謎のキャッチフレーズで始まる無料10連期間を逃すわけにはいかない。
「まだよ。ていうか、一緒に引こうと思ってたのよ。あなたに吠え面かかせるためにね!」
「いや、もうフェス終わってるし無理だと思うぞ」
ちなみに、ゴールデンウイーク中は二人とも……或いはどちらか片方だけ朝起きた時に引いてしまっていて、あまり揃えてやる、みたいなことはできていなかった。
「ていうか、無料10連期間どうだったよ。なんか出た?」
「微妙よ。金月ばかり」
「俺も。あ、でもゴッドフリート完凸出来たのは良かった」
「は? ずるっ」
「恒常出身にしちゃ強いから助かるんだよね」
なんて話しながら、二人でグラブルを起動してガチャを引く。揃ってスカした。
「……」
「……」
まぁ、こんな日もあるよね、なんて思いながら電車に揺られることしばらく。ついでにデイリーこなしてどっちの方がSSR武器落ちた落ちてないだの話して、到着した。
そのまま冬優子の家に到着。二人で家の中に入った。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
しかし、返事はない。珍しい、あの母親は樹貴の声が聞こえたら出迎えに来るのに。
靴を脱いで、スリッパに履き替え、樹貴のスリッパも出してリビングに入ると、電気が消えていた。目に入ったのは机の上の書き置き。
『お婆ちゃん、肩が痛いそうなので様子を見に行ってきます。晩御飯はカレーを作っておいたので食べてください』
えっ、いないの? と、狼狽える。という事は、家の中には自分とあの男二人……。
なんか、急に少し緊張してきた。思えば、一つ屋根の下で彼と二人きりだったことはない。必ず親がいた。
これ……もし、親がいないことがバレたら……襲われる……!
「黛、お母さんは?」
「誰があんたのお義母さん⁉︎」
「……え、何の話?」
「っ、な、何でもない……」
まずい、変に慌てた。怪しまれても面倒だ、なんとか平静を保たないと……と、自身を落ち着かせる。
「ふぅ……お母さん、出かけてるみたい。すぐ帰ってくると思うから、スイーツは冷やしておくわね」
「あざー」
「じゃ、まずどうする? スマブラやる?」
「やる」
それだけ話して、またゲーム大会を始めた。
×××
で、30分後。
「だからあんたばっか伝説出すのずるいわよ!」
「物欲センサー」
「ちょっと、レイガンはダメ! レイガンはダメ! レイガンはダメだってば!」
「いや初代からあるアイテム中のアイテムでしょ」
「ああああもうっ! そのバット重いから! ホームランバットはチート……!」
「なんで負けたか、明日までに考えといてください」
「喧しいわ!」
親がいないことなどすっかり忘れてはしゃいでいた。しかし、むかつく。この男、なんでこんなにアイテム使うのがうまいのか。
いや、わかる。そもそもスタイルが違う。殴ることがメインの冬優子と違い、まずは戦術的に手数を主軸に考えているからだ。だから、アシストフィギュアやポケモンで人数を増やし、隙を作り、こちらのダメージが低い時は遠距離で狙える武器を持ち、そして高くなったら高威力の武器を持ち、確実に狙える時のみを狙って吹っ飛ばす。
やらしい上に冷徹な戦法だ。おそらく、殴り合いで勝つよりも戦術ではめた時の方が気持ち良く感じるタイプと見た。
……ならば、こちらもそろそろ対応するしかない。アイテム使いには……こちらもアイテム使いだ。
「黛、そろそろアイテム無しでやるか? 負けてばかりじゃつまらんでしょ」
「は? 慈悲のつもり? 捻り殺すわよ?」
「え、捻り……アルカ?」
聞く耳なんて持っていられない。なんか腹立つからだ。さて、冬優子がチョイスしたキャラは……ファルコだ。飛び道具を跳ね返す上に速度もあり、遠距離攻撃も出来る。
目に物見せてやる……! と、ゲスいことを考えながらキャラ選択を終えた。
「お、珍しい」
「見てなさいよ。あんたのその作戦、崩すから」
「遠距離攻撃とカウンターでこっちの遠距離を封じようっていう腹?」
「……違うわよ」
「俺さぁ、黛みたいな妹が欲しかったかも」
「違うっつってんでしょ殺すわよ⁉︎」
クソッ、なんでこんな奴の頭が良いのか。世の中の人間のステータスは間違いなく不公平だ。
さて、改めてゲーム再開。樹貴の何が困るって、スマブラを持っていないが故にキャラもいろんなのを使いたいのか、ランダムで選ぶところだ。動きを読むとかない。
まぁ、何にしても勝負開始。二人でそのまま、ゲームを始めた。
もう完全に、対樹貴用戦法で、必要以上に距離を詰めず、飛び道具が飛んできたら反射し……と、戦闘を繰り返し、そして……。
「喰らえこの野郎!」
「ガァーン!」
「あっ、てめっ……!」
最後の一騎、フルチャージしたチャージ銃をぶちかましたい樹貴の一撃をリフレクト。綺麗に返された樹貴は、そのまま場外へ落ちた。
そこでゲームセット。思わず冬優子はガッツポーズしてしまった。
「ッシャオラ! 見たかこれがふゆの本気よ!」
「あーあ……まぁ、別に初めての負けってわけでもないから良いけど」
「あらぁ? 本当は悔しいんじゃなくて?」
「……めっちゃ悔しい」
「す、素直なのね……」
少し驚いてしまったが、まぁ結構だ。
「さ、もう一戦やる?」
「やる」
「珍しく熱くなってるわね。良いじゃない」
「また泣かしてやる」
「泣いてないわよ一回も! ……え、泣いてないわよね?」
「過去も真実も、残酷なものが多いよな」
「う、嘘でしょ⁉︎ ふゆゲームで泣いたの⁉︎」
「まぁ、それとこれとは全く関係ないわけだが」
「あんたなんなのよほんとに!」
でも、泣きそうなくらい悔しかったこともあるのでそれ以上は聞かないでおいた。
さて、もう一戦。と、スマブラやって飽きたのでポケカやって……と、今日も遊び倒した。
気がつけば、もう日も沈んで夜になってしまっている。
「もう良い時間か……早いな」
「あんたのエンテイ強過ぎよ……GXじゃないのに……何なの……」
「黛が教えてくれたんじゃん。このカード強いよって」
「大体、伝説をたねポケモンにすんなっつーの!」
吠えまくる冬優子だが、逆ギレである。二人とも、ゲームを繰り返しては「このカードとか良いんじゃない?」とお互いに調べたりそれぞれが持ってるけど使っていないカードを薦めて交換したりする事もあるのだ。
新しいカード仕入れようかな……でもそろそろお金無くなっちゃう……カードゲーム沼怖い……なんて思う中、樹貴はカードを片付け始めた。
「じゃ、俺そろそろ帰る」
「勝ち逃げ?」
「あー……うん」
「認めるな!」
だが、確かに良い時間ではある。そのまま立ち上がった樹貴は、軽く伸びをした。でも……確かに冬優子も座りっぱなしだし、疲れた。
そんな中、ふと思い出した。そういえばあの男、ずっとカップラーメンとか食べて生きてるんだっけ……と。せっかく今日、カレーがあるし、食べるだろうか?
「そうだ、カレーがあるのよ。あんたたまにはまともな栄養摂って帰る?」
「ん? あー……そうしようか……」
と、樹貴が答えかけた時だ。樹貴のスマホが震える。チェインが来たようだ。
「あー悪い、親から。帰ってこいって」
「あら……そう」
高校生にもなって帰ってこいって言われるって……と、少し呆れてしまうが、まぁ彼は割と信用できるか出来ないか分からない性格をしているので、仕方ないっちゃあ仕方ない。
仕方ないので、今日の所は玄関まで送った。樹貴が靴を履いている姿を何となく眺めていると、何かを思い出したように声をかけてきた。
「じゃあ、また……あ、そうだ。コンビニスイーツ、食べちゃって良いから。仕事かご両親の世話か分からないけど、今日はいないお母さんにもよろしく」
「は? ……あっ」
そうだった。今日、母親いないんだった。というか……こいつ途中から気づいてやがったのか、とムカついた。
「き、気付いてたわけ⁉︎」
「なんとなくね。ゲーム始めるまでなんか緊張してたし。気付かないふりしてあげてた」
「最後まで維持しなさいよそれは!」
声を荒立てて、追い出すように家から追い返した。全く、本当にデリカシーがあるのかないのか……と、ため息をつきながらリビングに戻る。明日、仕返ししてやる。
しかし……そういえば、結局男と一つ屋根の下、夕方を過ごしてしまった。そんなに長い時間でもなかったが、時間を忘れる程度には楽しかったのだが、事実を簡略化して思い返すと、やはり恥ずかしい。
「ツイスタでよく見る無自覚カップルかふゆ達は……」
割と冬優子が嫌いなジャンルでもある。ラブコメ自体は嫌いでもないが、明らかにお互い好き合っているのに「俺(私)なんかが誰かに好かれるわけがない」とかいう訳のわからない理屈で鈍感ムーブをする様は見ていてイライラする。
……ていうか、冬優子だけ少し緊張してバカみたいだ。別に好きでもなんでもないし、好かれたいわけでもないが、少しは女としては緊張してくれても……そんな事を思いながらリビングに戻ると、ふと机の上が目に入る。置いてあったのは、ポケモンカードだ。冬優子のではない。
樹貴の回収し忘れだろうか? そのカードを見ると、この前引いたリザードンGXだった。
「何やってんのよあのバカ……」
切り札を置いて帰るとか本物のバカなの……と、思った時だ。もしかして、と無粋ながらにも勘づいてしまった。
そう、切り札を置いて帰るなんて有り得ない。その上、アイツは親が今日いないことを勘付いていた。つまり……。
「……意外とウブなのね」
しっかり緊張していたことを確認して、少し機嫌を直した。
×××
さて、翌朝。冬優子はウキウキしながら教室に到着した。今日はつい早く家を出てしまい、教室には自分しかいない。
何せ、いつも苦渋をなめさせられている馬鹿に仕返しができると思ったらワクワクしてしまうからだ。
ちゃんとあのバカちんには、人を揶揄ってばかりいると酷い目を見ることを理解していただく。
せっかくなので、彼がどんな反応を見せるか、ありとあらゆる可能性を想定し、どう動いても確実に照らさせられるように作戦を考えておこう……なんて、性格悪く作戦を立て、少し笑みを浮かべてしまっている時だった。
「何ニヤニヤしてんの?」
「きゃうっ⁉︎ っ、み、水上……い、いつからそこに⁉︎」
「いや、今」
そう言う通り、鞄を背負って立っている。随分と早く来たものだが、ちょうど良い。
「に、ニヤニヤじゃないから。ニコニコよ」
「え、いやどっちにしてもだいぶやばいよ」
「っ……」
抑えろ、何せ今日、揶揄う側は自分なのだ。そんな口を利けるのも今日までだ。
せっかくなので、擬態モードで問い詰めてみることにした。
「ところで、水上くん」
「朝からテンション高いね。高血圧?」
「……これ、ふゆの家に忘れ物だよ?」
「え?」
言いながらポケットから出したリザードンGX。それを見て、樹貴は狼狽えた様子で「えっ」と声を漏らした。
「あらあら? 良かったの?」
「良かったのって……そっちが良いの?」
「あら、口から出任せ? 本当は二人きりだったからって緊張したんじゃないのかしら?」
「いや、まぁそうかもしんないけど……」
「澄ました顔して意外とウブなのね、水上くん?」
「いや、むしろそっちが危険だよ」
「あんた、さっきから何言って……」
と、言いかけた直後だ。樹貴が席に座った直後、後ろに前田が立っていた。さぁーっと一気に冬優子の顔色が青白く染まる。
「え、えーっと……黛、昨日……こいつと二人きり、だったのか……? てか、家に、忘れ物……え?」
「あっ……や、違っ……これはッ……!」
しまった、と後になってから絶望する。しまった、つい油断した。よくよく考えたら、教室でからかうとかダメな奴に決まっている。つい仕返しできると思ってぬかった。
ヤバい、どうしよう。何がヤバいって、長いこと猫被りしていたことだ。どうしたものかテンパるにテンパった挙句、なんとか誤魔化そうとした結果、変な声音になった。
「と、とにかく、お忘れ物には気をつけた方がよろしくてよ?」
「なんでお嬢様になんの?」
「……」
……真っ赤になった。顔が。それはもう恥ずかしさやらテンパってるやら何やらで。
もはや全力で死にたくなっていると、今度は樹貴が口を開いた。
「あー……実は、ゴールデンウィークから俺、ポケカにハマってて。黛にたまに相手してもらってんだよね。デッキ貸して」
「え、そうなん?」
「俺、デュエルスペース嫌いだし、黛のお母さん仕事してる人じゃないから基本、家にいるし。親がいるならお邪魔してカードやるのもアリでしょ。……まぁ、昨日はたまたまいなかったけど」
「お前……黛をオタク趣味に付き合わせるなよ……」
その解釈をすぐにした前田を見て、冬優子は目を丸くする。この男、よくもまぁそれっぽい言い訳を返したものだ。オタク趣味を隠し、前に親と知り合った経緯から知っててもおかしくない情報を出し、ゴールデンウィークから遊んでたなら仲良くなって多少、口調が崩れてもおかしくない所までひっくるめて。
本当、変な言い訳は上手いヤツ……と、皮肉めいたことも思いつつも、助けられたことには変わらないのですぐに頭の中で打ち消す。
「……ま、そういうことにしといてやるよ」
が、そんな言葉が飛んできたことによって、少しだけヒヤッとする。まぁ確かに苦しくもある言い訳だから、バレてもおかしくない……けど、前田はそれ以上、何か言うことはなく、樹貴と雑談を始める。
とりあえず、朝イチで良かった……と、冬優子はホッと胸を撫で下ろした。