大学生の姉弟の、夏休みのある日。弟のBが姉のEに「相談したいことがある」と言ったのが始まりだった。
「相談?」
「うん、姉ちゃんって幽霊とか信じる?」
Eは幽霊等のオカルトなものに興味はなかった。ホラー番組やそういう類の話を聞いても「CGだろう」「フィクションだろう」と片付けるような、ハナから信じない性分だった。
なので、「幽霊」という単語を聞いた時はいぶかし気な表情をしたが、弟が随分深刻そうな表情をしていたので「まぁ乗ってやるか」と聞く姿勢に入った。
「知ってるでしょ、私はそういうの信じてないって」
「だよね。じゃあ時間が空いてるタイミングでいいんだけどさ、Yの家に泊まってくれないかな」
「Yちゃんの?」
Bはゆっくりと話し始めた。
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Bの彼女のYは、1年前からアパートで一人暮らしをしている。引越し当初は不自由なく暮らしていたのだが、最近になっておかしなことが起き始めたのだそうだ。
「寝ていると、トイレの水が流れる音が聞こえてきて、それでいつも目が覚めるの」
「うちのトイレのドアって建て付けが悪くて、開ける時も閉める時もギィィ……って音が鳴るはずなのにそれは全然聞こえなくて。ただ水が流れる音だけが聞こえるの」
「電気がついてる様子もないから怖くて……だからお願い。私が寝ている時にトイレから音がしたら、B君が中を見てくれないかな」
Bは姉に反して幽霊はてんでダメで、その話を聞いただけで縮み上がってしまった。なので代わりにEにお願いした、というわけだ。
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「あほくさ。そんなの故障でしょ」
「俺もYもそう思いたいけどさ……一度中を見ないことには断定できないだろ?誰も居ないのを確認したら故障ってことでいいからさ。頼むよ」
夏休みで暇がたっぷりあることを見越したうえでの頼みに、Eは断ることができなかった。
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翌日、Yの家
「いやぁ、ウチの弟が情けなくて申し訳ないよ」
「そんなことありませんよー。B君の気持ちも分かりますし、それに幽霊に強いお姉さんが来てくれるのならそっちの方が嬉しいです」
Yは丁寧にもてなしてくれた。家の中は大学生の一人暮らしとは思えないほど綺麗に片付いていた。
「毎晩トイレから音がするの?」
「はい。昼は普通なんですけど、夜の2時とか3時とかに……もう怖くて最近は家で寝れてないんです」
「厄介なトイレだね。主人の熟睡を邪魔するなんてさ」
Eは頑として故障だと考えていた。
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0時
「じゃあ私は寝るので、お姉さんよろしくお願いします」
そう言ってYは寝床に入った。
さて、事が起こるまで待つか。そう思ってトイレのドアの前でぼーっとスマホを眺めていると、Eはふとある違和感を抱いた。
(トイレのドア、建て付けが悪いって聞いたけどそんなこと無かったような?)
さっきこの家のトイレを使ったが、意識せずともドアは静かに開いた。Yは勘違いしていたのだろうか?
いやいや、それだと幽霊でもなく泥棒やストーカーの類の可能性があるんじゃないか?今も家のどこかにいるんじゃないか?そう考えると途端に怖くなり何か殴れるものがないか探した。
しかし、それは杞憂に終わった。
「ジャ──────────」
トイレから水が流れる音が聞こえた。Eはずっとトイレの前にいたので誰かが入る隙は無かった。
(良かった、ただの故障だ)
胸を撫で下ろしたが、またある疑問が浮かんだ。
「Yちゃん起きてる?」
Yはトイレの音で起きてしまうと言っていた。普通こういう時、中はどうなってますかーとか、お姉さん起きてますかーとか聞いてくるものじゃないか?そう思いちらっと様子を見ると、Yはすーっ、すーっ、と寝息をたてていた。
(ドアのことといい、何だか変だなぁ……)
まぁいいか、中を見たら私の仕事は終わりだ。そう思ってドアを開けると
Eがいた
「は……?」
Eがいた。用を足すわけでもなくただ黙って立ってこっちを見ているEがいた。
「なに、は、え?誰?」
明らかに自分だ。顔から体格、服まで全て同じ。何が起こっているんだ?
必死に言葉を捻り出していると
「お姉さーん、見ましたー?」
Yの声が聞こえた。だがおかしい。「見ました?」とは一体どういうことだ?まるで中に何か居るのが分かっているような聞き方じゃないか。混乱して動く事ができないEにYは更に
「かわりましたぁ?」
と言った。「かわりました」?かわるって何だよ。今目の前にいるこいつは誰なんだよ、と思った次の瞬間、トイレの中のEが言った。
「ごめん、まだー」
この時、Eは直感で理解した。かわる、というのはつまり
代わる
突然、トイレの中のソレは気味の悪い笑顔を浮かべてEの腕を強く掴んだ。
Eは必死に腕を振り解き、裸足のまま全力で家を飛び出した
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その後、どうやって帰ったのかは覚えていない。目が覚めるとEは自宅で寝ていた。
腕を強く掴まれた感覚が残っている。夢ではない。大がかりなドッキリだったのか?意識が朦朧としたままBにYのことを聞くと
「Y?誰それ」
「……いや、あんたの彼女の。トイレから音がするって言ってたから昨日私が家に行って」
「……?」
全く覚えがないようだった。更に昨日はEは自宅にいたと言う。
もう何が何だか分からない。急いでYの家に行ってみたが、そこには誰も住んでいなかった。
Yは存在ごとさっぱり消えていた。
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「あの時逃げられなかったらどうなってたんでしょうかね……やっぱり『かわる』ことになったんでしょうか」
「幽霊?まぁ、ちょっとは信じるようになりましたけど……アレは幽霊とも違くないですか?」
※この話はフィクションです