舞い戻った理不尽ウマ娘は、元教え子達への対応に頭を悩ませる? 作:レイ1020
ルドルフの目にはどう映ったのか?
視点 シンボリルドルフ
思えば、初めて会った時から彼女は・・・・・・サイレントベールは何処か他のウマ娘とは少し違う何かを持っていると悟っていた。言葉には表せない何かが・・・・・・どこか懐かしい様な、暖かい様な何かが。
サイレントベール・・・・・・。ウマ娘でありながらトレーナーを目指し、国内でも最難関ともされている中央トレセンのトレーナー試験に、12歳という史上最年少で合格をした天才でもあり異質な存在でもあるウマ娘。初めて私がその情報を耳にした時は、正直言って耳を疑った。普通、ウマ娘であるなら、ウマ娘を見守り、育てる事を主としているトレーナーになるぐらいであればレースに出て勝利を掴み取りたいと思うことが殆どであるからだ。
私も実際そうであり、今でこそトレーナーの道を歩んでいるが生徒時代は自らレースに出て、ターフを駆けていたのだ。だと言うのに、彼女に至っては最初からレースに出る気など無いと言い放ち、トレーナー業に専念すると言う始末であったので、彼女の考えている事がよく分からないでいた。しかも、そう言ってる割にしっかりと現役のウマ娘達並の・・・・・・いや、それ以上のトレーニングを(趣味で)こなしていると言うのだから、余計に彼女のことが分からなくなってしまった。
だが、それと同時に私は・・・・・・。
『・・・・・・面白い』
そう思えてしまった。今までに見た事のない不思議なウマ娘。彼女が辿る事となる人生がどの様なものへとなるのか・・・・・・どのようにして
それからは、教育係の仕事をこなす為、彼女と過ごす機会が増えたのだが、正直に言うと私が仕事をこなす事はほとんど無かった。強いて言うなら、保護者のように彼女を静かに見守っていたぐらいの事しかこなしていなかった。およそ12歳の子供とは思えない頭の回転をし、書類の整理も書類を管理する場所も、荷物を運ぶ作業も、トレーニングの考案も・・・・・・全て簡単にこなして見せた。・・・・・・これには私はもちろんだが、周りにいたトレーナー達も度肝を抜かれていた。
教育係いるのか・・・・・・?と思いたくなるくらいに、他の熟練のトレーナー顔負けの仕事ぶりを見せてくれたのだから当然なのだが・・・・・・その彼女の見事な手捌きを見て、私はふと・・・・・・
『あの手捌き・・・・・・あの要領の良さ・・・・・・何処と無く、あの人に似ている』
当然、似ているだけであって、サイレントベールがあの人・・・・・・デスペルフォースさんであるはずが無いので、そんな愚かな考えは振り払った私だったが、少なくともこの時からサイレントベールへの見方が変わったのは事実である。
そんな折だった。彼女がルームメイトであるオルフェーヴルとレース対決をするべく、グラウンドの使用の申請をしにきたのは・・・・・・。
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申請を通した私は、夜と言う事もあって、目付け役として2人のレースを見学する事となった。目付け役というだけであるなら、私以外にも出来る輩はいたが、あえて私がこの場に来る事を志願した。建前上は『サイレントベールの教育係だから責任を持って私が』として他のトレーナー達には伝えていたが、本心は・・・・・・
『サイレントベールの実力を見てみたい』
まさにこれだった。今までトレーナー志望という事もあってまともに走った姿を見せた事がない彼女。それをいつの日か見てみたいと思っていた私としてみれば、突如として訪れた絶好の機会。これは逃したくはなかったのだ。謎に包まれたサイレントベールの力を知れる・・・・・・数少ない機会なのだから。
そして、グラウンドに足を運んでみると、すでに2人は準備体操をしていて、幾分か身体は温まっていた。今日の午前中にレースを行なっていたオルフェーヴルも既に疲れは取れている様子で、身体は軽そうだった。それに対して、彼女はと言うと・・・・・・。
「(・・・・・・集中力が凄まじい。それに、彼女から漏れ出るあの威圧感・・・・・・雰囲気・・・・・・そして、こちらが萎縮してしまう様なあのギラリとした闘志溢れる目つきと佇まい・・・・・・あれが、ベールなのか?)」
もはや日常の彼女とは別人とも呼べるくらいには、雰囲気が変わってしまっていた。隣にいたオルフェーヴルも彼女の変貌に気づいたのか、顔を小さく強張らせている。レースになると集中のあまり、気が立ってしまうと言うウマ娘はこれまでにも多く見てきたが、ここまであからさまに変わるウマ娘は初めて・・・・・・・・・・・・いや、待て?
「(そう言えば、私がスペルさんとレースをしてた時も、レース中は・・・・・・どこか雰囲気が変わって怖くなっていた様な・・・・・・)」
「ふぅ・・・・・・やろうか、オルフ。ルドルフさん、開始の合図をお願いします」
「っ!わかった。では2人とも、スタート位置に立ってくれ」
頭の中で考えを巡らせている中、ベールにそう指示を出された私は、一旦それを保留することにし、要望通り私は開始の合図を取る事とした。
「では始める。よーい・・・・・・スタート!!」
私の合図と共に、2人はスタートダッシュをきる。スタートダッシュで最初に抜き出たのはオルフェーヴルで、その時は4バ身ほどの差が出来ていた。オルフェーヴルがスタートダッシュに定評がある事は事前にわかっていた事であるので、それについては特に驚きはなかった。
「(スタートダッシュに関して言えば、彼女は普通のウマ娘と大して差が無い。・・・・・・スタートダッシュが苦手なのか?それともあえて・・・・・・っ!)」
思ったよりも普通な出だしだったサイレントベールに対して、訝しげな表情を作る私だったが、その直後・・・・・・私は・・・・・・
「(っ!!離された差を一瞬で・・・・・・!しかも、あの走り方・・・・・・あのフォーム・・・・・・あの手を振る角度・・・・・・ここまで響いてくる
見間違うはずも無い・・・・・・今、サイレントベールがしている走り・・・・・・ここまで伝わってくる圧倒的強者感の漂うオーラ・・・・・・怖い、と錯覚する程に響いてくる地が抉れる音・・・・・・あれは、まさに・・・・・・!
「(私が憧れた・・・・・・私が何度も屈辱を味わわされてきた・・・・・・あの人の走りだ・・・・・・。まさか、10年以上の月日を経て、また見れる日が来ようとは・・・・・・)」
もう見れないと思っていた・・・・・・当然だ。スペルさんは・・・・・・デスペルフォースは遠い昔に命を落としたのだ。また見たいと思うなど、無茶な注文だ。・・・・・・だが、私の目の前では、スペルさんではないウマ娘が、まさに今・・・・・・その走りをして見せている。
「(だが、何故だ?何故、彼女はスペルさんの走りを完璧にマスターしている・・・・・・?)」
デスペルフォースは、サイレントベールが生まれる前には既に亡くなっていたので、彼女がスペルさんの走りを研究できるはずは無い。それに、あのスペルさんの走りは見よう見まねで出来るほど甘い走り方ではないので、見たところで並のウマ娘では習得出来るものでは無いのだ。
「(っ!この感じ・・・・・・ベールは『
10年以上経った今だが、今でも私は当時のスペルさんとのレース対決は記憶に残っていた。その記憶と照らし合わせて見ても、やはり今のサイレントベールは、まごう事もなきあのスペルさんのレース運びをして見せている・・・・・・と断言できてしまっていた。だが、それと同時に・・・・・・”似すぎている”・・・・・・とも思えてしまう。弱冠12歳で『
だが、私はこうして再び・・・・・・懐かしいとも呼べるスペルさんの感覚・・・・・・正確には温もりをこの場を持ってビリビリと感じ取っている・・・・・・これが指し示す答えは・・・・・・・・・・・・
「スペルさん・・・・・・なのか?」
以前から、何となくうっすらとそう考える様になった私だが、今回の彼女を目にして、それを考える力と意欲がさらに強くなったのは言うまでもなかった。これまでの彼女との触れ合い、今までの彼女の言動、そして今回の彼女のレースぶり・・・・・・その3点から判断するに、私にはどうしても彼女がスペルさんにしか見えなかった。
でも、間違いなく・・・・・・間違いなく私の憧れたデスペルフォースは・・・・・・あの
だが・・・・・・もしも、もしもサイレントベールが本当にスペルさんだったとするなら・・・・・・私は・・・・・・。
「(とにかく・・・・・・レースが終わった後で彼女を問い詰めるとしよう・・・・・・。もし彼女がスペルさんであったとするならその時は・・・・・・
ゆっくりと話をさせてもらおう」
微妙に口角が歪んだ私は、レースの方へと視線を向ける。・・・・・・当然、今のサイレントベールにオルフェーヴルが敵うはずもなく、サイレントベールが大差で圧勝した。レースが終わった後は、サイレントベールはいつもの調子に戻っており、お互いに健闘を讃えあっていた・・・・・・。
そんな姿も、やはりスペルさんに重なってしまう・・・・・・。あの人も、レース中はともかくとして、それ以外の時は誰よりも優しく・・・・・・親切だったから・・・・・・。その光景に、私は余計にサイレントベールの正体が知りたくなる。
だからこそ・・・・・・聞きたい・・・・・・。
「サイレントベール・・・・・・キミは一体・・・・・・・・・・・・何者だ?」
ルドルフの中では、もうベールがデスペルフォースだと思い込んでます。これにベールがどう答えるのかは次回で明らかになります。