ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第18章

 

 

容赦なしであった。

 

たとえどんな事情があろうと、ピンチになっていたことには変わりない。

 

ので、介入したまでだ。

 

 

「·············ッ!?」

 

 

事情が何もわかっていない者からしたら、突然の出来事に思えたはずだ。

 

急にひざまづいていた足場がなくなり、目の前に衝撃が走った。その一撃が突如加えられたことで戦況は大きく変わる。

 

 

「··············すまない、遅くなった」

 

「大丈夫ですかクラウドさん?」

 

 

難攻不落だった怪物を一時的に退けたことを確認し、黒い装備を身につけた少年と白い装備を身につけた少女はそれぞれ涼しげな調子でクラウドに囁いていた。

 

装備品のデザイン性だけならそれはどうなのかと疑問を抱いてしまうような見た目ではあるが、この世界ではなんの違和感もなく、何より防具としての性能自体は間違いなく本物だ。武器も強者と渡り合うなら十分すぎる威力と強度を誇り、怪物相手に刃を向けてもその切れ味は怯むことはない。

 

そして一刻も早く打倒しなければならない相手は目と鼻の先にいる。

 

 

「見たところ、尋常じゃない状況みたいだな」

 

「うん。この空間といい、あの団長を取り込んだ人といい、明らかにゲームの域を超えてる」

 

 

アスナはキリトの声を聞いて同意するように頷いた。

 

それから二人は改めて周りに視線を走らせた。

 

まずはこの空間。この空間はどう見てもSAOで用意されていたフィールドではない。何故わかるのかと聞かれればただなんとなくとしか答えられないが、作りがどう見てもSAOのようなファンタジー系の風景ではない。現代的な作りでゲームらしさもない。というか、そんな現代的な建物があちこちに浮いているというわけのわかんない現象が起きている時点でここはソードアート・オンラインではないと確信を持って言える。

 

ここはおそらく別の空間。

 

キリトやアスナどころか、クラウドだってこの場所を把握しきれていない。

 

そして何より、

 

 

「アイツ、どう見てもただのNPCってわけじゃないよな」

 

 

何しろ茅場晶彦のアバターを取り込んだくらいだ。SAOを作った本人も予期していない事態が起こったという表情をあの時見せていたため、これは明らかに異常事態だ。茅場本人が意図した演出とは思えない。しかしあの世界をあれだけの複雑なプログラムを設定しておきながら、制作者でも予想できなかった事態が起きるとでもいうのか。目の前で今それが起きているということがわかっていても、あの茅場の作ったセキュリティを掻い潜るイレギュラーがあるなんて信じられない。

 

あるいは茅場ではない誰かの策略か。

 

その辺については確認するにしても確かめるにしても、あの空中に浮いている奴をぶっ飛ばして身柄を確保するのが一番だ。

 

 

「··············クラウドさん」

 

 

一緒にこの空間に連れ込まれたアスナが、大きく息を呑んでいた。何やら疲れたような顔で、クラウドを見る。

 

 

「なんだかわかりませんけど、あれが全ての元凶ということでいいんですよね?」

 

「あ、ああ··············」

 

「それでお前はその元凶の思惑に巻き込まれている、と」

 

「··············ああ」

 

 

キリトがアスナに続くように質問した。

 

二人はそれを聞くと互いに見つめ合い、セフィロスの方を眺めてから再度クラウドに質問する。

 

 

「クラウドさん、一つだけ確認させてください」

 

「?」

 

 

再びアスナが最初に質問し、キリトがそれに続くように尋ねた。

 

 

「あれは··············俺たちの味方か?」

 

「絶対ない」

 

 

クラウドは即答した。迷いもしなかった。

 

 

「アイツが味方になるなんてこと、未来永劫あり得はしない!!」

 

「そ、そこまでか··············」

 

 

語尾をやたらと否定的に強調したのを見ると、キリトが言った可能性をどうしてもなかったことにしたいみたいだ。

 

そして、ここでまた一つわかった。

 

クラウドはアイツのことを知っている。

 

どこまで知っているのかは現段階ではキリト達にはわからないが、おそらくほとんどのことを知っていると見える。あそこまでハッキリと味方ではないと言い切る辺り、彼らには何か深い因縁があると思われる。キリトとアスナはそんなクラウドの態度をよそに、今も遠くの方でこちらを嗤いながら見てきているセフィロスを眺め、それからまたクラウドの顔をもう一度見直した。

 

 

「つまり··············アイツを倒せば」

 

「ここから抜け出せる」

 

 

二人は睨む。

 

異形の怪物を。

 

その二人の視線を受けたセフィロスは、ようやく二人の存在を認めたのか眼光をさらに不気味に光らせる。

 

纏う空気、瞳の奥に宿る闇、口元の笑み。

 

これはそういう形をした別の何かだ。キリトやアスナよりもはるかに老練な。圧倒的な威圧に押し負けそうなくらいの存在に二人は思わず息を飲む。そこにいるのにそこに存在しないかのような違和感が拭いきれない。

 

だが引かない。引くわけにはいかない。

 

二人はセフィロスに敵対するという意思を見せるために剣を掲げる。あの世界で最も活躍した二人の剣士、あまりにもわかりやすい直接戦力の要。

 

 

「··············ふっ」

 

 

笑いが漏れた。

 

震源は二人の後ろから。

 

ズタズタに全身を叩かれようとも、彼は決して倒れなかった。

 

クラウド・ストライフの戦いは終わらない。彼の戦いは始まったばかり。いいや、この戦いはそんな小さい枠には留まらない。たった三人で怪物に挑むこの戦いは、歴史に刻まれるに値する。記録には残らずとも、紡がれることにはなるだろう。

 

二人の少年少女達によって、この戦いは想い出にいつまでも残り続ける。

 

 

クラウドは立ち上がる。

 

 

二人の剣士が目の前に降り立った。たったそれだけで彼はもう一度、どこまでも強く固く。手に持つバスターソードを握り直した。

 

絶望で埋め尽くされた戦況はもうない。この先に待つのは正真正銘本物のゲームクリアまでの道そのものだ。

 

クラウドは二人に続くように、間に入って剣を構える。

 

彼の··············彼らの戦いは未だに終わっていない。

 

 

「··············フッ」

 

 

対して、セフィロスはこの世界の看板役者に近い。大仰な身振りで、声も高らかに、なのに誇示すればするほどどこか夢か幻のように存在感や現実味は逃げて行く。

 

だからまだ彼は存在し、だからクラウド達の前に立ち塞がっている。目的を果たすまでは、何度も蘇る。全ての者達の敵対者として、ゲームの常識を塗り替えてまで、人々が持つ現実という『正しさ』の概念を強奪し、生きる権利をもぎ取り、絶望を蔓延させていくに至るほどに、彼はしぶとく立ち塞がる。

 

やることなすこと全てが失敗し、裏の裏を読んでもなお裏目に出る。そこまで苛烈でどうしようもないほどの茨の道を自ら歩んでおきながら、それでも奴はここまで這い上がってきた。

 

セフィロスは絶対に止まらない。留まることはない。

 

妨害されるのが前提、失敗するのが当然。そう考えてなおここまでやってきたのだから。なおのこと、今更どんな障害が行く手を阻もうとした所で、自称選ばれし者にとっては驚くべきことなど何もない、平然な状態でしかないのだ。

 

そして、奴は言った。

 

手に持っていた剣を逆手に持ち、クラウドの前に降り立った子供相手にセフィロスの甘ったるい唇がこう紡いだのだ。

 

 

「二匹邪魔者が増えたところで、変わることはない」

 

「「ッ!?」」

 

「··············来るがいい」

 

 

ここではっきりと明記する。

 

対するキリトやアスナ、そしてクラウド側にはもはや対話などなかった。

 

 

「「「ッ!!」」」

 

 

ゴウッ!! と。

 

闇を引き裂いて、全員同時にセフィロスへ斬り込んで行く。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

音速の限界を、突き破る。

 

そろぞれの肉体そのものを凶悪な武器へと変える、規格外の攻撃。キリトはその派手な二刀流のスキルを放ち、アスナは鋭い先端に全威力を集中させた突き、クラウドは工夫もない片刃の剣。スピードと突きに直球の攻撃、どれか一つでも対処不能なものを、念押しで重ねてきた。まともに喰らえばオーバーキル。傷一つどころか肉体全部を粉々にするほどの威力が同時に放たれる。

 

 

「··············ふっ」

 

 

だが、セフィロスは呆れたように鼻から息を吐いただけだった。

 

三方向からの攻撃に、三回同時に音が響き渡る。

 

 

ガキンッ!! と。

 

 

火花を散らす音が一面に炸裂した。

 

直後。

 

もはや無音に近かった。何かの間違いかと、その一瞬は時間が伸びたかと錯覚するほどの静寂。

 

あろうことか奴は、同タイミングで放たれた攻撃をたったの一瞬で捌ききった。やったことは単純だった。体を素早く動かして刀を三方向に向かってただ振っただけ。何人にも受け止めることのできないはずの斬撃を、セフィロスは一振りの刀で弾き返した。

 

 

「な!?」

 

「ふっ!」

 

 

一番近くにいたキリトが一番最初の被害者だった。セフィロスは三人の攻撃を弾くとキリトに一番最初に注目し、飛び蹴りを放って反対側の方向まで吹っ飛ばした。

 

 

「がっ!?」

 

 

ノーバウンドで薄いアスファルトに激突したキリトは止まることはなく、そのアスファルトをバラバラに粉砕しながら崩れ落ちる。

 

 

「キリト君ッ!?」

 

「ハッ!」

 

「!?」

 

 

アスナが声をかけるもすぐに次の攻撃が迫ってきていた。

 

セフィロスは生死など確認しない。次々と標的を変えて戦況を有利な状態へと変えていく。縦に開いた瞳孔は揺らぎ、それでもターゲットを正確に捉える。

 

 

「っ!!」

 

 

それでもアスナは油断はしていなかった。

キリトに声をかける余裕を持っていたから動けたわけで、戦闘の真っ最中だということは忘れていなかった。

 

故に、アスナは臨機応変に対応した。

 

まさに一瞬だった。

 

瞬きの暇も与えず、闇を引き裂く一撃が迫り来る元凶の胸へと襲いかかっていく。

 

自らこちらに迫ってきてくれていることを利用して、アスナは鋭い突きを誰よりも早く見舞ったのだ。

 

元々、あの世界で一番と言われたギルドの副団長だ。キリトとも互角に戦えるほどの戦闘力まで鍛え上げ、そして幾度も最前線で凶悪なボス達と戦いを繰り広げてきた経験もあって、即座に作戦を考えることなど造作もない。常に戦況を見て、その場で瞬時に攻撃方法を組み立てる事ができるその頭脳こそがアスナの最大の武器。

 

アスナの鋭い突きの攻撃と、迫り来るセフィロスのスピードを利用してさらに威力を増大にさせれば、このまま全身を粉々にできる。

 

しかし、

 

 

「··············言っただろう」

 

「!?」

 

 

今度こそ、アスナの表情が凍りついた。

 

閃光と化したレイピアが、いつの間にか光を失っていた。スキルが発動し終えたという証拠と、セフィロスから歌うように囁かれるその声に、背筋が凍りついた感覚が襲ってきた。

 

 

「増えたところで何も変わらない」

 

 

ゴッキィィィンッ!! という重たい音と共に、矛先の流れが強引に弾かれた。

 

剣先は、セフィロスの右手の中に。

 

傷口を押さえているわけではない。皮膚に触れるギリギリのラインで、奴の掌がアスナのレイピアを掴んでいる。

 

 

「··············ッ!?」

 

 

馬鹿げた防ぎ方に目を見開く。

 

片手での真剣白刃取り。

 

普通の人間にはできない芸当をセフィロスはあっさりとやって見せた。

 

そのままアスナはセフィロスの手によって遠くへと投げ払われる。得物を喰いそびれたアスナは近くに漂っていた鉄の街灯へと激突する。

 

 

「アアッ!?」

 

 

背中からぶつかり、その衝撃で街灯はくの字にへし折れる。

 

 

「ッ!? アスナ!!」

 

 

いつの間にか復活していたキリトが愛する者の名を叫ぶ。

 

セフィロスはそんなことすら気にせず、何の変哲もない右手をひらひらと振っていた。何ともない、そう言っているかのようにキリトに堂々とした姿を見せる。

 

 

「っ!!」

 

 

何かを警戒するように、隣にいたクラウドもまた一歩後ろへ下がる。あるいは、次なる一撃を放つための助走や間合いを考慮しているのか。

 

 

「··············どうした?」

 

 

酷薄な笑みを浮かべているが、果たしてどこに向けているのかわからない。

 

始めから戦っていた自称ソルジャーに対してか、あるいはここに乱入してきた黒の剣士にか、それとも先ほど放り投げた閃光か。

 

 

「この程度の力で私に挑もうとしてきたのか··············愚かだな」

 

 

セフィロスの唇が歪む。

そこに尊敬やら喜びやら、そういったポジティブさを示す笑みは刻まれていない。

 

嘲り。

 

それだけであった。

 

 

「跪き、許しを請う姿を見せてくれ」

 

 

全長二メートルを越す刃が横へと薙ぎ払われる。

 

ドッパァ!! という轟音が空間に炸裂した。

 

武器を盾代わりに使う暇もなかった。その音が自分たちの体から出す音だと気付いた時には、すでに呼吸が止まっていた。空間を超えて放たれた無数の斬撃に切り刻まれた彼らの体は、一秒もかからずに分厚いコンクリートまで吹き飛ばされる。

 

 

「がっ、あぁ!!」

 

「ぐッ!!」

 

 

灰色の粉塵が、煙のように舞い上がる。

 

空中に漂っていたコンクリートの一つまで吹き飛ばされた二人は縫われたようにそこに固定された。重い何かで押さえつけられている感覚。重力が歪み、そのコンクリートを軸にして二人を押さえつけていると気付くには数秒の時間がかかった。体を固定されたクラウドは、コンクリートに埋れそうになりながら、首だけを動かして頭上を見上げた。

 

が、見上げる必要はなかった。

 

 

「つまらんな。数が増えてそれぞれが策を練って攻撃を繰り出したところで、もう限界が来たか?」

 

 

奴はいつの間にか二人に接近しており、ふわりと羽毛のように近くに浮いていたアスファルトに足を乗せると、静かに語る。

 

 

「その程度の力しか持たないのなら、もはや何の価値もない」

 

「「ッ!!」」

 

 

返事はない。

 

しかし行動はあった。今にも砕けそうなコンクリートから離れようとボロボロの体を動かして、再び戦うために立ち上がろうとしているのだ。キリトもそんなクラウドを見習って自分もこの拘束から抜け出そうと必死にもがく。

 

それを見たセフィロスは嘲笑い、

 

 

「いいだろう」

 

 

異常に長い刀を構え直し、先端をまずキリトに向ける。

 

 

「お前が守りたかったものから最初に葬ろう」

 

「なッ!?」

 

「ッ!!」

 

 

クラウドは力を振り絞って抜け出そうとする。

 

しかし、残念なことにセフィロスの方が早かった。既に刀はキリトに向かって放たれる。長い刃はセフィロスの意志に応じて大きくしなる。的確に、絶命させるようにキリトの首めがけて。

 

キリトは目を瞑らなかった。

 

だからこそ、彼は最後の最後で気付いた。

 

 

「キリトくぅぅぅぅぅんッッッ!!」

 

 

閃光が瞬いた。

 

音速の三倍もの早さで放たれた一撃は、セフィロスの攻撃を中断させるには十分だった。空間に漂っていた瓦礫の残骸を抉り取り、轟音と閃光を撒き散らして銀髪の怪物へと突っ込んだ。

 

だが、

 

 

「··············ふん」

 

 

その展開は最初から予想していたので驚くことはなかった。

 

もはや彼女からしても確信を得るための試し撃ちだったのだろう。セフィロスが攻撃を止めて迫りくる虫を払うように刀を振るうだけで、あっさりと致死の一撃が横に弾かれ、穂先が宙を泳ぐ。

 

しかし、彼女は目的を果たせた。

 

攻撃を中断させたことで連鎖的に二人を縛っていた拘束も解かれ、二人はそのまま下へと落ちていく。落ちていくといっても投げ出されたわけではなく、感覚的にはゆっくりで、二人の足は無事に浮いている足場の一つへと接触する。

 

 

「キリト君!! クラウドさん!!」

 

「アスナ!!」

 

 

アスナが近付いてくる。

 

キリトはその声に応じ、互いの安否を確認するために両者とも距離を詰めていく。見たところ目立った傷はない。四肢共に正常にくっついている。これならばまだ問題なく剣を振れるだろう、二人は互いにそう思いながら安堵していた。

 

そんな中で、クラウドは確かに聞いた。

 

 

「··············救えないな」

 

 

セフィロスの声がわずかに低く落ちた。

 

なのに、彼の顔は未だに嗤っていた。奴の顔に一体どんな感情の色が乗っているのか想像もしたくないが、まだ余裕そうにしているということだけは明らかだ。

 

 

「どの一撃も致命傷とまではいかずに全て弾き返されるとは、救いようがないな。殺意という便利な武器がありながらそれを酷使できず、私に傷一つ負わせられないとは、本当に救えない」

 

 

そうとわかれば一切の容赦などない。

 

セフィロスが踏み倒して先へと進むと宣言すれば、奴は本当にそうする。そこらの雑魚を害虫駆除するのと同じように、何も気にせず踏み潰して殺して進む。

 

と、その時だった。

 

変化があった。

 

 

「ハアァァァアアアッ!!」

 

 

ゴウッ!!

 

 

ヒビが入っていた足場を蹴飛ばし、クラウドがセフィロスへと向かっていく。

 

あまりの脚力に、足場にしていたアスファルトが砕ける。

 

セフィロスはクラウドが急接近してきたことを確認すると、クラウドと対立するように自らも真っ直ぐ前方へと飛んだ。それこそ空中をスライドするかのような、重力を力技でねじ伏せた二人の体が、剣が、中間地点で容赦なく激突する。

 

火花が爆発した。

 

 

「ぐっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 

衝撃波が無尽蔵に撒き散らされる。その余波としての衝撃波が周囲一帯へ均等に炸裂し、キリトとアスナは薙ぎ倒されそうになりながらも、キリトが彼女を抱き寄せて身を守ることで堪え、辺りに漂っていた足場は木っ端微塵に砕け散った。

 

前進するために使った全身のエネルギーは初撃で完全に失い、クラウドとセフィロスは真下へ降下を開始。しかし二人にとって、重力落下は脅威ではない。彼らは構わず、さらに至近距離で剣を振るう。

 

ガガガガギギッギギッ!!

 

という刃が複雑に噛み合う音が響く。

 

足場のない空中戦では、真っ当に自分の体重を預ける斬撃は繰り出せない。そこでクラウドとセフィロスは、相手の攻撃を受け止めたその余波のエネルギーを逆手に取って体を回転させて、様々な角度から一撃を返し、返し、返し合っていく。

 

それは複雑に絡み合いながら落下していく。

 

足場なき状況を最大限に利用した応酬も、永遠に続くことはない。空間に浮いている足場達が二人のすぐ真下から上へと都合よく迫ってきていた。そして、それに着地した瞬間こそが、拮抗した状況を崩す大きなきっかけとなる。

 

それはすぐにやってきた。

 

二人の足が、運ばれてきた足場へと降り立つ。

 

 

「ハァッ!!」

 

「ふっ!!」

 

 

衝撃が轟音と共に再び炸裂した。

 

クラウドとセフィロスの体が、それぞれ爆心地からかなりの距離まで離れる。それこそ、大きな爆弾に吹き飛ばされる小石のように。

 

それが激突の結果だった。

 

二人の一撃は同等で、互いに後方へと吹き飛ばされるほどの余波が生じていた。クラウドの体はまた別の足場まで吹き飛ばされ、ちょうどそこにはキリトとアスナが立っていた。最初にクラウドが飛んだ衝撃で崩れた足場から逃れるように、二人は既に別の場所へと避難していたようだ。

 

クラウドは二人がいる場所へ無事に着地すると、すぐさまセフィロスが吹き飛ばされた方を見る。

 

対して、セフィロスはこの空間の中心部分と言えるほどの大きなビルの中へと突っ込み、バキバキと内装を破る音が連続していた。

 

 

「クラウド!!」

 

 

キリト達がクラウドの方に駆け寄ってくる。

 

それにクラウドは目を向けると、険しい表情をする。眉間にシワを寄せ、側から見れば睨んでいるように見えたかもしれない。しかし、クラウドが睨んでいる相手はキリト達ではない。

 

吹っ飛ばしたセフィロスだった。

 

 

「くそっ!!」

 

 

明らかな舌打ちと共に、クラウドはビルの方へと視線を向ける。

 

吹っ飛ばしたというのに、彼は不快そうに舌打ちをした。そこに不満を感じる要素などないはずなのに、彼はそれが気に入らないといった表情をしている。

 

その様子に違和感を感じたアスナは一体どうしたのか尋ねていた。

 

 

「どうしたんですかクラウドさん?」

 

「嘗められてる」

 

「··············え?」

 

 

クラウドの顔には不快しかない。

 

自分の手を見つめて、ムカつくように掌を握りつぶす。

 

 

手応えを意図的に外された感覚が残っている。

 

 

一撃を加えたクラウドだからわかる。あの踏み込みであそこまで吹き飛ぶなんてこと、あり得ない。手応えも全く感じられなかったのにあんなに吹き飛ぶなんて考えられない。

 

考えられる可能性は一つ。

 

奴は自ら跳んだのだ。

 

衝撃を逃すように、自らの足であそこまで跳んだのだ。あたかもクラウドとの衝突で吹き飛ばされたなんて下手な演出までして。

 

 

「すぐに終わってしまってはつまらんだろう?」

 

 

テロにでも遭ったようなビルの真ん中から、そんな声が聞こえてきた。

 

心を読まれたような一言を呟きながら、吹っ飛ばした穴から奴は平然と現れた。ギクリと体を強張らせる暇すら与えないほどの強者としての威圧感に圧倒される。

 

セフィロスはむしろようやく自分と意図に気付いてくれたかとでも言うように、緩やかに両手を広げて目の前の敵を受け入れていた。

 

クラウドは浅い息をして標的を睨む。

 

いい加減に、セフィロスが何をしたいのかがわかってきたからだ。

 

この空間の支配者は緩やかに両手を広げ、ひび割れたビルから出てきてうっすらと嗤っていた。灰色にぼやけた空の下で、そのまま言った。

 

 

「せっかく二人も追加されたんだ。すぐに終わってしまっては勿体無い」

 

「こいつ··············ッッッ!!」

 

 

キリトもようやくその意味を理解し、奥歯を噛みしめる。

 

この程度で。勿体無いかとかであっさりと勝負を投げられる程度の考えで、こいつは戦っていたのか。

 

ムカつく。

 

悔しい。

 

本気でこっちは相手をしていたのに、奴はただ遊んでいただけだったのだ。三人はその事実を知り、明確な敵意をセフィロスへと向ける。

 

顎を引き、目を鋭くさせて構える。

 

そして噛み締める。

 

戦い、という言葉の意味を強く強く噛み締める。

 

噛み締め、ざりッ!! と。そしてクラウド達は靴底で路面を擦り、己らの敵と向かい合った。

 

その直後にセフィロスはつまらなそうにこう言ったのだ。

 

 

「普通に勝つだけでは物足りん」

 

 

ブワッッッ!!!! と。

 

風が横顔を嬲ったのだと、三人はそれぞれそう認識していた。

 

いや違う。

 

横顔を嬲ったのは風なんかではない、“羽根”であった。

 

ビルの中から出てきたセフィロスの背中には、悪魔のように黒く、天使のような形をした翼があった。

 

その翼が彼の背でゆっくりと羽ばたくと、真横に灰色のカーテンが遅れて薙ぎ払われる。

 

まだ距離はあるのに、その翼が羽ばたく度に余波がここまで届いた。

 

 

「ッ!!」

 

「「ッ!?」」

 

 

クラウドはそれを見てさらに顔を険しくさせるが、キリト達はその神々しくもどこか邪悪さを感じさせる姿に唖然としてしまっていた。

 

怪物は、唖然とする少年たちに気づいたのか。

 

 

「ふっ」

 

 

鼻で嗤って、『片翼の天使』は凄絶な笑みを浮かべて、看板役者のような大仰な言葉でこう呟いたのだ。

 

 

「今再び··········忘れられぬ痛みを刻んでやろう」

 

 

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