ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第2章

 

 

夜明け前のひと時。

 

ティファが何故目を覚ましたのかは本人にもわからなかった。彼女は優れたバーテンダーであり、格闘家でもある。その訓練の成果は人の気配を掴むことにも長けている。電気もつけずに寝室を抜けると、店の入り口が不自然に開いていた。

 

警戒し部屋中を調べると、わかった事は二つ。

 

彼が帰って来た事。そして、もういなくなっていた事。ティファの顔色が変わるが、そこで彼女は新たな痕跡を見つける。

 

小さなメモ。

急ぎで書いたため、文字は不安定な線で書かれた短い文章。ティファは誰が書いたのかすぐに思い当たった。文章の詳しい意味まで探ろうだなんて思わなかった。

 

端的に説明すると、そこにはこう書かれていた。

 

 

しばらく旅に出る、と

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

『管理権限、掌握』

 

 

 

 

 

『アバターセット、完了』

 

 

 

 

 

『フルダイブまで··············1·······2·······3』

 

 

 

 

 

『クリア、リンクスタート』

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

閉じた瞼を透かして届いた朧な光がさっと消えた。

 

視神経からの入力がキャンセルされ、真の暗闇が包みこんでくる。視界には何も確保されない。だが徐々に目の前が鮮やかに弾け、現れたロゴは忙しなく形を変え始める。

 

視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。

 

脳から送られる感覚は全て身体からネットワークに流れ、あらゆる次元が重なって行く。意識はすでに体を離れ、未知の空間へと侵入して行く。各種の感覚テストが一つ一つ実施されOKマーク増えていき、全てがオンラインになったことを表すかのように、目の前を光が包んだ。

 

フォーカスの遠近が揺らぎ、ようやく景色に近いものが脳に投影される。 

 

 

(···························?)

 

 

ここはどこなのか、クラウドにはわからなかった。

あるいは、その視覚情報を脳というか機械が処理できていないのか。目に映った光景よりも、鼻や肌と言った表面的な感覚の方がしっくりと来た。

 

と、その時だった。

 

 

ザザッ

 

 

耳につんざく様なノイズに顔を顰め、耳を押さえる。

 

すると空間に綻びが生じた。

0と1で構成されていた空間が別のものに変化して行く。

 

 

一言で言えば、“教会”。

 

 

ボロボロに崩れた教会は、見覚えがあった。

 

ここは··························

 

部屋の照明などはなく、うっすらと蝋燭が明かりを灯しているだけであった。

 

そんな暗がりの中を見渡すと、誰かの気配があった。クラウドは思わず振り返った。

 

振り返って、そこで名を呟いた。

 

 

「······················hnboidr天ikw?」

 

 

(!?)

 

 

自分の放った言葉がブレた。

眉をひそめるクラウドだったが、言葉を発したことに違和感を抱いて怪訝そうに喉に手をやり、声の調子を確かめる。

 

するとそいつは、そんなクラウドを見て、

 

 

「ふむ··················まさか、この世界に自ら入ってくる者が現れるとは驚いたが、『意味』を表現できないのか」

 

「!?」

 

「興味深い。意外な展開に私も驚いているよ」

 

 

喜怒哀楽どれを抱いているのかわからない。

いやむしろ、全ての感情を合わせた結果、ああなったのかもしれない。 

 

謎のローブには顔がなく脚もない。

 

まるで幽霊の様に浮遊し、手には手袋を嵌めているが、手首がなく、まるで透明人間が服を着た様な奇妙な姿だった。

 

 

「それについてはこちらでなんとかするとしよう、君の優秀なアドバイザーに代わってバグを修正してやる」

 

 

謎のローブは淡々と語っているが、その口調や声の強弱からクラウドという存在に驚いている様だ。

 

クラウドからすれば違和感だらけだ。人の形をしたものが、人の言葉を放つことに、これほどまで違和感を覚えた事はない。

 

 

「だが、すまないが君を参加させるためには外部からの通信は遮断させてもらうよ。この世界を、より良くするためにね」

 

「!?」

 

「抵抗しようとしても無駄だ。君は今アバター設定中の身であり、動かせるのは必要なコマンドを入力する為だけのものだ。それに君はまだ正式サービスのチュートリアル中だ。残念ながらイベントが終了しなければ、自由に動くことは出来ない」

 

 

それは告げる。

 

 

「何より、関係のないものの参加を許可することなど本来あってはならないんだ。君はどうやら、正式にこのソフトを購入したわけではないようだからね」

 

「dhgdeud何jiioofopfygsしjeg!?」

 

「バグがひどいな、異物が混入した結果か。まぁ、修正すればいいだけだ。それよりも君に一つ問いたい。君は何故、いやそもそもどこからこの『ソードアート・オンライン』にログインした? 君から『ナーヴギア』の反応が検知されないんだが、どうやってここに侵入した······················と言っても話せないのでは意味がないな。そのことについてはまた別の機会に取っておくとしよう」

 

「!?」

 

「何より君の存在が、この世界をより良くしてくれそうだ······················アバターのデータだけはいじらないことにしよう。本当の君といつか話すためにね」

 

 

正直、次のアクションへと思考が繋がらなかった。

ネットワークに紛れ込んだ未知の空間に飛び込んだ瞬間、いきなりここに飛ばされて知らない奴が目の前にいた。

 

そして、意味もわからず勝手に一方的に交渉を行っている。

 

まともではない。しかし敵意がない。

 

クラウドはわずかに重心を落とすも、それはただの感覚だった。実際には落としていない、そう感じるだけであった。

 

 

「さて、バグは修正した。これで君も話せるようになるだろう、チュートリアル後にね」

 

「············································」

 

 

ここがどこなのかもわからない。

そもそも、こいつがどんな役割を持っているのかすらわからないのだ。まずはそれを知らなければ、効果的に調査しようにもその方法も考案できない。

 

まるで鎖に繋がれた犬のような心境のクラウドに、そいつは初めて感情を見せた。意外そうな顔で、どこにでもいそうな顔で、

 

 

「どうやら、本当にここのことを知らないままやってきたようだな。無知とは時には無力で慈悲になるというが、ここでは教えた方が慈悲になりそうだ。だが時間はないんでね、簡略化して説明しよう」

 

「?」

 

「この世界で死ねば現実の世界でも死ぬ。つまり君の体も····················いや、ナーヴギアでない以上どうなるかはわからないが、なんらかのデメリットは発生するだろう。例えば、精神崩壊とかね」

 

「!?」

 

「それを回避する手はもちろんある··········死ぬな、そしてこのゲームをクリアしろ。それまでは君の意識はこの世界に留まることになる」

 

 

敵対行動のきっかけにもなる発言。

今わかった、こいつは敵だ。そして、おそらく今回の騒動の元凶。

 

ここで死ねば現実でも死ぬという単語が妙に引っかかるが、嘘を言っている雰囲気ではない。

 

クラウドは行動の指針を選択し、改めて目の前のやつを正面から睨みつける。

 

 

「では最後に、私からの些細なプレゼントだ。受け取り給え」

 

「?」

 

 

目の前に野球ボール程の光の球体が現れ、それを手に取ると球体の光が飛び散り、中から“手鏡”が現れた。

 

手鏡には、いつもの自分が写っている。

 

これがどうしたと問おうとした瞬間、クラウドの全身を白い光が包み込んだ。ほんの二、三秒、その短時間で光は消え、何が起こったのかと思いふと手鏡に視線送る。

 

 

そこにあったのは、『二年前の自分』。

 

 

元ソルジャーだと認識していた頃の姿。『1st』のソルジャー服に身を包み、背中には尊敬できる親友から受け継いだあの『バスターソード』があった。

 

 

「なるほど、それが君の本当の姿か」

 

「!」

 

「プレイヤー名《cloud》··················ふむ、いい名だ」

 

 

するとそいつは、まるで矮小で浅ましい人間の精神を追い詰めることこそが、この世界で唯一楽しめる娯楽であるかのようにニッコリと笑みを見せ、最後にこう言った。

 

 

「それではこの世界を存分に楽しんでくれ。勇敢に挑み、そして君がこの世界に何をもたらすのか、最終目標であるこの城の頂きへ辿り着く事ができるのか、期待している························健闘を祈るよ“クラウド”君」

 

 

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