ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第20章

 

 

片翼の天使と三人は十メートルの距離を空けて対峙する。

 

隕石が迫ってきて落ちてくれば即ゲームオーバーという、時間制限付きの戦場になってもそれらを引き裂くように彼らは動く。

 

セフィロスが左手を振るった。

 

右から左へ。

 

その動きに合わせて目に見えない衝撃波が動いた。空間を突き抜ける攻撃は形を崩すように津波となって横一線に全てを薙ぎ払っていく。

 

ドッ!! という轟音が炸裂する。

 

 

「ッ!!」

 

 

クラウドは咄嗟にバスターソードを構え、二人を守るように防ぐ。

 

そこを境に、破壊の渦が後から追いかける。この空間は今もなお破壊をしつくしているというのに、その左右に建つ崖のような建造物をまとめて抉り取り、列車やら瓦礫を吹き飛ばし、建物そのものを斜めに傾がせる。

 

しかし、それは剣で防げる攻撃。

 

喰らえばひとたまりもないが、当たらなければどうということもない。

 

 

「キリト、アスナ!!」

 

 

クラウドは叫び、彼らの返事を待たずにセフィロスの元へと走り出た。

 

セフィロスの攻撃をこちらで引き付け、その間に二人がセフィロスの懐に潜り込む。最も効率的なパターンで攻めていく。

 

何故そんな戦法で挑むのか、それはセフィロスがクラウドにしか興味がないからだ。

 

他の二人など、奴にとってはただの路傍の石ころ。ならば、クラウドが引き付けている間に二人が攻撃を加えればいい。それに合わせるように、クラウドもまた戦闘に加わればいい。

 

二人はそのクラウドの行動の意味を理解し、首を縦に振ると、二人は左右に分かれるように走り出す。

 

一方、セフィロスの方も思惑通りにクラウドに注目したらしい。

 

 

「面白い」

 

 

ニヤリと嗤いながら、セフィロスは正宗を振るう。

 

上から下へ。

 

その動きに合わせ、衝撃波は縦一線の軌道を描き、その鋭い一撃がクラウドへと襲いかかる。

 

 

「ふッ!!」

 

 

クラウドはどうにかそれを弾き飛ばすが、あまりの威力にどうしても防御に集中してしまって一瞬の硬直が生まれてしまう。

 

が。

 

ヒュ!! と。

 

そんなクラウドをアシストするように、二本の剣と細剣を携えたキリトとアスナが走り抜けていく。

 

 

「ふん」

 

 

セフィロスの正宗が二人へと向けられる。

 

ビュン!! という膨大な音が耳を打つ。

 

横薙ぎに一直線に放たれた刃を、しかし二人は上半身を振るようにして避けた。それでいて、二人の足は止まらなかった。二度、三度と放たれる必殺の一撃を的確に回避しながら、剣を構え直して懐へと飛び込んでいく。

 

最初はアスナからだった。

 

 

「ハァ!!」

 

 

一度後ろへと引かれた細剣が、勢いよく前方へと突き出される。

 

セフィロスはその細剣を、横薙ぎの正宗で弾く。

 

さらに逆方向へと刀を動かし、今度はセフィロスの攻撃が横からアスナを狙う。カウンターのように放たれる刀は、アスナの首もとを正確に捉える。

 

 

「させるか!!」

 

 

が、その一撃を止めるべくキリトが割り込む。

 

正確な軌道を描いていた正宗はキリトが弾き返したせいで後ろへと引かれ、そのタイミングを見計らうようにキリトは弾く返す際に振るった剣とは反対側の剣をセフィロスに突き出す。

 

セフィロスはそれを無理に受け止めようともせず、斜め後ろに跳ぶように後退する。そうしながら正宗を後ろへと引き、力の溜めを作ってから一気に振り払う。

 

 

「せいやッ!!」

 

 

並みの人間ならバラバラにされてもおかしくない状況だが、少年にとってはその攻撃はもはや見慣れた一撃だった。

 

フロアボスとの戦いで培った戦闘経験は動体視力と反射神経のレベルを上げている。

 

キリトは二本の剣を交差させて防御の体勢を取り、周りの瓦礫が派手に吹き飛ばされるが、二人とも五体満足のままだ。

 

 

「今だ!」

 

「ええ!」

 

 

キリトに呼ばれてアスナは即座に前へと出る。

 

しかし、キリトが防御の体勢を取ったせいか、すでにセフィロスは体のバランスを取り戻している。

 

故に、だ。

 

 

「ハァ!」

 

「ふ········」

 

 

セフィロスの表情は変わらなかった。

 

ただ口元を歪ませただけで、あとは正宗を前へと突き出しただけであった。倒すために突き出したアスナの細剣だったが、片翼の天使にかすり傷を負わせることすら出来なかった。

 

 

「目障りだ」

 

「ッ!?」

 

 

セフィロスの首が滑らかに動き、縦に延びている瞳孔でアスナを見据える。

 

直後。

 

ゴッ!! という衝撃が腹に突き刺さる。

 

 

「がはっ!?」

 

 

アスナは襲い来る痛みに思わず口から液体が溢れ出るが、それは無色の液体であった。

 

アスナの腹に突き刺さったのは正宗の刃ではなく、楕円形の金具が嵌めらた柄頭であった。突き刺されて絶命することはなかったが、吹き飛ばされたアスナは地面を転がっていく。

 

 

「~~~ッッッ!!」

 

 

アスナは痛みに耐えつつも、靴底を滑らせて摩擦を利用して体をその場で停止させる。腹の内側に重い衝撃が残っているが、耐えられない痛みではない。

 

 

「アスナッ!?」

 

「だ、大丈夫·········ッ!!」

 

 

まだ剣は握れる。

 

そう言うかのように、アスナは剣を杖代わりにして立ち上がる。痛みは残留しているものの、次第にその痛みも引いていくだろう。それまでは一時的に安静が必要。

 

アスナの無事を確認したキリトは、再びセフィロスに刃を向ける。

 

セフィロスは相変わらず舐めたように片翼を羽ばたかせて睥睨している。

 

 

「ッ!!」

 

 

舐めやがって、とキリトは歯噛みしてセフィロスを睨み付ける。

 

が、セフィロスはそんなキリトに対してまるで害虫を見下すような視線を向け、嘲笑を注ぐような口調で言った。

 

 

「無駄な足掻きだ」

 

「!?」

 

「受け入れろ········」

 

「··········ッ!!」

 

 

身を強張らせるキリトに、セフィロスは凶悪な笑みで応じた。嗤って、正宗をその喉元に突き付けるようにして挑発してくる。

 

そんなセフィロスに歯噛みするキリトであったが、その瞬間、セフィロスは何故か怪訝な顔をした。

 

直後だった。

 

斬撃が来た。

 

真横からの一撃。

 

距離など関係なかった。壁を貫くように現れた翠玉色の衝撃波はキリトの真上を通り抜け、セフィロスだけでなく、その足場をも大きく削り取るように放たれる。

 

ズバッ!! という空気を切断する音が、後から遅れて響き渡る。

 

紫電のような瞬き。

 

それは、あの何でも屋が得意とするシステム外の必殺技。

 

 

「ふん」

 

 

セフィロスの笑み。

 

薙ぎ払われた一撃の出所がわかった途端に口角を上げると、あまりにも巨大な衝撃波を、セフィロスは呆気なく真下からアッパーカットのような鋭い剣撃を見舞った。

 

結果、クラウドが放ったであろう攻撃はわずかに軌道が上に逸れ、セフィロスの頭上で突き抜けることになり、鉄筋コンクリート性の建物に勢いよく突き刺さった。

 

 

「くだらんな」

 

 

その一撃を放った人物を視界に入れると、セフィロスはまたもや鼻で嗤う。

 

それに対して、遠くから一撃を放ったクラウドは思いっきりジャンプしてキリトの真横に飛び降りてくると、からかうような口調でこう言った。

 

 

「行けるか、キリト?」

 

「ああ·········当然だ!」

 

 

そう言って。

何でも屋と黒の剣士は、互いの背中を合わせて剣を構え直した。

 

並んで立つ二人の姿。

 

個人の戦闘ばかりをしていたもの同士が、ついに肩を並べる。

 

もはや、注意深く互いの目を見ながら語る必要もない。クラウドはぞんざいな調子で信頼を預けるように、キリトに対してただ一言こう言った。

 

 

「行くぞ!!」

 

「ああ!!」

 

 

ゴバッ!! と大地が裂けた。

二人が同時に駆けたことで、地面の方がその圧倒的な二人の力に耐えきれなくなったのだ。

 

 

「············ハァ!」

 

 

セフィロスもそれに応じる。

 

生き抜くために剣を握りしめるクラウドとキリト。

永遠に思い出に留まることはないセフィロス。

 

両陣営の剣士達は互いに睨み合い、そして直後に躊躇なく激突する。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

クラウドは右から、キリトは左から。

 

それぞれ回り込むような挙動で、もはや肉眼で追い掛けるのも難しい速度で、彼らは片翼の天使の元へと進み剣を振るう。

 

 

「ふんっ!」

 

 

対して、セフィロスはやはりというべきかクラウドの方へと反応した。

 

全長がクラウドの身長に匹敵するバスターソードを身を捻って回避すると同時、その動きを活かして正宗を横回転するように振り回す。

 

 

「消え失せろ」

 

 

セフィロスは超至近距離で、クラウドにささやく。

 

直後。

 

 

「舐めるなッ!!」

 

 

ゴッ!! と二つの斬撃が激突した。続けて放たれた袈裟斬りに、クラウドもバスターソードで応じる。しかし、ただ応じたわけではない。次の一手に繋げるためにただ弾き返すだけで終わらせない。

 

クラウドの破晄撃は剣から気を飛ばして遠距離攻撃が出来る技だ。

 

クラウドの剣とセフィロスの刀が叩き合ったその瞬間、クラウドのバスターソードから衝撃波が生まれ、そのままセフィロスの持つ正宗へと振動が伝わっていく。

 

 

「···········っ!?」

 

 

今まで一方的に振るう側だったセフィロスが、予想外の反動に驚愕する。

 

剣と刀がぶつかり合って生まれたクラウドの破晄撃は正宗の刃によって貫通することはなかったが、衝撃波の威力を受け止めたことによってセフィロスの体を強引に後ろへと押し出していく。下がるというより地面を削りながら滑るような動きだが、そこはまだ両者の射程内。

 

続けて互いの一撃が走る。

 

 

「ハァッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

剣の大きさなど気にかけず、武器ごと致命傷を与えようと攻撃を放つ二人の超人兵士。二人の力はほぼ互角で、わずかな差で勝敗が決することはない。

 

だが、

 

 

「せいやッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

そこへ、真横から二本の剣を携えたキリトが突っ込んだ。右手と左手を互いに反対方向へと振り上げ、振り下ろす際に交差させてバツ字を描かせる。

 

まともに食らえば相手は両肩から胸に、そして両足と腰の境目部分まで潜り抜けて身体は四つに分けられる一撃に対し、セフィロスは土壇場でキリトの剣の軌道を捻じ曲げ、これの防御に当てる。

 

当然ながら、そうするとクラウドの攻撃に身を晒す羽目になる。

 

しかも、ダメ押しと言わんばかりにキリトも力を振り絞って剣を再度振り下ろす。

 

 

「「うおおおおおおおおおおおッ!!」」

 

 

二人の雄叫びが重なってビリビリと戦場を高揚させる。

 

 

「ッ!!」

 

 

セフィロスはそんな声に一々反応を示さず、まずはクラウドの腹に鋭い蹴りを突き入れて、わずかに剣の軌道を曲げる。

 

 

「がは······ッ!?」

 

 

剣は不安定な軌道を描き、ギリギリの所をバスターソードが通過するのを待たずに正宗と拮抗するキリトの剣を弾くと、追撃から逃れるために大きく後ろに跳び下がる。

 

あの怪物がやるとは思えない全力の回避。

 

しかし二人はそれを黙って許すことはない。

 

 

「ハァッ!!」

 

「セイヤァッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

火花の嵐が下がるセフィロスを追うように向かっていく。

 

腹の痛みを根気で抑えつけ、キリトと共に連撃を繰り出していく。

 

様々な角度から迫る攻撃に対し、セフィロスは長いリーチが取り柄のその正宗を振るい、次々と受け止め、いなし、弾き返す。

 

対するクラウドとキリトも、優勢を構築しようと剣を振るい続ける。

 

三者の斬撃が続く。

 

会話はおろか単語の発音すら許されぬ世界の中、クラウドとキリトの連携は切り崩されることなくセフィロスに攻撃を仕掛けていく。セフィロスの正宗と二人の剣は何度も交差していき、終わることのない追い討ちが炸裂する。

 

セフィロスはなんなく弾き返しているように見えるが、肩から首筋にかけて筋肉が強張るのを自覚する。

 

 

「··············」

 

 

笑みは消え、もはやセフィロスは二人の斬撃を受け止めることに集中している。

 

それほどまでに、二人の連携は上手く合わさっていた。クラウドの一撃は重くそして早い。キリトの攻撃は一撃はクラウドよりも弱いものの彼よりは素早かった。両者が得意とする技を余すことなく繰り出していくその連携に、セフィロスは一瞬眉間に皺を寄せる。

 

セフィロスの中に、『何かよくないもの』が芽生え始める。

 

二人の剣を受け止めるごとに、その『何か』は明確な形を為していく。両者の攻撃のその一つ一つが、的確にセフィロスを削り取り、その内側にあるものを浮き彫りにさせていく。

 

攻撃の流れを弾いても、その流れを止めることは出来ない。

 

何故だ、とセフィロスは思う。

 

彼の力はこの世界では威力を増すはずだ。そして、今のセフィロスはこの世界の創立者であるアバターを取り込んだことによって更なる力を得たはず。世界最強のソルジャーと世界最高の頭脳を持つアバターを組み合わせ、適切な性能を引き出すことに成功しているのだとすれば、セフィロスは間違いなく無敵といえる戦力を保有しているはずだった。

 

だが、

 

 

「·········何故」

 

 

ポツリと、セフィロスは呟いた。

 

彼は二人の連携を崩すべく、正宗を振りながら掴み直す。

 

隕石ももうすぐそこまで来ている。

 

隕石の残骸の一部が雨のように降り注ぎ、鉄筋コンクリートで作られた建造物の塊が次々に倒壊し、クラウドとキリトの立つ足場にも亀裂が走る。爆風が圧力を伴って四方八方へ撒き散らされ、セフィロスでさえ、思わず片翼で顔を庇うほどの破壊が吹き荒れる。

 

しかし。

 

クラウドとキリトは倒れない。

 

何故だ。

 

こいつらにはそんな力はなかったはずだ。

 

いつまでこいつらは剣を握り続けている?

 

二人の剣はいつになっても止まらない。二人の視線と天使の視線が交錯する度に、二人の瞳の奥で強大な何かが灯り続けている。

 

望んでいた悲劇がもうすぐそこまで迫ってきているというのに、何故二人は諦めようとしない。

 

天空が、大きく開く。

 

時間切れまでもう僅か。

 

もう無駄な足掻きだとわかっているはずなのに、先程からずっと変わらない展開を繰り広げている。

 

二人のそのしつこい姿勢に、セフィロスは思わず怒りのような感情を抱く。

 

 

「·········?」

 

 

怒り、とは?

 

何故、そんな感情を抱いた?

 

こんな奴ら簡単にねじ伏せられるのに、何故そんな感情を今感じてしまったのだろうか。

 

瞳の揺らぎが消える。瞳孔は縦に伸びて固定される。光を反射させるだけのものへと変わっていく。

 

セフィロスの常識に亀裂が入る。

 

思考に邪魔が入る。変わらぬ展開の最中に、予想外のノイズが入り込む。

 

余計な思考が、セフィロスの勝利の確信を鈍らせる。

 

ビキィィィィィッッッ!!! と。

 

唐突に、セフィロスの頭の奥から凄まじい頭痛が迸った。

 

 

「な·········?」

 

 

思わず、思考が止まった。

 

その出来事は些細なものかもしれないが、そこには重大な意味がある。

 

勝利の前提が崩れ去った。

 

セフィロス自身が構築していたその傲慢さからくる勝利への確信。唐突に抱いた感情によってその考えに揺らぎが生じ、自分自身でその勝利を疑い始めたのだ。

 

二人の剣はもしかしたらこの身に届いてしまうかもしれない。

 

たったそれだけをわずかに考えてしまったが故に、動きを遅らせてしまうという事態に陥ってしまった。

 

そして。

 

そして。

 

その余計な感情がセフィロスの中で発生した瞬間を見計らうように。

 

戦況はいよいよ終焉へと向かう。

 

 

「クラウドさん!! キリト君!!」

 

「「!?」」

 

「スイッチッ!!」

 

 

そう。

 

我らが『閃光』の異名を持つ少女によって。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

アスナはセフィロスを見た。

 

長い刀を振るい、莫大な攻撃を次々と振るう天使。戦場という名前の巨大な台風の目として、決して人の波に呑み込まれない化物は、もはや楽しむことすら必要としていない。

 

今のセフィロスには、天使という言葉が似合わない。

 

悪魔。魔人。化物。

 

そういうのが正しい気がする。

 

自分の欲望のために他者を利用するその傲慢さ。それはどこか、茅場と似ている気がした。己の野望のためなら他人がどうなろうと知ったことではない。目標達成こそが全ての願い。

 

彼が茅場のアバターを依り代としたのはつまりそういうことなのだと、アスナは漠然と知った。

 

似た者同士の思考。セフィロスに近しいものが茅場だった。ただそれだけだったのだろうと感じた。

 

その時だった。

 

 

「「ハァッ!!」」

 

「···········っ!!」

 

 

セフィロスの眉間がわずかに寄った瞬間、一瞬の硬直時間が生まれた。長く戦っていた二人の攻撃はようやく意味を成した。

 

その隙を、血盟騎士団の副団長を長くやっていた彼女が逃すはずもない。

 

だからアスナは、決着へと持ち込むために迷うことなく叫んだ。

 

 

「クラウドさん!! キリト君!!」

 

「「!?」」

 

「スイッチッ!!」

 

「「ッ!!」」

 

 

それは合図だった。

 

アスナの叫びに、屈強な何でも屋と黒の剣士は応じた。

 

彼女の想いの強さを知っていた二人は、アスナの意志を即座に理解した。言葉を交わすことなく、作戦会議すらもない。そんな余裕はなかったし、言わなくてもやるべきことはわかっていた。

 

二人が後ろへと下がると、アスナは強大な磁力にでも引かれるように地面を蹴って勢いよくセフィロスへと向かっていく。

 

アスナはこの世界に来てから変わった。

 

この世界に来た時は全てに絶望し、何もかもが嫌になって自暴自棄になり、死に急ぐように戦っていた。

 

いつ死んでもいい。どうせ生還なんて夢のまた夢。

 

考えるだけ無駄だと思っていた。

 

なのに、それら全ては単なる自分の被害妄想であることを知った。

 

『あの少年』と出会って、アスナは変わった。少年との出会いは運命とも言える。あの時出会わなければ、アスナは今もなお冷たい性格で、先を見ずにただ突っ込んで無謀な戦いを続けるだけの存在になっていただろう。救いのない世界で生きるのは辛く残酷だ。それを背負ってこの世界を生き抜くのは無理がある。

 

その認識を彼は変えたのだ。

 

共に戦ったことで、まだ剣を握りしめることが出来る。

 

アスナがここに来て変わることが出来たならば、この世界は美しいものだと思えたはずだ。とてつもない試練や苦難にぶつかっても諦めることはなく、真っ正面から挑んでいくことが出来たのは、この世界に来たおかげ。

 

そして、大切な人と出会えたのもこの世界に来たおかげだ。

 

そんな世界を個人的な願望や欲望によって歪めるようなことをする者がいるならば、黙っているわけにはいかない。

 

だから、迷わず放つ。

 

世界を歪める元凶へ、鋭い一撃を。

 

 

「イヤァァァァッ!!」

 

 

裂帛の気合いと共に突き技を放ったアスナの細剣は、真っ直ぐセフィロスの胴体へと直撃した。

 

先端は正確に射貫き、天を衝くような閃光が炸裂する。

 

セフィロスは強制的に後ろへと押され、強引に体勢を崩されてしまい不安定な足場の上で身体を揺らす。

 

その際に出来る一瞬の硬直。

 

セフィロスはそれを確認している暇もなかった。

 

 

「スイッチ!!」

 

「うん!!」

 

 

そのタイミングを逃さず、キリトは大声で叫んでセフィロスの正面へと二本の足を使って全速力で前へと駆ける。

 

セフィロスは目と鼻の先だ。

 

こちらは幸い、未だ五体満足を保っている。一歩、たったその距離を強く踏み込めば剣が届く距離に来て、キリトは短く息を吐いた。タイミングを見計らって極限の緊張を少しでも削ぎ、全体重を乗せてセフィロスの身体に迷わず狙いを定める。

 

 

「フンッ!!」

 

 

素直に攻撃を受け止めるはずもないセフィロスはその長い刀をキリトの胴体にお見舞いしようと振るわれる。

 

それも素早い速度、一瞬とも言える早さで。

 

雑草を刈るような他愛もない勢いでキリトを絶命させようとする。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

だが、キリトはそれ以上に早く両手を動かした。

 

キリトは長年の相棒である『エリュシデータ』で受け止めると、今まで攻撃を受けた分をお返しするように、止まない攻撃を連続させる。

 

受け止めた剣と反対側の『ダークリパルサー』で腹を切り払う。数秒の間も許さずに次の一撃を入れる。

 

右、左、右と。

 

それぞれの剣の力を爆発させ、脳内が焼き切れるほどの速度で振るい続ける。

 

処理速度を超えて、もっと早く。

 

早く。

 

甲高い効果音を響かせながら、二つの剣を次々と振るう。

 

 

「···········ッ!!」

 

 

セフィロスの身体が星屑のように飛び散る。

 

反応が追い付かない。

 

その事実を認識するかしないかのところで、セフィロスの身体はわずかに揺らいだ。体勢を整えようとしているのだろうが、キリトの攻撃は止まることはない。襲いかかる『二つの剣』がセフィロスの身体を貫通していく度に、セフィロスの右腕が真っ正面から吹き飛ばされた。

 

白光の塵が舞う。

 

かろうじて受肉していたセフィロスの身体が依り代を失い始め、苦しげに身を振るわせた。

 

そう。

 

これがキリトの隠し技、エクストラスキル『二刀流』の本領。

 

その上位剣技、

 

 

「スターバースト・ストリィィィィィィイムッ!!!!」

 

 

キリトは絶叫しながら左右の剣をセフィロスの身体に叩き込み続ける。

 

限界を超える。

 

全身をアドレナリンが駆け巡り、剣を動かす度に脳神経を麻痺させる。現実の頭脳が処理速度についていけずに悲鳴を上げようとも、キリトはシステムを上回る速度で攻撃を放ち続けた。

 

 

「ハアァァァァァアッ!!」

 

 

力を振り絞って最後に放った十六撃目が、セフィロスの胸を突き刺した。

 

 

「な、に!?」

 

 

得体の知れない激痛が雪崩のように襲いかかってきたのか、顔の皮膚を乱雑に歪めながらセフィロスは声を漏らす。

 

別に、キリトの力が増幅されたわけではない。

 

キリトはあくまでもキリトというただの人間でしかない。

 

なのに。

 

それを超える力を持つセフィロスは、その小さな少年に押し負けてしまった。

 

セフィロスは勢いよく胸を突き刺されたことで後方へと吹き飛ばされ、空中で身動きが取れなくなる事態に陥ってしまう。

 

片翼の翼は空中に浮遊するのはもちろん、空間を自由に動き回れることができる便利な代物だが、ダメージを受けたセフィロスの身体はスパークしたかのように動けなくなっていた。

 

 

「ぐっ··········!!」

 

 

それはキリトも同様。

 

剣技の余熱によって眩暈を引き起こし、キリトは全身の力が抜けるのを感じるとその場に膝をついてしまう。

 

まだセフィロスは身体を失っていない。

 

まだ戦いは続いている。

 

 

「··········あとは」

 

 

ならば、ラストアタックを決めるのは、

 

 

「任せました············」

 

 

キリトでも、アスナでもない。

 

 

「「クラウド(さん)!!」」

 

「ハァァァァァァアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 

だんっ!! と。

 

大きな音を立て、今まさに崩れそうになっていた足場からクラウドが叫びながら前へと跳んだ。

 

両者を断絶する亀裂を超え、前へと、セフィロスの元へ矢のように飛び出していく。

 

 

「···············」

 

 

セフィロスは嗤う。

 

目の前にいるクラウドが、剣を握って迫ってくるのを。

 

 

(ここで··········ッ!!)

 

 

世界の崩壊は間に合わない。

 

それだけの暇を与えることも、あの天使は許さない。

 

だからこそ、

 

 

(決めるッ!!)

 

 

キリト達が繋いでくれたこのチャンスを逃しはしない。

 

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 

 

クラウドの腹の底から、咆哮が溢れた。

 

その激情に逆らわず、彼はバスターソードに全ての力を乗せる。

 

 

「············フッ」

 

 

ズッドオオオオオオオオオオッ!!

 

轟音が炸裂した。

 

何者の攻撃も受け付けなかったセフィロスの図体にバスターソードを叩き込んだクラウドは、そのままの勢いで強敵を薙ぎ倒す。

 

この世界へこびりつこうとしていた『片翼の天使』の残滓は、空気に溶けるように今度こそ完全に消滅する。

 

同時に。

 

その瞬間世界から、あらゆる景色が消え失せた。

 

 

 

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