ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第11章

 

 

「双方、剣を引け!!」

 

 

その大声一つで、その場にいる全員の得物に宿っていた殺意が失われる。より正確には、唐突な爆音が領主会談場に響き渡った瞬間に砂塵が巻き起こり、視界を奪われて戦闘を中断せざるを得なくなった。

 

そして、空気中に漂っていた砂塵は時間が経つと共に薄れてゆき、視界が確保されたと思ったら、その爆音の震源地で得意気に仁王立ちしている黒髪のツンツン頭が自分達を睨んでいた。

 

 

「うわ!?」

 

「びっくりしたぁ~······ッ!!」

 

 

その男性の隣にいた美少女と美女二人は、男の大声に驚いて思わず驚愕した声を上げていた。

 

心臓の鼓動にまで影響させるほどの爆音を放った少年。

 

三六◯度空を見上げてみれば、三つの種族が剣や杖などをただ手に持っている状態になってしまっているのが見える。

 

今の様子を一言で表すなら、一触即発の一つ手前。

 

まだ触れても戦闘は起きない。だが皆敵意は常に保っている状態だ。話し合いでこの場が収まるとは思えない。

 

彼のやったことはなんとなく察するが、どう考えても愚かだ。

 

勇敢ではなく、蛮勇。

 

止めるからには、さぞ事の重大さを理解しているのだろう。むしろ皆、彼が何をしようとしているのか興味を示していた。

 

 

「これは······」

 

「ちょっと······まずいかも」

 

 

猪突猛進したキリトの行動で周囲から冷たい目で見られて背筋が凍る二人。

 

やばい、この後どうなるんだろう的な不安感を感じながら成り行きを見守っていると、

 

 

「リーファ!?」

 

 

と、リーファを呼ぶ声が飛んできた。リーファ同様シルフと思しき緑衣を纏ったダークグリーンの艶やかなロンクストレートが乱れぬように先の方で髪留めで揃えた女性が取り乱しながら歩み寄ってくる。

 

和風の衣。

 

ファンタジー世界でもギリギリセーフなデザインな服装を一人だけ着ていることから、彼女がシルフのリーダーなのだろう。

 

 

「サクヤ!」

 

 

リーファはリーダー的な人にため口で応える。

 

 

「一体何故ここに!? いやそもそも、これは一体どういうことなんだ!?」

 

「それについては·······」

 

「申し訳ありません」

 

 

取り乱したように質問を投げ掛けられて混乱していたところ、同行していたティファが助け舟を出す。

 

 

「そちらは?」

 

「あ、この人はティファさん。最近一緒にチームを組んだの」

 

「ティファです。よろしくお願いします······それで、この件に関してなんですけど」

 

 

助け舟を出したものの、自身も困ったように困惑気味に頬を搔きながら、

 

 

「簡単に説明はできません。一先ず言えるのは、これからどうなるかはキリト次第、ということだけです」

 

 

言いながらキリトの方に目を向ける一同。

 

もう何が何やらわからない。その場は完全に混乱に満ちており、何かがきっかけで全面戦争が起きてもおかしくない雰囲気だ。

 

元々、そのつもりだったかもしれないが。

 

それを食い止めてくれてるのは、皮肉にもあの少年だ。少年は微動だにせず、周囲にいる全種族を無差別に睥睨している。主にしている種族はサラマンダーにだが、全員が武器を振らないように眼光を鋭くして見張っている。

 

 

「······何か始まりそうな雰囲気がプンプンするんだけド」

 

 

ウェーブヘアから猫耳が二つ飛び出ている小柄な女性がそう言う。見た目から察するに、ケットシーの領主か幹部か、とにかく偉い立位置にはいるはずだ。

 

そんな彼女が、鼻を猫みたいにピクピク動かして不穏な空気を嗅ぎ取り、やんのかステップの如くめちゃくちゃ猫背にしている。

 

どう見ても異常な事態。

 

イベントだったらどれだけ良かったか。プレイヤー同士の単なる争いが生み出した緊張感に皆が硬直している。

 

それはキリトも同様。

 

実は心の中ではかなり動揺している。

 

だが、もう後戻りは出来ない。

 

この騒ぎの元凶であるサラマンダー軍に向けて、キリトは真っ直ぐ眼を固定しながら大きく叫ぶ。

 

 

「指揮官はどいつだ? そいつに話がある!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

その声に、サラマンダー軍は息を漏らす音を立てて後ろを向く。

 

その先には、皆と違って兜を被っていない、火山が燃え盛っているように鋭く逆立っている男が笑いながらキリトの方を見ていた。

 

彼は元から若い衆に任せるつもりだったのか、それとも敢えて自分が出るタイミングを遅くしてたつもりだったのか、彼の手には剣が握られていなかった。

 

キリトの持つ大剣よりも更にでかい巨剣を背に納め、その背中から深紅に光る翅を羽ばたかせて、その部下達が作った通り道を我が物顔で進み出てくる。重たい装備を目立たせるためにガシャッ!! とさせて降り立った重剣士は、手を下ろして武器を手に取る様子を見せずに一歩ずつ近づいて、キリトの前までやって来る。

 

背の差から、別の意味で二人は上から目線で睨み合う。

 

紅の男はただキリトを見るように下を向き、キリトは自分の方が偉いとアピールするかのように、一切動じないという意志が宿った瞳をして顎を上げて睨む。

 

数瞬の沈黙。

 

するとようやく、紅の重剣士は太い声で会話に応じた。

 

 

「スプリガンがこんな所で何をしているかは知らんが、その度胸に免じて話だけ聞いてやろう。お前は?」

 

「俺の名はキリト。スプリガンとウンディーネ同盟の大使だ」

 

 

その言葉に反応したのは、同行していた二人の女性だった。声は出さなかったが、絶句したような顔色でキリトのハッタリ演説を聞く。

 

 

「この場にはシルフとケットシーとの貿易交渉に来ただけなので、護衛はそこにいるシルフの少女だけだが、この会談が襲われたとなれば話はそれだけじゃ済まなくなる。サラマンダー族がこの場を襲うからには、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」

 

 

愕然としている周囲とは違って、素知らぬ顔をするキリト。

 

リーファとティファはその様子に思わず目を逸らしそうになる。なんか、連鎖反応で羞恥的なものが襲いかかってきそうな気がしたからだ。

 

サラマンダーだけでなく、シルフとケットシーの領主もその発言に唖然としていたが、二人はなにも答えずとりあえず微笑み返しておく。

 

キリトの前に来たサラマンダーの剣士は顎を擦りながら、

 

 

「にわかに信じがたいな。ウンディーネとスプリガンの同盟だと?」

 

「そうだ」

 

「あとの一人は誰だ? 護衛ではないのか? どういうわけか、普通の人間にしか見えない見た目をしているが?」

 

「話を逸らさないでくれ。今話すべきことはそんなことじゃない。あんたらは今全面戦争を持ちかけてきている状態なんだぞ。四種族で同盟を結ばれて、サラマンダーに対抗する事態になってるんだぞ」

 

「······」

 

「······よく、考えろ」

 

 

かなり勇気を振り絞って言ってやったキリトに称賛を送りたい。なんか何気にティファの件をなかったことにしたのも凄かったが、この場を収めるのに最適な言い訳を咄嗟に思い付いた彼はマジで凄いと感じた。

 

普段、そんな感じを見せなかったが、彼は恐らくやる時はやる男なのだろう。

 

しかし、やはりサラマンダーの剣士は納得がいっていないようで、

 

 

「······ふん、たいした装備も持たない貴様の言葉を信じろというのか?」

 

「······」

 

「······面白い」

 

 

そう言うと彼は好戦的な意思を見せつけるように背中に手を回すと、両刃の巨剣を抜き放ってキリトに差し向ける。

 

キリトは一歩後退して自分も剣をいつでも抜けるように手を回すが、サラマンダーはその赤く輝く刃に太陽の光を反射させて告げる。

 

笑って、

 

興味深そうに。

 

 

「お前のその無謀な度胸に応えて、俺の攻撃を三十秒間。その時間を耐え切ったら、貴様が大使であると信じよう······どうだ?」

 

「······」

 

 

彼はまるで察したような目をしていた。

 

しかし、そんなことはどうでもいいと思うくらいの笑みを見せている。

 

面白い奴だ気に入った、殺すのは最初にしてやる。

 

とでも言いたげに笑っていると、キリトも笑い返して、

 

 

「ずいぶんと、気前がいいね」

 

 

交渉成立。

そう言うかのように、キリトも何の装飾も効果も施されていないただの両刃大剣を抜いて、二人とも息を合わせるように翅を出現させる。

 

蜂のように震動させて浮き上がり、ある程度の高度まで昇ると両者は間を開ける。

 

その様子を見ていたリーファとティファは口に溜まった唾を呑み込み、緊張の音を鳴らす。

 

リーファにはわからないだろうが、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたティファにはわかる。

 

 

あの男、相当強い。

 

 

直感で、そう感じ取った。

 

何か根拠があるわけじゃない、でもそう感じてしまうのだ。

 

だが、それを証明するようにいつの間にか隣に立っていたシルフの領主であるサクヤが補足するように囁く。

 

 

「まずいな」

 

「え?」

 

「······サクヤさんもそう思います?」

 

「ああ、気配だけでもわかるが······それ以外にもまずい要素がある」

 

「「?」」

 

「あの男が持っている両手剣は、『レジェンダリーウェポン』と呼ばれる武器の一つ、『魔剣グラム』だ。聞いた話によると、サラマンダーの領主の弟······リアルでも兄弟らしいが、知恵が強みの兄に対して力が強みの弟。純粋な戦闘力はその弟が上だとされている。その弟が持つ武器が確か、レジェンダリーウェポンだと聞いたことがある」

 

「······ということは」

 

「それって、つまり······」

 

「そう、あの男こそがサラマンダー最強の指揮官······そして()()()()()()()()()()()()()()、“ユージーン将軍”だ」

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「······」

 

 

空中で対峙するキリトは、目の前にいるサラマンダー相手に息を呑む。

 

こんな装備でどこまでやれるか、問題だらけで少し不安感を拭えない。相手の実力を計れば、こっちが劣勢になるのが簡単に予想出来てしまう。

 

二つの剣に日差しが宿る。

 

と、

 

 

「ふんッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

空気を重く蹴るかのように、ユージーンが素早く動いた。

 

翅が見えなくなるほど早くなると、ユージーンはあっという間にキリトの目と鼻の先にまで接近していた。

 

 

「はあッ!!」

 

「チッ!!」

 

 

動きは超高速で素早かったが、大きく振りかぶってくれたおかげで防ぐことはできた。

 

ユージーンの持つレジェンダリーウェポン『魔剣グラム』が真上から振り下ろされ、キリトは自慢の反射神経を活かして頭上に剣を掲げて剣を受け流す。

 

大剣同士がぶつかり合い、魔剣は単なる大剣に流されるように軌道が逸らされる。

 

 

「ここだッ!!」

 

 

受け流しからのカウンター、そのタイミングを逃さなかったキリトは右に大きく振りかぶって曲線を描いて重たい一撃を入れる。

 

と、思ったが。

 

 

「ふん」

 

 

ユージーンは鼻を鳴らしただけで、簡単そうに頭を少し下げて回避した。

 

 

「ぬんッ!!」

 

 

そのまま持ち上げるように下から振るわれた剣に、キリトはまた防ぐ態勢に入る。防いで、またカウンターを叩き込む、その流れをまたやってやるつもりだった。

 

が。

 

どういうわけか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なッ!?」

 

 

驚くのも束の間、ユージーンの持つ魔剣は彼の持つ剣を透過すると、その姿を明確に実体化させ、キリトの体を空高く打ち上げる。

 

 

「ガァァァアアアアアッ!?」

 

 

キリトの胸に赤い線が刻まれる。

 

敵の攻撃が命中したことを証明するように炸裂した斬撃は爆音を周囲に響かせ、彼を象徴するスプリガンの黒い防具が斬り剥がされながら真上へ飛ばされる。

 

すると、それよりも早く誰かがキリトの横を通過した。

 

キリトよりも更に高く、限界飛行区域のギリギリなんじゃないかと思うくらいまで高く飛ぶと、打ち上げた彼を待ち構えるようにユージーンが魔剣を上へと掲げる。

 

刀身が当たる位置にまで来た瞬間、

 

 

「はぁぁぁああああッ!!」

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

巨大な大地の怒号。

 

飛ばされてきたスプリガンとウンディーネの大使と自称するキリトの体を、レジェンダリーウェポンである魔剣グラムを持つユージーンが地面に叩き落とした音だ。

 

常人ではまず耐えきれぬ一撃。

 

そして静寂。

 

一秒を千に等分したわずかな静寂の後、

 

 

「ぐ·········つッ!!」

 

 

さっきの爆音が自分の体から出た音だと気付いたときには、すでに叩き落とされていた。上から叩きつけられた彼の体は深い穴を作り出し、一秒もかからずに防弾繊維の防具を突き破った。

 

灰色の粉塵が、煙のように舞い上がる。

 

一撃でボロボロになったキリトは、砕けた大地に埋もれながら、首だけを動かして頭上を見上げた。

 

 

「ほう······よく生きてたな」

 

「ぐッ!!」

 

「しかし······この程度か、話にならんな」

 

 

彼はほとんど潰れかけたキリトを見下して静かに語ると、

 

 

「三十秒、たった今経ったが気が変わった。その首を取るまでに変更だ」

 

「なッ!? ふざけ───ッ!!」

 

 

叫ぼうとするキリトだったが、ユージーンは目を細めて語る。

 

 

「だが、もはやその気すらなくなった。剣を交えて、ある程度お前のことは把握した。技術に関しては俺と同じくらいだと思うが、『この剣』に対抗できなければ話にならない」

 

「········ッ!!」

 

「だから·······選ばせてやる、スプリガン」

 

「!?」

 

「このまま大人しく去るか、ここで燃え尽きるか······どうするか選べ」

 

「ッ!!」

 

 

返事はしない。

答えは決まっているからだ。

 

屈しはしない、『こんな奴』程度に。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()!!

 

 

そう言うかのように、砕けた地面の破片を掴み、ボロボロの体を動かして立ち上がろうとする。

 

 

「······悪あがきもここまでだな」

 

 

ユージーンは魔剣を突きの構えをして、静かに語る。

 

 

「束の間だったが、楽しかったぞスプリガン」

 

 

グラムの先端がキリトの左胸を指し示す。

 

刀身の姿を霞ませる魔剣グラムと同じように、素早さでその姿を眩ませたユージーンはキリトに迫り来る。

 

瞬間、領主会談の場から凄まじい轟音が響き、地震のように空気が震えた。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「ああッ!!」

 

 

リーファは絶句する。

 

キリトの実力は確かに本物だ。しかし、ユージーンという男が放つ殺気はリアルすぎる。

 

キリトはあくまで仮想世界で育て上げられた剣士だ。本物に近い殺意を向けてくる相手に、三十秒間持つのかわからない。

 

そして、戦いが始まってまだ十秒も経ってないのに、彼は上空へと打ち上げられた。彼の持つ剣を通過して、魔剣グラムがキリトの胸に斬撃を当てたのだ。

 

 

「今のは!?」

 

 

ティファがその意味不明な現象に驚くと、それに答えたのはケットシーの領主、アリシャ・ルーである。

 

 

「魔剣グラムには『エセリアルシフト』っていう、物体をすり抜けてくるエクストラ効果が付与されてるんだヨ。剣や盾で受けようとしても非実体化してすり抜けて、相手に当たる直前に実体化させル。それがユージーンの強さの秘密ってわけだヨ」

 

「そ、そんなッ!?」

 

 

リーファが目を見開いて慌ててキリトが埋まった地点を見る。そして再度アリシャに質問する。

 

 

「でもさっき、最初は透過しなかったじゃん!? 何かそうなる条件とか────ッ!?」

 

「違うよリーファ」

 

「!?」

 

 

透過する瞬間に何か仕掛けもしくは条件があるのではないか、もしそうならそれを見抜ければ勝機はあると思って聞いてみたリーファだったが、ティファが即座にそれを否定する。

 

 

「楽しんでるんだよ、あの人」

 

「楽しん、でる?」

 

「戦いを楽しむために、わざと最初はキリトに攻撃を防がせたの。互角に戦えると錯覚させるために、希望を持たせてから絶望させるために」

 

「!?」

 

 

つまり、遊ばれていた。

 

それほどの余裕があったから、キリトにまずコイツとは対等に戦えるという感覚を感じさせた。それを与えたことで、その希望を打ち砕く喜びを感じたかったんだろう。

 

そのためだけに、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ッ!!」

 

 

リーファはそう思った瞬間に止めようと翅を出そうとするが、それをティファが止める。

 

 

「なんで止めるのティファさん!?」

 

「今行ったらキリトの行動が無駄になっちゃう!」

 

「!?」

 

「あの人がこの戦いの中で動いていいって許可したのはキリト一人だけなんだから、私達が今動いちゃったらその瞬間に他の人達が襲いかかってくるよッ!? それこそ、キリトが言ってた全面戦争が始まっちゃうッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

ではただ見てろと言うのか。

 

キリトのHPバーがどれくらい残ってるのか確認しようと目を凝らす。

 

というか、もう三十秒経ったはずだ。

 

それなのに、ユージーンは殺意を手放そうとする様子は見られない。むしろ、これから狩り取ろうとしようとするかの如く、突きの構えで剣を持つ。

 

先端を左胸へと向けていることは明らかだ。急所に当てられたらキリトのHPバーは即ゼロになり、死亡エフェクトであるエンドフレイムに包まれ、折角の停戦状態も無駄になる。

 

それだけは避けなければ。

 

キリトもそう感じているのか、立ち上がろうとしている。

 

それを見たユージーンは躊躇することなく、一撃で残りのHPを吹き消す威力を持った魔剣グラムを持って突進する。

 

 

「キリト君ッ!!」

 

 

目が、湿る。

 

あんなにも強かったキリトがこんなにもあっさりと倒されるなんて、信じられない。

 

信じられるはずもない。

 

卑怯な手で圧倒したユージーンにトドメを刺されそうになっているキリトを見て、彼の名を叫んだリーファの耳に、

 

()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()

 

「······え?」

 

 

反応したのはリーファではなく、隣にいるティファだった。

 

すると“そいつ”は、平然と何かを押し付けるようにティファの腕に置いた。

 

ずっしりとした重みが彼女の両腕を襲う。両腕の筋肉で支えなくてはいけないほどのものの正体は、

 

『紫髪の小さな女の子』だった。

 

 

「この子、は·······?」

 

 

眠っているのか、本人からの答えはない。一体この子は誰なのか疑問の言葉を口にした瞬間。

 

前方から凄まじい轟音が響き、地震のように空気が震えた。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

空気や物体を引き裂く極太の刃に身をさらし、その上で魔剣の威力に押し殺される。

 

圧倒的な剣の威力を見せつけて灰色の粉塵が舞い上がる中、

 

 

「······ん?」

 

 

数秒後、その一撃は少年の疑問に満ちた声によって打ち消された。

 

ユージーンが放った威力は本物だった。

 

しかし、領主会談の周囲には単なる衝撃波の余波しか起こさず、今も変わらず何事もない風景が広がっていた。

 

 

「これ、は。どういうことだ!?」

 

 

ユージーンが不審そうに眉を歪める。

 

すると。

 

 

「『誇りのない剣』に本当の力は宿らない」

 

 

それに答えるように、魔剣の威力を打ち消した、冷たい声音が響いてきた。

 

 

「アンタは強くなった気でいるが、今のアンタがあるのはただの空威張りだ。剣の効果に翻弄されて、その力に酔いすぎて油断したな」

 

「何者、だ?」

 

 

スプリガンに突っ込んだ際に何かに突き刺さった感触に違和感を覚えたが、次第にそれは命を削り取る『大剣』であることに気付く。ユージーンは脇腹に刺さった『大剣』を見て瞼をぴくりと動かし、自ら飛び退いてこれ以上HPが削られるのを止める。

 

自分もやった、待ち構え。

 

突っ込んで来るのがわかっているのだから、待ち構えていれば勝手に突き刺さってくれた。

 

それが、奴の『傲り』の証明となる。

 

剣にばかり頼っていたせいで、本来避けれたはずの攻撃に素直に当たってくれた。必死に保ってきた全プレイヤー中最強プレイヤーという概念をいとも容易く打ち崩した瞬間だった。

 

そんなHPバーが減ったユージーンの他に、()()()()()H()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

一度引き、ユージーンは魔剣を構え直すが、『金色のツンツン頭』はこう言った。

 

 

「格好が少し違う気がするが······また会ったな、キリト」

 

「え······?」

 

「その姿を見た瞬間『アイツ』の面影を思い出して、つい受け売りの言葉を少し変えて使ったが·····立てるか?」

 

 

キリトもまた、違和感に眉をひそめた。

 

が。

 

空中を舞う粉塵が次第に晴れていき、その姿が完全に見えた時、彼は息を詰まらせた。

 

と、同時に。

 

歓喜の声を上げて、差し伸べられた手を取り、立ち上がる。

 

手を取った瞬間、彼の持っていた大剣に嵌められていた『翠玉色の水晶玉』が淡く光り出す。二つの穴にセットされて鍔に近い方のが一つが光ると、その光は剣を通してツンツン頭の右手へと伝っていき、そして反対側でキリトと握り合っている左手へとそのまま流れて行く。

 

光はキリトへと受け継がれ、彼の体が翠玉色に包まれると、減っていたHPバーが一気に満タンまで回復した。

 

回復魔法マテリア『ケアルガ』

 

その祝福を受けたキリトは、全快になったことを確認して自身も大剣を構え直す。

 

ユージーンが言葉を失っていると、金髪のツンツン頭はその巨大な大剣を軽々と振り、ユージーンに向けて隣に立つキリトにこう語りかける。

 

 

「行くぞ」

 

「遅れてきておいて指図すんなよ、()()()()

 

 

 

 

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