ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第12章

 

 

領主会談の戦場は、三つのツンツン頭によって支配されていた。

 

アバター選択の際にコンピューターによって自動的に黒いツンツン頭にされた少年に、サラマンダーを選んだら炎を象徴するためか毛先の一本一本が燃えたように鋭く逆立った重剣士。

 

そして。

 

現実でもその髪型をしており、『チョコボ頭』『ツンツン頭』と周りから言われまくってる傭兵。本来、この世界に降り立てば世界観に合わせるために妖精のような姿になるはずなのに、人間体のまま、空を飛ぶための翅もない姿のまま、彼は少年と再び肩を合わせる。

 

今ならばわかる。

 

ここは、闘う者達のために用意された舞台なのだと。キリトとクラウドが、この世界を覆す剣士達であるということを示しているのだと。

 

この戦いの元凶であるサラマンダー、ユージーンの気まぐれか心変わりか、目の前に起きた現象に対して何も言わない。

 

跪いていた膝を立てて起き上がり、ご自慢の魔剣を構え直す。

 

 

「······ッ!!」

 

 

そんな世界と隔絶された空間の中で、ティファは目を見開いて息を詰まらせていた。身動きはおろか、身動ぎ一つさえ許されない状態にされてしまっているのだから。

 

ずっと探していた人から預けられた『少女』は目を覚ます気配はない。

 

一度ティファはその子を地面にゆっくり下ろすため、地に膝をつき、寝かせるようにして右手で頭を支えてあげる。

 

もう、明らかに異様な光景だった。

 

ティファだけじゃない、いつも一緒に同行していたリーファも、領主会談のためにここへやって来たサクヤとアリシャも、その護衛にやって来た両種族も。

 

そして、

 

攻めてきたサラマンダー軍でさえも。

 

それらが全て、全く同じ顔をしていた。

 

 

困惑。

 

 

そんな感情がよく現れた顔をする多くの者達は、その原因となっているものに目を奪われていた。

 

その中で、一番釘付けにして見ているのはティファだった。

 

いつもいつも宅配の帰りが遅く、帰ってきてもまたすぐ行ってしまい、一緒にいられる時間が少なくて、少し寂しさを感じていたところ、あのふざけた書き置きを見て、彼がいる場所を掴むため、徹底的に探し出した。

 

仲間達に聞いてもわからないとしか言ってくれず、近所の人に聞いても首を横に振り、最終手段として『神羅の汚れ仕事』を請け負っている奴の所に電話をかけてみたら、あっさりと奴は話してくれた。

 

『アイツなら今頃チャドリーから引き受けた仕事によって、ネット空間にいるはずだぞ、と·······あ!?』

 

と、何故か最後の方で彼は驚きの声を上げていたが、そんなことはどうでもよかった。これで居場所が掴めた。

 

急いでチャドリー、もしくは神羅がまだ所有している研究施設を探しだし、特定してドアを蹴り破ったところ、彼が目を覚まさないという異常状態になっているということを、そこにいた研究者達から聞いた。

 

それを聞いて、彼女も仮想空間へと行くことを決心した。

 

無論、研究者達は必死にそんなことはできないと彼女を説得したが、壁に手形を付けたら快く承諾してくれた。

 

今頃、グーパンチの形をした壁は現代アートとして飾られていることだろう。

 

彼と同じように改造VRバトルシミュレーターを装着し、先にチャドリーが向かったという空間へとダイブした。

 

それから今日まで、ここで出来た仲間と共に彼を探していたのだが、まさかこんな形で再会できるなんて夢にも思わなかった。

 

そこにいたのは、間違いなく『彼』だ。

 

ソルジャー・クラス1stとして自分を認識していた頃の服装を纏って、尊敬できる友人から譲り受けた大剣を軽々と振り回しながら立っていたのである。

 

────懐かしい。

 

ティファの知識の中には、それ以外に抱く感情はなかった。

 

しかし、

 

もう一つだけ、彼に対して言葉では言い表せぬ感情がティファの全身を包み込んでいた。

 

いつも一人で抱えまくって、心配ばかりさせるような人が目の前に現れたかと思ったら、なんか『知らない女の子』を平然と預けてまた自分だけ突っ走って······ッ!!

 

 

「······」

 

 

拳を握りしめて爪を内側にめり込ませて眼光を鋭くさせていたが、しばらくしたら彼女は諦めたように笑ってみせた。

 

今視界に展開されたカオスな状況を見て、もう真っ先にどうでもいいと感じていた。

 

·······彼は、どこまで行っても彼という人間で出来ている。

 

冷静に見えて、自分に正直に生きてる。

 

その背中を見て、皆が息を呑んで静まり返って声が出しづらい中、小さな声で囁くように、やっと会いたかった者の名を呼ぶ。

 

 

「······クラウド」

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「何者だお前は?」

 

 

と、ようやく話し始めたユージーンは脇腹を押さえながら立ち上がる。ユージーン自らの突進による威力で大分ライフが削られてしまった。

 

しかし、それでも何の問題もないと思わせるように平然と立って、怪訝そうに眉を歪ませなから目の前にいるクラウドを睨む。

 

 

「邪魔をしないでくれるか? 折角そのスプリガンの首を取れる直前だったというのに」

 

「そういうわけにはいかない」

 

 

右手に持つバスターソードを肩に担ぐようにしながら、クラウドは鼻を鳴らす。

 

 

「ずっとアンタ達の戦いを見ていた」

 

「「!?」」

 

「正確には、ここへ来る途中で闘う様子が目に入ってきたと言った方が正しいか。何にしても、アンタは少しやりすぎた。三十秒という制限を自ら設けておきながら気が変わったからやっぱり最後までやるってルールを途中で変更するなんて······アンタには誇りはないのか?」

 

 

ユージーンはクラウドの言葉がさぞ予想外で面白おかしかったのだろう。一瞬目を丸くしていたが、乾いた笑みを漏らすと、

 

 

「面白い奴だな······で、どうする気だ? まさかお前もこの戦闘に参加するとでも? 」

 

「······そうなるな」

 

「それが何を意味するのかわかっているのか? そもそも、この戦いの真の意味を理解した上で介入してきたんだろうな? そこのスプリガンは、俺達の襲撃を止めるのと、全面戦争を食い止めるためたった一人で俺に刃向かってきた。俺はそれを許し、他の者達には一時的に武器を収めてもらっている状態だ。お前一人の勝手な行動で、どれだけの者達に迷惑がかかるか────」

 

「興味ないね」

 

 

ユージーンが何やら複雑な事情を述べてきたが、大して反応もせずに普通の声音でそう遮った。

 

その言葉は意外と周囲に反響し、周りにいた者達の耳にも届いていた。四種族との全面戦争が起きてしまう可能性があるのに、それを興味がないだけで済ませるあの男に、皆言葉を失っていた。

 

彼は、なんてこともなく、ただ普通に至極当然な事を述べる。

 

 

「たかがゲームで起きた戦争なんて、どうでも良すぎて興味がない。下らない理由なんかでその全面戦争とやらを起こそうとしているアンタらにも、馬鹿馬鹿しくて呆れるしかない」

 

「······ほう」

 

 

その言葉に、楽しげに笑っていたユージーンの頬がぴくりと動いた。

 

この世界の本質を言っただけのクラウドは、肩に担いでいたバスターソードを前へと向けてこう告げる。

 

 

「御託を並べる暇があるならかかって来い。三十秒間、相手してやる」

 

 

クラウドが面倒そうに息を吐くと、眉間に皺を寄せてユージーンを睨め付ける。

 

ユージーンはその言葉に、全身を震わせる。

 

 

「上等だ。一瞬で終わらせて·····やろうッ!!」

 

 

喉を震わせながら足を縮め、勢いよく地面を蹴って跳躍しクラウドに迫り来る。

 

弾丸のように放たれるユージーンの体は、魔剣を大きく振りかぶって正確にクラウドの首もとを狙う。防ごうとしても透過能力で盾をすり抜けて重たい一撃を当てに来る。

 

 

「········ふん」

 

 

クラウドは鬱陶しげに鼻を鳴らすと、構えていたバスターソードを案の定盾のように真横にして防ぐ態勢に入る。

 

 

「バカめッ!!」

 

 

それでは頭をかち割って下さいと言っているようなものだッ!! と首元から頭上へと剣を振る方向を変えたユージーンは剣真上に掲げ、そのまま勢いよく振り下ろす。

 

クラウドは一応頭上にバスターソードを向けるが、予想通り魔剣グラムは彼の剣を透過してくる。

 

このままだと、頭からかち割られて一刀両断される。すり抜け終わった魔剣グラムは実体化し、クラウドの眼前へと迫る。

 

取ったッ!!

 

と、ユージーンは口を歪ませて剣を振り下ろすが、

 

 

ぐしゃり、と何か鈍い感触が頬を直撃した。

 

 

「ッ!?」

 

 

むしろ驚いたのは最初に攻撃を入れられたユージーンではなく、隣にいたキリトだったろう。

 

まさか、

 

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かかと上段裏回し蹴り、にも見えた攻撃を喰らったユージーンはぶっ飛んで砂まみれの地面の上に倒れ込み、一体自分に何があったのかと考えているのか硬直してしまっていた。

 

 

「グ······ッ!!」

 

 

しかし、すぐに首を振ると立ち上がり、蹴りを喰らわした張本人を睨み付ける。

 

すると、クラウドが隣にいるキリトに内緒話でも聞かせるようにこう囁く。

 

 

「──────!」

 

「!?」

 

 

それを聞いた途端、キリトは本気かと問うような目をしてクラウドを見つめるが、すぐに切り替えて首を縦に振って了承する。

 

それを確認したクラウドは、ユージーンに向かってこう言う。

 

 

「あと、二十五秒あるぞ?」

 

「ッ!!」

 

 

挑発されたユージーンはクラウドの懐に飛び込んでくる。その透過する剣が、今度はまっすぐ彼の顔面を狙ってくる。

 

突き刺す攻撃をしても、クラウドは首を振っただけで避け、攻撃を外したユージーンへ、カウンターを決めるように踏み込んで、

 

 

「ふんッ!!」

 

 

左から右へと曲線を描く重たい一撃がユージーンの鎧を斬り剥がす。複雑な軌道を描くナイフの動きを連想させるクラウドの攻撃は、自然と宙に浮いてしまうかのように、斜め上へと吹き飛ばされる。

 

魔剣グラムをかいくぐったクラウドは、一度、二度、三度とバスターソードを振るって大層な鎧を身に纏ったユージーンを地面に叩きつける。

 

 

スラッシュブロウ。

 

 

クラウドは大きな剣を巧みに素早く操り、そして重量級の一撃で相手を斬り伏せるプレイヤー。

 

対して、目の前にいるユージーンは、システムの力によって自分は強いと勘違いしてるプレイヤー。

 

そう、結局両者の差はそこに集約していた。

 

ユージーンの戦いは『真剣勝負』ではなく、卑怯でしかない。ゲームだから、という理由で許されてるシステムに甘えて強いと過信したユージーンは、魔剣グラムの力に頼りすぎて、明確な戦闘方法を覚える必要すらなかった。

 

そう、たとえば。

 

『命を懸けて闘う方法』とか。

 

実際、ユージーンはいつも一撃を入れる際は大振りで、これからあなたの右肩を狙っていますと言わんばかりにわかりやすい曲線を描き、足運びも重心も大して全く考えてない。

 

振れば絶対当たるから、という自信から戦法を見誤ったユージーンは叩きつけられて、息を吐いて震える手で地面を掴んで立ち上がろうとしている。

 

それを見ていた全員が、驚愕に満ちた目をしていた。

 

押してる、全プレイヤー中最強プレイヤーと言われたユージーンを。

 

その事実を目の当たりにして、皆が釘付けになっていた。そのたった数秒の戦闘を脳に焼き付けておくように、視線を固定させてしまっている。

 

すると、

 

 

「リーファ、ちょっと借りてくぜッ!!」

 

「うわっ!?」

 

 

世界が止まっていたかのような感覚に陥っていたリーファの耳元で、唐突に囁き声が聞こえた。

 

同時に、

 

腰に付けてあった自分の得物が勝手に引き抜かれる音まで聞こえてきた。

 

 

「キリト君!?」

 

 

慌てて振り向くが、もうそこには誰もいない。左右を見渡してどこに行ったのか探してみるも、その姿はない。

 

見つかるわけない。

 

何故ならば彼は今、遥か上空で待機しているのだから。

 

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クラウドは立ち上がろうとするユージーンに向けて、こう言う。

 

バスターソードを肩で担いで、

 

 

「あと十秒······よく持ち堪えた方だな」

 

「······っ!? な、に······ッ!?」

 

「でも俺も暇じゃない。ケリをつけさせてもらう」

 

 

砂塵が舞う中でクラウドは一度バスターソードを真横に構えると、低い姿勢になって右手だけで持ち、彼の周りに赤い火の粉のようなものが舞う。

 

剣はそれに呼応するように、真っ赤に燃えるように赤いライトエフェクトが宿る。

 

 

「斬撃に踊れッ!!」

 

 

クラウドはそう言い剣を握る手に力を込めると、視線の先まで距離を殺す。

 

ツンツン頭とサラマンダー軍指揮官、両者の距離は何十メートルとあったのに、そんなものはたった一歩でゼロまで縮められた。

 

砲弾のように突き進んだクラウドは、本当にユージーンの懐にその太い刀身を突き刺す。

 

 

「がはっ!?」

 

 

という嘆きの小声が漏れたが、クラウドの攻撃は終わらない。

 

突き刺した刃をそのまま抉るように左脇腹へと動かし、彼の体から刃を抉り抜くと、その勢いを殺さずに重みでさらにスピードが増した攻撃を一回転して、右肩から左脇腹に向けて再度振るわれる。

 

と、今度は掬い上げるようにバク宙をしながらまた一撃を入れて更にその強固な鎧を削ぎ落とす。

 

バク宙し終わったらすぐに前に向き直り、縦に一回転して左肩から右脇腹に向けて剣を振り下ろす。

 

止まない断末魔。

 

ユージーンは苦しみの連鎖で、もはや声も上げられない。

 

そして、

 

 

「てあッ!!」

 

 

ザシュッ!!

 

 

と、突き刺したバスターソードはユージーンの腹を抉り、その刀身を背中まで貫いた。

 

 

「ごばッ!?」

 

 

血を吐くように声を漏らしたユージーンは、クラウドを見る。

 

すると、クラウドの視線が真上に向けられていることに気付く。クラウドが素早すぎて世界中の時の流れが逆に遅くなっているように感じている中、ユージーンはつられて視線を上に向ける。

 

そこにあるものを見て、サラマンダーの顔色が変わった。

 

だが、今さら気付いた所でもう遅い。

 

すでにクラウドはユージーンをそこに導くように、バスターソードという『誇り』を受け継いだ巨剣によって容易く彼の体を真上へと吹き飛ばした。

 

持ち上げて、ロケットのように一直線に飛ばされたユージーンの跡を残すように、赤い亀裂のようなものが空間に残されていたが、次第に青く細くなっていって跡形もなく消えてしまう。

 

 

クライムハザード。

 

 

合計、八連撃。

 

剣で弄び、断末魔の連撃を喰らわすリミットスキル。

 

天へと打ち上げられたユージーンは翅を出す暇もなく、空高く飛ばされる。そもそも、翅を広げたところで空気抵抗に敵わずに良からぬ方向へと向いてしまう恐れがある。

 

それに、先程も述べたがもう遅い。

 

すでにユージーンの頭上には、まるでトドメを刺さんとばかりに待機している、『スプリガンの少年』がいたのだから。

 

地上から見ていたクラウドは微笑みながら、やれと合図を送る。

 

微笑み返した少年は頷き、飛び上がってくるユージーンに向かって風を切り、隕石すらも切り崩す烈風の槍と化す。

 

これまで両手で持たないと構えることすら出来なかった黒い大剣を右手一本で持ち、その反対側の手には先程仲間のリーファから勝手に借りた長刀が握られていた。

 

SAO時代、彼の真骨頂とも言える『二刀流』を再現したような構えを取る。

 

吹き飛ばされてくるユージーンの体に向けて、キリトは裂帛とした雄叫びを放つ。

 

 

「おぉぉぉおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」

 

 

その直後、彼の両手に持つ剣が見えなくなった。

 

そう表現しても良いくらい、彼は限界を超えた速度で一撃一撃を何度も打ち出していた。

 

リーファの長刀は良く切れると言われている日本刀のように本当に斬りやすく、左手に持った長刀がすんなりとユージーンの肉体を斬り払う。

 

その隙間の時間を失くすように、動きに合わせて大剣を突き出すと、それを引き抜いてもう一度長刀を振り下ろす。

 

 

「はぁぁぁああああああああああああああああッ!!」

 

「ぬ·····がぁぁぁああああああああああああああああああッ!?」

 

 

地上に突き落とされるように何連撃もの止まらぬ攻撃が放たれる。再び味わう無限の苦しみに、ユージーンは悲鳴にも似た咆哮を上げる。

 

魔剣グラムの力を発揮させる暇もなく、反撃させる暇もなく、背中の翅をもぎ取ろうとするかのように、キリトは鋭い一撃を打ち込み続ける。

 

もはやどれくらい振るったか、自分でもわからなくなったその時、

 

 

「これで······終わりだぁぁぁああああああッ!!」

 

 

トドメの一撃をお見舞いする。

 

ボロボロになった鎧から飛び出た黒い刃と、キリトの隕石のような速度の突きによって、ダメージは凄まじい威力を持つことになった。

 

HPバーがもう危険信号であるレッドゾーンに突入しているにも関わらず、彼はまだ攻撃を終わらせない。

 

一刀両断、そうするかのように右手に持つ大剣と、左手に持つリーファの長刀が真上に掲げられ、先程自分にやられた攻撃の仕返しとばかりに、その二つの得物を勢いよく振り落とした。

 

 

「がぁ······ぁぁぁああああああああああああああああッッッ!!!??」

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

断末魔の声を上げたまま地面へと叩き落とされたユージーンの体はその衝撃と共に、上半身と下半身は別々になり、その直後に死亡したことが確認できる真っ赤なエンドフレイムが燃え上がり、アバターは消し炭となった。

 

瞬間。

 

落下の勢いを殺し切れなかったキリトはそのまま地面へと直撃した。

 

地面が丸ごと消し去られたかのように、領主会談の戦場は、所々がすり鉢状に削り取られていた。

 

あちこちに広がるクレーターの一つから出てきたスプリガンの少年は、頭についた砂埃を払って立ち上がって目の前を見てみると。

 

 

「······ふっ」

 

 

待ちくたびれたように地面に刺した大剣に少し寄りかかり、一息ついていたクラウドが笑って立っていた。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

あれだけ激しかった短時間での戦闘は静寂の風に流されていた。

 

あちこちの地面がへこみ、沈められて領主会談には不向きな地となった現状を見て、皆が皆ユージーンを倒した二人に対して注目していた。

 

二人の、華麗な剣舞。

 

魔剣グラムをものともせず、会話も通じない相手には肉体言語で話し合って、そして自分のターンが来たらその魔剣の何倍もの重さがありそうな大剣を軽々と素早く振り回し、目にも止まらぬ早さでユージーンを天空へと舞い上げたクラウド。

 

そして。

 

上空で待ち構えて、空を引き裂く威力の攻撃を何連撃も繰り出し、最終的には大地をも打ち砕いたスプリガンの少年、キリト。

 

二人は勝利したことに無言で笑い、見つめ合い。

 

キリトはクラウドにいいねを送るように左手でグッドサインを送る。

 

そんな二人に、

 

 

「見事見事!! 素晴らしいッ!!」

 

 

良く通る声で、両手を叩きながら近付いてくる者達が二人。

 

 

「ホントスッゴーイッ!! ナイスファイトだったヨッ!!」

 

 

サクヤとアリシャ。

二つの種族の長が二人を称えると、それに続くように幹部らしき人たち合わせて十二人ほどの者達も彼らを祝福する。

 

その快哉を上げた瞬間、二人の見事な戦闘を祝うように全種族が、クラウド達を称えた。

 

ユージーンという指揮官がやられたというのに、サラマンダー族達までもが歓声を上げている。持っている武器でエールを送るように振っているのが見える。

 

·····あのユージーンとか言う指揮官、そんなに部下達に憎まれるほど嫌な上司だったのだろうか?

 

などとクラウドは思うが、彼はそんな祝福を素直に受け止められなかった。別に自分はそこまでの事をした覚えはない。戦闘に勝手に参加して、キリトの手助けをしただけだ。

 

貢献度的に、精々良くて百ギルほどの活躍しかしていないと思う。

 

しかし、それとは対照的に、そんな褒め称えに照れたのかキリトは右手に持っている武器を上に上げて、勝ったぞという勝利ポーズを取りながら、どこか胡散臭く飄々とした態度で笑っている。

 

 

「いや、どうもどうも!!」

 

 

あれは恐らく、空気を読んでとりあえずやってみたという感じか。

 

喜んでるのも束の間、キリトは剣を収めると周囲に向かって叫ぶ。

 

 

「誰かアイツに蘇生魔法をしてやってくれ!」

 

「わかった!!」

 

 

その声に反応したのはサクヤだった。

背中から翅を出し、和風の着物をはためかせ、地面にめり込んだユージーンの命の灯火とも言えるリメインライトまで最短で飛んでいく。

 

蘇生魔法を行うための複雑なワードを読み上げ、四行ほどの長い詠唱を呟くと、サクヤの両手から現れた青い光がユージーンの赤い炎を優しく包み込んだ。

 

炎は次第に人の形を取り戻していき、地面に倒れ込んだユージーンの姿が現れた。

 

 

「う······ッ!!」

 

 

瞼をゆっくり開けながら視界を確保して、周囲を見渡すと、状況を理解したのかまた目を閉じて微笑んでいる。

 

蘇生されたことに対して礼を言い、サクヤと共にキリトの前にやった来て、口元にしか届かないくらいの音量の声で話す。

 

 

「見事な腕だった」

 

「!」

 

「俺が今まで見た中でも二つの剣を同時に振り回した奴は見たことがない。素晴らしい動きだった」

 

「そりゃどうも」

 

 

キリトはその言葉に短く応じると、ユージーンはその横を通り過ぎ、なおも地面に刺した剣に寄りかかっているクラウドの前まで来ると、

 

 

「貴様もな」

 

「······」

 

「大剣をあんなにも素早く動かし、重量級のダメージを目にも止まらぬ早さで与えられるプレイヤーは、恐らくお前くらいにしか出来ない芸当だろう。貴様のような剣士がこの世界にいたとはな······世界は広いということかな」

 

「······興味ないね」

 

「······」

 

 

褒められても何も嬉しくないぞというかのようにそっぽを向いて対応するクラウドに、思わず笑ってしまった。

 

そうは言っても、態度に出ているぞと言いたかったがやめておいた。どれだけクールなポーカーフェイスをしていても、彼はわかりやすい。

 

二人の剣士によって負けてしまった自分を悔やみつつ、自分はまだまだだということを再認識したユージーンは目を細め、数秒間沈黙する。

 

そして、軽い笑みを浮かべるとキリトの方に向き直り、両手を組んで言う。

 

 

「スプリガンとウンディーネ同盟の大使よ」

 

「!!」

 

「確かに現状でスプリガン、ウンディーネと事を構えるつもりはない。それに関しては領主とも話さねばならん話題になるしな。この場は、お前達二人の見事な戦闘に免じて引くことにする······だが貴様らとはいずれもう一度戦うぞ、特にそこの貴様」

 

「!?」

 

 

ユージーンはクラウドの方に向き、唐突に声をかけられたクラウドは瞬きをして応じる。

 

 

「どこの種族なのかわからんが、貴様のような剣士は俺が今まで見た中でも最強のプレイヤーだ。いつかお前ともう一度、今度は二人だけで剣を合わせてみたい。いつか手合わせ願うぞ」

 

「······」

 

 

クラウドはそんなこと言われてもという顔をするが、すぐに切り替えて鼻を鳴らし、地面に刺したままだったバスターソードを背中に戻すと、

 

 

「報酬次第だな」

 

 

彼なりの返事。

まだ会ってそんなに時間も経っていないのに、その言葉を聞いてユージーンは野太い声を上げて笑っていた。

 

 

「望むところだ」

 

 

最高の報酬を用意して、また貴様と戦わせてもらうとでも言うように宣言するユージーン。

 

それだけを言うと、ユージーンは皆に背を向け、翅を広げて空へと飛び立つ。

 

それに続いて飛び立っていくサラマンダー軍は、地の果てまで見えなくなるほどの距離まで飛んでいった。

 

それを見送ったリーファが、胸の中に溜まっていた不安を吐き出すように、大きくため息をついた。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあ」

 

「サラマンダーにも話がわかる奴がいるじゃないか」

 

「あんたって本当にムチャクチャだわ」

 

「良く言われるよ」

 

 

いつの間にか隣に立っていたキリトに呆れ、彼から返してもらった愛刀を受け取ると顔を互いに見合わせて笑い合う。

 

そんな時、

 

 

「クラウドッ!!」

 

「「!?」」

 

 

キリトとリーファの背後から、怒号に似た女の声が聞こえてきた。二人は後ろに振り返ると、そこには修羅場が広がっていた。

 

何だか微妙にイライラした様子のティファが、クラウドの前まで距離を詰めていたのだ。

 

クラウドが微妙に汗だくになりながら固まっていると、また次なる展開が待ち受けていた。

 

 

「う、ん·······」

 

 

もぞもぞと地面の上で身動ぎすると、『ある少女』の呼吸が意識的なものになる。それから彼女は上半身だけ起き上がり、閉じていた瞼をパッチリと開いた。

 

 

「······むにゃ? ······ここ、どこ?」

 

 

ごしごしと片手で目を擦りながら、ユウキは完全に起き上がる。

 

そして、視界に入れたクラウドを見ると、

 

 

「あ! クラウドッ!!」

 

 

状況も録に把握せずに近寄ってきて話しかけてくるユウキに、現場は更にカオスになっていく。

 

 

「一時間守ってくれてありがとう! なんか知らないけどいつの間にか何処かに移動しちゃってるみたいだけど、クラウドが運んでくれたの?」

 

「あ、ああ······」

 

「ふ~んそっか。それでどうする? ボクはもう用事済ませちゃったからこれから当分クラウドに付き合えるけど、一旦クラウドもログアウト─────」

 

 

言いかけて、ユウキの口がピタリと止まった。

 

どうした? とクラウドが思っていると、何やらユウキは周囲のあちこちを見回して現状のチェックをし始めた。

 

目の前にいる、息を飲むほど美しいスタイルをした美女といるクラウド。あちこちが荒れている現場。

 

それらを見終えると、ユウキはティファに対してではなく、クラウドに質問する。

 

 

「えっと、クラウド。この人は誰なの? 知り合い? どんな関係?」

 

「え?」

 

 

そう言われて困惑するクラウド。

 

そんな時、

 

 

「クラウド······」

 

 

クラウドの両手から不自然な汗がぶわっと噴き出した。

 

壮絶に嫌な予感が背後からする。

 

その予感を裏付けるように、後ろを向き直したクラウドの目の前には、綺麗な黒髪がゆらゆらとお怒りモードのように揺れている。

 

だが勘違いしてはならない。

 

こちらにも事情があるのだから、それをちゃんと説明せねばならない。

 

 

「ティファ·····これにはワケが」

 

 

二人はわずかに沈黙して、ちゃんとした話し合いをしようとした矢先、言い終わる前にクラウドの顔面に、

 

 

バゴォッ!! という轟音。

 

 

クラウドの体は斜め上方へと高く高く吹き上げられる。円形の小さな領主会談の周囲には川が囲むように流れているのだが、その中へ斜め上から落下するようにドボンッ!! と音を立てると、彼の体はそのまま沈み込み、数十秒経ってようやく浮かんできた。

 

それほどの深さにまで叩き落とした威力を見た、ユウキにキリトとリーファは、思わず口元をピキッと凍らせるようにひきつらせた。

 

周囲も同様。

 

あのユージーンを討ち破った剣士を吹き飛ばした女性を見て、全身から冷や汗が噴き出している。

 

そして。

 

混乱の輪の中央で右手を付き出したまま静止しているティファは、ゆっくりとした動作で姿勢を崩すと、

 

 

「あー········スッキリしたッ!!」

 

 

もうどうでも良かったのだ。

彼がどんな言い訳をしようと元からそのつもりだったのだから、それをやり終えたティファは背筋を伸ばして達成感に浸かる。

 

全方向からやばいものを見たような目をしている人達がいてもお構いなしに、ティファは今まで溜め込んでいたものを吐き出すように、物理エネルギー変換して右手に乗せて、その想いを伝えた。

 

それでもう満足だった。

 

リーファは口元に手を当てて目を真っ白にして、キリトは女を敵に回したら怖いということを再認識して、ナビゲーション・ピクシーのユイは彼女の放った技の戦闘データを解析した結果で出た異常な数値に驚き、ユウキは状況が全くわからずオロオロし始めていた。

 

そんなカオスな状況の中、サクヤがその混乱を打ち消すように咳払いしてこう問いかけてくる。

 

 

「一体、何が何やらどうなってるのか。すまんが状況を説明してもらえるだろうか?」

 

「「すみません、こっちも良くわかりません」」

 

「ボ、ボクもです······」

 

 

クラウド可哀想だとは思っているみたいだが、その混乱の原因となっているものの解答を持つ者は今のところ誰もいないらしい。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

ちなみに。

 

いつもクラウドのポケットからナビゲーション・ピクシーとして彼を支えていたチャドリーはというと、

 

 

「あ、危ないところでした·······ッ!」

 

 

予めプログラムされていた危機察知能力システムによっていち早く危険を検知し、クラウドのポケットから既に避難していたようだ。

 

 

 

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