ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第18章

 

 

「えーと······どういうこと? どうなってるのこれ?」

 

 

レコン、あまり頼りなさそうな少年はグランド・クエスト入り口の前に集まっている人達を見て、首を傾げながらそう言った。

 

 

「えっと、この人達は何リーファちゃん? どういう組み合わせ?」

 

 

現在目の前には、リーファ、ティファ、キリトを除いて三人ほど人数が増えている。面識がなくいつの間にかパーティーメンバーが増えていることに困惑し、しかも独特な個性を持つ面子だったので更に戸惑っている。

 

目の前にいる人達は一体誰なのかレコンが訊ねると、一人一人格好つけるように肩書きで自己紹介する。

 

 

「何でも屋」

 

「バーの店長!」

 

「ギルド、『スリーピング・ナイツ』のリーダーッ!!」

 

「パパの娘!!」

 

「サイボーグ兼クラウドさんのナビゲーション・ピクシー!!」

 

 

キリトとリーファ以外が、そう名乗った。

 

ティファはすでに彼とは面識あるのに何故名乗ったのかわからなかったが、多分ノリだろう。

 

その変な名乗りに、レコンはただ『へ、へぇ~』と引き気味に強引に理解した。

 

つまり、何処からどう見てもまともなパーティーメンバーではない。人間体はティファだけだと思ってたのに、まさかもう一人いるなんて思ってもみなかった。

 

しかも、超絶イケメンだった。

 

勝てる見込みがないほどだった。

 

もう圧倒されるほど、おそろしいほど、今まで生きてきて見たこともないほど整った顔立ちをしていて、レコンは思わず口に溜まった唾液を飲み込むと、クラウドに恐る恐るという感じで話しかける。

 

 

「あ·······あのッ!!」

 

「?」

 

 

唐突に声をかけられて首を傾げているクラウドに、レコンは言葉をなめらかに言うことができず、吃り気味に何度も言葉を繰り返して自己紹介をする。

 

 

「ぼ、ぼぼ·····僕。レ、レコンと、言います。その······リーファちゃんと······テ、ティファさんの···と、友達ですッ!!」

 

「······そうなのか?」

 

 

レコンではなく、ティファにそう問いかけるクラウドに、ティファは『う~ん·····?』と首を捻りながらも、渋々といった感じでゆっくりと首を縦に振っていた。

 

そんなやり取りに気付かず、レコンは今度は頼りなさげな声で、しかし強気な口調で早口でこう訊ねる。

 

 

「はい! それで、貴方に質問があるんですけど!!」

 

「?」

 

「その·····テ、ティファさんと、貴方は······ど、どういう関係なんですかッ!?」

 

「???」

 

「とぼけたって無駄ですよ!! ティファさんと同じように妖精姿ではなく人間体である以上、無関係とは思えません!!」

 

「?????」

 

 

急な質問に、クラウドの頭の中は疑問符で一杯になる。

 

何故そんな質問をするのか、何故彼がそんなことを気にするのか、全くわからない。

 

が、

 

とりあえず質問に答えないとまずい気がするので、素直に本当のことを言ってみた。

 

 

「俺とティファは、幼馴染みだ。昔からの知り合いで、今リアルでは一緒に働いている仕事仲間だ」

 

「なッ!? お、お·······おおおおッ!! おさな、な染みぃッ!?」

 

 

レコンは顔面蒼白になって、あまりにショックを受けたのか足を一歩ずつ後ずさっていく。

 

その後、何故か肩を落としてぶつぶつと何かを呟いていたが、現実を受け止めたのか、音もなく頬に涙が伝っていく。

 

そして人生の世知辛さに打ちひしがれてるように、クラウドの顔を見てガックリと落ち込んでいた。

 

一体どうしたのかと聞く前に、レコンはクラウドの手をガシッ! と強く握って、驚く彼の顔を見ながらこう言った。

 

 

「えっと·······何でも屋さん!!」

 

「クラウドだ」

 

「あ、えっと·····ク、クラウドさん! お願いがあります!!」

 

「?」

 

 

至近距離で叫ぶレコンは、涙声になりながらもこう言葉を続ける。

 

 

「どうか、彼女を幸せにしてあげてくださいッ!! 僕、応援してますからクボェッ!?」

 

 

最後まで言い切る前に、リーファが突然介入してレコンの鳩尾に鋭い一撃を入れた。

 

街区圏内であるため何のダメージは与えられないが、グランド・クエストの石扉まで吹き飛ばされたレコンは背中を強打し、腹部を両手で押さえつつその場に倒れ込み、苦悶の声を上げる。

 

 

「リ、リーファちゃん·····いきなり、何を·····ッ!?」

 

「クラウドさん、ティファさん。コイツの言うことは気にしなくていいから」

 

 

思い切りレコンの腹に拳をめり込ませて吹き飛ばしたリーファは、笑顔でそう言った。

 

だが目は笑ってない。

 

そのリーファの何か裏がありそうな笑顔に苦笑を浮かべたクラウドとティファは呆気に取られて、

 

 

「あ、ああ······」

 

「う、うん······」

 

 

短くそう返事した。

 

一体何がなんだかわからないが、とにかくダンジョン攻略のメンバーが揃ったことを確認し、キリトは改めてユイの顔を見て聞く。

 

 

「ユイ、それでさっきのあの戦闘で何かわかったか?」

 

「はい! チャドリーさんと共に解析した結果いくつかの情報を手に入れました」

 

 

チャドリーの隣に飛んで並んでいたユイは、チャドリーの方を向き一緒に説明するように促す。

 

 

「解析の結果、あのガーディアンという鎧を着込んだモンスター達は、ステータス的にはさほどの強さではないことが明らかになりました」

 

「ですが、湧き出てくる数が異常です。ゲートへの距離が近付くに比例して出現する量が多くなり、最接近時には秒間十二体にも達していました」

 

「キリトさんがゲート直前まで近付いた時、天井を覆い隠すほどの数が立ち塞がっていました。数的には約二千、もしかしたらそれ以上。僕の分析では······攻略不可能な難易度に設定されていると思われます」

 

 

チャドリーが珍しく悄気るように顔を下に向けている。いろいろ解決策を見つけ出そうとして、あらゆる解析パターンを実行しても成功パターンが見つからず、落ち込んでいる様子を見せている。

 

 

「突破できる確率はゼロに近いのか」

 

「はい、クラウドさんの言う通り、成功確率はほぼゼロです。仮に成功できる可能性があったとしても、良くて一パーセントくらいです。奇跡でも起こらない限り、突破は難しいと判断します。天井に立ち塞がるように固まったガーディアンに穴を空けても、すぐに追加のガーディアンがポップしてその穴を塞ぎ、通れないようにするため、その僅かな時間で生じた隙を狙うしか方法はないでしょう」

 

「·······そうか」

 

 

その説明を聞いていたキリトは首肯しつつ分析する。

 

 

「一匹一匹は弱く設定されているが、総体で来られると絶対無敵の巨大ボスとほぼ同等になるってことだな·········改めて聞くと、厄介だな」

 

「でも、異常なのはパパとクラウドさんのスキル熟練度も同じです。チャドリーさんが言っていたように、立ち塞がるように固まったガーディアンに二人の力を合わせて突っ込めば、瞬間的な突破力で穴が空いてゲートまでたどり着ける可能性があるかもしれません」

 

「「······」」

 

 

ユイがそう言うも、口調は困り果てているようだった。色々試行錯誤して教えてくれたのも、負い目のようなものをどこかで感じているのだろうか。

 

奇跡という可能性。

 

ゼロにも百にも、それ以外の数字にもなる曖昧なものに縋るほど、彼らは追い詰められている。

 

キリトとクラウドの二人の戦闘力を合わせればなんとかなるかもしれないと言われたにも拘わらず、しかしやはりこちらの方が劣性であるのは明らかだ。

 

こちらはチャドリーとユイを外したら五人。

 

レコンはなんかやる気なさそうな雰囲気出してるから今のところ除外。

 

それに、まだいくつか問題がある。

 

その問題点を、ユイが指摘する。

 

 

「それに、クラウドさんとティファさんは大丈夫なんですか?」

 

「「?」」

 

「お二人のアバターは人間体で、妖精の姿ではないので翅がありません。天井にあるゲートまでどうやって行くんですか?」

 

 

その言葉に、キリト達はハッ! としたように二人を見つめるが、クラウド達の代わりにユウキがフォローを入れる。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

唐突なフォローにクラウドまで驚いているが、彼女は構わず続ける。

 

 

「だってクラウド、『ソルジャー』としての力を使えば凄い跳躍力で跳んでたじゃん! 空気を蹴って空中まで歩いてたし、クラウドなら平気でしょ?」

 

「まあ、な」

 

「それに、ティファは空を飛べなかったとしても、ボクがティファを抱えて飛ぶから」

 

「え!?」

 

「それでガーディアン達にあまり狙われないように距離を取って、もし仮に迫ってきたらボクがティファを敵がいる方に投げ飛ばして攻撃できるようにするから······それでどう?」

 

 

問いかけるように、ユウキは首をこてんと小さく傾げてティファを見つめた。

 

ユウキの考えはこうだった。

 

クラウドはソルジャーとしての力を使って並外れた身体能力で空中移動できるから問題ないだろうが、ティファはクラウドみたいな改造強化を受けてないから空中を歩くなんてのは無理だろうから翅を持っているユウキが彼女の体を抱えて飛ぶ、という作戦だ。

 

つまり、敵が近付いてきたらユウキがティファを投げ飛ばして、そして殴り飛ばして攻撃し、落下する前にユウキが拾いに行くという単純で超無茶苦茶な方法だ。

 

しかし、ティファはその提案に首を横に振らなかった。

 

むしろそれを理解したティファは、首を捻りながらしばらく考え込んでいたが、選択肢はそれしかないと判断して頷く。

 

 

「うん、それで行こう。よろしくねユウキ」

 

「うん!! 任せてよッ!!」

 

 

方針は決まった。

攻撃方法も戦略も立てたクラウド達はキリトを見る。

 

キリトは何かを考え込むように目を閉じながら集中していたが、やがて目を開けて、皆の耳に届くような声で言った。

 

 

「みんな、この前はすまない」

 

 

まずは、勝手な行動をしたことを謝罪して、

 

 

「俺の勝手な都合で勝手に突っ走って、みんなに迷惑をかけた。でも、それでも······もう一度だけ、俺の我儘に付き合ってくれないか? ここで無理をするよりは、もっと人数を集めるか、別の選択肢を選ぶべきなのはわかる。でも·······もうあまり時間の猶予がないような気がするんだ。だから─────」

 

「わかった」

 

「!?」

 

 

キリトの熱弁に、あっさりと答えたクラウド。

 

それに驚愕するキリトだが、クラウドも自分の意見を語り出す。

 

 

「俺も、世界樹の上に行かなきゃいけない理由がある。そもそも、俺も一秒でも早くいかなきゃならない。でないと、店長に怒られるからな」

 

 

そう言って、クラウドはティファの方をチラッと一瞬見て微笑んだ。その意図を理解したティファは、ふふっと笑って片目をつぶってウィンクする。

 

店長の了承は得られた。

 

そんなクラウド達に続くようにリーファもはっきりとした口調で言う。

 

 

「そうだね、もう一度頑張ってみよ!」

 

「リーファ······」

 

「あたしに出来ることなら何でもする! それと、コイツもね!!」

 

 

そう言ってリーファはあの頼りなさそうなシルフの少年の肘を掴んで引っ張り、戦闘に強引に参加させる。

 

 

「え、ええ~!?」

 

 

リーファのその強引さにレコンは肩を落として情けない声を出すしたものの、

 

 

「頑張ろうね、レコン」

 

「ッ!! は、はい······ッ!!」

 

 

ティファが声をかけてきた瞬間にやる気を見せるように姿勢を正しくし、力強く頷いた。頼りなさを隠して、男らしくみせようと威勢を張っているだけのように見えるが、それでも共に戦う意志を見せる。

 

そんな彼に、ティファは微笑んでいた。

 

ティファが浮かべるその笑みは、子供に対する慈愛の眼差しのようなもの。微笑ましそうに彼を見るその視線は、完全にお母さんそのものである。

 

おそらくティファ的には、レコンという少年は、マリンやデンゼルと同じ立場として見ているんだろう。

 

レコンがティファに対してどう思ってるのかは知らないが、少なくともティファはレコンのことをかわいい子供として見ている。

 

 

「······」

 

 

クラウドはそれを、目を細めながら見つめていた。

 

別に大したことではないし、気にする必要性など何処にもないのだが。

 

どういうわけかその光景を目にした瞬間、心の中で蠢く何とも言えない謎の負の感情に胸が圧迫され、少し軽い吐き気と倦怠感のようなものを感じ取ったような気がした。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

二度目の挑戦だ。

 

今度は、一人じゃない。だからだろうか、低音を轟かせつつ開かれる巨大な門を前にしても、緊張というものはなかった。

 

仲間達がいる。

 

背中を任せられる人達がいる。

 

門が開かれ、全員が得物を抜き放つ。

 

ティファはユウキの左側に立ち、剣を右手で構えて左手で彼女の腰を支えつつ、翅を広げた。

 

それに合わせるように、クラウドとキリトも、背中にあるそれぞれの大剣を構え、妖精アバターを持つ者達は翅を広げ、それと同時に敵が一体だけ出てきた。

 

小手調べ。

 

そう言うように生み出された鎧の人形は、侵入者を撃退すべく突進してくる。

 

が、

 

その敵の持つ武器がキリト達に届くことはなかった。

 

 

「はあッ!!」

 

 

と、覇気を纏ったバスターソードが、システムを無視していきなり本気の『破晄撃』を放ったからだ。

 

気合いと共に放たれた衝撃波は、雷光のような速度で三本に分かれて突き進むと、敵の体が三つに分断される。

 

首、胴体、下半身。

 

容赦のない遠距離攻撃を放ったクラウドを見て、レコンは口をポカーンと開けたまま唖然としてしまう。

 

 

「·······な、なに? 今の?」

 

 

見たことがない者からしたら当然そんな反応になる。

 

面食らったレコンが小声で呻いたが、クラウドは振り返りもしない。左肩にある肩パッドからはピリピリとした本気度だけが伝わってくる。

 

そして。

 

一体を倒したら増援を呼ぶように、世界樹の守護騎士達は不気味な雄叫びを上げて迫ってくる。

 

それを見たクラウドは、全員に合図するように叫ぶ。

 

 

「行くぞ!!」

 

「「「「おお!」」」」

 

「は、はいッ!!」

 

 

決定的な射程圏まで飛んでいったクラウド達は、呆然とするレコンを放ったらかしにして、世界樹に湧き出てくる邪魔な守護騎士達を一匹残らず殲滅する。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

ドーム状のダンジョンに、爆音がいくつも炸裂する。

 

攻撃担当はキリトとクラウドだ。

 

事前の打ち合わせ通り、二人は猛スピードでゲートまで飛んでいき、敵を蹴散らしていった。キリトは翅があって飛べているが、クラウドはソルジャーの身体能力によって空気を蹴って跳んでいる。

 

現実離れした技に、レコンはさっきから驚きっぱなしだ。

 

他にも、ユウキとティファのコンビ力も凄かった。考えたこともない発想を、そのままやって見せていた。

 

 

「行くよティファ!!」

 

「うん! お願いッ!!」

 

 

そして投げ飛ばされたティファはまず目の前に迫ってきていたガーディアンに突っ込んだ。彼女の鍛え上げられた細い腕はそのまま銀色に染め上げられた兜へと吸い込まれる。人間で言うところの目にあたる部分に、ティファの正拳突きが硬い兜を突き破って、その格闘用手袋を後頭部まで貫通させる。

 

そして、幸いにも奴らには妖精と同じように翅がある。故に空中に浮いているため、上手く利用すれば足場にできる。

 

紫の燐光をまとったエンドフレイムに包まれて四散する前に、ガーディアンを足場にしてティファは別の守護騎士を倒すべく跳躍する。

 

 

「やあッ!!」

 

 

勢いのある跳び蹴りを放って壁まで吹き飛ばした後、そのガーディアンは壁に衝突した衝撃で背骨が折れて四散する。

 

その次に、背後から迫ってきていたガーディアンはティファの命を奪うべく剣を横薙ぎに振りかざして来ていた。

 

だが、彼女はまるで空中に固定されているかのようにしてその場でバク宙をすると、ガーディアンの刃は虚空を斬り、彼女には当たらず、ティファはそのままガーディアンを地面へと蹴り落とす。

 

まるでオリンピック競技の走り高跳びみたいに見えた。

 

真横に振るわれた剣は障害となるバーで、それを飛び越えるために背面跳びをして宙返りをしてオーバーヘッドキックを叩き込んだティファに、レコンは息を呑んだ。

 

 

「す、凄い······ティファさん」

 

 

翅がなくても、空中でアクロバティックな動きで敵を倒し続けるティファに、レコンはそれしか言えなかった。

 

その後、自然落下して地面に落ちてしまう前に、ユウキが手を伸ばし、その指先で格闘用の篭手を装備した彼女の左腕を掴み取る。

 

 

「ナイスタイミングユウキ!」

 

「ティファこそ凄いよ!!」

 

 

ナイスなコンビネーションだった。

 

敵を倒しすぎて足場を失ったことに気付いたユウキは、翅を羽ばたかせてティファを拾いにいった。

 

手を取り合って互いに笑い合う二人は、またその攻撃方法を繰り返す。腕一本でティファを支え、もう片方の腕で、手に持っている剣を振るって周囲にいるガーディアン達を蹴散らす。

 

その異様な二人のコンビネーションに驚いていたレコンだったが、自分の役割を思い出したかのか首を激しく横に振って切り替える。

 

 

「と、いけないいけない······ッ!!」

 

 

レコンは当初の打ち合わせを思い出し、リーファと共に底面に留まり、ヒールスペルを詠唱して回復を四人にかける。

 

そしてクラウドとキリトはというと、相変わらず大剣を振るって敵を薙ぎ倒していく。特殊な動きはいらない。

 

ただ迫ってきたら攻撃する。ただそれだけだ。

 

平行するように互いの背中を預けながら攻撃を繰り出していく二人は、時にはガーディアンを蹴飛ばして跳躍し、落ちそうになったらキリトの手助けで空中へと放り投げられる。

 

クラウドはそうやって空中を跳び回っている。

 

それを恐ろしい速度で繰り返していく。

 

しかし、それでも届かない。どれだけ素早く倒しても、それ以上のスピードで産み出される守護騎士達は、既に天井を覆い隠すほど密集していた。

 

そいつらはまだ襲ってこないが、近付いたら確実に蜂の巣にするように剣先を向けて突進して来るだろう。今はまず薄く伸ばした盾を分厚くすることに専念しているように見える。

 

しかし、他の奴らは別だ。

 

その盾を分厚くするまでの間、他の守護騎士達が命を削り取りに来る。

 

もちろんそれは、回復役をしているレコン達も例外ではない。

 

 

「ッ!? レコンッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

スペルを詠唱している途中、起きてはならないことが起きた。

 

後衛で回復役を必死にやっている中で、ガーディアンの一部隊が、二人を睨み付けた。

 

数は合わせて五、六匹。何とかなる数ではあるものの、回復スペルを唱えている途中で、キリトが今HPバーがかなり減少している状態だ。

 

クラウドがこれ以上キリトには攻撃を加えさせないとカバーをしているが、それでもかなりギリギリだ。急いで回復しなければならない。

 

たとえ敵に狙われてても、キリトがやられてしまうのだけは避けなければならない。

 

よって、ヒールスペルに集中していたレコンの背後に、赤い亀裂が刻まれる。

 

 

「ぐあッ!?」

 

「レコン!?」

 

 

一緒に回復役をしていたリーファがスペルを中断し、レコンの背後に迫ってきていたガーディアンを叩き斬る。

 

 

「大丈夫!?」

 

「な、なんとかね······」

 

 

幸いにも、奴らの攻撃力は弱い。

 

数で攻められてきたらやばいが、一体一体の強さは弱く設定されている。たかが一匹の攻撃など、どうということもない。

 

しかし、このままではまずい。

 

敵に狙われないようにリーファとレコンの二人は後衛で攻撃以外の魔法を使うことを決めていたのに、襲われてしまうのでは意味がない。

 

通常、この世界のモンスターはプレイヤーの姿を視界に入れるか、もしくは遠距離からの攻撃でダメージを与えられない限り襲ってくることはない。

 

だが、世界樹を守る守護騎士達は例外みたいだ。

 

どうしても攻略させたくないのか、そんな雑魚どもとは違って、より悪意のあるプログラムを取り入れられているようだった。

 

このままでは、ヒーラー役の自分達までやられてしまう。

 

そうしたら、回復するものはいなくなり、パーティーは全滅する。

 

故に、リーファは抜刀したままレコンに向かって叫んだ。

 

 

「あたしが奴らを引き付けるから、アンタはキリト君達のサポートを続けてッ!!」

 

 

それだけを言って回復役を降りたリーファは翅を羽ばたかせて敵の殲滅に参加しようとするが、

 

 

「······待って」

 

 

刀を持つ手に、ガタガタと震えている手が掴まれた。その手が誰の者なのか、目を動かして追っていくと、珍しく真剣な表情を浮かべているレコンがそこにいた。

 

 

「リーファちゃん······僕にはよく解らないけど、あの人達にとってこの戦いは大切なことなんだよね?」

 

「······そうだよ。多分ゲームじゃないのよ、今だけは」

 

「······そっか」

 

 

それだけを聞くと、彼は翅を力一杯打ち鳴らし、全身の重さを無視して天井にいる大群のガーディアン達に向かって猛然と飛び立った。

 

 

「ッ!! レコン!?」

 

 

咄嗟の行動に戸惑うリーファ。

 

それは他の者達も同じ。急に何かが真下から通りすぎたと思ったら、あのシルフの少年が真っ正面から軍隊蟻のように固まっている守護騎士の群れに突入していく。

 

 

「何をする気なのレコン!?」

 

 

必死の叫びに、レコンはただ無言で振り向いた。

 

笑みを浮かべ、不器用ながらも軽くウィンクをかますと、彼は回復魔法ではない詠唱を唱え始めた。

 

唱え始めた途端、彼の体に深い闇のような光が纏わりつく。

 

 

「ま、まさか·······ッ!!」

 

 

それが何を意味するのか、遅れて気付いたリーファは翅を広げてやめるように呼び掛けようとした。

 

が、

 

もう遅かった。

 

彼は最後に、みんなに聞こえるような声量で、こう言い残した。

 

 

「頑張ってね、みんな······ティファさん」

 

 

ドカァァァアンッッッ!!!!!

 

 

と、凄まじい音が炸裂する。

 

クラウド達は炎の渦のせいで昼間のように明るくなったダンジョン内で、その眩しい光に思わず目を閉じてしまう。

 

目を潰さないように瞳を守る瞼まで貫通するほどの眩い光。直視しないように目をつぶっていもその強烈な光は僅かに瞼の裏の瞳に届いていた。

 

赤黒い影が瞼の裏から見える。何が起きてるのか確かめようとして僅かに目を開けようとするとそこには白一色が広がっている。

 

光が強すぎて、視界を白く飛ばしているのだ。

 

しばらくの間激しい光が続いていたが、次第に収まっていく。

 

そして上を、レコンが向かっていった場所を振り返る。

 

 

密集していた守護騎士の分厚い盾に、穴が空いていた。

 

 

その真ん中に、小さな緑色のエンドフレイムが漂っていた。

 

 

自爆魔法。

 

 

使えば恐ろしいほどの威力を放つ範囲攻撃魔法だが、解き放てば死ぬと同時に通常の数倍のデスペナルティを課せられる、禁術だった。

 

レコンは、元からそのつもりであの大群へと突っ込んでいったのだ。自らを犠牲にして解き放つ威力は絶大で、その代償に見合う功績を彼は残していった。

 

いつも頼りなさげな彼がここまでするなんて。

 

 

「··········レコン········ッ!!」

 

 

会ったばかりのやつにここまでする彼の勇敢さに言葉を失うティファ。

 

感謝してもしきれない。

 

ユウキに抱えられながら絶句するティファは上空を凝視する。あれだけ密集していたガーディアンの群れの一部に、一つの穴が出来上がっていた。

 

 

「······ッ!!」

 

 

そして彼のことをよく知るリーファは小声で『あのバカ野郎』と呟き、力強く目をつぶって下唇を噛んだ。

 

ゲームじゃないのよ、その一言で、彼は覚悟を決めたのかもしれない。

 

彼の犠牲を無駄にしてはならない。

 

犠牲によって作られた、一筋の道。それが閉められる前に突破しなければならない。

 

だから、彼の意志を受け取ったクラウドは叫ぶ。

 

 

「今だッ!! 行くぞキリトッ!!」

 

「ああッ!!」

 

 

クラウドがキリトの名を呼んだ瞬間、彼らは動いた。せっかくやってきたチャンス。これを逃してはならない。

 

クラウドはキリトだけでなくユウキ達にも声をかける。

 

 

「ティファ!! ユウキッ!!」

 

「「うん!!」」

 

 

ユウキはティファを抱え、クラウドの後を追う。

 

クラウドは一匹のガーディアンを足場にして勢いよく跳躍し、キリトの上昇速度に合わせる。

 

そして。

 

そして。

 

ドームの天蓋がびっしりと蠢いて隙間を埋める前に、クラウドはキリトと手を取り合い、互いの大剣を合わせてロケットやスペースシャトルのような勢いで守護騎士達を蹴散らしていった。

 

あまりの威力に、何重にも重なったガーディアン達は束になって立ち塞がっても、圧倒的な加速で迫るクラウドのバスターソードとキリトの巨剣は、二つに合わせることで剣先を突き出す速度と威力を倍加させる。

 

 

「行って、キリト君······クラウドさん」

 

 

リーファはついていかなかった。

ただレコンによって開かれた突破口を目指して突き進む四人は、吸い寄せられるようにゲートへと飛び立っていく。

 

その背中を見て、彼女はドーム全体に響かせるように必死に叫んだ。

 

 

「行っけぇぇぇえええええッ!!」

 

「「ウオオオオオオオオオオッ!!!」」

 

 

裂帛とした咆哮と共に、二人が放つ一撃が爆走した。

 

ソルジャーとしての身体能力、SAO時代からのスキル熟練度の加護を受けた二人の体が、一気に加速しゲートまで突き進む。

 

守護騎士達はこれを止めようと、束になって襲いかかってきた。

 

しかしたとえ束になったとしても、一匹ずつの腕力は弱いため、それを振り払うためにクラウドとキリトの二人が持つ二つの得物を重ね合わせて、一斉に襲いかかってくるガーディアン達を、まとめて消し炭にしていった。

 

ドバァ!! と。二人の手の中で剣が爆発した。

 

比喩でもなんでもなく、本当に二人の剣が雷光と化した。一直線に飛び出した鋭利な一撃が連続的にガーディアン達を容赦なく突き破り、青白い紫電が奴らの体から噴き出して、命の灯火を引き裂いた。

 

圧倒的な破壊力によって剣のグリップを掴んでいた彼らの手が、光の尾を引き、確実にゲートに向かって飛翔していく。

 

ユウキ達はその後をちゃんとついてきて、離れないように後ろにぴったりとくっついている。

 

轟音と共に、ガーディアンの体からいくつものエンドフレイムが爆発する。

 

そして、ついに。

 

今まで誰も達したことのない、円形のゲートに。

 

 

ザシュッ!! と

 

 

世界樹の本当の入り口、アルヴヘイムの最後の門がある場所。

 

十字に分かれた円形のゲートの中心に、二人の得物が突き刺さる。

 

攻略不可能と言われたグランド・クエストを越えるように圧倒的な力を見せつけたその光景は、端的に二人の凄まじさを示していた。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

辿り着いた。

 

クラウドの魔晄を浴びた目から闘志が抜ける。

 

ソルジャーの力を持つクラウドと黒の剣士キリトが、限界を超えて力を合わせたことによって、無数のガーディアン達を音速の三倍で消し炭にしてやった。

 

 

「······着いた?」

 

 

と、その時。

 

隣にいたユウキがとても弱々しく、まるで嘘みたいな光景を目の当たりにして唖然としているような声でそう言った。

 

攻略不可能とまで言われたクエストのゲートに辿り着いたことに、未だに信じられないのだろう。ユウキは開いた口が塞がらなくとも、手に掴んでいるティファの手を離さない。

 

 

「ああ、やったんだ」

 

「喜んでる場合じゃないぞキリト」

 

「!!」

 

 

ユウキの声にキリトが応えたが、クラウドは再び瞳に闘志を宿す。

 

首でクイッと背後を指して、時間がないことを教える。

 

残りと新たな守護騎士。

 

彼らの使命は、ゲートを守ること。

 

突破されてはならないのに突破されたことで怨嗟の声を轟かし、そうはさせまいと振り返ってクラウド達を撃破するために翅で空気を叩いた。

 

たしかにこのままだとまずい。

 

折角ここまで来てまた振り出しに戻るのだけは避けなければならない。幸いにもゲートには手をついている。

 

もう手を伸ばせばクエストクリアのための演出があるはずだ。

 

キリトは手を突き出して、ゲートを開けるようにノックしようとした時、

 

 

「待ってください!!」

 

 

唐突に。

 

キリトの手の前に小さな男の子が降り立った。あと数センチしてたら潰してしまっていた。

 

チャドリーは何かがおかしいと言うようにゲートを見渡し、何かを探っていた。まるで、何か異変を感じ取ったようた様子だった。

 

その様子に疑問に思った同じナビピクシーのユイもゲートに触れる。

 

そして。

 

 

「ッ!? クラウドさん!!」

 

 

チャドリーは悲痛な叫びでクラウドの名を呼ぶと、

 

 

「この扉は······僕らの手では開けられません」

 

「「「「!?」」」」

 

 

四人は絶句した。

何の説明もなく、唐突に放たれた絶望的な言葉。

 

一体どういうことなのか説明するように皆がチャドリーに目を向けると、彼は早口で言った。

 

 

「この扉は元から開けられないように設定されているようです」

 

「どういうことだよ、それ!?」

 

「ふざけたことに、システム管理者の手によって、世界樹の上に行くというのは初めから不可能なように設定されていたということです。おそらく、元からそんなクエストなんて用意してなかったんでしょう。真の妖精に生まれ変わるというのは、単なるデマだったということです」

 

 

その残酷な言葉の意味がわからなかった。

 

凍りついた頭はしかしゆっくりと、氷を溶かすように思考を再開させる。

 

ゲートが開かない?

 

システム管理者は元からそんなクエストを用意してない?

 

つまりこういうことか、それが結論なのか?

 

希望だけを持たせておいて、プレイヤーの心を弄び、あと少しでゲートの奥に行けるというのに······開かないその理由を、システム管理者の手によってというふざけた言葉になってしまうのか?

 

 

「······ッ!!」

 

 

クラウドは八つ当たり気味に拳をゲートにぶち当てる。

 

キリトも同様。

 

全身から力が抜けるように剣を離した。

 

 

「······クソッ!!」

 

 

これはもう、プレイヤー諸君がどうにかできることではない。与えられたスキルやステータスがまったく役に立たない己の力にキリトは歯噛みして、

 

 

「ッ!?」

 

 

ようは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「待ってろ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

キリトは何かを思い出したようにポケットへ手を突っ込んだ。急ぐようにポケットをまさぐるキリトにクラウド達はどうしたのかという目を向けていたが、左ポケットからあるものを取り出した。

 

銀色のカード。

 

それをチャドリーとユイの目と鼻の先にまで押し付けてこう言った。

 

 

「ユイ! たしかこれは秘匿性の高い研究データが収められた『システムアクセス・コード』だって言ってたよな!?」

 

「ッ!? はいッ!!」

 

「二人ともこれを使え!! これでゲートが開くはずだ!!」

 

 

チャドリーとユイに力強く言ったキリトに、二人は顔を見合わせてそれを受け取る。二人でカードを持ち上げて、光の筋が二人の両腕へと流れ込んでいく。

 

 

「システムデータ······解明。コードデータ······解明!!」

 

「チャドリーさん!!」

 

「はい!! 皆さん僕らに掴まってくださいッ!! これより世界樹内部に転送されますッ!!」

 

「「「「!!」」」」

 

 

そう言うと、二人は光の筋が流れ込んだ両腕をゲートへと叩き込み、システムを起動させる。システム管理者の権限を有した二人に触れれば、世界樹へと入れるはずだ。

 

 

「急いでッ!!」

 

 

チャドリーがそう言うと、クラウドとキリトはチャドリーに、ユウキとティファはユイに。

 

差し伸べられた手をしっかりと掴んだ。

 

瞬間。

 

轟!!

 

という石造りのゲートが揺れ、十字に組み合わさった石板の隙間から眩い光が漏れた。

 

そして。

 

 

「「「「「「ッ!!」」」」」」

 

 

それぞれの体が発光していき、全身が白く染まると、アバターは光の粒子となって、

 

クラウド達の姿は消失した。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「······クックック!!」

 

 

世界樹の何処かで、そんな声があった。

 

優秀な頭脳ならこうはならなかったものの、こうも簡単に侵入されてしまっては『この体の頭脳』の科学的センスのなさを痛感させられる。

 

 

「クァックァックァッ!!」

 

 

にも拘らず、そんな出来事を楽しむように両手を広げたまま立ち上がり、笑い声を上げる。

 

『緑色の長衣』を纏って愉快に笑って、ハプニングをどう楽しもうか、美味しそうな料理に思わずよだれを滴らせるような欲望にまみれていく。

 

 

「科学者としての欲望に負けた······まずはこの二流科学者が考えていた『アップデート予定だった魔法』を試してみよう」

 

 

 

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