フォーカスの遠近が揺らぎ、ようやく風景を脳が認識する。
体がバラバラに分解されて再構築された感覚はなく、いつの間にか床に足をつけていた。目を開けると、そこにあるのは白で統一された廊下だった。
「······ここは?」
ユウキのその一声をきっかけに、皆が周囲を見渡した。
自然らしい音もなく、ただ無音だけが空間を支配している。先程までの激しい戦いが夢だったかのような感じだ。それほどまでに世界は静寂で満たされていた。
「ユイ、ここがどこだかわかるか?」
キリトがそう訊ねると、ユイは小さな首を振りながら周囲の構造を把握する。ユイはいつの間にか小さなピクシー態ではなく、本来の、十歳ほどの少女の姿に戻っていた。
チャドリーも同様。
着ているデザインは少々変わっているが、白衣を着て、その内側に青いボーイスカウトを着こんだチャドリーは眼鏡を直して周囲を見張る。
異様なまでにデザインがされていない。
上下左右全てが白く塗り潰されていて、しかしわずかな影によって輪郭はハッキリと見える。ゲートの入り口から入ってきたはずなのに、今いる場所は廊下の一部分。
世界樹の内部であることだけは確かだ。
それは間違いない。
故に、木の構造上円形になっているためか、湾曲した通路が奥まで続いている。
この先には何があるのか、その先にはどのような物があるのか、ユイもわからないのか困惑した表情で言う。
「·······わかりません。どうやらここはナビゲート用のマップ情報がインプットされてないようです」
その話を聞いて、チャドリーが仮説を述べる。
「おそらく、秘匿性の高い場所なのでしょう。システム管理者がプレイヤーにはゲートを絶対に開けられないようにしたように、この場所には何か見られたくないものがあるのだと推測いたします」
第三者には見られたくないもの。
それは一体なんなのか、考えるまでもない。
「······人体実験か」
クラウドがそう言うと、皆が彼に注目する。
確かに、可能性はある。ある程度キリト達の世界のことを聞いて状況を把握していたクラウドは、まだ目覚めていないプレイヤー達と、アスナの関係性から見て、非人道的な実験を行っていると悟った。
何にしても、世界樹内部には侵入できた。
あとはここから、自分達の目的を達成すればいいだけだ。
「二手に分かれよう」
「「「「「!」」」」」
「俺とティファとチャドリーはデータ閲覧室、キリトとユウキはアスナの救出に向かってくれ」
「え!? ちょっと待ってよ!?」
ユウキが途中で割り込んだ。
キリトを通りすぎ、クラウドの前まで来ると声を荒げて言う。
「前にも言ったけど、クラウドに最後まで付き合うって約束でしょ!? だったらボクも────ッ!!」
「確かに、そう言われた」
「だったらッ!!」
「だからこそ、お前にしか頼めないんだ」
「!? どういうこと?」
「まず俺達はこの場所すら把握出来ていない状態だ。そんな状況で、キリトとユイのたった二人だけだと何かが起きたとき、戦えるのはキリトだけだ。もしかしたら、あのガーディアンがこの通路を徘徊している可能性だってある。そんな時、キリト一人で対処するのは困難だろう。だから戦える人数を均等に分けて動くんだ。俺とティファ、キリトとユウキという感じでだ。キリトのために、護衛同行してくれ」
冷静に作戦の内容を述べたクラウドにユウキは言葉も出なかったが、彼はそこへさらに追加で頼りになる一言を、改めて告げる。
「お前にしか頼めない」
「!!」
「一度剣を合わせたことがあるからこそわかる·····お前は、お前の『剣』は、
「ッ!?」
「俺達とはまた違った、『
「······」
「······頼めるか?」
腕を組んでそう訊ねると、ユウキは真っ直ぐ見つめていた彼の瞳に笑いかけて、
「わかった、任せてよ!」
二人はそれぞれ言い合って、少しだけ黙った。
やがて、キリトに目を向けて彼は言う。
「悪いな、本当なら俺もついていくべきなんだろうが」
「いや、お互い様だ。俺だってお前をログアウト出来るように手伝いたいし」
気軽に返したキリトと目を合わせる。二人はそのまま無言で近寄って、手を組んで、悪いと一言また謝ってから、
「気を付けろよ」
「ああ、互いにな」
手を離して、両者は背を向けて違う方向へと走り出す。
目的地はそれぞれただ一つ。
キリトはアスナの救出。世界樹内部のどこかにいる一人の少女を見つけ出せば良いだけ。
もう一つはデータ閲覧室でクラウドのデータを見つけること。チャドリーの言葉が正しいなら、この世界樹のどこかにそれはあるはずだ。
さあ。
ここからが正念場だ。
<><><><><>
どこまで行っても、ファンタジー世界をモチーフにしているはずの世界樹の中身は、『建物』として機能していた。
現実的な服装をしている自分達に違和感を感じないほど中の作りはシンプルで、しかし剣を背負っているせいか異彩を放っている。
リーファから聞いた話と随分と違う。
世界樹の頂上にたどり着いたものは上位妖精に生まれ変われるための神秘的な空中都市が広がっていると聞いていたのに、そこにあるのは白く、白く、白いただの長い通路。
階段もなく、目印もなく、どこに何があるのかさえわからない。
「本当にこの道で合ってるのか?」
「おそらく、僕にプログラミングされているソナー装置を使えば、建物内全体の構造がわかります」
音波によって物体を探知する装置まで埋め込まれているとは。なんだか、チャドリーの身体には一体どれほどの秘密道具が搭載されているのか逆に気になり始める。
「今いる場所は?」
「この建物は三層構造になっていて、上から順にフロアC、B、Aとなっているようで、僕らがいるのはその中間地点Bです。データ閲覧室はA、すぐ下です」
言われながら走り続けるクラウド達。
チャドリーに搭載されているシステムに頼ってしばらく走っていると、左側の内側方向の壁に四角い扉が見えてきた。
「ここから下へと移動できそうです」
立ち止まったチャドリーの言葉に頷いて、言われるままに上下に並んだ三角形の下のボタンをタッチした。
クラウドとティファは両サイドに隠れ、もしエレベーター内に敵がいたらいつでも奇襲できるように備えておく。
クラウドは右手をバスターソードへ、ティファはグローブを握りつぶし、ポーンという効果音が聞こえると同時に二人は顔を合わせる。
互いに頷き、エレベーターの扉が両サイドにスライドしたのを見計らって物陰から飛び出す。
しかし、そこには誰もいなかった。
箱形の白い小部屋があるのみで、特に敵らしいものはない。
三人は中に入る。監視カメラとかそういった類いのものはないか確認したが、部屋全体が白くコーティングされていて、その心配はなさそうだった。
扉の方に向き直ると、ボタンの並んだパネルがあり、現在点滅しているボタンが今いる階層なのだとすれば、自分達は下のフロアに行くボタンを選べばいい。
ボタンを押し込み扉が閉まると、下降する感覚が三人を包む。
「二人とも下がってろ」
「「······」」
二人は声も出さず、エレベーターの両壁に背中を預けた。
もしかしたら、扉が空いた瞬間に敵がいるかもしれない。そう思ったクラウドはまず自分が出て安全確認をすることにした。
エレベーターが停止し、開いた扉から勢いよく飛び出すクラウド。スライディングしながらバスターソードを引き抜き、すぐに左右を確認する。しかし、そこは先ほどまでと同じような歪曲した通路だけが伸びており、人の気配はない。
「······クリア」
安全だと判断したクラウドはそう呟き、二人に出てくるように指示する。
通路は先ほどと同じで、上下左右のパネルに継ぎ目どころか傷一つなく、自分が一体どこにいるのか本当に分からなくなる。
侵入者用に作られた設計だとしても、これじゃあ職員すら迷いそうだ。目印となるものがなければ、ここで働くのは難しいだろう。
「みなさん、こちらです」
しかし、幸運なことにこちらには優秀なナビゲーターがいる。たとえどれだけ道を歪ませても、サイボーグであるチャドリーにとって位置情報を探り出すのは朝飯前だ。
二人はチャドリーの後をついていくと、ある扉の前に止まった。
「······ここですね」
その扉は今まで見てきたやつと同じデザインだったが、チャドリーがその扉の前にあるパネルを慎重に操作し、ロックを解除してドアをスライドさせる。
そして、扉の奥から差し込んできた強烈な光りに、思わず目を細めた。
「「!?」」
内部を見た途端、クラウド達は息を呑んだ。
途方もなく広大な施設。真っ白で遥か遠くまで白く、白く、白く、塗られている。光が反射して余計にその光は強くなっているのだが、その強さに目眩がする。
何より目が行くのは、いくつもの細い柱。整然と均等に並べられた柱型のオブジェクトは、床面からクラウド達の胸辺りまでの高さまで伸びている。太さは両手で抱えられるほど。その平滑な上面に、わずかな隙間をあけて何かが浮かんでいる。
それはどう見ても、人間の頭の中にある脳髄そのものだった。
「これ·······なに?」
ティファが震える声でそう言った。
サイズは実物大だが、色合いはリアルなものではない。青紫色の半透明素材で構成されている。つまりこれはホログラムだ。本物ではない。
しかし、脳髄の下側に表示された半透明のグラフを見た通りなら、これは誰かの脳を現在進行形でモニタリングされている。
確か、キリトは言っていた。
今もなお目覚めていないSAOプレイヤー達がいるということを。もしそうなら、ここにいる奴らがそうなのかもしれない。ゲームクリアに伴って解放されるはずが、このゲームの管理者によってここに幽閉され、脳が発する思考や感情を操作する実験に付き合わされているのだと考えられる。
「これが······このゲームの裏の顔か」
「酷い、なんて酷いことを······ッ!!」
ティファが顔を青くして口に手を当ててそう言った。
修羅場を潜り抜けてきた彼女とて、この現状には目も当てられないのだろう。非人道的な実験は、ティファ達にとっては許されないことだ。
非人道的な実験のせいで多くの者達が命を落とした。
殺されたもの、化け物にされたもの、生け贄にされたもの、数えきれないくらいにクラウドとティファはその光景を見てきた。
手を伸ばせば届く以上、可能なら彼らを救いたいがどう救えばよいのかわからない。何よりもまずここから脱出することが最優先だ。その後で彼らをどう救助するか考えればいい。
クラウドはチャドリーに言う。
「このゲームから抜け出すにはどうしたらいい?」
「このゲームのシステムコンソールを使ってクラウドさんの設定を正しく修正させます。その後で管理者権限でアクセスできれば、ここにいる人達をログアウトさせることも可能です」
「それはどこにあるの?」
「あれです」
ティファに聞かれてチャドリーはある方向に指を指す。遠く離れた白い壁面の手前に、ポツンと『翠玉色の水晶が浮かんでいる柱』が見えた。
三人はそこまで近付いていくと、あることに気が付いた。
「これって······ッ!!」
「“マテリア”、なのか?」
「そのようです。しかし、なんの魔法も封じ込められていません。見せかけか、もしくは僕でさえも知らない魔法が入っているのかもしれません」
見慣れたものに目を奪われた一同は、何故そんなものがここにあるのかと疑問に思う。
チャドリーがマテリアに軽く触ると、ビー! という音を立てて薄青いウィンドウとホロキーボードが浮かび上がった。
ウィンドウにはびっしりと多種多様なメニューが表示されているが、チャドリーはある項目に目が行った。
「これは!?」
「ど、どうしたのチャドリー?」
「あ、ありえません·······こんなの、
酷く動揺しているチャドリーが見つめている項目。チャドリーは恐る恐るといった感じでそれを開いてみせると、ウィンドウに大きく文字が表示された。
本来、この世界では馴染みのない単語、
『JENOVA project』
と。
「!? なんで、こんなものがこの世界にあるッ!?」
「僕にもわかりません! 異世界のゲームにJENOVAという名前があるなんて予想外です!!」
高性能な頭脳を埋め込まれたチャドリーでさえも困惑している。
目を見開き、何故こんなものがあるのか自分の頭の中の疑問を、自分の言葉で再確認するような作業ばかりを繰り返して、オーバーヒートしそうであった。
「一体、なんでこんなものが·····ッ!?」
答えにたどり着かないことに多少の苛立ちを覚えるチャドリー。
演算を繰り返して一刻も早く答えを導きだそうとするも、何も浮かばない。
なのに。
『決まっているじゃないか、私の一部を埋め込んだお前をここに招くためだよ』
どこからともなく返答があった。
三人はハッとした様子で周囲を見渡してその音源を探る。前後左右ではなかった、少なくともこの部屋から出た言葉ではなかった。
声がしたのは、三人の頭の中だ。
『歓迎しよう』
謎の声だけが続く。
空間の中で声が響き、気色の悪い声が脳を揺さぶっていると気付いたときには、すでに三人の身体は宙に浮いていた。
そう錯覚した。
そんな時だった。
「ァ、ァァァァァアアアアッ!?」
「チャドリー!?」
「ク、クくくラウドさ、ん······ティ、ファさささささん······気を、つつつつけてッっッ! 何か······よくないモノがががががががががが······※#"$₩/×*!!」
その言葉が終わる前に、チャドリーの身体は何重にもブレて跡形もなく消え去った。
チャドリーの身に何かが起こったことは明らかだ。しかし、手を伸ばそうにも身体が固定されてしまって動けなかった。
二人はこの異常事態に目を見開くものの、事態はお構いなしに進んでいく。
『せっかくの客人だ、丁重にもてなさなければならないな』
含み笑いすら交えて、声はこう告げた。
『さあ、始めようか。私の偉大なる実験を』
<><><><><>
気が付いたときには身体は地面に縫い付けられていた。凄まじい重力に押され、身体が沈み混んでいるのだ。
「クラ、ウド」
「クラウド、さん」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
同行していたティファのものではない。少年らしい若々しくたくましい声と、最後にともに戦った勇敢なあの少女の声だった。
「キリ、ト? アス、ナ?」
押し潰されながらも声がした方を見るクラウドは、そこで分かれたはずとキリトとアスナを見つけた。
まっすぐに流れる長い髪、薄手のワンピースにその背から伸びる優美な細い翅。見間違えるはずもない、姿が少し違うがアスナ本人だ。
その隣にはユウキもおり、彼女も不安そうに目を見開いてこちらを見ている。
自分の隣を見てみると、ティファも自分と同じように地面に倒れ伏している。
重力の空間。
そこにいつの間にか放り込まれたクラウド達は動けず、圧倒的な重さに苦しんでいた。
「クラ、ウド······気を、つけて」
必死に手を伸ばして声を漏らすユウキは、全身に圧し掛かる重力に耐えかね、険しい顔になっていた。
一体何が起こったのか、クラウド達は事態を把握しようとする。
「素晴らしい、そう思わんかね?」
「「「「「!?」」」」」
直後だった。
聞き覚えのある声だった。今度は肉声で、倒れ伏しているクラウド達を嘲笑うように一人の男が暗闇から歩いてきた。
「須郷ッ!!」
キリトが立ち上がろうともがきながらも、その声の主に唸り声で叫んだ。
が、
叫ばれた男はそんなキリトのことなど気にもせず、むしろ虫を見るような目付きで呆れた声を出す。
「全く、私の一番気持ちのいい時間に水をささないでもらいたいな。君と遊んでいる時間などないのだよ」
「なに!?」
「君など単なるモルモットでしかない。邪魔だからしばらくの間口を閉じていてもらいたいね」
キリトに向かって何かを言う男。
毒々しい緑色の長衣を纏い、その上に作り物のように端正な顔が張り付いている。
「······誰だ?」
両手に力を込め、舌打ちと共に立ち上がろうとするクラウドは再度訪ねる。
「お前は、誰だ·····?」
「オベイロン····となっているが、この際名前などどうでもいい。姿形や名前など単なる記号でしかないんだよ、“セフィロス・コピー・インコンプリート・ナンバリング無し”」
「!?」
オベイロン、確かその名前は妖精王であったはずだ。世界樹にたどり着いてオベイロンという者に会えば最上級クラスの妖精へと転生させてくれるという重要キャラクター。
それにしてはそんな感じには見えない。薄汚く、妖精としての気品さもない。
何より、聞き捨てならないことをこいつは述べた。
何故その事を知っているのか問い詰めようとするが、それよりも先にオベイロンが話し始める。
「この世界で出来ることはやり尽くした、あとはこちら側とあちら側を繋げるだけだが、少々時間がかかりそうなんでねぇ、ちょっとした暇潰しに最近開発した魔法を試してみたんだが、少し効果が弱すぎるみたいだなぁ」
「「「「「!?」」」」」
「時間稼ぎにはなるが、せめて人体をまるごと押し潰すくらいの威力でないと使い物にならない。やはり、二流科学者の脳ではこれが限界か」
気軽に淡々と話すオベイロンはクラウド達のことなど気にせずに独り言を呟く。
わけのわからない単語を並べて、クラウド達の間を歩き、ステップでも踏むような感覚で楽しそうにしている。
「オベイロン───いえ、須郷!」
そんな時、床に倒れ伏しながらも、気丈に顔を上げたアスナが鋭い声で叫んだ。
「あなたのしたことは全部この目で見たわ! あんな酷いことを·······許されないわよ、絶対に!!」
「······ふむ」
そう言うもオベイロンは何一つ気にしてない素振りを見せる。すると、何を思ったのかオベイロンはアスナに近付き、同時に彼女の腹を強く打ち付けた。
「ああ!?」
「アスナッ!?」
「全くもってうるさい娘だなぁ、実験道具として親切に生かしておいてるのに。いざとなったら現実の君に装着されているナーヴギアとやらの出力をいじることも可能なんだよ?」
「須郷ォォォォオオオオッ!!」
「君もうるさいねぇ~。さっきから須郷須郷って、人の名前くらいちゃんと覚えてほしいものだねぇ~」
「ッ!?」
「光栄に思いたまえ、私の大いなる仮説の検証に、君達も貢献させてやろう」
なに!? とキリトが眉をひそめると、興味の対象を変えたように、今度はクラウドに話しかける。
「ふっ、しかし、クラウド・ストライフ。
「····なに?」
「くくくっ、わからんか?」
クラウドはその言葉に顔をしかめるが、オベイロンは手を広げてにやりと笑って語り出す。
「私は三年前、“セフィロス”を追いながら世界中のネットワークに自らの断片······そう、私の頭脳、知識と思考とデータをばら蒔いた」
「!?」
「そして、ネットワークに散らばり生き続けた私の断片は、『メテオ災害』をも越え、再び復活したネットワークと共に一つに構成された······ふっ、これは、新たな『リユニオン』だと思わんかね?」
この時、クラウドはようやく理解した。
先程から自分の知っている単語を並べられて、気付かない方がおかしい。
セフィロス、メテオ災害、リユニオン。
どれもこれもクラウドの世界に馴染み深いワードだ。キリト達の世界ではまず聞かない単語をこの男は知っている。
それに、こいつは自分のことを『セフィロス・コピー・インコンプリート・ナンバリング無し』と呼んだ。
クラウドの知る限り、自分のことをそう呼ぶのは“一人”しかいない。
「まさか······お前は······ッ!?」
クラウドの声から、かすれた声が漏れた。
声帯どころか、全身が震えてまともな声が出ないままの状態でいると、その様子を見たオベイロンはつんざくような笑い声をあげて、
「かっ······はははははははははははははははははははは! そうだ! 私だ!!」
作り物のように端正な顔に亀裂が走った。ノイズのように点滅し、その中から全く別の男の顔が覗いていた。眼鏡をかけ、ボサボサの髪を後ろで纏めている白衣を着た初老の男性。
「“宝条”だよ!! ははははははははははははははははッ!!」
ゾワッ!! と。
オベイロンや須郷なんかよりももっと凶暴で。
凶悪で。
どうしようもないほどマッドサイエンティストを表現する、その顔。
全ての元凶とも言える存在が、クラウド達の前に現れた。