ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第20章

 

 

「宝、条·····?」

 

「須郷じゃ、ない?」

 

 

宝条。

キリト達からしたら聞き慣れない人名。

 

今までそうだと思っていた奴が違う奴だとわかった瞬間、キリトとアスナは疑問と共により一層の警戒を抱いた。

 

だが、別世界にいるクラウド達は宝条という男がどういう存在なのかを知っている。

 

一言で言ってしまえば、科学と自身の頭脳を絶対としており、実験の成功の実現に向けた合法非合法を問わない研究に手を染めており、人体実験も厭わないマッドサイエンティストとして知られている。

 

人の命が研究のために失われることをなんとも思わず、クラウドでさえもこいつの手によって身体を改造された。

 

ジェノバ細胞とセフィロスの細胞を、敢えて精神支配が耐えられないものに植え付け、ジェノバの特性である体がバラバラにされても一箇所に集結する、『リユニオン』という仮説を証明するために、クラウドは五年間もの間人体実験の対象にされた。

 

そんな彼からしたら、目の前にいる奴は許せないわけで。

 

なにより。

 

なぜそんな奴が現れたのか全くわからなかった。姿形さえも変えてまで、なぜ別の世界の仮想空間に現れたのか理解ができなかった。

 

 

「あんたが······何故ここに!?」

 

「ふむ、やはり自分から名乗らねば正しく認識されないようだな。姿形が変わって自分だと認識されないのは、なんだか小馬鹿にされているようで癪だ」

 

 

そう言うと、オベイロンの体から。

 

ゆらり、と。

 

空気から浮かび上がるように、透き通る老人の体が生じた。白衣を着て、黒レンズの丸眼鏡をかけ、おそらくシャンプーもリンスもつけず手入れをしていないボサボサの長髪を後ろで纏めている。

 

重力を無視し、それはオベイロンと動きをシンクロさせながら語り出す。

 

声を合わせながら、彼は言う。

 

 

『「私はねぇ、実験に専念すべき貴重な時間を空費してしまうのは好きじゃないんだ」』

 

「ッ!!」

 

『「しかし、せっかく時空を越えて再会したんだ。ちょっとだけ世間話でもするとしよう。特に、そこにいる異世界人とはねぇ。今後のための有益な情報が得られるかもしれんし、異文化交流は私の趣味でもあるしなぁ」』

 

 

不思議と、これまであった異様な冷たさに熱が帯びたような顔色に変わった。

 

今まで興味も示さなかったキリト、アスナ、ユウキ達を見て。

 

ニヤリと笑って、乾いたしわがれ声で話しかける。

 

 

『「あ~、そこのインプの君はあれだろ? この失敗作(クラウド)のためにわざわざこんなところまでついて来た感じだろう? 何の見返りも報酬もないのに、こんな奴のためについてくるなんて、私には理解できんよ」』

 

「!?」

 

『「そして······そっちのスプリガンは、この二流科学者が飼い慣らしていた女を探しに来たといったところかね?」』

 

「······ッ!!」

 

『「で、やっと探し出したところで私の手によって拘束されてしまったと·······クックッ。無駄骨だったなぁ」』

 

「なに!?」

 

『「別に私自身、そこの女など特に興味はないが·····せっかくのサンプルを未使用のまま廃棄するのは勿体ないのでね」』

 

 

すると宝条の意識とシンクロしているオベイロンの右手が上へと掲げられると、指をパチンと鳴らして漆黒の闇の中から、じゃらじゃらと複雑に絡み合う金属音が降りてきた。

 

降りてきたのは、二つの鎖。

 

その先端にはちょうど手首サイズの金属リングが輝いていた。オベイロンはニヤニヤと笑いながら特にその場から動かず、手を振るっただけで倒れたままのアスナの両手首にカチンと音を立てて嵌めさせた。

 

そして。

 

指揮棒を振るように上へと軽く振ると、闇の中から伸びている鎖が上へと引かれ、アスナの体が空中へと持っていかれる。

 

 

「きゃあッ!!」

 

「アスナ!?」

 

 

吊り下げられたアスナはつま先が届くか届かないかの微妙のラインで固定される。

 

 

「お前······何をする気だ!?」

 

『「いやね? 彼女が死んだら君はどんな顔をするのかなと思ってね?」』

 

「な·····にッ!?」

 

『「大切な存在が消えた瞬間、人は一体どのような感情を抱くのか、明確に知っておいた方が今後の研究のために参考となるからなぁ。出来るだけわかりやすい反応を見せてくれよぉ?」』

 

 

宝条とオベイロンは身体の動きを合わせながら、思った以上につまらない玩具をてにしてしまったような顔でそう言った。

 

 

「ふざけるなよ、アンタ······アスナに何かしたら、ただじゃおかないからなッ!!」

 

 

キリトは今までにないほど大きな声で叫んだが、半透明な宝条は両手を広げて肩をすくめた。

 

 

『「その状態で? 一体どうするというのかね? 動けもせず、ただ倒れ伏して見ていることしかできないというのに」』

 

 

そう言うと宝条はオベイロンの体を操作してアスナの長い髪を一本だけ弄り、強く引っ張って引き抜いた。

 

 

「ああ!?」

 

「アスナッ!!」

 

『「抵抗も何もできない。この女の髪の毛一本すら守れない。そんな状態なのにただじゃおかないと言われても、説得力に欠ける」』

 

「きっさまぁぁぁああああッ!!!」

 

 

拳を握り、目の前にいるオベイロンを殴り飛ばすべく立ち上がろうとするキリト。

 

しかし、体にかかる負荷がそうはさせてくれない。重圧に押し潰され、剣すら握れない状態だ。

 

耐え難い怒りを吐き出せず、奥歯を噛み締めていると、一つの声が暗闇の中に響いた。

 

 

「はあぁぁぁああああッ!!」

 

『「あん?」』

 

 

ドッパァァァ!! と。

 

先ほどまでオベイロンが立っていたところに、勢い良く巨剣が突き刺さった。

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

オベイロンに向かうためそれぞれが立ち上がろうとしていたキリト達の体が、爆風に押されて後ろへと転がる。そればかりか、ガキン!! と何か金属製のものを断ち切ったような音が響いてきた。

 

吊り下げられていた、アスナの鎖を断ち切った音だった。

 

爆風によって発生した砂塵が舞う瓦礫の中央の上には、誰かが立っていた。

 

その人影は、半透明となった宝条を睥睨しながらこう告げる。

 

 

「グラビデよりも弱い重圧なら、根性でなんとか抜けられるッ!!」

 

『「······ほう」』

 

 

とっさに避けたオベイロンは重力魔法が展開されている中、唯一動いて攻撃を繰り出したクラウドに感心したように笑っている。

 

 

『「素晴らしい! やはり失敗作とはいえ、セフィロスのコピーなだけあるな」』

 

「アイツは今関係ないッ!! 動けたのは俺自身の力だッ!!」

 

 

否定の言葉を叫んだクラウドは、剣をオベイロンに向けながら離れたところにいるティファへ視線を投げた。

 

 

「······!!」

 

 

その視線を受け取った瞬間、クラウドは首をわずかに動かしてアスナの方へと向けた。意図を理解したティファは重力魔法が解除されたことを確認し、一気に駆け出してアスナの救出に向かう。

 

 

「大丈夫!?」

 

「は、はい!!」

 

「一旦退くよ、肩貸して!!」

 

 

そう言われてアスナはティファに背負われながら宝条と距離を取る。後衛に控えたことを聞こえてきた会話だけで察したクラウドはそちらを見ず、ただ加勢してもらうために、得物を携えている二人に確認を取る。

 

 

「行けるか、二人とも!?」

 

「ああ!!」

 

「もちろんだよ!!」

 

 

クラウドが一撃加えたことによって重力魔法が解除されたことをいいことに、キリトとユウキも抜刀し、交戦準備をする。

 

今、目の前にいる奴を叩き斬ることができる凶器を持つのはこの三人だけだ。相手が何をしでかすかわからない以上、素手で挑むのは危険だ。故にティファとアスナには一時的に後衛に控えてもらい、そしてティファはアスナの護衛についてもらう。

 

戦闘準備は整った。

 

クラウド達の眼光が鋭くなったのを見たオベイロンは、この場で浮いているマッドサイエンティストと息を合わせると、

 

 

『「······はあ、全く」』

 

 

宝条は息を吐きながら、取り囲むように剣を構えている三人に視線を向けた。どうやら彼自身、この程度の事態は何の問題もないらしい。何を企んでいるのか、天才的な頭脳を持っていたとしてもマッドサイエンティストな思考を持っているようでは他人には理解できない。

 

何もしないのであればこちらは大助かりだが、明らかにそういう雰囲気ではない。

 

クラウドはさっきから気になっていることを宝条に突きつける。

 

 

「何が目的だ宝条!?」

 

『「······はぁ~あ」』

 

 

しかし、宝条は簡単にその質問を遮った。

 

 

『「失敗作ごときが私の実験の邪魔をするなど······本当に自分が悲しくて泣きたくなる」』

 

「名前くらい覚えろ!! 俺はクラウドだ!!」

 

『「お前を見ると私は······自分の科学的センスのなさを痛感させられる」』

 

 

宝条はオベイロンの体でため息を吐き、

 

 

『「前にも言ったが、私はお前を失敗作だと判断した。なのに、セフィロス・コピーとして機能したのはお前だけ。故に、こんな二流科学者が作った重力魔法すらいとも簡単に抜け出してしまう······本当、自分がイヤになるよ」』

 

「なんでもいいからさっさと説明しろ! 何が目的だ!?」

 

 

クラウドは怒号のように叫び、キリトとユウキの肩を震わせる。しかし、宝条だけは真顔を貫いている。

 

そして、またため息を一つ吐きながら簡単に口を開いた。

 

 

『「私はねぇ、もともと多重宇宙論など信じていなかったんだよ」』

 

「?」

 

『「しかし今は違う。私たちとは違うもう一つの世界があることを知って、私はそれにすごく興味が湧いた!!」』

 

「······何を言っている!?」

 

 

言っている意味がわからず質問を再度説いてみたが、宝条は取り合わず独り言を繰り返す。

 

 

『「私は自らの肉体をジェノバによって、強化しようとしていた。だが、あれは失敗だった。まさか思考すら喰われ、あまつさえ貴様らに滅ぼされるとはな」』

 

「······」

 

『「まあ、あの状況を乗り越えられなかった時の保険として、我が断片をばら蒔いたんだがな。勿論あのサイボーグにも、一部だけ組み込んでおいた。いつか新天地を見つけた際に私の意識を別の肉体に移すために、予めプログラムしておいた」』

 

「!?」

 

『「そして肉体を失った私は、セフィロスが開いてくれた新たな世界の扉をくぐり、この世界に目をつけた。セフィロスもいい仕事をしてくれたぁ······良い新天地を見つけ、そして最適な肉体すらも私は手に入れたのだからなぁ······頭脳は二流以下だったのが唯一の不満点だがね」』

 

 

嘲弄するような宝条の言葉が続き、そして何故オベイロンとしてここに存在しているのかをようやく語り出す。

 

 

『「しかし好都合だったよ·····この身体の持ち主はある実験を行っていてね。思考・記憶操作技術、人の魂の直接制御という実験をね? だから、私はまず知識としてこいつのアバターデータに侵入し、知識を与えた。それをこいつは、自分の考えだと思い込み、完成させたい一心で研究を進めてくれた。私が、すでに頭の中を奪っているということに気付かずにね」』

 

 

なに? と訝しむクラウド達をほとんど無視するように、宝条は軽い調子でこう言った。

 

 

『「宇宙を巡るシステムの一つとして、生まれ変わることができるかもしれぬという理論ゆえにネットワークに私の断片をばら蒔いた結果、その都合の良い実験をしているこの男の身体に目を付け、そして私の魂は、この人間の脳を奪った!!」』

 

「······」

 

『「天才だ······私は、人類史上最高の天才! 私こそが! この仮想空間の支配者となり、異世界である『地球』へと飛び出すにふさわしいッ!!」』

 

 

······どうして。

 

どうしてこうなるんだろう、とクラウドは思っていた。自分自身が存在している事実さえ、しばしの間気付いていなかった。

 

宝条の目的は、皮肉にもあの茅場晶彦と同じだった。

 

唯一の違いは、彼とは違って歪んだ欲望のために異世界を手に入れようとしているということ。奴の理論は凡人には到底理解できない、したくもない。

 

お星様からお星様へ飛び込んでひっつき、いつでも自由に動けるように虚空を移動することができるオカルト的な科学技術。相変わらずの歪んだ科学で世界を滅ぼそうとする宝条に、バスターソードが光る。

 

 

「宝条、アンタの声は聞き飽きた」

 

 

根拠もなくクラウドはそう呟いていた。

 

 

『「あん?」』

 

 

親友から受け継いだバスターソードを掴んだ両手を目一杯に上へと掲げ、まるで剣道の面を打つかのような仕草を取る。

 

 

「はあッ!!」

 

 

巨剣ががオベイロンの脳天に飛来する。

 

 

『「クックッ!!」』

 

 

それでも、オベイロンと宝条は笑みを崩さなかった。無謀にも、二人の研究者は唇の端を歪め、

 

ガードなど考えず、むしろ両手を下げてクラウドの一撃を受け入れようとしたところで、

 

ドバッ!! と。

 

直後に原因不明の衝撃がクラウドの上半身をくの字に折り曲げた。

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

そうして、キリトやユウキ、ティファにアスナの見ている目の前で、恐るべき一撃が放たれた。

 

感覚としては、巨大な触手の薙ぎ払い。

 

色は黒に紫に赤。グロテスク要素が詰まった不釣り合いな組み合わせの色合いの触手が、クラウドを吹き飛ばしたのだ。

 

 

「「「「クラウド!?」」」」

 

 

吹き飛ばされたクラウドの名を叫ぶ前に、目の前で変化が起きた。目の前にいたオベイロンに対して、かなりの警戒をしていたのに。

 

むしろ。

 

ぐちゃぐちゃという肉片的なものが混ざり合う音が響いてきた。破壊音とも咀嚼音とも取れない大音響。

 

 

「な!?」

 

「なに、あれ!?」

 

 

キリトとユウキが立ちすくむ。

 

クラウドは倒れながらも無視してオベイロンがいた方を睨み付ける。そちらから、何やらでっかい人影が現れる。

 

 

「あれは!?」

 

 

ティファはその姿を見た瞬間息を飲む。

 

体感的にスローモーションとなった世界の中で、オベイロンの体が何か得体のしれないものへと変貌するのを見た。

 

骸骨のような顔面と、タコの触手にも見える赤黒い腕が多数。得体のしれない先端技術に基づいた次世代兵器でも装備してるのか、と思ったキリト達だったが、クラウドとティファだけはそれを否定する。

 

 

「まさか······!?」

 

 

肉体の一部を改造し、『あの細胞』を埋め込んだ生々しいほど気色の悪い見た目をした存在。

 

 

『「経過は、良好だな」』

 

 

うっすらと。

 

骸骨のような顔のため本当に変わってるのか怪しかったオベイロンの顔色が、わずかに笑みの形を作る。

 

人間味も妖精味も薄れた笑みを。

 

 

『「今度は、期待を裏切らんでくれよ?」』

 

 

自分に言い聞かせるようにする宝条だけは半透明のまま浮いていた。変質したのはオベイロンの体だけだ。

 

でかくなった体質に、変化した見た目。

 

 

「またあれか······!?」

 

 

『ジェノバプロジェクト』、というプロジェクト名が存在する。星に衝突し、そのエネルギーを食らうことを繰り返す宇宙生物。自分を倒せるほど強力な生物がいた場合、適度に分離しつつ、それに怪しまれない姿に化け、油断させたところでウィルスを植え付けて滅ぼす。

 

モンスターというよりかは、エイリアンのような見た目。

 

宝条が半生を捧げている存在とまで言われたものが、再びクラウド達の前に現れる。おそらくあれはデータの塊。本体ではない。データを元に再現されたものだ。

 

記憶の中で、ざっと思い浮かぶものは······

 

 

『「科学者としての欲望に負けて思考を喰われたあの時と違って、アバターとして再構築して操作の所有権を手に入れたこの【ジェノバ】の結果を、見せてやろう!!」』

 

 

宝条の叫びと同時に。

 

全ての空間を別の景色へと歪めるような、『ジェノバBeat』の猛攻が襲いかかる。

 

 

 

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