ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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GGO編 
第1章


 

 

 

『演習ナンバー二十七、開始します』

 

 

録音された女性のアナウンスと共に、五つの的が動く。

 

 

「······フン」

 

 

ボサボサの黒髪で赤いマントに身を包んだ男はリボルバー型の拳銃を構え、人の影がプリントされた的に正確に撃ち込んでいく。

 

広い射撃演習場空間に銃声が連続する。ただでさえ大きな音はより一層圧力を増して鼓膜へ跳ね返ってくる。

 

急所を外さず、見事な射撃を見せた男性は射撃演習場のテーブルに銃を置き、振り返らずに言う。

 

 

「今度は何の用だリーブ」

 

「やはり、気配でわかりますか」

 

 

すると、わざとらしい足音が一つ後ろから響いてきた。高級革靴を履いて一流サラリーマンが着てそうなスーツを着込んでいる。

 

リーブ・トゥエスティ。

 

神羅カンパニー、ミッドガル都市開発部門元総括。優れたエンジニアでもあり、ミッドガルの魔晄炉の設計なども手がけていた人物。

 

現在は、『世界再生機構』こと通称『WRO』の局長として活動しているかなりの大物。

 

そんな大物が何故ここにいるのか、彼はふっと微笑んで、

 

 

「相変わらず、射撃が上手いですね。さすがは元タークスなだけありますね」

 

「用件を早く言え。お世辞とかそういったものは必要ない」

 

 

その言葉を聞いて、リーブはやれやれと首を振って一拍おくと、

 

 

「解析結果が出ました。以前貴方に回収して貰ったUSBドライブの中身が何なのか判明したので報告に来ました」

 

「······」

 

「貴方の言う通り、確かに神羅が極秘計画のため使う予定だった『仮想空間』でした。超人兵士、つまりはソルジャーとなるものを生み出すための演習場のようです。結局使われなかったようですけどね」

 

「······そうか」

 

「······なんだか、興味がなさそうな反応ですね」

 

「用件はそれだけか?」

 

「いえ、本題はここからです」

 

 

リーブはコホンと一回咳をすると、

 

 

「解析した結果、その仮想空間の名は『ガンゲイル・オンライン』。通称『GGO』と呼ばれる別世界に存在する仮想空間であることがわかりました」

 

「そうか」

 

「貴方にはその仮想空間に入って調査して貰いたいのです」

 

「断る」

 

「······言うと思いました」

 

 

しかしリーブは諦めず、首を横に振って切り替える。

 

 

「貴方の方が詳しいかもしれませんが、その世界を作ったのはグリモア博士です」

 

「!」

 

 

いつも無表情だったヴィンセントの顔色が急に変わり、冷静ではいるものの目を鋭くしている。

 

 

「貴方にはまだ知らされていないかもしれませんが、数ヶ月前に神羅が開発したネットワークに未知の空間が発生したので、その調査のためにクラウドさんが赴きました。そこで判明したのが、我々とは異なる世界で開発された仮想空間のゲームが何の因果かこちらのネットワークに紛れ込み、ネットに障害が発生していました」

 

「······」

 

「旧式のネットワークを使っていたので、そのネット環境には魔晄が使用されており、そこにあの『セフィロス』の残留思念が紛れ込んでいたという事実も発覚しました」

 

「!?」

 

 

その言葉に、ヴィンセントの顔が強張る。リーブは何気ない感じの柔らかい口調で言うが、彼はどこか冷静ではない。

 

実のところ彼もその事実を聞かされて驚愕していた。まさかあのセフィロスの残留思念がこのような形で復活するとは思っても見なかったからだ。

 

改めてヴィンセントが後ろを振り向くと、リーブは続けた。

 

 

「そして、今回その事件を担当していたチャドリーから依頼が入りました」

 

「······」

 

「現在、セフィロスの残留思念は未だに健在であり、ネットワークを通じて仮想空間に留まりつつあります。彼を完全に消し去るまでは安心できません。それで今回は、貴方が新しく発見した仮想空間にセフィロスがいないかを調査して欲しいのです」

 

「ふっ·····」

 

 

ヴィンセントはそれを聞いて思わず鼻で笑った。

 

 

「何故私に頼る? 散々クラウドに調査させておいて、急に私に変更したのか?」

 

 

彼の赤い瞳が楽しそうに細くなって、そして睨むように鋭くしてリーブを見つめる。

 

しかし、リーブは見抜いていた。

 

厳しい目付きを向けられたというのに、彼はサラリとしていた。口元にはゆったりとした笑みがある。

 

 

「······しかし、貴方のその様子では既に引き受ける気のように見えますが? やはり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「······」

 

「それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!」

 

 

いきなりな言葉に、ヴィンセントは眉をひそめた。

 

リーブは姿勢を正して言う。

 

 

「セフィロスという強大な相手が関わっているかもしれないのに、貴方だけに頼むのは少し心許ないので」

 

「······つまり」

 

「はい、もちろん“彼”にも頼んでいます······凄い額を要求されましたけどね」

 

 

そこまできて、ようやくリーブは表情を暗くした。

 

大層な額を要求されたんだろう。

 

 

「既にグリモア博士が開発したと見られるマップデータへ移動するための準備は整えております。そして、貴方への報酬も既にご用意しております。今すぐ行けますか?」

 

「······」

 

 

射撃演習場のテーブルに置いた自慢の拳銃をズボンのベルトに挟むとこちらに目をやって、

 

 

「私を動かすために、それだけのために“親父”名を出すとは······回りくどいにもほどがあるな」

 

 

ヴィンセント・ヴァレンタインは、別にご高名な人物ではない。

 

なのに、わざわざ彼にまで頼むほど追い詰められている状況でもあるようだ。まだそこにセフィロスがいる可能性があるかどうかさえも確かめていないというのに。

 

彼は呆れたように首を振る。

 

 

「説明は後にしてくれ、時間が勿体ない」

 

 

ヴィンセントはそう言った。

 

リーブはその言葉に頷く。

 

 

「では、我々が手配した施設へと向かいます。そこに仮想空間へと入るための機器を用意しています。まだ二台しかないと言われている『アミュスフィア』を、チャドリーさんの力を使って今回特別に作っていただきました。それで調査に向かってもらいます」

 

「······フン」

 

 

ヴィンセントはリーブの後に続いて射撃演習場の外に出ながら、興味なさそうに鼻で笑った。

 

射撃演習場には、感覚を取り戻すために無数に撃った薬莢だけが取り残される。

 

また彼は、人のために銃を握る。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

仕事の関係上、仮想空間へログインしない日々が続いていた。宅配という仕事柄、遠くへ行っては届けてを繰り返すため、不定期でしかログイン出来ないのだ。

 

キリト達とも、しばらく合ってない。

 

たまにログインしては合ってはいるが、一ヶ月ほどの期間を空けてしまった。別世界であるため電話やメールでの連絡手段も取れず、今回はログイン出来ないなどと伝えられないのは少々申し訳ない気もする。

 

しかし仕方ない。

 

こっちも仕事があるのだから、そっちを優先しなければ食っていけないのだ。

 

と、そんな日々で。

 

彼らの拠点でもあるセブンスヘブンの電話がプルルルと着信音を発した。

 

ちょうど仕事から帰ってきていた彼は、皿洗いをしているティファの代わりに受話器を掴む。

 

電話の相手はチャドリーからだった。

 

また厄介事かと思ったら、案の定そうだった。

 

まぁ、やむにやまれぬ事情があるのか、多額の報酬を用意するからどうかお願いしますと言われたのでついまた引き受けてしまった。

 

一先ず手短に頼むと言ったら、依頼内容はまた仮想空間の調査。

 

新しい仮想空間への座標が見つかったから向かってくれと、そのマップデータを既に彼の持つアミュスフィアに送りつけた後、チャドリーはこう言い残した。

 

 

『あちら側の世界の協力者がその世界で待っています』

 

 

とだけ言って電話が切れた。

 

確かに手短に頼むとは言ったが、もっと具体的に言って欲しかった。

 

なんだか便利屋として使われている気分だが、実際今も裏メニューとして何でも屋をしているから仕方ない。そういう事情もあり、報酬を払われた身として、クラウド・ストライフの何でも屋としての仕事が決定した。

 

なんでこんなことになってるのかなぁ、という疑問を今更抱きつつ、クラウドは自室へと戻ってアミュスフィアをネットに接続し、チャドリーから送られてきたマップデータをダウンロードし終えると、頭に被って電源を入れた。

 

目を閉じ、コマンドを唱える。

 

 

「リンク・スタート」

 

 

瞬間、奥から虹色のリングが大量に押し寄せてきて、見慣れた白い放射光が視界を塗り潰した。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

気付いたら荒廃した世界が広がっていた。鋼の世界の上へと足を踏み込んでいたのだ。

 

 

「·······ちょっと今回は色々と展開が省略すぎてないか······」

 

 

何だか妙に重たい頭を振って起き上がると、カサリとした感触が。手元にいつの間にか小さなメモが握られている。

 

それによると、

 

 

『クラウドさんへ、既に協力者にはクラウドさんのお名前を伝えております。アバターはランダムで生成されると思いますが、ほとんど現実の姿と変わらないと思いますので、金髪のツンツン頭が特徴の男性がクラウドさんだと伝えておきました。故に、相手はすぐにクラウドさんだとわかると思われます。それでは調査の方をよろしくお願い致します』

 

「······」

 

 

あの小僧。

 

やはり今回は明らかに省略しすぎてる。いっそのこと報酬は既に貰ったし、このままログアウトしてしまおうかとも思ったが、一度引き受けた以上引き下がるわけにはいかない。

 

何でも屋としてのプライドがあるのだ。

 

彼は自らの両手を握りしめ、アバターに意識が移ったことを確認すると、次に自分の姿を確める。コンバート機能によって、彼のステータスはALOほどの強さが引き継がれているはずだが、アバターはランダムでまた生成されるということを知っていた。

 

よって、自分の姿を確認するために、何か自分の姿を確認するための鏡的な物はないか探す。

 

周囲を見渡し、ちょうど近くにドーム外壁を飾るミラーガラスがあったのでそこへ歩み寄って行こうとすると、

 

 

「あ! あの!!」

 

 

歩みかけたクラウドの足が、途中で止まった。

 

彼の近くに、小さな人影が現れたからだ。

 

桃色のサイドテールに碧眼の少女。

 

黒のインナーの上に、全体的に桃色のジャケットを纏っていて、肩周りやミニスカートの一部が白くなっている。

 

 

「······アンタは?」

 

 

桃色のサイドテールの少女の顔を見て、クラウドは思わず呟いた。

 

すると彼女はこう聞いてきた。

 

 

「えっと······聞いてた話だと男性って聞いてたんだけど、()()()()()()()()()?」

 

 

····························································································································································································································································································。

 

 

「·······は?」

 

 

いきなりの謎発言に、クラウドは思わず聞き返した。少女は首を傾げているが、こっちもそれに合わせて首を傾げてしまう。

 

······どうにも嫌な予感がする。

 

それはまるで、あの違法行為が認められて自由が許された街と言われた『ウォールマーケット』にある『コルネオの館』に侵入する時と同じような悪寒がした。

 

それは何故か。

 

少女の口から、『()()()()』という言葉が飛んできたからだ。

 

クラウドは恐る恐るといった感じで、ミラーガラスに反射する自分の姿を覗き込む。

 

そして、

 

 

「·······ッッッ!!!??」

 

 

愕然として目を見開いた。

 

ガラスに映っていたのは、まさに『あの時の姿』だった。

 

背丈やツンツン頭そのままだったが、何故か現実の自分よりも髪が長く、そして『三つ編み』に髪が結ばれていた。

 

それに、元々白かった肌の色が更に白く滑らかで、睫毛も長かった。

 

そう、その姿はまさしく。

 

 

あの時の『女装クラウド』そのものだった。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「······はあ」

 

 

数分後、何とか協力者と接触できた少女はちょっと重たい息を吐くと、今も顔を真っ青にしてベンチに座り込んでいるクラウドを見つめる。

 

指定された場所へと赴いたところ、何やら美麗な金髪のお姉さんがいたから声をかけたところ、自分の姿を確認した途端に膝をつき、ズゥーンという効果音が聞こえてきそうなくらいに落ち込んでしまった。

 

どうして落ち込んでいるのか聞いたところ、自分は男だと聞かされて驚愕した。

 

確かに、声は男の声色だった。女性にしては低すぎるし、違和感はあった。

 

服装はノースリーブのハイネックシャツと紫紺の服を身に纏っているから男性でも女性でも着こなせるような見た目だが、髪型が三つ編みだからか骨太なおなごにしか見えない。

 

そうして現在に至るわけだが、

 

 

「あ、あの······クラウド、さん?」

 

「······」

 

「き、気にすることないと、あの、思いますよ! 私でもびっくりするほどすっごくかわい────」

 

「ヤメテクレ」

 

「え······? で、でも─────」

 

「感想ハイラナイ、何モ言ウナ」

 

 

真っ白に燃え尽きたようにベンチに座っているが、表情はひどく真っ暗に落ち込んでいる。

 

あまりの事態に口をパクパクと開閉させてあたふたしている少女だったが、数分また経った後、クラウドは固く閉ざしていた口を開いた。

 

 

「······まだ名前を聞いてなかったな」

 

「え? あ、はい! 私はえっと───」

 

「敬語は必要ない。アンタの様子を見るとあまりその口調は慣れてないようだし、普段通りに話してくれて構わない」

 

「あれ? そう? じゃあ、そうさせてもらわね。ここでの私の名前は“クレハ”。今回のイベント大会の協力者よ!」

 

「? イベント?」

 

「あれ? 聞いてないの? 今この『ガンゲイル・オンライン』、通称『GGO』の世界では、『バレット・オブ・バレッツ』っていうバトルロワイヤル式の大会が開催されるから大盛り上がりなの。初心者のあんたと一緒に参加すればすっごいレアアイテムを報酬として渡されるからって、ネットに掲示されてたからすぐに応募したの」

 

「······」

 

 

十中八九その情報をネットに上げたのはチャドリーだろう。この子とは初対面だが、詐欺とかそういうのは考えなかったのだろうか。

 

それにしても、聞いていない情報がたくさんあった。

 

イベント大会に参加するなんて聞いていない。今回はこの世界の調査だったはずだ。なのに、何故かは知らないが勝手にエントリーする前提で話が進んでいる。

 

そのことに対して口を挟もうとしたクラウドはクレハという少女に話しかけようとする。

 

 

「待ってくれ、俺の目的は───」

 

「そういうわけで! 早速総督府にエントリーしに行くわよ! 三時で締め切っちゃうらしいから早く!!」

 

「お、おい!?」

 

 

有無を言わさず立ち上がらされて手を引っ張られるクラウド。クレハは『走りながら戦闘の基本とか説明するわね!』と言うだけで取り合ってくれない。

 

説明不足な中で進んでいく展開の中、クラウドは内心不安でいっぱいだった。

 

 

 

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