ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第5章

 

 

キリトたちがボスに挑もうとするちょっと前。

 

朝早くから何匹も湧いて出てくるモンスターをたった一人で片付けている男がいた。どんな形式で作られたかは知らないが、中は意外と綺麗に作られていた。最前線らしく完璧に人気がなく、怪物しかいない冷たい迷宮区の最深部に、そいつは立っていた。

 

 

「·········ここだな」

 

 

大扉を目にした瞬間、彼は何のためらいもなく開けて入って行く。

奥に向かって伸びる長方形の広場。左右の幅は二十メートル程の距離。暗闇が支配する部屋の中であったが、ぼっと音が鳴って粗雑な松明が連鎖的に奥へと明かりを灯していく。

 

 

その中に佇むデカイ影。巨大な玉座に座す化物。

 

 

ただ鮮烈に君臨する一人の剣士と、化物。

 

この馬鹿げた暴虐ゲームを終わらせるために立ち上がったクラウド、誰の侵入も許さないと手に持つデカイ武器を不気味に光らせて玉座から立ち上がる化物。

 

彼は握り潰すように、『バスターソード』に手を伸ばす。

 

そして、

 

 

「ッ!!」

 

ッ!!

 

 

二人の眼光が正面から衝突した。

 

それが戦闘開始の合図。

 

異界の剣士と、仮想空間の化物の戦いが、ここに幕を開けた。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

世界を揺るがすほどの音が仮想空間に響き渡る。

 

それは爆音や衝撃波なんかの領域ではない。その先を行くものだ。処理速度は追いつくかわからない。人間が稼働できる範囲をはるかに超えた動きに、世界を保つための処理は悲鳴を上げる。

 

衝撃波の余波は、仮想空間を揺るがす爆風となっている。

 

だが、さすがは世界中が認めた仮想世界だ。ちょっとやそっとでは世界は崩れない。一応演出のために、化物が振り下ろした得物が床を根刮ぎぶった斬った瞬間地面は膨れ上がり、アバターの足が攻撃のために力を込めて床を蹴った瞬間、威力を逃がしきれなかった床は悲惨な姿へと変貌する。

 

クラウドと第一層のボス。

 

0と1で埋め尽くされた空間、二人の得物の激突だけが、この部屋を支配していた。

 

 

「はぁぁぁぁぁああッ!!」

 

 

裂帛の気合いと共に放たれたのは、本当に予めプログラムされていた剣術だったんだろうか? 空間に放たれたのは鋭い三本の爪。翠玉に光る鉤爪は『イルファング・ザ・コボルド・ロード』に向かって行く。何人にも止めることはなく、うじゃうじゃと湧いてくる雑魚敵を蹴散らして最終目標であるボスへと向かって行く。

 

 

グオオオオオオッ!!

 

 

しかし、コボルド・ロードは巨大な斧で弾き返す。続けて、バックラーを構えながら残りの爪を防いだ。

 

クラウドは知る。こいつに組み込まれたAIはそこらの雑魚とは違うと。そう簡単には倒されないという意思の現れか。AIは人間の思考を超える速度で次の一手を考える。クラウドが次の剣術を繰り出そうとすればそれに対応し、斬撃を放てば即座に防御に変えていく。

 

両者の間では莫大な戦闘が繰り広げている中で、音速を超える肉弾戦の最中に“読み合い”という頭脳戦が並列して展開される。

 

『AI』VS『人間』が繰り広げる頭脳戦なんて聞いたことはないが、実際に今この場で繰り広げている。普通ならAIが勝ちそうな文章だが、それを凌駕する奴が今回の相手だ。

 

 

ガガガガギギギギギッ!!!

 

 

と、互いに武器をぶつけて火花を散らしながら行われる戦いは、一般的に見れば異様な戦い。本来であれば、こんな光景はあり得ない。絶対にプレイヤーは死んでしまうからだ。一人で攻略するように作られてはいないため、普通なら一人で挑んだ愚か者は開始数秒で死んでいただろう。

 

だが、クラウドは現実世界で本当に経験している。こういった化物なんて、何体も相手にしている。

 

 

彼がコボルド・ロードを凌駕する要素は『経験』というものだ。

 

 

普通なら味わうことのない化物退治。それを彼は経験しているということが、この世界ではチートとなる。彼は化物専門に戦ってきているため、どうすれば体力のペースを考えてこいつをうまく倒すかなんてことはすぐに思いつく。

 

しかも、この世界ではレベル上げというものがある。それを加えれば、実質彼は無敵に近い。大げさだと判断するものもいるだろう、だが実際彼の身体能力は現実世界よりも飛躍的に向上している。

 

何より彼は、『ソルジャー』としての力が備わっている。その時点で普通の人間とは違うのだ。アバターは平等な力でゲームを開始するなんて説明されても、彼の動きを見て同じことが言えるだろうか。『ソルジャー』という、極めて異様な力を見ても。

 

 

「ふッ!!」

 

グオオオオオオッ!!

 

 

五メートル強もの鉄塊の斧を木の枝のように振り回すコボルド・ロードに、軽々と振り回していたバスターソードが激突する。

 

何回ぶつかっても、両者の武器は怯まない。爆音を何回も響かせ、幾度も両者の武器がどちらが強いかと張り合うようにぶつかり合う。

 

と、その時だった。

 

 

ガキンッ!! という切断音が響く。

 

 

死闘を繰り広げる中で、いつどちらかの武器が壊れてもおかしくない中、ついにその瞬間はやってきた。

 

この世界にも、武器の耐久値というものがある。何回も使い続ければ、もちろん刃こぼれだって再現される。それだけこの世界を現実に近づけたかったんだろう。

 

そして、壊れたのはアバターの持つ武器ではない。

 

ボスの持つ、プレイヤーには扱えないモンスター専用の武器だった。

 

 

ッ!?

 

 

コボルド・ロードは驚いたような表情を見せる。

プログラムされていたとはいえ、ここまで細かく表現されると流石にこちらだって思わず目を見開いてしまう。

 

すると、コボルド・ロードは壊れた武器を捨てて、捨てられた武器はガラス片になって世界から消え去った。

 

そして、腰にあった武器へと手を伸ばす。鍛えられ、研ぎ澄まされた『刀』。アルゴから聞いていた情報と違うが、何の問題もない。むしろ、別のところに問題があった。あの刀を見るだけで思い出す、思い出の奥底に封じ込めていた嫌な奴の姿が。

 

その姿を思い出して、クラウドは思わず奥歯を噛みしめる。嫌がらせにも思えたその武器に、クラウドはムカついたように目を細める。

 

 

と、動きがあった。

 

 

コボルド・ロードが武器に光を纏わせていた。纏わせてるんじゃない、溜めているのか。

 

 

それだけでもわかる、これからくるのは最大の一撃だと。

 

 

次の瞬間には、予想通りの一撃がやってきた。

 

 

床を揺るがせるほどに一歩足を踏み出して、横殴りに放たれた斬撃は水平な線を描いてクラウドに迫ってくる。だが、彼にとってはそれは普通の攻撃に等しい。連撃速度をあげて放たれる斬撃にクラウドは、バスターソードで弾き飛ばし、時には受け流し、あるいは首を振って避けて凌いでいる。

 

 

「··················」

 

 

この程度かと、つまらなそうに目を細める。

 

この程度の攻撃、“あいつ”に比べたら全然遅い。単なるプレイヤーなら致命傷だろうが、彼にはただの重い一撃にしかならない。当たらなければどうということもないし、弾き返せば普通に対処できる。

 

バスターソードの耐久値も大概だが、彼のそもそもの身体能力がこの世界では異常な異質物。

 

だがもういい、これ以上は付き合う義理はない。

 

さっさと終わらせるために、クラウドはミシィッ!! とバスターソードの柄を握る手に力を込め、コボルド・ロードに向かって走り出した。

 

コボルド・ロードにたどり着く前に、雑魚が飛んできたが、クラウドはそれら全てを斬り倒していった。

 

 

「················三秒後を悔いろ」

 

 

と、クラウドは宣言する。

 

その瞬間、クラウドのバスターソードに鮮やかな赤のライトエフェクトが宿った。

 

クラウドはそんなことは気にせず、一度剣先をコボルド・ロードの方へ構え、ズォ!! と勢いよく迫る。たかが十メートルほどの距離など、彼にとっては目と鼻の先。彼にとってこの戦いは、よくあるゲームのまさに最初のボス程度の敵。普通ならそれ以上になるはずだが、彼からすればチュートリアルの敵。

 

合図は先ほどの宣言。どんな高性能なAIの目で見ても霞む速度で、コボルド・ロードの懐へ潜り込んで横薙ぎの一閃が襲いかかる。なんの前触れもないように思ったコボルド・ロードの脇腹に傷が入り、肉を裂いて衝撃を逃した時には、すでに真上から次の一撃を決める。

 

続けて放たれた三撃目が、ドバッ!! という爆音とともにコボルド・ロードの胴体を通過し、ボス部屋の床ごと容赦無く粉砕した。

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!

 

 

 

 

グルルルルルルルルルルルルァアアアアアッッッ!!???

 

 

 

 

 

世界そのものが不安定に揺れる。

直撃したその衝撃で粉塵が舞い上がり、一刀両断されたコボルド・ロードはジジジと体を何重にもブレて震えている。

 

巨体は悲鳴にも似た咆哮をあげ、その巨体は不意に力を失い、後方へとよろめく。壊れていく仮想体の中でまだかろうじて形を保っているコボルド・ロードの前に立っているクラウドはバスターソードを片手で持ち、肩で担ぎ上げると、コボルド・ロードが内側からパキッ!! と破片のようなものを噴き出した。

 

絶叫をひとしきり叫んだボスは天井を見上げ、虚空を眺めていた。逃れ得ぬ苦しみの中で、圧倒的な斬撃を喰らって形を保てなくなったのか、そのままコボルド・ロードは中心からはるかに膨大な爆発を引き起こし、データの残骸がガラス片となって四方八方へと飛び散った。

 

粉塵とガラス片が混じり合い、空中には[Congraturations!]という祝福のカーテンが降ろされる。

 

そのすぐ下で、ついさっきまでコボルド・ロードが立っていた場所には太く直線的な文字が浮かび上がっていた。

 

粉塵とガラス片が舞う中で発生したカーテンのすぐ下で揺らぐ巨大な文字。

 

その文字の正体は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

ボスの消滅を確認すると、クラウドはバスターソードを弄ぶようにくるくると回して背中に収める。何か目の前にモニターが表示されたが、クラウドは興味を示すことなくそのモニターは閉じられた。

 

『元ソルジャー』を自称していただけあって、化物を凌駕する資質を兼ね備えた怪物の一撃。

 

と、その時。

 

 

ふと、背中から複数の気配を感じ取った。

 

 

だが、彼は首だけを向けてそっちを確認する。

 

見えただけでも数十人。遅れてやってきたプレイヤーにクラウドは興味も示さずに歩いて行く。次のステージに進むためだ。

 

後ろから怒号にも似た叫びが聞こえてきたが、その声に構うこともなく進んで行く。なんかこちらに近づいてきている足音も聞こえてきたため、捕獲される前にクラウドはソルジャーとしての身体能力を使って次のステージに繋がる大扉の前へと跳躍する。

 

詳しいことも確かめようともせず、クラウドは複数のプレイヤーに背を向ける。

 

ここで足止めを食うわけにはいかないのだ。どうやって倒しただの、なんで一人で挑んだなどという質問の嵐を予想したクラウドは、そんな面倒事に巻き込まれる前に大扉を開けて次のステップへと誰よりも先に突き進む。

 

彼のやるべきことはただ一つ。

 

この馬鹿げたお遊びに巻き込んだ首謀者を引っ張り出し、王手のかかった盤をひっくり返して、このゲームを終わらせることのみ。

 

 

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