ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第6章

 

 

一回戦を終えたクラウドは、待機ドームに帰還していた。先程までの硝煙の香りは消え失せ、モニターから出る弾幕音だけが響く総督府。そこに青白いエフェクトと共に、彼のアバターが転移される。

 

 

「なんとか勝てたな」

 

 

予選会場へと戻ってきたクラウドは自然にクレハとヴィンセントの姿を探す。すると、遠くにヴィンセントがいるのを確認したので、報告がてら話しかけに近付こうとする。

 

と、

 

その行く手を風穴が無数に空いたマントを羽織ったプレイヤーに遮られた。訝しそうにクラウドが顔へと視線を移すと、不気味なマスクに光る赤い眼光がクラウドに突き刺さる。

 

 

「········何か用か?」

 

「······お前が·······()()()()()?」

 

「········は?」

 

 

反射的にそう声を漏らしてしまったが、謎の男は続ける。

 

 

「試合を、見た。剣を、使ったな」

 

「それがなんだ、別にルール違反じゃないはずだ」

 

「その金髪、あの、戦い方、SAOで使われていた剣技にそっくりだった。お前······()()()()()()()()()()()()·······()()()()、か?」

 

「!?」

 

 

途切れ途切れに喋るボロマントの男は、異様な殺気をクラウドに浴びせながら質問をする。『銀髪の男』という単語に反応したクラウドは頬を流れる汗を拭いながら、荒れそうになる呼吸を落ち着かせる。

 

 

(コイツ······()()()()()()()()()()()()()()!?)

 

 

その事実にたどり着いた。

瞬間、鼓動が一気に早くなり視界が微かに歪み始める。

 

幽霊のように現れた男に警戒するクラウドは、何故セフィロスのことを知っているのか質問しようとする。

 

前に、

 

男が先に話し出す。

 

 

「お前が、クラウド、なのか? 俺達、笑う棺桶(ラフィン·コフィン)をたった一人で潰した······“あの銀髪の男”が探していた奴、なのか?」

 

「······」

 

 

名乗ることもなく、ただ灰色のマントのプレイヤーは質問を繰り返すだけでクラウドに一歩ずつ迫ってくる。

 

ドクロのようなフェイスマスクの瞳には仄かな赤が宿り、鋭い殺意を灯している。

 

だが、クラウドは引き下がらない。

 

目と鼻の先にまで近づかれても、息一つ乱さずに冷静にその視線を受け止める。ボイスチェンジャーでも使ってるのか、素の声を歪めて雑音混じりの不快な声を響かせる。

 

 

「お前が、いたせいで、俺達は壊滅した。クラウド、という奴を探していた、『銀髪の男』が、そいつの居所を聞き出すためだけに、俺達を根絶やしにした」

 

「······」

 

「もう一度、訊く。お前が、クラウド、なのか?」

 

 

その問いに、クラウドは素直に応じなかった。最初から最後まで冷静に。

 

ただ普通の声色で、こう答えた。

 

 

「クラウドなんて奴は知らない。お······私は、ライトニングだ」

 

 

女性声を利用してのハッタリだった。コイツと同様にボイスチェンジャーを使用していたおかげで、自分が男だとバレずに済んだ。

 

ドクロマスクの男はしばらくの間沈黙を貫いていたが、数秒後には無音のままするりと後ろを振り返り、クラウドに背を向けながら喋る。

 

 

「······まぁいい、お前が、クラウドでも、そうでなくても········殺す。必ず、殺す。俺には────」

 

 

本物の力があるのだから。

 

その言葉と共に、ぼろぼろのマントが揺れ、その中にある右手をクラウドは見た。

 

些細な動作にも敏感になっていたクラウドはその右手に視線を釘付ける。腕に巻かれた包帯の下、手首の部分に何かエンブレムのようなものが見えた。目を凝らして観察してみると、悪魔が不敵に笑っている刺青が彫られていた。

 

ドクロマスクのプレイヤーはそう言い残すと、クラウドから視線を逸らし、彼の横をゆっくりと通り過ぎていった。

 

 

(······あのエンブレムは、たしか·······)

 

 

先程見た手首のエンブレム。

それはSAOに存在したある集団の紋章であった。

 

殺人者集団、レッドギルド。

 

笑う棺桶(ラフィン·コフィン)と呼ばれる、名前の通り棺桶の中から笑っている骸をイメージしたその紋章はSAOにいた者なら誰もが知っている。

 

SAOではHPが全損すれば現実の肉体も機能を停止し、本当の死が訪れるシステムだった。正確にはナーヴギアから脳に高出力のマイクロウェーブを照射され、電子レンジと同じ容量で脳を焼き切るのだが、プレイヤー間では暗黙のルールとして何があってもHPの全損だけは避けようという区分率があった。

 

しかし、奴らはそれを己の欲望のために殺人を行ってきた。

 

人を殺す快楽。

 

それは当時の攻略組にも魔の手を伸ばし、全体の三割の被害者を出した。

 

自体を重く見た攻略組は討伐隊を編成し、笑う棺桶(ラフィン·コフィン)を捕縛する為にアジトに突入したのだが、その時にはすでに奴らは壊滅状態になっていた。

 

奴らが根城にしていた場所には人っ子一人おらず、すでにもぬけの殻だった。

 

一体何があったのか、一体誰が奴らを壊滅させたのか、全ての真相は闇へと葬られたが、今ようやくわかった。

 

 

(セフィロスが·······やったのか?)

 

 

さっきのアイツの言っていたことが本当ならば、セフィロスが笑う棺桶(ラフィン·コフィン)を壊滅させたのだと思われる。

 

奴は、敵味方関係なく斬り捨てるような奴だ。自分の目的のためならば、罪のない人だろうと殺す。

 

殺人者ギルドの奴らは死んでも文句は言えないような奴らばかりだったから壊滅しても誰も何も言わなかったが、今日その生き残りと思われる者に出会ってしまった。

 

クラウドは別に攻略組でも討伐隊にも参加してなかったので、当時のことは情報屋のアルゴから話を聞いた程度だ。

 

だが今日真実を知った。

 

それがわかったクラウドは急いでヴィンセントに情報共有をしようと彼のもとに急ぐが、

 

瞬間、視界は一気に暗くなり、気づけば予選第二回戦が行われるステージに転移されていた。

 

一分後、今度は遺跡フィールドに転移されたクラウドは吹き抜いていく風と夕陽の輝きに照らされながらその場に立ち尽くす。

 

瞬間、バン! と乾いた音と共に、頬に熱い感覚が伝わった。

 

HPバーに目をやると微かにだがダメージを負っている。ここでようやくクラウドは試合が始まった事に気付いた。

 

 

「ッ!!」

 

 

話をしに行こうとした直後にこれか。

 

クラウドは微妙に怒りを抱きながら、草陰からスコープ越しでクラウドを捉えているプレイヤーを睨む。

 

 

(話は後だ。まずはこの試合に勝つ!)

 

 

クラウドの持つ武器が唸りをあげた。ガチャガチャと音を立てて銃の形状を変形させたクラウドは、相手を倒すために剣を振るう。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

二回戦目。

生ぬるい風がヴィンセントの肌を撫でていく。

 

二回目の決闘の場は、どこかの廃墟。鼻孔には強い湿気の臭い。いや、潮の香りか。寄せては返すさざ波の音が廃墟の外にあるコンクリの岸壁に激しく当たり砕けていく。

 

夕焼けが水面を焼け焦がすように照らしているが、今回の限界地点は廃墟の外だ。

 

決戦エリアはこの廃墟全体。

 

海の近くにでも建てられているのだろうが、外の様子を見る暇などない。

 

潮の臭いに混ざる硝煙の香り。

 

辺りの壁には弾痕がある。

 

そして。

 

この廃墟の目の前に、一人の少女が立っていた。

 

おそらく、二回戦目の相手だろう。ピンクを基調としたサイドテールと服。右手にはオートマチックの拳銃を握り締めている。

 

相手の名はクレハと言ったか。

 

ヴィンセントとクレハ。彼らはそれぞれ距離を取って対峙、自分達を見る。

 

 

「相手は貴方ね。さっきライトニングに話しかけてきてた」

 

「······」

 

「もしかして、現実での知り合いだったりする? たとえそうだったとしても、手加減はしないから」

 

 

緊張してるのか、それとも武者震いなのか、体を少し震わせているクレハは拳銃を握る手に更に力を込め、息を呑む。

 

対してヴィンセントは慣れた様子で拳銃を取り出し、冷たい眼光を浴びせる。

 

 

「ヴィンセントだ·····よろしく頼む」

 

 

低い声でそれだけを言うと、廃墟を覆っている空気が下がり、敵意が充満する。ヴィンセントは腰を落とし、正面を見据えたまま戦闘開始の合図を待つ。

 

ビリビリと肌が粟立つのを感じながら、クレハは瞳に闘気を宿す。

 

そして、

 

戦闘開始の合図が廃墟内に鳴り響く。

 

 

「行くわよ!!」

 

 

その言葉を合図に真正面から銃弾を放つ。

 

反射的に横に跳躍すると、後ろの壁に彼女の放った銃弾が埋め込まれる。

 

 

「逃がさない!!」

 

 

彼女は避けたヴィンセントを追いかけるように続けて銃を構えて発砲する。ヴィンセントは風が吹き抜けるように素早く動き、廃墟を支える柱を盾にして彼女の攻撃を防いでいく。

 

長期戦は不利だ。

 

ヴィンセントはまだ仮想世界での戦いは慣れていない。一回戦の戦いは上手く勝てたが、次も勝てるとは限らない。

 

よって、短期決戦で終わらせるために、ヴィンセントはクレハに一撃で仕留めるために地を蹴り一気に距離を詰める。

 

 

(来る!)

 

 

クレハは拳銃を構え、迫ってくるヴィンセントに合わせる。

 

バン!

 

バン!

 

と、同時に至近距離で放たれる弾丸。撃ち合わされたヴィンセントの弾丸とクレハの弾丸がぶつかり合う。

 

二人とも良い感覚を持っている。

 

相殺された二人の弾丸はぶつかり合って先端から潰れあい、その衝撃で生まれた火花が目に入りそうになり、思わずクレハは目を瞑る。

 

その後、ヴィンセントはクレハの前から姿を消した。

 

 

「!?」

 

 

見た光景が信じられなかった。

ヴィンセントは自身特有の特殊能力、高速軌道で縦横無尽に飛び回りクレハを幻惑する。

 

 

「ッ!!」

 

 

赤マントのみ姿を確認できたため、クレハは目で追いかけて発砲するが、ヴィンセントの体には一つも当たらない。

 

ヴィンセントはデタラメに飛び回っているわけではない。床を蹴り、壁を跳ね回る度にクレハのテリトリーを縮めて確実に精神を追い込んでいく。当たらない、その事実と縦横無尽に駆け回るヴィンセントのその身体能力に翻弄されすぎて勝てないという思考を持たせようとしているのだ。

 

 

(マズイッ!!)

 

 

表情に出た瞬間、ヴィンセントは機は熟したと感じたのか素早い動きで縦横上下と飛び回り、

 

そして。

 

ガギリ!

 

と、後頭部を押さえつけられる。

 

後頭部の頭蓋骨に響く鉄の感触。背後を取られたクレハは後頭部に銃口を当てられ、あと少しヴィンセントが引き金を引けば彼女の頭に風穴が開くことになる。

 

ヴィンセントにその気があれば、それで勝敗を決することが出来ただろう。

 

だが、ヴィンセントにその気はなく、ただ一言こう言った。

 

 

「振り向いたら撃つ」

 

 

親指で撃鉄を引いてセーフティーコックを解除したヴィンセントは冷酷に、そしてゆっくりと言う。

 

 

「降参しろ、もうお前に勝ち目はない」

 

「······ッ!!」

 

「私は女を撃つ趣味はない。降参してくれた方が手っ取り早くて助かる」

 

 

ヴィンセントはいつでも撃てるように引き金に指を固定しており、彼が人差し指を少しでも動かそうものなら、即座に勝者はヴィンセントのものとなるだろう。

 

クレハは、両目を見開いたまま彫像と化している。否、彼女は目を閉じることも許されなかった。動かすことが許されているのは口のみ。

 

ただ一言、降参と呟けばいい。

 

彼が彼女を撃たない理由。そんなの、彼の性格から想像できるだろう。

 

勝ち目はない、と悟ったクレハは唇を強く噛み締め、両手をゆっくりと上に上げて拳銃を落とし、震えた声で『降参(リザイン)する』と呟いた。

 

その圧倒的な姿を見せられたクレハは、ヴィンセントの使って見せた技の数々に思いを馳せる。クレハは、自分とヴィンセントとの間に横たわる断絶の深さと暗さに思いを致さずにはいられなかった。

 

クレハは純粋なプレイヤーだった。

 

だから銃の扱いもゲーマー並みで、そこらのプレイヤーよりは上だと思っていた。

 

しかし、元汚れ仕事を請け負っていたヴィンセントはここにいるプレイヤーの誰よりも人の殺し方を知っている。

 

クレハは、この男が一体どんなプレイヤーなのか想像するだけで胸が苦しくなった。

 

相手はただのプレイヤーじゃない。本当に、本物の銃を握ったことがあるプレイヤーだ。

 

レベルの違いを思い知ったクレハは、自信を叩き折られ、床に両手を突いたまま立ち上がることが出来なかった。

 

そんなクレハの背中を見たヴィンセントは一言、こう言った。勝つために死地へと赴いたその勇気を認めるかのように。

 

 

「生き残ってこそ、意味がある」

 

「······え?」

 

「今回のことで、様々なことを学べたはずだ······それを次に活かせ」

 

 

詳しい表情を確かめもせず、ヴィンセントは背を向ける。

 

彼は最後に、もう一度言った。

 

 

「励むことだ·······お前はもっと強くなれる」

 

 

試合時間、三分十七秒。

予選二回戦目はヴィンセントの勝利で幕を閉じた。

 

待機ドームでは、二人のその戦いの様子を見ていて歓声の声が鳴り響く。ぱち、という音がして当たり周辺を見渡すと、ギャラリーの一人が二人の健闘に手を叩いている。

 

拍手はやがて一人、二人とどんどん増えていき、圧倒的な差を見せつけられて自信を失ったものでさえ、最後は根負けしたように手を叩く。

 

音はみるみる膨れ上がっていき、歓声の声が上がって待機ドームを押し包むほどの万雷の拍手になって、いつ果てることなく続いた。

 

 

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