ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

56 / 76
第9章

 

 

随分久しぶりの感触だと、素直に思った。

 

ショートヘアー、クラウドのソルジャー・クラス1stの靴底が仮想空間のアスファルトの感触を確かに得る。地に足をつけ、現実を踏み締める本当の本当に、久方ぶりに思えた。

 

 

「······え?」

 

 

クラウドは意図せぬままに小さな声を発していた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()

 

髪も長く、童顔で、声色も意識すれば女性らしくなるだろう。一目見ただけではキリトだと判別できないが、顔立ちがキリトそっくりだったし、その本人も自らの名を『キリコ』と名乗った。

 

これはあれだろうか。キリトと同じように自分もクラウドだとバレたら·····と思うと思わずキリトとその隣にいる少女に思わず気圧され、つい一歩下がってしまう。

 

そんなクラウドを見てか、端から見ていたヴィンセントがやれやれというため息が聞こえてくる。

 

 

「まだ顔も合わせて間もないのにそこまで緊張することではないだろう」

 

「わ、わかってる」

 

 

しかし、どうも不安が拭えない。もしかしたら男だとバレる以前にクラウドだとバレたら一生キリトにネタにされる。

 

それだけは絶対に避けなければならない。クラウドはなんとしてでもクラウド本人だと気付かれないように慎重になりながら会話をすることに決めた。

 

クラウドは大きく深呼吸してから頬を張り、彼らの前へと一歩踏み出す。

 

するとキリコが、

 

 

「······あれ?」

 

 

驚いた様子で目を見開き、キリコがクラウドを観察するように全身を睨めつけてくる。もしかしたら男だとバレたのかもしれない。もしくはクラウドだとバレたのかもしれない。

 

緊張感がクラウドの心臓を締め付けた。

 

 

「なあ、アンタ。どこかで会ったことある?」

 

「え!? いやおr·····」

 

 

と、ここでハッと口に手を当ててゴホンコホンと咳をして喉の調子を確かめてから話し出す。

 

 

「イイヤ、タブン人違イジャナイカ。私ハ貴女ト会ッタコトハナイカラ」

 

「ふ~ん、そっか。悪いないきなりこんなこと聞いて」

 

 

頬をかいて笑顔を見せるキリコ。その笑顔は誰よりも女らしく、可憐な乙女な表情をしている。それを見て、クラウドはドン引きする。完全に女の子になりきっているキリコに対して、呆れたように目を細めてしまう。

 

だがそんなことはどうでもいい。

 

今気にすべきなのはセフィロスの情報だ。そのセフィロスのことを知っているプレイヤーがこの大会に参加している可能性があるのだ。

 

だからこのゲームに一番詳しい奴に、このゲームの大会の常連さんに、本戦に何度も出場している選手の確認をしようとここまできたわけである。

 

よって、ヴィンセントの紹介で知り合いに会わせてもらったのだが。

 

 

「·····なんでキリトがここに?」

 

「? 何か言ったか?」

 

「いや、何も」

 

 

小声でボソッと呟いたクラウドはそっぽを向く。出来るだけ顔を見られないように意識しているのだ。顔の輪郭がクラウドと重なってしまった場合、クラウドが女装して大会に出場しているなんていう話が出回ったらアスナ達にも笑われる。

 

そんな時、ヴィンセントがキリト達の前に出てきて左手で手を振り、メニューウィンドウを呼び出すと、運営がBoB本選出場者に送られてきたメールの中の、選手三十名の名前を表示させる。

 

ヴィンセントが示したメインメニューウィンドウの中には予選Fブロック一位通過者の『キリト』と、二位通過者の『シノン』の名前も見える。

 

それを見たシノンは眉間に皺を寄せ睨み付けるようにヴィンセントに言う。

 

 

「·······何よ、昨日の予選決勝について傷ごとえぐろうって訳?」

 

「違う」

 

 

尖った囁き声を受けてもヴィンセントは一切動じず、真剣な眼差しでシノンとキリトの目を見る。

 

 

「お前達に聞きたいことがある」

 

 

ヴィンセントの態度に何かを察したのか、シノンとキリトは黙り込んでしまう。

 

そしてヴィンセントは続ける。

 

 

「······ここに載っている三十人の中で、知らない名前はいくつある?」

 

「······はぁ?」

 

 

思いきり怪訝な顔をするシノンであったが、ヴィンセントは冷たい息を吐くようにして訊ねる。

 

 

「重要なことなんだ教えてくれ」

 

「なんでそんなこと聞くの?」

 

 

シノンがそう聞くと、ヴィンセントは感情の籠ってない声で話し出す。

 

 

「自称、死銃(デス・ガン)という名を名乗っているプレイヤー探していてな。そいつに用がある」

 

「「!?」」

 

 

二人は目を見開いた。

GGOを長くやっている人からすればその名は有名なプレイヤー名だ。

 

シノンはヴィンセントに近づいて胸倉を掴んで叫ぶ。

 

 

「ちょっとどういうこと!? あの殺人者を探しているなんて、いきなりすぎて意味がわからないんだけど!?」

 

「今は説明している暇はない。頼む、教えてくれ。重要なことなんだ」

 

「ッ!!」

 

 

自分の感情に任せてつい胸倉を掴んでしまった手を離したシノンは小さな声でわかった、と呟いた。

 

シノンはヴィンセントが表示したトーナメント表へと眼を落とす。

 

藍色の瞳が素早く左右に往復する。

 

 

「意味がよくわからないけど······えっと······BoBも三回目だから、ほとんどの人は顔見知りかな。全く初めてっていうのは······どっかのムカつく光剣使いと赤マントとそこにいる美女を除くと三人だけ」

 

「その三人は?」

 

「んっと······『銃士X』と『ペイルライダー』、それに······これは『スティーブン』かな」

 

 

シノンがぎこちなく読み上げた名前をヴィンセントとクラウドは自分達の眼でも確認した。銃士Xは日本語表記だったが、他二つはアルファベットだった。

 

“Palerider”と“Sterben“。

 

その名を見た二人は互いの眼を見て頷き、

 

 

「情報は得られたな」

 

「ああ、あとは本選を待つだけだ。助かったシノン。次は本選で会おう」

 

「なあおい! ちょっと待ってくれ!!」

 

 

と、急に黒髪女装少年君が会話に乱入してきた。二人の肩を掴み、強引にこちらに向けさせる。

 

 

「なんでアンタら死銃を追ってるんだ!? アイツはただのプレイヤーじゃない! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!? そんな奴に近づいたら······ッ!!」

 

 

そう焦るように早口で言うキリコに二人は沈黙する。

 

『本当に人を殺す力』

 

その言葉が引っかかって、一体どういうことなのかクラウドがキリトに訊ねる。

 

 

「どういうことだ?」

 

「ニュース見てないのか? 死銃(デス・ガン)に撃たれた奴は現実世界で本当に死ぬんんだ。“ゼクシード”と“薄塩たらこ”っていうトッププレイヤーがいたんだが、その死銃によって銃撃されたんだ」

 

「······銃撃されたそいつらは、どうなった?」

 

「死んだよ······二人とも」

 

「············」

 

 

それを聞いたクラウドは顎に手を当てて何かを考え始める。

死銃(デス・ガン)に撃たれた奴は現実世界で本当に死ぬ。そんなこと可能なのか。と、クラウドが頭を働かせたところでヴィンセントが会話に介入する。

 

 

「死因は?」

 

「え?」

 

「そいつらの死因はなんだ? まさか現実世界でも体に風穴が空いたわけではないだろう?」

 

「心不全だよ。司法解剖した結果、脳には出血や血栓といった異常は見つからなかったらしい」

 

「「············」」

 

 

そこまで聞いて、クラウドとヴィンセントは顔を合わせる。

そして互いに頷くとキリト達に背を向けて歩き出す。ヴィンセントは背を向けながら言う。

 

 

「情報助かった。これで死銃の跡を追える」

 

「ち、ちょっと待てよ!? 話聞いてたか!? 死ぬかもしれないんだぞ!? どうしてそこまで死銃にこだわるんだよ!?」

 

 

そう聞いたキリコにヴィンセント達は足を止める。そして静かに振り返り、無表情のまま話し出す。

 

 

「············セフィロス············」

 

「······え?」

 

「死銃には、セフィロスという男と何か深い関わりがあるかもしれないんだ。だからそいつを捕まえて、セフィロスのことについて聞かなきゃならない」

 

 

断片的な言葉を聞いただけで、キリコは全身が震えているのがわかった。

 

セフィロス。

 

かつて、SAO時代に戦った最強にして災厄な剣士。

 

 

「もういいか、本選が始まるまで武器の調整をしておきたいんだ」

 

 

それではな、とヴィンセントはそう言った。キリトから背を向ける。壁から離れようとする。仮想空間の科学的な常識に整えられた世界から、その領域の外側へと大きく踏み出そうとしていく。

 

 

「······わかった」

 

 

少年はそれだけを告げると、どういうわけか少年少女の二人はヴィンセント達の手を掴んだ。

 

キリトはクラウドに、シノンはヴィンセントに。

 

二人は離れようとする二人の腕を掴んで、事前に打ち合わせでもしてるのかのようにこう告げた。

 

 

「ただし」

 

 

ふらりと離れようとする男達の手を、確かに。動きを止めたヴィンセントとクラウドの耳にシノンとキリトの言葉が届けられる。

 

 

「俺達も参加する」

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「まさか······」

 

「そんな······ッ!!」

 

「信じられない······ッ!!」

 

 

薄くグリーンがかった金色のポニーテールを背中で揺らして言うリーファに、その隣に腰かけるリズベットとシリカが、画面上に映し出されているBoB本選を見て驚いている。

 

 

「変装のために別アカウントを使うって言ってたけど······」

 

 

彼の彼女、アスナは信じられないような眼で画面の向こうで活躍しているキリトを見つめる。しかし、未だに信じられない。あのキリトが女装して戦うなんて、本当に本人なのかすら怪しいところである。

 

信じられないようなものを見るアスナに、隣にいたユウキが声をかける。

 

 

「ほら、あの剣さばきはキリトだよ! 間違いないって!!」

 

「名前も《kiriko》だしなぁ」

 

 

エギルが顎に手を当てて首をかしげている。

 

 

「でもよ、なんで女の子の姿になっちゃったんだよ······っは! 元々かわいい顔をしてたのはまさかッ!!」

 

 

と、これは部屋の隅のバーカウンターに陣取ったクラインの台詞だ。そして、エギルがそれを否定する。

 

 

「待て落ち着け、恐らく男性のレアアバターだろう」

 

 

リーファ、シリカ、ユウキ、リズベットと並んで中央のソファに掛けていたアスナはそれを聞いて思わず苦笑した。

 

 

「知ってる人にはバレバレよね。さすがにちょっとビックリしたけど」

 

 

やや小声の付け足しに左肩に乗る掌サイズの小妖精、アスナとキリトの『娘』である人工知能のユイが薄膜のような羽をパタパタと羽ばたかせながら言った。

 

 

「安心してくださいママ! パパの戦闘力は外見が変わっても同じです!!」

 

 

その現実的な推論に、今度はユウキが笑う。

 

 

「あっははは! ねぇ! あの《kiriko》、スクリーンショット撮れないの!」

 

「OK! 記念にいっぱい撮っておこう!!」

 

 

リズベットがユウキが出した提案に乗りすぐさまスクリーンショットを撮る。

 

久しぶりに集まった八人と一匹だが、場所は現実世界ではない。皆でプレイしているVRMMO─RPG『アルヴヘイム・オンライン』の中だ。広大なワールドマップの中心にそびえる巨大な世界樹上のイグドラル・シティ。その一画にアスナがキリトと共同で借りている部屋が、今日の集まりの会場となっている。

 

南向きの壁は一面ガラス張りになっており、いつもならイグドラル・シティの壮麗な姿が眼下に一望出来る。

 

だがしかし、今日だけは都市の夜景を眺めることは出来ない。

 

このガラスはテレビスクリーンにもなっており、別世界の光景が映されているからだ。即ち、ネット放送局《MMOストリーム》が生中継している。GGOの最強者決定バトルロイヤル大会、そのライブ映像がガラススクリーンに映し出されている。

 

今回の集まりは予告なくこの大会に殴り込んだキリトの応援、あるいは糾弾。

 

なんであれ、この大会が終わったらキリトを速攻捕まえてあれこれ尋問しなくてはならない。

 

 

「あ、とか言っているうちにもうキリトさん勝っちゃいましたよ」

 

 

キリトが相手選手を一人倒した瞬間、画面が何故か切り替わった。リーファがその事について疑問に思っていると、ユイがその事について指摘する。

 

 

「あれ、場面が切り替わっちゃった」

 

「恐らく、フィールドのあちこちに中継カメラがあって、戦闘しているところだけを流しているんだと思います」

 

「なるほど······次の戦闘は、誰だろう? 知らないなあ」

 

 

金髪のノースリーブのハイネックシャツと紫紺の服を身に纏い、銃から剣に変わる不思議な武器を扱っていた女性に、赤いマントと長い黒髪が特徴な男性が背中合わせで戦っていた。

 

すると、遠くの方で二人を援護するかのようにスナイパーライフルで敵の攻撃の邪魔をしている。

 

 

「誰だろうこの人たち、見たことないな」

 

「《ライトニング》に《ヴィンセント》に《シノン》··········三人ともトッププレイヤーに引けを取らないほどの強さだわ」

 

 

ユウキとリズベットが三人の活躍を見て関心を持つ。

 

と、その時だった。

 

 

「あ、また変わった」

 

 

場面がまた切り替わったかと思ったら、一人の男の手から銃が滑り落ち、どさりと足元に転がった。

 

その男に近づいていくフードの男は十字を切るそぶりを見せた後、拳銃を向けた。

 

そして引き金に指をかけると、一発だけバンッ!!と撃つと、直後ホワイトノイズ的なエフェクトに包まれて消失したのだ。

 

それを確認し追えた後、まるでGGOとALOという世界の壁を······いや、仮想と現実の境界をも飛び越える生身の自分を照準されているかのような感覚に、背中がすっと冷たくなる。

 

フードの闇の奥で赤く光る両眼がチカチカと瞬いた。それと同期して機械的なぶつ切れの声が画面から流れ出した。

 

 

「俺と、この銃の、真の名は、《死銃》······《デス・ガン》」

 

 

生気を感じられないほどの無機質さの奥に黒い感情がアスナ達の心を覆う。

 

 

「俺は、いつか、貴様らの前にも、現れる。そして、この銃で、本物の死をもたらす。俺には、その、力がある」

 

 

誰に言っているのかわからない。だが何故だかその言葉は自分達に向けられている言葉なのだと感じてしまう、理由は何故か、殺意が画面の向こうからでも伝わってくるからだ。

 

 

「忘れるな。まだ、終わってない。何も、終わって、いない··············()()()()()()()()()()()!!」

 

 

その瞬間、バーカウンターのスツールに掛けるクラインの右手からクリスタルのタンブラーが滑り落ちた。

 

クラインはバンダナの下の両目を見開いて画面を見つめている。

 

 

「ちょっとクライン! なにやってるの!?」

 

 

リズベットがそう言うも、クラインの耳には届いていなかった。彼は低く嗄れた声で呟いた。

 

 

「う······嘘だろ·····あいつ·····まさか·····ッ!!」

 

 

それを聞いた途端に女性陣全員が立ち上がってクラインの方を向いていた。

 

 

「クライン知ってるの!? あいつが何者なのか!?」

 

「い、いや······昔の名前までは。でも······間違いねぇ、これだけは断言できる。野郎は·····《ラフコフ》のメンバーだ」

 

 

「「「!?」」」

 

 

ユウキとリーファ以外の女性陣がその名を聞いて、アスナは左手を口に当てて声を微かに漏らす。

 

激しく息を飲み、あのアインクラッドで数々の犯罪を繰り返してきた殺人ギルド《ラフィン・コフィン》の名は、記憶の奥底に染み付いているのだ。

 

しかし、ラフコフは壊滅したはずだ。だからあそこにいるのはおかしすぎる。

 

 

「ラフコフは確か何者かによって壊滅したはずだ。それなのに、なんで·······ッ!?」

 

「そんなことよりも、あそこにいるのはもしかして、あいつらのリーダーだった、あの包丁使いの·······?」

 

「いや·····《PoH》の奴じゃねぇ。野郎の喋りや態度とは全然違う。でも、さっきの『イッツ・ショウ・タイム』ってのはPoHの決め台詞だったんだ。たぶんだけど、野郎に近いかなり上の幹部プレイヤーだ」

 

 

呻くようにしてそう言ったクラインは再びスクリーンを見た。アスナや他の七人もつられるように眼を戻す。

 

尋常ではない空気が充満している。室内に満ちた重い沈黙を、リーファとユウキの小さな声が破った。

 

 

「ねぇアスナ、ラフコフってなに?」

 

「それにPoHっていったい誰のこと?」

 

「ええとね······」

 

 

アスナは簡潔に説明する。

SAOプレイヤーではなかったリーファにユウキはなんのことなのかわかっていない。だからアスナは、かの殺人ギルドの詳細を簡略に説明する。

 

それを聞き終えたリーファは、なにかを思い出したかのように拳を握り締めると、真剣な眼差しでまっすぐアスナを見て言った。

 

 

「アスナさん。お兄ちゃん、きっと知ってたんだと思います。GGOにさっきの人がいるってこと」

 

「えっ?」

 

「夕べ遅くに帰ってきてからなんだか様子がおかしかったんです。もしかしたら、昔の因縁に決着をつけるためにGGOに」

 

 

アスナは言葉も出なかった。愕然と立ち尽くすアスナの手をユウキがそっと握った。落ち着かせるように、不安を取り除かせるように。

 

するとアスナは大きく息を吸うと、ユウキに感謝をし、言った。

 

 

「ありがとうユウキ。私、一度落ちてキリトくんの依頼主と連絡取ってみる」

 

「え!? アスナ知ってるの!?」

 

「うん。本当はみんなも知ってる人なの。ここに呼び出して問い詰めるわ。絶対なにか知っているはず。だから────」

 

「ちょっと待ってください!! 見てくださいこれ!!」

 

 

そんな時、唐突にシリカの声が割り込んできた。慌てた様子で画面を見るようにみんなに指示する。

 

そこに映っていたのは、先程までライトニングとヴィンセントの援護をしていた少女が、片膝をつけている姿だった。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

デバフで麻痺だけではなく、それはトラウマからの衝撃があった。

 

“あの銃”が自分の前にある。

 

母親を守りたい一心で強盗に抵抗し、拳銃を奪う。無我夢中で引き金を引いた結果、三発の弾丸が強盗に命中し、死亡した。

 

シノン、本名“朝田詩乃“という十一歳の少女は本当に自分の手で人を撃ち殺したのだ。

 

未成年による明らかな正当防衛であったため、詩乃は罪に問われることはなかった。また、強盗の男は麻薬中毒だったらしくあのままではどれだけ犠牲者が出ていたかわからず、非常に危険だった。

 

しかし、どんな理由であれ、この事件は詩乃にとって消えることのないトラウマ(PTSD)となってしまった。

 

以降、詩乃は銃に関するものを見ると倒れたり嘔吐したりする極度のショック症状が起こるようになってしまった。PTSDのカウンセリング治療も受けたが、改善は見られなかった。

 

ひどい時だと、指で拳銃のポーズをしただけでも発作が起きてしまう。

 

それだけでシノンの心が恐怖で塗り潰れた。

 

動けない、動けない、動けない動けない動けない動けない動け─────

 

 

(このままじゃ······ッ!!)

 

 

横たわるシノンは、もう死銃がなにを言っているのか分からない。

 

そして走馬灯が頭を過っていた。

 

 

「た、すけ········て」

 

 

その瞬間、

 

 

「ああ」

 

 

ドンバン!! といくつもの銃声が周囲の音をかき消していく。

 

 

「ッ!?」

 

「······お前······は······」

 

「·······ヴィンセントだ。私の仲間が世話になったみたいだな」

 

 

シノンと死銃の間に入ったヴィンセントは、その真っ赤に燃えるような赤い瞳を死銃にぶつける。

 

 

「ヴィンセント·················幸運だけで、勝利者として、祭り上げられた、偽りの勝利者」

 

「お前がスティーブンか。そう言えば、お前はSAOで笑う棺桶(ラフィン・コフィン)とかいう殺人ギルドにいたんだったな」

 

「我が名は、死銃。()()()()()()()()()()

 

 

死銃は気にせず宣告し、彼らの周りにはカメラ撮影機が浮遊する。

 

無言。 

 

彼はいつも無表情。どんな時でも笑わず、物静かな性格で何事にも関心がない男。

 

 

「ふっ、愚かだな」

 

 

ではなく、ニヤッと口角をわずかにあげ、笑っていた。

 

 

「へ······?」

 

「!?」

 

 

それはモニタを見ているアスナ達たちも動揺する。

クールな彼に似合わないほど、悪意のこもった笑顔だったからだ。

 

 

「真の力、か·······なら、撃ってみろ。その銃で」

 

「なっ·········」

 

 

シノンは絶句した。ヴィンセントは銃をホルスターにしまい、無謀な姿で死銃の前に出た。

 

 

「なに、してるの········ッ!? だめ、ダメよヴィンセントッ!!」

 

 

まだ方法が分からない。殺される可能性は零では無いのに。その時、シノンの中で彼が殺される光景が生まれていく。

 

 

「撃ってみるがいい。お前に本当にその力があるのならな」

 

「·········愚劣な············」

 

 

死銃は十字を切るそぶりを見せた後、死へと誘う拳銃を向けた

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「な!? お、おいアイツ!? なに考えてるんだッ!?」

 

「何してやがる!? 相手は本物の殺人者、自殺行為だぞ!?」

 

 

それはモニタ越しに見る関係者全ての全身から血の気を失わせる。

 

だがヴィンセントは、口角を上げながら鼻で笑い小馬鹿にするかのように、人差し指一本を立ててくいくいっとかかって来いと挑発する。

 

 

「ダメ、ダメだよ!! そんなことしたら本当に死んじゃうよッ!!」

 

 

ユウキの叫びも届かず、死銃の指はトリガーにかけられる。

 

 

「ダメ·······」

 

 

アスナは血の気を引き、身体を抱きしめながら、

 

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「幸運を、己の力を思い、過信した、偽りの勝利者よ、我が名と、共に死ね!」

 

 

ドン!! という銃声が周囲を震わせた。

 

 

「あ、ああ·········ッ!」

 

 

シノンが悲鳴にならない悲鳴を上げた。

 

そしてしばらくして、

 

 

「·········ッ!」

 

 

彼は撃たれた箇所を抑えて膝をつき、モニタで見ていたアスナたちも悲鳴を上げた。

 

 

「愚かな、勝利者に、裁きは、下った」 

 

「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」

 

 

銃声が響き、しばらくして、荒野にシノンの悲鳴が響き渡った。

 

死銃はカメラにアピールするような動作をして、宣告する。

 

 

「これが死銃の、真の力だッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「·········()()()()()()()()()()()

 

 

と、瞬時に蹴り込むヴィンセントの一撃を、死銃は避けられなかった。

 

蹴り飛ばされた死銃自身、それが分からない。

 

 

「な········ッ!?」

 

「これがお前の言う真の力か。だが残念だったな、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

意味のわからない言葉を残すヴィンセント。

そしてヴィンセントはいつもと変わらないまま銃撃を放つ。その瞬間、死銃が姿を消す。

 

逃げた、と思うのが普通だが、

 

 

「後ろだな」

 

 

振り向かず、後ろからの剣撃を受け止める光景に、シノンの理解が追い付かない。

 

 

「真剣か····この世界にもあったのだな。そして、他人の背後に回る事しか出来ないアイテムか何か、か。透明になって死角から攻撃してくるなんて、手口が三流以下だな」

 

「!?」

 

    

その時、シノンが凍り付く。

 

片手の銃で剣を弾き、同じく剣を握る死銃は構えなおす。

 

殺気。

 

それが伝わってくるほど、彼の拳銃からは殺意が溢れ、死銃も怯み、後ろに飛ぶ。

 

今度こそとまた死銃が弾丸を放つが、それをあえて避けずにかすり傷を受けながら、こちらも銃撃を放つ。

 

それを剣で防ぐ死銃。

 

 

「なぜだ、なぜ··········死なない!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「くそッ」

 

 

俊敏度は高く、その場から一気に走り去り、バイクを途中で見つけてそれで走る。他のバイクは銃で破壊してを繰り返していると、キリトとクラウドに会った。

 

 

「キリコ、ライトニング」

 

「ヴィンセント! シノン!!」

 

 

キリトをすぐに拾い、まずは距離を稼ぐために、その場から離脱した·········

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。