ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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番外編2

 

 

とある日。

 

それはまだSAOに囚われていた時の話。

 

水車のごとんごとんという振動音が聞こえる鍛冶屋さんにて。

 

 

「もうやだ、アンタからの依頼は何も受けない」

 

「何故だ?」

 

 

クラウドは小さなカウンターに置かれている能力アップアクセサリーに手を置きながら、

 

 

「こうして代金は持ってきているだろ。そもそもここは武具店のはずだろ。代金も文句無しの料金を持ってきたのに、何故直してくれないんだ?」

 

「だって·······アンタさぁ」

 

 

この店の店主であり、檜皮色のウェイトレス姿に近い格好をしている女性、“リズベット”がスビシッ! とクラウドが持ってきたアクセサリーを指差す。

 

クラウドが持ってきた『星のペンダント』に『フェアリーリング』が粉々の状態であった。

 

 

「せっかくの能力値アップのアクセサリーをこうも簡単に何回も壊されるとさぁ、アンタ価値がわかってないようだから説明するけど、能力値アップのアクセサリー装備品って結構貴重なのよ!? 宝物でしか手に入らないものもあるのに、なんでこんなに壊してくんのよ!? っていうか、どうやったら指輪とペンダントが壊れんのよ!! モンスターがそこをたまたま攻撃したっていうの!? もっと大切に扱いなさいよッ!!」

 

「他にも『イヤリング』とか『守りの指輪』とかも直して欲しかったんだが·······」

 

「この子ったらもォォおおおおおおおおおおおおおおおおうッ!!」

 

 

リズベットは両手で頭を掻き毟ると猛牛のように叫んだ。

 

 

「はぁはぁ、とにかくうちではアクセサリー系統の装備品の修理はできないわ、他をあたってちょうだい」

 

「·······わかった」

 

 

クラウドはシュンと肩を落とすとそのまま出入口へとのらりくらりと歩いていく。

 

そんな彼の背中を見て、リズベットはこう提案する。

 

 

「待ってクラウド」

 

「·······?」

 

「私じゃアクセサリー系統の装備品の修理はできないけど、アクセサリーを作っている職人なら紹介できるわ。どうする? 尋ねてみる?」

 

「それを早く言ってくれ」

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

翌日。

 

クラウドはバスターソードを背負って安全圏内の街を歩いていた。今日は差し迫った依頼はない。

 

 

「暇だな」

 

 

およそ二十三歳とは思えない言葉を吐きながら、クラウドは大きく背伸びをした。

 

昼下がり、頭上は晴天、気温は寒くも暑くもなく心地がいい。今日はこのまま帰ってもいいとすら思っていた。街の商人や職人達はまだまだ額に汗をかきながら仕事を続けている。そんな中で依頼もなく仕事がない状態というのは中々に辛い。

 

 

「さて」

 

 

しかしクラウドには目的地があった。

 

リズベットに教わったアクセサリーやペンダントを専門に作っている職人さんがいるということで、クラウドは中央広場左手から、そいつがいる工房へ向かう。

 

周囲には石の床がむき出しになった作業場があり、客はカウンターで区切られた場所から親方の仕事ぶりを見学することができた。

 

今もプレイヤー達から買い取ったモンスターの素材を使って作った前掛けや手袋をつけ、親方とその弟子らしき人が誰かの大剣を鍛えている。

 

トンテンカン、トンテンカン。

 

カーン、カーン。

 

と、調子の良いリズムで剣を鍛え、鉱石だったものが徐々に大剣へと生まれ変わっていく。クラウドはその様子を見ていた。ただ何となく、鍛冶屋としての仕事を見ていると心地がよかった。

 

 

「よう、お客さんかい?」

 

 

親方の弟子が話しかけてくる。

 

炉のそばで作業してたからだろうか、顔が赤くなっている。

 

 

「ああ、客だ」

 

「了解、その剣を鍛えたいのかい?」

 

 

弟子は背中に背負っているバスターソードに指差すが、クラウドは首を横に振る。

 

 

「アクセサリー系統の装備品の修理をここで行っていると聞いたんだが」

 

「ああ、確かにやってるよ。けどそれは俺たちじゃない」

 

「?」

 

「アクセサリー系統の装備品の修理を行っているのは“ミト”っていう女性プレイヤーなんだが、生憎今は留守でね」

 

「·······ミト?」

 

 

クラウドが不思議そうな顔をしていることに気付いたのか、おや? と親方が声をかけてくる。

 

 

「アンタ、ミトを知らないのかい?」

 

「初めて聞く名だ」

 

「結構人気者なんだけどなアイツ。この世界では珍しく“鎌”を使っているプレイヤーでね。たまにここに素材と金を交換していくんだ。だからだろうな、ここにいるっていう噂が広まったのは」

 

「·······そうか」

 

 

クラウドは腕を組みながら質問する。

 

 

「そいつは今どこにいる?」

 

「さあ、知らないね。けどアイツは大体アクセサリー用の素材集めのために依頼を結構受けてるから、依頼掲示板の所に行ったら会えるかもしれないな」

 

「·······そうかわかった。情報をくれて助かった」

 

 

そう言ってクラウドはカウンターにお金の入った袋を置く。情報代として料金を多めに払ったら、こんなにも!? ありがとさん!! とお礼を言われた。

 

鍛冶屋で情報を得られたクラウドは、その足で依頼掲示板のある酒場へと向かう。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

依頼完了のパーティーでも開いてるのか、酒場は賑やかだった。しかし、真昼という時間帯のためかさすがに夜ほど賑わってない。

 

それでも、何人かのプレイヤーらしき男や女が広いテーブルを一人一つずつ占領してのびのびと昼酒を飲んでいた。

 

酒についてはあんまり飲まないクラウドでも、いつも食事をする時にはぎゅうぎゅうに狭い思いをすることが多いため、一人でテーブルを占領しているプレイヤーを見て少し羨ましかった。昼間にしかできない贅沢だろう。

 

ここに来たのは、その鎌を扱う女性プレイヤーを見つけるためだ。

 

クラウドは辺りを見渡してみるも、それらしい人はいない。

 

 

(外れか)

 

 

タイミングが悪かったのか、それとも別の酒場で依頼掲示板を見てるのか、何にせよここにはいないみたいだ。

 

するとクラウドは、普段からアルゴに依頼を斡旋してくれるため、普通に依頼を受ける場合はどんな依頼があるのか興味が湧き、彼は飲食などには見向きもせずに、まっすぐ掲示板があるところへと向かう。

 

形は四角い。

 

よくある形をした掲示板だ。

 

そこには古い物から昨日貼ったばかりだと思われる真新しいものまで何枚もの紙が貼り付けてある。紙に書かれてるのは、この層の周辺に出没するモンスターの価格や素材だ。

 

モンスターは、倒すのが困難になればなるほど価格は高騰する。モンスターの素材は当然倒さなければ手に入らない。さっきの鍛冶屋の親方の言っていた素材アイテムなどは、こういう依頼を受けて手に入れるみたいだ。

 

長くそのモンスターが倒されなければ徐々にモンスターの素材の価値が不足し、価格も高騰する。

 

逆に、同じモンスターを倒せば倒すほど素材は手に入りやすくなり、価値は半減する。

 

プレイヤー達はこの掲示板を見て、この層の周辺のモンスターがどんな奴なのか、また倒すのにどれくらいの人数、労力、得られる報酬を秤にかけてどの依頼を受けるのか判断する。

 

誰でも、労力が同じであればたくさんの報酬を貰える依頼を契約したいだろう。

 

しかし、ソロでは厳しい依頼ばかりだ。

 

今はため息混じりで眺めることしかできないモンスターもいる。クラウドの腕でもちょっと厳しいかもしれないモンスターまで貼られており、そういった依頼は見過ごし、クラウドの視線はほぼ真ん中で止まる。

 

一番目立ちやすい所に貼られているモンスターの名前は『グリフォン』というらしい。

 

レア素材も落としてくれ、更には価値も相当なものだった。おそらく、この層で一番厄介なモンスターだろう。こんなに目立つ場所に貼られているということは、酒場的にもさっさと退治して欲しいからだと思われる。

 

価格も、他のモンスターより五割増しに跳ね上がっていた。しかも別に清算する素材の価格も上がっているため、大きな儲けができる依頼だった。

 

それを見ていたクラウドの後ろからカツッという足音が聞こえた。

 

 

「ちょっと、邪魔なんだけど」

 

「?」

 

「依頼を受けないなら、そこどいて」

 

 

と、いきなり後ろから声をかけられたと思ったら、女の子の柔らかい手がクラウドの肩を掴んで横に押した。

 

クラウドは掲示板の真ん中から押し出され、そして『フードを目深く被っている少女』は真ん中に貼られている『グリフォン』の討伐依頼書をビリッ! と剥がし取った。

 

それを少女は窓口へと持っていく。

 

 

「どうも、プレイヤーさん。依頼窓口へようこそ! 今日は一体何を受けるおつもりですか?」

 

 

と、NPCがプログラムされた台詞を言い、少女は依頼書をカウンターに置き、呟く。

 

 

「『グリフォン』の討伐を」

 

「はい、『グリフォン』ですね·······はい、確かに。これで契約は完了致しました。気を付けて行ってきてくださいね、()()()()

 

「·······え?」

 

 

クラウドは思わず声を上げてしまった。

 

その声にフードを着込んだ少女は振り返り、

 

 

「? なに?」

 

「いや、アンタ今ミトって言ったか?」

 

「そうだけど、何か?」

 

 

そう言って目深く被っていたフードを外し、あらわになった姿を見て驚いた。ポニーテールに結われた薄紫は、フードの中から、艶やかな光沢を放ちながら流れて落ちてくる。通った鼻筋、ルビーのように鮮やかな赤い瞳。

 

歳は明らかにクラウドよりも下だろう、十六から十八くらいか?

 

何にしても、鎌を装備している少女は、クラウドが探していた人物だった。

 

 

「なに? 私の顔に何かついてる?」

 

 

ミト、とNPCに呼ばれたプレイヤーは不審そうに眉を寄せる。そこでようやく我に返ったクラウドは冷静に告げる。

 

 

「アンタが、ミト?」

 

「だからそうだって言ってるじゃない、何か用なの?」

 

「·······アンタに依頼があって来た」

 

 

そう言って、クラウドは右手をスライドさせて破片と化した『星のペンダント』に『フェアリーリング』を見せる。

 

 

「アクセサリーの修理をアンタがやってるって聞いた。だからこれを直して欲しい」

 

「·······なるほど、アクセサリー系統の修理の依頼か」

 

 

と呟いたミト。

 

ただその言葉は、目の前のクラウドに向けられたものではない気がした。まるで何かを思い出したかのように手を顎に当て、何かを考えている。

 

 

「報酬は?」

 

「現金でいいか?」

 

 

そう言ってクラウドはまた右手をスライドさせて金の入った袋を取り出して見せる。それを見たミトは目を見開いていた。クラウドの出した料金がモンスター討伐五匹分くらいあったからだ。

 

 

「こんなに? いいの?」

 

「ああ、修理してくれるならな」

 

「·······なるほどね。けど、悪いけど私今からモンスター討伐に行かなきゃいけないから」

 

「·······そうか」

 

 

残念そうに俯くクラウド。

 

しかし、そんなクラウドの様子を見たからかどうかわからないが、ミトは受付の人と一言二言交わすと、一枚の用紙を受け取り、それをクラウドに差し出した。

 

 

「なんなら、一緒に行かない?」

 

「·······え?」

 

「ほら、早く依頼を済ませればその分早くあなたの依頼を受けれるから」

 

 

それに、と一言置いて、

 

 

「あなた見た感じ強そうだし、『グリフォン』は強敵だから人数は多ければ良いと思って·······あなた名前は?」

 

「クラウドだ」

 

「ミトよ。よろしくクラウド」

 

 

そう声をかけてくれた。

 

クラウドは一瞬迷ったが、首を縦に振ると、

 

 

「分け前は?」

 

「半々ってところ?」

 

「決まりだな」

 

 

そう言ってクラウドも紙を受けとると、受付の人からペンを借り、依頼の契約を結ぶ。

 

 

「はい、確かに。では、ミトさん、クラウドさん。二人とも頑張ってきてくださいね!」

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

今回の依頼でやって来たのは、峡谷だった。

 

そこに集合したクラウドとミトは、峡谷の風に頬を撫でられる。

 

 

「·······ふぅ」

 

 

クラウドは目の前に広がる峡谷見渡しながら息を吐いた。まだわずかに残っている朝の空気が肺を満たす。

 

峡谷の奥から漂ってくる清涼な空気だ。これも時間が過ぎると、気温が上がってすぐに消えてしまうだろう。

 

少しばかり暑い日射しに照らされながら、クラウドは隣にいるミトに声をかける。

 

 

「準備は良いか?」

 

「いつでも行けるわ」

 

 

今回の標的である『グリフォン』がどう動くか、今はまだ全くわからない状態だ。まずはフィールドに出て、『グリフォン』がいると思われる地点まで行くのが最初の目標だ。

 

 

「ねぇ、打ち合わせしておかない?」

 

「打ち合わせ?」

 

「うん」

 

 

そう、クラウドの様子に気を取られていたが、ミトにとっては久々に他のプレイヤーと狩りをしに行くことになる。

 

ミトは普段はソロプレイヤーだ。

 

故に作戦を事前に練っておかないと落ち着かない体質だ。

 

 

「そうだな」

 

 

ここはできるだけ詳しく打ち合わせをしておいた方がいいだろう。

 

 

「連携とか、位置とかどうする?」

 

 

そう聞かれるミトに、クラウドは一言。

 

 

「好きに動け」

 

「え?」

 

 

思わず瞬きをするミト。連携を取らないということなのだろうか?

 

 

「ちょっと、勝手に動いていいの?」

 

「ああ、じゃあ行くか」

 

「ちょ·······ッ!!」

 

 

言葉の意図がわからず呼び止めるものの、クラウドはお構い無しにフィールドへと出ていく。

 

ミトもその後を追うが、

 

 

(本当に大丈夫なのかしら)

 

 

そう不安を覚える出だしであった。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

谷の断面はV字形をなす両岸が険しい崖になっていて、谷底平野を持たない。

 

風が吹き、揺れる川の波の音が心地よかった。

 

クラウドとミトはまずはフィールドの北側を目指して進んでいった。二人が通っているのは人一人が歩くのがやっとの獣道である。

 

大人しい草食系のモンスターが繰り返し同じ場所を移動するために出来たのだろう。ここが経験値稼ぎとして認定されてからは、獣道を作ることにプレイヤー達も貢献しているだろう。こうして歩き回り、あるいは荷車を押して行き来する商人のNPCがいた。

 

そうすることで道が出来たのだろう。

 

目的地を目指す中、ミトは本当にこの人を信用して大丈夫なのか心配になってきた。

 

 

「いつもソロでやっているのか?」

 

「え?」

 

 

そう聞かれたミトはすぐには答えられなかった。

 

なぜなら、過去にとある“トラウマ”が植え付けられているからだ。ソロでやっている理由、それを思い出してミトは下を向く。

 

その様子を見たクラウドは言う。

 

 

「元からソロでこの依頼をやるつもりだったんだろ?」

 

「え、ええ·······」

 

「ソロで強敵狩りとは、さすがに驚くな」

 

 

周囲に視線を配りながらクラウドは軽く肩をすくめる。

 

 

「ソロでどれくらいのモンスターを倒してきたんだ?」

 

「さあね、私もさすがにそこまで覚えてないわよ」

 

「でも今回の敵はかなりの強敵だぞ、それなのに一人で挑むつもりだったのか?」

 

「ええそうよ、何か問題でもある?」

 

「いや·······ただ、大人しそうに見えて意外と勇敢な奴だなと思っただけだ」

 

「·······え?」

 

 

総評されて、ミトは目を丸くする。

 

そう言いながら先を行くクラウド。ミトは人にあまり誉められたことがなかったから、思わず硬直してしまった。するとすぐに首を横に振り、正気を取り戻す。

 

『グリフォン』が出る場所まであとどれくらいかかるのか、何歩も歩いているうちに疲れが見えてきたミトは呟く。

 

 

「もう、早く出てくればいいのに」

 

 

小さく独り言を呟く、その声にクラウドは鼻で笑って口を開く。

 

 

「幸運な奴だな、言う通りになったぞ」

 

「え?」

 

「来るぞ!!」

 

 

その言葉が耳に入るのと、頭上に翼が風を切る音を感じるのとはほぼ同時だった。

 

 

「『グリフォン』!!」

 

 

人の数倍を誇るモンスターが、頭上から草木を揺らして徐々に降りてくる。

 

緊張になる瞬間、モンスター狩りの本番。

 

ミトは背中に背負っていた鎌を構える。

 

 

グオァァァアアアッ!!

 

 

『グリフォン』の鳴き声が聞こえてくる。

 

鳥系統のモンスターの中でも強敵な『グリフォン』はミトの世界では伝説上の生き物で、上半身と翼が鷲、下半身がライオンである。

 

しかしクラウドの方は違う。

 

元の世界でも『グリフォン』は存在していて、コスモキャニオンなどでよく戦った。

 

相手がどう動くのか、そして自分はどう動くべきか。トッププレイヤーに引けを取らない二人ではあるが、初めてのタッグである。

 

クラウドは好きに動けと言っていたが、自分はどう動くかで勝負が決まる。

 

 

「やるぞ!!」

 

「ッ!!」

 

 

そのクラウドの声がミトの硬直を解いた。クラウド自身はそう叫ぶが早いか、バスターソードを抜け放ちグリフォンに駆け寄った。

 

ミトは大鎌を分離し、伸縮自在の鎖状のものをブンブン回して投擲する。

 

狙うは頭。

 

 

「はあッ!!」

 

 

グリフォンはまだこちらに気付いていない。無防備に揺れている頭に、ミトの鎖が命中した。

 

 

ギャアッ!! ギャアッ!!

 

 

突然グリフォンの体が緊張する。死角からいきなり襲われたことに気付いたのだろう。

 

鋭い鳴き声を上げながら、こちらに向き直る。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

クラウドが斬り込んだのはちょうどその瞬間だった。それは剣と言うにはあまりにも大きく、鉄塊とも言ってもいいバスターソードをクラウドは全身の体重を乗せるようにして振り下ろした。

 

岩でも両断するんじゃないかというレベルの攻撃が、斜めからグリフォンの胸元を斬りつけた。

 

まだこちらの人数を把握していないのだろう。混乱したグリフォンが無造作に飛び上がる。翼は使わず、脚の力だけを使って人の頭を越えるほど飛び上がった。

 

その脚力に驚きながらも、ミトは冷静に鎖を振り回し、遠心力を使ってグリフォンの足元へと投擲する。

 

脚に絡み付いた鎖をミトは引っ張り、地面へと引きずり降ろそうとしている。

 

しかし、グリフォンは翼を羽ばたかせ、むしろミトが引っ張られそうになった。

 

 

「うわっ!?」

 

 

思わず体が持っていかれそうになるも、踏み留まる。

 

そして、

 

 

「ふんッ!!」

 

ギャアッ!?

 

 

地面へと引きずり降ろしたグリフォンに、クラウドが続く。

 

 

「ハァァァアッ!!」

 

 

裂帛の気合いと共に、クラウドが駆け込み長大なバスターソードを振るって斬撃を繰り出す。

 

 

「クラウド!?」

 

 

強烈な一撃。

それでもグリフォンは怯まない。

 

クラウドは再び全身に力をみなぎらせる。振り下ろしたバスターソードを水平にしたまま軽く持ち上げる。その動きと同時に体重を入れ替え、左足を爆発的に踏み出し構えた大剣が突き出す。

 

バスターソードの切っ先は狙いを外すことなく、グリフォンの胸板を捉えた。

 

 

ギャアアアアッ!?

 

 

さすがのグリフォンもたまらずのけぞった。この隙に、クラウドは間合いを一歩詰め、同時にバスターソードを振り上げる。

 

人間の身長ほどもあるその大剣、重さもかなりのものだろう。

 

なのにクラウドはまるで木の枝を振るうかのように軽々と振るい、そして強烈な斬撃を繰り出す。刃は敵を斬りつけるのと同時に標的から火花が飛び散る。それほどまでに固い皮膚を持ったグリフォンでも、クラウドのバスターソードには敵わないようだ。

 

その隙にミトも動き出す。

 

好きに動けと言われたのだ、であればそうさせてもらおう。

 

 

「やあッ!!」

 

 

巨大な大鎌が真上から振り下ろされる。まるで死刑囚の首を斬るかのように、グリフォンの首目掛けて鎌の刃が捉える。

 

ザシュ! と。

 

首を斬り落とされたグリフォンはそのままポリゴンへと変化し、パリィンと四散した。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

依頼を完了してから数時間後。

 

クラウド達は無事に街へと戻ってきていた。

 

実際にフィールドに出てから数時間経っていても、何故だか数秒しか経っていないような錯覚を覚えた。それだけ今回のモンスター退治は早く終わった。それもこれも、クラウドが参加したおかげだ。

 

 

「お帰りなさい、二人とも」

 

「依頼は完了、手続きをお願い」

 

 

直接依頼を受けたミトが代表して、依頼窓口の奥にいるNPCに話しかける。すると依頼完了の判子を押され、すぐにミトのウィンドウにお金が清算される。

 

そして、ミトが右手で操作しお金を具現化させると、

 

 

「はい、あなたの取り分」

 

「ああ」

 

 

袋はずっしりと重い。

報酬と素材の二つが入っているのだろう。

 

クラウドに分け前を渡すと、ミトはようやく気を緩めたのか、ふぅ、と息を吐き出しながらフードから顔をさらす。

 

すると周りのプレイヤー達がいきなりざわめいた。

 

 

「なぁアイツ·······第一層のボス戦をたった一人で攻略した奴の特徴に似てないか?」

 

「ん? そうか? 俺が聞いた話じゃ金髪の男としか聞いてないからなんとも言えないが」

 

「でも確か大剣使いだと聞いたぜ?」

 

「え~? でもそんな奴がこんな中途半端な階層の酒場に現れるか?」

 

「でもよ、聞いた話じゃ金髪の大男だって噂だぜ? アイツどう見ても細身だろ」

 

「じゃあ、人違いか?」

 

 

ざわめきは大体そんな感じの内容だった。

 

クラウドはいつもアルゴに依頼を斡旋してもらって金を稼いでいる。よってあまり目立つ行動は控えたかったが、今回ばかりは仕方がない。

 

するとミトが改めてクラウドの顔を見た。

 

先程のざわめきの会話を聞いて驚いているのだろうか。なんか驚愕したような表情を浮かべている気がする。

 

 

「何を見てる?」

 

 

クラウドはむすっとしたまま聞く。

 

 

「え? あ、いや、別になんでも·······それより、あなたの依頼を受けなきゃね。壊れたアクセサリー見せてくれる?」

 

 

そう言われて右手を操作し、破片化した『星のペンダント』に『フェアリーリング』を見せる。

 

彫金師としても活動をしているミトはそれを見ると、眉を顰めた。

 

 

「ひどいねコレ。どうやったらこう壊れるの?」

 

「·······たまたまモンスターの攻撃がそこに当たったんだ」

 

 

と、誤魔化すクラウド。

 

それを見たミトは呆れたように目を細める。

 

 

「ま、いいや。それじゃあ私の工房まで一緒に来てくれる?」

 

「ああ」

 

 

そう言って二人は酒場を後にする。

 

そして、後ろからついてくるクラウドに対してミトは怪しげな目で見る。

 

 

(この人があの第一層のボスをたった一人で攻略したっていうプレイヤー? ·······まさかね)

 

 

ミトは振り返らない。

 

クラウドはそのまま、ミトが持つ工房までついていった。

 

 

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