ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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エクスキャリバー編 
第1章


 

 

「·······スゥー·······ハァー」

 

 

クラウドの呼吸が静かに吐かれる。

 

アルヴ・ヘイムに太陽が照り返し、額に浮かんだ汗が流れて目を細める。

 

言葉では言い表すことのできない緊張感。それを振り払うかのように、クラウドは剣を振るっていた。

 

 

「ハァァァアッ!!」

 

 

同時に、手にした大剣が目前にまで迫るモンスターの頭部に横殴りで斬り付けられる。

 

 

ガァァァアアアッ!!

 

 

強力な一撃を受けたモンスター────『レッドドラゴン』が、長い首をくの字によじらせながら身もだえた。

 

 

「ッ!!」

 

 

クラウドは構えた大剣を一旦胸元まで引き戻すと、今度は両手で頭上に持ち上げ、一旦溜めを作ってから渾身の力を込めて振り下ろした。

 

手にした武器の名は『アポカリプス』

 

青紫の細い柄に付いてる金色と七色が合わさったような大きい鍔からは、紅色の奇形な刀身が伸びている。

 

刀身には蛙の掌のような図形と三芒星的な図形の空間が空いており、鍔から刀身の付け根辺りには短い刃が、刀身の四分辺りの所からは長めの刃が刀身を超えて、それぞれ両端に斜め先方へ向かい合って行くように備え付けられている。

 

また、鍔や刀身の断面も平坦ではなく、中央に向かっていく程に厚みがある。

 

ブロンドツンツン頭に赤マントの下に着ているソルジャー・クラス1stの服のクラウドが、赤い大剣を振るう様は秀逸すぎる。

 

そんな攻撃力も相当なほどの大剣は、レッドドラゴンに対して一定の効果があった。頭上からの一撃で怯んだ所にさらにもう一撃。

 

重い大剣が斬り付けられる度に、レッドドラゴンから鱗片が砕け散る。頭部を斬り付けられたレッドドラゴンはたまらず翼を広げて舞い上がった。

 

土煙が立ち上り、風圧でクラウドの足元がすくわれそうになる。

 

レッドドラゴンは、その名の通り赤い飛竜で巨大な翼を持っていた。

 

全身を覆う赤い鱗。そして口から吐かれる炎はまさに地獄の火炎のようだった。まさにドラゴン、この世界で代表的な存在のモンスターをたった一人で戦っているクラウドは、肺に酸素を補給し、呼吸を整える。

 

 

「フンッ!!」

 

 

クラウドは腰を落とすと、両手でアポカリプスを持ったまま大きく右側に上体をひねった。しばらくその体勢を維持したまま力を溜めると、体を戻す反動を利用してレッドドラゴン目掛けてアポカリプスを振り上げる。

 

 

「ハアッ!!」

 

 

天に向かって振り上げられた大剣は、レッドドラゴンの尻尾に浅く命中しただけだった。

 

レッドドラゴンはクラウドの頭上で羽ばたきながらゆっくりと向きを変えると、上体を反らせながら炎の息吹を吐き出す。

 

 

「ッ!!」

 

 

クラウドはバク転しながら回避し、直撃は免れたものの、赤いマントがその熱風にやられたのか先が少しだけ焼け焦げた。

 

炎を躱されたレッドドラゴンは一旦上空に舞い上がってから、今度は急速度で降下してきた。その大木よりも分厚い腕を振り下ろすレッドドラゴンは、クラウドの頭部を狙う。

 

しかしその行動をクラウドはレッドドラゴンが旋回してから予測してたのか、瞬間に察知していた。

 

体を右方向に横倒しにして回避する。

 

そしてすぐに起き上がり、クラウドはアイテム欄から何かを取り出すとそれをレッドドラゴンの顔目掛けて放り投げた。

 

閃光手榴弾。アイテム名、『フラッシュバン』。

 

眩い光が爆発的に沸騰し、直撃を受けたレッドドラゴンは錯乱状態に陥って地面に落下してきた。それを待ち受けていたクラウドは、溜めに溜め込んだ力を一気に解放する。

 

 

「解き放つッ!!」

 

 

ブオンッ!! と空気を切断しながら、クラウド自身が軸となりアポカリプスを振り回す。

 

回転斬り。

 

大剣による回転攻撃は、大地に横倒しになったレッドドラゴン胴と足に同時に命中する。

 

そして。

 

回転斬りを終えたクラウドは、次の一手を繰り出すために体を逆方向にひねり返して、アッパー気味のカチ上げ斬りが決まった。

 

その間、レッドドラゴンは為す術もなく、虚しく両手足を掻いているだけであった。

 

 

ッ!!

 

 

レッドドラゴンはその巨体をようやく引き起こすと、ひとつ大きく首を横に振って目眩を覚まさせる。

 

体を右方向に回転させつつ、密着しているクラウドを薙ぎ払おうとうする。

 

 

「·······ッ!!」

 

 

クラウドは素早く身を屈めると、躊躇うことなくレッドドラゴンの内懐へと飛び込んだ。腹の下に入ってしまえば、尻尾回転攻撃など空振りに終わる。

 

一回転して尻尾を振るうも何も当たらなかったのを見て、上手く真下に潜り込んだクラウドは、的確にレッドドラゴンの翼に斬撃を与え続ける。

 

 

「ハァァァアッ!!」

 

 

叫ぶうちに、クラウドの限界は既に越えていた。

 

アポカリプスは休むことなくレッドドラゴンを斬り付け、遂に翼の爪が破壊された。

 

 

ガァァァアアアッ!?

 

 

レッドドラゴンの上体が空に向かって大きくのけぞる。

 

その隙に、クラウドはレッドドラゴンの尻尾に狙いを定め、的確に尻尾のつけ根を斬り裂く。

 

アポカリプスの攻撃力は以前まで使っていたアイアンブレードよりも遥かに高く、刃も鋭いため、レッドドラゴンの尻尾は容赦なく切断された。

 

レッドドラゴンは口から血を溢しながら、炎の息吹を口から吐き出そうとするが、不発に終わる。

 

クラウドが与え続けた攻撃により疲労しているのは明らかだった。敵のゲージを見てみると、もう赤く染まっていた。

 

クラウドの眼が大きく開かれる。

 

 

「ここで決めるッ!!」

 

 

好機だと確信したクラウドは、最後の一撃を振り下ろす。レッドドラゴンの眉間に斬り付けられたアポカリプスから火花が飛び散る。

 

 

ガァァァアアアッ!?

 

 

咆哮と共に、レッドドラゴンの角が砕け散り、そして体はポリゴン化し、体力ゲージがゼロになった瞬間にその体は四散した。

 

とどめの振り下ろしを終えたクラウドの目の前にウィンドウが開かれ、素材アイテムが手に入ったことが伝えられる。

 

それを見終えたクラウドはウィンドウを閉じると、アポカリプスを背中に戻し、その場を後にした。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

二◯二五年一二月二八日。

 

七時◯◯分 。

 

埼玉県川越市、桐ヶ谷邸。

 

庭で木枯らしが舞い、冬の寒さを深める早朝。

 

母の翠を見送った桐ヶ谷兄妹は朝食を食べながらタブレットでゲーム関連の記事を読んでいた。すると、和人の向かいに座っている直葉が驚愕の表情と共に和人にある記事を見せる。

 

 

「お兄ちゃん、これ!!」

 

「むっ! 『エクスキャリバー』発見!? ·······とうとう見つかったか·······」

 

 

そこに書かれていたのはALOで伝説レジェンダリー級に位置づけられる『聖剣エクスキャリバー』の詳細であった。

 

 

「いつかは見つかると思ってたけど、予想より早く見つかっちゃったね」

 

「俺達も新生アインクラッドの攻略にかかりっきりだったからな。『()()()()()()』の事を見落としてた」

 

 

『ヨツンヘイム』とは。

 

ALOの主な舞台となっている『妖精郷アルヴ・ヘイム』の地下にある大型ダンジョンであり、ソロプレイでは絶対的に攻略不可能と言われる難易度が設定されている超上級者向けの仕様となっている。

 

しかし、高難易度という事もそこでしか手に入らないレアアイテムもあり、一部のプレイヤーがパーティーを組んで攻略しているのは知っていた。

 

 

「前に見た時は誰も手付かずだったけど、アップデートされてから増えてきたみたいだよ」

 

「俺達もクラウドと明日奈の事がなければ挑戦してたんだけど·······」

 

 

以前、和人·······キリトはALOでログアウト出来なくなったクラウドとアスナを救い出す為、途中で合流したクラウドとユウキにティファと共に央都アルンに向かう途中で、誤ってフラグを踏んでしまい、地下へと続く落とし穴に落ちたのが『ヨツンヘイム』との初めての会合であった。

 

その時落ちたのがキリトにリーファ、クラウドにユウキとティファであり、『邪神級モンスター』との戦闘を全力で避け、出口を探すハメになってしまった。

 

 

「私達みたいに“トンキー”みたいな邪神級モンスターとフラグ立てたのかな?」

 

 

ヨツンヘイムでリーファ達が出会った象とクラゲを合わせたような《邪神級》モンスター“トンキー”とは巨人に襲われていた所を助けたのをきっかけに友好を示してきた。

 

 

「ああ、あの気持ち悪い─────」

 

「·······ん?」

 

「·······そのモンスターとフラグ立てる物好き·······いやいや、じゃなくて博愛主義者が他にいるとは·······」

 

「気持ち悪くないもん! 可愛いもん!」

 

 

そのモンスターの背に乗り、出口へと送られたキリト達は道中、天井に刺されていた逆ピラミッドのダンジョンの最下層にそれを見た。

 

黄金に輝くそれは彼らを魅了し、かつてない程の衝撃を食らったのを確かに覚えている。

 

『聖剣エクスキャリバー』·······ALOの中で最強と謳われた伝説の剣。誰も手にした事のない神話の宝。

 

そう呼ばれるだけの神々しさと風格を兼ね備えた剣を、キリトはいつか必ず手に入れようと誓っていた。

 

あれ以来、ヨツンヘイムには行ってなかったキリト達であったが、『エクスキャリバー』を他のプレイヤーに渡す訳にはいかない。

 

 

「それで? どうするの?」

 

「ん? もちろん取りに行くよ。トンキーに乗れる上限は九人だったな。俺とスグにアスナ·······後は·······」

 

「ユウキさんにクラウドさんと、後はシノンさん呼んだら?」

 

「それだ! スグは里香と珪子に連絡してくれないか? 俺は明日奈とクラウド達に当たってみるよ」

 

「了解!」

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

日曜日とはいえ、別世界での生活習慣はキリト達とは異なっているため、クラウドはメッセージで呼ばれた時行けるかどうか微妙だった。

 

宅配の仕事を終え、急いでセブンスヘブンへと帰ってきたクラウドはその足で自分の部屋へと戻り、急いでアミュスフィアを装着すると、あの世界へ行くためのワードを言い放つ。

 

 

「リンク・スタートッ!!」

 

 

その声と共に、クラウドの意識は仮想空間へと繋がっていく。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

クラウドは大荷物を抱えてALOの街を駆け抜ける。

 

 

「すまない、どいてくれ」

 

 

人にぶつかりそうになって謝る。その声を置き去りにして走り出す。そしてしばらくするとまた誰かとぶつかりそうになる。それを何度か繰り返しながら、工房を目指して走っていた。

 

何故なら、完璧にログインが遅れたからだ。

 

 

「仕事後に呼び出すなんて、アイツ·······ッ!!」

 

 

ある程度の道具類は、前回ログアウトする前に整理していたため問題ない。クラウドは普段使っている武具を纏い、必要最低限の道具だけを持っている。

 

普段、フィールドに出掛けるよりもずっと身軽なはずなのに、クラウドは額に汗を浮かべて全力疾走を続けた。

 

待ち合わせは朝、しかし今はもう太陽が真上まで昇っている。

 

 

「全く、アイツは·······ッ!!」

 

 

社会人をなんだと思ってるんだ、と言いたくなったがやめておいた。ここでそんなことを言っても仕方がない。

 

中央広場を抜け、南側の階段を駆け降りると、そこが待ち合わせ場所の工房だ。この街で唯一プレイヤーの手によって開かれた工房に仲間達全員が集まっていることだろう。

 

バン! という音が響く。

 

工房の扉が勢いよく開けられて皆ビビったのか、視線は全員クラウドに注がれる。

 

イグドラシル・シティ大通りに看板を出す『リズベット武具店』の工房では、鍛冶妖精族レプラコーンの店主が皆の武器を順に回転砥石に当てている。大がかりなクエストの前には、装備の耐久度をマックスまで回復させておくのが常識だ。

 

皆はその武器の回復を待っていたのか雑談をしていて、出遅れたクラウドは小さく荒い息を溢しながら皆に謝る。

 

 

「すまない、遅くなった」

 

 

いつも通りのクラウドだったからか誠意が伝わりづらく、リズベットが文句の言葉を投げ掛ける。

 

 

「本当、今何時だと思ってるの!? 後はアンタの武器だけよ!? ほら、早く貸してちょうだいッ!!」

 

 

そう言われて背中にあるアポカリプスを強引に剥ぎ取ったリズベットはアポカリプスを砥石に当てる。その間暇だったのでクラウドはキリト達の会話に加わる。

 

 

「随分遅かったな、クラウド」

 

「仕事終わりだ、それなのに来てやったんだから感謝してほしい所だな」

 

「あはは、そうか。そりゃ悪かった」

 

「おーい、こっち来いよクラウド! 一緒に飲もうぜッ!!」

 

 

クラウドは口元をむすっとさせながらも壁際にあるベンチに座り、クラインから酒瓶を貰うと少しだけ口に含んだ。アルコールが入っていても現実の体には何の影響も与えないため実質ノンアルコールだ。

 

クラインはそんなキリトに視線を向けると、

 

 

「それはそうとキリの字よ!? エクスキャリバーを手に入れたら次は俺様の為に『霊刀カグツチ』取りに行くの手伝えよ?」

 

「えぇ·······あそこすごい暑いじゃん」

 

「それを言うなら今日行く『ヨツンヘイム』はクソ寒ぃだろうが」

 

「あ、じゃあ私もアレ欲しい····《光弓シェキナー》」

 

 

二人の会話に入り込んだシノンの発言にその場にいたキリトとクライン、シリカは口をあんぐりと開けて呆れていた。

 

 

「こ、コンバートして間もないのにもう伝説級武器(レジェンダリーウェポン)を御所望ですか?」

 

「リズが作ってくれた弓も素敵だけど、もう少し飛距離があればねー·······」

 

 

瞬間、奥の工房からシノンの話を聞いていたリズベットが文句を言い放った。

 

 

「アンタねぇ·······弓っていうのはせいぜい百メートルぐらいが射程距離なの! それをさらに遠距離から狙おうとするのはシノンくらいよ!」

 

 

それに対して、ヤマネコアバターにしたシノンはひょいと肩をすくめ、澄ました微笑を浮かべる。

 

 

「出来ればその倍は欲しいんだけど」

 

「·······はぁ·······」

 

 

ALOに来る前までGGOで凄腕の狙撃手スナイパーとして戦ってきたシノンにとって弓の射程距離に不満を漏らすのは仕方ない。

 

水色の髪のヤマネコアバターにしたシノン。二週間前にALOにやってきたばかりの新しい仲間であるシノンは、僅か一日練習しただけで気難しい武器である弓矢の勘を完全に掴んでしまっていた。

 

このALOで弓使いと言えば、機動力のある風妖精族でショートボウを使うか、腕力と耐久力に秀でる土妖精族でヘビーバリスタ装備の砲台になるかが定番なのだが、彼女はそのセオリーをあっさり無視して射程に特化した弓であるロングボウを、九種族最高の視力を持つケットシーで使うと言い、コンバートしたのだ。

 

 

「おまたせー」

 

「買ってきたよー」

 

「それにお菓子も買ってきたよー!」

 

 

バスケットに所狭しと詰められたポーションや結晶を携え、補給係のアスナとリーファにユウキが帰ってきた。

 

しかし。

 

 

「いや、お菓子はいらないだろ」

 

「私もそう言ったんだけど、ユウキったら·······」

 

「買うって聞かなくって」

 

「いいじゃん! ほら、みんなで一緒に食べようよ!!」

 

 

呆れながらもユウキがテーブルに並べた菓子に手を伸ばし始めたキリトは、全員が集まったことを確認し、一人一人数えていく。

 

 

「俺にアスナ、リーファ、シリカ、リズベット、シノン、ユウキ、クラインにクラウド。うん、全員いるなッ!!」

 

「こっちも全員の武器回復終わったわよぉ!!」

 

 

工房の奥でリズベットが叫んだ。

 

九人+一人+一匹の準備が完了したところで、キリトはぐるりと見回し、ゴホンと咳払いしてから言った。

 

 

「みんな、今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう! このお礼はいつか必ず、精神的に! それじゃ、いっちょ頑張ろう!!」

 

「「「「「「「おー!」」」」」」」

 

「·······」

 

 

クラウド以外のみんなが叫ぶ中、彼はキリトに近付いていって耳元で囁くようにこう言った。

 

 

「報酬はもらうからなキリト」

 

「わ、わかってるよ。これが終わったらクラウドも納得の行く代金を払うから」

 

 

交渉は成立。

 

クラウドはリズベットに研いでもらったアポカリプスを背中に戻すと、キリトがそれを確認し、くるりと振り向いて工房の扉を開けると、世界の垣根を超えて編成された九人のパーティーは『地下世界ヨツンヘイム』に繋がる秘密のトンネルへと歩き始めた。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「あぁぁぁあ!! もぉぉぉぉぉお!! 一体何段あんのよコレェェェェェエッ!!!」

 

 

リズベット武具店を出た一行はリーファがトンキーから譲り受けたヨツンヘイム行き直通の秘密のトンネルを駆け下りていたのだが、そのあまりの長さにリズベットがついに痺れを切らして怒声を上げた

 

 

「えーっと·······アインクラッドの迷宮区タワー丸々一個分くらいはあったかなぁ〜」

 

 

先頭に立って階段を下り始めたリーファが答えると、リズベットとシリカ、クラインが同時に表情を歪める。

 

それに対してキリトは苦笑し、この階段の有り難さを力説する。

 

 

「あのなぁ、ノーマルなルートでヨツンヘイムに行こうと思ったら、まずアルンから東西南北にそれぞれ何キロも離れた階段ダンジョンの一つに移動して、モンスターと戦いながら奥に進んで最後に守護モンスターを倒してようやく到着出来るんだぞ。一介のパーティーなら最速でも二時間かかるところを、ここを降りればたったの五分だぞ! 俺がリーファなら、ここにいる全員分の通行料を取るまである!」

 

「·······俺の分まで取るのか?」

 

「い、いや·······クラウドは特別に」

 

「それってずるくない? っていうか、クラウド! アンタはケチすぎんのよッ! 前来たときアポカリプス製作する時もさぁ、アンタレアアイテムと交換って、金持ってきなさいよ金をッ!!」

 

「けど良い値段になっただろ、あの素材も」

 

「なったけど、そうじゃなくって·······ッ!!」

 

 

頭を掻き毟るリズベットだったが、クラウドは何の表情の変化もなく階段を降りていく。

 

そんな二人のやり取りは置いておいて、リーファがやれやれといった表情で言う。

 

 

「あのねぇお兄ちゃん。言っておくけど、ここを降りても出口でトンキーが来てくれないと、ヨツンヘイムの中央大空洞に落っこちて死ぬ以外ないよ」

 

 

確かにそうだ。

 

広大な地下世界ヨツンヘイムの真ん中には、差し渡し一・五キロはあろうかという底無しの大穴、通称『中央大空洞』が口を開けている。聖剣エクスキャリバーが封印されている逆ピラミッド型の空中迷宮は、そのボイドの真上の天蓋から下に向けて付き出している。

 

クラウド達が今駆け降りているこの階段の出口は空中迷宮のすぐ近く。そのボイドの上空に設けられているため、飛び降りればあの底無しの穴にはまり込んで落下中に死亡し、問答無用で地上のセーブポイントまで飛ばされてしまう。

 

ゴホン、と咳払いして己の強欲な発言をなかったことにし、キリトはしかつめらしい顔を作って言った。

 

 

「本来なら一時間かけて向かう所をここを使えばたった五分に短縮されるんだから、一段一段感謝の意を込めて降りたまえ諸君!!」

 

「アンタが作った訳じゃないでしょ·······」

 

「見事なツッコミをどうもっ!!」

 

 

瞬間、シノンの身の毛が逆なでされ、言葉では表せない程の悪寒が支配した。

 

 

「ッ!!!??」

 

 

猫妖精族ケットシーにとっての弱点にあたる尻尾をキリトによって鷲掴みされ、思わず恥ずかしい声を上げてしまう。

 

その声を聞けて御満悦のキリトは尻尾から手を離し、それを察知したシノンが爪を立ててキリトに反撃にかかる。

 

爪は空を切り、嘲笑うかのようなキリトの表情を見て、シノンの怒りも最高点に達した。

 

 

「アンタ!! 次やったら鼻の穴に火矢ぶっ込むからねッ!!」

 

「あはは·······」

 

「恐れを知らねぇ奴だなぁ、オメェ」

 

「·······」

 

 

そんなシノンに驚愕しているクラウドの顔を見たキリトはどうしたのかと質問する。

 

 

「どうしたんだクラウド?」

 

「いや·······シノンもあんな可愛らしい声を出せるんだな、と思って」

 

「言うなッ!!」

 

 

怒りの矛先をクラウドに向けたシノンはすぐ隣まで近づき弓を構える。そして一矢だけクラウドに向かって放つが、クラウドは何事もなかったかのように頭をひょいと横に避けて躱す。

 

シノンの放った矢は虚しく階段の一段に突き刺さり、彼女の怒りゲージが更に高まっていく。

 

 

「相変わらず忌々しいわね!! アンタの回避能力はッ!!」

 

「人に向かって矢を放つな、危ないだろ」

 

「そういう問題じゃないわよもうッ!!」 

 

 

そんなくだらない話をしているとついに長かった階段にも終わりを告げる光が差し込み、より一層の緊張と警戒を強めた。

 

 

「いよいよだッ!!」

 

「行くよみんなッ!!」

 

 

一目散に外へと飛び出したキリトとリーファが最初に目にした光景は、吹雪舞う極寒の地下世界·······『ヨツンヘイム』だ。

 

地上の気温とヨツンヘイムの気温とでは差が激しく、すぐに体に霜が降りている。

 

アスナはすぐに体の温度を高める魔法を発動し、クラウド達に支援バフをかけていく。

 

頃合を見計ってリーファは丘から口笛を吹き、恩人である友のトンキーを呼んだ。

 

数秒後、風の音に混じって、くおぉぉぉー·······ん、というような啼き声が遠く届いてきた。眼を凝らすと、ボイドの暗闇を背景に、白い影が上昇してくるのが見えた。

 

平べったい魚のような、あるいはシャモジのような胴体の側面から四対八枚のヒレに似た白い翼が伸びている。体に下には植物のツタ状の触手が無数に垂れ下がる。そして頭部には、片側に三個ずつの黒い眼と、長く伸びる鼻。象水母から羽化してあのような奇怪かつ美しい姿になってしまった邪神、トンキーがやって来た。

 

それを見たクラウドは一言。

 

 

「·······奇妙な光景だな」

 

「リーファの事が大好きなんだろうな」

 

 

リーファはトンキーに近付いていって話しかける。

 

 

「トンキー、私達を乗せてくれる?」

 

 

乗せてもらうようにお願いするとトンキーは声を上げ、快く承諾してくれた。

 

クラインはそんなトンキーを見て言う。

 

 

「な、なんだアレ·······キm」

 

「キモくない!!」

 

「うおおっ!? な、なんだよリーファ! 脅かすなよ!?」

 

「あはは、まぁ暖かい目で見てやってくれクライン。スグにとってはアレが可愛いらしいんだ」

 

「へ、へえ~これが·······お、おおデケェなぁ···ひょっとして俺らこのまま食われるんじゃ·······?」

 

「平気だよ、トンキーはああ見えて草食だから」

 

「でも、こないだ地上から持ってきたお魚あげたら一口でペロッといったよ?」

 

「そ、その魚のサイズは聞かない方が身のためね·······」

 

 

リーファの話を聞いたリズベットが顔を引きつらせながらトンキーを一瞥すると半歩ほど後ずさりした

 

 

「さ、みんな背中に乗って乗って!」

 

「ま、マジで? 本当にコレに乗んの?」

 

「どうせトンキーに乗らないとダンジョンまで行けないんでしょ。いいから潔く腹括って飛び乗りなさいよクライン」

 

「し、シノン·······お前は相変わらずいい度胸してるな·······」

 

 

こうしてトンキーの主であるリーファが最初に彼の背中に飛び乗ると、それを参考に全員が彼の背中に飛び乗った。

 

そしてトンキーは大きく啼き声をあげるとその巨大な八枚の翅を広げ、白銀の世界を悠々と泳ぎ始めた

 

 

 

 

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