「行くぞッ!!」
クラウドの声が聞こえたかどうかというタイミングで、それらは動き出した。
クラウド、ユウキ、キリトの三人が一斉に自分の得物を抜き構える。
「来るぞ! クラウド、ユウキ! ユイの指示をよく聞いて序盤はひたすら回避に専念!!」
キリトが叫んだ直後、スリュムが大岩の如き右拳を天井近くまで高々と持ち上げ、青い霜の嵐を纏ったそれを猛然と振り下ろした。
王スリュムの序盤の攻撃は左右の拳によるボクシングスタイル。そして更には床から氷のドワーフ兵を十二体生み出すことができるというものだった。
ドワーフ達は後方に控えているシノンの正確な射撃によって瞬く間に片付けてくれた。
王スリュムが全身を使って躍動した。後ろ脚が地面を蹴った勢いを活かし、上体をのけ反らせ伸び上がるようにして跳ぶ。
「はやっ!?」
充分警戒していたというのに、ユウキは一瞬にしてその動きを見失った。慌てて周囲を見ればユウキの右後方、クラウドの目の前に着地している。
だがクラウドに攻撃を仕掛けるわけではない。あろうことか王スリュムはムーンサルトを繰り出し、後方にいるユウキ目掛けて足の先端が迫ってくる。
「え!?」
一度視界の外に出て、死角から跳びかかってきたのだ。それを理解した瞬間、ユウキは剣を盾にするも反応が遅すぎて吹っ飛ばされていた。受け身を取りながら地面を転がる。
突き出した足でまともに殴られたわけではない。つま先による蹴りで叩かれただけで、大事はなかった。
ユウキを蹴散らした王スリュムは標的を変え、今度はキリトに迫り来る。
あれほどの巨体とは思えない身軽さだ。もちろんさっきと同じ進路をたどり、蹴りを横に振る。着地と同時に地面を砕き、その巨体についた勢いを土埃を上げて殺し、反動をつけてキリトの横合いから襲いかかった。
「くぅッ!!」
ユウキが襲われたところを見ていたのだろう、ある程度予測していたキリトはどうにかそれを避ける。攻撃するどころの問題じゃなかった。
あんな不規則で鋭い動き、簡単には対応出来ない。
「はぁ、はぁ」
一瞬で、体の芯が凍えた。
それほどの動きである。
王スリュムは巨体に似合わないスピードでパンチやキックを放ってくる。
「ちっ!」
舌打ちをしながら強張る体を叱咤し、クラウドはアポカリプスを構え王スリュムへと駆け寄った。
『遅いわッ!!』
王スリュムがそう言うも、直後スリュムの目が何かにやられた。キリトに追撃を加えようとしたスリュムを、距離を取って間合いを計っていたシノンがスリュムの目を狙撃する。着弾と同時に火炎が弾けた。連続して三回、シノンの弓から放たれる矢が火を噴く。
シノンの持っている矢は特別製で、矢尻の先に炎を灯している。
目が焼かれたスリュムは両手で押さえるが、ゲージを見ても大して減っていないから鋭い攻撃にはならなかったらしい。
それでも、隙ができたことには変わらない。
「助かった!」
クラウドはそう言うと素早く体勢を立て直し、抜き放ったアポカリプスを振り上げる。そこに、王スリュムの横から再起したユウキがマクアフィテルを振り上げ駆け込んだ。
「ヤァァァァァアッ!!」
気合いを溜める余裕はない。ともかく一撃を叩き込む。
間合いを詰め、持ち上げた大剣の重量を感じながら、スリュムのスネに振り下ろす。自分達の武器ではスネ辺りが限界だった。シノンは頭や胴体を狙えるが、剣を得物としている者達はその巨体に圧倒されスネにしか攻撃が当たらない。
しかも、スネ辺りは攻撃判定が低く設定されているのか、ゲージがほとんど減らなかった。分厚いレギンスに守られたそこは金ミノタウロスほどではないにせよ高い物理耐性を示したのだ。
「クラウド!!」
「わかっているッ!!」
名を呼べば、後は視線と視線でお互いの意図は通じた。
クラウドがユウキがいる場所がスリュムの目に入らないように回り込む。アポカリプスを振り上げて斬り込んだ。
大上段から体重を乗せて斬り付け、体ごとぶつかるように突きをねじ込む。大剣の刃を上に向けると、反撃の隙を与えず斬り上げた。
いつもならここから横凪ぎに一閃加えるべきだったが、クラウドが気合いを込めようとした一瞬の隙に、スリュムはクラウドを振り切って跳躍した。
「ちぃっ!」
クラウドが視線で追う。それでもさっきのユウキのように死角から一撃されなかったのは幸運だろう。
キリトからもクラウドからも、もちろんユウキからも距離がある場所で、三人を確認するようにスリュムは身構えている。
『どうした? 来ないのか?』
「なんてラスボスだ·······ッ!!」
そうとしか言い表せない。
十分以上の奮戦の果てにようやく最初のゲージが消え、巨人の王がひときわ強烈な咆哮を轟かせた。
「パターン変わるぞ! 注意しろ!!」
「お兄ちゃんまずいよ! メダリオンの光が三つしか残ってない。多分あと十五分もない!」
「「「ッ!?」」」
先頭で戦っていたクラウド達の顔に焦りが浮かび始める。スリュムのゲージは三本。しかし一つを削るのに十分以上かかってしまう。残りの二本を十五分以内に削りきるのは難しいと言うしかない。
そんな時だった。
「剣士様」
不意に傍らから声がして、三人ともぎょっと目を見開いた。立っていたのはアスナの側で援護をしていると思っていたフレイヤだった。
彼女は金褐色の瞳でキリトを見つめ、AI化されたNPCは言った。
「このままではスリュムを倒すことはできません。望みはただ一つ、この部屋の何処かに埋もれているはずの我が一族の秘宝だけです。あれを取り戻せば、私の真の力もまた蘇り、スリュムをしりぞけられましょう」
「し、真の力·······?」
キリトは呼吸一回分の時間を費やして迷ったが、即決断した。今更その真の力を取り戻したフレイヤが自分達を裏切りスリュム側についたとしても、元からもう限界に近い状態なのだ。
このまま持久戦に持ち込んで壊滅はしなくてもクエストの時間切れとなってしまい、全てが無駄に終わってしまう。ならば、なんでもかんでも使ってみるべきだ。
「解った。宝物ってどんなのだ?」
NPCが認識できるギリギリの早口で訊ねたキリトに、フレイヤは両手を大きく広げて見せた。
「このくらいの大きさの『
「·······は? なぎなた?」
「『
キリトに訊ねられたフレイヤは両手を限界まで広げてそう言い、薙刀という美女には似つかわしくないワードにキリトは首を傾げた。
「つってもなぁ·······この部屋ただでさえ黄金だらけだし、この山のように積み上げられた宝ん中から薙刀なんて探しようが」
「·······あーっ!! 思い出した!! お兄ちゃん! 部屋のお宝に手当たり次第に雷系のスキルを使って!」
すると突然キリト達の会話を横聞きしていたリーファが大声をあげ、キリトに意味不明な指示を出した。
「は、はぁ!? それってどういう…!?」
「いいから早く!!!」
「ええいもうっ! お望み通りにぃぃぃいッ!!」
一瞬唖然として目を見開いたが、キリトは雷属性のダメージを生み出す魔法を気合いに乗せて思い切り床を蹴り跳ばす。
「せああッ!!」
キリトを中心にして部屋全体に雷撃が迸った。波紋となって広がった電撃は全ての財宝にあますことなく伝播していった。ガチガチと音を立て宝物同士が互いにぶつかり合う中、宝の山の中でまるでキリトの雷に共鳴するかのように何かがキラリと眩い光を放った。
「そこかっ!?」
キリトは一筋の光を放った何かを探し当てるべく宝の山を乱雑に荒らし始めた。すると財宝の中から顔を出したのは、刀の柄をただ長くしただけではなく、刀身及び柄の形状共に斬撃に特化させた『薙刀』が現れた。
「コレだよな! よっと·······ッ!? お、重ッ!?」
しかし、その薙刀はパーティーでクラウドに次ぐ筋力を誇るキリトでさえも楽に持ち上げることの叶わない激重の薙刀だった。
全身に力を入れ直しやっとのことで薙刀を持ち上げたキリトはそのまま薙刀をフレイヤに投げ渡した。
「ふ、フレイヤさん!コレを!!」
ブオンッ!! と、ハンマー投げのようにして放り投げると、パシッ! と、驚くことに、キリトがやっとのことで持ち上げた薙刀を、女性であり魔法使い型のステータスであるはずのフレイヤはいとも簡単に片手で受け止めた。
するとフレイヤは低い声で囁く。
「·······面構えは良し、腕前は·······これだけでは量れぬな」
パリッ、と空中にスパークが瞬く。
「彷徨いて·······刻の狭間の、橋の上」
フレイヤの音のない囁きの直後、彼女の頭上から一筋の雷光が降り注いだ。そして、うら若き美女にしてはどこか歌舞伎のような台詞を吐く。
そして、大声でこう宣言した。
「ギルガメッシュチェーンジッ!!」
その眩しさと衝撃に思わずフレイヤの近くにいたクラウドとキリトは尻餅をついた。
そして眩い光が晴れた先に立っていたのは、
「ここで会ったが100年目! “ギルガメッシュ”、ここに推参!」