ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第5章

 

 

「あ、あれ?」

 

 

リーファがその姿を見て唖然としている。周囲も同様。一緒にパーティーを組んだフレイヤさんの面影はすでにそこにはなかった。

 

そこにいたのは、一言で言えば武者だった。

 

歴史などに詳しいリーファはその姿を見て、ポロッと溢すような感じで呟いた。

 

 

「·······弁慶?」

 

 

リーファの言う通り、武者ではあるものの、どこか歌舞伎のような雰囲気も出ていた。

 

顔には歌舞伎における『隈取』のような模様がある。阿修羅のように腕の数が八本あり、様々な武器を持った大柄な姿。

 

 

「オッ·······」

 

「サンじゃんッ!!」

 

 

部屋のこちらとあちらで、男二人の絶叫が響いた。

 

もはや、クラインが皆の反対を押しきって救い出した美女の姿はどこにもなかった。圧倒的迫力で薙刀を構えた『ギルガメッシュ』という奴は、それぞれの腕に剣や槍、レイピアに弓、刀と斧、そしてバットなど様々な武器を装備して立っていた。

 

つい数十秒前までは『Freyja』と記されていたはずなのに、いつの間にか名前の覧には『Gilgamesh』となっていた。

 

神話伝承の類にはさしたる知識もないキリトですら、それなりに聞き覚えのある名前だった。

 

古代メソポタミアの叙事詩に登場する半神半人の英雄で、ウル第一王朝第五代の王である男の名前。

 

ウルク第一王朝の伝説的な王ルガルバンダを父に、女神リマト・ニンスンを母に持ち、シュメールの最高神アヌ、主神エンリル、水と知恵の神エンキから知恵を授かる。その体は三分の二が神、三分の一が人間という半神半人であった。

 

しかし、おかしい。

 

おかしすぎる。

 

今は北欧神話をモチーフにした世界を探索しているはず。

 

なのに、今目の前にいるのはメソポタミア神話に出てくる登場人物。しかも格好はどう見ても平家物語で牛若丸と橋の上で対決した弁慶の姿そのものだった。

 

日本昔話とメソポタミア神話を掛け合わせたような存在が、キリト達の前に立っていた。

 

パーティーメンバーに名前があることから味方なのだろうが、フレイヤを助けてあげたクラインの心情は如何なるものか。

 

と、皆が唖然して動けない中、そのギルガメッシュが腕を上にあげて叫ぶ。

 

 

「ふはははははは·······」

 

「「「「「「「「「·······?」」」」」」」」」

 

「待っていたぞこの時を、来なかったらどうしようかと不安になっていたところだ」

 

 

ギルガメッシュは、右手に握った巨大な薙刀を振りかざし、残りの武器達も構え、分厚い床を踏み抜かんばかりの勢いで突進した。

 

対する霜の王スリュムは、両手にふうっと息を吹き付けると、そこに氷の戦斧を生み出し、ギルガメッシュの薙刀を受け止める。

 

 

『貴様、何者だ。儂が閉じ込めたフレイヤ殿はどこへ行った?』

 

「うぬぬ·······身の内より湧き出でしこの欲求·······」

 

『答えろ、貴様は何者だ?』

 

「我は、伝説の武器を求めここへやって来た。そう、『エクスカリバー』を我が手にするためにッ!!」

 

『小汚ない無礼者が、よくも儂をたばかってくれたな!! その頭巾を切り離して、ヘルヘイムへと送り出してやろうぞ』

 

 

広間の中央で、赤ずきんと青ひげの大巨人達は、薙刀と氷のバトルアックスを轟然と打ち合わせた。両者の武器が衝突すると衝撃波が周囲に撒き散らされる。

 

ボーッと立っていたキリト達はその衝撃波に吹き飛ばされ壁に背中を打ったが、ダメージはない。

 

すると、一番最初に再起したシノンが鋭く叫んだ。

 

 

「アイツがタゲ取っている間に全員で攻撃しようッ!!」

 

「「「「「「「「!!」」」」」」」」

 

 

その言葉に、全員がようやく得物を取る。確かに、あのギルガメッシュと名乗ったNPCが最後まで戦ってくれるという保証はない。

 

クラウド達は鋭く剣を振り、声を張り上げた。

 

 

「行くぞ! 今度こそ仕留めるんだッ!!」

 

「「「「「「「「おおー!」」」」」」」」

 

 

そして九人は一気に床を蹴り、スリュムに四方から肉薄した。

 

クラウドはアポカリプスを構えてスリュムに向かい、ユウキはそんなクラウドに武器が当たらないように隣で剣を振るった。

 

キリトが振るう。

 

クラウドが振り下ろす。

 

ユウキが突き刺す。

 

限られた時間で、精一杯の攻撃を試みる。ただ、スリュムを縛り付けておける状況は思った以上に短かった。

 

 

『ぐ·······ぬむゥ·······ッ!!』

 

 

全員からの攻撃にたまらず唸り声を漏らしたスリュムが、ぐらりと体を揺らし、ついに左膝を床に着いた。王冠の周囲を黄色いライトエフェクトが回転している。

 

スタン状態へと持ち込んだその時、

 

 

「むむ、この気配はもしや·······ッ!!」

 

 

スリュムと拮抗状態だったギルガメッシュが何かの気配を感じとる。すると、奥歯を噛み締めて絞り出すようにこう言った。

 

 

「伝説の聖剣、『エクスカリバー』の気配ッ!!」

 

 

そして左腕の一本を差し出すと、そこから『青い剣』を何もない空間から出現させた。そしてそれをスリュムに向けて振り下ろす。

 

 

「聖剣のサビとなるがよいぃぃぃいッ!!」

 

 

声を張り上げ、全身に力を込めてエクスカリバーで斬り付ける。

 

が。

 

ガキン! と。

 

ダメージはおろかかすり傷すらつけられなかった。

 

 

「んん?」

 

 

そしてギルガメッシュは自分の持っている武器を見直すと、

 

 

「エクスカリバーじゃな~いッ!! エクスカリ“パ”ーではないか!」

 

「「「「「「「「「·······」」」」」」」」」

 

「·······まあいいか·······」

 

 

ギルガメッシュは青い剣を構え、

 

 

「剣豪は、得物を選ばずッ!!」

 

 

ギルガメッシュが流れるような動きで連続して斬り付け、彼の持つ大剣が岩をも砕く一撃を繰り出す。八本の腕で連続した攻撃の前に、さすがのスリュムも簡単には抜け出せない。この隙を使って、ギルガメッシュは懐からまた新たな武器を取り出した。

 

 

「終わらせてやろう」

 

 

優雅なまでの動きで円を描く太刀は、凄まじい勢いに威力を乗せてスリュムの体全体を巻き込ませる。斬り付けると同時に嵐が発生し、瞬時に逆の円を描き二の太刀をねじ込み、腕だけで捻るように二度斬り付ける。

 

そして最後に全体重を乗せた一撃を叩き込んだ。

 

 

『ぎにゃぁぁぁぁぁぁあッ!!』

 

 

ゲージが最後の一本になるとギルガメッシュは強烈な嵐を生んで壁側まで吹き飛ばした。

 

斬鉄剣。

 

北欧神話の神のはずのオーディンが持つ武器を手にしたギルガメッシュは、一瞬でスリュムを倒した。凄まじい規模のエンドフレイムが巻き起こり、霜の巨人の王は無数の氷片となって爆散した。

 

エフェクトの圧力に思わず手をかざし数歩下がったキリト達を白い目で睥睨する。

 

 

「ふっ、どうした? 我の顔を見て惚れでもしたか?」

 

「「「「「「ありえません」」」」」」

 

 

女性陣が声を揃えてそう言った。

 

だがギルガメッシュは続ける。

 

 

「ふっ、まあ言葉を失うのも無理はない。我はこの世界の住人ではないのだからな」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

「だがこの通り地獄の淵から、いや次元の狭間から、現実世界にみごとに生還したのだ」

 

 

そう自慢げに話すギルガメッシュだったが、クラウドが一歩前に出て指摘する。

 

 

「ここは仮想空間だぞ?」

 

「ん? なんだって?」

 

「仮想空間だ」

 

「かそう·······くうかん?」

 

 

棒読みで復唱するギルガメッシュは耳に手を当てて何を言っているのか確かめるようにクラウドの言葉をもう一度聞く。

 

 

「もう一回言ってくれ」

 

「か・そ・う・く・う・か・ん・だ」

 

 

いい加減馬鹿馬鹿しくなってきたクラウドはため息をつき、ラスボスを倒したことを確認すると、ギルガメッシュを素通りしてダンジョンの奥深くへ行こうと皆に提案する。

 

 

「さっさと行くぞ、時間がない」

 

「あ、ああ」

 

「そ、そうだね」

 

 

そうして皆がギルガメッシュの横を通りすぎようとした時、

 

 

待てえぇぇぇぇえいッ!!

 

 

全員の行く手を阻むように回り込まれてしまった。クラウドはパーティーメンバーを代表して話しかける。

 

 

「なんだ、まだ何か用があるのか?」

 

「幾千の世界、剣豪を名乗るのは一人でよし·······ここを通りたくば、お主らが背負いし宿命の剣、いただこうか!!」

 

「はあ? 何言ってんだコイツ!?」

 

 

同じ武者の格好をしているクラインがそうツッコミを入れた。他の者達も同様、なんで武器を渡さなきゃならんのかとブーイングを起こしている。

 

それでもギルガメッシュは揺らがない。

 

己の信念を貫き通すかのように、腕を組んで仁王立ちする。

 

 

「ふはははははは、我こそは時空の風来坊! 渡り歩いた世界は数知れず、そこで出会ってきた強敵たちを打ち倒した我に武器を渡すのは当然のこと!!」

 

「つまり·······アンタは俺達より強いから武器を渡せってことか?」

 

「左様。さあ、ここを通りたければ武器を置い────」

 

「ちょっ!? なあおい!!」

 

 

そこで言葉は途切れた。

キリトがギルガメッシュに話しかけたからだ。

 

ギルガメッシュはそんなキリトに対して目を細め、

 

 

「どうした? そうやってよそ見させてその隙に通り抜けようという作戦か? 残念だったな、我に隙など─────」

 

「そうじゃなくて、なんかお前、体が透けてないか?」

 

「な、なんだと·······?」

 

 

そう言われてギルガメッシュは自分の体を確かめるべくペタペタと体のあちこちを触る。

 

 

「あ、ほんとだ」

 

 

自分の体が透き通ってるのを認識すると、何か嫌な予感を感じたのか、冷や汗が噴き出してくる。

 

 

「ま、まさか次元の狭間の影響で·······ッ!?」

 

 

するとギルガメッシュの足元に亀裂が入り、黒いブラックホールのようなものが生まれる。そこにギルガメッシュは徐々に徐々に沈んでいっている。

 

 

「ま、まずい·······また次元の狭間に戻される!?」

 

 

ギルガメッシュは次元の狭間に吸い込まれながらも、悪あがきをするかのように抵抗する。

 

 

「いやだッ!! 待ってッ!? お願いッ!!」

 

 

しかしやがてギルガメッシュよりも大きくなった亀裂は彼の体を完全に飲み込んだ。

 

 

「ぐああああッ!!」

 

「あ、おい!?」

 

「くそぉ、待ってろよぉ! 俺は、必ずここに戻ってくるからなッ!! ·······あぁぁぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇっ!?

 

「「「「「「「「「·······」」」」」」」」」

 

 

英雄王の名を冠する者には似つかわしくないほど軽い別れと共に、ギルガメッシュの身体は亀裂に吸い込まれ、一瞬の明滅の後にその場から消え去った。

 

 

「·······なんとも、変な奴だったな」

 

「運営側はもっとこう·······威厳のある感じの登場人物を作ろうとしなかったんですかね?」

 

「フレイヤの時はあんなにビジュアル良かったのに·······」

 

 

ギルガメッシュが消え去ったのを見届けたキリトが開口一番に言うと、それに続いてシリカとリズも呆れながらため息を吐いた。

 

すると·······

 

ゴゴゴッ!! と。地面が揺れ始めた。

 

 

「「「うわあああっ!?!?」」」

 

「こ、今度は一体なに!? なんの揺れッ!?」

 

「動いてる·······いや、浮いてる!?」

 

 

突如として地震のような激しい揺れが起こり、クラウド達はたまらず悲鳴と共に体勢を崩した。

 

新たな事象の予兆にいち早く気づいたユウキが叫ぶと、その感覚を肌で感じたシノンが答えた。

 

 

「お、お兄ちゃん! これ、クエストまだ終わってないッ!!」

 

「な、なにぃ!?」

 

「た、確かに考えてみればそうだよ! ウルズさんから言われたクエストの目的はスリュムを倒すことじゃない! エクスキャリバーを台座から引き抜くことだもんッ!!」

 

 

首にぶら下げたメダリオンがまだ光を残しているのを確認したリーファが言うと、完全にクエストクリアの気分に浸っていたキリトとクラウドが驚愕の声を上げたが、ユウキが現実に引き戻すようにクエストの目的を叫んだ。

 

 

「パパ! スリュムの玉座の後ろに新しく下り階段が形成されています!」

 

「よし! ありがとうユイ! みんな行くぞ!」

 

「「ああ」」

 

「「「「「「うん!」」」」」」

 

 

そしてユイの指示通りに一行は新たに形成された下り階段を一気に駆け下りると、広さはさほどではないが、壁がかなり薄く透けており、ヨツンヘイムを一望できる部屋へたどり着いた。

 

そしてその部屋の中央に、黄金の光を放つ一本の剣が台座に突き立てられていた。

 

 

「これが·······『聖剣エクスキャリバー』」

 

「·······綺麗·······」

 

 

その場にいる誰もが思わず息を呑んだ。その神々しさに言葉を失った。

 

黄金の刀身は一切の汚れを許さず、その佇まいはまさに後世に語り継がれし伝説を象徴していた。

 

 

「·······抜けよ、キリト」

 

「ああ、いよいよだ」

 

 

ガシッ! と。

 

キリトがエクスキャリバーの柄を掴み引き抜こうとしたが、エクスキャリバーは微動だにしなかった。

 

そこでキリトは柄を両手で持ち、自身の筋力パラメータが許す限りの力を込めた。

 

 

「ぬっ! ぐっ! ああっ! うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

 

「引き抜けキリト!」

 

「頑張ってキリト君!」

 

「根性見せて!」

 

「あっ! ちょっと動いたよお兄ちゃん!」

 

「ファイトです!キリトさん!」

 

「くるるるぅ!」

 

「ほら!もう一声!」

 

「後ちょっとです! パパ!」

 

 

皆の声援に応えるように、キリトは限界を超えてエクスキャリバーを引き抜こうとする。

 

 

「ぬぅおおおおおおおお!!!!!」

 

 

バキバキバキバキッ! バリィンッ!! と。

 

雄叫びを上げながらキリトはついに氷の台座からエクスキャリバーを引き抜いた。

 

するとその瞬間、猛烈な光が皆の視界を金色に塗り潰した。

 

そしてその直後に、丁度エクスキャリバーが刺さっていたへこみから小さな木の根が生えて来たかと思えば、みるみる内に成長し、部屋の天井へと伸びていった。

 

 

「ちょ、ちょおおおっ!? こ、これ流石にマズイんじゃないの!?」

 

 

世界樹の根が生えてくるのとほぼ同時に、先ほどまで治っていた地鳴りが再び一行を襲った。

 

しかし今度の地鳴りは前回とは比べ物にならないほど激しく揺れていたため、リーファは動揺を隠しきれなかった。

 

 

「す、スリュムヘイム全体が崩壊しています! このままでは十秒後にこのスリュムヘイムごと垂直落下します! パパ! 脱出をッ!!」

 

「って言っても、もう階段が世界樹の根に覆い被さってて·······ッ!!」

 

「ちょっと世界樹ぅ! そりゃあんまりにも薄情ってもんじゃないのッ!?」

 

「そうよアンタ仮にも私たち妖精を守る世界樹でしょうがーっ!!」

 

 

リズとシノンが世界樹に向かって右拳を上げながら懸命に抗議するが、いかに世界樹と言えど所詮は樹木。

 

いくら呼びかけてもうんともすんとも言わず、その太い根を伸ばし続けていた。

 

 

「もう·······! これ以上は保たないよキリト君!?」

 

「み、みんな掴まれーっ!!」

 

「「「「「「「「何にっ!?」」」」」」」」

 

 

アスナの状況判断が耳に入ったキリトが皆へと呼びかけたが、一同の満場一致の返答を叫んだ直後に薄い透明な壁にヒビ割れが走り、数秒と保たずに壁が崩壊し落下が始まった。

 

 

「「「「「「ひぃやああああああ!?」」」」」」」

 

「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

女性陣はもちろんのこと、クラインも可愛い悲鳴を上げながら落下していく足場の氷塊にへばりついてた。

 

一行を乗せた氷塊はその勢いが落ちるどころか、下で大口を広げるグレードボイドに向かって一直線に加速しながら落下していった。

 

 

「·······とりあえず落っこちるのを前提で聞くんだが、一体この下には何があるんだ?」

 

「なんでそんなに冷静でいられるのクラウド!? ボク達今落ちてるんだよ!?」

 

「とにかくこれは死ぬわよ!? 誰がどんだけ防御系バフかけても絶対死ぬわよ!?」

 

「シリカなんてもう既に息してないわよ!?」

 

「ふにゃあ~」

 

「きゅるぅ!?」

 

「り、リリ、リーファ!? メダリオンの方はどうなってる!? まだ丘の巨人族の皆はまだ生きてるか!?」

 

「えっ!? あっ! まだ一つだけ光が残ってる! 間に合ったよお兄ちゃんッ!!」

 

「そ、そっかそりゃ良かった! 俺たちも無駄死にじゃないな! ああいいよいいよ! みんなが無事ならエクスキャリバーなんてどうでもいいさ俺は! 大体俺にこんな金ピカ武器は似合わないね! あぁむしろ手放せて清々するまであるね!」

 

「言ってる場合ぃぃぃぃぃいッ!?」

 

「「「「「「「「ぎゃああああああッ!!」」」」」」」」

 

 

珍しくアスナが全力でキリトにツッコミを入れると、もう一度一際大きな悲鳴が上がった。

 

地面はもうかなり近づき、グレードボイド到達までは残り六◯秒かといったところで、謎の唸り声が聞こえ、リーファがそれに気づいた。

 

 

くぉぉぉぉぉ·······

 

 

「? 何か聞こえた?」

 

「え?」

 

 

くおおおおおーん·······!

 

 

「ほら、また!!」

 

「!! こ、この声は…!」

 

 

くおおおおおぉぉぉぉぉん!!!

 

 

「「「「「「「「トンキー!!!」」」」」」」」

 

 

次第に大きくなる謎の啼き声の方向へ視線を向けると、そこにはクラウド達をスリュムヘイムへと送り届けたトンキーが彼らを迎えに飛んで来ていた。

 

 

「た、助かった·······みんな、トンキーに乗り移ろう」

 

「あはははは·······運が味方したって言ったら逆にトンキーに失礼だなこれは」

 

 

トンキーがクラウド達の元へ到着すると、皆次々にトンキーの背中へと飛び移っていき、最後にクラウドとキリト、そしてユイが氷塊に残った。

 

 

「さぁ! 私達も行きましょうパパ!」

 

「·······ああ、そうだな」

 

「·······パパ?」

 

 

笑顔で声をかけたユイとは対照的に、キリトはエクスキャリバーを握りしめたまま眉間に皺を寄せ、しかめ面で黄金の聖剣を見つめていた。

 

よく見てみると、聖剣を握るその手は小刻みに震えていて、聖剣とキリトの重量がのしかかった氷塊には既にヒビが入っており、そのままの状態でトンキーに飛び移るのが不可能であることは火を見るより明らかであった。

 

 

「はははっ·······今の俺には重すぎるってか。まったくカーディナルってのはッ!!」

 

 

ついに苦渋の決断を下したキリトはエクスキャリバーを投げ捨てようと大きく後ろに振りかぶった。

 

そして。

 

そのまま遠心力を利用してエクスキャリバーを放り投げようとしたその瞬間、

 

バシッ!!と。

 

キリトの腕を誰かが掴んだ。

 

 

「·······え?」

 

「ここまで付き合わせておいて、捨てるなんて真似させないぞキリト」

 

 

後ろまで振りかぶった先でキリトの手が止まった。

 

何故かと思い後ろを振り返ると、そこには投げ捨てようとした聖剣の柄を右手で掴んだクラウドがいた。

 

 

「い、いやそうは言っても今の俺じゃこれ持ったまま向こうには飛び移れないんだ。仕方ないけどこうするしか方法は·······ッ!!」

 

「それは、()()()()()()()()()()()。別にウルズはいつ、誰が持って来いなんて言わなかった」

 

「!!」

 

「今だけは俺が持って帰っておいてやる。キリトがコイツに相応しい力を身につけた時に、改めて俺のストレージからコイツを引っこ抜けばいい」

 

「·······へっ、カッコつけやがって」

 

「·······カッコつけてるつもりはない」

 

「私に言わせればパパもクラウドさんもお互い様です!」

 

 

ユイがそう言うとクラウドとキリトは互いに笑い合い、キリトがエクスキャリバーの柄から手を離し、パーティの中でも頭一つ抜けた筋力を持つクラウドがエクスキャリバーを肩に担いだ。

 

そして二人とユイは無事にトンキーへと乗り移り、ヨツンヘイムがグレードボイドの底へと沈んでいく様子を見届けた。

 

 

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