ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第7章

 

 

少女の年頃は十三、十四のように見えた。

 

名前は“シリカ”というらしい。

 

全体的に華奢で髪を横に二つまとめて幼い印象を見せており、黄色い装備を着込んで短剣を使うというのが特徴的だった。何となく猫というかちょっと小動物のような印象を持った。

 

少女は少年と、そしてクラウドと同じ空間にいる。同じ宿屋でそれぞれ食事を取っている。

 

無論、クラウドは本当はこんな展開を望んだわけではない。

 

なんか肩書きで呼ばれたからそれが不快で名前を名乗ってみたら、どういうわけかこうなったのだ。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

なんか変なところに巻き込まれてしまったらしい。

 

依頼が終わったんでアルゴに報告しにいくためにフィールドから抜けようとしたところ、二人も一緒についてきた。ここを抜けるのは大変なのに、わざわざ自分の後をついてくるのが不思議に思ったクラウドはフィールドを移動するための転移結晶を持っていないのか尋ねてみようとも思ったが、やっぱり詮索しないことにした。

 

正直どうでもいい、自分に危害を加えてこなければこっちも何も聞かないし何もしない。

 

と、そんなこんなで三十五層にまで戻ってきたのだが、

 

 

「シリカちゃん!!」

 

「!?」

 

「随分遅かったんだね? 心配したよ、ロザリアさんのパーティー抜けたんだって?」

 

「あ、あの················」

 

「じゃあさじゃあさ! 今度俺たちとパーティー組もうよ! 好きなとこ連れてってあげるから!」

 

「い、いや········その········あの····················」

 

 

帰って来た途端に一体自分は何を見ているんだろうか。

自分たちよりもはるかに年下の女の子にナンパしている男どもをクラウドは呆れた目で見つめていた。

 

だがナンパにしてはどうも顔見知りといった感じだ。どうやらシリカは顔が広いようで多くのプレイヤーとパーティーを組んだことがあると見受けられる。

 

だが、男どものやり方がどう見てもナンパにしか見えない。前のパーティーから抜けて現在はフリーとなっているのを逸早く聞いている辺り、なんとなくだがこいつらはシリカを前から追っかけているのだろうと勝手に思った。

 

急な勧誘に戸惑いを隠せていないシリカはまた恐る恐るといった感じで、

 

 

「あ、あの············お話はとてもありがたいんですが············()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「····················え?」

 

 

聞き間違いだろうか。

 

なんか“人達”という複数系のような単語が聞こえてきたのだが。

 

 

「えっと、パーティーってこいつらと?」

 

「はい················もうこの人達とパーティーを組んでしまっているので············だから、すみません」

 

 

そう言ってシリカは隣にいるキリトだけでなく、後ろにいるクラウドにまで視線を送ってくる。

 

受け答えが嫌味にならないように言葉を慎重に選ぼうとしているが咄嗟の状況だったのでまともな返答が思い浮かばず、一生懸命に頭を下げながら目の前にいる男達の誘いを断った。

 

 

「············こんな奴らと?」

 

「マジかよシリカちゃん」

 

 

不満と嫉妬に満ちた声色で男どもはクラウド達を睨む。

取り囲むプレイヤー達の心情はなんとなく察しはしたが、それ以上にクラウドは困惑していた。

 

初耳だった。

 

いつ自分はパーティーを組んだんだと、別のところばかり気にしていた。

 

だが男達はそんなことは構わずさっきからずっとこちらを睨んできている。キリトの方も同様。男達は二人のつま先から頭のてっぺんまで細かく見てくる。

 

体格と装備一式。

 

キリトに対しては嘲笑を注ぐような視線を向けて鼻で笑っていた。確かにクラウドと比べると彼の体格は細く見える。外見だけを見ればあんまり強そうには見えない。

 

対してクラウドの方はどうかというと、装備の方に奴らは注目を置いていた。剣はどこにも売っていない非売品の大剣に見えるのでそこだけは認めているようだが、その代わり防具の方に奴らは注目している。

 

腕が露出していて肩当ても片方にしかなく、どう見ても防御力に欠けている。

 

 

「おい」

 

 

すると、男どもの一人がキリトに向かって不満げな声で告げる。

 

 

「どこの誰だか知らねぇが、抜け駆けはやめろよ。俺たちはずっと前からシリカちゃんに声かけてんだぜ?」

 

「いや············そう言われても成り行きで············」

 

 

シリカと同様受け答えに困っているのか、あんまり言い返さなかった。

あまりにもシリカとパーティーを組むことに不満があるのだろうか、キリトに対して変な因縁をつけてきていた。

 

 

「なぁ、あんた」

 

「!」

 

 

と、もう一人の小柄な男がクラウドにも因縁つけるかのように前に出てきて、身長差から顔を覗き込むように睨んで口を開いた。

 

 

「あんた、上手いことやったな。どうやってシリカちゃんに取り入ったのかは大体わかるが、あんたじゃ荷が重すぎると思うぜ。その役目変わってくれよ」

 

「························」

 

 

面倒だな、とクラウドは眉をひそめる。

 

正直、そんな台詞を聞いただけでこいつらの力量なんてたかが知れてる。

 

素直にそんな三下染みた台詞を吐く奴がいるなんてとクラウドは呆れていた。あまりにも自分の実力をわかってなさすぎる上に相手の実力も碌に測れない。そんな奴と組んだら逆にシリカに迷惑がかかると思うが、何を言っても自分の意見が正しいという断言調を多用してでも反論してきそうだ。

 

故に、そのことについては何も言うまい。

 

一応こいつらはクラウドのことは知らないご様子だ。救援プレイヤーだのチーターだのビーターだのと呼ばずに、ただあんたとよくある二人称を使っていることからこいつらの情報収集力も視野の狭さも察せれる。だからこそ、相手の実力も測れない愚か者だと第三者から認識されてしまう。

 

そんなやつに何か言ったらしつこく食いついてくるだけだし、そんな面倒なことだけは避けなければならない。

 

だから相手がなんと言おうとそういうくだらない煽りには一切気にせず、普通に無視をしましょう。

 

 

「あんたには無理だ」

 

「ああ!?」

 

 

無理でした。

 

不快げな口調で眉間にシワを寄せているのを見ると、意外と彼は煽り耐性がそんなにないのかもしれない。直球で不快感をさらけ出す奴もどうかと思うが、実力に至っては確かにクラウドの方が上なのはまず間違いはない。わけのわかんない状況の中めんどくさい奴らに絡まれた、なぜこんなことに巻き込まれなければならないのか、なんでいきなり変な因縁をつけられなければならんのかと、不満だらけの状況の中では流石のクラウドもこめかみに青筋を立てるようだ。

 

冷静な顔をしているものの、どこかムスッとしているように見える。

 

というかなんでそんなにもこんな小さな女の子に執着するのか。一、二歳ならともかく、明らかに歳が離れすぎているのにこんなにも食いついてくるなんて、なんというか理解ができなかった。

 

ついでに言うと、男の方も煽り耐性がなかった。クラウドが冷たく言い放つと、男は狂犬みたいに歯を強く噛み締めている。

 

そして身長差もあってかクラウドは顎をあげて睥睨し、男は奥歯を食いしばりながら睨んでいる。キリトの方はそうでもないみたいだが、クラウドの方は険悪な雰囲気が発生している。

 

それを見たシリカは男たちに向かって、

 

 

「あ、あの! 私から頼んだんです!!」

 

「「!?」」

 

「せっかくお誘いいただいたのに申し訳ないですが、もうこの二人とパーティーを組んでるので!! その、すみませんッ!!」

 

 

自棄にも似た謝罪。

一瞬言葉を詰まらせたが、誠心誠意に頭を深く下げて精一杯断りの言葉を告げた。それだけを言うとシリカは乱暴にキリトの袖を、そしてクラウドの腕を引っ張って逃げるようにそこから立ち去って行く。

 

クラウドはいきなりの行動に戸惑ってつい「お、おい!?」なんて言葉を漏らしてしまったが、シリカは構わず連れて行く。

 

 

「うぅ··········シリカちゃん」

 

「次こそは····················」

 

 

そんな様子を、男どもは未練がましく見送った。

遠ざかって行くシリカの背をしつこく見ているが、シリカの方は一刻も早くこんな状況から抜け出したかったんだろう。結構な早足で男どもから遠ざかって行く。それからわかる通り、多分シリカはこいつらのことを腫物扱いしていると見える。

 

おそらく、次も断られるだろう。あんまりしつこいと人から嫌われるということを改めて理解したクラウドとキリトであった。

 

と、しばらく歩いていると、プレイヤー達の姿が一切見えないところまでやって来ていた。

 

それを確認するとようやくシリカは掴んでいた手を離し、安堵を浮かべたように重たく息を吐き出した。緊張していたというのもあるだろう、ホッと肩の力を抜いた途端に二人の方に振り返って、かと思えば顔を真っ赤にさせて両手をバタバタと振りながら、

 

 

「す、すみません! お二人に迷惑をかけちゃって!!」

 

「いや、俺は別に大丈夫だけど······························」

 

「あ、あの! 本当に、本当にすみませんでした! あなたの同意もなしに勝手にパーティーを組んだなんて言ってしまってッ!!」

 

「····························································」

 

 

キリトの方はまるで気にしていないように笑みを見せているが、クラウドの方は少々不服そうな表情であった。望んでもいない状況に勝手に巻き込まれた挙句に変な因縁つけられてしまって大変不満のようである。

 

一方、シリカはシリカで良い言い訳が思いつかないのかクラウドにとにかく頭を下げている。

 

小声早口で言い訳らしいものを連続させているが、別に彼女が悪いわけではないことはクラウドにだってわかっている。あの状況をどうにかして切り抜けようとしてもいい方法が思い浮かばなかったんだろう。だからキリトとクラウドにも協力してもらったといったところか。

 

まぁ、結果的に面倒な場から抜け出せたのだからそれでもう良しとしよう。

 

 

「·············もう終わったことだ。別にいい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

そう言われてシリカはホッとしたような表情を浮かべる。

 

 

「それにしてもすごいなシリカさんは。みんなから人気があるんだね」

 

「シリカでいいですよ。そんなことないです。きっとみんな私をマスコット代わりに誘っているだけなんです」

 

 

キリトの言葉に謙遜な言葉を述べているが、どこか弱々しかった。

 

 

「でも、だからでしょうね············いい気になって、『ビーストテイマー』になったからって調子に乗っちゃって············だから、あんなことに」

 

 

止まらない後悔の言葉。

 

別に今そんなことを思いたいワケではないのに、自然と涙が溢れでる。頬を伝うのではなく涙袋の上を通って真下に落ちていき、そのまま涙がつい口に入ってなんかしょっぱい味がした。この世界では涙すらも味が再現されているのか。

 

いらないことをするものだ。そこまで再現しなくてもいいのに、その再現の高さが悲しみを増幅させる。自分は今泣いている、悲しい気持ちになっていると自覚させられ、その自覚さがさらにプレイヤーに感情を与える。

 

鬱陶しい機能に、シリカはまた自然と涙を浮かべていた。

 

 

「············大丈夫」

 

「?」

 

 

と、落ち着いた声がシリカの耳に入ってくる。

シリカはその声に反応するようにキリトの顔を見つめると、彼は優しい瞳でシリカを見つめながら微笑んでいた。

 

 

「絶対生き返らせてみせるさ、心配ないよ」

 

「······························はい!」

 

 

その言葉でシリカは救われた気がした。

心が軽くなった、希望が見出せた。不思議と彼の言葉には一切の偽りも感じられなかったので、この人の言うことなら信じられるかもと思えたのだ。

 

よく考えれば、そこまで心配するようなことではなかった。

 

足りないレベルを補うための装備を一式譲ってもらい、それに加えて最前線で戦っているプレイヤーがサポートしてくれる。ならばそこに不安感を抱く要素があるのだろうか。正直そんなイメージが湧かない。

 

彼の言葉には偽りはない。ならばきっと大丈夫、絶対生き返らせられるとシリカは思えたのだ。

 

 

「··························」

 

 

そんな様子を、クラウドは黙って見ていた。

 

彼女に何があったのか、一体どういう状況なのかはクラウドは知らない。ただ単に、二人が襲われそうになっていたところを救っただけ。その前後の出来事など彼は興味もなかったし、干渉する気もなかった。依頼が無ければ他者に関与することはない。それはプレイヤーのプライバシーの侵害にあたる。

 

勝手に手を出せばその人に迷惑をかけることになる。クラウドはそう考えていた。

 

正式な依頼が無ければ、自分の出る幕はない。

 

あの気分が悪い状況から抜け出すことに利用されたものの、金を取るつもりは全くない。自分もさっさと抜け出したかったし、結果的に抜け出せたから別にもうそのことについては気にする必要はない。

 

というわけで、いつまでもここに留まる必要はない。

 

 

「俺はこれで帰らせてもらう」

 

 

それだけを言うと、クラウドは背を向けた。

 

いつまでもここにいるわけにはいかない。こんな所にいては、自分のことを知っているやつらにまた変な因縁をつけられそうだ。そんな面倒事に巻き込まれる前に、さっさと退散する。

 

その時だった。

 

 

「ま、待ってください!! 待ってくださいってばッ!!」

 

 

さっきの少女だった。

 

だが大声で呼びかけて来る少女に、クラウドは振り返ろうともせず突き進む。面倒事に巻き込まれるのはもう嫌だという意思の現れか、なんか声が聞こえてきた瞬間にクラウドの足の速度が上がった気がする。

 

 

「っ!!」

 

 

そんなクラウドを行かせないように、シリカは一瞬恐るべき速度でクラウドを抜かした。

 

残像がその場に数秒残るほどの速度。その身体能力にクラウドは呆気を取られ、立ち去ることを忘れてその場で立ち止まった。

 

文字通りの瞬間移動をした事で体力を消耗したのか、肩で息をしながらも両手を広げて通らせないようにしている。

 

 

「お、お礼をさせてください」

 

「いらない」

 

 

それだけを言ってクラウドは横を通り過ぎようとする。

 

が、

 

ビュンッ!! と、クラウドの行く手を塞ぐように横にズレた。

 

 

「こ、この先にある宿に美味しいチーズケーキがあるんです。それを召し上がってからでも────」

 

「いらない」

 

 

金の無駄遣いはしない主義なんでと言うかのように即答し、クラウドはシリカの横をまた過ぎようとする。

 

が、またしてもビュンッ!! と、クラウドの行く手を塞ぐように横にズレた。

 

 

「た、助けてくれたお礼にご馳走しますから、どうかお話だけでも────────」

 

「いらない」

 

 

相も変わらずの返答だけしてまた横を通り過ぎようとする。

 

だが、シリカも退かない。通り過ぎようとするのならばまた行く手を阻むだけ。阻まれるのならまた横を通り過ぎようとすればいいだけ。そして通り過ぎようとするのであれば、またまた行く手を塞げばいい。行く手を塞がれたならまた別方向から通り過ぎればいい。

 

そしてそして、通り過ぎようとすれば────を、何度も繰り返す事で二人の体が何重にもブレるという奇妙な現象が発生していた。横を通らせないようにシリカは行く手を阻み、何としても抜けようとクラウドは的を絞らせないように高速で横に動いて隙を見つけたら抜けようとする。シリカもそれについて行くように反復横跳びを繰り返すことで、二人が何人もいるような錯覚が先ほどから呆然と見ているキリトの目に映っていた。

 

 

「································」

 

「ハァ·····ハァ······っ!!」

 

 

しばらくそのやり取りを繰り返していたが、シリカの体力が限界に近いことを悟ったのか、クラウドは動きを止める。クラウドは疲れを見せず汗ひとつ流さずにシリカのその様子を見ていたが、別の意味で汗を流していた。

 

·········しつこすぎる。

 

一体なぜそうまでしてお礼をしたいのか、クラウドには全く理解できない。お礼はいらないと言っているのに引き下がらずに何度も食いついて来るシリカに思わず呆れというか、なんか何とも言えない感情を抱く。

 

 

「お········お礼を、させてくださ、い···········」

 

 

と、息切れの中でシリカはそう告げた。

 

そうまでされてしまっては、クラウドは何も言えなかった。どうすれば良いのかわかっているはずなのに、その言葉が出てこない。断りを入れてもそれを拒絶して何度も申し出を入れて来る少女に、クラウドは頭を抱えている。

 

なんかまた面倒なことになってしまった、と。

 

目の辺りを押さえて悩んでいる最中、またひとつ面倒な事が投じられた。

 

 

「あ〜ら〜? シリカじゃな〜い」

 

「!?」

 

 

後ろから声が聞こえてきた。

目を見開いて呆然としているシリカを見たクラウドは、何事だと思ってそちらに振り返る。

 

宿の隣。

 

そこに立つ道具屋からぞろぞろと四、五人の集団が出てきて、その中で一番偉そうな槍使いの女性がこちらに近づいてきていた。

 

 

「!」

 

 

クラウドはそれを見て、何かに気づく。

だが、顔には出さずにそのまま何事もなさそうな表情でこちらにやって来る女性を見ていた。

 

 

「へ~? 森から脱出出来たんだ~? 良かったわね?」

 

「·········ロ、ロザリアさん·········」

 

 

今一番会いたくないやつに会ったような顔をするシリカ。

 

真っ赤な髪をした女性の名はロザリアというらしい。女性はシリカを見た瞬間に口を歪めて気色悪い嗤いを浮かべていたのを見ると、おそらくあまりいい間柄ではないようだ。

 

ロザリアはシリカを見下すようにして、

 

 

「でも今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったから」

 

「別に、要らないと言ったはずです··················」

 

「ふ〜んそう。それにしても─────」

 

 

早く会話を切り上げたかったシリカはただ口を閉じてしまう。

 

一刻も早くこいつから離れたいのに、そう簡単に解放させる気はないのかロザリアは会話を途切れさせないように言葉を続ける。

 

嗤って、わざとらしくシリカを追い詰めるように、

 

 

「あら? あのトカゲど~しちゃったの?」

 

「ッ!!」

 

 

シリカは強く唇をかんだ。それこそ血が出るくらい。仮想空間だから出血することはないので気付かれにくいが、嫌なところをついたという達成感をロザリアに与えるには十分だった。

 

使い魔となったモンスターは格納することも、誰かに預けることもできない。使い魔は主人からは離れないものなのに、それがいない。だからこそ、ロザリアは敢えてそんな質問をしたのだ。わかっているのにわざとらしく、シリカの心を抉るように言う。

 

 

「あ〜、もしかしてぇ───────」

 

「ピナは死にました··················でも!」

 

 

ロザリアが言う前に先に結論を述べるシリカは、ロザリアを睨みつけ、

 

 

「ピナは絶対に生き返らせます!」

 

「へぇ···········ってことは『思い出の丘』に行く気なんだ? でもアンタのレベルで攻略できるの?」

 

「ッ······················」

 

 

強気で言ったシリカに対して、ロザリアはなんとも思わずただ口笛を吹いてまたわざとらしくシリカに嫌な質問を投げかける。

 

ロザリアが言うのももっともな見解なので何も言い返せなくなってしまうシリカ。一応、キリトから底上げする装備を貰って同伴することになっているが、そんなことをこんなやつには言えない。言ったらまた嫌味を言われる。自分じゃ無理だから他人に頼るんだ、変わらないなみたいな言葉を並べてくるに違いない。

 

 

「で? あんたは何? さっきからずっとこっち見てきてるけど」

 

「·······································」

 

 

と、今度は隣にいたクラウドに矛先が移った。

クラウドがロザリアのことを観察していたことに気づかれ、気になったロザリアは薄く嗤ってこちらを見てきていた。

 

そんなロザリアにクラウドは、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

「あそこは難易度も低い。俺たちだけでも簡単に攻略できる」

 

「··························へぇ」

 

 

思いもよらない言葉にシリカは驚愕の表情を見せる。

 

ロザリアはそんなことを言うクラウドを値踏む視線で舐め回すように観察し、また口の端を歪ませて嘲笑を注ぐように、

 

 

「アンタもその子に垂らし込まれた口? 見たところ確かに強そうだけど··········はぁ!? アンタまさかその装備、初期のヤツじゃないでしょうね!? なに? ステ振りだけで満足してんの!? 難易度低いとは言うけど、そんなんで行くとか自殺しに行くのと同じよ!? あっはっはっは! 久しぶりに面白い冗談だわ~!」

 

 

初期装備だなんていつ言ったか、そんなことはどうでもいいがこうも嘲笑うように接して来るプレイヤーにクラウドは一瞬嫌悪感を抱く。確かにこの装備は初期から身につけており、そんな装備にステ振りだけで終わっているやつなんてもういないだろう。みんな強い装備を手に入れてさらに強化しているはずだ。

 

しかし、ここまでウザさにステ振りしたやつも珍しい。

 

是非ともその鬼太郎分けにして片目を隠しているその顔に一発拳をぶち込みたいところだが、そんな煽りでは彼はビクともしない。

 

あからさまにわざとらしい態度をするような奴は相手にならない。クラウドは格下を相手にしない主義だ。

 

だからこそ、彼は冷静にただ一言だけ返す。

 

 

「今にわかる」

 

「····················は?」

 

 

意味深な言葉だけを残して、クラウドはロザリアの横を通り過ぎて宿の方へと向かって行く。

 

本来帰るべきルートを外れて戻って行くクラウドにシリカも一瞬言葉を失っていたが、その後をついて行くようにシリカも宿屋へと足を向けた。クラウドに並ぶように歩きながら、シリカはクラウドのことを観察する。

 

よく見たら、クラウドの装備はあまり見たことがない。どこの装備屋にも売ってなさそうな防具に武器。初期装備なのかもわからないほど見たことがない格好をしている。

 

それなのに、何故ロザリアはこの装備を初期装備と言ったんだろうか。疑問だけが頭に浮かぶものの、シリカはロザリアの戯言だと勝手に結論づけて、先に宿屋の前に立っていたキリト共に入って行く。

 

 

「フッ············ま、精々頑張ってね」

 

 

そんな三人の背を見て、ロザリアは不気味に嗤っていた。

 

その笑みの裏に何が隠れているのか、その真相を知る者はいない。

 

少なくとも今のうちは。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「なんで、あんな意地悪なことを言うんだろう」

 

 

三人は宿屋のレストランで食事を取っていた。

 

小洒落たバーのような内装であんまりこういう場所に来ない者達であれば落ち着かないだろうが、どの宿屋のレストランもこんな感じでもうこのゲームをしているものなら何の違和感も感じなかった。クラウドだけはカウンター席で食事をとり、グラスに入ったワインを飲んでいる。その横に並ぶ無人の席、その奥にはバーカウンター。その近くにあるやたら小さなテーブルに、キリトとシリカは座っていた。

 

向かい合う形でそれぞれ食事を取っていたが、唐突にシリカが悲しそうに先ほどの女性プレイヤーに対しての話題を振ってきた。

 

それに対してキリトは、

 

 

「どんなゲームでも、キャラクターに身をやつすと人格が変わるプレイヤーは多いんだ。君は、MMOはここが初めてか?」

 

「はい、初めてです」

 

「だったらもう見てきたと思う。善人になる奴や悪人になる奴··············それをロールプレイって従来は言ってたんだけど、ここはそうじゃない」

 

 

そう言うとキリトは先ほどよりも声のトーンを落として、表情を険しくさせて説明する。

 

 

「異常な状態になってみんなまともな考えが出来ないんだろうな。プレイヤー全員が協力し合えばクリアだって出来るかもしれないけど、中にはゲームをクリアするためにやってきたわけじゃない連中だっている」

 

「?」

 

「ゲームをやる目的は人それぞれだ。単純にゲームをクリアして楽しむ奴もいれば、収集要素を楽しんで難関な依頼をこなして達成感を得るためにプレイする奴だっている。でも、中にはそんな奴らの邪魔をするためにプレイする奴だっている」

 

「!?」

 

「現実世界でのストレス発散に一番有効なのは何だと思う?」

 

「えっと··············やっぱりゲームとかそういう娯楽とかですか?」

 

「そうだな、娯楽によって人は不満を吐き出せる··············だけど、それだけじゃ足りない奴だっている」

 

「というと?」

 

「ゲームってのは普段の日常とは違った刺激を味わえるものだ。ファンタジーな世界を冒険したり、モンスターを倒したりといったな。そんな刺激を別の方向で楽しむ奴らがいる·······『破壊』といった刺激をな。積み重ねてきたものを破壊して他人の不幸を喜ぶ奴、必死に集めてきたものを奪う奴·······そして他のプレイヤーを殺して快楽を得るといった奴が沢山いる」

 

 

シリカは思わず恐怖感を抱いた。

話を聞くにつれてシリカの顔は青ざめて行き、今自分のいる場所ではそんな恐ろしいことが行われていると思うと体が勝手に震える。

 

キリトは自分で話をしていて、そんな風になっていることに対して悲しそうにしている。

 

 

「現実世界での不満だけでなく、ここに閉じ込められたことによってそいつらの感情のコントロールは効かなくなっていっている。だから、悪事を働くことに何の躊躇いもない。それに加えて、ここはゲームだ。現実の法律や常識は適用外と思っている奴が山ほどいる」

 

「·····················」

 

「だから俺は、そんな奴らの考えを認めたくない。そんな奴らは現実世界でも腐った奴らなんだと思う」

 

 

そんな奴らが今もこのゲームを穢していると思うと腹が立つ。そう言うかのように吐き捨て、怒りを抱くように顔を顰める。

 

 

「··············キリトさん」

 

「俺だってとても人のことは言えた義理じゃない。人助けなんて出来た試しがないし··············()()()()()()()()()()()()

 

「···································」

 

 

シリカは黙って彼の話を聞いていた。

 

彼の抱えているものは、きっと自分には理解できないほど重いものなんだろう。優しい言葉をかけようにも、その言葉が見つからない。下手なことを言えば余計に彼を追い詰めさせてしまうだけ。

 

だからシリカの取った行動は単純だった。

 

彼の両手を優しく握ってあげる、ただそれだけであった。

 

 

「··············キリトさんは、いい人です」

 

「シリカ?」

 

「だって··············私を助けてくれたじゃないですか」

 

 

不思議とその言葉に惹かれてしまった。

 

シリカのその言葉を聞いて、安堵したのか力んでいた力が徐々に抜けて行き、しかめていた表情も穏やかになっていく。

 

 

「ハハハッ··············俺が慰められちゃったな」

 

 

思わず笑みが零れる。

 

それを見た途端、シリカは自分の内側で何か熱いものが込み上げてくるのを感じた。胸を圧迫するかのような、それでいて心臓の鼓動がビートアップしていき、顔がどんどん熱くなっていく。

 

 

「あ·······えっと」

 

 

それに気づいたシリカは慌ててキリトの手を放してしまい、そのまま両手を自分の胸に持ってきて力強く押さえた。

 

 

「ど、どうしたんだシリカ?」

 

「な、何でもないです!! そ、そんなことよりもクラウドさん!! こっちに来て一緒に話しませんか!?」

 

 

と、誤魔化すようにクラウドに話題を振る。

さっきからこっちの話に一切介入せず黙ってワインを飲んでいるクラウドも巻き込むようにして何とか誤魔化そうとしているみたいだが、そう言うわけにはいかなかった。

 

 

「··············ってあれ? クラウドさんは?」

 

「え?」

 

 

そう言われてキリトもクラウドがいたであろうカウンターに視線を持っていく。

 

カウンターの手前にある十人以上が座れる席には誰もいなかった。奥ではNPCがプログラム通りに皿洗いをし、何事もなかったかのように片付けていた。それを終えるとカウンターの奥の棚に陳列しているボトルを整理し出す。

 

そう、いつもと変わらない風景だけがそこにはあった。

 

 

「ま、まさかあいつ··············っ!?」

 

「あ、キリトさんこれ······················」

 

 

逃げたか!? と思ったキリトだったがシリカが急に声をかける。

 

キリトの顔色が変わるが、カウンター席に近づいて行って『何か』を見つけたシリカはそれを手に取る。

 

小さなペーパーナプキンだった。

 

本来、口や手が汚れた時に使うそれには文字が刻まれていた。小さなペーパーナプキンに上手く収まるように端的に小さな文字で、そして誰が書いたのかもとてもわかりやすい文章でこう記述されていた。

 

 

 

明日の朝、四十七層の転移門前で待っている、と。

 

 

 

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