ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第2章

 

 

その日の空も晴れ渡っていた。

 

地平線の彼方まで続く青空から、太陽が降り注ぐ。

 

この仮想空間では、雨が降る方が珍しい。その証拠に、街に居並ぶ建物は大半が石造りの家だった。雨や嵐といった天候設定が安全圏内の街では設定されていないため、ほんの簡単な備えがあれば、それで事足りる。それ故か、この街に行き交う人々の性格もこの晴れ渡った青空みたいに大らかだった。

 

『セブンスヘブン』

 

フィールドに出掛ける前に様々なプレイヤー達が多く訪れる酒場。

 

フィールドへと向かう前に集合する者、あるいはフィールドから帰ってきたあとに身を休める者───こちらには二種類あり、無事にイベントクエストや採取やもしくはただ酒を飲みたいだけの者達は祝いの宴を開く。ちなみにこれがイベントクエストなどを失敗した場合、ここは反省会という会場にもなり得る。

 

そういった厳しさや甘さを兼ね備えた、プレイヤー達にとって一瞬の憩いの場がこの『セブンスヘブン』という酒場であった。

 

フィールドから戻ってきたアスナ達もまた、イベントクエストをこなして報酬の幾ばくかを受け取り、それを用いてこの酒場の店主であるティファに代金を払って、イベントクエスト達成のささやかな宴を催していた。

 

 

「よし! みんなジョッキは持ったね!」

 

「「「「うん!」」」」

 

「今回も難関なイベントクエストをクリアできた! みんなお疲れ様!!」

 

「「「「お疲れ様!!」」」」

 

 

ジョッキを互いに軽くぶつけ合って労った。

 

それぞれ得物を腰から下ろして楽な格好をしている。シリカはピナと共に運ばれてきた料理を食べ、リズベットとリーファはジョッキに入っていた飲み物をぐびっ! の飲み込み、シノンは頬杖をついてリラックスしていた。

 

アスナは素朴な笑顔を浮かべ、自分のジョッキを傾けながら料理に舌鼓を打った。

 

 

「みんな楽しそうだね」

 

 

そこへ一人のスプリガンの女性がやってくる。

 

スタイルが抜群な格好をしている女性の名前はティファ。

 

赤い目をして、全体的に美人でありながら強者感を出している顔立ち。今、それらは柔和な笑みと雰囲気を醸し出しているが、一目見るだけでただ者ではないことがわかる。

 

 

「ティファさん、今日は私たちのために祝いの場を設けてくれてありがとうございます!」

 

「気にしないでアスナ。とても難しいイベントクエストをクリアしたんだもの。パーッと楽しんでいって!」

 

 

最初に気付いたアスナがジョッキを持っていない方の手をティファに振る。シリカもリズベットも、リーファとシノンもそれに気付いて追加の料理を運んできたティファに体を向けた。

 

 

「みんなチームワークが凄いんだね。今回のクエストはかなりハードだったんでしょ? それなのにクリアしちゃうなんて凄いよ!」

 

「いやぁ、たまたま上手くいっただけですよ」

 

 

リーファが手を横に振って謙遜するが、ティファはお構い無く誉め続けた。

 

 

「でもたった五人で挑んでクリアしたのは本当に凄いことだと思うよ。だからこれはサービス、たっぷり楽しんでいってね!」

 

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 

 

アスナ達よりも年上だからだろうか、彼女は自分よりも年下のアスナ達をかわいい子供達のように見ていた。

 

また、アスナ達が受けたイベントクエストはかなり長く続くストーリーもので、熟練したプレイヤーですらも手こずる困難なクエストだった。それをたったの五人でクリアしたことに、アスナ自身でさえ驚いていた。

 

本当ならもう二人いても良かったのだが、キリトは都合が合わず、ユウキにも何故か断られてしまった。

 

 

「キリト君は仕方ないけど、なんでユウキは今回のクエスト断ったんだろう?」

 

 

そうアスナが口にした途端、リズベットの表情が変わった。

 

 

「あれ? アスナ知らないの?」

 

「え?」

 

「今ユウキは《絶剣》という通り名でALO内で人気者なのよ?」

 

「ゼッケン? ユウキ運動会でもするの?」

 

「違う違う」

 

 

リズベットは笑いながら首を振り、テーブルの上にジョッキを置いて話を続けた。

 

 

「カタカナじゃなくて漢字。絶対の絶に、ソードの剣って書いて《絶剣》って読むの」

 

「絶·······剣。なんでそんな風に呼ばれてるのユウキは?」

 

「一説では絶対無敵の剣、空前絶後の剣から来たって噂らしいわ。誰が呼び始めたのかわからないから正確には知らないけど、ともかくあんまりにも強すぎるんで、それでついた通り名が《絶剣》らしいわよ」

 

「へぇ~」

 

 

アスナはユウキがそう呼ばれていたことを知らなかったことで、好奇心が少なからず刺激されたのを感じた。

 

もとより剣の腕には大いに覚えのある方だ。このALOのプレイヤーである今こそ、後衛で援護の魔法詠唱が主任務となる種族、水妖精族ウンディーネを選択しているが、それでも時々副団長だった時の血がうずいて、腰のレイピアを引き抜いてはまるで前衛の任務を請け負うように先行し、敵陣に真正面から挑んでいくスタイルが故に、今では『バーサクヒーラー』という不名誉な二つ名を頂戴している。

 

毎月開かれているデュエル大会にも積極的に参加してはプレイヤー達を打ち負かし、ユージーン将軍や風妖精族のサクヤ領主ともいい勝負ができるようになっているので、ユウキが絶対無敵の剣と言われていることに興味を持った。

 

飲みかけていたジョッキを置くと、椅子に深く座り直し、ユウキの活躍を本格的に聞く体勢に入る。

 

 

「それで? ユウキは今どこで何してるの?」

 

「えっとね·······新生アインクラッド二十四層主街区のちょっと北にさ、でっかい樹が生えた観光スポットの小島があるじゃない? あそこの木の根元で、毎日午後三時になると現れて、立ち会い希望のプレイヤーと一人ずつ対戦してるらしいわよ」

 

「そうなんだ。けどなんでいきなりユウキはそんなことし始めたんだろ?」

 

「さぁ、そこまでは聞いてないけど、でも確か凄い《オリジナル・ソードスキル》を賭けてるらしいわよ。スッゴく強い、必殺技級のやつを」

 

「OSSをかぁー。何系? 何連撃?」

 

「えっと、確か片手剣汎用で、なんとびっくり十一連撃ですって!」

 

「十一!?」

 

 

アスナの唇が反射的に細めて高い声を上げてしまう。

 

 

「ユウキったらそんなに強いOSSを編み出してたの!?」

 

「そう。と言ってもプレイヤーにはまだ使用していないみたいだけどね。なんでも、辻デュエルを始めた日の一番最初に演舞として披露したらしいんだけど、それっきり実戦では使ってないみたいね·······というよりかはそのOSSを使わせるほどのプレイヤーがいないみたい·······()()()()()()()

 

 

アスナはそれが誰なのかなんとなく察したのか、それについて訊ねてみる。

 

 

「その一人って·······もしかしてキリト君?」

 

「「「·······」」」

 

 

リズベットはシリカとリーファに視線を向けて同時にプッと吹き出した。

 

 

「な、なに·······? どうしたの?」

 

 

呆気に取られるアスナに向かって三人はクスクスと笑い、一人だけ笑わずずっと飲み物を飲んでいたシノンがようやく口を開いた。

 

 

「もう戦ったのよキリトは·······それでもうこてんぱんにやられちゃってたわ。OSSを使わせる暇もなくすぐにね」

 

「ま、負けたの!? キリト君が、ユウキに!?」

 

 

アスナはポカンと開いた口が塞がらず、一瞬ボーッとして固まってしまった。

 

アスナの中でキリトという存在は大きなものだった。もはやALO内でもトッププレイヤーとして『絶対的強者』の代名詞になっているといっても過言ではない。

 

リズベット達には黙ってはいるが、実はアスナもSAO時代に一度だけキリトとギリギリの本気デュエルで剣を交えたことがある。まだ知り合って間もない、KoBの副団長として最前線攻略の指揮を取っていた頃の話だ。

 

まだSAO内に囚われていたとある日、フィールド・ボスモンスターの攻略方法を巡っては、キリトのようなソロプレイヤーとKoBはよく対立していた。両者の主張はどちらも的を得ていて、平行線のままどちらも妥協することは許さず、最終的には双方の代表による決闘によって、攻略方法の結論を出すことに決めていた。

 

その頃のアスナはキリトとは違って冷酷さを持ち合わせており、NPCを囮にしてその間にボスを討伐しようと提案したことがあったが、その提案が納得いかなかったキリトはよくアスナ達KoBに反対意見を申していた。だからアスナは大手ギルドであるKoBを代表して、ソロプレイヤーであるキリトを打倒することによって、ゲームクリアのために妥協しない冷徹さを取り戻そうとしたのだ。

 

しかし、アスナにはわかっていた。

 

キリトとの実力差を。

 

キリトはそもそもベータテストのプレイヤーだった。経験の差は一目瞭然。剣を打ち交わすうちに、アスナの脳裏からあらゆるしがらみは吹き飛び、ただ好敵手と戦うことに喜びだけが全身に満ち溢れた。かつて体験したことのない次元での、脳神経パルスを直接交感するかのような戦闘は約十分ほど続いていたが、その時間すらも忘れるくらいに戦闘に夢中になっていた。

 

その結果、アスナはキリトに敗北した。

 

だが、その戦闘で得られるものはあった。そのデュエルを経験することによって、逆にアスナの恋心は打ち消しようのないものになってしまったが、同時にキリトに対する印象は普通のソロプレイヤーから『最強の剣士』へと変わっていった。

 

そんなキリトがユウキに負けた。

 

その事実は、アスナに衝撃を与えるのに充分な話題だった。

 

アスナはシノンから向かいのリズベットに視線を移すと、掠れた声で訊ねる。

 

 

「キリト君は本気でやったの? まさかユウキが女の子だからって手を抜いたとかないよね?」

 

「いや、キリトは多分本気だったと思うわよ。二刀ではなかったにしても、ユウキの実力は知ってると思うから全力で挑んだ、とあたしは感じたかな」

 

「·······そっか」

 

 

そしてアスナはまたみんなへと視線を移して再び訊ねる。

 

 

「それじゃあ、その一人って誰なの?」

 

「「「「·······」」」」

 

 

リズベット、シリカ、リーファ、シノンは何故か苦笑し、互いに顔を見交わして、リズベットが代表して答える。

 

 

「·······クラウドよ·······」

 

「え? クラウドさん?」

 

「ユウキが自分で言ってたんだけど、最初にOSSを初めて使ったプレイヤーはクラウドだけだって。それでも防がれてユウキは負けちゃったらしいわ。悔し~ってやけ酒してたもの」

 

「そう、クラウドさんが·······」

 

 

アスナはクラウドがユウキを打ち負かした事実を聞いても、不思議と疑わなかった。

 

あの人は自分達とは別格な存在だと思っている。そもそも住む世界が違う人間だ。自分達の常識では通用しない力を秘めている。限界のその先まで動けるクラウドならば、ユウキの十一連撃をも防げるのは納得だ。大剣を棒切れのように軽々とぶん回すことができる彼ならば、ユウキ以上の技も編み出せるかもしれない。

 

もしかすると、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ユウキのオリジナル・ソードスキルを越える、新しいソードスキルを。

 

アスナがそう思いながらジョッキを手に取って、少しだけ口に含んだ、その時だった。

 

 

「面白い話してるね」

 

 

追加料理を運んできたティファが会話に介入してきた。ティファはクラウドと同じく別世界の人間だ。それを知っているのはごく僅かで、知っている人はティファの実力をわかっているとは思うが、知らない人の場合は超美人な酒場の店主にしか見えないだろう。

 

ティファの手には、ミスリルで出来たグローブ『ミスリルクロー』が嵌められている。手甲の部分に三つ穴が開いているほか、爪がかなり短い。指を伸ばしたら指より短く見えるほどである。

 

彼女は格闘家であり、そこらにいる剣士よりもずっと強く、しかも素早い。あのキリトでさえも反応速度が追い付かないほどの素早さで、タイプは近接で攻撃・回復・自己強化が可能な前衛、後衛と、オールマイティな性能を持っているため、彼女の戦闘スタイルは自由自在である。

 

キリトとリーファは直接戦ってるのを見たことがあるから知ってるだろうが、本当に彼女の戦闘能力は武器を持った相手に引けを取らない。

 

アスナは手料理を運んできたティファに向かってジョッキを軽く上げて誘う。

 

 

「ティファさんも一緒にどう?」

 

「え、いいの?」

 

「勿論ですよ。むしろティファさんに聞きたいことがあるんです! みんなもいいよね?」

 

 

アスナがリズベット達に視線を移すと、彼女達はにっこり笑って揃いも揃って深く頷いた。

 

 

「うん、あたしは別にいいと思うわよ」

 

「私もティファさんとお話したいです!」

 

「きゅる!」

 

「ティファさんも料理を一緒に食べましょう!」

 

「私も特に異論はないわ」

 

「ほら! というわけで一緒に楽しみましょうティファさん!」

 

「·······じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 

 

アスナが愛想良くして空いている椅子にティファを座らせる。ティファもジョッキを手に持ち、アスナ達と軽くぶつけ合い、会話に参加した。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

「じゃあ、リーファもリズベットも、ユウキに負けちゃったってこと?」

 

「はい、そりゃあもうアスナさんとシノンさんとシリカ以外は全員。空中戦闘(エアレイド)には自信があったんだけどなぁ。ユウキったら余裕で勝ちに来たんですよ」

 

 

リーファが一杯飲み干した後、ティファにユウキとの戦いの話を聞かせる。リズベットはその事について思い出して悔しかったのか、ティファが運んできた料理を口の中に強引に放り込んで飲み込んでから喋る。

 

 

「もしあたしが勝ってたら、そこかしこに言いふらして超美人で最強の鍛冶屋がいるって噂になってたわよ絶対に!!」

 

「あはは·······」

 

 

リズベットの愚痴が炸裂し、ティファはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

「けどキリトまでユウキに負けるなんてね·······元々強いのは知ってたけど、そこまでになるなんてね」

 

「私も信じられませんよ。まさかユウキが絶剣って呼ばれるくらいに人気者になってたなんて」

 

 

ティファの隣に座っているアスナも驚いた様子だった。アスナにとってユウキは、可愛い妹のような存在だ。そんなユウキが絶剣と呼ばれるようになるまでデュエルをし続けていたことにも驚きだ。

 

 

「アスナはなんで知らなかったの?」

 

 

ティファが何気なくアスナにそう聞くと、アスナは困ったように頬を掻いて言いづらそうに告げる。

 

 

「その·······実家の都合で年末年始は出掛けてたんです」

 

「そっか、そういえばアスナのお家ってイイトコのお嬢様だものね。そりゃ大変よねー」

 

「ほんとにもう、大変だったんだよ!!」

 

 

アスナが渋面を作ると、リズベットが大きな口を開けてあははと笑ってからかってみせた。

 

 

「一日中着物を着て正座させられて挨拶ばっかりで、夜にこっそりダイブしようにも、泊まった離れにはいまどき無線LANもないし、折角のアミュスフィアも持っていったのに無駄になっちゃった」

 

 

ふぅ、とため息をついてジョッキの中身を飲み干す。酒の一気飲みはいけないとは思うが、ここは仮想世界。現実の体には影響は与えないので問題はない。

 

アスナの父親は総合電子機器メーカー『レクト』のCEO、つまり彼女はかなりのお嬢様なのである。アスナ、本名結城明日奈は昨年末から両親と兄と共に、京都にある父親の実家に半ば強制的に赴かされていた。

 

子供の頃は年始は実家、本家で過ごすのは当たり前だと感じていたため、同年代の従兄弟達に会うのも楽しみではあったが、中学に上がってからというもの、アスナはその恒例行事に息を詰まらせていた。

 

アスナの父親はわずか一代で『レクト』を総合電子機器メーカーに成長させることができたのも、本家による資金援助があったこそであり、親戚筋を見渡せば社長だの官僚だの、お偉いさん達がたくさんいたのだ。

 

よって、当然のようにアスナを含め兄や従兄弟達はそれなりに名前のある学校の優等生であり、宴席では子供達が行儀良く並んで座って、その隣にいる親たちは揃いも揃って自分の子達を自慢する。その自慢大会の道具にされているような気分を味わうようになってから、アスナはその行事が嫌に思えてきた。自分の序列を勝手に付けられている感覚で、誰かよりも低くみられたら、憐れみの目で見られるからだ。

 

そして。

 

二◯ニニ年の十一月、中学三年だったアスナは兄の『ナーヴギア』を、半ばなんとなくで無断借用してログインした。それによって、彼女はSAOに囚われ、更にはALOにまで囚われの身になってしまった。

 

キリトとクラウド、そしてティファとユウキのおかげで自分はニ◯ニ五年の一月にようやく仮想空間から解放されたので、今年の年始の挨拶は実に四年ぶりとなる。

 

いざ出席してみると、従兄弟達は一様にアスナのことを憐れんでいた。そう、仮想空間内に囚われ続けていたせいで、その序列レースから脱落してしまったからだ。何年も続いてきた自分の子供自慢話大会から外れ、本格的に憐れみの目で見られるようになってしまった。

 

しかし、アスナはそれでもいいと思えた。

 

あの世界に囚われたおかげでいい出会いがあった。そう、キリトという少年に。彼と出会ってなかったら、おそらく今の自分はいない。

 

自分は『剣士』としてここにいると自覚できた。

 

己の力のみで戦うことができる人間となり、心が成長し、現実世界でもその強さはアスナを支え続けている。

 

だかしかし、未だにVRMMOは危険だという認識を持っている人達は多い。それは、アスナの『母親』も思っていること。

 

もうアスナの母親は、自分に何も期待していないだろう。いい大学に入り、大手の会社に就職しろというプレッシャーもない。それはそれでいいのだが、どこか見放された感はあって、母親とはあまり良い仲とは言えない。いや、見放してはいないのかもしれないが、少なくとも今のアスナに不満を抱いていることだろう。

 

それはわかってるんだ。

 

だけど。

 

何だか何かが引っ掛かる。

 

まるでお人形遊びの人形のような人生を送っている気分で、自分には自由がない。

 

だから仮想空間はアスナにとっては理想郷なのだ。唯一の癒しであり、居場所である。

 

よって、アスナはティファが用意してくれた料理を美味しそうに食べる。まるで年末年始のことを忘れるために。

 

 

「美味しい~。やっぱりティファさんの作る料理って美味しいですね!!」

 

「そう? 気に入ってくれて良かった」

 

「はい! ティファさんの料理は三ツ星以上です!!」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 

もはやあの時の出来事は何も思い出さなくなっていた。ティファの料理が美味しすぎるというのもあるだろうが、それ以上にこの世界の心地良さが現実のことを忘れさせてくれる。

 

するとアスナは口に含んだ料理を飲み込むと、ユウキについて話す。

 

 

「ユウキは今もそこでデュエルを申し込んでるの?」

 

 

その質問にリーファが答える。

 

 

「はい、誰かに負けるまで続けると言ってましたし·······」

 

「そっか」

 

「·······ねぇ、みんな」

 

 

すると、この中で一番年上なティファがみんなに声をかける。

 

 

「ユウキはさ、剣士のみと戦ってるの? その、素手で戦うのはダメ·······なのかな?」

 

「「「「「·······へ?」」」」」

 

 

その言葉にみんなが目を丸くした。

 

アスナがティファの問いに少々考えた後答える。

 

 

「·······もしかしてティファさん、ユウキと戦いたいんですか?」

 

「まあ、ちょっと興味あるかな。クラウドが防いでみせたっていうそのOSSに私の拳がどこまで通用するのか知りたいし」

 

 

それを聞いたリズベットが眉を上げる。

 

 

「す、素手で戦うんですか!? 武器を持っている相手に!?」

 

「うん·······やっぱりダメ、かな?」

 

 

首を傾げるティファにリズベットは首を横にブンブンと振って、

 

 

「そ、そんなことないですけど·······なんかその、ね」

 

 

言葉に困るリズベットはみんなを見渡すと、全員が言葉を失っている様子だった。なにせ、武器を持っている相手に素手で挑むというのだから開いた口が塞がらなくなるのは当然である。

 

確かに、ティファの実力ならどんな奴が相手だろうと遅れを取ることはないだろうが、相手はキリトを打ち負かしたユウキ。絶対無敵の剣とまでプレイヤー達に言われるまで成長した相手に素手で挑むのは少し無謀すぎる気がする。

 

誰も何も言わない時間が数秒間続いていたが、アスナが話し出すことで空気の流れが変わった。

 

 

「それじゃあ、一緒に行きませんか?」

 

「え?」

 

「私も実はユウキと戦ってみたいんです。キリト君が負けたって聞いたとき、いったいどれだけ力をつけたのか気になりましたし」

 

「いいの?」

 

「勿論ですよ。むしろユウキとティファさんが闘うなんて、そんな名勝負絶対見逃せませんもん。ね、みんな!!」

 

 

アスナのその一声で四人は同時に大きく頷いた。シリカが椅子の背もたれの下から突き出た尻尾をぴんぴん振りながら言う。

 

 

「絶対見たいです! ティファさんとユウキさんの闘い!!」

 

「素手での挑戦かぁ·······確かにそれは見逃せないわね」

 

「ティファさんが闘うの一度見てるから、私もどっちが勝つのか見たいです!!」

 

「私は弓使いだからあんまりそういうのには興味なかったけど、でも確かに気になるわね」

 

「じゃあ決まり! 午後三時に二十四層の小島にユウキが現れるんだっけ? なら、明日の二時半にそこで待ち合わせしよう!!」

 

「「「「「うん!!」」」」」

 

 

そう言うとアスナは立ち上がり、ウィンドウを表示させて現実時間に目を走らせた。

 

 

「それじゃあごめんねみんな。もう六時になるから私そろそろ帰らなきゃ。晩御飯に遅れちゃう」

 

「そう、なら丁度いい時間ね。じゃ、今日はここでお開きにしましょう。それじゃあみんな、ティファさんに向かって────」

 

 

リズベットの一声でティファ以外の全員が立ち上がり、ティファに向かってお辞儀して声を揃えてこう言った。

 

 

「「「「「ご馳走さまでした!!」」」」」

 

「はーい。楽しんでくれたのなら私はそれだけで満足だよ。また来てね!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

そう言い終えるとそれぞれが自分の目の前でウィンドウを表示させ、セーブボタンを押してログアウトをする準備に取り掛かる。

 

するとティファがアスナに声をかける。

 

 

「アスナが先にやる? それとも後にする?」

 

「う~ん、ティファさんの全力が見たいから後ででいいです!」

 

「そう? ありがとうアスナ」

 

 

そう言ってティファは拳を突き出してくる。

それにアスナも手を拳の形にして軽くコツンと当てて笑い合い、今日のパーティーはお開きとなった。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

アインクラッド二十四層は、大部分が水面に覆われた湖沼系のフィールドだ。全体の風景はまだ解放されていない、かつてアスナがKoBの副団長だった時に暮らした湖上都市『セルムブルグ』を擁する六十一層とよく似ている。

 

このフロアの名前は『パナレーゼ』

 

巨大な湖の中央に築かれた人工の島で、そこから四方八方に伸びる細い浮橋が無数に繋いでいるというデザインだ。

 

アスナとティファは既にそこに到着しており、祭りのように賑やかなパナレーゼの街を水面の彼方に眺めながら立っていた。

 

 

「やあ、アスナ。それとティファ」

 

 

すると、後ろから少年の声が聞こえてきた。振り返ると、そこにはキリトが立っていた。

 

二人はキリトが来たことに微笑む。

 

 

「二人とも、ユウキに戦いを挑むんだって?」

 

「うん、そのつもり」

 

「私も。私の拳がどこまでユウキに通用するのか知りたいし」

 

「·······そっか」

 

 

そう言った直後、三人がいたところの島の上空に、かなりの数のプレイヤー達が飛んでいった。皆、三人の頭上を飛び越して、島の中央にそびえる大樹を目指していっているのがわかる。

 

 

「あそこに·······ユウキがいるんだね」

 

「ああ·······なあ、アスナ、ティファ」

 

「「?」」  

 

「ユウキと戦うなら·······うーん、その、めちゃくちゃ強くなってるぞ、ほんとに」

 

 

キリトの歯切れの悪さに、二人は首を傾げて互いの顔を見つめ合う。そして二人揃ってキリトを見つめてこう言った。

 

 

「それは昨日リズ達から充分聞かされたよ。キリト君でも今のユウキに勝てなかったんでしょ? だから私が勝てるなんて思わないけど·······」

 

「やってみなくちゃわからない·······でしょ? アスナ」

 

「はい! ティファさん!!」

 

「ハハッ、そっか。そうだよな」

 

 

そうやって会話を楽しんでいるところに、リズベット達が到着した。

 

 

「おーい、三人とも! そろそろ時間だよー!」

 

「うん! 解ってるよリズ!!」

 

 

背中の翅を出現させて三人とも宙に浮かぶ。アスナは装備している水晶の柄を持つレイピアを腰に差し直し、ティファは手に嵌めている『ミスリルクロー』を嵌め直し、マジックアクセサリの類も含めてチェックを終えると、最後に視界の右下の時計を一瞥した。

 

現実時間午後二時五十分を少し回ったところ。

 

それを確認したアスナは、キリト、リズベット、シリカ、リーファ、シノン、ティファに視線を送ってから言った。

 

 

「じゃあみんな!! ユウキの所に向かいましょう!!」

 

 

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