ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第5章

 

 

アスナとティファは二人揃って宿を出た。二人は互いに顔を合わせ拳をぶつけ合うと小さく笑った。

 

 

「まさかこんなことになるなんてね」

 

「私もびっくりです。ユウキったらそのために色んな人たちにデュエルを申し込んでたんですね」

 

「勝ったらまさかのクエストの手伝いになるなんて思いもよらなかったよ」

 

「本当、ユウキったらそれなら最初から頼めば良かっ──────」

 

 

その時だった。

ブツンと糸が切れた人形のようにアスナの体から力が抜ける。アスナの体は倒れ込み、ティファは急いでアスナに駆け寄る。

 

 

「アスナッ!? アスナッ!? 大丈夫ッ!?」

 

 

何度声をかけても返事はなかった。

おそらく、現実世界で何かあったのだと思われる。何の操作もなしにログアウトした。ティファはそう考えた。

 

ログアウトについては、ログアウト後、アバターが数分間残る仕様になっている。

 

ログアウト時は同種族領地内であれば『即ログアウト』が可能であるが、それ以外の場合にログアウトしてしまうとアバターだけ数分間残る上、他種族同士は『PK推奨』のため、他種族領地、中立域では攻撃・略奪され放題になる。そのため自領土以外では安全地帯などでキャンプ用具などの専用アイテムか、見張りを立てての『交代でログアウト』、宿屋内で錠をかけてのログアウトをするのが常識である。

 

今回はアスナは現実世界で誰かに電源を抜かれたから意識を失ったのだと考えた。

 

ティファは残ったアスナのアバターを背負ってもう一回宿屋に戻って、アスナのアバターを部屋に寝かせることにした。

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

ティファの予想は当たっていた。

 

アスナは底無しの穴に放り込まれたかのような、急激な落下感覚に陥り、二、三回目蓋を痙攣させてから、視界が現実世界へと戻ってきたことを証明する。

 

五感が戻っていくにつれて、アスナは明日奈となり、いぶかしい気持ちになりながら上体を起こしたらその瞬間明日奈は唖然と口を開いた。

 

 

「·······()()()·······」

 

「·······」

 

 

ベッドのすぐ傍らには険しい表情をした明日奈の母親が、明日奈の被るアミュスフィアのDC端子に接続されているはずの電源ケーブルを抜いたことで明日奈は強制的に現実世界へと戻らされたことを悟った。

 

その強引な手口に明日奈はたまらず声を荒げていた。

 

 

「な·······何をするのよ、母さん」

 

 

明日奈が睨んでも彼女の母親、“結城京子”は真顔のまま、無言で北側の壁に眼を向けた。明日奈もその視線を追い、ウォールクロックの針が六時半を五分ほど回っていることに気付く。

 

それを見たことを確認した京子は、明日奈に冷たい口調で話しかける。

 

 

「先月食事の時間に遅れたときお母さん言ったわよね·······今度ゲーム機を使って遅れたら電源を切りますからねって」

 

 

平淡な声で明日奈を睨み付ける京子だが、それでも明日奈は負けずと俯いて懸命に怒りの衝動を飲み込みながら、低く震える声で言った。

 

 

「·······時間を忘れていたことには私が悪かったわ。でも、だからってコードを抜かなくてもいいじゃない。体を揺するか、耳元で大声で呼んでもらえればゲーム中に警報が届くから」

 

「前にそうしたらあなた目を醒ますのに五分もかかったじゃないの」

 

「それは·······宿屋に移動とか挨拶とか色々·······それに今日だって友達と一緒に話し込んでたところを強制的にログアウトさせるなんて·······」

 

「何が挨拶よ。訳のわからないゲームの中での挨拶を本物の約束事より優先させるつもりなのあなたは。お食事が冷めちゃったら、折角用意してくれたお手伝いさんに悪いとは思わないの?」

 

「·······」

 

 

明日奈は本音を言いたかったが我慢した。

 

たとえゲームの中でも相手は本物の人間なのよ、それに母さんこそ、大学に行ってはよく電話一本で料理をまるごと無駄にさせるじゃないの·······と、いくつもの反論が頭を過ったが、しかし明日奈は再び下を向き、怒りで震える唇を堪えながら、深く呼吸をし、やがて出てきた言葉は短い謝罪の言葉だった。

 

 

「·······ごめんなさい、次から気を付けます」

 

「いいえ、次はもうないわよ。今度これのせいで決まりごとを破ったりしたら、機械は取り上げます·······大体·······」

 

 

京子が呆れたような口調で表情を微かに歪めると、明日奈の額にかかったままのアミュスフィアを一瞥した。

 

 

「お母さんあなたが解らないわよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「·······」

 

 

明日奈はつけていた二重の金属円環、アミュスフィアを外すと、膝まで持ってきてぎゅっと握りしめて奥歯を噛み締めながら答える。

 

 

「これは·······ナーヴギアとは違うわ」

 

 

SAO事件を踏まえ、現行のアミュスフィアに搭載されている何重ものセーフティ機構について口にしようとしたが、言っても絶対に納得してくれるような性格ではないと思い、やめておいた。

 

明日奈が黙っていると、京子は大きなため息をついて、ドアの方に向き直った。

 

 

「食事にするわよ、すぐに着替えて降りてきなさい」

 

「·······はい」

 

 

夕食を作ってくれたハウスキーパーの明代さんにも悪いと思ったが、どうしても母と対面して食事をする気にはなれなかった。だが、約束は約束だ。これ以上決まりごとを破ればアミュスフィアは取り上げられてしまう。それだけは絶対に嫌だ。明日奈は渋々京子の後をついていき、俯きながら歩いていく。

 

スリッパを履き、手足の長いカーペットを踏み、明日奈はテーブルへと歩み寄った。視線は伏せたまま、背もたれの高い椅子へと腰を下ろす。

 

二十畳はあるダイニングルームの中央に、八脚の椅子を備えた長いテーブルが設えてある。その北東の角から二番目が明日奈の席と決まっている。左隣が兄である浩一郎の椅子であり、東側が父である彰三の椅子だが、今は二つとも空いている。

 

そして、明日奈の左斜め向かいの椅子に、母親の京子が座っているわけだが、気まずい雰囲気は今でも拭えない。

 

明日奈と京子の間にはいつの間にか溝ができ、話しかけにくい関係であった。

 

二人は決められた作法で食事を摂りながら、母京子がこんなことを言い出した。

 

 

「勉強はちゃんとやってるんでしょうね?」

 

「·······うん、みんなと宿題を終わらせたわよ」

 

「そんなの、自分の手でやらないと勉強にならないわ。ちゃんと現実で机に向かってやりなさい」

 

 

自分の手でやっていることには代わりはないのに、京子は聞く耳を持たない。明日奈は俯いたまま違うことを言う。

 

 

「みんな住んでるところが遠いの。あっちでならすぐに会えるのよ」

 

「あんな機械使っても会ってることにはならないわよ。大体、宿題なんて一人でやるものです。友達と一緒じゃ遊んじゃうだけだわ」

 

 

シェリー酒のグラスを傾け、京子は舌を濡らして話す速度を上げる。

 

 

「いい? あなたは遊んでいる余裕なんてないのよ。他の子よりも二年も遅れたんだから、二年分余計に勉強するのは当たり前でしょう」

 

「·······勉強はちゃんとしてるわ。二学期の成績通知表だってプリントして机に置いてあったでしょう」

 

「それは見たけど、あんな学校の成績評価なんて当てになりませんよ」

 

 

それを聞いて、聞き捨てならなかった明日奈は低い声で言い返す。

 

 

「あんな·······学校?」

 

「いい、明日奈。三学期からは学校の他に家庭教師を付けるわ。最近流行ってるネット越しのリモートじゃなくて、ちゃんと家に来て見て貰います」

 

「ちょ·······ちょっとまってよ、そんな急に·······ッ!!」

 

 

明日奈の返答を待たず、京子はテーブルから薄型のタブレット端末を取り上げて、差し出されたそれを受け取り、明日奈は眉をしかめて画面に目を走らせる。

 

 

「なに、これ·······編入試験·······概要!?」

 

「お母さんのお友達が理事をしている高校で三年次への編入試験を、無理言って受けられるようにして貰ったのよ。あんな急拵えの学校じゃなくて、ちゃんとした高校です。そこは単位制だからあなたなら前期だけで卒業要件を満たせるわ。そうすれぱ、九月から大学に通学できるのよ」

 

 

唐突な京子の編入試験案内に、明日奈はテーブルをバンと叩き、強い口調で言う。

 

 

「待って! 困るよ! そんな勝手に決められてもッ!! 私、今の学校が好きなの! 勉強はあそこでもちゃんとできるよ! 転校なんて必要ないわッ!!」

 

 

なんとか説得しようと声を荒げてしまったが、京子はこれみよがしなため息をついた。

 

 

「·······お母さん、ちゃんと調べたのよ」

 

 

京子は諭すような調子で再び話し始めた。

 

 

「あなたがいま通っているところは、とても学校とは言えないわ。いい加減なカリキュラムに、レベルの低い授業。教師だって寄せ集めでまともな経歴のある人はほとんどいないじゃない。あれは教育機関というよりも、矯正施設とか、収容施設とか言った方がいい場所だわ」

 

「そ·······そんな言い方·······」

 

「事故のせいで教育が遅れてしまった生徒の受け皿なんて体のいい事を言ってるけど、あの学校は、本当のところは、将来的に問題を起こすかもしれない子供を一箇所に集めて監視しておこうっていう、ただそれだけの場所なのよ。それは確かに、おかしな世界でずっと殺し合ってた子供もいるそうだから、そういう施設は必要かもしれないけど、でもあなたまでそんなところに入ることはないのよ」

 

「·······」

 

 

京子は一方的な意見を明日奈にぶつけてきたが全て事実であるため言い返せなかった。

 

あの学校は、確かに計画発表後わずか二ヶ月で急造されたものだ。その目的は、SAOに囚われていた十八歳未満のプレイヤー達の教育課程に二年もの遅れを取り戻すために救済することを目的とした学校だ。

 

十八までのSAOプレイヤーならば入学試験及び入学金なしで受け入れ、卒業すれば大学受験資格まで貰えるという優遇すぎるその条件に、他の学校から批判の声が殺到するほどの教育機関で、SAOプレイヤー達からしても、その優遇さに甘えていいのか迷うほどだった。

 

しかし、あの学校が単なるセーフティネットではないことは、通っている明日奈自身がよく実感している。SAOプレイヤーとしてメンタルの不調とかないように週に一度個別カウンセリングが義務付けられ、そこてはあからさまに反社会的傾向を探るような質問をされることが多いのだ。

 

解答次第では病院の再診断や、投薬まで指示されることがある。つまり、京子が口にした『矯正施設』という言葉は全く根も葉もないものとも言い切れない。

 

しかし。

 

明日奈はそれでもあの学校を愛している。世間体の評価がどうあれ、現場の教師はほぼ全員が志願して赴任してきただけあって率直に生徒と向き合ってくれるし、生徒同士でも無理に過去を隠す必要はない。何よりSAO時代から心を通わせた友人達と一緒にいられるのだ。

 

リズベット、シリカ。

 

そして、キリト。

 

明日奈は奥歯を噛み締めながら、自分の母親に対して胸中の何もかもを吐露してしまいたいという衝動と戦った。

 

そんな明日奈の葛藤に気付く様子もなく、京子は早口で話し続ける。

 

 

「あんなところに通ってても、まともな進学なんてできるわけないわ。いいこと、あなたはもう十八歳なのよ。でも今のところにいたんじゃ、大学に入れるのがいつになるか判ったもんじゃない。中学の時のお友達はみんな来週にはセンター試験を受けるのよ。焦る気持ちは少しもないのあなたには?」

 

「進学なんて·······一年や二年遅れたってたいした問題じゃないわ。それに·······大学に行くだけが進路じゃないし·······」

 

「いけません。あなたには能力があるの。それを引き出すためにお母さんとお父さんがどれくらい心を砕いてきたかあなたも知っているでしょう。なのにあんなおかしなゲームに二年も無駄にさせられて·······平凡な子供ならお母さんだってこんなこと言いませんよ。でもあなたはそうじゃないでしょう? 与えられた才能を充分に生かせず、腐らせてしまうのは罪だわ。あなたは立派な大学に行って、一流の教育を受ける資格と能力がある。ならそうすべきです。省庁や企業に入って能力を生かすのもよし、大学に残って学究の道に進むのもよし、お母さんもそこまでは干渉しません。でも高校教育を受ける機会すら放棄するのは許さないわよ」

 

「·······」

 

 

明日奈は顔を俯かせ、前髪で目が隠れるくらい下を向いて語り出す。

 

 

「人の生き方は自分で選び取っていくものでしょう? 私も昔はいい大学に入っていい就職をすることが人生の全てだと思ってた。でも私は変わったの。今はまだ答えは出せないけど、本当にやりたいことが見つかりそうなのよ。今の学校にあと一年通って、それを見つけたいの」

 

「あんな場所に何年通っても何の道も開けないわ。お母さんはあなたに惨めな人生を送ってほしくないの。誰にでも胸を張って誇れるキャリアを築いてほしいのよ」

 

「キャリアって·······それなら、お正月に本家で引き合わせたあの人は何なの!? 何を吹き込んだのか知らないけど、あの人もう私と婚約でもしたかのような口ぶりだったわよ!!」

 

 

明日奈は自分の声がわずかに震えているのを自覚していなかった。視線に精一杯の力を込めたが、京子は動じる様子もなくグラスを傾けて唇をつける。

 

 

「結婚もキャリアの一部よ。物質的に不自由のあるような結婚をしてしまったら、五年、十年先に後悔するわ。あなたの言うやりたいことだってできなくなっちゃうわよ。お母さんは裕也君を気に入ったわよ素直ないい子じゃない」

 

「·······何にも反省してないのね。母さんが選んだ『須郷伸之』が私に何をしたのかもう忘れたの?」

 

「やめてちょうだい」

 

 

京子は眉間に皺を寄せ、不快そうな顔をしながら言った。

 

 

「あの人の話は聞きたくないわ·······大体あの人を養子にしようとって言い出したのはお父さんですよ。それに、あの人はもう死んだのよ。死んだ人間の事を、夕飯時に話すのはやめてちょうだい」

 

「·······」

 

 

それを聞いた明日奈は苦いものを呑み下しながら、硬化した声で反論した。

 

 

「─────ともかく母さんが選んだ人とお付き合いする気はないわよ。相手は自分で選ぶわ」

 

「·······そう」

 

 

それを聞いた京子は持っていたグラスをテーブルに置いて、そしたら予想外の解答が返ってきた。

 

 

「いいわよ」

 

「·······え?」

 

「あなたに相応しい立派な人なら誰でも·······ただし」

 

 

京子は冷たい口調で、明日奈を絶望させるような一言を言った。

 

 

()()()()·······()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!?」

 

 

京子のその特定した人物を指すような言い方に、明日奈は再度慄然とした。

 

 

「·······まさか、調べたの? 彼のこと·······ッ!?」

 

 

心臓の鼓動が激しく、大きな大きな音を出したような気がした。動悸が早くなる。そんな明日奈を置いておいて京子は続ける。

 

 

「解ってちょうだい」

 

 

──────ヤメテ。

 

 

「お父さんもお母さんも、あなたに幸せになってほしいのよ。受験させる幼稚園から選ぶときからずっと願ってきたの」

 

 

──────ヤメテ。

 

 

「あなただって浩一郎の買ったゲームに手を出したことに後悔しているはずよ。ほんのちょっと躓いちゃったけど、充分やり直せるわ。今真剣に頑張ればね」

 

 

──────ヤメテッ!!

 

 

「あなたならいくらでも輝かしいキャリアを積み重ねられるのよ」

 

 

アスナは心の中で耳を塞ぎ、これ以上の情報をいれないようにしていた。明日奈は早まる動悸が治まらず、まるで操り人形のような人生に目を背けてくなり、心の中で頭を抱えて目を固く瞑る。

 

 

(私の生き方を挟めてるのは母さんじゃない!! キャリアだって、私じゃなくて母さんのでしょッ!!)

 

 

自分や兄は京子の『輝かしいキャリア』の一部。自分がSAO事件に巻き込まれたことや、須郷の起こした事件で企業のイメージも低下して、自分のキャリアに傷がついたと感じているのだろう。

 

いつもそうだ。

 

こうやって話してるのに、聞こえない。

 

京子の声、心が聞こえない、自分の心も伝わらない。

 

明日奈はこれ以上言葉を戦わせる気力を失い、まだ半分も残っている皿の横にフォークとナイフを置いて立ち上がった。

 

 

「·······編入のことは、しばらく考えさせて」

 

 

それだけは伝えた。

しかし京子の答えは無味乾燥なものだった。

 

 

「期限は来週中ですからね。それまでに必要事項を記入して、三通プリントして書斎のデスクに置いておいてちょうだい」

 

「·······」

 

 

明日奈は背を向け、振り向いてドアに向かった。そのまま部屋に戻ろうとしたその時、明日奈は胸の奥にわだかまるものを抑えきれず、廊下に一歩出たところで背中を向けたまま椅子に座っている京子に冷ややかな声を投げかけた。

 

 

「·······()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ッ!?」

 

 

京子は一瞬呆気に取られたように表情を変えなかったが、次第に冷たい顔になり、すぐにその眉間と口許に深く険しい谷を刻んだ。

 

 

「明日奈! ちょっとここに来なさいッ!!」

 

 

鋭い言葉が飛んできても、明日奈は振り返らず逃げるように扉を閉めて、先を遮った。京子から逃げるように早足でホールを横切り、階段を駆け上って、自室のドアを開ける。

 

その途端、センサーの眼が明日奈の影を捉え、証明とエアコンが自動的に点いた。そのまま体をどさりとベッドの上に投げ出し、大きなクッションに顔を埋める。

 

あの世界でキリトに出会ってから自分は変わったはずだった。

 

 

「キリト君·······」

 

 

アスナはベッドに倒れながらもアミュスフィアに手を伸ばし、震える唇で愛する者の名前を呟いた。

 

誰かに与えられた価値観に盲従することはやめて、本当にやりたいことのために戦える人間になったはずだった。

 

()()()()()()()S()A()O()()()()()()()()()

 

本当の自分の姿が仮想世界の中だけにあるのなら、自分は何のために現実世界に帰ってきたのだろう。

 

 

(キリト君に、今すぐ会いたい)

 

 

キリトの胸に飛び込んで、思いっきり泣いて全てを打ち明けてしまいたい。それができたらどれだけ幸せだろう。

 

でもできない。

 

怖い。

 

キリトが愛してくれたのは、こんな弱い結城明日奈じゃなくて、『閃光のアスナ』だったから。

 

 

『アスナは強いな』

 

「·······」

 

『俺より、ずっと』

 

 

あの時のキリトの言葉が甦る。SAO攻略時に言われた言葉。この『明日奈』を見せてしまったら、キリトは離れていってしまうかもしれない。

 

それが、怖い。

 

明日奈はうつ伏せになったまま、いつしか浅い眠りに落ちていた。

 

甘苦い夢の中で、銀鏡仕上げの鞘を腰に吊り、キリトと肩を並べたあの世界に還りたい。

 

明日奈は強くそう思った。

 

 

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