ソルジャーアート・オンライン   作:織姫ミグル

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第7章

 

 

便利屋。

 

言ってしまえばそれは裏稼業的な立ち位置で、正規の仕事ではないので入ってくる仕事内容は様々だ。まずは簡単なものから紹介すると、猫探しや荷物配達、時には教師的な立ち位置として教壇に立つ·······ということは流石にしない。それを生業としているものの本人が気が乗らなければそんなことはしない。しかし裏稼業的な立ち位置から、そういった業界を生き抜くための心得を指導することはある。

 

武器の扱い、戦地での闘い方、モンスターを効率的に狩る方法など。

 

そういうのが主な仕事だ。

 

普通の人間が普通に暮らしていく分には関わることもないであろう、映画やドラマぐらいでしか語られないマイナーな職業。だがしかし、それがなくては普通の人は日向も日陰も合わせた大きな社会は回らない。それを黙認してこそ、普通の人々は何の問題もなく日常を送れる。

 

必要悪。

 

裏の人間が手を汚すことで表の人間は生きられる。

 

と言っても、その便利屋は別にそんな汚職に手を染めてるわけではない。

 

 

「さて」

 

 

そんな便利屋の穴蔵は、安全地帯である街の繁華街から二本ほど入り込んだ人気のない路地のバーにある。バーということで普通なら日暮と共に店を開き、日の出と共に閉めるというのが酒飲み業界での営業時間ルールだが、ここはそうではなかった。日中からもやってくれており、店主の美人が美味い料理と酒を提供してくれ、値段も金に困らない価格で出してくれる、庶民に優しいと評判の店なのだ。

 

もっとも、庶民の味方なのはあくまでも通常の人間のみで、裏の顔を知っている者からすれば、一般人の来訪を拒む裏メニューが存在する。

 

『close』

 

という看板が目に入るが、そいつは樫の木で作られた扉を開けて平然と入っていく。

 

その店の中から聞こえてくる、湿った音。

 

中にいる店員が床を掃除しているのか、近くに置いてある水入りバケツの中にモップを入れて湿らせ、床の汚れを丁寧に落としていく。

 

開店前の準備なのか、それともやることがないから手伝っているのか、どちらにしても中の店員は疲れた顔で入ってきたお客さんを睨む。

 

 

「や、繁盛してるか?」

 

「········開店準備中ノ為トットトオ帰リクダサイ」

 

「相変わらず厳しいな、ちょっとくらい良いじゃないか?」

 

「ソモソモ二◯歳未満ノオ客様ノ入店ハ禁止シテオリマス」

 

「固いこと言うなよ、仲間だろう? っていうか、いつから『セブンスへブン』は未成年お断りの店になったんだ?」

 

「········リアルの仕事で疲れてるんだ。さっき仕事から帰って来たのに、こっちの店の清掃をティファに任されてな」

 

 

片言でどうにか引き取ってもらえないかと試したが、不発で終わった。

 

どこか寝不足気味で、目の下のクマがより一層睨む眼光を鋭くしている。若い、と言っても入ってきた黒服の少年よりは歳を取ってて、二◯代前半もあと僅かのためか、しかし鍛え上げられた肉体とその整った顔立ちが相手の年齢を感じさせない。

 

そういうタイプの男である。

 

 

「疲れてる割にはちゃんとログインしてあげてるんだな」

 

「お前もアスナに尻に敷かれる日がいずれ来るぞ?」

 

「き、気が早いよ!? 俺とアスナはまだそこまで行ってない!!」

 

「········」

 

 

ため息を吐いて清掃の続きに取り掛かり、開店前だというのに何の許しもなく勝手に入ってきた少年に顔も向けずに要件を聞く。

 

 

「それで?」

 

 

暗がりの中でそうした仕事の手際の良さを見ると、やけにキマッて見える。やれやれと肩をすくめ、少年は仕事の邪魔にならないように言う。

 

 

「実は────」

 

「金なら貸さない」

 

「違うよ!?」

 

「人数も足りてる」

 

「バイトの面接に来たわけでもないってッ!?」

 

「········」

 

 

彼の返事はにべも無い。

 

ちゃんとした要件を聞く前に彼は勝手に断ってくるため少年は頭を掻くが、彼は清掃の手を止めると深い息を吐いて、

 

 

「前に言ったが········俺は安くないぞ?」

 

「········」

 

 

その言葉に少年は笑みを浮かべ、左手の指を下へとスライドさせ、軽快な効果音と共に半透明のメインメニューのウィンドウが開くと、特定の位置にある項目を押してアイテムを具現化させる。

 

それを彼に放り投げ、ジャリン、と金属同士が複雑に絡み合う音が聞こえた。

 

彼はそれを確認すると、掃除道具を片付けると共に店の奥に置いてあった愛剣を背中に回して固定し、

 

 

「依頼内容は?」

 

「あぁ········」

 

 

その表情は仕事熱心の傭兵のそれであったが、無駄なく鍛えられた身体と、赤マントで隠している装備が、彼の本当の姿を如実に物語っている。

 

彼は少年と共に店の外に出て、

 

 

「ちょっとしたギルドへの嫌がらせだよ」

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

街を飛び立ったユウキ一行は、体力値が尽きてしまう前に全速飛行を駆使して再チャレンジに向かう。ショートカットコースを選ぶと必然的に邪魔なフィールドモンスターに妨害されるのだが、欺くための幻惑魔法でそれを回避し、最短で真っ直ぐに一直線に突っ込んでいく。

 

一度入った迷宮区のため、出てくるモンスターの攻略法を知っていた彼女らは難なく倒して無双していった。

 

そして、ボス部屋の扉の前までやって来たところで、

 

 

「!?」

 

 

先行してモンスターを倒していたティファが地面に足をつけて靴底を擦らせて摩擦を生み出して急ブレーキを掛ける。

 

目の前の光景を見て、ティファが全員一時停止するように手で指示する。

 

 

「そんな!?」

 

「········遅かった!?」

 

 

ティファのジェスチャーを見てユウキとアスナは即座に止まるも、目の前の光景に驚愕する。

 

ボス部屋の前に、異なった種族の大群がいたのだ。

 

戦い合っている様子がないことから、おそらくはチームメイトなのだろう。証拠にカーソル横にあるギルドエンブレムがどれも一致していた。

 

 

(あの時の偵察部隊がもう集めたんだ········ッ!!)

 

 

挑む前に隠れていた三人の姿が思い起こされる。

 

予想通りと言えば予想通りだが、それにしてもやり方が汚すぎる。確かに嘘は言っていなかったが、そのやり方で攻略して独り占めするのは頂けない。

 

 

「ッ!!」

 

 

悔しさに思わず歯噛みしたティファだが、アスナが隣に歩み寄ってくるとボス部屋を塞いでいるプレイヤー達を見て観察し出した。

 

 

「········人が少ない」

 

「え?」

 

「連結部隊の最大上限は七パーティー四九人なんです。それなのに今いるのは半分以下········」

 

 

ぶつぶつと呟くアスナはこの状況を見て整理しているのか、口先にしか届かない声を出して考える。

 

おそらくではあるが、召集が手こずっているのだ。当然と言えば当然だが、いくら先に偵察部隊を先に派遣してボスの攻略の為のズルをしても、ここに来るまでには時間がかかる。湧き出てくる雑魚モンスターに加え、内部構造をよく知っておかなければ迷ってしまい上手く辿り着けない。事前に聞いていたとしても、実際に赴くのと聞くだけではかなり違う。情報は常に変わるものだ。何より初見だった場合、情報を聞いていてもそのプレイヤーの腕次第では雑魚モンスターであっても時間を要する。

 

ボス部屋前に集合させていることから、彼らも急いで倒してしまいたい様子。

 

他のプレイヤーに先を越されたくないんだろう。だからわざわざ危険な迷宮区奥を集合場所にしたのだ。

 

だとすれば、彼らはどんな理由があろうと邪魔をしてくる可能性がある。

 

こんな作戦を立てていることからして、他プレイヤーにチャンスを譲るような奴らではないだろう。

 

だが、万が一という可能性もある。

 

望みは薄いが、彼らにも良心があるかもしれない。それに賭けてみるのも良いだろう。何事も平和的解決が一番だ、説得してみる価値はある。

 

憶測に憶測を重ねて結論を出す。

 

 

「········交渉次第で挑ませてくれるかもしれないです」

 

 

そう結論づけ、アスナは先着の連結部隊らの方に歩いて行く。

 

彼女はこれでも元副団長。それもSAO時代の最大規模と言われた『血盟騎士団』のトップの座に座っていた一人。

 

階層突破のために集まってくれたプレイヤーを纏め上げ、効率良く攻略するために的確に指示するその指導力に統率力はあの『団長』にも認められたほど。利害関係が一致せず、他プレイヤーとの間で問題を解決するために交渉を行う折衝役としてのスキルも高く、彼女の説得力には信頼できる。

 

アスナが近づいてきたのに気付いたのか、全員が彼女の方に視線が行くがすぐに何人かはそっぽを向いた。眼中にないのか、それとも敵に値しないと思ってるのか、アスナのことを毛ほども気にしてない。

 

それでも彼女は臆することなく、この集団で一番高価そうな装備で強く見せているプレイヤーへと近づき、交渉を開始した。

 

 

「あの」

 

「ん?」

 

「私達、その部屋にいるボスに挑戦したいの。まだ挑まないなら譲ってくれる?」

 

 

その言葉に、前に立っているプレイヤーは腕を組んで、

 

 

「生憎、ここは今閉鎖中だ。これから挑むんでね。挑戦するなら俺達が負けた後にしてくれ」

 

「········」

 

 

アスナは思わず拳を握る。

 

だが諦めるのは早い。

 

 

「だったら何で入らないの? こんなに人数が揃ってるなら早く挑めばいいじゃない」

 

「上限人数を知らないのか? まだここにいるのは二◯人、つまり半分も来てないんだ。残りの奴らが来てから挑戦するんだ。今はそれ待ち中、それまで待っててくれ」

 

「それまでって········どれくらい掛かるの?」

 

「ま、ざっと一時間ってとこか? 正確な時間までは分からんが」

 

「········ッ!!」

 

 

悪びれずそんなことを言う男に、アスナは鋭い眼光を向ける。

 

それでも譲る気がない様子を見ると、こいつらはこんなやり方を繰り返し行なっていることが容易に想像できる。人というのは、最初は罪悪感を感じるものだが何度も繰り返していると次第に慣れてきて何も感じなくなり、その結果自分の行動を正当化し最終的にはこれが普通だという認識になる。

 

オンラインゲームでありがちなのだが、よく対戦ゲームでそういった思考をしている奴が勝つと、負けた相手を必要以上に攻撃してオーバーキルしてきたり、なんかふざけた変な行動して煽ってきたりなど、そういった人を不快な思いにさせることまでしてくる。

 

こいつらはその典型。

 

偵察隊を送り込んでいることから察せられるが、彼らはボスの情報を他のプレイヤーが戦ってるのを盗み見て、先に攻略されそうになった時には今みたいに足止めし、自分たちよりも強そうであれば追加部隊で物言わせぬようにしたりと、そういったやり方で今まで攻略を独占していたのだ。

 

露骨どころか悪趣味だ。

 

そんな占領のような行為、たとえルール違反でなくても道徳的に間違っている。

 

義務教育を受けたことはないのか。

 

人が嫌なことを自分もやっちゃいけないなんてことはすぐに習うだろう。

 

そんな考えが過るがアスナは堪え、諦めず続けた。

 

 

「話にならないわ。そっちがすぐに挑むっていうなら仕方ないけど、そうしないなら私達に先にやらせてよ」

 

「おいおい、こっちは先に来て並んでたんだぞ? 順番は守れよ?」

 

「だったら早く挑めばいいじゃない。中には挑戦してる人は誰もいないんでしょう? 順番待ってるならそれこそ早く挑むべきだわ」

 

「だから言ったろ、まだ揃ってねぇって。揃ったら挑むんだよ」

 

「そんなの理不尽よ! 私達はいつでも行けるのに、一時間も待たされるなんておかしいわ!?」

 

「俺に当たるなよ、俺は集められてここにいるだけ。どうしてもって言うなら上の奴らに言ってくれ。ギルドの本部がイグシティにあるからさ、そこで交渉してきてくれ。俺にはどうにもできない」

 

「そんな遠いところまで一々行ってたらそれこそ一時間経つじゃない!!」

 

 

もう我慢の限界だった。

アスナはつい感情的になって大声を上げてしまい、それを自覚したら冷静さを取り戻すために呼吸を整える。

 

こいつら、どうしても譲る気はないらしい。

 

たとえ価値のあるアイテムや武器、お金を提供しても、ボス攻略の際にドロップするアイテムの方が貴重だとして一蹴してくるだろう。何より、彼らの目的がアイテムだけとは限らない。ボス攻略の一番の魅力は、ユウキ達も目的としている第一層にある『はじまりの街』の黒鉄宮にある『剣士の碑』に名を残せること。

 

それは金では買えない名誉ある褒賞だ。

 

故に、こちらが何を言ってもこいつらは了承しないだろう。

 

いよいよ頭に来そうなアスナは、無意識に腰にあるレイピアに手を伸ばしそうになる。

 

と、

 

 

「ねぇ?」

 

 

アスナの隣にティファが立つと、その男にこう言う。

 

 

「私達、これでも必死にお願いしているんだよ? それでも挑戦させてくれないの?」

 

「おいおい、必死にお願いされようと俺にはどうしようもできないって言ったろ? どんなに誠意を見せられても何もしてやれない········いい加減諦めてくれねぇとこっちも流石に黙ってらんねぇぞ? これでも俺たちだって我慢してんだ、それなのに付き合ってやってるだけでも感謝してくれ」

 

「········これ以上どうお願いしても?」

 

「あぁ、そういうこった。ほら、さっさと諦めて帰ってくれねぇと、もうこれ以上はどうなるかわかんねぇぞ? できれば一人も欠けたくないんだ。悪いことは言わねぇから大人しく待つか、それが嫌なら帰りな」

 

 

どこか脅しのようにそう言ってくる男。

 

その言葉の意味を理解したティファは、

 

 

「········そう」

 

 

わずかに残念そうに言うティファ。

 

それを見て、ようやく諦めたなと鼻を鳴らして振り返ろうとする男に、

 

 

ドッッッゴォォォオオオッ!! という轟音。

 

 

自分自身の鼻が砕ける音が聞こえたと思ったら男の体は後ろを飛ぶ。まるで大砲の弾を顔面に受けたような激痛を感じる暇もなく、ボス部屋の扉に激突して全ての空気を肺から吐き出させると、たった一撃でその男のHPゲージをゼロにまで削り取った。

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「「·······ッ!?」」」」」」」」」」」

 

 

思わぬティファの行動に唖然とするスリーピング・ナイツらと連結部隊。

 

彼女は何の躊躇いもなく交渉していた男の顔面に拳を叩き込むと、そのルビーのように赤い瞳を鋭くさせる。

 

目の色を変えた。

 

その目に映るのは闘気。

 

ティファはその瞳で目の前にいる奴らを全員睨みつける。

 

 

「ちょっ!? ティファさん!?」

 

「何してるのティファ!?」

 

 

無論アスナとユウキは驚きの声を上げる。

 

急に攻撃したティファに両者が困惑し、彼女のただならぬ雰囲気に硬直する。

 

するとティファは背を向けたままこう言った。

 

 

「······こうなることは覚悟の上でしょ?」

 

「「「「「「「「「「「·······ッ!?」」」」」」」」」」」

 

「あなた達は自分達が挑戦するためにここを守る。私達は挑戦するためにあなた達に交渉する。そしてこれ以上こちらがどうお願いしても応じる気はない。なら·······()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

いい笑顔だった。

しかしニッコリ笑顔のままなのにマスクメロンみたいに顔中に青筋がビキバキ走りまくっている。

 

拳を固く握り締め、背中から怨念めいた蜃気楼を揺らがせて、

 

 

「フッ!!」

 

「テ、ティファさんっ!?」

 

「ティファっ!?」

 

 

アスナとユウキの呼びかけを一蹴し、武器や魔法を構える者達へと走っていくティファ。 

 

一番近くにいたプレイヤーからだった。ティファの飛び蹴りを受けて先の男と同様に扉までノーバウンドで吹っ飛ばされて激突したプレイヤーは、装備している鎧をバラバラに粉砕しながら燃え尽きた。

 

ティファは生死を確認しない。

 

真っ赤に染まった瞳は燃えるように熱く、全てのターゲットを正確に捉える。

 

 

「!? こ、この女!?」

 

「や、やれぇ!! やっちまえッ!!」

 

 

集団は武器を振りかざし、ティファに斬りかかる。 

 

喧噪、混乱、もはや問題の平和的解決など望むべくもない。 

 

その様を見てアスナ達は加勢に向かおうとするが。 

 

 

「大丈夫」 

 

 

そう、加勢の必要など無い。

 

こんな奴らの相手、一人で充分なのだから。

 

ティファはまるで水底に沈んだように、迫り来る集団を見回し現状を分析。敵は前後左右の四方。一番速いのは真正面から来るプレイヤーか。ならばと、ティファは空手の右手を前に出し、手の甲を振り下ろされる刀身の腹に添えて暖簾をくぐるような気安さで刃の軌道を横に逸らした。

 

 

「は·······!?」 

 

 

武器を振りかぶった男に驚愕の表情。だが逸らされた剣閃はもう戻らず、刃はティファの横を素通りする。そのすれ違い様に、ティファは彼の足をつま先で引っかける。

 

 

「ちょっ!? 馬鹿────!!」

 

「ぐわぁぁああああッッッ!!!???」 

 

 

前から来た男は軸足を払われ、そのままティファの背後から巨斧を振り下ろしていた男の武器に肩から切断されたことによって絶命。

 

派手に散った。 

 

 

「フッ!!」

 

「!?」

 

 

そして振え終わった巨斧の頭を足で踏みつけて地面に固定し、動けなくしたところを突いて裏回し蹴りを放って首の骨を砕く。断末魔も上げられず燃え尽きていく様子を見ながら、ティファは残りを見る

 

まず、二人。

 

残りの奴らを見て言う。

 

 

「·······来ないの?」

 

「こ、このクソ女ぁぁぁああああああッ!!」

 

「死ねぇぇぇえええッ!!!!!」 

 

 

次いで、左右から全く同じタイミングで鉄棍とロングソードが振るわれる。

 

双方狙いはティファの頭部。

 

わかりやすい軌道、これならば問題なく避けられる。

 

 

「·······ッ!!」

 

 

ティファは開脚して地面に体を沈める。 

 

直後、頭上で弾ける鉄と鉄のかち合う快音。それは双方全力で振り抜かれた鋼の衝突であり、左右の二人は自分の腕に走った電撃のような痺れに悲鳴を上げ、硬直する。その隙にティファは頭を軸に寝転んだ状態から下半身を先に蹴り上げて上半身を浮かせて捻り、回転した勢いで二人の頭を蹴り飛ばす。

 

ブレイクダンスの技のようだった。 

 

まさに蝶のように舞って蜂のように刺す動き。

 

 

「ひッ!?」 

 

 

仲間がやられたことに隠しきれない狼狽を浮かべ、慌てて自らの武器を構える。

 

しかし振る暇もなかった。間合いを一気に詰められたプレイヤーの頭は感じる間もなく揺さぶられた。フルスイングで落とされた踵落としに耐えきれなかった頭はそのまま地面に陥没。頭から刺さって動けなくなった姿は滑稽だった。

 

死角から渾身の力で振り下ろされる刃にティファはミスリルで出来た戦闘用手袋で受け止め、火花が散ったのを見て驚愕しているところ、その懐に入り込んで正拳突きを喰らわす。

 

まだまだ敵は残ってる。

 

一々一人ずつ相手するのも面倒だ。

 

ティファは周囲を見て、両手で扱うような大型の剣を装備している奴を睨みつける。

 

 

「ヤァッ!!」

 

 

右腕を後ろに引き絞って槍のように構え、驚異的な速度で下から掬い上げるようなアッパーを放つ。直後、武器を構えていたプレイヤーの持つ装備が粉々になり、ティファの拳打とぶつかって落雷のような轟音を撒き散らす。

 

残党が最後に目撃したのは、人並み外れた技で自分達を一掃してくる彼女だった。

 

粉砕された刃物の残骸が空中に撒かれると、ティファはミスリル戦闘用手袋で裏拳を放ってそれらを残りの奴らに叩き込んだ。散弾銃のような猛攻にプレイヤー達は防ぐことはできず、目の粘膜を貫いて貫通させられた。

 

残りの奴らのエンドフレイムだけが残され、空間が静寂に包まれた。

 

 

「·······うーんッ!!」

 

 

全員倒し終えたとわかったティファは腕を上に伸ばして背伸びをし、その豊満な胸を強調させた。

 

 

「「「「「「「··················」」」」」」」

 

 

皆が皆そんな圧倒的すぎるティファの戦闘に呆然とし、しばらく言葉を失っていた。

 

あれだけの数を拳だけで片付けた彼女になんて声をかければ良いのかわからなかったが、ティファが先に声を発してその静寂を破った。

 

 

「ごめんね、みんな」

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

「ちょっと、大人げなかったね」

 

 

でも、とティファは一旦言葉を切ると、

 

 

「自分達がどれくらい真剣なのかってことを、この人たちにもわかって欲しかったからね」

 

「け、けれどティファさん··················」

 

 

ずっと黙っていたアスナが恐る恐るといった感じで声をかける。

 

 

「よかったんですか? ここは中立地帯だから他プレイヤーに攻撃してもペナルティは発生しないけど、この人達はおそらく大ギルド。事後にギルドを挙げて報復してくる可能性だってあったのに」

 

 

このゲームは、不満を訴えるには剣を持って示すことが許されている。しかし、ゲーム外からの報復という方法で復讐しにくる輩もいる。住居を特定してネット上にばら撒くとかしてくる奴もいるだろう、そのリスクを負ってティファは大ギルドに喧嘩を売った。

 

しかし彼女は気にする素振りもなく、平気そうな表情で答える。

 

 

「大丈夫、万が一そんなことされても気にしないから」

 

「で、でも────」

 

「それにね────」

 

「!?」

 

 

ティファはアスナに歩み寄ると、その肩に手を置いて、

 

 

「相手が譲らないっていうなら、自分の精一杯の想いを見せつけなきゃ。この人たちだって覚悟ぐらいしてたはずだよ、こんなズルばかりするならいつかはバチが当たって痛い目を見ることくらい。それが今日だったってだけ」

 

「ティファさん··················」

 

「絶対に譲らないなら絶対に通してもらう。真剣な想いには真剣な想いをぶつける。ぶつからなきゃ、伝わらないことだってある。それをわかってもらうために私はこの人達と戦ったんだ」

 

 

だから、と言ってティファはアスナ達の後ろを指差す。

 

それを見て全員が振り返ると、その奥から無数の人影が押し寄せてくるのが見えた。

 

 

「みんなでぶつけよう、私達がどれだけ本気なのかを!!」

 

 

迫り来る敵達を前に、ティファは先頭に立って足を拳二つ分開いて立ち、前足はやや斜め前に向け腰を落として、いつでも戦えるような構えを取る。

 

その姿勢に七人は顔を見合って頷き、各々の得物を構えて横に並ぶ。

 

考えてみれば、容易いことだった。

 

対人戦のしがらみだの報復だの、そんな小さなことで萎縮していてしまっては元も子もない。これはゲームだ。一々どうでもいいくだらない復讐劇なんか気にしていては、何もできない。

 

アスナとユウキは先頭に立つティファの言葉を反芻させる。

 

 

『ぶつからなきゃ、伝わらないことだってある』

 

 

自分の本気、信念、想い。

 

言葉だけで伝わらないのなら、真正面からぶつかっていかねば理解してもらえない時だってある。

 

その手にある武器は飾りか?

 

否。

 

全力でぶつかってこそ、その手に持つ剣は初めて本物になる。

 

たかだか三◯人の増援部隊など、自分達の敵ではない。ティファ達は、洞窟の奥から殺到してくる敵軍を見据え、その想いをぶつけるために走り出す。

 

────と。

 

 

ドォンッ!! と。

 

 

瞬間、回廊の湾曲する天井が悲鳴を上げて崩壊し、そこから何かが飛び出してくる。

 

二つの人影。

 

黒と金。

 

大人数の中から唐突に二つの影が現れたと思ったら、天井にくっつき勢いよく踏み出して飛び出すと一気に空中を駆け抜けて増援部隊を追い越す。

 

敵勢力とティファ達の間に入って、戦闘開始の合図を一時的に止めさせた。

 

妨害。

 

奴らの好みのやり方。

 

それを味わう気分はどうだとばかりに降り立った二つの影は、息を合わせたように足元の地面に己の得物を突き刺して空間そのものを震わせるようなほどの規模の振動を起こすと、その圧倒的な敵意によって、増援部隊は一瞬息をする方法を忘れてしまった。

 

それほどの威圧感。

 

圧倒的な力量差がある者には一瞬で意識を刈り取られるほどの、気迫。

 

それを放った者達に、皆が絶句した。

 

降り立った二つの影に、見覚えのあったティファとユウキにアスナ。

 

黒衣の剣士とツンツンとした金髪。

 

汚い手を使って攻略しようとする奴らに立ちはだかった二人は息を合わせるように、増援部隊全員をこの場で斬り伏せるように、こう警告した。

 

 

「悪いが」

 

「ここは通行止めだ」

 

 

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