四宮家の宿敵   作:大紫蝶

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四宮かぐやの過去編です。


四宮かぐやとお兄ちゃん

 きっと私の人生は『幸せ』と言われるのだろう。

 恵まれた家に生まれ、恵まれた容姿、天才と言われる才能、多くの人が望むものを生まれた瞬間に手に入ると確約された人生。客観的に見ればスタートした瞬間にハッピーエンドを迎える様な人生。これを『幸せ』と言わないのなら、この世に『幸せ』というモノは殆どないと思う。あるいは「贅沢だ」とでも言われるのだろう。

 

 だから、大丈夫。信じた人に裏切られる事も、友達と遊びに行けない事も、『自由』がない人生も、家族の愛を知らない事も、大したことじゃない。これが、6歳の時に悟った事。私の人生は『幸せ』で『ハッピーエンド』という『物語』で、私はその『自分では動けない主人公』だと。

 

 

 

 でも、それの考えを否定してくれた人がいた。

 何も信じられない私を信じてくれた人がいた。

 誰とも遊べず、友達すらいなかった私と遊んでくれた人がいた。

 『自由』ない私の人生に自由があると教えてくれた人がいた。

 家族の愛を知らない私を妹として愛してくれた人がいた。

 『物語』を壊し、私をただの主人公にしてくれた人がいた。

 

 今でも忘れられない、家族からも拒絶されていた私への言葉。

 

 

 

「お兄ちゃんと呼んでくれないか?」

 

―――――――――――――――

 

 自分を「お兄ちゃんと呼んで」と言ってきたヤバい人こそ天野秀一、私と同じ4大財閥の人間で「天野家」の長男。他人の私にお兄ちゃん呼びを強制してきた不審人物。

 

 天野家は簡単に言えば復活した家であり、四宮家とは仲が悪い。元々没落寸前だった家を4大財閥に相応しいレベルに蘇らせた人物が天野 慶一(あまの けいいち)―――秀一さんのお父さん。秀一さんのお母さんが天野 静(あまの しずか)、元々四宮家に関係する家の人。私の乳母の早坂 奈央(はやさか なお)の親友だったらしい。その縁もあって声をかけてくれたと言っていたわ。

 

 私があやとりを教えてあげたら「ありがとう!」って嬉しそうにお礼を言ってくれた。後で思い直したら、私に合わせて知らないふりをしてくれたのだと思うけど。

 私は独りでご飯を食べることが寂しかった。お父様もお母さまとも食べることはなくて、使用人や四宮家の部下(他の人)に言っても「決まりだから」と断られてしまった。でもお兄ちゃんは一緒に食べてくれた。他の人も誘ってピクニックにも行った。

 私の家では真面目にやらないと鞭で叩かれたし失敗すると説教や懲罰があるけど、お兄ちゃんは笑って許してくれた。大変なら「気分転換に別の事するか~」って遊んでくれた。

 私は人の気持ちが分からなかった。そのせいで周りの人を傷つけてきたけど、お兄ちゃんは笑って許してくれた。私が傷つけた人にもフォローしてくれたし、仲を取り持ってくれた。

 

 お兄ちゃんの周りには色々な人が人が居たわ。友好的な人やお兄ちゃんを馬鹿にする人、私の様にお兄ちゃんの後ろに隠れていた人。

 

「あの人は友好的に話しているけど、実際には僕の弱みを握ろうとしているんだよ」

「あの人は態度は悪いけど、僕をライバル視しているだけで根は悪くないよ」

「あの人は……」

 

 私が知らないこと……悪人と善人の見分け方を教えてくれた。おかげで人との接し方が分かるようになった。……それでも『四宮の人間』としての接し方だったけど。

 私の様にお兄ちゃんが守ってくれている人とは仲良くなれた。桃さんは父親が『龍珠組』の組長で他の人から迫害されていたらしい。でも桃さんのお母さんとお兄ちゃんのお母さんが親友で「こいつが何かした訳じゃないだろ」って助けてくれたらしい。他の人も似たような人がいて「私だけじゃない」というのはこれ以上ないほどに安心できた。私達に嫌な事を言ってくる人もいたけど「俺の妹達に手を出すなら覚悟しろ」と言って追い払っていた。

 家の人達もお兄ちゃんと仲良くするようになってから嬉しそうにしていた。今までまともに話もしてくれなかった本当の兄様達も「調子はどうだ?」

「天野とは仲良くやっているか」と聞いてきて、私が「仲良くしてるよ。この間も―――」と事得ると嬉しそうに「そうか」と言ってくれた。他の子達も同じように話していて「しゃべらなかった家族とも仲良くなれた」と話していた。きっとお兄ちゃんが家族に話してくれたのだ、と。

 習い事ばかりの日常も「お兄ちゃんと会う」と言えば休みになったし、お兄ちゃんと仲良くなる方法も教えてくれた。お兄ちゃんと二人で遊べるように協力してくれたことだってある。習い事だって、今まで以上に褒めてくれるようになっていた。

 大好きなお兄ちゃん、沢山の友達、自由な時間、家族とも仲良くなれた―――人生で一番幸せな時間だった。「人生の幸せと不幸はつり合っている」は嘘だと思っていた。

 

「あの妾の娘も自分の立場がよく分かってるわね」

「あぁ、四宮と天野が同盟を組めば薄汚い鼠(四条)も簡単に淘汰できる」

「それどころか他の財閥をも敵ではない」

「当主の妻になればそれ以降の天野の実権を握ったも同然」

「むしろ今から天野の長男から実権を取れないか?」

「全く、雁庵様があの女の子供を引き取った理由がようやく分かりましたよ」

「これもあの妾と同じように、卑しい女に生まれてくれたおかげだ」

「全くだ!」

「「「「「ハハハハハ!!」」」」」

 

―――全てが理解できた。

 

 仲良くなれた家族は「政略結婚の駒として幼いころから積極的に動いている」から仲良くなれただけ。自由な時間が与えられたのは「天野の長男と1秒でも長くいろ」という事。仲良くなる方法を教えてくれたのは「天野の長男を誑かせ」という事。習い事で褒めてくれたのは「優秀な娘の方が良い男を捕まえられるから教育する」という目的が達成されたから……お兄ちゃんを誑かす方が得策と思われたから。自分は家族から愛された訳じゃない。優秀な『道具』として褒められていただけだった。ただの『かぐや』としては認められなかったんだ。

 

 

 

「早坂、どうすれば良いと思う?」

「どう、とは?」

「私は『道具』として褒められてきた。お兄ちゃんと仲良くなって誑かせと言われてるだけ。でもそんなことしたくない!」

「……ならば、天野様と結婚するのはどうでしょうか」

「っ!あなたもあの人達と同じことを言うの!?」

 

 信じていた近侍からの裏切り。私は誰も信じられなくなりそうだった。

 

「違います。もし四宮家と天野家でお見合いをすれば、かぐや様の危惧するようになるでしょう」

「そんなのダメ。お兄ちゃんに迷惑はかけられないわ」

「しかし、このままではいずれ四宮の人間は『かぐや』ではなく『道具』の方を大事にするようになりましょう」

「……」

「ですが、ここで四宮家に逆らえばかぐや様は居場所を失います。そうなればご友人にも被害が及ぶかもしれません」

「それは……」

 

 四宮家が私を『四宮の人間』として扱うのであれば、私には『四宮の人間』としての生き方しかない。

 

「それに、私もお慕いしている方がいました」

「え?誰ですか?」

「秘密です。だから、かぐや様の気持ちはよく分かります」

「意外ね。早坂に好きな人がいるなんて」

「私も人間ですよ?初恋くらいします」

 

 そう言って笑う彼女はとても綺麗で輝いていた。

 

「だから、かぐや様。私も応援いたします。どうか、幸せになってください」

「……ありがとう。私もできることは全てやってみるわね」

 

 この日から私の人生は大きく変わった。今まで興味の無かったおしゃれをしてみたり、苦手な料理に挑戦してみた。もちろんお兄ちゃんと話す内容だって変えたし、習い事も頑張った。今までの自分じゃ考えられない行動ばかりだけど、不思議と嫌だとは思わなかった。

 他の人達からは酷いことを言われたけど気にならなくなっていた。だって、

 

 

 

 お兄ちゃんのおかげで『幸せ』を知れた。

 お兄ちゃんのおかげで『自由』を知れた。

 お兄ちゃんのおかげで『家族』を知れた。

 お兄ちゃんがいなかったら、私は何も知らなかった。

 お兄ちゃんの背中にいつもくっついていたから気付いた。お兄ちゃんの後ろ姿に懐かしさを感じたのは、私がずっと見ていたからだ。

 お兄ちゃんと一緒にいたいと思った。お兄ちゃんの傍にいたかった。お兄ちゃんといつまでも一緒に居たかった。

 でも、それは叶わない。お兄ちゃんの背中を見て思った。

 私はお兄ちゃんに依存しすぎている。

 お兄ちゃんは優しいから私を突き放すことはできないだろう。

 お兄ちゃんは他人に厳しいけど、自分にはさらに厳しくする人だから。

 お兄ちゃんは『四宮の人間』である私には優しくしてくれるかもしれない。

 でも、『四宮の人間』ではない私に対しては冷たく当たる。

 私の事が嫌いなわけじゃない。

 むしろ好かれていると思う。

 だけど、それだけじゃ足りない。

 私が欲しいのは『特別扱い』ではなくて『対等』の関係なのだから。

 このままではいけないと思って私はお兄ちゃんから離れることにした。

 私はお兄ちゃんに嫌われたくない。離れることに胸が痛くなるけど、お兄ちゃんの為を思うと我慢できる。

 そう思っていたのに……

「俺はお前のこと好きだぞ」

 どうしてそんなことを言うの? なんで私に構うの? どうして私に笑顔を向けるの? どうして私に話しかけてくれるの?どうして私に優しくするの? 私はあなたに酷いことをしてきたのに……。

 私はあなたの優しさが怖くなった。

 私はあなたに甘えてしまう。

 私はあなたの隣に居たい。

 私はあなたに恋をしている。

 私はあなたを愛している。

 私はお兄ちゃんが大好き。

 私はお兄ちゃんが大好きなんです! だから私はお兄ちゃんに告白します。

 お兄ちゃんに想いを伝えます。

 お兄ちゃんが私の事を好きじゃないとしても、絶対に振り向かせてみせます。

 お兄ちゃんが私を好きでなくてもいい。

 お兄ちゃんが他の人を好きになっても構わない。

 ただ、私がお兄ちゃんを好きなだけ。

 

 

「お兄ちゃん!」

「ん?」

「お兄ちゃんのことが……好きです」

「……」

 

 ……言った。とうとう言ってしまった。

 お兄ちゃんは目を丸くしている。

 顔が熱い。心臓がバクバク鳴ってる。

 恥ずかしくて逃げ出したい。

 お兄ちゃんはしばらく呆然とした後、「そうか……」と呟いてどこかへ行ってしまった。

 その日は一日中お兄ちゃんのことを考えて過ごした。

 

「(お兄ちゃんはなんて返事をするんだろう)」

「(お兄ちゃんは何て答えるのかな?)」

「(お兄ちゃんはどんな顔をするのかな? 照れるのかな? 困ったような表情になるのかな? それとも嬉しそうな表情になってくれるのかな?)」

「(お兄ちゃんは誰を選ぶのかな? 桃さん? 他の人? それとも私以外の人を選んだりするのかな?)」

「(お兄ちゃんは私を選んでくれないのかな……)ぐすっ……」

「かぐや様、大丈夫ですか?」

「早坂、うん……」

「泣かないでください」

「ごめんなさい」

「謝らないでください」

「ごめっ、ごめんなさぃ……」

「もう泣き止んでください」

「無理だよぉ……」

「仕方ないですね……」

 

 早坂はハンカチで涙を拭ってくれた。

 

「ありがとう。ごめんね」

「いえ。お気になさらず。それより、これからどうしますか?」

「分からない。今は待つしかないわ。でも、もしダメだった時はその時よ」

「分かりました。ではまた明日」

「ええ」

 

―――――――――――――――

 次の日の朝、いつも通り登校すると、クラスメート達がヒソヒソと話していた。内容はお兄ちゃんのことだった。

 

「ねぇ、聞いた?四宮先輩の話」

「ああ、昨日のことだろ?びっくりしたぜ」

「天野君も隅に置けないよね〜」

「まさかあの四宮さんがね…」

「でも、答えはまだ貰ってないって」

「い、いや……昔から一緒にいるんだし、特に問題ないでしょ?」

「でも、姉妹関係は大丈夫なの?あの人達って……」

「「「「「……ヤバくない??」」」」」

 

 クラスの女子達はお兄ちゃんのことを話していた。おそらく、私が告白したことを知ったのだろう。

 ただ、問題は他の人達……私の友人達だ。私は友人達に「抜け駆け禁止」と約束させた上でお兄ちゃんへ告白したのだ。どう考えても私が悪いのだが、それでもお兄ちゃんを奪われたくなかった。

―――――お兄ちゃんがいないと私には何も残らないから。

 

 

「すまない、かぐやはいるか?」

「「「「「っ!!!」」」」」

「お、お兄ちゃん!?」

 

 お兄ちゃんが私に会いに来てくれた!もしかして、告白の返事を……

 

「天野君がウチのクラス来るの初めてじゃない……?」

「やっぱり、あの告白の返事かしら?」

 

 皆もそう言っているし、やっぱり!

 

「大事な話がある。俺達のこれからについて話がしたい。放課後、校舎裏に来てくれ」

 

 お兄ちゃんが去ったクラス内では様々な声が上がる。家柄で考えれば、これ以上ない程お似合いであるという声もある。もちろん、他にも様々な女子との噂はあったし、私も嫉妬することも多かった。それも今日までだ。

 

「(お兄ちゃんから、お兄ちゃんから呼び出し……)」

 

 ただの呼び出しではない。皆の前で呼び出され、定番の放課後の校舎裏に呼び出された。これは、もう、そうよね!それしかないわよね!!

 

―――――――――――――――

 

 それからというもの、今日の授業は誰も集中できなかった。教師すらソワソワし、どこで知ったのか本家からも「一応見合いの席も用意した。いつでも婚約できるようにしておくぞ」と連絡が来ていた。流石に気が早いと思うけど、それでも自分の家族がここまで心強く感じたのは初めてだ。

 

 

 校舎裏に着くと、そこには多くの生徒が集まっており、その中心にお兄ちゃんがいた。 

 

「来たか、かぐや」

 

 もうお兄ちゃんじゃないわね。

 

「お前に伝え事があって来てもらった。だが、周りに人が多いな」

「そうみたいですね。でも……私は気にしませんので」

 

 これからは、兄弟じゃなくてこ、恋人に……!

 

「そうか。では単刀直入に伝える。俺はお前のことが好きだ」

「し、秀一さん!!」

「でも、その”好き”は親愛としての”好き”であって恋愛感情じゃないんだ」

 

 

 

「ごめんな、四宮

 

 こうして私の初恋は終わった。

 

 この後、本家が用意したお見合いは天野家から「四宮の娘と見合いなど論外だ!」などと言われ白紙となった。

 私的にも公的にも振られ、私は心を閉ざした。これ以降『氷のかぐや姫』と呼ばれ、私は友人の殆どを失った。

 

―――――私に勝負を仕掛けてきた不調法者が現れるまで

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