四宮家の宿敵   作:大紫蝶

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 前回の続きです。


早坂愛と協力者

 かぐやを家まで送り届けた早坂は使用人に事情を説明した。全員が驚愕し、話は四宮家本家……四宮雁庵や四宮黄光にまで届き大混乱となった。

 天野家と四宮家の因縁は周知の事実であり、四宮家は天野秀一にも攻撃を受け続け被害拡大となっている。四宮家で会議があれば必ず出る議題の1つとして『対天野家戦略』がある。そこに加えて『対天野秀一戦略』が議題に上がる程だ。

 

 その天野家次期当主がハニートラップで四宮家(幹部の娘)と関係を持った。この連絡を受けた四宮家は早坂を使い天野家を切り崩そうと四宮家総力を持って早坂を応援した。具体的には使用人の増員、外出の自由化、多額の資金提供を即時に決定。さらに学生結婚どころかできちゃった結婚の推奨までしていた。

―――――後日、全国各地で利用できるよう複数のラブホテルの会員カード。さらに媚薬や精力剤、排卵誘発剤まで早坂は受け取ることになる。

 

「(いやハニートラップにもほどがあるでしょ!)それで、詳しい説明とは?」

「あぁ、簡単に言えば契約における条件だ」

「条件?私の裏切りをかぐや様に黙っていることでは?」

 

 早坂からすれば当然の反応だった。いくら四宮家からハニートラップと言う名の強制妊娠を命じられているとはいえ、流石にそこまでやる気はない。そもそも偽造恋人関係であるためハニートラップに引っかかっていないのだ。成功する見込みは皆無だろう。

 

「飴と鞭と言うだろ?秘密を黙るのは”鞭”、これから言うのは”飴”の方だ」

「ではどんな甘美な飴を頂けるので?」

「そうだな。

 

 1つ目は四宮家への攻撃停止。俺が主導している分だけだし、商売で顧客をこちらへ引き込むことはする。あくまで四宮家への直接攻撃を停止するだけだ。

 2つ目は天野家の持つ情報の一部。使い方次第ではかなりの利益が手に入るはずだ。

 3つ目は秀知院の生徒の情報の一部。プライバシーに配慮するため一部だが、お前が四宮かぐやの命令で調べる時間をかなり短縮できる。その分負担を減らせるはずだ。

 

 これらを”早坂愛の手柄”にしてやろう。これだけでも十分すぎるメリットだろ?」

 

 早坂は息を飲んだ。この条件はどれもが魅力的であるためである。

 

 1つ目の四宮家への直接攻撃停止、これだけで四宮家本家から命じられている命令の何割かは解決する。それが天野秀一からだけでも大きな利益だ。天野秀一が四宮家に行う攻撃での損失は年間で約1兆円。それを停止するということは年に1兆円近くの支出を抑えられるという事。言い方を変えれば、早坂愛によって年間1兆円の利益を出すことが出来る。さらに、敵対組織(天野家)に1兆円の利益を渡さないことにもなる。間違いなく早坂の評価は上がり、その地位は四宮かぐやの近侍・四宮グループ幹部の娘以上の地位を手に入れられる。

 

 2つ目の天野家の持つ情報も美味しい。1つ目に比べれば価値は低いかもしれないが、情報の価値やその使い方次第では十分な利益となるだろう。特に四宮家における権力闘争でかぐやの助けになることは間違いない。その情報を本家に流すだけでも利益になり、その情報で商売をしても良い。貯金以外に四宮家から多額の資金援助を受けられることになっている状態の早坂には決して実現不可能ではないのだ。

 

 3つ目の秀知院生徒の情報も有り難い。秀知院生徒は将来の支配階級であり、その弱みなどを握ることが出来れば2つ目と同じだけの価値になる。将来のことを考えれば2つ目よりも価値は高いかもしれない。かぐやに命じられて調べることもあるが、その時間を短縮できれば休むこともできる。そういう意味では早坂にとって一番有益な条件ともいえる。

 

 これらの中で1つを選べと言われれば数日は悩むところだが、この3つを飴として与えられるなら話は別だ。

 早坂は今すぐにでも契約したい衝動を抑えるので必死だった。

 

「ついでに、お前の”自由”を保証しよう」

「じ、自由、ですか?偽の恋人などその対極にあるのですが?」

「明日から施行される法律で一部の男は重婚可能になる。つまり女を食い放題にできる訳だ。しかもその一部の男の多くが色狂いだぞ。俺の恋人ならそれから守られる。四宮家もお前をハニートラップに利用できなくなる」

 

 なるほど。それが早坂の感想だった。

 たしかに”自由”と言える。早坂もかぐや程でないにしろ色目を使われ、早坂を我が物にしようとする人間も存在している。早坂自身も理解しており、その対応に頭を悩ませていた。何しろその人間の中には4大財閥程でなくとも、決して無視できない財閥の人間もいるのだ。その財閥との関係を強固にするための人柱にされてもおかしくなかった。実際、四宮黄光はかぐやの件が終わり次第実行しようと計画していた。

 自分の人生がゴミクズへの生贄にされるのではなく、まともな人間として生活できるというのは間違いなくメリットだ。

 

「恋人契約の期限は『天野秀一が思い人と恋人・婚約・結婚のいずれかになったら』でいいか?」

「いきなり婚約や結婚って、もう少し段階を踏むべきでしょ」

「それが理想だが、そう上手くいくとは思えなくてな。さっさと婚約まで行くか、その流れで結婚まで押し切った方が良い場合もある。おそらくは恋人ができたら終了になるだろう」

「それならいいですが。いや、でも…」

「何か問題でも?」

「この場合、普通は『好きな人と付き合えるように協力しろ』というのが相場では?」

「そこは自分の力でやらないと意味がないだろ」

「なら私との契約も必要ないのでは?」

「本当ならこんなことしたくない。だが四宮家からの見合いやらが多くて困っているんだ」

 

 そもそも四宮家の考えが権力や金で言う事を聞かせるか、女・薬・人質で屈服させるかの2つしかない。その四宮家から宛がわれる女がまともな訳がない。それを対処し続けるのはストレスでしかないのだ。

 

「……よくもあれだけ酷い女のラインナップを用意できたものだ」

「参考までにどんな人が来たんですか?」

()()()()()()()。巨乳、爆乳、奇乳、貧乳、スレンダー、ガリガリ、デブ、同世代、お姉さん、おばさん、老婆、少女、幼女……」

「もういいです」

「これらの要素を組み合わせて美人から不細工、そのレベルも変化させていたし」

「止めてください」

「さらには男バージョンや複数人、恋人持ちや既婚者もいたな」

「本当に止めるください」

「既婚者だけでも様々だからな。特に酷いのはそいつの結婚相手や親兄弟、子供の前で……」

「ホントに止めて!!」

 

 天野から告げられる四宮家の用意したハニートラップ要員は地獄だった。常識のある早坂からすれば聞きたくない話であり、四宮家的にはそのラインナップに自分が入ったことに恐怖を感じる程だった。

 

「これを四宮を振った中等部の時から続けられたからな。父さんに伝えて以降四宮家との亀裂は深まった」

「(四宮家の自業自得では?)私も嫌ですね」

「この事態を終わらせるための契約だ。それなりに仲が良いと思わせるように最低でも週1でデート、可能なら週に3~4回。連絡はこまめに取り、この部屋にも来るように。長期休みには旅行にも行くからな」

「私の自由が無くなったんですが。この時点で契約違反では?」

「隣に部屋を用意した。必要な物があれば用意する。ここは四宮別邸まで近い、移動時間も少ないから泊まりに来るだけでもいいぞ」

「そっちの方がヤバいですよ」

 

 付き合ったばかりの彼氏の家に連日泊まりに行く17歳の女子高校生。どう考えてもまともではない。

 四宮家からは優秀なハニートラップ要員として高い評価を得ることが余計に酷い。

 

「(やりたくない。でも、やらないとかぐや様に嫌われる…)週1のデートだけじゃダメですか?」

「四宮家以外が相手ならそれでも良い。あのハーレム法が施行される前ならそれでもよかった。この2つの前提条件がある以上ダメだ」

「さすがに」

「四宮家ならお前を通して後5人は送り込んでくる。10人でも驚かない」

「(うん、私も納得する)いや、分かりますよ?」

 

 早坂は可憐な容姿、典型的ギャルの性格(演技)、カースト上位だが恋愛経験のない処女である。より言えば、彼女の酷い人生の中諦めかけていた初恋が報われると思った日に最悪の形で失恋した。

 その上で初交際が失恋相手との偽装交際で、仕えている家からはハニートラップの駒扱い。演技とはいえ週1デート、男の家に泊まりまでするのだ。

 

 初恋・恋人・青春の全てを失うことが確定した早坂への対価は客観的に見れば十分だろう。だが主観的に見れば不十分である。せめて、せめてもう少し分かりやすい利益がなければ……

 

「四宮かぐやと白銀御幸の恋愛頭脳戦(笑)に決着をつけてやろう。不毛な争いを終わらせてやる」

 

 早坂は2人の恋愛頭脳戦(笑)の一番の被害者である。

 

「この家にいることが重要だから好きに過ごして良い。『天野秀一にハニートラップを仕掛ける』と言う建前で仕事をさぼり放題だ」

 

 早坂は住み込みの使用人であり休日どころか休憩すらない。「おはよう」から「おやすみ」までが勤務時間である。

 

「給料は3000万、別にボーナスや手当も出す」

 

 早坂の給料はボーナス込みで1000万である。

 

「必要な物品などがあれば用意するし、レシートか領収書があれば経費にしてやる」

 

 早坂の仕事道具(暗視ゴーグルやアクセサリー型通信機など)は全て自前であり、経費など使ったこともない。

 

「福利厚生ではないが、デートはお前の好きなところに行こう。旅行や食事、買い物の費用はこちらが全て負担しよう。欲しい物があれば”彼氏からのプレゼント”として渡す」

 

 早坂は主人からプレゼントを貰ったことがない。何なら四宮家に福利厚生という概念はない。

 

「四宮かぐやに恋愛マウントを取れるぞ」

「私の命に代えても必ず成功させます!」

「決まりだ。契約を守る限り、四宮家だろうが国だろうが必ず守ってやる」

 

 こうして天野と早坂の偽装恋人契約は締結された。

 

 

 本日の勝敗 早坂の勝利(事実上の転職に成功)

 

 

 

―――――――――――――――

 

「ところで、好きな人と付き合うための計画はどうするのですか?」

「別に確保した人員と計画を進めている」

「その人間は信用できるんですか?」

「できる。お前にとっても強力な味方になるはずだ」

 

 ちょうどインターホンが鳴り、天野がもう一人の人員を連れて来る。

 

「こいつがその協力者であり、お前の味方になる男

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――石上優だ」

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