これからもよろしくお願いします。
「そこ、校則違反です!」
秀知院学園高等部では、毎朝校門前で当番の風紀委員が服装チェックをしている。
制服の乱れや校則違反の物品の持ち込みと取り締まるなど、その活動は学園生活を快適に過ごすうえで必要不可欠である。しかし…
「また伊井野かよ…」
「いい加減うぜぇよな」
「別にこれ位いいだろ」
取り締まれる側からすればウザい存在でもある。そもそも風紀委員の活動に理解を示していれば校則違反など起こさない。少なくとも注意を聞くし改善するだろう。
そのため風紀委員は嫌われている。真面目に活動する者ほど嫌われるため、風紀委員は人員不足であり、風紀委員に向けられる悪感情も分散されないのだ。生徒会と違い、風紀委員は役職持ちでない限り”特典”がないことも理由である。
「ウザいと思うなら少しは正せ。お前らは学習能力が欠如しているのか?」
「あ、天野先輩…」
「違くて、その~」
「失礼します!」
それでも理解している者はいる。”生徒会庶務”天野秀一がその筆頭だ。
生徒会が円滑に学園の運営ができるように活動している組織ならば、庶務である彼は生徒会が円滑に機能するために様々な業務をこなしている。故に、風紀委員との連携を取っているのも彼である。彼は『秀知院のお兄ちゃん』と呼ばれる程の人望を持ち、4大財閥の1つ『天野家』の跡取りであり、白銀が現れるまで学内試験では必ず1位を取って来た。完璧すぎる人物故に、誰もが憧れ、畏怖し、彼に逆らえる者は殆どいない。
そんな彼から威圧されれば、並みの生徒は怯えてしまうのだ。その証拠に注意されていた生徒は逃げ出した。
「あ、ありがとうございます!」
「別にいいよ、伊井野。何度言っても変えないあいつらが悪い」
”風紀委員”伊井野ミコ。非常に正義感が強く、真面目かつ頑固で融通が利かない正義感の強い少女である。努力家だが発展途上であり『視野が狭く猪突猛進』正義は必ず報われると妄信している理想主義者(絶対正義主義者)である。『見返りを求めない人助けこそ美徳』という考えを持っており、高すぎる正義感と相まって相手を選ばずに心の底から誰かのために動くこともできる。初等部の頃から児童会長・生徒会長に立候補し続けているが、普段の言動や厳しすぎる公約のせいで落選し続けている。
天野からすれば、伊井野ミコの正義は『サンタがいると思っている』くらいの認識である。その正義感が両親に憧れていること、暴走している正義感は誰も彼女を導こうとしなかったことが原因と見抜いていた。以前からネグレクト状態の伊井野を気遣っており、その正義感を正そうとしているのだが…周りが酷過ぎて「伊井野の正義も一概に否定できない」と考える程である。
なお、天野からの評価は”手のかかる妹”であった。
「まぁ、ああいう連中もいるが理解している奴もいるからな。ちゃんとやってれば、見ている奴もいるからな」ポンポン
伊井野ミコの評価は学園内外で大きく変わる。学園内ではウザい風紀委員だが、学園外では長年の風紀活動やボランティアなどで高い評価を得ている。
逆に、その評価の差が伊井野を苦しめている。正しいと評価する者と間違っていると評価する者、どちらも存在するため伊井野の心はやすりで削るようにボロボロだった。ただでさえ両親と中々会えない家庭環境に、学校では否定される行動が世間からは評価される矛盾した日々……心は壊れかけていた。だからこそ、自分と同じ様に学園生活を良くしようとする天野に惹かれ、彼から褒められるたびに癒されていた。
衰弱していた状態で憧れの先輩が
―――なお、彼に依存している生徒は伊井野だけでないため、天野自身は問題視していない。
「また何かあれば生徒会を頼るといい。それじゃ、俺は行くな」
「あ、あの!」
「ん?何かあるのか?」
「あの…また頑張ったら…頭撫でて貰えますか?」
「それくらい、別に構わないぞ」
伊井野は「より良い学園生活のために」だけでなく、「頑張れば甘やかしてもらえる」という思いでも活動している。
「えー、いいじゃーん。一口くれよー」
「いいけどー、もー」
「はい、あ~ん」
「は……はしたない!!」
「そうまで怒ることか?」
「伝統ある秀知院の生徒としての自覚が足りません!人前であんな…も、物乞いじゃないんですから!」
「ひどい言いようだな…」
「何があったんだよ」
生徒会に着いた白銀とかぐやは先ほどの生徒のやり取り『あ~ん』について話していた。
かぐやからすれば人前で異性から食べさせてもらう姿は”物乞い”と同じだと言う。
「それくらいで文句言うなよ」
天野の両親は未だにバカップルのように甘い空間を形成しており、『あ~ん』くらいでは何も感じなくなっていた。「次は妹と弟どっちが良い?」という言葉を17年も聞かされ続けた天野、最近は個人で買ったマンションで一人生活している。それでも9人兄弟の長男として弟妹の面倒を見るために時々帰宅しているのだが…両親のダダ甘空間によって物理的に砂糖を吐けるようになっていた。
最早ディープキスや口移しを人前でしない限りは注意する気すら起きないだろう。
「しかし、俺も腹が減った。昼食にするか…」
「あら会長も天野さんも…今日は手弁当ですか?」
「ああ、田舎のじい様が大量に送ってきてくれてな。しばらくは弁当でも作るかと。これでも料理には自信があるんだぞ」
「俺は母さんに手伝わされてな」
天野の母は家族のために料理を作っており、それを断ることは出来ない。少なくとも週に一度は食べないと(目の光が消えた)笑顔で「なんで?なんで?なんで食べないの??」と数時間
―――母親が自身の血を料理に入れないか監視するためにも必要なことだった。
かぐやにとっての弁当とは栄養バランスは勿論、旬の食材を基軸とした調和の取れた物である。それがかぐやにとっての『弁当』である。
しかし、二人の弁当は和洋のジャンルを問わず”食べたいものをとにかく詰め込んだかのような献立!まるで子供の宝物入れの様な自由さが、かぐやの心を激しく打った!!
(食べてみたい…特にあのタコさんウインナー!実在していたなんて!!)
しかし、それはかぐやのプライドが赦さない!
「みなさん、こんにちわー」
「お、藤原は食べてきたのか?」
「はい。自分のクラスで食べました。それにしても、二人ともお弁当ですかーおいしそー」
「そうだろう。全部俺の手作りだ」
「俺は母さんの手伝いで作ったからな」
「一口分けてくださいよー」
「「別に構わんぞ」」
「本当ですか!」
(ちょっ!?藤原さん!?)
かぐやは親友である藤原の行動に驚愕した。
「では、このハンバーグをやろう」
「俺からは唐揚げでいいか?」
「わーい!」
二人から弁当を分けて貰えた藤原はおいしそうに食べてくれることもあり他の物も分けて貰っていた。自分が作った料理をおいしそうに食べて貰えることはやはり嬉しかった。
だが、自分に分けて貰えなかったかぐやの心境は穏やかではない!
(藤原さん。友達だと思っていたのですけど…あなたが明日死ぬとしても私はもう助けてあげません)
(なんだ四宮の、あの軽蔑しきった目は…そんなに、そんなに俺の弁当は惨めか?)
(なんだ四宮の、あの表情は…あれほど『分けてもらうことは乞食』と言ったくせに欲しいのか?)
三人は全く違うことを考えていた。かぐやは藤原への憎悪、白銀はかぐやの視線による屈辱(勘違い)、天野は核心をついていた。
そんな中、最初に動いたのは白銀だった。
(莫迦にしやがって…!目に物を見せてくれる!!)
「なんですかこれ?」
白銀は水筒を取り出し、藤原に差し出す。
「あ!熱々の味噌汁だ!」
「弁当の米は冷えて硬くなっていかんが、味噌汁と一緒に頂くと…その瞬間に最高の一品に化ける」
「どっ…どういうことですか!?」
「こいつはいきなり何を言ってるんだ?」
「試してみろ」
「はい!」
「それじゃあ…」
白銀から差し出された藤原と天野は白銀の弁当からご飯(藤原は白銀の食べかけ、天野は手の付けていない所)を一口貰い、味噌汁を飲んだ。なお、藤原は白銀の口を付けた所を、天野は紙コップに移して飲んでいた。
(ちょっと!!なんで食べかけの所からいくの!?それじゃあ間接キッ…ってそっちも!?天野さんすらしていないのに!!)
「ああっ、おこめが!おこめがおくちのなかでホロホロにほどけていきます!」
「まぁ、温かい汁物と冷めた米は相性良いからな」
「それな!」
「美味しいです!会長は天才です!!」
「ははは、やめいやめい(どうだ四宮。お前は冷や飯の旨さなど知らんであろう!)」
『かぐやさーん。かぐやさーん。かぐやさーん』
かぐやの脳裏には走馬灯のように藤原との思い出がよみがえっていた。
『氷のかぐや姫』と呼ばれ誰もがかぐやの傍から離れていく中、ただ一人友人として付き合ってきた藤原。
『かぐやさん一緒に帰りましょー!』
かぐやが友人と下校したことがある唯一の人物。
『一緒にお泊りなんて嬉しー!』
一緒にお泊り会をしたことがある唯一の友人。
『痛くないけど泣けちゃいますー!』
打算なしに怪我の手当てをしたことがある唯一の友達。
『内緒にするって言ったんだから、誰にも言いませんよ』
自分の友達テストをクリアした唯一の親友。
四宮かぐやにとっての無二の親友であり、早坂愛を除けば家族以上に信頼している人物である。
かぐやは血涙を流しながら
(なっ…更に軽蔑度が上がっているだと!?一体何故だ!!)
(そうですか。そっちがその気なら私にも考えがあります!)
(うーん。一応準備だけしておくか)
~翌日~
「今日の弁当はまた気合いの入った…」
かぐやは料理人に指示を出し、普段より豪華な弁当を作らせていた。更に白銀の好物である牡蠣を入れることで「一口くれ」と言わせる気満々であった。
(さぁ、いつでも来なさい!)
「それじゃ、俺らも食べるか」
「そうですね。今日のお弁当はなんですか?」
「ああ、のり弁だ」
「わー!今日もタコさんウインナーあるんですね!」
しかし、かぐやの考えとは裏腹に白銀と藤原は自分たちの弁当を食べようとしていた。更に藤原がタコさんウィンナーに興味を示したことで焦る。
「会長。たしか牡蠣好物でしたよね。お一ついかがですか?」
(昨日から引き続き…なんだこの不穏なオーラは……!この明らかに高級食材を意味もなく俺に差し出す理由はなんだ!?)
タコさんウインナーを食べるためである。
(全体何か企んでいるに違いない!でなければ……)
『あらまぁ、なんですの
『憐れな会長に施しを与えてあげますわ…』
(俺は憐れまれている…!?)
「受け取らん…俺は断じて受け取らん!そんな高級な物を譲られても返せるようなものが無い!」
(そのタコさんウインナーでいいのに!!)ゴン
「!かぐやさんイタくない?頭大丈夫!?」
(あぁもう、悪口に聞こえて仕方ない!!)
かぐやは絶望した。白銀と映画館に行った時にはカフェデートすらできた事もあり、かぐやは失敗するとは思っていなかった。だからこそ、この状況に余計に絶望していた。
だが、この生徒会には救世主が居る!
「お前らもここで食ってたかー」
「先輩方、こんにちは」
『秀知院のお兄ちゃん』と『秀知院の嫌われ者』である。評価の差が酷過ぎだ。
「うまそうな弁当ですね」
「そうだな。流石は四宮の弁当だな」
「あら2人共。どうしても食べたいなら交換してあげますよ?」
「そうか…なら1つ貰おうか。優はどれが良い?」
「じゃあ、ホタテを1つ」
「俺は牡蠣を貰うか。俺の弁当も好きな物を持っていくといい」
「私も!私にもください!!」
かぐやによる八つ当たり、これを言葉通りに受け取った2人により事態は急変する。
天野らの行動により藤原もやってきて”生徒会お弁当交換会”が開催された。白銀以外が参加しているためこの状況にはある正当性が生まれる。実際は違うがかぐやからの提案で始まった交換会に参加することには変な意味は生まれない。何故なら学生同士の昼食風景であり、男女2人で交換をしているわけではない。これに何か言えば「この程度で反応するとか…」「仲のいい人と昼食食べてるだけだろ」「童貞丸出しですね」などと非難される。下手をすれば注意した側が”万年発情期”と言われる可能性もあるのだ。さらに4月から生徒会に入った石上がいることでその正当性は一気に高まる。
目の前で行われる交換会に参加しないことは「お前らの料理は食べられない」と宣言する様なもの。今後の人間関係にひびが入ってもおかしくない。状況だけなら後輩や同級生へのおすそ分けであり下心などない。かぐやの正当性は他のメンバーが証言するため白銀の取るべき行動は1つしか残されていない。
(俺からあそこに行くしかないのか!?)
形はどうあれかぐやが主催となったお弁当交換会。交換会に参加するには白銀からかぐやへ「交換しないか?」と言うしかない。言わなければ後輩からの信用が低下する可能性がある。最悪、他メンバーとも距離を取られるだろう。
「な、なあ。俺も交換してもいいか?」
白銀、勇気を振り絞る。
(来た!)
かぐや、狙い通りの展開に目を光らせる。しかし、昔から憧れていた同級生とのお弁当交換を前に最初の考えは捨てる。流石にこの状況で上から目線は人間性を疑われる。
「はい、会長はどれが良いでしょうか?」
「俺も牡蠣を…」
「俺からはハンバーグをやろう」
「会長、このホタテ美味しいですよ!」
本日の勝敗 かぐやの勝利(好きな人と初恋の相手の手料理を食べられたため)
~中等部のある日~
「秀一さん好きです!私と付き合ってください!」
「…俺もかぐやのことは好きだ」
「!じゃあ……」
「でも、その”好き”は親愛としての”好き”であって恋愛感情じゃないんだ」
「ごめんな、四宮」
~四宮かぐや失恋編~はその内書きます。
本作では、かぐやの「素直になれない行動」は過去に失恋によるものとします。
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