秀知院学園生徒会では生徒の学園生活を円滑に進めるため、生徒たちの悩み相談などもしている。当然ではあるが、将来の日本を担っていく者達の弱みを知れるため、生徒会入会の前提条件に『秘密を守れること』というものがある程だ。そのため生徒たちは安心して相談に来れる。歴代生徒会長が大成した理由の1つが”お悩み相談で得た弱み”であるため、相談を拒否するのは年度末の決算・予算書の作成時期くらいなのだ。
「恋愛相談?」
「はい…僕…もうどうすればいいのか分からなくて……恋愛において百戦錬磨との呼び名の高い会長なら、何か良いアドバイスを頂けるのではないかと思って……!」
「……判った。生徒の悩みを解決するのも、生徒会長たる俺の役目だ。どうにかしてやる」
「会長!」
もっとも、白銀は善良な人間であるため損得なしに相談に乗っている。それくらいできないと天野の親友になれなかっただろう。
(うん…まぁ、相談には乗るけど、恋愛百戦錬磨って何……?それは天野のことだろ?)
今回の相談は専門外のようだ。
(だが、こちらには『秀知院のキューピット』がいる。その時にちょっと意見を言えば相談になった事になるだろう)
白銀は親友を利用する気満々だった。
「それで相談ってなんだ?」
「実はクラスメイトの……
「(ふむ。四条か…)」
「(まぁ!眞妃さん!)」
生徒会室で相談をしていた時、秀知院学園にある茶室の一室で天野と四条がいた。
「それで相談ってなんだ?」
「分かっているでしょ?例の計画についてよ」
生徒会室で相談を受けていた白銀は今回の話の本題を理解していた。
(要は告白するための勇気が欲しい…ということか。それなら何とかなりそうだな)
「それで、四条と接点はあるのか?」
「バレンタインにチョコを貰いました!」
「どんなチョコだ?」
「手作りのカップケーキでした!」
(おいおい、イージー過ぎるぞ?日頃の行いが良いからだな)
(眞妃さんったら…このままうまくいくのかしら?)
白銀はどう考えても上手くいく内容だと判断した。最初から成功するだろう案件だし、ここでアドバイスの1つでもすれば”恋愛マスタ-”の根拠にも出来るボーナスステージ。今後の恋愛相談の予行練習とすら思っていた。
かぐやは、旧家の女が好きな男と付き合えるとは思えなかった。自身が知っているだけでも、6年以上前からの片思いが叶うことは難しいと思っていた。
旧家周りでは「結婚は家と家がするもの」という価値観が今でも続いている。そのため好きな人と結婚できる者など数少なく……男性中心主義の封建制において、
―――例外は事実上のテロ行為をした天野の両親くらいだろう。かぐや世代では四条帝が両思いの人物と結婚するか、天野秀一の本気の協力がなければ不可能に近い。
(大丈夫かしら。いくら天野さんでも眞妃さんに協力するとは思えないわ)
”天野秀一の本気”とは天野の所持している”カード”を切ることであり、天野家が得るはずの10億円単位(下手をすれば100億円以上)の利益を渡すことである。四条家の長女とつり合う分だけの利益となれば何枚のカードを消費することになるか。そして、それに見合うだけの対価を払えるか……そこまで考えると四条の願いは難しいと思われる。
しかも、四条家の大半は天野秀一と四条眞妃の結婚をさせるために動いていると聞く。それをどう切り抜けるのだろうか。
「でも意外ね。ここまで協力してくれるなんて」
「そうでもないさ。俺も好きな人と結婚したい。そのための障害を排除するなら協力するさ」
そう。天野にカードを切らせる方法は”天野にとっての利益を提示すること”であり、それは金銭でなくても良い。そもそも総資産180兆円の天野家次期当主であり、すでに1兆円以上の個人資産を持っている天野は金で動くことは少ない。それよりも、好きな相手との結婚のほうが重要である!
「俺に見合いを持ってくる家は多いが、一番面倒なのは四宮家と四条家だ。四宮家は上から目線だし、四条家は『打倒四宮!』とか言ってくるし面倒なんだ」
「まぁ、私もおば様も
「…いや、仕方ないだろ?俺にも選ぶ権利はある。それに、四条はまだマシだろ?」
「そりゃそうよ。おば様みたいに全校生徒の前で振られなかっただけマシね。…それでもショックだったけど」
「その話はもう終わっただろ。大体8年前の事を持ち出すのもどうかと思うぞ。一応、俺も悪いと思うから協力しているんだからな」
「分かってるわ。いくら四条でも政略結婚を考えている人間はいるから、貴方の力が借りられる状況は理想的だしね」
天野としては、四条が好きな人と結ばれた後なら政略結婚の道具にはならない……少なくとも天野との結婚相手としては不十分になると考えていた。最悪「他の男の手垢のついた中古女などふざけてるのか!」と言えば黙らせられる。何故なら、政略結婚を考える人間の価値観は同じような思考をしているからだ。政略結婚の駒になる女性は”綺麗な状態”であることが前提と考えられている。そうでない女性は価値が下がるとも考えられているのだ。そこを突き四条眞妃の”価値”を下げることで、四条を政略結婚の道具と見れないようにする。
―――四条は腹が立っていたが妥協していた。それが最適解の1つと知っていたから。
「まぁ、お前は田沼を落として結婚してくれ。それが綺麗な終わり方だからな」
「結論から言うと、四条は間違いなく惚れている。間違いなく本命だ!」
「や、やっぱりそうですよね!?」
(まぁ、そうでしょうね。カップケーキを贈る意味は『あなたは特別な存在』で本命へのプレゼントとして使われるもの)
「でも、気になることがあって……この間の事なんですけど
『ねー君って彼女とか居るのー?』
『え……居ないけど……』
『やっぱり!』
『彼女いないってー!』
『居そうに無いもんねー!』
『超ウケル!』
『ふふっ』
―――っていう事がありまして。からかわれてるだけなのかなと……」
(違うわ!それは素直になれないだけよ!本当は『よかった!嬉しい!』っていう気持ちを伝えられない照れ隠しよ!)
かぐやは四条の考えを見抜いていた。魂レベルで似ている2人だからこそ分かることだった。
(お願いします、会長。どうかあの子の素直になれない気持ちを伝えてあげてください!)
「モテ期、来てるな」
(えええええ!!?)
「なぜそんなに女を疑ってかかる!女だってお前と同じ人間だ!」
(会長!それは違いますよ!)
『ねー君って彼女とか居るのー?(いないなら付き合って欲しいなー)』
『え……居ないけど……』
『やっぱり!(私と運命の糸で繋がっているのね!』
『彼女いないってー!(ホッしたー)』
『居そうに無いもんねー!(だって高貴すぎるもの……)』
『超ウケル!(フリーなんだ。超ウレシー!』
『ふふっ(彼に相応しいのはこの私)』
「つまり、こういうことだ!」
(ポジティブ過ぎませんか!?眞妃さんくらいしか合ってないと思いますよ!?)
「そんなバカな……」
(その通りよ!!)
「彼女たちの中からたった一人を選ばなきゃいけないなんて……!」
(あなたも馬鹿なの!?)
「僕が四条さんと付き合う事で、彼女たちの友情にヒビが入ったりしませんか?」
「有り得るだろうな。最悪イジメに発展するかもしれん。女同士の友情というのはそういうものだ……」
(何、この上から目線な会話……)
童貞とモンスター童貞の会話にかぐやは嫌な気持ちになった。
「だが大丈夫だ。彼女にはお前がいる。お前が守ってやれば良い……」
「会長……!」
(うざっ)
童貞とモンスター童貞の会話にかぐやはイラついた。
「それで、今度四条さんも含めて水族館に行くことになったんです」
「…それは誰から誘われた」
「四条さんからです。他に4人程誘うらしくて」
(本当に!?)
かぐやは四条の行動に驚いた。
(そんなことして”はしたない女”とか思われるとか考えなかったの?)
「はぁ??何でそんなこと言ったんだよ」
「だって!いきなり2人でデートなんて”はしたない女”とか思われたら!!」
「思われないから。まぁ、要件は分かった。
―――そのデートに参加して、残りを足止めしろと」
「そうよ。私の告白を断った贖罪としてやりなさい」
「いやな、そもそもそのデートを提案してから半年以上経ってるし、贖罪として今まで相談乗ってたとか言いたいけど……あの手の男ならそのまま落とせたと思うぞ?」
「……えっ?」
「だって、元々四条に惹かれたらしいぞ?今はどうやったらうまく告白できるか、生徒会に相談しているらしいし」
絶句。こうも簡単に人のプライバシーを侵す人間が『秀知院のお兄ちゃん』と言われているのだ。ちなみに、天野が恋愛相談について知っていたのは白銀からのSOSによるものである。
―――なお、四条も実弟の情報なら教えていたかもしれない。
「その情報によると、四条の作戦は上手くいっているな」
「……当然でしょ。あんなこと言われたら」
四条がここまで動いた理由、それは天野による『未来予想』だった。
『翼が他の女と付き合ったらどうする?お前は一生「なんであの時動かなかったんだ」と後悔するだろう』
『そうしたらどうなる?最悪のケースでは自分の友人と想い人が付き合うという地獄を味わう事になるかもしれないぞ?そのツンデレみたいな発言が災いし、一向に彼との関係が進まない事で好きな人を奪われていいのか?』
『好きな人が他の女とデートしたり、キスする場面を見て涙を流してもいいのか?』
『他の女に主人公横取りされ、それを柱の影から見てトボトボと1人で泣きながら帰る日々……そのまま卒業してもいいのか?』
『もしかしたら、そのまま妊娠、学生結婚とかになるかもしれないぞ?』
『その後、その彼女と別れて付き合う事になったらどうする?デートをしても「ここ元カノと来たことあるな~」と思われ、手料理を振舞っても元カノの味と比べられる』
『初めてのキスも妙に手慣れていて、ホテルの位置も把握していたらどうする?お前は翼の2番目になるんだぞ?』
以上のような事を聞かせ続けたことで四条は覚醒した。最悪のケースを聞かされ続けたことで「どんな手段でも手に入れる!!!」と決意表明し、積極的にアプローチを続けていた。
―――それでもツンデレのせいで牛歩と例えるしかないのだが。
「(未だツンデレだが)本気になった四条なら翼を落とせる。問題はどう落とすかだ」
「どういうことよ?」
「次のデートで告白するか、告白させるか。告白するならどうやって告白するか。その辺は決めないといけない」
「……イルカショーで二人っきりにして、そこで決めるわ」
「なら、その前で別れて行動しよう。後でイルカショー後に合流しようとでも言えば大丈夫だ」
「分かった。じゃあ、そこまでの予定も決めるわよ。今回の計画には1mmの誤差も許されないわ」
四条からすれば自分の人生を賭けた勝負であり、天野からすれば自分が好きな人と付き合うための障害の排除である。お互いに綿密な計画を立て、失敗の可能性を極限まで削り、サブプランまで準備してある。残りは水族館の職員の買収と当日の客に工作員を仕込んでおくだけである。
「まぁ、秀知院の人間なら幼馴染だし問題なく足止め出来るだろ。少なくともイルカショー前後は二人っきりでいられるはずだ」
「そこだけはお願いね。感づかれないように足止めするのは秀一にしか頼めないし」
「まぁ、エリカ・かれん・渚の3人だから大丈夫だろ」
(かれんなら協力してくれるだろうし、エリカは四宮の好きな紅茶でも渡せば買収できる)
マスメディア部の二人組は敵ではなかった。恋愛音痴が1名いるが買収すれば黙ると確信していた。
(渚はなぁ~……多分邪魔してくるよな。最近も探偵使って調査してたらしいし。デート当日に告白することを知られないようにすることが最優先だな)
「それじゃあ行くわね。お茶も美味しかったわ」
「この計画が上手くいけば渚から四条を引き離すことになる。渚は全力で抵抗するだろう。……それが親友の幸せを奪うことになっても」
天野の父親は四宮を恨んでいる。自分から妻を奪おうとし、妻から親友を奪った四宮を恨み続けている。その父親は他の4大財閥を滅ぼし、四宮家には地獄を見せることを決めていた。四宮の血筋は途絶えさせる、つまり四宮かぐや・四条眞妃のような子供も消すと考えていた。どちらも親から大切に育てられてきたからこそ、確実に悲惨としか言えない最期を迎えさせると決めていたのだ。
それに抗う天野が出来る最低限の保証、”普通に働き、好きな人と家庭を育む”という普通の人生を歩ませるのが唯一の保証だった。これだって財閥の長女として生まれた両者からすれば悲惨と言えるだろう。実家を滅ぼされて、自分で汗水流し生活するのでも十分な没落と言える。そう言って天野の父親を納得させるつもりだ。
四条眞妃の思い人は病院の跡取りであるため、実家が滅んでも生活には困らない。おそらく、現状だと一番良いセーフティ。
四宮かぐやの思い人である白銀も、天野の親友なら手を出さない。自分の家族を悲しませることは絶対にしない男だから。
とはいえ、四宮家も四条家も家が滅ぶと分かれば何でもするだろう。いざとなれば2人を嫁がせて生き残ろうとするのは明白である。そのためにもあの2人を政略結婚の駒として排除する必要がある。
「とりあえず、かれんとエリカの買収から始めよ」
こうして天野の計画が始まった。
眞妃ちゃん曇らせ派の人はすみません。
流石に本誌読んでいたら幸せになって欲しかったです。
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