四宮家の宿敵   作:大紫蝶

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 かぐや様の映画が公開されましたね。自分は卒論の提出や帰省で見るのは来月になりそうです。
 そして、かぐや様公式ファンブックも発売!最終的に白銀両親の名前や1年生の頃の話など回収されていないことが多いので、その辺は作者が勝手に決めることにしました。
 原作は終わりましたが、この作品は続きますのでよろしければご覧ください。


天野の計画と水族館デート

「晴れて良かったね、マキちゃん」

「そ、そうね!ぜ、絶好のデート日和ね……」ゴニョゴニョ

「えっ?ごめん、なんて言ったの?」

「な、なんでもないわよ!さっさと入るわよ!」

「あっ、待ってよ眞妃!」

 

 水族館の入り口へと走って行く3人。傍から見れば両手に花状態であり、来月から施行される法律の件もあり嫉妬と羨望の視線にさらされている。

 

 そして、その3人がいなくなった場所にも両手に花状態の男が居た。どちらも美少女と言われるだけの容姿をしているため、普通であれば嫉妬や羨望の視線をむけられてしかるべきだろう。しかし、周囲が男に向ける視線は”同情”や”憐れみ”であった。

 

「それで、これが上手くいけばかぐや様のお好きな紅茶の銘柄を教えてくれるのよね!!?」

「これが上手くいけば最高の神シチュ見放題というのは本当なんですよね!!?」

「うん、本当。嘘つかない。だから3人を追いかけようよ……」

 

 『ヤバい信者(巨勢エリカ)』と『学園一のカプ厨(紀かれん)』に脅されていたからである。最初こそ羨ましいと思われていたが次第に「これ違う。脅されてるんだ」と同情されているのである。特に信者からの圧が凄い。約束を破った場合、ヤンデレに狙われた二股男の末路と酷似しているだろう。

 

 元々、天野が紀を頼った理由は彼女の持つ『あらゆる状況や相手の行動パターンを想定する』能力に頼る為である。今回の告白が成功するか否かで今後の計画が変わるのだ。

 

 天野が好きな人と恋愛結婚するために必要な作戦は大きく分けると3段階ある。第一段階で四条を他の男とくっつける事。第二段階でかぐやを他の男とくっつける事。かぐやは白銀と付き合うまで秒読みであり、四条も長年の想い人が居るので問題ないはずだった。しかし、今回の計画を知った四条帝より

 

『もしダメだったら、責任取ってくれるよな?』

『失恋した姉貴がどうなるかなんて想像もつかない』

『その時に悟りを開くとか、出家するとか言い出した時は貰ってやってくれ!』

『最悪、次の男が見つかるまででいいから!頼む!!』

『例の法律があるからそこまで痛手にならないだろ!?』

 

 などと土下座で言われてしまったのだ。流石に土下座で泣きながら頼み込まれると断りづらいし、四条の両親から頼まれた日にはほぼ縁談と同じだ。受け入れたらそのまま婚約まで迫られるであろうと確信していた。だからこそ、今回の作戦は失敗が許されない。

 

「約束は守る。だから協力してくれよ?」

「大丈夫ですわ!眞妃さんと翼さんを二人っきりにすればよいのですよね?」

「そうだ。イルカショーの前でそれぞれ別れ、イルカショーの後は入り口に集合して帰る予定だ。(あいつらが付き合うことになればそのままデートしてくれればいい。万が一ダメだったら渚辺りが慰めてくれるはず)」

 

「それじゃあ、”特別授業”の件もよろしくね♪」

「大丈夫のはずだ。どうせ俺の所には生徒会やお前らしか来ないから」

「それならいいわ。まぁ、やることなんて皆で遊んで、最後の方は2人組になるくらいでしょ?」

「よし、じゃあ行くぞ」

 


 

「GWの時期からズラしたのは正解だったわね」

「うん、GWに来てたら今より人一杯だっただろうね」

「秀一君の意見聞いて良かったね、眞妃」

「ホントよね、助かったわ」

「いや、GWの時は人が多いから楽しめなかったしな。どうせなら人が少ないときの方が楽しいだろうし」

「秀一さんは普段から水族館によく来るんですか?」

「下の兄弟が多いからな。両親は仕事があるから兄弟の世話は俺の役目だったから」

 

 嘘である。本当は生徒からデートプランとして相談されることが多いため調べたことがあった。

 

「まぁ、今回は普通に楽しもうぜ」

「そうね。こういう施設にはあまり来ないし」

「それじゃあ、今回は普通に楽しむのが一番よね」

「うん。それがいいね」

 

 こうして水族館を楽しむことにした6人。しかし、本当の意味で楽しんでいる者はいなかった。

 

「あれはヒトデヤドリエビ。凄い小さいけどよく見るとちゃんと爪が付いているな」

 

「あっちで寝そべっているのはネムリブカ。とても温厚なサメで、岩場の陰でのんびり寝ている姿が愛らしいですわ」

 

「あっちは映画で有名なクマノミ。イソギンチャクとセットでいると可愛いよね」

 

 天野を筆頭に、四条の前でアピールするために勉強してきた田沼、無駄に博識である紀が知識披露をしていた。

 

 残りの3人のうち、四条は田沼の説明に聞き入り、巨勢は親友の博識さに驚き、柏木は違和感を感じ取っていた。

 

(おかしい……私が知っている水族館とは雰囲気が違う……)

 

 そう、柏木が感じ取った違和感の正体は周囲のカップルの雰囲気であった。確かに、水族館という場所はデートスポットとしても定番であり、恋人同士で来ていること自体は不思議ではない。しかし、周囲にいるカップル達からは幸せオーラというものが全くと言って良いほど出ていない。むしろ殺気立っているようにすら感じる。

 

 そして、その違和感は間違いではない。この水族館にいるカップルは四条家が手配した工作員である。田沼にカップルを意識させることで告白させるためだけに用意させていた。工作員達は四条帝から「姉が何年も想いを寄せている人と付き合うために」と聞かされた時は協力しようと思った。しかし「お互い両思いでほっといても大丈夫だと思うけど、一応カップルのふりをして欲しい」と言われてやる気が無くなった。

 

 このくだらない茶番劇に付き合わされた四条家の工作員。裏工作を続けてきた天野。裏取引によって協力している紀・巨勢。ターゲットの田沼。元凶の四条。この水族館にいる人間の大半はこれらに分類されていた。

 

 故に、この場で例外的な存在である柏木は感じ取った。この場にある異常さに。

 


 

 天野は眼前に広がる巨大な水槽を眺める。四条と田沼は目玉イベントであるイルカショーに行き、紀と巨勢は2人から離れた場所でバックアップに、工作員もそれぞれの位置につき2人の告白が上手くいくように目を光らせる。一般の客もイルカショーへ向かったため、この場には天野以外いないはずだった。

 

「秀一さん、やっと……二人っきりになれましたね」

 

 柏木は天野の方に視線を投げ掛けながらニコリと笑った。

 

 柏木渚は美少女と言っていい容姿であり、生徒会の女子や難題女子程ではないが男子からの人気は高い。そのうえ秀知院の中でもVIPと呼ばれるカーストトップの1人である。学力も学年5位であり、四条眞妃と共に様々な習い事をしていたため出来ないことはない。四条眞妃の親友ができるほど性格も良い。欠点らしい欠点はない。

 

 そんな少女と二人っきりで、その少女から普通なら照れたり恥ずかしくなったりするセリフを言われる状況。普通の男なら喜ぶ状況だが、天野は臨戦態勢に入っていた。それも当然だろう。彼女の唯一の欠点は『四条眞妃への依存』なのだから。

 

(渚の四条への依存性は常軌を逸している。そんな彼女から四条を奪うのだ。逃げるわけにはいかない)

「そういえば……ここ半年くらいあまり話せてなかったですよね?中等部の頃はよく一緒にいたのに」

「そうだな。俺が会長、渚が書記、四条が副会長をやって支持率98%とかだったか?」

「本当に、あり得ないほど信頼されていましたね」

「本当は四宮も誘ったんだがな。まぁ、高等部になってからは忙しかったからあまり会えなかったが」

「そうでしたね。それでもおかしなことばかりでしたけど……」

「おかしなこと?L〇NEとか連絡はしていたはずだが?」

「もうそんな態度しなくても大丈夫ですよ。結論から話しましょう。貴方はどうして私から逃げているんですか?」

 

 この時点で天野は理解した。

 

「……話せないんだ? じゃあ、どうして眞妃を応援するの?」

 

 彼女は大体のことを理解している。彼女の様子から、今日の告白作戦以外はバレていると考えていいだろう。

 

(渚が告白のことを知っていれば阻止するために動くはずだ。それでもこうしているのは確証がないから。なら告白作戦が終わるまで引き留めておくことが最善のはずだ)

「悪いか?好きな奴と付き合いたいというのは当然のことだ。ストーカーのようなことでもしない限り応援したいと思っている」

「うーん、正直やめて欲しいかなぁ~」

「何故だ?”好きな人と付き合いたい”という四条の気持ちはどうでもいいのか?」

「……そんな訳ないじゃない。眞妃は大切な親友だもん」

「だったらなんで?」

「なんで、か。はぁ、この子達はいいよね。ずっと……死ぬまで一緒にいられるんだから」 

 

 柏木は目の前の水槽を撫でながらそう洩らした。そして、天野の前で”仮面”を外した。

 

「貴方には、貴方達には分からないよね。貴方の両親はどんな状況でも一緒になるために戦って一緒になったんだもの」

「そうだな。俺もそんな両親を尊敬しているよ」

「……私と眞妃は初等部の頃からの付き合いなの。その間、ずっと一緒だったの……習い事も、遊びも、クラスも……貴方以外に私達を邪魔する人はいなかった」

「まぁ、四条家は俺と四条の結婚を考えていたからな。その辺も関係しているだろ」

「そうかもね。でも、私達の間に隠し事なんてなかったの。……最近までは」

「それが四条の恋心だったのか。別に好きな人を隠すことは普通だろ」

「でも、あなたは知っていた。私には言ってくれなかったのに……!」

 

 天野の誤算はここだった。天野は”柏木から四条を奪うかもしれない”と考えていた。しかし、柏木からすれば既に”四条を天野に奪われた”と思っている。下手をすれば、天野が常に親友との仲を邪魔しているとすら考えていた。

 

「直ぐに分かったよ。眞妃は私より貴方を信頼しているって」

「昔からの付き合いだから当然だ。四条とは幼等部からの付き合いだぞ?」

「そうね。貴方は眞妃から告白されたこともある。でも、それを断った上で今でも関係を続けている」

「……」

「本当に凄いよね。能力も性格も人望もあって、家族にも恵まれている……欠点なんてない完璧超人。だからかな?なんで貴方は全てを持っているの?私には眞妃しかいないのに」

 

 柏木の言うことは秀知院生徒が持つ考えだ。生まれながらに約束された将来、理想の完璧超人であり、人望にも恵まれ、家族仲も良い。天野自身も両親が不仲になったことなんて、母親が料理に自分の髪や血を入れた時くらいだ。兄弟との仲も良く、誰もが羨んでいた。自分たちが大金を出してでも欲しい物を最初から持っていた天野に。

 

「貴方は何でも持っている。私が欲しい物、全部持っているのにまだ奪うの?」

「なるほど。つまり、お前は四条を取られるのが嫌ってことか?」

「当たり前でしょう? 小さな頃からずっと一緒だったのよ?これからだってずっと一緒だと思ってたのに……貴方さえいなければ!眞妃は……!」

 

 その姿を何というのかは分からない。小さな子供が寂しい、離れたくないという様にも見える。泣いて駄々をこねている子供にも見える。愛憎劇のシーンのようにも見える。だが、天野には人が壊れていくように見えた。

 

(渚の感じているモノは”自分の世界を奪われる”といったものだ。子供の世界が家族を中心に回るように、こいつは四条が中心に世界が回っているのか……流石にここまで依存している奴は秀知院では少ない。そして、この状態の奴は愛情の分だけ憎悪に振りきれるからな~)

 

 天野は柏木の異常性を正しく認識していた。彼女の親友である四条は「何でも一緒が良い困った子」、紀ですら「眞妃さん大好きっ子」程度の認識であったが、実際には違う。元々、柏木は家から四条家や四宮家、天野家に近づくように命令されていた。その結果、四条眞妃と仲良くなり彼女に憧れを抱くようになった。四条への憧れは四条との同一化にまで変化し、彼女と同じことを行うようになった。四条の好きな物=自分の好きな物。四条の習い事=自分の習い事。四条のする事=自分のする事。周囲も違和感を抱くようになったが、四条家に近づくための作戦だと深くは考えなかった。

 

(そうやって誰にも気付かないうちに四条へ依存、同一化とか……完全に狂人だろ)

 

 天野からすれば理解不能のことだった。子供がヒーローやヒロインに憧れるのは分かる。例えば某無免許の天才外科医に憧れ医者になるのは分かる。彼の様に患者を助けたいと努力することは間違いではないだろう。しかし「俺はブラ〇クジャ〇クだ!」と言って、彼の様に無免許医になり手術するのは理解不能だ。そして柏木の行動は後者に近い。だからこそ、天野は”狂人”と断定した。

 

「私から眞妃を離さないでよ……眞妃に恋人が出来たりしたらもう一緒には居られない……」

「それは違う」

「何が違うのよっ……あぁ、そうよね。貴方は眞妃に信頼されているんでしょ?私なんかよりもっ!だから!」

「四条はお前から離れたりしないだろ」

 

 天野は某隊長が言った「憧れは理解から最も遠い感情」という言葉に同意していた。

 

「四条はお前の話をする時、とても嬉しそうに話していた。大切な想い出を、宝物を自慢するようにな。恋人が出来たら一緒に居られない?それはお前の勝手な妄想だろ」

「それはあなたが眞妃に信頼されているから!」

「いい加減にしろ。お前は『理想の四条』を勝手に想像して、そう例外の行動を否定しているだけだ。『あの人はこうあるべき』『あんな人なんて騙された』…そんな身勝手な妄想に親友を付き合わせるな。」

「……」

 

 先程まで昂っていた柏木は不気味な程に落ち着き始めた。

 柏木も自覚はしていた。自分の感情は身勝手であること、四条が恋人が出たら友人を捨てる様な人間ではないと。それでも怖かったのだ。家族からはスパイとして命令を受け、家族からの命令と親友との間で揺れている自分が捨てられるのではないかと。自己意思の希薄な彼女だからこそ、四条への感情は重い。

 

「……分かってる。眞妃は凄く優しいの」

「あぁ」

「言葉遣いが悪かったり、不器用で誤解される事もあるけど……他人を思いやれる優しい子なの」

「そうだな」

「そんな眞妃だから憧れていたの。賢くて強くて優しい眞妃みたいになりたかった」

「そうか」

「眞妃と同じことをしたの。同じものを好きになったの。そうすれば、私も変われると思ったから……」

「……」

 

 柏木は今まで追い詰められたことが無かった。少なくとも真正面から自身を否定されたことはない。そもそもまだ16歳の高校生、通常なら保護者に守られる年齢である。特に、上層階級の中でも秀知院VIP生徒に含まれるほどの柏木を追い詰められる人間はいない。

 

 だからこそ、天野に問い詰められた時に狂いそうになった。誰よりも四条を理解しているはずの自分が四条に身勝手な妄想を押し付けていると言われ、柏木は怒り狂った。しかしその言葉を口にすることが出来なかった。何故なら、それを無意識では自覚していたからである。本当は自覚していたことを知り、彼女は自分の考えを口に出していた。一度口にすれば本音が出てきた。そのまましばらくの間、柏木は天野に自分の考えをぶつけていた。

 

「つまりだ。渚は四条に憧れていた。そこから『現実の四条眞妃』じゃなくて『理想の四条眞妃』を生み出した。その『理想の四条眞妃』は恋人ができるとそいつに尽くす人間で、そのせいで友人と距離を置くようになる、と……」

(まぁ、好きな奴に尽くす=今まで友人と過ごしていた時間が減るは間違いではないな。四条は元々、親しい人間には尽くすタイプだしな)

 

 柏木は四条の優しさを理解していた。だからこそ四条が好きな人へ尽くすことも、それによって四条が自分へ向ける時間が……優しさなどの好意が減ることを恐れていたのだ。言ってみれば好意や感情、愛情などに”総量”があると定義し、それを奪い合うことを当たり前として考えている。そして、その考えによって『無条件な好意はあり得ない』『好意には対価が必要』という考えを持ってしまっている。無条件の好意を信じられなくなっているのだ。

 

「四条はそんな奴じゃないだろ。あれほど人に順位を付ける人間じゃないし、好意に対価を要求する人種じゃない。それくらい分かっているだろ?」

「……そうね。でも、納得できない。今の眞妃はそんなことしない。でも、眞妃が変わったら?彼氏を優先するようになったら?」

「なら、賭けをしないか?」

「賭け?」

「四条が友人を捨てる様な人間じゃないと。お前から離れる様な人間じゃないってな」

「……もし、眞妃が私から離れたら、どうする?」

「その時は出来る限りのことはするさ」

「……そっか。じゃあ、その時は責任取ってね?」

「それくらい当然だ」

 

 

 こうして天野と柏木の討論は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 その後、イルカショーが終わると6人は合流していた。しかし、その姿は変わっていた。四条と田沼はしっかりと手を繋ぎ、その姿から告白の成功を知った紀と巨勢は2人を祝っていた。柏木は天野が計画していた全てを悟り、それでも親友の幸せを祝っていた。天野も作戦の成功を心から喜んでいた。

 

 

 本日の勝敗 四条・田沼の勝利!(無事に交際がスタートできたため)

 

 


 

 

 

 この日の出来事は後に起こる大事件のきっかけになる。しかし、この時の天野達には知る由もなかった。




 施行される法律、特別授業などは後1~2話くらいで説明すると思います。原作とは解離するオリジナル要素になります。

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