【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 発端は1人の団員が、50階層で現れた正体不明の者達がヴィルガを

 倒してくれた事を称賛した事だった。

 先の通りベートは気に入らないが故に、恩を仇で返すような不謹慎

 極まりない発言をする。

 

 ダンッ!!!

 

 ベートを睨み付けたリヴェリアはその音に驚き、鋭くさせていた目を

 見開いて音がした方を見た。

 ティオナが力一杯、テーブルを叩いていたのだ。

 その音は店内に響き渡り、喧騒が一瞬にして消え去る。

 罅が入りそうな程の勢いでテーブルを叩いたティオナは、俯いたまま

 静かに口を開いた。

 

 「いい加減にしなよ。ベート」

 「あぁ...?」

 

 ティオナは顔を上げ、普段の彼女からは想像も出来ない怒気を含んだ

 顔...というより真顔で憤慨している。

 フィンやガレスもその反応に違和感を覚え、持っていたジョッキを

 テーブルに置いた。

 ティオネも注ごうとしていた酒瓶を持ったままの姿勢で、妹の豹変に

 驚いている。

 

 「んだよバカゾネス。俺に文句でもあんのか?」

 「...あるよ、めちゃくちゃあるよ。

  まずそのうるさい口を閉じて黙ってて。その人達の事を馬鹿にするのをやめて」

 「てめぇ...ババアが言ってた連中の事、庇う気か?」

 

 普段のリヴェリアなら、ベートのその呼び方で叱りつけているところだ。

 しかし、当の本人は耳に全く入っていないようでティオナの言葉に耳を

 傾けている。

 ティオナはテーブルを叩いた手を引き、両手を両膝の上に乗せて答える。

 

 「皆を助けてくれたんだから当たり前でしょ?

  それよりも...その人達が死んでしまっているかも知れないのを笑ったのは...

  冒険者じゃなくて人として正直、最低にしか思えないよ」

 「...おい、ガチで怒らせてえのか?」

 

 ベートはジョッキをテーブルの上に投げ捨て、ティオナを睨む。

 ロキ・ファミリアの団員達や関わりのない冒険者達は一触即発の状況に

 動揺し始める。

 ある者は既に店内から避難するように支払いを済ませて、そそくさと

 出て行っていた。

 フィンはガレスとリヴェリアの2人とアイコンタクトを取り、いつでも

 2人を押さえつけるよう指示を出した。

 睨み付けられるティオナは臆する事もなく、淡々と告げた。 

 

 「ベートが怒るのはどうでもいいよ。でも...もしも、あの人がここに居て...

  この話を聞いてたら...

  今頃、ベートは首もがれて殺されてるよ」

 

 ティオナは嘘をつくのが苦手なのはわかっている。

 なので、目の前でベートに対し鋭い眼差しで訴えかけている様子に

 フィンは妙な説得力を感じた。

 そんなティオナが告げた醜怪な自身がされていると言われた例えに

 ため息をつきながら俯いて、目を反らす。

 

 「...くっ、くははは...!ははははははっ!面白れえ例えじゃねえかよ!

  飛び道具の武器を使うしか能がねえ連中がどう俺」

 

 ...シュピンッ

 

 「を、ごぇっ...!?」

 「...え?ベート?」

 

 ドガァアアアアッ!!

 

 腹を抱えて笑っていたベートは自身の首が締め付けられる感覚に

 驚愕する。

 その様子に誰もが困惑していた。

 そして、ベートが椅子から立ち上がると同時に店内の出入口から一瞬で

 飛び出した。

 飛び出した、ではなく吹き飛ばされたようにティオナからは見えた。

 

 バキャアッ!!

 

 「が、っぐぅうう...!おい!誰がやりやがった...!?」

 

 店の前、道端に置かれていた露店のカウンターや品物を入れてあった

 木箱が、吹き飛ばされたベートによって壊される。

 露店の裏にある建物の外壁に叩き付けられたベートは、顔に掛かった

 土埃を振るって立ち上がった。

 

 ザシュッ!

 

 「...がふっ...!?」

 

 その瞬間、腹部に感じる冷たく鋭い痛み。

 何かが腹部に突き刺され、ベートは肺の空気を吐き出した。

 ロキ・ファミリアの団員達は異様な光景に初めは混乱していたが、

 ベートが何者かに襲撃されていると気付く。

 何故なら、腹部から滴る鮮血が見えたからだ。

 

 「ベートさんっ...!」

 

 いち早くアイズはベートの元へ向かおうとした。

 しかし、背後からリューに肩を掴まれて呼び止められる。

 

 「【剣姫】!そこから出てはいけませんっ!」

 「っ...!?」

 「ちょっと!?何言って」

 

 ティオネが動揺しながらも苦情を言おうとしたが、徐ろにリューは

 ベートが座っていた椅子を出入口に向かって投げ飛ばす。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...ジュッ!  ジジジ...                    

 

 出入口から何かが飛びだしてきた。

 それは設置しておいたレーザーネットで、椅子は何分割にもされて

 斬り裂かれる。

 どよめきや悲鳴が聞こえてくるがどうだっていい。今はこの狼の生皮を

 剥ぐためにほぐすだけだ。

 腹にリスト・ブレイドを突き刺したまま、振るい投げ狼を地面に

 叩き付ける。

 

 ドガァアッ! 

 

 「ぐぶっ...!げっ、ぐぅうっ...!」

 

 刺し傷を蹴りつけ、仰向けにさせる。

 

 ドカッ! ぐしゃっ!

 

 「ガ、ァアああアッ!?」

 

 ドゴンッ!!

 

 軽く跳び上がり鍛え抜かれている腹に全体重をかけた膝蹴りを

 叩き込む。

 狼は鮮血を吐き出し、腹の裂傷から血が噴き出した。

 血を吐いたのなら、肺か胃に傷がいったのかもしれない。

 だが、その程度で止めるなど生温い。

 もっと血を流せ

 僕らの狩りを貶した。それは教えてくれた我が主神を貶したも同然。

 僕らの掟を侮辱した。それは掟を定めた我が主神を侮辱したも同然。

 僕らの主神を罵った。それは万死に値する。

 ...惨めに殺してやる

 

 ギリギリギリ...!

 

 「...!っ...!」

 

 喉笛が引き千切れんばかりに、利き腕ではない左手で首を掴み上げた。

 狼は僕の腕を掴み返してくる。爪を突き立てているが、この程度で

 怯んだりなどしない。

 僕の目線まで下ろし、首を掴んだまま右手の拳打を顔面に浴びせる。

 何度も...何度も、何度も。顔面を殴る。

 その度に狼の口内や鼻腔、腫れた皮膚の擦り傷から鮮血が飛び

 散ってきた。


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