【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
ヒュ ロ ロ ロロロ ロ ロッ...!
ティオナという少女やゼノス達と別れた僕は下層の30階層まで
潜り、群れを成して出現した芋虫を狩っている。
あの蟲とは違い、溶かす液体ではなく単なる毒液を吐き出して
攻撃してくるようだが、それ以外に敏速に動いて噛み付いたりしてくる
という事はないのでレイザー・ディスクで斬り裂けばすぐに片付く。
死んだ芋虫の切断面からは体液が溢れ出て、地面に水溜まりを形成して
いた。
半数以上を狩った所で生き残っている複数の個体が逃げ始めた。
危機感を覚えるのが遅すぎる。やはり知性の無い生物は相手に
ならないな。
...けれど、戦利品にもならない獲物だが狙ったからには全て
狩り尽くそう。
僕は高所へと先回りをして、ヘルメットのゴーグルで照準を合わせる。
フォシュンッ! フォシュンッ! フォシュンッ!
ドパァンッ! ドパァンッ! ドパァンッ!
1体ずつ確実に仕留めながらプロミキシティ・マインにプラズマを
充填させると、投げ飛ばして地面に設置する。
群れの先頭が通過した瞬間、起爆する。
ドガァァァアアアンッ!! ドガァァァアアアンッ!!
芋虫の群れは爆炎に呑まれ、一瞬にして焼却される。
残った後続はバーナーとレイザー・ディスクで仕留めていき、芋虫の
群れを全滅させた。
洞窟に響いていた爆音と爆風による風切り音が消え、静寂が訪れた。
僕は下へ降り、地面に撒き散っている芋虫が吐き出した毒液を
体細胞サンプルの採取用に用いるトラッキング・シリンジで吸収する。
ガントレットにあるトラッキング・シリンジの針を挿すための穴に
挿し込んで体液を流し入れ、どういった成分が含まれているのか
調べてみる。
ピッ ピッ ピッ ピッ... ピピッ
...α-ラトロトキシン、ティティウストキシン、他に様々な毒素が
含まれている。
運動神経系や自律神経系が障害され、筋肉の痙攣が起きる事で呼吸が
出来なくなる毒といった訳か。
なら、毒液とは別のこの体液はどうなんだろう...?
気になったので、トラッキング・シリンジの中の毒液を蒸発させてから
それを吸収する。
ピッ ピッ ピッ... ピピッ
...なるほど。
こっちは毒素を中和させるための成分が全て含まれている。
だから芋虫は毒液を体内に蓄積させて、いくらでも吐き出せるんだ。
それなら、この体液自体が抗体という訳か。
...アップグレードのために、いくらか回収しておこう。
ついでに贈呈する分も含めて。
そう決めた僕はトラッキング・シリンジの後部にあるカプセルを
大型の物へ交換し、回収作業を行おうとした。
ピッ ピッ ピッ
その時、アライシグナルを受信して僕は周囲を見渡した。
クローキング機能で姿は見えないため、ゴーグルで確認するしか
ないからだ。
すると、相手側の方から声を掛けてきた。
『私だよ、ナァーザ・エリスイス。
覚えてないかな...?』
...彼女か。それなら警戒する必要はない。
僕がクローキング機能を解除すると、ナァーザも姿を見せた。
何故、ここに居るのかと問いかけると薬品を作る為の素材を集めに
来ているそうだ。
当然、言葉での会話ではなく身振りで問いかけている。
偶然にもここを通り掛かった際、僕が狩りをしているのを見かけた
らしい。
『あんな数のポイズン・ウェルミスを一撃で倒すんだから...
貴方達はやっぱりすごいね。
...ちなみにだけど、この体液を集めるのに協力したら分けてもらえる?』
...まぁ、これだけの量を全て回収するのは無理だろうから、
協力せずとも欲しい分だけ回収するよう言っておこう。
すると、ナァーザは詰め寄ってきて顔を目の前まで近付けてきた。
『いいの?本当にいいの?二言は無しだよ?
...ありがとう。すごく嬉しい』
ナァーザは喜びのあまり尻尾を勢いよく振りながら、手を握ってきて
お礼を述べた。
かと思えば、すぐに回収し始めた。...感情が極端過ぎると思った。
ともかく、カプセルは3つ予備があるので全て使い切ろうと思いつつ、
僕も回収作業へ移る。
耳を澄ますと、体液を吸収する音以外に鼻歌が聞こえてきて、上機嫌に
なっていると窺えた。
その後、3つのカプセルを満タンにしたのを確認し、僕はナァーザも
回収し終えたかと見れば、彼女は布に体液を染み込ませて出来る限り
持ち帰ろうとしていた。
...執念と言うべきか、貪欲と言うのか僕は少しだけ戸惑う。
しばらくして、ようやく回収を止めたナァーザはフーッと満足そうに
ため息をついて、また尻尾を振り始めている。
『ありがとう、これで特効薬を沢山作れる。
第一級から第二級の冒険者も少しは安全に進めるかな...』
先程言った言葉は撤回し難いが、根は他人のためという行動原理で
あると少しは思った。
ピピッ ピピッ
今度は違う反応があった。冒険者が居るようだ。
僕とナァーザはクローキング機能で姿を消し、別れを告げてそれぞれ
別方向へ進んで行った。
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オッタルは違和感を覚えていた。
大穴が出来ている程の抉れた地面、恐らく毒液と思われる紫色の
液体や、それとは別の薄い黄土色をした液体がそこかしこに
撒き散らされており、先程まで何者かが戦闘を繰り広げていたに
違いないと思っている。
しかし、先程まで、ならその何者かがこの場に居ないというのは
不自然だ。
「(...一体、何者が...?)」
考察して思い浮かんだのはフィンを始めとするロキ・ファミリアの
団員達だったが、自身の勘で違うと判断し、オッタルは眉間に皺を
寄せてその正体を訝るのだった。