【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
この話数の前に前話を入れ忘れていたので、再投降しました。
地上に出ると、既に辺りは真っ暗だった。
僕はマザー・シップへ戻る前に贈呈しておこうと決め、あそこへ
向かう事にした。
アミッドという女性が居る治療院へ。
いつもの様に建物から建物へ飛び移り、目的地に到着すると
まだ灯りが付いているのを確認する。
周囲の店舗は閉まっているようだが、あそこだけはまだ閉めないのだと
思い、僕は深夜まで待つことにしようとした。
しかし、我が主神がアミッドという女性と接触したと聞き、僕らも
接触する事を許されているという事を思い出す。
...それなら、出て来た所で渡そう。
僕は向かいの建物の屋根で待機し続け、30分後に出入口の扉が
開くとアミッドという女性が出てきた。
扉にCLOSEと書かれた札を掛けようとしている。それなら今の内に...
誘導させようとガントレットに録音しているデータの中から、
使えそうな音声を選択するとオーディオデコイに設定し、彼女のすぐ
横に音波を放つ。
『来いよ...来いよ...』
オーディオデコイは設置した装置などで音声を流すのではなく、
ガントレットから音波そのものを放射し、放射中は空気を振動させず
壁や人体にぶつかる事で空気が振動して音声や音響が特定した人物に
聞こえる仕組みとなっている。
「...?」
アミッドという女性は、その聞こえてきた音声に気付き周囲を
見渡し始めた。
もう一度、今度は建物の影にオーディオデコイの音波を放射する。
すると、建物の影から呼ばれていると思った彼女は、そこへ歩き始め
音声が流れた位置で立ち止まった。
よし、行こう。
僕は屋根から跳び上がり、向かい側の建物へと移った。
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「(...気のせいだったのでしょうか?
耳に異常は無い筈なのですが...)」
アミッドは自身の耳に触れながら、自己診断をして正常な事を
確認すると、やはり気のせいだったのかと思いながら治療院へ
戻ろうとする。
...カカカカカカ
「!」
しかし、確かに聞こえた。人間ではなく動物の鳴き声の様な音が。
振り返ってみると路地裏へと続く通路の中央で黄色い2つの発光体が
浮かび上がっていた。
アミッドは恐る恐るそれに近付き、少し離れた位置で立ち止まる。
「...誰か、そこに居るのですか?」
...ヴゥウン...
捕食者が突如としてその姿を現したのにも関わらず、アミッドは
平静を装った。
実際には内心驚いているが、冷静さを保つために叫ぶ事はせず
耐えていたようだ。
「...貴方が、捕食者様...ですか?」
カカカカカカ...
捕食者は頷くと、アミッドに近付いていく。
アミッドは反射的に後退りしそうになるが、それも耐えて踏み止まる。
捕食者は目の前に立つと、両手に持っている黄土色の液体が入った
2つの容器を差し出してきた。
「あ...また贈呈をして下さりに来たのですか?
...ありがとうございま...す...?」
初めて直接渡してくれた事に少し嬉しく思ったアミッドは微笑みながら
受け取る。
しかし、容器に溜まっている液体を見てその微笑みが瞬時に消えた。
有り得ない容量のポイズン・ウェルミスの体液。
特に危険な特殊派遣クエストを依頼したとしても、精々小瓶程度にしか
得る事が出来ないドロップアイテムであり、ポイズン・ウェルミスの
毒液の特効薬には必要不可欠な原料でもある。
入手するのも命懸けで困難である為に、対価はとてつもない額となる。
それを贈呈しようとしているので、流石のアミッドも交渉をしようと
話し始める。
「あ、あの、貴方の誠意には心から感謝申し上げます。
しかし、こちらを無償でいただくという事は...
どうか、支払う他に何か私に出来る事をさせていただけませんか?
もし無ければ...その...あの...」
中々案が思い浮かばず、口籠りそうになるアミッドは必至に考えた。
捕食者は発言を待っているのか、アミッドを見たまま立っている。
「...そ、そちらのご要望をお聞かせください。
治療以外の事でも構いませんので...いかがでしょうか?」
...カカカカカカ
捕食者は低い顫動音を鳴らすと、紙に何かを書き記し始める。
数分後、書き終えた内容をアミッドに見せた。
[そちらの純情な対応に感服する。
要望は今すぐにとはないため、いずれ申し込む]
「...かしこまりました。
その時は、誠心誠意を込めて応じて差しあげます」
その返答に捕食者は頷き、手を差し出してきた。
握手を求めていると察して応じると、アミッドはある事に気付いて
思わずその手を取った。
その手は一般的な男性の手の大きさと変わらないが、指や手の甲、更に
掌のどこを触ってみても皮膚が分厚く硬質だった。
指の爪先をほんの少し押し込んでみても痕が全く残らず、まるで
石の様だと思った。
「(これは何度も表皮が剥けた事でなったのでしょうか...
ですが指や掌はそうなるとわかりますが、何故手の甲や手首、それに腕まで硬いのは一体...)」
考察に没頭するアミッドに捕食者はそろそろ離してもらおうと
軽く腕を引いた。
一度目、二度目、三度目は強く引いた事でようやく気付き慌てて
手を離した。
「も、申し訳ございません。つい気になってしまったもので...
それでは、またお会いする事をお待ちしております」
カカカカカカ...
捕食者は姿を消し、その場から去って行った。
アミッドはお辞儀をして受け取ったポイズン・ウェルミスの体液が
入っている容器を手に治療院へと戻っていった。
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一方その頃、ティオナはリド達と深層にある未開拓領域を利用して
奥へ奥へ、とにかく奥へと潜っていっていた。
各階層の環境に未開拓領域も応じて変化し、飛行できるモンスターで
なければ進めないような断崖絶壁を這いずったり、巨大な盆谷を
渡ったり、息を止めなければ肺が凍る様な極寒の氷で形成された
洞窟を通ったり、そのすぐ後には猛暑に喘ぐ程のマグマが通路の左右を
壁となって流れ落ちる極暑の通路を進んでいき、ようやく目的地となる
階層の一段上まで辿り着いた。
ティオナは既に疲労困憊しており、立っていられなくなっている状態な
ため寝そべっていた。
尚、気を遣ってレイが膝枕をしてくれている。
「リ、リド...もう必死になって潜ってきたけど...
ここって、何階層なの...?」
「今は72階層だ。
この下の73階層に居るから、もう少し頑張ってくれ」
「7さ...え?待って待って?な、72階層?ここが?
...えぇええええええええええええええええええええええええ!?」
ティオナは驚きのあまり絶叫した。リド達は耳鳴りに悶える。
しかし、ティオナがそうなるのは当然である。
然も当然の様にロキ・ファミリアの到達階層を越えて、前人未踏の
階層まで潜ってしまっていたのだからだ。
普段の遠征では食料や物資を消費しながら潜っているのに、その苦労も
無くあっさりと未知の階層へ来てしまった事にティオナは呆然として
いた。
「お、おーい?ティオナっち大丈夫かー?」
「...す、少し休んでからいきましょうカ」
「ソウシタ方ガ良イナ」