【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
いきなり倒れた2人が意識を取り戻したのは30分後の事だった。
大量に流血していた鼻孔からの出血も止って、飲み物を飲用した事で
落ち着いたようだった。
やがてフィルヴィスという少女が姿勢を正し、我が主神に話し始める。
「で、では...私はフィルヴィス・シャリア。
以前にそちらの眷族のおかげで助けられた事があり、その恩は忘れる事はない。
なので、しっかりと感謝の意を伝えたいと思い来た次第です」
「なるほどね...そういう事なら、拒否する理由もないわ。
出てらっしゃい」
我が主神に応じて僕はフィルヴィスという女性に姿を見せる。
僕が居る事に気付くと立ち上がって対峙し、すぐに頭を下げてきた。
「6年前のあの時、本当に助かった。
礼を言わせてほしい。...ありがとう」
カカカカカカ...
僕は彼女の率直な感謝の意を受け入れ、拳を眉に当てる。
あの出来事は偶然、助けたという形になったと思うのだが
彼女の意思を無下にはしたくないと僕は気遣う事にした。
顔を上げてフィルヴィスという少女は手を差し出し、握手を求めて
きた。
それに応じて握手をすると、リューという女性はどこか不思議そうな
面持ちとなって首を傾げているのに僕は気付き、どうかしたのかと
思ったが問いかける程でもないと気にしない事にした。
「さて...フィルヴィス・シャリア。
この事はデュオニュソスや同じ所属の眷族には内緒にしてね?
私の事を彼は苦手だと思っているから...」
「そう、なのですか...?
あの方が厭神だというのは、あまり想像つかないのですが...」
「誰しも自分のそういう所を見せたがらないものでしょう?
だから、貴女にも悟られないようにしているはずよ」
我が主神の返答にフィルヴィスという少女は頷いて納得してくれた。
僕も初耳だが、嫌っていると発言していたらそのデュオニュソスという
神を僕や皆は敵視していたのは間違いない。
そう思っていると、複数の足音が聞こえ始めて僕は振り返る。
「あっ!捕食者君、おっはよー!
っと...あれ?貴女、どこかで...?」
「アリーゼ。こちらはフィルヴィス・シャリア。
私達と同様、6年前に捕食者に助けられた事がありまして...」
リューという女性が説明をし終えると、アリーゼという女性は即座に
近付いてフィルヴィスという女性の手を握り、同じ境遇を経験したの
だと、何故か嬉しそうだった。
それに当然フィルヴィスという少女は呆然としており、リューという
女性は頭部を殴りつけて引き離し、後から続いてやって来た輝夜という
女性達の元に連れて行くと、ライラという女性も一緒になって
袋叩きにされてしまっていた。
乱れた髪を直しながらアリーゼという女性はフィルヴィスという少女に
謝罪をした。
「い、いや、いいんだ。それよりも大丈夫か?」
「うぅ...貴女の優しさが染みるわぁ...」
抱きつくアリーゼという女性にフィルヴィスという少女は
戸惑いつつも自身の胸に埋める頭部を撫でていた。
普通なら少なからず怒るはずだが、そうならない彼女は寛大だと
僕は思った。
それに対する様にリューという女性達は怒り心頭となっている
「何ですかぁその言いぐさはぁ?
それではまるでわたくし達がお伽噺に出てくる悪女みたいではありませんか」
「シャリア、その虚け者をこちらに渡してください。
今すぐ仕置きを執行します」
「反省するまで尻引っぱたき続けてやるからな」
「いやぁ~~~~!フィルヴィス助けて~~!」
「え?なぁ!?」
3人が同時に迫り寄って来て、フィルヴィスという少女は
巻き込まれるのはごめんだ、と逃げようとするもアリーゼという女性が
腰から離れず追いかけられる羽目となった。
僕はクローキング機能で姿を消し、少し離れて傍観する事にした。
ナァーザは周囲の騒ぎを気にせずに飲み物を静かに飲んでいる。
しばらくして、アストレア様が手をパンッと叩き、注目させると
全員が動きを止めた。
「そろそろ、静かにしましょうね?...わかった?」
「「「「「は、はい」」」」」
僕は一瞬だけ見えたアストレア様の気迫に思わず、身構えそうになって
しまった。
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「...知性を持つモンスター、ゼノス...ですか。
...聞くだけでは信じ難いのですが...」
フィルヴィスは紅茶を一啜りして、ネフテュスの真意に思考を
巡らせた。
本当なのであれば、信じる他ないが確信を持てない以上そうはいかない
からだ。
しかし、唐突に目の前にレイの姿が立体映像として投影され口に
含んでいた紅茶を噴き出してしまう。
咽せながら落ち着こうと深呼吸をして、立体映像とネフテュスを
交互に見る。
「彼女がそうよ。これは記録したものだから話せないけど、見ていればわかるわ」
「...は、はい」
そう言われてフィルヴィスは口を閉じ、言う通りに見る事にした。
映像が動き始めてレイは歌声を室内に響かせる。
その美しい歌声にフィルヴィスはもちろん、初めて聴く事になった
アストレアやリュー達も聞き入っていた。
レイが歌い終えると、映像が消えてネフテュスはその場に居る全員の
顔を窺ってレイの歌を気に入ってもらえたと嬉しそうにした。
「どうだったかしら?」
「...とても素晴らしく、美しい歌でした」
「ホントホント!私も初めて知ったからビックリしちゃったわ!」
興奮気味に話すアリーゼにリュー達も頷いていた。
捕食者は知っていたので頷きはしていなかったが、美しい歌だったと
答えたフィルヴィスに共感はしていたようだった。
「...そのゼノスという存在もデュオニュソス様には」
「ダメ。絶対によ?
いずれ世界に存在を知る様に浸透させるつもりだから...
その時が来るまでは...ね?」
「わかりました。自身の主神に烏滸がましい行いかと思われますが...
命の恩人の主神であるそちらの意向も同様に重大と受け止め、約束します」
「ありがとう、フィルヴィス。
貴女みたいな子供が眷族でデュオニュソスは幸福ね」
「い、いえ、そんな...」
恥ずかしがりながら顔を赤らめるフィルヴィス。
そんなフィルヴィスにネフテュスとアストレアは微笑んでいると、
アリーゼが突拍子な事を言い出した。
「じゃあ、今からレイに会いに行きましょ!
折角だしフィルヴィスとナァーザもどう?」
「は?」
「いいよ。丁度、薬品の素材を探しに行こうと思っていたから。
でも、装備を取りに行かないと」
「じゃあ決まり!さぁ皆!準備をしてバベルの中央広場に集合したら出発よ!」
一人勝手に決めたアリーゼは自室へと急ぎ、その場に残された
フィルヴィスは開いた口が塞がらなくなってしまっていた。
そんなフィルヴィスの肩にポンと乗せてきたリューが申し訳なさそうに
言い放った。
「申し訳ありませんが...一度決まってしまった事をアリーゼが曲げる事はありません。
なので、付いて来てください」
「...えぇ...」
困惑の声だけしか出ないフィルヴィスに、輝夜とライラは思わず
吹いてしまっていた。
アストレアは苦笑いを浮かべ、ネフテュスは可笑しそうにクスクスと
笑っているのだった。